(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車には、車体の側面にドア開口が設けられ、前後方向にスライドすることによってドア開口を開閉するスライドドアを備える車両がある。スライドドアは、その前方側の上部及び下部、並びに後方側の上下方向の中間部にそれぞれローラが設けられており、車体に設けられた前後方向に延びるそれぞれのレールに各ローラが支持され、前後方向にスライド可能になっている。スライドドアの開閉は、スライドドアを後方にスライド操作することで開き、スライドドアを前方にスライド操作することで閉じる。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両の側面衝突時にスライドドアが車室側へ押し込まれても、スライドドアの端縁をドア開口の開口縁に繋ぎ止めて、スライドドアの車室側への移動変形を規制する車両用スライドドアの拘束構造が開示されている。特許文献1に記載のドア構造は、ドア開口の開口縦縁にドア開口側へ突出する係合部材を設けると共に、上記開口縦縁と対向するスライドドアの端縁に、係合部材に対応して、先端に係合爪を備えたL字形のフック部材を設ける。そして、スライドドアの閉鎖時に、側面衝突によってスライドドアが車内側へ押し込まれたときに、係合爪が係合部材内へ進入して係合部材に係合し、スライドドアの車内側への移動を規制する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、車両の側面衝突時にスライドドアが車外側から押されたときに、スライドドアの前端縁をドア開口の開口前縁をなすピラーに拘束させて、スライドドアの車内側への侵入を規制するものである。しかし、スライドドアを備える自動車では、衝突時の他、スピン時や横転時など、車内の乗員や荷物がスライドドアに衝突して車内側から車外方向へ荷重が入力され、その衝撃でスライドドアが車外側へ変位する場合がある。スライドドアが車内から車外へ向けて押されて車外側へ変位した場合、ドアと車体との間に隙間が生じてドアが開いてしまう可能性があり、ドアの開放により乗員や荷物が車外に放出される虞がある。したがって、安全性の観点から、車内の乗員や荷物がスライドドアに衝突してスライドドアが車内から車外へ向けて押されたときに、スライドドアが車外側へ変位して開放されないようにするドア構造が要求されている。
【0006】
ヒンジドアの場合、前端部がヒンジによって車体と連結され、後端部にロック装置が設けられており、ドアを閉じたときにロック装置によって後側が車体と係合される。そのため、車体に対してドアの前後両側が固定されるため、車内の乗員や荷物がドアに衝突してドアが車内から車外方向に押されても、その衝撃でドアが開放される可能性は低い。
【0007】
一方、スライドドアでは、後端部にロック装置が設けられており、ドアを閉じたときにロック装置によって後側のみが車体と係合され、前側が車体に固定されない構成のものがある。この場合、車内の乗員や荷物がスライドドアの前端部に衝突したとき、スライドドアの前端部が車内から車外方向に押されることによって車外側へ変位し易く、ドアが開放される可能性が高い。
【0008】
本発明の目的の一つは、スライドドアが車内から車外へ向けて押されることによって開放されることを抑制できる車両用ドア構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一態様に係る車両用ドア構造は、
車体の側面のドア開口を開閉するスライドドアを備える車両用ドア構造であって、
前記スライドドアの前端面に形成された前端開口部と、
係合爪を有し、前記係合爪を前記前端開口部から出没させるように、前記スライドドアの前端部に対して回動自在に取り付けられるフック部材と、
前記スライドドアの車内側に配置され、前記スライドドアの車内から車外側への変位に伴って前記フック部材を回動させ、前記係合爪を前記前端開口部から突出させる押圧部材と、
前記ドア開口の前方側の縁部を構成する車体構成部材の後端面に形成され、前記スライドドアの前端開口部に対向するように位置する車体側開口部と、
前記車体側開口部に格納され、前記前端開口部から突出された前記係合爪が係合される係止部材と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
上記車両用ドア構造は、車内の乗員や荷物がスライドドアに衝突したときに、スライドドアが車内から車外へ向けて押されることによって開放されることを抑制する機構として、スライドドアの前側にフック部材及び押圧部材と、車体構成部材の後側に係止部材とを備える。上記車両用ドア構造によれば、スライドドアの前端部に対して回動自在にフック部材が取り付けられており、スライドドアが閉じられた状態で、スライドドアの前端部が車内から車外へ向けて押された際に、スライドドアの車内側に配置された押圧部材が車外側へ変位する。この変位に伴ってフック部材を回動させ、スライドドアの前端面に形成された前端開口部から係合爪を突出させる。そして、車体構成部材の後端面に形成された車体側開口部に係止部材が格納されており、前端開口部から突出された係合爪が係止部材に係合される。これにより、スライドドアの前端部の車外側への変位を規制して、ドアの開放を抑制できる。したがって、上記車両用ドア構造は、スライドドアが車内から車外へ向けて押されることによって開放されることを抑制できる。
【0011】
また、上記車両用ドア構造では、フック部材の係合爪が通常時はスライドドアの前端開口部から突出しない位置に配置されると共に、係止部材が車体構成部材の車体側開口部に格納されている。そのため、フック部材の係合爪及び係止部材がドア開口側へ突出しておらず、見栄えが良い。また、乗り降りする際に係合爪や係止部材にぶつかったり引っ掛かったりすることがなく、邪魔にならない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る車両用ドア構造の具体例を、図面を参照して説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「上」、「下」、「左」、「右」とは、車両の正面を「前」とし、これを基準とする方向を意味し、
図1中の矢印FRは車両前後方向の前側、矢印RRは後側、矢印UPは車両上下方向の上側、矢印LWRは下側を示す。また、
図2〜
図4において、矢印INは車内側、矢印OUTは車外側を示す。
図2は、車両用ドア構造の要部を示し、スライドドア10の前端部近傍を上下方向に直交する水平面で切断した横断面を上側から見た断面図である。
【0014】
[実施形態1]
図1〜
図4を参照して、実施形態1に係る車両用ドア構造を説明する。実施形態1では、車体1の後部側面にスライドドア10を備える車両(
図1参照)に採用した例を説明する。
図1に示す車両は、車体1の後部側面にスライドドア10用のドア開口100が設けられている。実施形態1の車両用ドア構造の特徴の一つは、
図2に示すように、スライドドア10の前端部に対して回動自在に取り付けられるフック部材20と、スライドドア10の車内から車外側への変位に伴ってフック部材20を回動させる押圧部材40とを備える点にある。車両用ドア構造のもう一つの特徴は、
図1に示すドア開口100の前方側縁部101を構成する車体構成部材(この例ではピラー50)の後端面に、フック部材20の係合爪21が係合される係止部材60を備える点にある。
【0015】
(車両)
初めに、
図1を参照して、実施形態1の車両用ドア構造を適用する車両について説明する。
図1に示す車両は、車体1の側面の前部と後部にドア開口700とドア開口100が設けられており、前部のドア開口700にはヒンジドア70が取り付けられ、後部のドア開口100にはスライドドア10が取り付けられる。ドア開口700とドア開口100との間には上下方向に延びるピラー50が配置されており、ピラー50によってドア開口700とドア開口100とが区画されている。ピラー50は、下端部がサイドシル80に連結され、上端部がルーフサイドレール90に連結されている。ピラー50を有する車両の場合、ピラー50がドア開口100の前方側縁部101を構成する車体構成部材であり、スライドドア10が閉じられた状態で、ピラー50の後端面とスライドドア10の前端面とが互いに対向する。
図1(A)はヒンジドア70及びスライドドア10が閉じられた状態を示し、
図1(B)はヒンジドア70及びスライドドア10が開いた状態を示している。
【0016】
ヒンジドア70は、前端部がヒンジ(図示せず)を介して車体1に回動可能に支持され、ヒンジを支点に回動することによってドア開口700を開閉する。
【0017】
スライドドア10は、前方側の上部及び下部、並びに後方側の上下方向の中間部にそれぞれローラ(図示せず)が設けられており、車体1に設けられた前後方向に延びるそれぞれのレール(図示せず)に各ローラが支持され、前後方向にスライドすることによってドア開口100を開閉する。この例では、スライドドア10の後端部にロック装置(図示せず)が設けられており、スライドドア10を閉じたときにロック装置によって後側が車体1と係合される。
【0018】
以下、
図2〜
図4を参照して、実施形態1の車両用ドア構造について詳しく説明する。
【0019】
(スライドドア)
スライドドア10は、
図2に示すように、車外側に配置されるドアアウタパネル11と、車内側に配置されるドアインナパネル12と、ドアインナパネル12の車内側に配置されるドアトリム13とを有する。ドアアウタパネル11とドアインナパネル12とは前端側同士及び後端側同士が接合され、ドアインナパネル12が車内側に膨出することにより、スライドドア10の内部(ドアアウタパネル11とドアインナパネル12との間)に空間が形成されている。ドアトリム13は、ドアインナパネル12に対して隙間をあけて取り付けられている。ドアアウタパネル11及びドアインナパネル12は、例えば、鋼板などの金属板をプレス成形したものであり、ドアトリム13は、合成樹脂で成形されている。スライドドア10の前端面には、上下方向の中間位置に前端開口部10Aが形成されている。
【0020】
この例では、スライドドア10の上下方向の中間位置において、スライドドア10の内部にドアリーンフォースメント15が前後方向に沿って配置されている。ドアリーンフォースメント15は、ドアアウタパネル11の内面に前端側から後端側に亘って架け渡されるように固定されている。また、ドアインナパネル12の前端部には、スライドドア10の内部に貫通するパネル開口120が形成されている。このパネル開口120には、後述する押圧部材40が挿通される。
【0021】
〈フック部材〉
フック部材20は、
図2に示すように、係合爪21を有し、係合爪21を前端開口部10Aから出没させるように、スライドドア10の前端部に対して回転自在に取り付けられている。フック部材20は、前端開口部10Aと同じ高さ位置に配置されている。係合爪21は、フック部材20の先端部に設けられており、前方側に屈曲している。フック部材20の基端部22には、上下方向に延びる支持軸31が挿通される貫通孔が形成されており、基端部22が支持軸31によって回転自在に支持されている。係合爪21は、通常時は前端開口部10Aから突出しない初期位置に配置されており(
図2(A)参照)、フック部材20が前方に回動したときに前端開口部10Aから突出する(
図2(B)参照)。
【0022】
この例では、スライドドア10の内部に、支持軸31が上下方向に沿って配置されるフックブラケット30が設置されており、フックブラケット30を介してフック部材20が取り付けられている。フックブラケット30は、
図3に示すように、上下方向に対向して配置される上板32と下板33とを有し、上板32と下板33との間にフック部材20の基端部22が挟まれるように配置され、上板32と下板33に支持軸31の上下両端部が取り付けられる。フックブラケット30は、ドアリーンフォースメント15に固定されている(
図2参照)。
【0023】
〈押圧部材〉
押圧部材40は、
図2に示すように、スライドドア10の車内側に配置され、スライドドア10の車内から車外側への変位に伴ってフック部材20を回動させ、係合爪21を前端開口部10Aから突出させる。この例では、ドアトリム13の前端部の内面に押圧部材40が取り付けられており、押圧部材40がドアインナパネル12のパネル開口120を貫通して、先端部がフック部材20と干渉するように配置されている(
図2(A)参照)。押圧部材40は、ドアトリム13に一体成形することが挙げられる。スライドドア10の前端部が車内から車外へ向けて押された際に、車外方向への入力荷重によってドアトリム13が車外側に変位又は変形すると、押圧部材40が車外側へ変位することに伴い、フック部材20を回動させ、係合爪21を前端開口部10Aから突出させる(
図2(B)参照)。
【0024】
更に、この例では、係合爪21が前端開口部10Aから不用意に突出することを抑制するため、フック部材20の回動を規制する回動規制部材が設けられている。具体的には、回動規制部材として、
図4に示すように、ストッパ34が設けられている。このストッパ34は、フックブラケット30の上板32に設けられており、上板32からフック部材20側に突出し、係合爪21が初期位置にあるとき、フック部材20の前方側に位置する。ストッパ34は、車外側に変位した押圧部材40によってフック部材20が押圧されたときに、フック部材20がストッパ34を乗り越えて前方に回動するように形成されており、押圧部材40によってフック部材20が押圧されていないときは、フック部材20がストッパ34と干渉して回動しないようになっている。これにより、スライドドア10が車内から車外へ向けて押されたとき以外に、フック部材20が回動することを規制でき、係合爪21が前端開口部10Aから不用意に突出することを防止できる。
図4では、ストッパ34を上板32に設けているが、ストッパ34は下板33に設けてもよい。また、ストッパ34に代えて、フック部材20を後方に付勢するバネによって回動規制部材を構成することも可能である。
【0025】
(ピラー)
車体構成部材となるピラー50は、
図2に示すように、車外側に配置されるピラーアウタパネル51と、車内側に配置されるピラーインナパネル52とを有する。ピラーアウタパネル51とピラーインナパネル52とは前端側同士及び後端側同士が接合され、ピラー50の内部(ピラーアウタパネル51とピラーインナパネル52との間)には空間が形成されている。スライドドア10の前端面と対向するピラー50の後端面には、スライドドア10の前端開口部10Aに対向する位置に車体側開口部50Bが形成されている。
【0026】
〈係止部材〉
係止部材60は、
図2に示すように、車体側開口部50Bに格納されており、前端開口部10Aから突出された係合爪21が係合されるように設置されている。係止部材60は、上下方向に沿って配置される係止片61を有し、この係止片61に係合爪21が係合される。係止片61は、スライドドア10を閉じた状態において、前端開口部10Aから突出した係合爪21が引っ掛かるように、係合爪21の回転軌跡内に設けられている。係止片61は、例えば、略U字状の金属片で構成されている。
【0027】
車内の乗員や荷物がスライドドア10に衝突するなどして、スライドドア10の前端部が車内から車外へ向けて押された場合における実施形態1の車両用ドア構造の動作について説明する。
【0028】
スライドドア10の前端部が車内から車外へ向けて押されたときに、車外方向への荷重が入力されることによってドアトリム13が車外側に変位又は変形し、ドアトリム13の内面に取り付けられた押圧部材40が車外側に変位する。この変位に伴いフック部材20が押圧部材40によって押されて回動し、スライドドア10の前端開口部10Aから係合爪21が突出する。突出した係合爪21がピラー50の車体側開口部50Bに進入し、車体側開口部50Bに格納された係止部材60の係止片61に係合爪21が引っ掛かり係合することにより、スライドドア10の前端部の車外側への変位を規制する。
【0029】
<効果>
上述した実施形態1の車両用ドア構造は、スライドドア10の前端部が車内から車外へ向けて押されたときに、スライドドア10の前端部の車外側への変位を規制することができ、スライドドア10が開放されることを抑制できる。したがって、ドアの開放による乗員や荷物の車外放出を防止できる。
【0030】
また、実施形態1の車両用ドア構造では、フック部材20の係合爪21が通常時はスライドドア10の前端開口部10Aから突出しない位置に配置されると共に、係止部材60がピラー50の車体側開口部50Bに格納されている。そのため、フック部材20の係合爪21及び係止部材60がドア開口100側へ突出しておらず、見栄えが良く、また、乗り降りする際にぶつかったり引っ掛かったりすることがない。更に、車両用ドア構造は、既存のロック装置を採用する場合に比較して低コストである。
【0031】
[試験例]
実施形態1で説明した車両用ドア構造を採用した車両を用意し、スライドドアに対して車内から車外側へ向けて荷重を負荷する強度試験を行い、スライドドアの車外側への変位量を調べた。試験条件は、スライドドアの前端部及び後端部における上下方向の中間位置にそれぞれ負荷プレートを接触させ、負荷装置によって前端部及び後端部を車内側から9000Nの荷重で押圧した。負荷プレートの形状は、前端部側が縦長さ300mm、横幅50mm、後端部側が縦長さ150mm、横幅50mmである。両側の荷重が9000Nに達するまで負荷を継続し、両側の荷重が9000Nに達した状態で維持して、スライドドアの車外側への変位量を評価した。その結果、スライドドアの変位量は、車体とスライドドアとの間に直径100mmの球体が通過するような隙間が生じない範囲に抑えられていた。
【0032】
本発明は、これらの例示に限定されず、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、上述した実施形態1では、
図1に示すような、ピラー50を有する車両に車両用ドア構造を適用する場合を例示した。これに限らず、本発明の車両用ドア構造は、前部のドア開口700と後部のドア開口100との間にピラー50がないピラーレスの車両にも適用することが可能である。この場合、ヒンジドア70がドア開口100の前方側縁部101を構成する車体構成部材となるため、スライドドア10の前端面と対向するヒンジドア70の後端面に車体側開口部を形成し、車体側開口部に係止部材を格納することが挙げられる。