特許第6887225号(P6887225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋アルミエコープロダクツ株式会社の特許一覧 ▶ 東洋アルミニウム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6887225-結露抑制シート 図000003
  • 特許6887225-結露抑制シート 図000004
  • 特許6887225-結露抑制シート 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887225
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】結露抑制シート
(51)【国際特許分類】
   E06B 7/12 20060101AFI20210603BHJP
   E06B 7/14 20060101ALI20210603BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   E06B7/12
   E06B7/14
   B32B9/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-136096(P2016-136096)
(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2017-19276(P2017-19276A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2019年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-139167(P2015-139167)
(32)【優先日】2015年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】松井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 真一
(72)【発明者】
【氏名】西川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】関口 朋伸
(72)【発明者】
【氏名】麻植 啓司
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和也
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 侑哉
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−093315(JP,A)
【文献】 特開平08−066991(JP,A)
【文献】 特開2013−075464(JP,A)
【文献】 特開2003−238947(JP,A)
【文献】 特開2005−350502(JP,A)
【文献】 特開2012−106420(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103894333(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 7/12− 7/14
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓ガラス及びそれを保持する枠体に用いるキットであって、
(1)窓ガラスの室内側の面に取り付けるための結露抑制シート及び
(2)枠体の室内側の面に取り付けるための吸水性シート
含み、かつ、
(3)前記の結露抑制シートは、結露が発生し得る面に取り付けるためのシートであって、(3−1)前記シートは、基材フィルム及びその表面の一部又は全部に形成された撥水層を含み、(3−2)前記撥水層は、一次粒子平均径3〜100nmの疎水性微粒子を含み、前記疎水性微粒子が三次元網目構造を有する多孔質層を形成しており、(3−3)結露が発生し得る面に前記基材フィルムの裏面が当接するように前記シートを取り付ける、ことを特徴とする結露抑制シートである、
ことを特徴とする結露抑制用キット。
【請求項2】
結露抑制シートにおける疎水性微粒子の付着量が0.01〜10g/mである、請求項1に記載の結露抑制用キット。
【請求項3】
結露抑制シートが光透過性を有する、請求項1に記載の結露抑制用キット
【請求項4】
結露が発生し得る面が窓ガラスの室内側の面を含む、請求項1に記載の結露抑制用キット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結露抑制シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば冬季において良く見られるように、屋外と屋内との温度差が大きくなる場合、窓ガラスに結露が発生する。この現象は、窓ガラスは外気によって冷やされている一方で、室内は暖房等で暖められており、室内の暖かい空気が冷えた窓ガラスにぶつかると冷やされ、窓ガラス近傍に存在する空気中の水蒸気が凝縮して水滴となって窓ガラスに付着することによるものである。
【0003】
結露は、ガラス表面のみならず、窓ガラスを保持する金属等からなる枠体にも発生し、それらの結露水が重力により窓ガラスをつたってサッシ下部に設置されるレール部又は床面に落ちて水たまりとなる。また、窓にカーテンを取り付けている場合には、結露による水滴がカーテンを濡らしてしまうこともある。場合によっては、床面、カーテン等にカビ等が発生し、不衛生な状態となってしまう。
【0004】
このため、結露により生じた水滴をふき取る必要があるが、継続的にふき取り作業を行わなければならないため、非常に煩雑で面倒である。そこで、そのような作業をできるだけしなくて済むように、結露を抑制するための方法が種々提案されている。例えば、窓ガラスを複層ガラスとよばれる2枚のガラスの間に断熱層としての空気層を挟んだガラス又は真空ガラスとよばれる2枚のガラスの間に真空層を挟み、真空の断熱性能を利用したガラスに交換することが挙げられる。ところが、これらの結露対策用のガラスは高価であり、交換作業も比較的大かがりである。
【0005】
これに対し、比較的簡便な方法として、窓ガラス表面及び窓ガラス周辺に結露を抑制(防止)するシートを取り付ける方法がある。例えば、ポリエチレン製の多数の独立した気泡部分を備えたシートを窓ガラスの室内側表面に取り付けことにより、気泡部分の空気層が断熱層としての役割を果たして結露の発生を抑制するシートが提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、別の方法として、窓ガラス表面に吸水性ポリマーを含むコーティング溶液をスプレーで吹き付けることにより、結露を抑制する方法がある(特許文献2)。
【0007】
その他の方法として、不織布で構成されるような、結露水を吸収する吸収体を窓ガラスの下端部に取り付けることにより、レール部や床面に結露水がたまるのを抑制する方法がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−227254号公報
【特許文献2】特開2013−177624号公報
【特許文献3】特開2004−223869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のような結露抑制シートの場合、引き違いタイプの窓ガラスに使用した場合、シートの気泡部分の厚みが3〜5mm程度もあるため、窓ガラスの開閉する際に、一方の窓ガラス表面に取り付けたシートの気泡部分表面が他方の窓ガラス表面と接触してしまうことがあり、シートが剥がれてしまうことがある。シートが剥がれた場合には結露抑制の機能が発揮されないだけでなく、窓ガラスの開閉自体に支障を生じるおそれがある。また、このタイプの結露抑制シートは、梱包時の緩衝材として使用されている気泡緩衝材と見た目が変わらないため、意匠性に劣る。
【0010】
特許文献2の方法は簡便であり、意匠性を損なうおそれはないものの、経時的にコーティングが剥がれていくために結露抑制効果は長続きせず、吸水ポリマーの吸水性能を超えた水分はそのままガラス表面に残り、ガラス表面をつたってレール部及び床面に落ちてたまってしまう。
【0011】
特許文献3の方法では、窓ガラス表面に発生する結露を抑制することはできず、また結露水の吸収能力を高めるために、吸収体の目付が180〜400g/mと大きく設定されているため、気泡部分を備えたシート同様に、窓ガラスの開閉する際に、一方の窓ガラスに取り付けた吸収体が他方の窓ガラス表面と接触することがあり、これによりシートが剥がれてしまうことがある。また、このような吸収体をレール部に取り付けた場合には吸収体の厚みが厚いことから取り付けたままで窓ガラスサッシを動かすことができず、窓ガラスの開閉自体ができなくなるおそれがある。
【0012】
このため、意匠性及び窓ガラス本体の機能を損なうことなく、結露の発生を効果的に抑制する方法が求められているが、そのような方法は未だ開発されるに至っていないのが現状である。
【0013】
よって、本発明の主な目的は、被取付体の意匠性及び機能を大きく損なうことなく、結露の発生を効果的に抑制することができる結露抑制シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の層構成を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の結露抑制シートに係る。
1. 結露が発生し得る面に取り付けるためのシートであって、
(1)前記シートは、基材フィルム及びその表面の一部又は全部に形成された撥水層を含み、(2)前記撥水層は、一次粒子平均径3〜100nmの疎水性微粒子を含み、
(3)結露が発生し得る面に前記基材フィルムの裏面が当接するように前記シートを取り付ける、
ことを特徴とする結露抑制シート。
2. 疎水性微粒子が三次元網目構造を有する多孔質層を形成している、前記項1に記載の結露抑制シート。
3. 光透過性を有する、前記項1に記載の結露抑制シート。
4. 結露が発生し得る面が窓ガラスの室内側の面を含む、前記項1に記載の結露抑制シート。
5. 窓ガラス及びそれを保持する枠体に用いるキットであって、
(1)窓ガラスの室内側の面に取り付けるための前記項1に記載の結露抑制シート及び
(2)枠体の室内側の面に取り付けるための吸水性シート
を含むことを特徴とする結露抑制用キット。
6. 結露が発生し得る面においてその結露を抑制する方法であって、当該面に前記項1に記載の結露抑制シートを取り付ける工程を含むことを特徴とする結露抑制方法。
7. 結露が発生し得る面に前記項1に記載の結露抑制シートを取り付けられてなる製品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被取付体の意匠性及び機能を大幅に損なうことなく、結露の発生を効果的に抑制することができる結露抑制シートを提供することができる。すなわち、本発明の結露抑制シートは、厚みを比較的薄く、好ましくは良好な透明性をもって設計することができるので、窓ガラス等のような被取付体が本来有する意匠性・機能を実質的に維持しつつも、優れた結露抑制効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の結露抑制シートの基本層構成を示す図である。
図2】本発明の結露抑制シートを窓ガラスの室内側に取り付ける状態を示す図である。
図3】本発明のキット及びその取り付け例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.結露抑制シート
本発明の結露抑制シート(本発明シート)は、結露が発生し得る面に取り付けるためのシートであって、
(1)前記シートは、基材フィルム及びその表面の一部又は全部に形成された撥水層を含み、
(2)前記撥水層は、一次粒子平均径3〜100nmの疎水性微粒子を含み、
(3)結露が発生し得る面に前記基材フィルムの裏面が当接するように前記シートを取り付ける、
ことを特徴とする。
【0019】
図1に本発明シートの基本構成(層構成)を示す。本発明シート10は、基材フィルム11の表面(上面)の少なくとも一部に撥水層12が形成されている。本発明シートの取り付け物品である被取付体において、結露が発生し得る面(被処理面)として窓ガラスの室内側の面に本発明シートを取り付ける状態を図2に示す。窓ガラス20の室内側の面に本発明シートの基材フィルム11(本発明シートの下面)が当接するように本発明シート10を取り付ける。すなわち、撥水層12が最外面として露出するように本発明シート10を取り付ける。このように取り付けることにより、窓ガラスの室内側の面が撥水層12で覆われることになるが、撥水層12上では結露が発生しないか又は発生しにくくなるので、結果として窓ガラス面での結露を抑制ないしは防止することができる。このように、本発明シートでは、その撥水層12がいわば結露抑制層として機能する。
【0020】
図2では、処理面と基材フィルムとが隙間なく密着しているが、本発明の効果を妨げない範囲内において隙間があっても良い。
【0021】
なお、図2では図示されていないが、本発明シートの取り付けは粘着テープ(粘着剤)、磁石等の公知の固定手段を採用することができる。この場合、固定手段は、本発明シート全面にわたって設けても良いし、あるいは本発明シートの一部(例えば四隅)に設けても良い(例えば図3(b)など参照)。
【0022】
本発明シートは、比較的薄く、例えば総厚みを25〜110μm程度に設定することができる。これにより、被取付体が本来有する意匠性・機能をより効果的に保持することができる。
【0023】
以下において、本発明シートの基本構成をなす基材フィルム、撥水層等についてそれぞれ詳細に説明する。
【0024】
基材フィルム
基材フィルムは、フィルム状の形態を有するものであれば特に限定されず、取り付けられる場所等に応じて適宜選択することができる。例えば、合成樹脂、ゴム、金属等のいずれであっても良いが、特に合成樹脂を好適に用いることができる。合成樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0025】
本発明において、特に、処理面が窓ガラスのように透明性が求められる場合は、透明性を有する基材フィルム(特に合成樹脂フィルム)を用いることが好ましい。
【0026】
基材フィルムは、単一の層からなるフィルムのほか、互いに同種又は異種のフィルムを積層してなる積層シート、フィルムに金属蒸着層を形成している複合シート等のいずれも採用することができる。
【0027】
基材フィルムの厚みは特に限定されず、適宜設定すれば良いが、通常は25〜100μm程度とすれば良く、特に38〜75μmとすることが好ましい。この範囲内であれば、本発明シートのコシが維持できる一方、比較的軽量であるので取り付けが容易であるという点で有利である。
【0028】
撥水層
撥水層は、基材フィルムの表面(上面)の少なくとも一部に形成される。すなわち、撥水層は、上記の通り、基材フィルムの表面の全面に形成されていても良いし、一部にのみに形成されていても良い。ただし、基材フィルムの表面の全面に形成されている方が、本発明シート全体としての結露抑制効果が向上するので好ましい。
【0029】
一方、撥水層が基材フィルムの表面の一部に形成されている場合においては、例えば、基材フィルムの撥水層が形成された面の一部に後述の吸水シートを重ねて貼るために、基材フィルムの吸水シートを貼る領域に撥水層を形成していない領域を設けることもできる。なお、本発明シートにおいては、必要に応じて撥水層が基材フィルムの両面に形成されていても良い。
【0030】
撥水層の構成としては、一次粒子平均径3〜100nmの疎水性微粒子を含む。疎水性微粒子が撥水層の撥水性を発揮するための有効成分となる。
【0031】
疎水性微粒子は、疎水性微粒子それ自体の力により基材に付着していても良いし、接着層を介して基材フィルムに付着していても良い。疎水性微粒子は、一次粒子が含まれていても良いが、その凝集体(二次粒子)が多く含まれていることが望ましい。特に、疎水性微粒子が三次元網目状構造からなる多孔質層を含むことがより好ましい。すなわち、基材フィルムの他方の面には疎水性微粒子により形成された三次元網目状構造からなる多孔質層が積層されていることが好ましい。
【0032】
撥水層の厚みは、所望の結露抑制性能等に応じて適宜設定できるが、通常は0.1〜5μm程度とし、特に0.2〜2.5μm程度とすることが好ましい。
【0033】
また、本発明の結露抑制シートにおいて、撥水層と純水との接触角が140°以上であることが好ましく、150°以上がより好ましく、さらには160°以上であることがより好ましい。接触角が140°以上であれば撥水性が高くなり、その結果としてより優れた結露抑制効果を備えることとなる。なお、接触角の上限は特に限定されないが通常175°程度とすれば良い。
【0034】
撥水層を構成する疎水性微粒子は、一次粒子平均径が通常3〜100nmであり、好ましくは5〜50nmであり、より好ましくは5〜20nmである。一次粒子平均径を上記範囲とすることにより、疎水性微粒子が適度な凝集状態となり、その凝集体中にある空隙に空気等の気体を保持することができ、撥水性が高くなり、その結果、優れた結露抑制効果を備えることとなる。なお、本発明において、一次粒子平均径の測定は、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で実施することができ、走査型電子顕微鏡の分解能が低い場合には透過型電子顕微鏡等の他の電子顕微鏡を併用して実施しても良い。具体的には、粒子形状が球状の場合はその直径、非球状の場合はその最長径と最短径との平均値を直径とみなし、走査型電子顕微鏡等による観察により任意に選んだ20個分の粒子の直径の平均を一次粒子平均径とする。
【0035】
疎水性微粒子の比表面積(BET法)は特に制限されないが、通常50〜300m/gとし、特に100〜300m/gとすることが好ましい。
【0036】
疎水性微粒子としては、疎水性を有するものであれば特に限定されず、種々の粒子表面が表面処理により疎水化されたものであっても良い。従って、親水性を有する微粒子であっても、シランカップリング剤等で表面処理を施し、表面状態を疎水性とした場合には疎水性微粒子として用いることもできる。
【0037】
例えば、ポリフルオロアクリルメタクリレート樹脂のようにフッ素を含有する樹脂粒子、金属酸化物粒子、表面処理により疎水化された金属粒子等が挙げられる。その中でも、入手の容易さ、取扱いのし易さ等から金属酸化物粒子を用いることが好ましい。
【0038】
金属酸化物粒子は、その表面が疎水性を有するものであれば限定的でなく、例えば酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛等の粒子(粉末)の少なくとも1種を好適に用いることができる。本発明では、特に酸化ケイ素粒子、酸化チタン粒子及び酸化アルミニウム粒子の少なくとも1種が好ましい。これら金属酸化物粒子そのものは公知又は市販のものを使用することもできる。例えば、シリカとしては、製品名「AEROSIL R972」、「AEROSIL R972V」、「AEROSIL R972CF」、「AEROSIL R974」、「AEROSIL RX200」、「AEROSIL RY200」(以上、日本アエロジル株式会社製)、「AEROSIL R202」、「AEROSIL R805」、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」、(以上、エボニック デグサ社製)等が挙げられる。チタニアとしては、製品名「AEROXIDE TiO T805」(エボニック デグサ社製)等が例示できる。アルミナとしては、製品名「AEROXIDE Alu C」(エボニック デグサ社製)等をシランカップリング剤で処理して粒子表面を疎水性とした微粒子が例示できる。
【0039】
これらの中でも、疎水性の酸化ケイ素微粒子を好適に用いることができる。とりわけ、より優れた撥水性が得られるという点において、表面にトリメチルシリル基を有する疎水性の酸化ケイ素微粒子が好ましい。これに対応する市販品としては、例えば前記「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」(いずれもエボニック デグサ社製)等が挙げられる。
【0040】
撥水層に含有させる疎水性微粒子の付着量(乾燥後重量)は限定的ではないが、通常0.01〜10g/mとするのが好ましく、0.2〜3g/mとするのがより好ましく、0.3〜1g/mとするのが最も好ましい。上記範囲内に設定することによって、より優れた撥水性が長期にわたって得ることができる上、疎水性微粒子の脱落抑制、コスト等の点でもいっそう有利となる。
【0041】
撥水層に付着した疎水性微粒子は、三次元網目構造を有する多孔質層を形成していることが好ましく、その厚みは0.1〜5μm程度が好ましく、0.2〜2.5μm程度がさらに好ましい。このようなポーラスな層状態で付着することにより、当該層に空気を多く含むことができる結果、撥水性が高くなり、それにより優れた結露抑制効果を発揮することができる。
【0042】
疎水性微粒子を基材フィルム表面に直接形成する方法は特に限定されない。ロールコーティング、グラビアコーティング、バーコート、ドクターブレードコーティング、ディッピング、刷毛塗り、スプレー塗装、粉体静電塗装法等の公知の方法を採用することができる。基材フィルムへの粘着層の形成後に必要に応じて乾燥工程を行っても良い。また、基材フィルムへの形成に際し、疎水性微粒子を溶媒に分散した分散体を用いて基材フィルム表面に形成しても良い。この場合の溶媒は特に限定されず、水のほか、親水性溶媒、疎水性溶媒等の有機溶媒を使用することができる。有機溶媒としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチルジグリコール、ペンタメチルグリコール等のグリコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、シクロヘキサン等の脂環族系炭化水素、n−ヘキサン等のアルカン、トルエン、ベンゼン等の芳香族系炭化水素が使用できる。
【0043】
接着層を介して疎水性微粒子を基材フィルム表面に付着させる場合、接着層としては、公知又は市販の接着剤を使用することができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂等の接着剤等を挙げることができる。より具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマ−樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマ−、ポリブテンポリマ−、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマ−ル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、その他の熱接着性樹脂のほか、これらのブレンド樹脂、これらを構成するモノマーの組合せを含む共重合体、変性樹脂等を用いることができる。
【0044】
また、ポリウレタン、ポリイソシアネート・ポリエーテルポリオール、ポリイソシアネート・ポリアルキレンエーテル、ポリエチレンイミン、アルキルチタネート等のアンカーコート剤も使用することができる。
【0045】
基材フィルム表面に接着層として熱可塑性樹脂を形成し、この熱可塑性樹脂の表面を軟化させることにより、熱可塑性樹脂中に疎水性微粒子の一部又は全部を埋没させることによっても、基材フィルムに付着することもできる。また、基材フィルム表面に熱可塑性樹脂を溶融状態で塗布した後、冷却固化するまでに疎水性微粒子を付与すれば基材フィルム表面に疎水性微粒子をそのまま付着させることもできる。
【0046】
本発明では、いずれの態様においても、接着層(接着剤)において微量の分散剤、着色剤、沈降防止剤、粘度調整剤等を併用することもできる。
【0047】
このように、結露抑制シートは、基材フィルムの他方の面の少なくとも一部に疎水性微粒子を含む撥水層が形成されている。これにより、結露が発生しやすい窓ガラス等の被処理面に取り付けた場合には結露抑制シートの表面には結露が発生しないか、あるいは結露が発生しても非常に微細な水滴ができる程度に留まるため結露の量が微量であるため、優れた結露抑制効果を有する。このような構成とした場合に結露が抑制される理由は定かではないが、少なくとも以下のa)及びb)の2つの理由があると推察される。そして、本発明では、これらの複数の要因の相乗的に作用することにより、優れた結露抑制効果を備えることとなっていると推察される。
【0048】
a)撥水層は、一次粒子平均径3〜100nmの疎水性微粒子を含むため、疎水性微粒子が適度な凝集状態となり、その凝集体中にある空隙に空気等の気体を保持することができる。従って、本発明の結露抑制シートを窓ガラスに取り付けた場合には、前記の疎水性微粒子の凝集状態により保持される空気が断熱層として機能とするため、結露が発生しにくくなると推察される。
【0049】
b)結露が発生する場合には、結露が発生するガラス表面上には空気中の水分子がガラス表面上に付着し、近くに付着した水分子どうしが引っ付いて核となってこの核が徐々に大きな状態となることでやがて水滴して発生すると考えられる。これに対し、本発明シートの撥水層のように撥水性が高い表面上には水分子が付着し難い状態であるため、結露の発生源となる核が形成されにくくなっていると推察される。
【0050】
2.結露抑制シートの使用
本発明シートは、結露が発生し得る面であればいずれの箇所にも取り付けることができる。被取付体において結露が発生し得る面(被処理面)としては、例えば温度が低い場所又は湿度が高い場所のように結露が発生しやすい箇所・部位であれば特に限定されず、窓ガラス(サッシ含む)の室内側の面、玄関扉の室内側の面、浴室又は洗面室の壁面(側面、天井)、キッチンの壁面、トイレの壁面、押し入れ、タンス等の家具の背面又はその背面近傍の壁面等が例示される。本発明では、これらの面に本発明シートを取り付けてなる製品も包含される。このような製品としては、例えば窓ガラスの室内側の面に基材フィルムが当接するように本発明シートを取り付けて固定してなる窓ガラス製品等が代表例として挙げられる。
【0051】
本発明シートを被処理面に取り付ける方法は種々の方法が採用できる。例えば、a)結露抑制シートを構成する基材フィルムの撥水層が形成されている面とは他方の面に粘着層を予め形成しておき、この粘着層により取り付けるという方法、b)当該他方の面の一部に両面シートを貼り付けて結露抑制シートを取り付ける方法、c)粘着テープにより結露抑制シートの撥水層側の面から取り付ける方法、d)被処理面に磁石が使用できる場合は結露抑制シートの撥水層側の面から磁石にて取り付ける方法等が挙げられる。
【0052】
本発明において、被処理面が窓ガラスサッシである場合、前述の結露抑制シートと後述する吸水シートとを含む結露抑制用キットとして用いることにより、窓ガラスサッシの意匠性(外観)、開閉機能等を大きく損なうことなく、取り付けることができるとともに、結露の発生をより効果的に抑制することが可能となる。
【0053】
このようなキットとしては、例えばa)窓ガラス及びそれを保持する枠体からなる窓ガラスサッシ、b)窓ガラスサッシ及び枠体下側に設置されるレール部からなる構造体等に適用することができる。この場合、窓ガラスに対しては本発明シートが適用され、それ以外の部分には吸水シートが適用される。
【0054】
本発明の結露抑制用キットを構成する吸水シートは、枠体を断熱する効果を備えるとともに枠体に発生した結露を吸収する効果も備える。このように、本発明シートと吸水シートを併用することにより、結露の発生をより効果的に抑制することが可能となる。
【0055】
吸水シートとしては、特に結露(水滴)を吸収できる材料であれば特に限定されない。例えば、不織布、多孔質シート(スポンジ等)、吸水ポリマーシート等のいずれも採用することができる。その中でも、入手のし易さ、取扱いの容易さ、コスト等の点から不織布を用いることが好ましい。
【0056】
不織布としては、天然繊維、合成繊維又はこれらの混合物からなる不織布のいずれも使用することができる。不織布を構成する繊維の材質としては限定的ではなく、合成繊維であれば、例えばポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、レーヨン等のセルロース繊維等を用いることができる。
【0057】
また、不織布の目付けは限定的ではないが、特に目付50〜180g/mであることが好ましい。目付をこの範囲内に設定することによって、例えば吸水シートをレール部に取り付ける場合、レール部上を覆う吸水シートが非常に薄くできるため、吸水シートをレール部に取り付けた状態で窓ガラスサッシを開閉するためにレール部上を移動させたとしても窓ガラスサッシの意匠性、開閉機能等を損なうことなく、結露(水滴)を吸収することができる。
【0058】
本発明では、必要に応じて、吸水シートの表面又はその材質中に抗カビ剤、抗菌剤等を含有させても良い。また、吸水シートの片面にはポリエステル、ポリエチレン等のような樹脂フィルムのほか、金属箔等の非吸水性シートが積層されていても良い。さらに、吸水シートの表面には、切断位置や目盛りを示す線、文字、図柄等を適宜印刷しても良い。
【0059】
吸水シートを窓ガラスを保持する枠体あるいは当該枠下側に設置されるレール部に取り付けるために、吸水シートの一方の面に粘着層を形成していても良い。また、粘着層の形成に代えて、両面テープ等で貼り付けることもできる。
【0060】
本発明のキットは、上記のように本発明シートは窓ガラスの室内側の面、吸水シートは枠体及びレール部の室内側の面に取り付ければ良い。取り付ける方法自体は公知の手法によって実施すれば良い。例えば、窓ガラスサッシへ取り付ける場合、以下に述べる態様にて取り付けることができる。
【0061】
窓ガラスサッシは、窓ガラスと窓ガラスを保持する枠体とから構成されているが、まず枠体以外の窓ガラスには前述の結露抑制シートを取り付ける。そして、枠体には、吸水シートを取り付ける。また、吸水シートは、枠体のみならず、窓ガラスサッシ下側に設置されているレール部にも取り付けても良い。吸水シートのレール部への取り付けは、レール部の凹部の底面及び側面のいずれであっても良い。
【0062】
窓ガラスに結露抑制シートを取り付けることで結露を抑制するという効果を備えることは前述のとおりであるが、本発明においては、吸水シートを前記枠体に取り付けることにより窓ガラスサッシ全体に発生する結露の量をさらに抑制することが可能となる。
【0063】
通常、窓ガラスを保持する枠体は、アルミニウム製等の金属で構成されるものが多い。枠体が金属製の場合、枠体は窓ガラスよりも熱伝導性が高いため、温度変化の影響をより受けやすく、結露が窓ガラス部分よりも発生しやすい。これに対し、枠体に吸水シートを取り付けると吸水シートの断熱効果により枠体表面も結露が発生し難くなる。また、窓ガラスサッシに何も取り付けていない状態では、単位面積当たりの結露発生量はガラスよりも枠体の方が多くなる傾向にあるが、ガラスも枠体周辺部分は中央部分と比較して結露の発生量が多い傾向である。この理由は、定かではないが、おそらく枠体周辺のガラスは枠体を構成する金属の影響により中央部分のガラスよりも温度変化をより受けやすく、そのため、結露がより発生しやすくなっているものと推察される。この場合、本発明キットによって枠体に吸水シートを取り付けて覆うことにより、その断熱効果により枠体自身に結露が発生し難くなるとともに、枠体周辺のガラスも温度変化が抑えられるため、結露の発生が抑制される。これらの相乗的な作用により、窓ガラスサッシ全体の結露をより効果的に抑制することができると推察される。
【実施例】
【0064】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0065】
実施例1
本発明の結露抑制シート及び吸水シートをそれぞれ以下のようにして作製し、本発明に係るキットを得た。
(1)結露抑制シートの作製
基材フィルムとして厚さ38μmのポリエステルフィルム(以下、「PETフィルム」という)を準備した。次いで、このPETフィルムの片面に撥水層を形成した。
まず、PETフィルムの片面に熱可塑性樹脂溶液(主成分:ポリエステル系樹脂160重量部+アクリル系樹脂10重量部+溶剤(トルエン+MEKの混合溶剤)40重量部)を乾燥後重量約3g/mとなるように塗布乾燥(乾燥条件は150℃、10秒)して熱可塑性樹脂層を形成した。
次いで、疎水性微粒子として製品名「AEROSIL R812S」(エボニックデグサ社製、BET比表面積:220m/g、一次粒子平均径:7nm)5gをエタノール100mLに分散させてコート液を調整した。このコート液を前記熱可塑性樹脂層の表面に乾燥後重量で0.11〜0.4g/mになるようにバーコート方式で付与した後、100℃で10秒程度かけて乾燥させてエタノールを蒸発させた。これによりPETフィルムの片面に撥水層を形成した。このようにして本発明シートを得た。
【0066】
(2)吸水シートの作製
目付100g/mの不織布(材質:レーヨン製)を準備し、この不織布を厚み15μmのポリエチレンフィルムの片面に押し出しラミネートにて積層した。不織布の他方の面には、絵柄を印刷した後に色落ち防止のオーバーコート(抗菌剤を配合した塗工液(東和合成株式会社製「ノバロンVZF200」 溶剤に対し7重量%)を全面コーティングした後、100℃で1分間乾燥した。粘着加工用の離型紙のシリコン樹脂が形成された表面に、アクリル系樹脂からなる粘着剤溶液を乾燥後の層厚みが24〜45μmになるようコーター機で塗工した。その後、粘着剤溶液が塗工された離型紙を乾燥し、片面に粘着層が形成された粘着層付離型紙を得た。次いで、ポリエチレンフィルムの不織布が積層されている面とは反対側の面と、上記で作製した粘着層付離型紙の粘着層側の面とを貼り合わせることによって吸水シートを作製した。
【0067】
比較例1
基材フィルムとして撥水層のない厚さ38μmのPETフィルムを使用し、比較例1のシートを準備した。また、吸水シートとして、目付180g/mの不織布を使用した以外は、実施例1で作製した吸水シートと同様にして比較例1の吸水シートを作製した。
【0068】
試験例1
実施例及び比較例について、以下に示すような試験をそれぞれ行った。その結果を表1にそれぞれ示す。
【0069】
(1)結露試験
実施例及び比較例についてそれぞれ結露試験を実施した。外気温度が0〜5℃で、室内温度が20±2℃であり湿度65±5%の条件で8時間に維持された室内にて図3(a)に示すように、引き違いタイプの窓ガラスサッシ30a,30b(高さ190cm、幅100cmの枠体に、高さ180cm、幅90cmの窓ガラスがはめ込まれたもの2枚で構成)への結露の発生具合を観察した。
本試験例では、図3(b)に示すように、実施例1の結露抑制シート10(高さ180cm、幅90cm)及び吸水シート31を準備し、図3(c)のように窓ガラスサッシの室内側の面へ貼り付けた。また、図示しないレール部にも吸水シートを貼り付けた。なお、結露抑制シート10の窓ガラスへの貼り付けは、結露抑制シート10の四隅に市販の両面テープ32(窓ガラス1枚当たり合計6箇所)を貼り付けることにより実施した。
また、比較のため、実施例1の結露抑制シートに代えて、同形状の比較例1のシート及び吸水シートを用いた以外は、実施例1と同様にして窓サッシの室内側及びレール部へシート及び吸水シートを貼り付けた。
なお、窓ガラスサッシ及びレール部のいずれの箇所に何も貼り付けなかったものを比較例2とした(以下の試験も同じ。)。
これらの実施例・比較例について、窓ガラス表面に目に見える結露が発生しなかった場合は「○」、目に見える結露は発生しているが比較例2に比して少ない場合は「△」、結露が発生している場合は「×」とした。
【0070】
(2)装着性試験
窓ガラスサッシ及びレール部への結露吸水シートの装着性を調べた。前記(1)において、結露吸水シート及び吸水シートを貼り付けた場合の装着性を評価した。装着面から浮き等の支障がなく装着できた場合は「○」、若干の浮きが発生した場合は「△」、大きな浮きが発生した場合は「×」と評価した。
【0071】
(3)装着後の窓サッシの開閉機能試験
結露抑制シート及び吸水シートを装着した後の窓ガラスサッシの開閉の支障があるか否かを評価した。開閉が問題なくできる場合は「○」、若干の引っ掛かりはあるが開閉ができる場合は「△」、引っ掛かり開閉できない場合は「×」と評価した。
【0072】
(4)撥水性(純水との接触角)
実施例1及び比較例1のシートについて、各シート表面の純水との接触角(25℃)を測定した。各シートの窓ガラス面に取り付ける面とは反対側の表面を試験面とし、接触角測定装置(固液界面解析装置「Drop Master300」協和界面科学株式会社製)を用いて純水(約2〜4μl)の接触角を測定した。測定結果は、N数を5回とし、その接触角の平均値とした。
【0073】
【表1】
【0074】
表1の結果からも明かなように、本発明によれば、意匠性及び窓ガラス本体の機能を損なうことなく、結露の発生を効果的に抑制することができることがわかる。
図1
図2
図3