特許第6887007号(P6887007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6887007ボラティリティ制御装置、ボラティリティ制御方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887007
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】ボラティリティ制御装置、ボラティリティ制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/04 20120101AFI20210603BHJP
   G06Q 40/06 20120101ALI20210603BHJP
【FI】
   G06Q40/04
   G06Q40/06
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-198210(P2019-198210)
(22)【出願日】2019年10月31日
(65)【公開番号】特開2021-71922(P2021-71922A)
(43)【公開日】2021年5月6日
【審査請求日】2020年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】399037405
【氏名又は名称】楽天グループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】エイムス,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】シャロン,ブリューノ アンドレ
【審査官】 岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0297502(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0246390(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0259600(US,A1)
【文献】 特開2009−134452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポートフォリオを構成するインデックス商品の価格情報から、第1のシグナルを生成する第1シグナル生成部と、
前記インデックス商品の価格情報から、前記第1のシグナルとは異なる第2のシグナルを生成する第2シグナル生成部と、
前記第1のシグナルと前記第2のシグナルとに基づいて、前記インデックス商品を取引するトリガを判定するトリガ判定部と、
前記インデックス商品の現在のボラティリティを取得するボラティリティ取得部と、
前記ボラティリティ取得部により取得された前記ボラティリティと、前記インデックス商品の所定のターゲットボラティリティとに基づいて、前記インデックス商品を売買するポジションの割合を算出するポジション算出部と、
前記トリガ判定部により前記トリガが判定された場合に、前記インデックス商品を、前記ポジション算出部により算出された割合で取引を実行する取引実行部と、
を備えることを特徴とするボラティリティ制御装置。
【請求項2】
前記第1のシグナル生成部および前記第2のシグナル生成部は、前記第1のシグナルおよび前記第2のシグナルを、前記インデックス商品の価格情報の値動きのモメンタムに基づいてそれぞれ生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項3】
前記第1のシグナル生成部は、前記インデックス商品の価格情報の指数移動平均を第1の期間について算出した第1の指数移動平均と、前記インデックス商品の価格応報の指数移動平均を前記第1の期間より長い第2の期間について算出した第2の指数移動平均とをそれぞれ算出し、前記第1の指数移動平均と前記第2の指数移動平均とがクロスオーバした時点で、前記第1のシグナルを生成する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項4】
前記第1のシグナル生成部は、前記第2の指数移動平均とクロスオーバした前記第1の指数移動平均が、前記第2の指数移動平均より下方に向かう場合に、前記インデックス商品を売却することを示す前記第1のシグナルを生成する
ことを特徴とする請求項3に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項5】
前記第1のシグナル生成部は、前記第2の指数移動平均とクロスオーバした前記第1の指数移動平均が、前記第2の指数移動平均より上方に向かう場合に、前記インデックス商品を購入することを示す前記第1のシグナルを生成する
ことを特徴とする請求項3または4に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項6】
前記第2のシグナル生成部は、前記インデックス商品の価格情報の所定期間内の最大値および最小値の間をウインドウサイズとするウインドウを設定し、前記インデックス商品の価格情報が、前記ウインドウを逸脱した時点で、前記第2のシグナルを生成する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項7】
前記ポジション算出部により前記ポジションの割合を算出すべき前記インデックス商品の前記所定のターゲットボラティリティを入力させるユーザインタフェースをさらに備える
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項8】
前記第1のシグナル生成部および前記第2のシグナル生成部の少なくとも一方は、異なる期間について、複数のシグナルを生成し、
前記トリガ判定部は、異なる期間について生成された前記複数のシグナルを合成し、合成されたシグナルに基づいて、前記インデックス商品を取引する前記トリガを判定する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項9】
前記トリガ判定部は、異なる期間について生成された前記複数のシグナルのそれぞれに対して重みを付与し、前記重みに基づいて前記複数のシグナルを合成する
ことを特徴とする請求項8に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項10】
前記トリガ判定部は、前記複数のシグナルのうち、相関が低いシグナル同士を選択して合成する
ことを特徴とする請求項8または9に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項11】
前記トリガ判定部は、前記複数のシグナルのうち、短期間について生成されたシグナルと長期間について生成されたシグナルとを合成する
ことを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載のボラティリティ制御装置。
【請求項12】
ボラティリティ制御装置が実行するボラティリティ制御方法であって、
ポートフォリオを構成するインデックス商品の価格情報から、第1のシグナルを生成するステップと、
前記インデックス商品の価格情報から、前記第1のシグナルとは異なる第2のシグナルを生成するステップと、
前記第1のシグナルと前記第2のシグナルとに基づいて、前記インデックス商品を取引するトリガを判定するステップと、
前記インデックス商品の現在のボラティリティを取得するステップと、
取得された前記ボラティリティと、前記インデックス商品の所定のターゲットボラティリティとに基づいて、前記インデックス商品を売買するポジションの割合を算出するステップと、
前記トリガが判定された場合に、前記インデックス商品を、算出された割合で取引を実行するステップと、
を含むことを特徴とするボラティリティ制御方法。
【請求項13】
ボラティリティ制御処理をコンピュータに実行させるためのボラティリティ制御プログラムであって、該プログラムは、前記コンピュータに、
ポートフォリオを構成するインデックス商品の価格情報から、第1のシグナルを生成する第1シグナル生成処理と、
前記インデックス商品の価格情報から、前記第1のシグナルとは異なる第2のシグナルを生成する第2シグナル生成処理と、
前記第1のシグナルと前記第2のシグナルとに基づいて、前記インデックス商品を取引するトリガを判定するトリガ判定処理と、
前記インデックス商品の現在のボラティリティを取得するボラティリティ取得処理と、
前記ボラティリティ取得処理により取得された前記ボラティリティと、前記インデックス商品の所定のターゲットボラティリティとに基づいて、前記インデックス商品を売買するポジションの割合を算出するポジション算出処理と、
前記トリガ判定処理により前記トリガが判定された場合に、前記インデックス商品を、前記ポジション算出処理により算出された割合で取引を実行する取引実行処理と、を含む処理を実行させるためのものである、
ことを特徴とするボラティリティ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラティリティ制御装置、ボラティリティ制御方法およびプログラムに関し、特に、ポートフォリオ中の所定のインデックス商品を売買取引することによりボートフォリオのリスクをヘッジしてボラティリティを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
株、債券、REIT(Real Estate Investment Trust:不動産投資信託)、金など複数の金融商品を含んで構成されるポートフォリオ(ファンド)の取引においては、当該ポートフォリオに含まれる所定のインデックス商品を適時に売って当該インデックス商品のポジションを確保することで、マーケットリスクをヘッジしている。
所定期間における金融商品の価格の変動率(値動き)をボラティリティと呼ぶ。ボラティリティは、一般的に、所定期間の平均利益(mean return)、標準偏差(Std)、シャープレシオ(Sharpe ratio)、スキュー(Skewness)、カートシス(Kurtosis)等の各種のテクニカル指標を用いて評価されている。ボラティリティは、常に変化しているため、インデックス商品の将来のボラティリティを予測して、当該インデックス商品の売買のタイミングを決定することが求められている。
【0003】
特許文献1(特願2004−220442号公報)は、過去の所定期間におけるヒストリカル・ボラティリティを計算する先物取引のためのコンピュータシステムを開示する。具体的には、特許文献1のコンピュータシステムは、所定期間における2つの取引対象の価格の相関係数を算出し、相関係数が所定値以上となる2つの取引対象の価格差を計算し、計算された価格差に基づいて、所定期間における価格差の平均値および標準偏差値を算出して、2つの取引対象のそれぞれについて、所定期間における価格の変動の度合いを示すヒストリカル・ボラティリティを算出する。コンピュータシステムは、価格差の平均値および標準偏差値から、価格差の拡大・縮小し過ぎを判定するための上下の判定値を、ヒストリカル・ボラティリティに応じて、ヒストリカル・ボラティリティが所定値より大きい場合には上下の判定値の差(偏差帯)が大きくなるよう、可変に決定する。前日の価格差が偏差帯から一旦飛び出した2つの取引対象の約定価格の価格差が、当日に偏差帯に入っている場合、取引開始時機到来と判断して、取引対象を売買させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−220442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなテクニカル指標を用いてボラティリティを評価する手法では、ボラティリティが高い個別の金融商品のノイズの影響を受けてしまう。このため、上記の手法では、S/N(signal to noise)比を適切に抑制し、ユーザが目標とするボラティリティの値であるターゲットボラティリティに応じた収益を予測してインデックス商品を適時に売買することが困難であった。
特に、特許文献1のように2つの取引対象の価格差に基づいてヒストリカル・ボラティリティを算出する手法では、当該2つの取引対象のいずれかに急激な値動きが発生した場合には、価格差の上下の判定値を適切に設定することができない。このため、取引開始の時機の判断を誤ってしまうことにより、ポートフォリオ全体における損失のリスクが高まってしまう。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、所定のインデックス商品を売買取引することによりリスクをヘッジするためのポートフォリオのボラティリティ制御において、より安定的、かつより低ノイズでポートフォリオを最適化することが可能なボラティリティ制御装置、ボラティリティ制御方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るボラティリティ制御装置の一態様は、ポートフォリオを構成するインデックス商品の価格情報から、第1のシグナルを生成する第1シグナル生成部と、前記インデックス商品の価格情報から、前記第1のシグナルとは異なる第2のシグナルを生成する第2シグナル生成部と、前記第1のシグナルと前記第2のシグナルとに基づいて、前記インデックス商品を売買するトリガを判定するトリガ判定部と、前記インデックス商品の現在のボラティリティを取得するボラティリティ取得部と、前記ボラティリティ取得部により取得された前記ボラティリティと、前記インデックス商品の所定のターゲットボラティリティとに基づいて、前記インデックス商品を売買するポジションの割合を算出するポジション算出部と、前記トリガ判定部により前記トリガが判定された場合に、前記インデックス商品を、前記ポジション算出部により算出された割合で取引を実行する取引実行部と、を備える。
【0008】
前記第1のシグナル生成部および前記第2のシグナル生成部は、前記第1のシグナルおよび前記第2のシグナルを、前記インデックス商品の価格情報の値動きのモメンタムに基づいてそれぞれ生成してよい。
【0009】
前記第1のシグナル生成部は、前記インデックス商品の価格情報の指数移動平均を第1の期間について算出した第1の指数移動平均と、前記インデックス商品の価格応報の指数移動平均を前記第1の期間より長い第2の期間について算出した第2の指数移動平均とをそれぞれ算出し、前記第1の指数移動平均と前記第2の指数移動平均とがクロスオーバした時点で、前記第1のシグナルを生成してよい。
【0010】
前記第1のシグナル生成部は、前記第2の指数移動平均とクロスオーバした前記第1の指数移動平均が、前記第2の指数移動平均より下方に向かう場合に、前記インデックス商品を売却することを示す前記第1のシグナルを生成してよい。
【0011】
前記第1のシグナル生成部は、前記第2の指数移動平均とクロスオーバした前記第1の指数移動平均が、前記第2の指数移動平均より上方に向かう場合に、前記インデックス商品を購入することを示す前記第1のシグナルを生成してよい。
【0012】
前記第2のシグナル生成部は、前記インデックス商品の価格情報の所定期間内の最大値および最小値の間をウインドウサイズとするウインドウを設定し、前記インデックス商品の価格情報が、前記ウインドウを逸脱した時点で、前記第2のシグナルを生成してよい。
【0013】
前記ボラティリティ制御装置は、前記ポジション算出部により前記ポジションの割合を算出すべき前記インデックス商品の前記所定のターゲットボラティリティを入力させるユーザインタフェースをさらに備えてよい。
【0014】
前記第1のシグナル生成部および前記第2のシグナル生成部の少なくとも一方は、異なる期間について、複数のシグナルを生成し、前記トリガ判定部は、異なる期間について生成された前記複数のシグナルを合成し、合成されたシグナルに基づいて、前記インデックス商品を取引する前記トリガを判定してよい。
【0015】
前記トリガ判定部は、異なる期間について生成された前記複数のシグナルのそれぞれに対して重みを付与し、前記重みに基づいて前記複数のシグナルを合成してよい。
【0016】
前記トリガ判定部は、前記複数のシグナルのうち、相関が低いシグナル同士を選択して合成してよい。
【0017】
前記トリガ判定部は、前記複数のシグナルのうち、短期間について生成されたシグナルと長期間について生成されたシグナルとを合成してよい。
【0018】
本発明に係るボラティリティ制御方法の一態様は、ボラティリティ制御装置が実行するボラティリティ制御方法であって、ポートフォリオを構成するインデックス商品の価格情報から、第1のシグナルを生成するステップと、前記インデックス商品の価格情報から、前記第1のシグナルとは異なる第2のシグナルを生成するステップと、前記第1のシグナルと前記第2のシグナルとに基づいて、前記インデックス商品を取引するトリガを判定するステップと、前記インデックス商品の現在のボラティリティを取得するステップと、取得された前記ボラティリティと、前記インデックス商品の所定のターゲットボラティリティとに基づいて、前記インデックス商品を売買するポジションの割合を算出するステップと、前記トリガが判定された場合に、前記インデックス商品を、算出された割合で取引を実行するステップとを含む。
【0019】
本発明に係るボラティリティ制御プログラムの一態様は、ボラティリティ制御処理をコンピュータに実行させるためのボラティリティ制御プログラムであって、該プログラムは、前記コンピュータに、ポートフォリオを構成するインデックス商品の価格情報から、第1のシグナルを生成する第1シグナル生成処理と、前記インデックス商品の価格情報から、前記第1のシグナルとは異なる第2のシグナルを生成する第2シグナル生成処理と、前記第1のシグナルと前記第2のシグナルとに基づいて、前記インデックス商品を取引するトリガを判定するトリガ判定処理と、前記インデックス商品の現在のボラティリティを取得するボラティリティ取得処理と、前記ボラティリティ取得処理により取得された前記ボラティリティと、前記インデックス商品の所定のターゲットボラティリティとに基づいて、前記インデックス商品を売買するポジションの割合を算出するポジション算出処理と、前記トリガ判定処理により前記トリガが判定された場合に、前記インデックス商品を、前記ポジション算出部により算出された割合で取引を実行する取引実行処理と、を含む処理を実行させるためのものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、所定のインデックス商品を売買取引することによりリスクをヘッジするためのポートフォリオのボラティリティ制御において、より安定的、かつより低ノイズでポートフォリオを最適化することができる。
【0021】
上記した本発明の目的、態様及び効果並びに上記されなかった本発明の目的、態様及び効果は、当業者であれば添付図面及び請求の範囲の記載を参照することにより下記の発明を実施するための形態から理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態に係るボラティリティ制御システムのネットワーク構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るボラティリティ制御装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係るボラティリティ制御装置が実行するボラティリティ制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、短期間および長期間それぞれのTOPIXの指数移動平均(EMA)のクロスオーバによってEMAシグナルが生成される例を説明する時系列グラフである。
図5図5は、TOPIXのブレークアウトウインドウ(BW)からの逸脱によってBWシグナルが生成される例を説明する時系列グラフである。
図6図6は、直近40日間のブレイクアウトウインドウを設定してBWシグナルを生成した場合の、BWシグナルの推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。
図7図7は、直近320日間のブレイクアウトウインドウを設定してBWシグナルを生成した場合の、BWシグナルの推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。
図8図8は、8種類のEMAシグナルおよびBWシグナルを生成してオリジナルの重みで合成した場合の、合成シグナルの推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。
図9図9は、本実施形態に係るTOPIXのポジション確保手法と従来のポジション確保手法との累積的収益の推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。
図10図10は、8種類のEMAシグナルおよびBWシグナルを生成して変換後の重みで合成した場合の、合成シグナルの推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。
図11図11は、本発明の実施形態に係るボラティリティ制御装置1のハードウエア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための実施形態について詳細に説明する。以下に開示される構成要素のうち、同一機能を有するものには同一の符号を付し、その説明を省略する。なお、以下に開示される実施形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明が適用される装置の構成や各種条件によって適宜修正または変更されるべきものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0024】
以下、本実施形態に係るボラティリティ制御装置が、東京証券取引市場第一部に上場する内国普通株式全銘柄を対象として1秒ごとに算出・公表される株価指数である東証株価指数(TOkyo stock Price IndeX:TOPIX)に連動する商品を、ポートフォリオ中のインデックス商品として適時に売買することにより、ポートフォリオのリスクをヘッジする非限定的自治例を説明するが、本実施形態はこれに限定されない。本実施形態に係るボラティリティ制御装置は、TOPIXに替えて、あるいはこれに加えて、ポートフォリオを構成する個別の金融商品(個別銘柄)や日経株価指数等の他のインデックスに連動する商品をインデックス商品として適時に売買することにより、ポートフォリオのリスクをヘッジしてもよい。ただし、インデックス商品は、ボラティリティが比較的低く、安定した値動きを示すものであることが、損失のリスクを低減する観点から好適である。
【0025】
また、本実施形態に係るボラティリティ制御装置は、株式、債券、REIT等、あらゆる金融商品を含む、あらゆるポートフォリオ取引全般に適用することが可能である。
以下では、ポートフォリオのリスクをヘッジするため、TOPIXを売却(ショート)する例を中心に説明するが、本実施形態に係るボラティリティ制御装置は、高リスク高リターンを追求するためTOPIXや個別銘柄を購入(ロング)する取引にも同様に適用することができる。
【0026】
<ボラティリティ制御システムのネットワーク構成>
図1は、本実施形態に係るボラティリティ制御システムのネットワーク構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すボラティリティ制御システム10は、ボラティリティ制御装置1、および証券取引所システム2を備える。ボラティリティ制御装置1と、証券取引所システム2とは、ネットワーク3を介して相互通信可能に接続されている。
【0027】
ボラティリティ制御装置1は、取引事業者により保有、またはアクセス可能に管理され、証券取引所システム2から一定の頻度(例えば、1秒)で提示される、TOPIX(東証株価指数)を逐次取得して、TOPIXの現在のボラティリティのデータを算出または取得し、取得されたボラティリティのデータと所定のターゲットボラティリティに基づいて、ポートフォリオ中のTOPIXに連動する商品(以下、「インデックス商品」という。)を売却(ショート)するポジションの割合を算出する。ここで、ターゲットボラティリティとは、ユーザが目標とするボラティリティの値である。なお、TOPIXのボラティリティのデータは、証券取引所システム2で算出されてボラティリティ制御装置1に送信されてもよく、受信されるTOPIXからボラティリティ制御装置1において算出されてもよい。
【0028】
本実施形態において、ボラティリティ制御装置1は、取得したTOPIXのデータから、ボートフォリオのリスクをヘッジするための複数のシグナルを生成し、生成された複数のシグナルに基づいて、ボートフォリオ中のインデックス商品を売却(ショート)するトリガ(タイミング)を判定して、判定されたトリガで、算出された割合のインデックス商品の売却を実行することにより、ポートフォリオのボラティリティを制御する。これら複数のシグナルは、所定の間隔(例えば、日次)で生成されてよい。
【0029】
ボラティリティ制御装置1は、取引事業者の投資管理システムの一部を構成し、この投資管理システムは、顧客(投資家)のコンピュータ(不図示)とネットワークを介して接続され、ポートフォリオに含まれる各種商品の情報を顧客のコンピュータに送信するとともに、顧客コンピュータから売買注文を受け付けて取引を実行する。
証券取引所システム2は、証券取引所により保有、またはアクセス可能に管理され、ボラティリティ制御装置1に対して、一定の頻度で、TOPIXを生成する。
なお、ボラティリティ制御装置1は、証券取引所システム2に対して、TOPIXの送信を要求する要求メッセージを送信してもよい。この場合、要求メッセージを受信した証券取引所システム2は、ボラティリティ制御装置1にTOPIXを送信し、ボラティリティ制御装置1は送信されるTOPIXを受信することで、TOPIXを取得してよい。
【0030】
<ボラティリティ制御装置1の機能構成>
図2は、ボラティリティ制御装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すボラティリティ制御装置1は、記憶部11、データ取得部12、第1シグナル判定部13、第2シグナル判定部14、調整割合算出部15、通信部16、および表示部17を備える。
記憶部11は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリ、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性メモリ、着脱可能な外部メモリ等から構成されてよい。記憶部11は、システムバスを介して、ボラティリティ制御装置1内の各ブロック12〜17が共有して利用可能な記憶領域であり、各種データの保存やワークメモリとして使用される。
【0031】
データ取得部12は、通信部16を介して、証券取引所システム2から一定の頻度で取得するTOPIXのデータを、記憶部11に逐次記憶させる。このとき、データ取得部12は、取得したTOPIXのデータにタイムスタンプや識別子を付与してもよい。
データ取得部12はまた、通信部16を介して、証券取引所システム2からTOPIXのボラティリティのデータを取得してもよく、あるいは記憶部11に逐次記憶させたTOPIXのデータの履歴から、TOPIXのボラティリティを算出してもよい。
【0032】
第1シグナル判定部13(第1シグナル生成部)は、記憶部11に記憶されたTOPIXのデータの履歴に基づいて、第1のシグナルを生成すべき条件を判定して第1のシグナルを生成し、調整割合算出部15に供給する。
第2シグナル判定部14(第2シグナル生成部)は、記憶部11に記憶されたTOPIXのデータの履歴に基づいて、第1のシグナルと異なる第2のシグナルを生成すべき条件を判定して第2のシグナルを生成し、調整割合算出部15に供給する。
【0033】
本実施形態において、第1のシグナルおよび第2のシグナルは、いずれも、インデックス商品が連動するTOPIXの指標で算出される平均価格(株価)の市場における値動きのモメンタム(momentum)に着目して生成される。ここで、モメンタムとは、相場の勢いや方向性を判断するオシレータ系指標であり、相場が上昇している時の勢いが弱くなってきているのか、あるいは相場が下降している時の勢いが強くなってきているのかを捉える先行指標として利用することができる。
【0034】
このモメンタムは、市場の値動きにおける特異点(anomaly)を考慮するもので、システマティック・リスクに依らず、所定の行動モデルにより、特異点におけるモメンタムを推定しようとする理論である。この所定の行動モデルは、情報は直ちには価格に反映せずにモメンタムを引き起こすという弱反応(underreaction)モデルと、短期間のモメンタムは、長期的には遅延して過剰に反転するという遅延過剰反応(delayed overreaction)モデルとを含み、これらのモデルは相互に補完的に作用して、モメンタムの効果を拡大する。なお、モメンタム理論の詳細は、“EXPLANATIONS FOR THE MOMENTUM PREMIUM”,“Tobias Mskowitz,AQR Capital Management.(2010))を参照可能である。
第1のシグナルおよび第2のシグナルは、いずれも市場を代表するTOPIXの指標から求められる平均株価のモメンタムに基づき生成される、ポートフォリオのリスクをヘッジするヘッジシグナルである。
【0035】
調整割合算出部15は、データ取得部12により取得されたTOPIXのボラティリティのデータと、所定のターゲットボラティリティとに基づいて、ポートフォリオ中のTOPIX連動商品であるインデックス商品を売却(ショート)する調整割合を算出する(ポジション算出部)。この調整割合は、例えば日次の頻度で算出され、インデックス商品の売却が日次で実行されてよい。
調整割合算出部15はまた、第1シグナル判定部13から供給される第1のシグナルと、第2シグナル判定部14から供給される第2のシグナルとに基づいて、インデックス商品を売却(ショート)すべきトリガを決定する(トリガ決定部)。
取引実行部18は、決定されたトリガで、算出された調整割合のインデックス商品を売却(ショート)する取引処理を実行する。これにより、ポートフォリオのボラティリティが制御される。
【0036】
通信部16は、ネットワーク3とのインタフェースを提供し、ネットワーク3を介して証券取引所システム2や顧客のコンピュータ装置との通信を実行する。実施形態では、通信部16は、イーサネット(登録商標)等の通信規格に準拠する有線LAN(Local Area Network)や専用回線を介した通信を実行してよい。ただし、本実施形態で利用可能なネットワークはこれに限定されず、無線ネットワークで構成されてもよい。この無線ネットワークは、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)、UWB(Ultra Wide Band)等の無線PAN(Personal Area Network)を含む。また、Wi−Fi(Wireless Fidelity)(登録商標)等の無線LAN(Local Area Network)や、WiMAX(登録商標)等の無線MAN(Metropolitan Area Network)を含む。さらに、LTE/3G、4G、5G等の無線WAN(Wide Area Network)を含む。なお、ネットワークは、各機器を相互に通信可能に接続し、通信が可能であればよく、通信の規格、規模、構成は上記に限定されない。
【0037】
表示部17は、ボラティリティ制御装置1が実行するボラティリティ制御処理の実行結果を、表示装置を介して表示出力する。表示部17はまた、GUI(Graphical User Interface)を提供し、このGUIは、ボラティリティ制御処理で使用される各種パラメータや通信パラメータ等をボラティリティ制御装置1へ指示入力させる。
【0038】
<ボラティリティ制御処理の概略処理手順>
図3、本実施形態に係るボラティリティ制御装置1が実行するボラティリティ制御処理の概略処理手順の一例を示すフローチャートである。
なお、図3の各ステップは、ボラティリティ制御装置1の記憶部に記憶されたプログラムをCPUが読み出し、実行することで実現される。また、図3に示すフローチャートの少なくとも一部をハードウエアにより実現してもよい。ハードウエアにより実現する場合、例えば、所定のコンパイラを用いることで、各ステップを実現するためのプログラムからFPGA(Field Programmable Gate Array)上に自動的に専用回路を生成すればよい。また、FPGAと同様にしてGate Array回路を形成し、ハードウエアとして実現するようにしてもよい。また、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)により実現するようにしてもよい。
【0039】
S1で、ボラティリティ制御装置1の第1シグナル判定部13は、データ取得部12により取得され記憶部11に記憶されたTOPIXのデータからTOPIXの平均株価の指数移動平均(Exponential Moving Average:EMA)を算出する。
具体的には、第1シグナル判定部13は、TOPIXの短期間のEMAと長期間のEMAとをそれぞれ算出する。TOPIXのEMAを算出すべき期間の長さは、短期間EMAが長期間EMAより長い期間に亘り算出される限り、いずれもあらゆる日数の値であってよいが、非限定的一例として、7日、20日、40日、44日、200日から選択される期間長であってよい。
【0040】
TOPIXのデータに対して、指数移動平均(EMA)を適用するため、過去の時点でのTOPIX平均値への加重を指数関数的に減少させて、TOPIXの平均値が算出される。最新のTOPIXのデータが2倍されることで重視されるため、算出されるTOPIC平均値のデータ鮮度(freshness)を高めることができる。
なお、第1シグナル判定部13は、TOPIXのデータの指数移動平均(EMA)を算出する際に、加重を考慮して、指数加重移動平均(Exponential Weighted Moving Average:EWMA)として算出してよいが、加重を考慮せずにEMAを算出してもよい。
【0041】
S2で、ボラティリティ制御装置1の第1シグナル判定部13は、S1で算出されたTOPIXの短期間EMAと長期間EMAとのクロスオーバを判定し、短期間EMAと長期間EMAとがクロスオーバした時点について、第1のシグナルであるEMAシグナルを生成する。EMAシグナルに関しては、図4を用いて説明する。
【0042】
図4は、短期間および長期間それぞれのTOPIXのEMAのクロスオーバによってEMAシグナルが生成される例を説明する時系列グラフである。
図4において、実線は、TOPIXの値の推移を示し、一点鎖線は、過去20日間について算出されたTOPIXの短期間EMAの値の推移を示し、破線は、過去50日間について算出されたTOPIXの長期EMAの値の推移を示す。
時系列上、長期EMAを上回る価格で推移していた短期EMAは、2018年3月中旬の時点で長期EMAにクロスオーバして、その後、長期EMAの価格を下回る。このクロスオーバの時点で、第1シグナル判定部13は、EMAシグナルを生成する。短期EMAが長期EMAを下回るようクロスオーバした場合、TOPIXの売却(ショート)を示すEMAシグナルが生成される。
【0043】
次に、長期EMAを下回る価格で推移していた短期EMAは、2018年9月末の時点で長期EMAにクロスオーバして、その後、長期EMAの価格を上回る。このクロスオーバの時点で、第1シグナル判定部13は、EMAシグナルを生成する。短期EMAが長期EMAを上回るようクロスオーバした場合、TOPIXの購入(ロング)を示すEMAシグナルが生成される。
【0044】
短期EMAは、長期EMAと比較して、市場動向に対する反応性がより高く、すなわち市場の動向(値動き)に追従する速度がより早く、これに対して、長期EMAは、短期EMAと比較して、市場の動向に対する反応性がより低く、すなわち市場の動向に追従する速度がより遅い。
したがって、短期間EMAが、長期EMAにクロスオーバして長期EMAより下方に向いた場合には、TOPIXのモメンタムが下方に向かうと推定できるため、TOPIXを売却(ショート)すべきタイミングであると判定できる。一方、短期間EMAが、長期EMAにクロスオーバして長期EMAより情報に向いた場合には、TOPIXのモメンタムが上方に向かうと推定できるため、TOPIXを購入(ロング)すべきタイミングであると判定できる。
【0045】
このように、本実施形態では、短期EMAと長期EMAのクロスオーバとその方向により、売買すべきタイミングを示すEMAシグナルを生成する。
なお、クロスオーバの都度、EMAシグナルを生成すると、システムの負荷やトランザクションコストが高まるため、所定期間に1回程度、EWMAシグナルが生成されるよう、短期間にクロスオーバが集中した場合等には、EWMAシグナルの生成を適宜抑制してよい。
【0046】
S3で、ボラティリティ制御装置1の第2シグナル判定部14は、TOPIXの値に対してウインドウを設定し、設定したウインドウ内で推移しているTOPIXの価格がウインドウを逸脱(ブレイクアウト)した時点について、第2のシグナルであるBW(Breakout Window)シグナルを生成する。
具体的には、第2シグナル判定部14は、過去の所定期間のTOPIXの価格の最大値を上限値とし、最小値を下限値として、ウインドウを設定し、TOPIXの価格がウインドウの上限値を上回った時点で、TOPIXの購入(ロング)を示すBWシグナルを生成し、TOPIXの価格がウインドウの下限値を下回った時点で、TOPIXの売却(ショート)を示すBWシグナルを生成する。BWシグナルに関しては、図5を用いて説明する。
【0047】
図5は、TOPIXの価格のウインドウからの逸脱によってBWシグナルが生成される例を説明する時系列グラフである。
図5において、実線は、TOPIXのデータ(価格)の推移を示し、破線は所定期間のTOPIXの最大値の推移を示し、二点鎖線は所定期間のTOPIXの最小値を示し、一点鎖線は所定期間のTOPIXの平均値を示す。
【0048】
図5を参照して、320日間の平均値として算出されたTOPIXの最大値および最小値で、BWウインドウが構成されている。ウインドウを設定するためのTOPIXの最大値および最小値は、任意の期間について計算されてよいが、短期間に発生する急激な値動きを相殺して曲線が安定するよう、十分に長い期間に設定することで、システムの負荷およびトランザクションコストを低減することができる。一方、最大値および最小値を算出する所定期間を短く変更することで、値動きに対する反応性を高めることができる。
【0049】
また、所定期間のTOPIXの標準偏差を算出して、ウインドウの上限値および下限値を調整してもよい。
図5では、t1およびT4の時点で、TOPIXの購入(ロング)を示すBWシグナルが生成され、t2、t3、およびt5の時点で、TOPIXの売却(ショート)を示すBWシグナルが生成される。
【0050】
図3に戻り、S4で、ボラティリティ制御装置1のデータ取得部12は、TOPIXの現在のボラティリティのデータを、証券取引所システム2から取得し、あるいは記憶部11に格納したTOPIXのデータに基づいて算出する。
S5で、ボラティリティ制御装置1の調整割合算出部15は、所定のターゲットボラティリティと、S4で取得されたTOPIXの現在のボラティリティのデータに基づいて、TOPIXに連動するインデックス商品を売却(ショート)するポジションの割合を算出する。
【0051】
TOPIXを売却(ショート)するポジションの割合を算出するため使用される所定のターゲットボラティリティは、固定のターゲットボラティリティを予め設定してよい。あるいは、ボラティリティ制御装置1の表示部17は、ユーザに現在設定されているターゲットボラティリティを表示しつつ、ターゲットボラティリティの変更入力を可能にするGUI(Graphical User Interface)を提供してもよい。
【0052】
例えば、ターゲットボラティリティを10%に設定した場合、TOPIXに連動するインデックス商品を売却(ショート)するポジションの割合は、下記式1で算出することができる。
Position=min(max[0,(10/recent std)],1)
(式1)
ここで、recent stdは、S4で取得されたTOPIXの現在のボラティリティを示す。
【0053】
S6で、ボラティリティ制御装置1の取引実行部18は、EMAシグナルおよびBWシグナルに基づいて決定されたトリガ(タイミング)により、S5で算出されたポジションの割合で、TOPIXに連動するインデックス商品の売買を実行する。
なお、S4およびS5は、S1ないしS3の前に実行されてもよく、S1ないしS3と並行して実行されてもよい。
【0054】
図6は、直近40日間のブレイクアウトウインドウを設定してBWシグナルを生成した場合のBWシグナルの推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。
一方、図7は、直近320日間のブレイクアウトウインドウを設定してBWシグナルを生成した場合のBWシグナル推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。
【0055】
図6および図7のY軸は、いずれも、生成されるBWシグナルの強度を示しており、+1.00〜―1.00の間で推移する。例えば、BWシグナルの強度が+0.7を示す場合、当該BWシグナルは強い購入(ロング)を示唆し、BWシグナルの強度が+0.1を示す場合、当該BWシグナルは弱い購入(ロング)を示唆する。+1.00のシグナル強度のBWシグナルは、購入(ロング)が必須であることを示唆し、−1.00のシグナル強度のBWシグナルは、売却(ショート)が必須であることを示唆する。
シグナルの推移は連続的であり、例えば、−0.7は、ポートフォリオを70%でのヘッジを示す。
【0056】
図6では、比較的短期間である直近40日間の最大値および最小値をそれぞれブレイクアウトウインドウの上限値および下限値に設定しているため、図7のように比較的長期間である直近320日間のブレイクアウトウインドウと比較して、上限値および下限値の間のウインドウサイズが小さい。このため、BWシグナルの変動が激しく、インデックス商品の取引も多く発生するため、トランザクションコストも大きくなる。
これに対して、図7では、比較的長期間である直近320日間の最大値および最小値をそれぞれブレイクアウトウインドウの上限値および下限値に設定しているため、図6の比較的短期間である直近40日間のブレイクアウトウインドウと比較して、上限値および下限値の間のウインドウサイズが大きい。BWシグナルの変動は緩やかであり、インデックス商品の取引の発生は少なくなるため、トランザクションコストは小さくなる。
【0057】
図8は、異なる8種類のEMAシグナルおよびBWシグナルを生成してオリジナルの重みで合成した場合の合成シグナルの推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。
具体的に合成される合成シグナルには、BWシグナルとして、直近20日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナル、直近40日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナル、直近80日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナル、直近160日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナル、および直近320日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナルを含む。また、合成シグナルは、EMAシグナルとして、短期7日間で長期20日間のEMAシグナル、短期20日間で長期55日間のEMAシグナル、および短期55日間で長期200日のEMAシグナルを含む。
【0058】
図8を参照して、合成シグナルの推移は、図7と比較しても、変動がよりスムーズになっており、数年間にわたりグラフ上端が平坦化した期間を複数観察することができる。
この平坦化した期間では、ヘッジの必要がなく、したがって、インデックス商品の売買を実行する必要がなく、下落に転じたタイミングでインデックス商品のヘッジのための取引可能性を考慮すればよいことが理解できる。
このように、生成される複数のシグナルを適切に合成することで、トランザクションコストを抑制しつつ、EMAシグナルおよびBWシグナルによりTOPIXを売却(ショート)するタイミングを高精度に判定して、TOPIXのポジションを確保することができる。
【0059】
図9は、本実施形態に係るTOPIXのポジション確保手法と従来のポジション確保手法との累積的収益の時系列推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。
図9において、一点鎖線はリスクヘッジをしない場合(ゼロヘッジ)の累積的収益を示し、破線は従来の方式でリスクヘッジした場合の累積的収益を示し、実線は本実施形態に係るボラティリティ制御装置1により複数種類のシグナルを生成してTOPIXに連動するインデックス商品を売却(ショート)するタイミングを決定してインデックス商品のポジションを確保した場合の累積的収益を示す。
図9から明らかなように、ゼロヘッジの場合と従来の方式でリスクヘッジした場合とでは、最終的に同程度の累積的収益に収束している。一方、本実施形態に係るボラティリティ制御装置1により適時にインデックス商品のポジションを確保した場合、累積的収益は概ねゼロヘッジの場合と従来方式の場合を上回っており、最終的に、より高い累積的収益をもたらしている。
【0060】
<複数のシグナルの合成手法>
本実施形態では、複数種類のシグナルを、シグナル間の相関に基づいて、合成して使用することができる。
本実施形態に係るボラティリティ制御装置1の第1シグナル判定部13および第2シグナル判定部14がそれぞれ生成するEMAシグナルおよびBWシグナルは、いずれも、短期間シグナル同士、および長期間シグナル同士で高い相関を呈し、短期間シグナルと長期間シグナルの間では低い相関を呈する。
具体的には、例えば、最も短期間である直近20日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナルは、より長期間のブレイクアウトウインドウのBWシグナルになるほど当該BWシグナルに対して低い相関を呈し、他のBWシグナルのうち最も長期間である直近320日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナルに対して最も低い相関を呈する。 同様に、直近20日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナルは、より長期間の組み合わせのEMAシグナルになるほど当該EMAシグナルに対して低い相関を呈し、EMAシグナルのうち最も長期間の組み合わせである短期55日間で長期200日間のEMAシグナルに対して最も低い相関を呈する。
【0061】
最も長期間である直近320日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナルについても同様に、他のBWシグナルのうち最も短期間である直近20日間のブレイクアウトウインドウのBWシグナル、およびEMAシグナルのうち最も短期間の組み合わせである短期7日間で長期20日間のEMAシグナルに対して最も低い相関を呈する。
【0062】
EMAシグナルについても同様の相関が観察できる。すなわち、例えば、最も短期間の組み合わせである短期7日間で長期20日間のEMAシグナルは、より長期間の組み合わせのEMAシグナルになるほど当該EMAシグナルに対して低い相関を呈し、他のEMAシグナルのうち最も長期間の組み合わせである短期55日間で長期200日間のEMAシグナルに対して最も低い相関を呈する。同様に、短期7日間で長期20日間のEMAシグナルは、より長期間のBWシグナルになるほど当該BWシグナルに対して低い相関を呈し、BWシグナルのうち最も長期間である直近320日間のBWシグナルに対して最も低い相関を呈する。
最も長期間の組み合わせである短期55日間で長期200日間のEMAシグナルについても同様に、他のEMAシグナルのうち最も短期間の組み合わせである短期7日間で長期20日間のEMAシグナル、およびBWシグナルのうち最も短期間である直近20日間のBWシグナルに対して最も低い相関を呈する。
【0063】
低い相関を示す2つのシグナルは、互いに異なる挙動を呈することになるため、複数のシグナルを選択してTOPIXに連動するインデックス商品の売買のタイミングの判定に用いる場合、例えば、8種類の異なるシグナルのうち、EMAシグナルとBWシグナルの同種異種いずれの間でも、短期間のシグナルと長期間のシグナルとを組み合わせた方が、売買のタイミング判定の精度は向上するものと推定できる。
ただし、上述したように、短期間の値から生成されるシグナルになるほど、シグナル強度の変動が多くなり、トランザクションコストが高まるため、トランザクションコストを低減する観点からは、長期間のシグナルを選択するか、あるいは以下に説明するように、長期間のシグナルに対してより多くの重みを付与するように、短期間のシグナルと長期間のシグナルとを組み合わせてもよい。
【0064】
この場合の複数のシグナルの組み合わせにおいて付与される重みは、例えば、下記式2により算出することができる。
【数1】
(式2)
ここで、S=シグナルiである。
式2で算出されたコストcostから、以下の式3により、重みoriginal weightを算出することができる。
【数2】
(式3)
【0065】
上記のように算出されたオリジナルの重みoriginal weightによれば、EMAシグナルとBWシグナルのいずれについても、長期間シグナルの方が、コストが少なく算出され、より大きい重みが算出されるため、長期間シグナルには、短期間シグナルと比較して、より大きい重みが付与されて、他のシグナルと組み合わせられることになる。
【0066】
オリジナルの重みoriginal weightは、所望する重み付けとなるよう、例えば、以下の式4に示すように変換し、変換された重みを算出することができる。
【数3】
(式4)
ここで、λは調整パラメータである。
【0067】
式4から、λ=0とした場合には、変換された重みtransformed weightは、複数のシグナルの間で、オリジナルの重みの値の相違にかかわらず、同一の値となるため、複数のシグナルのそれぞれに均等な重みが付与される。
これに対して、λ>0とした場合、短期間シグナルにより多くの重みが付与されるよう、変換された重みtransformed weightが算出される。一方、λ<0とした場合、長期間シグナルにより多くの重みが付与されるよう、変換された重みtransformed weightが算出される。
【0068】
これら変換された重みtransformed weightから、最終的に合成されたシグナル(ヘッジシグナル)Sは、以下の式5により算出することができる。
【数4】
(式5)
【0069】
図10は、λ=−10とした場合の変換された重みtransformed weightを、8種類のEMAシグナルおよびBWシグナルに付与して合成した合成シグナルの推移を過去のデータで検証した例を説明する時系列グラフである。図8に示すオリジナルの重みoriginal weightを付与した場合と比較して、異なる挙動を示している。
【0070】
<ボラティリティ制御1のハードウエア構成>
図11は、ボラティリティ制御装置1のハードウエア構成の一例を示す図である。
本実施形態に係るボラティリティ制御装置1は、単一または複数の、あらゆるコンピュータ、モバイルデバイス、または他のいかなる処理プラットフォーム上に実装することができる。
図11に示すように、ボラティリティ制御装置1は、CPU21と、ROM22と、RAM23と、外部メモリ24と、入力部25と、表示部26と、通信I/F27と、システムバス28とを備える。
【0071】
CPU21は、ボラティリティ制御装置1における動作を統括的に制御するものであり、システムバス28を介して、各構成部(22〜27)を制御する。ROM22は、CPU21が処理を実行するために必要な制御プログラム等を記憶する不揮発性メモリである。なお、当該プログラムは、外部メモリ24や着脱可能な記憶媒体(不図示)に記憶されていてもよい。RAM23は、CPU21の主メモリ、ワークエリア等として機能する。すなわち、CPU21は、処理の実行に際してROM22から必要なプログラム等をRAM23にロードし、当該プログラム等を実行することで各種の機能動作を実現する。
【0072】
外部メモリ24は、例えば、CPU21がプログラムを用いた処理を行う際に必要な各種データや各種情報等を記憶している。また、外部メモリ24には、例えば、CPU21がプログラム等を用いた処理を行うことにより得られた各種データや各種情報等が記憶される。入力部25は、キーボードやマウス等のポインティングデバイスにより構成される。表示部26は、液晶ディスプレイ(LCD)等のモニターにより構成される。通信I/F27は、ボラティリティ制御装置1と証券取引所システム2や顧客のコンピュータとの通信を制御するインタフェースである。
【0073】
図11に示すボラティリティ制御装置1の各要素のうち少なくとも一部の機能は、CPU21がプログラムを実行することで実現することができる。ただし、図7に示すボラティリティ制御装置1の各要素のうち少なくとも一部が専用のハードウエアとして動作るようにしてもよい。この場合、専用のハードウエアは、CPU21の制御に基づいて動作する。
なお、図1に示す証券取引所システム2、同様のハードウエア構成で実現することができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態によれば、ボラティリティ制御装置は、ポートフォリオを構成するインデックス商品の価格情報から、第1のシグナルと、第1のシグナルとは異なる第2のシグナルを生成し、第1のシグナルと第2のシグナルとに基づいて、インデックス商品を売買するトリガを判定する。ボラティリティ制御装置はさらに、インデックス商品の現在のボラティリティを取得し、取得されたボラティリティと、インデックス商品の所定のターゲットボラティリティとに基づいて、インデックス商品を売買するポジションの割合を算出し、判定されたトリガで、算出された割合のインデックス商品の取引を実行する。
したがって、本実施形態によれば、所定のインデックス商品を売買取引することによりリスクをヘッジするためのポートフォリオのボラティリティ制御において、より安定的、かつより低ノイズでインデックス商品の取引のポジションを確保して、ポートフォリオを最適化することができる。
【0075】
なお、上記において特定の実施形態が説明されているが、当該実施形態は単なる例示であり、本発明の範囲を限定する意図はない。本明細書に記載された装置及び方法は上記した以外の形態において具現化することができる。また、本発明の範囲から離れることなく、上記した実施形態に対して適宜、省略、置換及び変更をなすこともできる。かかる省略、置換及び変更をなした形態は、請求の範囲に記載されたもの及びこれらの均等物の範疇に含まれ、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0076】
1…ボラティリティ制御装置、2…証券取引所システム、3…ネットワーク、11…記憶部、12…データ取得部、13…第1シグナル判定部、14…第2シグナル判定部、15…調整割合算出部、16…通信部、17…表示部、18…取引実行部、21…CPU、22…ROM、23…RAM、24…外部メモリ、25…入力部、26…表示部、27…通信I/F、28…システムバス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11