特許第6887237号(P6887237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887237
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】鉄道車両構体
(51)【国際特許分類】
   B61D 17/08 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
   B61D17/08
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-216048(P2016-216048)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-70093(P2018-70093A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 庸介
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 誠
(72)【発明者】
【氏名】湊 隆治
(72)【発明者】
【氏名】流川 博光
(72)【発明者】
【氏名】中村 英之
(72)【発明者】
【氏名】古川 尚史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 永次
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭平
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−249124(JP,A)
【文献】 特開2011−143808(JP,A)
【文献】 特開2013−256214(JP,A)
【文献】 特開2003−276596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の全長に渡って押出成形された複数の中空押出形材からなる側構体を備える鉄道車両構体において、
前記複数の中空押出形材の内の、前記側構体の高さ方向の下部の腰部に備えられる中空押出形材(以下、「腰部中空押出形材」と称する)は、車外側の第1面板と、車内側の第2面板と、前記第1面板と前記第2面板とを接続する複数の第1リブと、前記第2面板よりも車内側に配置した第3面板と、前記第2面板と前記第3面板とを接続する複数の第2リブとを備えており、
前記側構体の長手方向に沿って可動する側引戸の可動範囲において、前記第3面板と前記第2リブが切除されていて、
前記腰部中空押出形材の高さ方向の下部の厚さ寸法は、前記複数の中空押出形材の内の、前記側引戸の高さ方向の上端部と干渉しない部分を含む中空押出形材の高さ方向の下部から、前腰部中空押出形材の高さ方向の上部に至る範囲にある、前記複数の中空押出形材の内の、中空押出形材(以下、「中間中空押出形材」と称する)の厚さ寸法よりも大きく、
前記第2面板、前記第1リブおよび前記第2リブと接続する点と、前記第1面板との距離は、前記中間中空押出形材の厚さ寸法よりも小さい
ことを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両構体において、
前記第3面板及び前記第2リブは、いずれも前記腰部中空押出形材の高さ方向下部に形成されていることを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鉄道車両構体において、
前記側引戸の上端部と干渉しない部分を含む中空押出形材の高さ方向の上さ寸法は、前記中間中空押出形材のさ寸法よりも大きいことを特徴とする鉄道車両構体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速鉄道の車両構体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車内音の低減による高品質化や部品点数の削減による低コスト化を目的として、アルミニウム合金製の中空押出形材で、高速鉄道車両構体(以下、「構体」とも記載する。)を製造する場合がある。中空押出形材は、例えば、対向する2枚の面板とこれら面板を接続する接続板からなるアルミニウム合金製の部材である。
【0003】
そして、定盤上に並べた複数の中空押出形材を突き合わせて長手方向に接合し、構体の床面をなす台枠、側面をなす側構体、屋根をなす屋根構体等のパネルを製造した後、これらパネルを6面体に組み立てて接合することによって構体が製造される。
特許文献1には、上記のような中空押出形材を用いて構体を構成する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−130872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、高速鉄道車両の構体は気密性の高い構体(以下、「気密構体」とも記載する。)のため、高速走行時のトンネル通過に伴う車外圧力変動に起因する気密荷重によって、側構体や屋根構体等が面外方向に変形する。
側構体の気密荷重に起因する曲げモーメントによる変形を抑制するためには、側構体の上端部と屋根構体の結合部(以下、「軒部」とも記載する。)および側構体の下端部と台枠の結合部(以下、「腰部」とも記載する。)の中空押出形材の高さ(厚さ)寸法を大きくすることが効果的である。
【0006】
高速鉄道車両の構体を構成する側構体は、レール方向の中央部の客室(一般)ブロックと、レール方向の両端部に備えられるとともに乗客等の乗降に供される側引戸を含む側出入口ブロックから構成される。
客室ブロックは、対向する2枚の面板からなる複数の中空押出形材から構成されており、側構体の軒部および腰部に接続する厚さを大きくするとともに側構体の高さ方向の中央部(窓近辺)の厚さを小さくして軽量化と客室空間(特に、枕木方向の寸法)の拡大を促進していた。側出入口ブロックは、側引戸と側引戸が収納される戸袋部と含めた厚さ寸法が大きくならないことと、気密荷重に抗する強度を備えるために、厚さが小さい平板状の押出形材と、この平板状の押出形材を補強する複数の補強部材から構成される。
【0007】
従来の側出入口ブロックは、部品点数が大きいことに加えて、溶接量も多いため品質管理が難しいだけでなく製作工数も大きくなる傾向があった。さらに、側出入口ブロックを客室ブロックの長手方向の両端部に接続する工数も発生するため、側構体全体の製作に要する工数が大きくなりやすい課題があった。
【0008】
本発明の目的は、気密荷重に起因する側構体の変形を抑制しつつ、側構体を一つのブロックとして構成し、側構体の製造コストを低減することができる鉄道車両構体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明による鉄道車両構体の一つは、長手方向の全長に渡って押出成形された複数の中空押出形材からなる側構体を備える鉄道車両構体において、側構体の高さ方向の下部の腰部に備えられる中空押出形材は、車外側の第1面板と、車内側の第2面板と、第1面板と第2面板とを接続する複数の第1リブと、第2面板よりも車内側に配置した第3面板と、第2面板と第3面板とを接続する複数の第2リブとを備えた中空押出形材で構成され、側構体の長手方向に沿って可動する側引戸の可動範囲において、第3面板と第2リブが切除されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、気密荷重に起因する側構体の変形を抑制しつつ、側構体を一つのブロックとして構成し、側構体の製造コストを低減することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明によりあきらかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、鉄道車両構体の部分断面の斜視図である。
図2図2は、鉄道車両構体の部分断面図である。
図3図3は、鉄道車両構体をなす側構体の客室(一般)ブロックにおける腰部の部分断面図(図1A−A断面図、図2詳細A)である。
図4図4は、鉄道車両構体をなす側構体の側引戸の可動範囲における腰部の部分断面図(図1B−B断面図、図2詳細A)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
まず、以下の説明に供する鉄道車両構体に関係する各方向を、鉄道車両構体1(以下、構体1と記す)の長手方向(レール方向)をX方向、構体1の幅方向(枕木方向)をY方向、これらX方向およびY方向に交差する構体1の高さ方向をZ方向と定義する。以下、単にX方向、Y方向、Z方向と記載する。
【0013】
図1は、鉄道車両構体の部分断面の斜視図である。ここで、図1に示す構体1は、中心線(一点鎖線)を含むX方向に沿う垂直面に関して対称であるため、当該垂直面に対して一方のみを示す。
【0014】
構体1は、床面をなす台枠40と、台枠40のY方向の端部に立設される側構体30と、側構体30の上端部に載置される屋根構体20などを備える。
台枠40は、Y方向の両端部にX方向に沿って備えられる一対の側梁410同士をY方向に接続するとともにX方向に沿って離散的に備えられる複数の横梁430と、横梁430の上面に固定されるとともに側梁410に接続され、X方向に交差する断面形状がT字状の複数のリブを備える平板状の押出形材420から構成される。
【0015】
屋根構体20は、対向する2枚の面板とこれら面板を接続する複数の接続板からなる中空押出形材210、220、230、240からなる。
これら中空押出形材は、アルミニウム合金製であり、X方向に沿って押出成形されている。
【0016】
屋根構体20は、中空押出形材210〜240のY方向の端部を突き合わせて、溶融溶接(または、摩擦撹拌接合)Wで接合して製作される。
屋根構体20のY方向の端部に備えられる中空押出形材240は、側構体30のZ方向の端部に備えられる中空押出形材300に溶融溶接(または、摩擦撹拌接合)Wで接合される。
【0017】
側構体30は、対向する2枚の面板とこれら面板を接続する複数の接続板からなるとともに側構体30の全長(X方向の一方の端部から他方の端部に至る範囲)に渡って配設される中空押出形材300、310、320、330、340、350、360から構成される。
これら中空押出形材の材質および押出方向は屋根構体20に供される中空押出形材のそれらと同様である。
側構体30は、中空押出形材300〜360のZ方向の端部を突き合わせて、溶融溶接(または、摩擦撹拌接合)Wで接合して製作される。
側構体30のZ方向の上端部に備えられる中空押出形材300は屋根構体20のY方向の端部の中空押出形材240に接続され、側構体30のZ方向の下端部に備えられる中空押出形材360は、台枠40をなす側梁410に接合される。
側引戸60は、側構体30に備えられる出入口フレーム50を含む側引戸可動範囲90においてX方向に沿って可動する。
【0018】
図2は、鉄道車両構体の断面図である。ここで、図2に示す構体1は、中心線を含むX方向に沿う垂直面に関して対称であるため、当該垂直面に対して一方のみを示す。
側引戸60は、中空押出形材310〜360の車内側の面板よりも車内側に配置されている。側構体30のZ方向の上部に配設される中空押出形材310のZ方向下部91aから側構体30のZ方向の下部に配設される中空押出形材360のZ方向上部91cに至る範囲において,中空押出形材の高さ(厚さ)寸法92aは同一である。前述した側構体30のZ方向の範囲(中空押出形材310の下部91aから中空押出形材360の上部91cに至る範囲を、「中空押出形材350等」と記載する。)の車内側の面板と側引戸の車外側の面板との間には、開閉動作中の側引戸60のY方向の変位を考慮し、隙間寸法92bが設けられている。
【0019】
側引戸60の上端部と干渉しない中空押出形材310のZ方向上部91bの高さ(厚さ)寸法92cは、中空押出形材350等の高さ(厚さ)寸法92aよりも大きく設定されている。これにより、側構体30のZ方向の上端部の軒部(中空押出形材300)に接続する側構体30のZ方向の上部(中空押出形材310)の断面二次モーメントが向上するので、気密荷重に対する剛性を高めることができる。
【0020】
図3は、鉄道車両構体をなす側構体の客室(一般)ブロックにおける中空押出形材360の部分断面図である。(図1におけるA−A断面図、図2における詳細A)
図3に示すように、中空押出形材360は、車外側の第1面板31aと、車内側の第2面板31bと、第1面板31aと第2面板31bとを接続する複数の第1リブ31cを有するZ方向上部91cと、第1面板31aと第2面板31bと第1リブ31cに加えて、第2面板31bよりも車内側に配置される第3面板31dと、第2面板31bと第3面板31dとを接続する複数の第2リブ31eをさらに備えるZ方向下部91dから構成される。
【0021】
中空押出形材360のZ方向上部91cの中空押出形材の高さ(厚さ)寸法92aは、中空押出形材350等の高さ(厚さ)寸法と同一である。
一方、中空押出形材360のZ方向下部91dの中空押出形材の高さ(厚さ)寸法92dは、中空押出形材350等の高さ(厚さ)寸法92aよりも大きくなるように形成される。これにより、気密荷重負荷時に曲げモーメントが支配的に作用する側構体30の下端部の腰部(中空押出形材360)において、断面二次モーメントが向上させることができ、気密荷重に対する所定の剛性を備えることができる。
【0022】
また、第2面板31b、第1リブ31cおよび第2リブ31eと接続するB点と、第1面板31aとの距離(Y方向寸法)92eは中空押出形材350等の高さ(厚さ)寸法92aよりも小さく設定している。この構成によって、第3面板31dと第2リブ31eと第2面板31bとによって囲まれる中空部C部の断面積を十分大きくして押出成形時の押出性を確保することができるので、中空押出形材360のZ方向下部91dを3枚の面板を持った中空押出形材として製作することができる。なお、中空部C部の断面積は、中空押出形材360が製作(押出成形)可能であれば良い。そのため、距離(Y方向寸法)92eは中空押出形材350等の高さ(厚さ)寸法92aと同一の寸法でも良い。
【0023】
図4は、側引戸可動範囲90における中空押出形材360の部分断面図(図1におけるB−B断面図、図2における詳細A)である。
図4に示すように、側引戸可動範囲90において、中空押出形材360のZ方向下部91dの第3面板31dと、第2面板と第3面板とを接続する複数の第2リブ31eを機械加工等により削り落とし、切除した状態としている(図3参照)。
【0024】
これにより、側引戸可動範囲90において、中空押出形材360のZ方向下部91dと側引戸60の下端部の干渉を回避できるとともに、第1面板31a、第2面板31b及び第1リブ31cからなる中空形状(第1面板31aと第2面板31bとこれら面板を接続する第1リブ31cからなる中空押出形材)を維持できるので、気密荷重に対する所定の剛性を備えることができる。
以上の構成により、図1に示すように、側出入口ブロックと客室(一般)ブロックの2種類のブロックを接続して構成することなく、側構体30を主にX方向の一方の端部から他方の端部に至る中空押出形材300〜360で形成される1つのブロックによって構成することができる。
その結果、側構体30をX方向の一方の端部から他方の端部に向けて押出成形された中空押出形材300〜360によって構成するとともに、側引戸60の可動範囲に位置する中空押出形材360の第3面板31および第2リブ31eを取り除くだけで製造することができるため、気密荷重に耐えうる十分な強度(剛性)を備えるとともに、製造コストが小さい鉄道車両構体を提供することができる。
【0025】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、実施例の構成の一部を他の構成に置き換えることも可能である。更に、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0026】
例えば、中空押出形材の寸法やリブの数、構造などは適宜変更しうるものである。また、実施例では、側引戸を側構体の長手方向の両端部に2箇所設置した例を説明したが、側引戸が設置される個所、それらの可動範囲についは様々な変形例が含まれうることは当然である。
さらに、本発明は、高速鉄道車両に限らず、軌条車両全般にも適用できることも当然である。
【符号の説明】
【0027】
1…鉄道車両構体
20…屋根構体
30…側構体
31a…第1面板
31b…第2面板
31c…第1リブ
31d…第3面板
31e…第2リブ
40…台枠
50…出入口フレーム
60…側引戸
90…側引戸可動範囲
91a…中空押出形材310のZ方向下部
91b…中空押出形材310のZ方向上部
91c…中空押出形材360のZ方向上部
91d…中空押出形材360のZ方向下部
92a、92b、92c、92d、92e…中空押出形材の高さ(厚さ)寸法
210、220、230、240…中空押出形材
300、310、320、330、340、350、360…中空押出形材
410…側梁
420…押出形材
430…横梁
図1
図2
図3
図4