(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887160
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】耐火改質木質材料とその製造方法
(51)【国際特許分類】
B27K 3/02 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
B27K3/02 C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-75625(P2018-75625)
(22)【出願日】2018年4月10日
(65)【公開番号】特開2019-116087(P2019-116087A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2019年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2017-248579(P2017-248579)
(32)【優先日】2017年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501417550
【氏名又は名称】株式会社ユニウッドコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】横尾 國治
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−249808(JP,A)
【文献】
特開2007−055271(JP,A)
【文献】
特開昭50−042010(JP,A)
【文献】
特開昭63−134203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 − 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単板が積層され、木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための耐火用薬剤が含浸された耐火改質木質材料において、
前記木質材料は、原木の辺材部による単板と心材中央部の未成熟部による単板とにより構成された改質用単板が積層されたものであり、
前記木質材料は前記改質用単板のみが積層されたものであり、前記未成熟部よりも外側から前記辺材部より内側までの領域の板を含まないものであり、
前記単板は裏割れを備えており、
前記心材中央部の未成熟部による前記単板の方が、前記辺材部による前記単板よりも多くの前記裏割れを備えており、
前記改質用単板には、前記耐火用薬剤が保持され、前記耐火用薬剤の少なくとも一部は前記裏割れによって保持されていることを特徴とする耐火改質木質材料。
【請求項2】
前記心材中央部の未成熟部による単板の前記裏割れは、前記辺材部による単板の前記裏割れに比べて、その密度が高く且つその深さが大きいことを特徴とする請求項1に記載の耐火改質木質材料。
【請求項3】
木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための耐火用薬剤が含浸された耐火改質木質材料を製造する方法において、
前記耐火用薬剤の注入に用いる前記木質材料の原料となる改質用単板を、ロータリーレースによって原木材料から採取する採取工程と、
前記採取工程で得られた前記改質用単板を接着して、前記木質材料を先に生産する木質材料製造工程と、
前記木質材料製造工程により得られた前記改質用単板から構成された前記木質材料に対して、前記耐火用薬剤を注入する注入工程と、
前記注入工程を経た前記木質材料を乾燥させる乾燥工程とを含むものであり、
前記採取工程は、原木の辺材部からの単板と心材中央部の未成熟部からの単板との双方を、前記辺材部及び前記未成熟部以外の部分の原木材料とは区別して、前記改質用単板として採取するものであり、
前記採取工程における、前記心材中央部の未成熟部による前記単板は前記辺材部による前記単板に比べて、前記ロータリーレースにより生じた裏割れを多く備えており、
前記木質材料製造工程は、前記原木の辺材部からの前記単板と前記心材中央部の未成熟部からの前記単板との双方から構成された前記改質用単板のみを用いるものであり、
前記注入工程によって、前記耐火用薬剤が前記改質用単板に保持され、前記耐火用薬剤の少なくとも一部が前記裏割れによって保持されていることを特徴とする耐火改質木質材料の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、誘電加熱により前記木質材料を乾燥する工程であることを特徴とする請求項3に記載の耐火改質木質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃木材などの耐火改質木質材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日流通している不燃木材や準不燃木材などの耐火改質木質材料の多くは、不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための耐火用薬剤を木質材料に対して含浸することによって製造されている。例えば製材品や集成材用ラミナに薬剤を注入する方法を採用することで、インサイジング加工をして薬剤注入部分を少し増やすことも行われているが、心材部と辺材部では薬剤浸透の程度が大幅に異なる。その結果、薬剤注入木材の性能、及び木質製品の性能に大きなバラツキがあり、薬剤処理木材基準値を満たさないものも散見された。薬剤注入が不十分な部分が存在する木質材料が加熱されると、200℃前後以上の高温域に達することによって、不十分な部分の木材組織から可燃性ガスが発生し、当該ガスが発火することによって、その耐火性能は大きく損なわれてしまう。
【0003】
一般に、木材の細胞間の水の移動は、基本的にはその生物的な細胞組織構造上の理由で、水分の移動が遅く、特に薬剤成分のような大きな粒子は移動できないような構造になっている。
具体的には、針葉樹の細胞の辺材部では仮道管の有縁壁孔内のトールスが開いた状態で水分と養分が通るようになっているが、心材部ではトールスが壁に付着して水分と養分を通さないようになっている。
【0004】
また、広葉樹の導管は辺材部では水分と養分の通路になっているが、心材部になると導管内孔周りの柔細胞が内孔に膨出したチロースが内孔を塞ぎ水分が通らなくなる。
そして、心材部と辺材部が混在している木材の乾燥は、熱気の流れによる熱エネルギーで細胞壁の中を水分が拡散移動することにより、数日から数か月をかけて木材中から外に水分を出している。ところが、外から薬剤水溶液を木材中に均一に注入するためには、数時間から1日程度の減圧加圧の繰り返しを行うと言った程度の少ないエネルギーでは、木材中に前記薬剤を含む液体を注入することは現実には不可能である。
【0005】
また、表面化粧単板に薬剤処理をする技術も存在しているが、基材に無機質材料を使用するなど、材料を複合化するためのコストが高くなるという問題があった。
さらにまた、従来の不燃・準不燃・難燃処理木質材料は、製材品・ラミナ・単板などを薬剤処理してから接着するという工程が一般的であったが、薬剤処理薬剤には接着を阻害する物質が多く、結果的に充分な接着力が得られないという問題があった。
【0006】
このような耐火改質木質材料に関する先行技術文献としては、特許文献1及び2を上げることができるが、心材部と辺材部を明確に区別して辺材部のみを用いる技術を示すものではいことは勿論、心材部に関して成熟部と未成熟部とを区別することについては全く開示されていなかった。
具体的には、特許文献1の明細書段落0014では、浸漬処理を施す時間について6〜72時間という大きな幅を持たせた範囲を設定しており、その理由として導管の太さや並び方が木の種類によって異なることを挙げるとともに、その具体例として辺材部は導管が太く密度が粗い点を指摘している。ところが、明細書段落0022以下の実施例では、原料の木材として杉板や桐板を用いているに止まり、心材部と辺材部とを区別して用いないし、そもそも辺材部が杉や桐にあっては導管が太く密度が粗いものであるとの認識自体に疑義が存するものである。このように特許文献1では心材部と辺材部とを区別して用いないことを前提に、言い換えれば心材部と辺材部とを区別して用いずとも処理条件の調整によって不燃木材板を製造することができると言う技術思想を開示したものであると、認められる。
【0007】
特許文献2にあっても、明細書段落0011で、材の導管及びその周辺部に十分な耐火剤が含浸されているが、明細書段落0017以下の実施例では、原料の木材として桐板を用いているに止まり、心材部と辺材部とを区別して用いていない。このように特許文献2では心材部と辺材部とを区別して用いないことを前提に、言い換えれば心材部と辺材部とを区別して用いずとも、桐材に含浸した耐火薬液と桐材に潜在的に含浸されているタンニンが熱によって架橋反応して形成されたものと推測されるガラス様膜の形成によって不燃特性が格段と向上させることができると言う技術思想を開示したものであると、認められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4221599号公報
【特許文献2】特開2007−63749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は、均質な耐火性能を発揮し得る耐火改質木質材料とその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、均質な耐火性能を発揮し得ると共に、製材品・ラミナ・単板などの構成材料間の接着性能を阻害することを抑制することができる耐火改質木質材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の単板が積層され、木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための耐火用薬剤が含浸された耐火改質木質材料において、前記木質材料は、原木の辺材部と心材中央部の未成熟部との少なくとも何れか一方により構成された改質用単板が積層されたものであり、前記改質用単板には、前記耐火用薬剤が保持されていることを特徴とする耐火改質木質材料を提供することにより上記の課題を解決する。
特に、前記木質材料は前記改質用単板のみが積層されたものであり、前記未成熟部よりも外側から前記辺材部よりも内側までの領域の板を含まないものとすることによって、均質な耐火性能を安定して発揮し得る耐火改質木質材料を提供することができる。
【0011】
また本発明は、木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための耐火用薬剤が含浸された耐火改質木質材料を製造する方法において、前記耐火用薬剤の注入に用いる前記木質材料の原料となる改質用単板を、原木の辺材部と心材中央部の未成熟部との少なくとも何れか一方から採取する採取工程と、前記採取工程で得られた前記改質用単板を接着して、前記木質材料を先に生産する木質材料製造工程と、前記木質材料製造工程により得られた前記改質用単板から構成された前記木質材料に対して、前記耐火用薬剤を注入する注入工程と、前記注入工程を経た前記木質材料を乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする耐火改質木質材料の製造方法を提供することにより上記の課題を解決する。
【0012】
前記採取工程は、前記原木の前記辺材部からロータリーレースで採取して前記改質用単板を、前記辺材部及び前記未成熟部以外の部分の原木材料とは区別して採取する工程として実施することが望ましい。
注入工程で用いるロータリーレースは、原木と刃物を相対的に回転させながら切削し、桂剥きするように外周から中心に向けて単板を製造していく装置であるため、原木の外周側に存在する辺材部から得られる辺材単板と、心材中央部の未成熟部から得られる未成熟部単板とを、他の領域の単板と区別して製造管理することを、容易になすことができる。しかも、ロータリーレースで製造されるロータリー単板では、裏割れが発生する。この裏割れの存在によって、前記注入工程で、耐火用薬剤を単板の内部に良好に注入することができる。特に、ロータリーレースで切削されていくに伴い、原木の径が小さくなるに従って、裏割れは、その数が多くなりその深さも大きくなる傾向を示す。その結果、原木の最も内径側の心材中央部の未成熟部にあっては、裏割れは、その密度が高くなり(例えば1〜3mm間隔)、その深さも大きくなる(例えば単板の板厚の半分を超える深さ)ものである。
【0013】
前記木質材料製造工程は、前記耐火用薬剤の接着阻害を抑制するために耐水性接着剤で前記改質用単板のみを接着し、前記改質用単板以外の原木材料料を含まない木質材料を製造する工程とすることによって、均質な耐火性能を安定して発揮し得る耐火改質木質材料を製造をすることができる。
【0014】
一般に、木材は辺材部と心材部に大別されることが多く、辺材部とは丸太の横断面で外周部の色の白っぽい部分を指し、心材部とは丸太の横断面で中心部の色の赤っぽい部分を指すと言われるが、さらに詳しくは、心材部は中央部の未成熟部と成熟部との2つの領域に区別することができ、また辺材部と心材部との境界領域の白線帯が存在する場合もある。従って、外側から辺材部、白線帯、心材の成熟部及び心材の未成熟部との4つの領域に区分することができる。
【0015】
本発明においては、原木の辺材部と心材の未成熟部との少なくとも何れか一方を改質用単板として用い、原木の辺材部より内側の白線帯から、心材の未成熟部よりも外側の心材の成熟部の領域の単板は他用途単板として、他の用途に振り向けるものである。
大まかに辺材部と心材部は横断面の目視観察で色調差によって区別される場合が多いが、樹種によっては色調差の生じないものもあったり、4つの領域は明確に区分することが外観上は困難な場合がある。そこで、量産の実施に先立ち指標となる標準的な原木からロータリーレースで外側から辺材部、白線帯、心材の成熟部及び心材の未成熟部を含む単板を順次製造し、耐火用薬剤を注入する注入工程に相当する工程として、着色料を注入試験を行い、その着色状態から改質用単板として用いる領域と他用途単板として用いる領域とを原木の径方向で区分し、その区分に基づき両種の単板を区分して生産するようにして実施することができる。
本願発明者が行った試験では、後に詳述するように、辺材部、白線帯、心材の成熟部及び心材の未成熟部の4領域について異なる着色状態が確認された。
【0016】
前記耐火用薬剤による接着阻害を抑制するためには、前記木質材料製造工程は、耐水性接着剤で行うことが望ましい。
また、前記辺材部と心材の未成熟部の原料のみを接着し、それ以外の原料を含まない木質材料を製造することによって、均質な耐火性能を備えた耐火改質木質材料を得ることができる。
【0017】
前記乾燥工程は、誘電加熱により行うことによって、内部まで均一に乾燥することができる点で望ましい。ロータリー単板では、裏割れがあるため、誘電加熱による乾燥ではこの隙間からも水分が移動し易く、乾燥を良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、均質な耐火性能を発揮し得る耐火改質木質材料とその製造方法を提供することができたものである。
また本発明は、均質な耐火性能を発揮し得ると共に、製材品・ラミナ・単板などの構成材料間の接着性能を阻害することを抑制することができる耐火改質木質材料の製造方法を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る耐火改質木質材料の製造方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
(原木の選別と準備)
本発明の実施の形態に係る耐火改質木質材料用の原木12は、通常流通している大きさでもよく、その径は問わないが、小径木(特に原木直径30cm未満の小径木)で辺材部が多い若い立ち木原木11からできるだけ採取をする。特に、広葉樹早生植林材や針葉樹間伐材が望ましい。
【0021】
(葉枯らし工程)
必要に応じて、原木12を伐採後に葉枯らし工程(樹木先端部分の枝葉を残して数日間から数週間伐採現場で寝かせる工程)を付加することによって、辺材部の含水率を下げるようにしてもかまわないが、省略して実施することもできる。
【0022】
(採取工程)
採取工程は、原木12からロータリーレースなどで原料を採取する工程であるが、本発明にあっては、原木12の辺材部A及び心材中央部の未成熟部Dからの改質用単板15を、白線帯B及び心材外周側の成熟部Cからの他用途の単板とは区別して採取することを特徴とする。
【0023】
具体的には、ロータリーレースで通常の方法で単板に加工して採取する。その際に辺材部A及び未成熟部Dとして予め設定した周回分の単板だけを改質用単板15(薬剤処理木質材料用単板)として、白線帯B及び成熟部Cから得られた他用途単板とは区別して採取するもので、他用途単板は別の用途に振り向ける。
【0024】
ロータリーレースは、大径木用ロータリーレースと小径木用ロータリーレースに大別されるが、望ましい実施の形態としては、前述のように小径木を立ち木原木11として用い、小径木の原木12を小径木用ロータリーレースによって1〜5mm厚程度の一定の厚みで外周側から桂剥きの要領で切断して、辺材部A、白線帯B、成熟部C、未成熟部Dの順に切断して単板を得て、上記のように改質用単板15と他用途単板とに区別して採取する。
【0025】
(木質材料製造工程)
木質材料製造工程は、改質用単板15を原料として耐水性接着剤を使用して合板や単板積層材などの木質材料16を通常の方法で生産する工程であるが、次の注入工程で薬剤水溶液を注入するため、必ず耐水性接着剤を使用して実施する。
【0026】
従来、不燃・準不燃・難燃などの耐火改質木質材料の製造に際しては、製材品・ラミナ・単板などを薬剤処理してから接着するという工程が一般的であったが、耐火用薬剤には接着剤による接着を阻害する物質が多く、結果的に充分な積層接着力が得られないおそれがあったが、木質材料製造工程を先に行い、その次に下記の注入工程を行うことによって、製材品・ラミナ・単板などの構成材料間の接着性能を阻害することを抑制することができる。
【0027】
(注入工程)
注入工程は、上記木質材料製造工程により得られた水分移動が容易な前記辺材原料から構成された改質用単板15に対して、耐火用薬剤を注入する工程である。具体的には改質用単板15に対して、減圧加圧注入缶を使って、不燃・準不燃・難燃処理薬剤などの耐火用薬剤の水溶液を注入する。辺材部Aから得られた単板には、通液性を未だ喪失していない導管や仮導管などが繊維方向(矢印方向)に連続して伸びているため、単板木口面からの薬剤水溶液の注入移動が速く、木質材料16の全体に耐火用薬剤を含浸させることができる
。心材の未成熟部Dから得られた単板の導管や仮導管などでは、心材の成熟部Cと同様に通液性をもはや喪失してしまっているが、未成熟部Dはその細胞自体が成熟部Cと比べて、未成熟のままその発育が止まっている状態であるため、脆弱であると共に多数の亀裂などが生じている。しかも、ロータリーレースでの加工によって発生する裏割れは、原木の径が切削によって小さくなるに従って、多く且つ深く発生する。その結果、薬剤水溶液の注入移動は単板木口面から裏割れや亀裂を通って行われる。特に、多数の亀裂や裏割れによって単位重量当たりの表面積が成熟部Cなどに比べて増加しており、耐火用薬剤が細胞壁内部へ含浸しなくとも、十分な量の耐火用薬剤を未成熟部Dから得られた単板に保持させることができる。
【0028】
このように本発明は、導管や仮導管など木質部の状態が液体を導通しやすい辺材部Aのみならず、液体を導通し難い心材部においても未成熟部Dにあってはロータリーレースでの加工の特性から十分な量の耐火用薬剤を保持させることができることが本発明者によって知見され、その結果に基づきなされた発明である。よって、辺材部Aと未成熟部Dとの双方または片方を用いて耐火改質木質材料を得ることができるため、量産の実施に向けて有利な発明を提供することができたものである。
【0029】
なお、生産する単板積層材は、薬液浸透性の阻害要因の単板縦繋ぎをしないものであることが好ましい。よって、単板積層材の長さは、一般的には最長で2450mm、通常では1240mmとして実施することができるが、木口面からの薬剤浸潤条件が樹種や比重で異なるために予備試験で木口面から注入可能な長さを決定して実施することが適当である。
但し、単板縦繋ぎを行うに際して、例えばバットジョイントのジョイント形態を採用することによって、接続される単板同士の間に1~5mm程度の空間を開けることができる。この空間は、単板積層材の側面からの薬液の導入の通路となり、この空間から入った薬液は、辺材部Aの導管や未成熟部Dの裏割れから、単板積層材の長手方向に侵入していくため、2450mmを超える長さで実施することもできる。なお、単板積層材の表裏に隙間の空いた継ぎ目が現れることに差し障り等がある場合には、表裏の単板各1枚については隙間がほとんど生じないスカーフジョイントとし、表裏から2層目以降の単板をバットジョイントのジョイント形態を採用したものとして、実施することができる。
【0030】
また、裏割れが不充分で木口面からの薬剤浸透性が不充分な場合には、単板表側に熱可塑性接着剤を着けた糸を貼り、単板裏側にスリットを入れて薬液の浸透性を促進することもできる。
必要に応じて、耐火用薬剤の注入量を水溶液の濃度と前後の重量で確認するようにしてもよい。さらにまた、不燃・準不燃・難燃の要求性能に従って耐火用薬剤の濃度を決定して実施することができる。
【0031】
(養生工程)
注入工程の後、木質材料内の薬剤の均一な分布を図り、流れ出る余分な溶液を木質材料から外部に出すために、上部を除く周囲を密閉された場所で所定の期間、耐火用薬剤が含浸された木質材料16を養生することが望ましい。
【0032】
(乾燥工程)
乾燥工程は、耐火用薬剤が含浸された木質材料16を乾燥させる工程である。具体的には、耐火用薬剤が注入された木質材料16を、反りを防ぐ程度の加圧下で、減圧・高周波乾燥など誘電加熱を基本とする木材乾燥方法で内部まで均一に乾燥する。
【0033】
その際、辺材部Aだけを原料とした木質材料16の乾燥では、単板木口面からの水分蒸発が容易である。また、ロータリー単板では裏割れがあり、誘電加熱乾燥ではこの隙間からも水分が移動し易い。
乾燥後の木質材料16の製品重量を測定して、耐火用薬剤を注入する前の重量と比較をして実際に含浸されている耐火用薬剤の量を確認することができる。
【0034】
(仕上げ加工)
乾燥後の木質材料16に対しては、常法に従ってサンダー・モルダーなどで所定の仕上がり加工を施し、耐火改質木質材料17の製品を完成させる。
【0035】
(検品・梱包)
完成した耐火改質木質材料17は、所定の仕様書に従って性能検査・品質検査を実施し、個別に外観検査を行った後に仕様書に従って梱包する。
【0036】
(白化現象への対策)
従来の耐火性木質材料では経年変化で表面に『白化現象』と言われる問題が指摘されていた。この白化現象は、経年変化により内部の薬剤が表面に滲み出し、表面が白く変色する現象で、表面化粧性の上での課題となっていた。この対策として薬液注入に際して、次の手段を講じて実施することも望ましい。
まず、耐火用薬剤の水溶液の温度を70度以上にし、耐火性付与薬剤に対して、常温では固体の樹脂成分(例えば、松ヤニなどの天然木由来の樹脂)を溶融させて添加する。この樹脂成分を含む耐火用薬剤の水溶液を注入工程によって注入した後、乾燥工程において誘電加熱乾燥の温度を最高で約100度で行い、溶融した低分子量域の樹脂成分を水との共沸現象を活用して製品外へ揮発させる。上記の工程によって得られた木質材料(常温に戻った製品)内には中高分子量の松ヤニ成分と耐火性薬剤成分が混在したかたちで木材細胞壁や割れ目表面に残る。従って、松ヤニなどの天然木由来の樹脂の作用によって耐火性薬剤成分の湧出が抑制され、目に見える状態での『白化現象』の発生の低減を図ることができる。
【0037】
(耐火改質木質材料)
以上の工程によって得られた耐火改質木質材料17は、複数の単板が積層され、木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための耐火用薬剤がその導管や仮導管の細胞内腔表面や細胞壁内に含浸されている。この耐火改質木質材料17は、原木の辺材部A及び心材の未成熟部Dにより構成された改質用単板15が積層されたものであり、この改質用単板15には、耐火用薬剤が略全体に含浸してり付着したりしている。耐火改質木質材料17は改質用単板15のみが積層されたものであり、白線帯B及び心材の部Cを含まないため、耐火改質木質材料17全体としてほぼ均一で良好な耐火性能を発揮することができる。薬剤注入が不十分な部分が存在する木質材料が加熱されると、200℃前後以上の高温域に達することによって、不十分な部分の木材組織から可燃性ガスが発生し、当該ガスが発火することによって、その耐火性能は大きく損なわれてしまうが、本発明の耐火改質木質材料17は、十分な量の耐火用薬剤が略全体に含浸されているため、木材組織から可燃性ガスが発生することを抑制することができ、安定した耐火性能を示すことができる。
【0038】
試験1
試験1は、30mm×40mm×300mmスギ角材であって、長手方向に仮導管が伸びており、その木口面(端面)において年輪と辺材部、白線帯、心材とが目視によって確認できる角材を、試料として薬剤の注入試験を行ったものである。サフラニン染色液を注入用の薬剤とし、注入装置として減圧加圧注入缶を用いて、減圧=(80torr)5分、加圧=(10MPa)60分の条件で、常法に従い行った。その際、その木口面(端面)は、シールを行なって薬剤が注入されないように処理をした。
【0039】
この試験は、板目と柾目面からの注入状態を確認するためのもので、注入処理後、試料のスギ角材を、その長手方向の中間位置(木口面から150mmの位置)で、切断面の染色状態を目視で確認した。
試験結果は、辺材部のみは着色が確認されたが、白線帯、心材については、着色がほとんど確認されなかった。従って、ロータリーレースで加工する前の段階では、注入薬剤の注入を行っても心材の二つの領域(成熟部と未成熟部の二つの領域)は、区別が困難であることはもちろん、薬剤の注入状態についても実質的な差異がないことが確認された。
【0040】
試験2
試験2は、スギ原木からロータリーレースで得られた約3mm厚の単板を、耐水性接着剤を使用して積層接着することによって単板積層材を製造し、単板積層材を
30mm×40mm×300mmの角材状に切断した角材を、試料として薬剤の注入試験を行ったものである。注入薬剤と注入条件は、試験1と同一とした。その際、辺材部の単板を積層したものと、心材部の単板を積層したものについての2種を用意し、さらにその木口面(端面)について、シールを行なったものと、シールを行なっていないものとの2種類を処理を行うことで、合計4種類の試料を用意し、薬剤注入後の各試料を、その長手方向の中間位置(木口面から150mmの位置)で、切断面の染色状態を目視で確認した。
【0041】
試験結果は、辺材部の単板を積層したものについては、木口面(端面)についてシールを行なったものについては資料の中央部に無着色の部分が残っていたが、木口面(端面)についてシールを行なっていないものについては略全体が着色されていたものの、白線帯の混入していたと考えられる中部に着色していない部分が残ったことが確認された。
【0042】
心材部の単板を積層したものについて、木口面(端面)についてシールを行なったものについては、中央部に着色していない部分が残った。これは、薬剤水溶液の繊維直交方向への移動が小さいためと考えられる。木口面(端面)についてシールを行なっていないものについては、万遍なく着色していることが確認された。特に、裏割れを認識できる単板は全て着色しており、隣の単板にも着色剤の移動が見られるた。
【0043】
この試験によって、原木の辺材部と心材中央部の心材未成熟部との少なくとも何れか一方により構成された単板が積層された単板積層材にあっては、耐火用薬剤が略全体に均一に保持されている耐火改質木質材料を製造し得ることが確認された。
【符号の説明】
【0044】
A 辺材部
B 白線帯
C 心材成熟部
D 心材未成熟部
11 立ち木原木
12 原木
15 改質用単板
16 木質材料
17 耐火改質木質材料