特許第6886983号(P6886983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886983
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】変速機歯車のための制動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/083 20060101AFI20210603BHJP
   F16D 11/10 20060101ALI20210603BHJP
   H02K 49/02 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   F16H3/083
   F16D11/10 C
   H02K49/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-548726(P2018-548726)
(86)(22)【出願日】2017年3月6日
(65)【公表番号】特表2019-513207(P2019-513207A)
(43)【公表日】2019年5月23日
(86)【国際出願番号】EP2017055127
(87)【国際公開番号】WO2017157703
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2019年9月25日
(31)【優先権主張番号】102016204282.3
(32)【優先日】2016年3月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー・シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ゴルドナー・アヒム
【審査官】 鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−012809(JP,U)
【文献】 特開2005−059849(JP,A)
【文献】 特開平08−312692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/083
F16D 11/10
H02K 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の駆動機構であって、シフト可能なトランスミッションのトランスミッション入力軸(5)にクラッチ(2)により選択的に接続可能な駆動機械(1)と、変速機歯車(4)と、当該変速機歯車(4)との確動式の接続を行うように構成されている連結装置(3)とを有し、第一の動作状態では、連結装置(3)運動学的にトランスミッション入力軸(5)に連結され、第二の動作状態では連結装置(3)および変速機歯車(4)が運動学的にトランスミッション入力軸(5)に連結されている駆動機構において、
この第一の動作状態において、制動装置の第一の部分(7)から第二の部分(8)に制動力を無接触式に伝達する制動装置(7,8)を有し、
制動装置の第一の部分(7)が連結装置(3)に収容され、連結装置(3)を介して運動学的にトランスミッション入力軸(5)に連結されているとともに第二の部分(8)が変速機歯車()に収容され、
連結装置(3)は、軸方向に移動することで変速機歯車(8)と確動式に接続し、連結装置(3)を介して変速機歯車(4)が運動学的にトランスミッション入力軸(5)に連結するときに、制動装置の第一の部分(7)と第二の部分(8)との間の制動力を生じさせることを特徴とする駆動機構。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動機構において、制動装置(7,8)は、渦電流式ディスクブレーキとして形成されていることを特徴とする駆動機構。
【請求項3】
請求項1または2に記載の駆動機構において、渦電流式ディスクブレーキの第一の部分(7)は、トランスミッション入力軸(5)に相対回転不能に接続されており、第二の部分(8)は、変速機歯車(4)に相対回転不能に接続されていることを特徴とする駆動機構。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動機構において、渦電流式ディスクブレーキの第一の部分(7)は、連結装置(3)に接続されていることを特徴とする駆動機構。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の駆動機構において、制動装置の第二の部分(8)は、制動力を生成するための強磁性領域を有していることを特徴とする駆動機構。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の駆動機構において、制動装置の第一の部分(7)は、導電領域を有し、この領域は、電気コイルまたは導電インサートを有していることを特徴とする駆動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフト時のシフトショックを低減するための変速機歯車用の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の前提部分に記載の装置は、従来技術、特には特許文献1より公知である。以下に、シフト可能なトランスミッションを有するオートバイに基づいて本発明を詳細に説明するが、これが本発明をこの種の応用に限定するものと解してはならない。
【0003】
オートバイトランスミッションでは、トランスミッションの個々のギア段或いは全てのギア段が同期されていないことが多く、さらにオートバイは、大抵の場合に駆動エンジンとトランスミッションとの間に湿式クラッチ(湿式の分離クラッチ(Trennkupplung))を有する。湿式クラッチはこのとき、設計思想の関係上、特に多板間におけるニュートン的せん断摩擦のために、解放状態でもドラッグトルクを伝える。このドラッグトルクは、停止中のオートバイでクラッチが解放されている状態で1段目にギアを入れるときにシフトショックを引き起こす。というのも、オートバイトランスミッションの一方の部分は、静止した後輪に運動学的に連結されており、つまりは止まっており、トランスミッションの他方の部分は、内燃機関のその時のエンジン回転数とそのドラッグトルクにより駆動されることで回転するからである。まさにこの瞬間に確動式の接続を形成することで1段目が入れられると、ドラッグトルクにより駆動されたオートバイトランスミッション部分が急激に回転数ゼロへと制動され、シフトショックが起きる。
【0004】
特許文献1より、内燃機関の回転数を制御介入により変更し、シフトショックを低減することが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第102011051532号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、シフトショックが少ないオートバイ用の駆動機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1に記載の駆動機構により解決され、好ましい本発明の発展態様は、従属請求項の対象である。
【0008】
本発明では、自動車とは少なくとも一人の人間を運ぶための車両であることを意味する。有利には、この意味において自動車は、轍が一本となる車両、特にはオートバイである。
【0009】
本発明では、駆動機械は、自動車の走行抵抗を上回るための駆動出力を供給するように構成されている駆動原動機を意味する。有利には、駆動機械は、少なくとも一つまたは複数の気筒を有する内燃式動力機械である。さらに有利には、駆動機械は、電気機械的なエネルギー変換機、有利には電気モータ/発電機であり、特に好ましくは、駆動機械は、二つまたはそれより多い先に述べた駆動機械による組み合わせを有し、特に好ましくは、この種の駆動機械は、所謂ハイブリッド駆動部として形成されている。
【0010】
本発明の意味において、シフト可能なトランスミッションは、トランスミッション入力軸とトランスミッション出力軸との間の変速比を段階的に変更するための装置である。有利には、この種のシフト可能なトランスミッションは、多数のとびとびの変速比(段)を有するオートバイトランスミッションとして形成されている。有利には、最も大きな変速比を有する段、つまり、通常は停止状態からスタートするために用いられるトランスミッションの段は、第1段と呼ばれる。さらに有利には、シフト可能なトランスミッションのこれら複数段の少なくとも一つは同期しておらず、有利には少なくとも第1段が同期しておらず、さらに有利にはこのシフト可能なトランスミッションの多数の段が同期しておらず、好ましくは全ての段が同期していない。同期は、自動車の製造から公知で、特に自動車のトランスミッションでは、確動式の接続(形状結合)を行うために構成されている部材間の回転数差を摩擦接続式に調整するために用いられ、段が同期されないときには、この種の摩擦接続式の接触型の回転数調整はなされない。
【0011】
本発明の意味におけるクラッチは、駆動機械からシフト可能なトランスミッションへのトルク伝達方向におけるこれら両者の中間に配置されており、その結果、トルク伝達をこのクラッチにより選択的に切断できるようになる装置である。有利には、この種のクラッチは、多板クラッチとして、さらに有利には湿式多板クラッチとして形成されている。有利には、湿式多板クラッチは、多数のクラッチ板を有している。クラッチの解放状態では、これらのクラッチ板は互いに離間されており、設計上は何らのトルクもクラッチには伝達できない。特に、湿式多板クラッチの潤滑のために個々のクラッチ板の間には潤滑剤があり、幾ばくかのドラッグトルクが、流体摩擦(これはニュートン的なせん断摩擦と捉えることができる。)のために伝達される。
【0012】
本発明の意味におけるトランスミッション入力軸は、シフト可能なトランスミッションの軸であり、この軸に、駆動機械により供給可能な駆動出力を伝達することができる。有利には、トランスミッション入力軸は、直接的にクラッチに接続可能、或いはクラッチに接続されており、さらに有利にはこのトランスミッション入力軸がこのクラッチを介して選択的にトルクが伝達する態様で駆動機械に接続可能とされている。
【0013】
本発明の意味における変速機歯車は、シフト可能なトランスミッションの歯車であり、この歯車は、トルク伝達のためにトランスミッション内に設けられている。有利には、シフト可能なトランスミッションは、多数の変速機歯車を有し、これらの変速機歯車から有利には個々の歯車が選択的にトランスミッション入力軸に運動学的に連結可能である。さらに有利には、この運動学的な連結は、確動式の接続により行われる。
【0014】
連結装置は、変速機歯車の少なくとも一つに確動式に接続するために設けられている装置である。有利には、連結装置は、シフト可能なトランスミッションのトランスミッション軸に相対回転不能に且つ有利には軸方向に移動可能に接続されている。有利には、連結装置は、シフト可能なトランスミッションのトランスミッション軸に変速機歯車の一つを確動式に接続するスライドスリーブや爪クラッチを有していることで、トランスミッション入力軸との変速機歯車の運動学的な連結が選択的に行なえるようになっている。
【0015】
本発明の意味における運動学的な連結とは、トランスミッション入力軸との連結装置または変速機歯車の強制的な接続である。有利には、この種の運動学的な連結は、トランスミッション入力軸の動きが、この軸に運動学的に連結された構成部品の強制的な動きをもたらすようにするためのものである。有利には、運動学的に互いに連結された二つの構成部品は、有利には一つの変速段ないし好ましくは複数の変速段により構造的には互いに切断されていてもよい。
【0016】
本発明の意味において、駆動機構の第一の動作状態は、クラッチが解放された状態にあり、連結装置または変速機歯車のいずれかが運動学的にトランスミッション入力軸に連結されている状態であって、そのいずれの場合であっても上記二つの構成部品の他方はトランスミッション入力軸に運動学的に連結されていない状態である。
【0017】
このとき、クラッチが解放された状態は、上述のとおり、予定ではクラッチにより何らのトルクも伝達できないような状態である。
【0018】
有利には、駆動機構の第二の動作状態は、連結装置および変速機歯車のいずれもが運動学的にトランスミッション入力軸に連結されている状態である。有利には、この第二の動作状態では、クラッチは依然として解放された状態にある。
【0019】
有利には、駆動機構は、制動装置を有し、これが制動装置の第一の部分から第二の部分に制動力を無接触式に伝達する。さらに、有利には、制動装置の第一の部分は、運動学的にトランスミッション入力軸に連結可能であり、第二の部分は、変速機歯車に連結可能である。従って特に、制動装置により、トランスミッション入力軸から変速機歯車に制動力を無接触式に伝達することが可能である。
【0020】
特に、このような駆動機構により、クラッチにより引き起こされるドラッグトルクによって増速されるトランスミッション入力軸を、段入れの前に無接触式に制動することができ、その結果、連結装置と変速機歯車との間を確動式に接続する際に発生し得るシフトショックを低減ないし防止することが可能になる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、制動装置は、渦電流式ディスクブレーキとして形成されている。渦電流式ディスクブレーキは、従来技術より知られており、これを用いて特に信頼性のある駆動機構が実現できる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、渦電流式ディスクブレーキは、第一の部分と第二の部分を有し、これら二つの部分の間において制動力が無接触式に伝達できる。有利には、渦電流式ディスクブレーキの第一の部分は、トランスミッション入力軸に相対回転不能に接続されている。さらに、有利には、渦電流式ディスクブレーキの第二の部分は、相対回転不能に変速機歯車に接続されている。特に、一方では変速機歯車との、また他方ではトランスミッション入力軸との渦電流式ディスクブレーキの二つの部分のこのような相対回転不能な接続により、本発明の駆動機構の特に簡単な構造が実現できる。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、渦電流式ディスクブレーキの第一の部分は、連結装置と接続されており、有利には少なくとも部分的に又は好ましくは完全にこの中に収容されている。有利には、連結装置は、軸ハブ結合により軸方向には動けるが相対回転は不能にトランスミッション入力軸に接続可能とされている。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、渦電流式ディスクブレーキの第二の部分は、強磁性領域を有している。有利には、この領域は、構成要素として永久磁石材料、好ましくはネオジムを有している。有利には、渦電流式ディスクブレーキのこの強磁性領域は、渦電流式ディスクブレーキの第一の部分には、特に第二の部分に対する第一の部分の相対運動時に、渦電流が発生するように設けられている。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、渦電流式ディスクブレーキの第一の部分は、導電領域を有している。有利には、この導電領域は、電気コイルとして或いは好ましくは導電インサートとして形成されている。特に、電気コイルまたは電気的なインサートにより、特に大きな制動力が渦電流式ディスクブレーキにより達成できる。
【0026】
特に、シフト可能なトランスミッションの1段目へのシフト操作中の騒音の発生を低減するために、有利には、特にスライドスリーブとして形成された連結装置および変速機歯車に組み込まれている渦電流式ディスクブレーキが、トランスミッション入力軸を無接触式に制動する制動トルクをもたらすように構成されている。
【0027】
以下に、図面に基づき本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】駆動機構の概略断面図である。
図2】トランスミッション入力軸上のスライドスリーブと変速機歯車の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1には、駆動機構の概略的な断面が示されている。この駆動機構はここで、内燃式動力機械1を有している。内燃式動力機械1は、クラッチ2を介してその駆動トルクをオートバイトランスミッションのトランスミッション入力軸5に出力する。オートバイトランスミッションでは、1段目用の変速機歯車4がスライドスリーブ3により相対回転不能にトランスミッション入力軸5に接続可能とされている。1段目にするために、変速機歯車4は別の変速機歯車6に噛合する。この変速機歯車6は、トランスミッション入力軸5に軸平行に配置された別のトランスミッション軸9上に配置されている。この別のトランスミッション軸9は、図示された駆動機構を内部に持つオートバイの後輪(この後輪は図示されていない。)に、運動学的に連結されている。
【0030】
この配置から、オートバイの停止状態では、従来技術から知られたオートバイトランスミッションの場合、別のトランスミッション軸9、別の変速機歯車6およびそれとともに変速機歯車4が止まっていることになる。内燃式動力機械が動いている時には、湿式多板クラッチとして形成されているクラッチ2を介し、液体のせん断摩擦によって湿式多板クラッチ2内に引き起こされるドラッグトルクが伝達される。このドラッグトルクにより、トランスミッション入力軸5に回転が生じる。1段目に入れるとき、つまり変速機歯車4がスライドスリーブ3によりトランスミッション入力軸5に相対回転不能に接続されるとき、回転するスライドスリーブ3に対して変速機歯車4が止まっているために、シフトショックがもたらされ、通常はこれが不快なものに感じられる。さらに、このようなショックは、スライドスリーブ3および/または変速機歯車4の使用寿命に悪く作用する。
【0031】
本発明により、図示された駆動機構には渦電流式ディスクブレーキ7,8が設けられており、その場合には、渦電流式ディスクブレーキの第一の部分7がスライドスリーブ3内に収容され、変速機歯車4内に第二の部分8が収容されている。渦電流式ディスクブレーキ7,8は、スライドスリーブ3を介して変速機歯車4がトランスミッション入力軸5と接続する時に、渦電流式ディスクブレーキの第一の部分7と渦電流式ディスクブレーキの第二の部分8との間の制動力を生じさせることで、回転するトランスミッション入力軸5が、静止した変速機歯車4に対して制動され、これによりシフトショックが低減される結果となるようにする。
【0032】
さらに、有利には、誘起される渦電流は、渦電流式ディスクブレーキの第二の部分8に対する第一の部分7の軸線方向の距離に依存し、特にトランスミッション入力軸5が実質的に無損失で回転し、確動式の接続を行うためにスライドスリーブ3が変速機歯車4に近づくときに初めて制動トルクがもたらされ得る。
【0033】
図2には、変速機歯車4、スライドスリーブ3およびトランスミッション入力軸5の一部断面が示されている。変速機歯車4は、スライドスリーブ3により選択的にトランスミッション入力軸5に接続可能であり、スライドスリーブ3は、領域7に電気コイルを有している。この電気コイル7内には、スライドスリーブ3が変速機歯車4に対して相対的な回転数を有しているとき、領域8に配置された変速機歯車4のネオジム磁石によって渦電流が引き起こされる。渦電流は、レンツの法則により磁場を引き起こし、この磁場が、生成された磁場と反対方向に向けられていることで、静止する変速機歯車4に対するトランスミッション入力軸5の制動と、スライドスリーブ3と変速機歯車4との間を確動式に接続するときのシフトショックの低減がもたらされる。
【0034】
スライドスリーブ3と変速機歯車4上の領域10,11は、スライドスリーブ3と変速機歯車4との間に確動式の接続を形成するように設けられている。これらの領域10,11は、爪クラッチの類として形成されている。
図1
図2