特許第6887268号(P6887268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6887268荷電粒子加速装置、荷電粒子銃、および荷電粒子を加速する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887268
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】荷電粒子加速装置、荷電粒子銃、および荷電粒子を加速する方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 15/00 20060101AFI20210603BHJP
   H01J 37/06 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   H05H15/00
   H01J37/06 Z
【請求項の数】20
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-45941(P2017-45941)
(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公開番号】特開2017-162813(P2017-162813A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2020年1月10日
(31)【優先権主張番号】16000590.6
(32)【優先日】2016年3月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517099270
【氏名又は名称】ドイチェス エレクトローネン−シンクロトロン デズィ
【氏名又は名称原語表記】Deutsches Elektronen−Synchrotron DESY
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 光治
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】アーヤ ファラーヒ
(72)【発明者】
【氏名】フランツ クサヴェル ケルトナー
【審査官】 中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−238435(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0145404(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第2003−0012781(KR,A)
【文献】 Loyd-Hughes J.,Coupling terahertz radiation between sub-wavelength metal-metal waveguides and free space using monolithically integrated horn antennae,OPTICS EXPRESS,米国,OSA,2009年 9月25日,VOL.17, No.20,pp. 18387-18393
【文献】 Nanni E.A. et al.,Terahertz-driven linear electron acceleration,nature COMMUNICATIONS,英国,Nature,2015年10月 6日,DOI:10.1038/ncomms9486
【文献】 Shutler A.J. et al.,Gap independent coupling into parallel plate terahertz waveguides using cylindrical horn antennas,Journal of Applied Physics,米国,American Institute of Physic,2012年10月 1日,112, 073102,pp. 1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 15/00
H01J 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子(2)をパルス状放射で加速するよう構成された加速装置(100)であって、
− 入力開孔(12)、導電性壁部(13)および出力開孔(14)を有し、かつ前記パルス状放射を前記入力開孔(12)で受け取って前記パルス状放射を前記出力開孔(14)に向けて縦ビーム方向に沿って集束させるよう構成された、少なくとも1つのホーン型結合器(11、15)、を備えるホーン状結合装置(10)と、
− 前記少なくとも1つのホーン型結合器(11、15)の前記出力開孔(14)に結合され、前記集束されたパルス状放射を受け取るよう構成された、導波路デバイス(20)と、
を含み、
− 前記導波路デバイス(20)は、一束の荷電粒子(2)を供給するよう、および前記パルス状放射によって前記荷電粒子(2)を加速させるよう構成された注入部(21)を含み、
− 前記導波路デバイス(20)は、前記加速された荷電粒子(2)を粒子加速方向に沿って放出するよう前記注入部(21)に配置された側方出力ポート(23)を含み、
特徴として、
− 前記少なくとも1つのホーン型結合器(11、15)は、広帯域周波数スペクトルを含み直線偏光された平面波として整形された直線偏光された単一サイクル・パルス(1)を受け取り、前記直線偏光された単一サイクル・パルス(1)を集束させるよう、適合化され、
− 前記導波路デバイス(20)は非共振広帯域透過特性を有するものである、
加速装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのホーン型結合器(11、15)は、入力開孔サイズと、縦の長さと、ホーン角度と、前記単一サイクル・パルス(1)を集束させるよう適合化された出力開孔サイズとを有し、
前記ホーン型結合器(11、15)の前記入力開孔(12)は、前記パルス状放射の中心波長より長い辺長を有する長方形状を有し、前記ホーン型結合器(11、15)の前記出力開孔は、前記パルス状放射の中心波長の半分の辺長を有する長方形状を有し、前記壁部(13)は、入来する前記パルス状放射の全角度拡がりに近似するホーン角度を有するものである、
請求項1に記載の加速装置。
【請求項3】
前記導波路デバイス(20)は、前記少なくとも1つのホーン型結合器(11、15)の前記出力開孔と前記注入部(21)の間に伸びるパルス案内部(24)を有し、
前記パルス案内部(24)は、
− 前記パルス案内部(24)が、前記パルス状放射の中心波長の一部分に等しくなるよう選択された長さ(L)を有する、
− 前記パルス案内部(24)および前記注入部(21)が、前記単一サイクル・パルス(1)の減速サイクル区間の到達前に前記荷電粒子(2)が前記注入部(21)から脱出することができるように選択された断面寸法(d)を有する、および
− 前記パルス案内部(24)が誘電材料を少なくとも部分的に含む内部空間を有する、
という特徴の中の少なくとも1つの特徴を有するものである、
請求項1または2に記載の加速装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つのホーン型結合器(11、15)は、前記縦ビーム方向に垂直で前記粒子加速方向に平行な第1の集束方向に従って前記直線偏光された単一サイクル・パルス(1)を集束するよう適合化されているものである、請求項1乃至3のいずれかに記載の加速装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つのホーン型結合器(11、15)は、前記第1の集束方向および前記縦ビーム方向に垂直な第2の集束方向に従って前記単一サイクル・パルスを追加的に集束するよう適合化されているものである、請求項4に記載の加速装置。
【請求項6】
前記導波路デバイス(20)の内部空間は、前記直線偏光された単一サイクル・パルス(1)の波面を、前記粒子加速方向に沿って加速された前記荷電粒子(2)の移動に整合させるよう構成された波面整形構造体(40)を含むものである、請求項1乃至5のいずれかに記載の加速装置。
【請求項7】
前記波面整形構造体(40)は、間に誘電体層(41)を有する複数の支持層(42)の積層体を含み、
前記誘電体層(41)の厚さおよび充填率は、前記直線偏光された単一サイクル・パルス(1)の波面の側部の到達時間が、前記粒子加速方向に沿った前記加速された荷電粒子(2)の位置に整合するように、選択されるものである、
請求項6に記載の加速装置。
【請求項8】
さらに、前記導波路デバイス(20)とは反対の関係で前記注入部(21)に配置された反射器装置(30)を含む、請求項1乃至7のいずれかに記載の加速装置。
【請求項9】
前記反射器装置(30)は、
− 前記反射器装置(30)が、前記パルス状放射の中心波長の4分の1に等しい前記注入部(21)からの反射器距離を有する、および
− 前記反射器装置(30)がホーン形状を有する、
という特徴の中の少なくとも1つの特徴を有するものである、請求項8に記載の加速装置。
【請求項10】
前記ホーン状結合装置(10)は、前記導波路デバイス(20)に結合された第1のホーン型結合器(11)と、前記注入部(21)に対して前記第1のホーン型結合器(11)とは反対の関係で前記導波路デバイス(20)に結合された第2のホーン型結合器(15)とを含むものである、請求項1乃至7のいずれかに記載の加速装置。
【請求項11】
光波長よりい、特にテラヘルツまたはRFの波長の範囲の、波長を有する前記パルス状放射で前記荷電粒子(2)を加速するよう構成された、請求項1乃至10のいずれかに記載の加速装置。
【請求項12】
− 一連の直線偏光された単一サイクル・パルス(1)を供給するよう構成された単一サイクル・パルス源装置(210)と、
− 前記一連の単一サイクル・パルス(1)を受け取るよう配置された、請求項1乃至11のいずれかに記載の加速装置(100)と、
− 前記加速装置(100)の前記注入部(21)で加速される荷電粒子(2)を供給するよう構成された粒子源装置(220)と、
を含む、荷電粒子銃(200)。
【請求項13】
前記単一サイクル・パルス源装置(210)は、前記一連の単一サイクル・パルスの全てが等しいキャリア包絡線位相(CEP)を有するように前記一連の単一サイクル・パルス(1)を供給するよう構成されたものである、請求項12に記載の荷電粒子銃(200)。
【請求項14】
さらに、前記単一サイクル・パルス源装置(210)と前記粒子源装置(220)を同期化するよう構成された同期化装置(230)を含む、請求項12または13に記載の荷電粒子銃(200)。
【請求項15】
前記粒子源装置(220)は、前記注入部(21)に存在する光電陰極電子源(221)と、光放出レーザ源(222)とを含むものである、請求項12乃至14のいずれかに記載の荷電粒子銃(200)。
【請求項16】
請求項1乃至11のいずれかに記載の加速装置を用いて荷電粒子を加速する方法であって、
− 前記導波路デバイス(20)の前記注入部(21)に少なくとも1つの集束された直線偏光された単一サイクル・パルス(1)を供給する工程と、
− 前記注入部(21)に少なくとも1束の荷電粒子(2)を供給する工程と、
− 前記少なくとも1つの集束された単一サイクル・パルス(1)の前縁の効果によって前記少なくとも1束の荷電粒子(2)を加速させる工程と、
を含む、方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの直線偏光された単一サイクル・パルス(1)を、回折限界によって定まる点状の集束領域に集束させる工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの直線偏光された単一サイクル・パルス(1)を、前記注入部(21)において前記直線偏光された単一サイクル・パルスの反射部分に重畳させる工程を含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの直線偏光された単一サイクル・パルス(1)を回折限界より大きい直径を有する集束領域に集束させる工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの直線偏光された単一サイクル・パルス(1)に波面整形を施す工程を含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス状放射、好ましくはテラヘルツ(THz)または無線周波数(RF)の波長範囲のパルス状放射で荷電粒子を加速するよう構成された加速装置(accelerator apparatus)、特に、ホーン状(horn-shaped)結合装置および粒子注入部を有する導波路デバイス(装置)を含む加速装置に関する。さらに、本発明は、その加速装置を含む荷電粒子銃に関し、また例えば電子または陽子のような荷電粒子を加速する方法に関する。
【0002】
本発明の適用例は、例えばX線源に含まれるまたは電子回折画像化用の、コンパクトな粒子加速器の技術分野において利用可能である。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景を説明するために、特に次の刊行物を参照する。
[1]E. A. Nanni et al. in "Nature Communications" 6, 696 (2015)、
[2]L. J. Wong et al.in "Optics Express" 21, 9792-9806 (2013)、
[3]R. Yoder et al. in "Physical Review Special Topics-Accelerators and Beams" 8, 111301 (20051)、
[4]E. A. Nanni et al. in "Proceedings of IPAC2014", Dresden, Germany, WEOAB03, ISBN 978-3-95450-132-8, p.1896、
[5]欧州特許出願第15001303.5号(本明細書の優先日に発行されなかったもの)、および
[6]S.-W. Huang, et al., Opt. Lett. 38 (2013) 796-798。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願第15001303.5号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】E. A. Nanni et al. in "Nature Communications" 6, 696 (2015)
【非特許文献2】L. J. Wong et al.in "Optics Express" 21, 9792-9806 (2013)
【非特許文献3】R. Yoder et al. in "Physical Review Special Topics-Accelerators and Beams" 8, 111301 (20051)
【非特許文献4】E. A. Nanni et al. in "Proceedings of IPAC2014", Dresden, Germany, WEOAB03, ISBN 978-3-95450-132-8, p.1896
【非特許文献5】S.-W. Huang, et al., Opt. Lett. 38 (2013) 796-798
【発明の開示】
【0006】
電界を使用する電子加速の種々の思想が一般的に知られており、例えば、静電ポテンシャル(電位)に基づくもの(コッククロフト・ウォルトン型(Cockcroft-Walton)加速器、ヴァンデグラフ型(Van de Graaff)加速器)またはマイクロ波またはミリメートル波発振フィールド(電界、電磁界)に基づくもの(サイクロトロン、ベータトロンおよびシンクロトロンのような円形粒子加速器(circular particle accelerators)、またはリニアック(linac:ライナック)のような線形粒子加速器(linear particle accelerators))が知られている。これらのシステムは、強力な加速能力を有する高度開発技術を表すが、効率、サイズ(大きさ)および操作の複雑さの点でかなりの欠点を有し、その結果として、例えば基礎および応用科学の研究において、適用例が限定される。しかし、より効率的でコンパクトな(小型の)装置に関心が集まっている。
【0007】
超高速技術における最近の開発は、例えば誘電体レーザ加速(DLA)、レーザ駆動プラズマ加速(LPA)およびレーザ航跡場(wake-field)加速(LWFA)に基づく、コンパクトな電子加速器の開発に影響を与えてきた。これらの加速器は、粒子加速用の高パワー(出力)レーザを用いて生成された強い光場(optical field)を使用する。赤外線(IR)レーザの高動作周波数および利用可能な高電界は、例えばチャープ・パルス増幅に基づいて、小型の加速器の実現に有望なこの範囲の電磁スペクトルを形成する。しかし、光パルスに基づく加速機構は、短光波長によって生じる困難な問題を伴う。
【0008】
超高速技術における別の有望な進歩は、光整流(optical rectification)を用いた単一サイクル(周期)テラヘルツ・パルス源(供給源)の開発である。結果として得られた高パワー・テラヘルツ・パルスはコンパクトな加速器の開発にも使用できる(文献[1]〜[5])。直接的な光学的加速と比較したとき、その利点は、より長い波長と、一束(bunch)当り電荷量における制限の緩和とである。文献[4]および[5]によれば、径偏波(radially polarized:径偏光)テラヘルツ・パルスは、中心装荷の誘電体ホーンを用いて導波路中に結合される。しかし、これらの技術は、使用される導波路が、テラヘルツ・パルスのみの中心周波数に対して共振する単一モード導波路なので、限界を有する。従って、提案された構造は、超短パルスの領域には適していない。より正確には、進行波キャビティ(空洞、空洞共振器)および導波路には、それらの固有の共振動作に起因して、少なくとも10乃至50サイクルのパルスを供給する必要がある。
【0009】
電子加速は、特にコンパクトなX線源の電子銃において必要とされる。例えばX線分光および画像化における自由電子レーザ(FEL)のような入手可能な硬(ハード)X線源に代わるコンパクトなX線源の必要性を考慮すると、コンパクトな電子加速器および電子銃に対する特別なニーズ(必要性)が存在する。過去10年間で、小さい電子銃を開発しようとする試みは、主に装置(デバイス)の動作周波数を増大させることに集中していた。これにより、より短い波長で機能するより小さい構造が得られるようになる。その構造の損傷閾値は、電子銃の小型化を妨げる主な障害であった。より短いパルス、即ち広帯域励起が使用されるとき、この制限が大きく緩和されることが観測された。しかし、通常の電子銃は、超短パルスに基づいて動作することができなかった。この難点は、短いパルスに基づく電子加速のための新しい構想(schemes)の展開の必要性を喚起する。
【0010】
本発明の目的は、通常の技術の欠点を回避することができる、特にテラヘルツまたは無線周波数(RF)の波長範囲の、電磁波パルス放射(エネルギ、光、線)で、荷電粒子を加速するよう構成された改良された加速装置を実現することである。特に、本発明の目的は、効率および広帯域動作能力を向上させた加速装置を実現することである。さらに、本発明の目的は、加速装置を含む改良された荷電粒子銃、特に低減されたサイズを有する(小型化された)改良された荷電粒子銃、および荷電粒子を加速する改良された方法を実現することである。
【0011】
これらの目的は、独立請求項の特徴をそれぞれ含む、加速装置、荷電粒子銃および加速方法によって達成(解決)される。本発明の好ましい実施形態および適用例が従属請求項に記載されている。
【0012】
発明の概要
本発明の第1の概略的な態様または特徴によれば、上述の目的(課題)は、粒子注入部を含む導波路デバイスおよびホーン状結合装置を含む、パルス状放射、特にテラヘルツまたは無線周波数(RF)の波長範囲のパルス放射を用いて荷電粒子を加速するよう構成された加速装置によって達成(解決)される。ホーン状結合装置は、少なくとも1つのホーン型結合器(ホーン・カプラ)(ホーン受信アンテナ)、好ましくは1つまたは2つのホーン型結合器を含み、それぞれ入力開孔(アパーチャ)、導電性の、好ましくは金属製の壁部、および出力開孔を有する。少なくとも1つのホーン型結合器は、入力開孔でパルス状放射を入力結合し、パルス状放射を縦(長手方向)のビーム方向に沿って出力開孔に向けて集束するよう適合化される。
【0013】
集束または焦点合わせは、パルス状放射のパワー(出力)に応じて調整される。低パワーのパルス状放射、特に、100μJ未満、好ましくは20μJ未満のエネルギを有する単一サイクル・テラヘルツ・パルス状放射、または10mJ未満、好ましくは2mJ未満のエネルギを有する単一サイクルRFパルス状放射で、回折限界までの集束が実現される。従って、テラヘルツ・パルス状放射に関して500μm乃至2mmの範囲の直径、およびRFパルス状放射に関して5cm乃至20cmの範囲の直径を有する点集束(焦点)が得られる。代替形態として、高パワー・パルス状放射、特に、0.5mJより高い、好ましくは1mJより高いエネルギを有する単一サイクル・テラヘルス・パルス状放射、または、50mJより高い、好ましくは100mJより高いエネルギを有する単一サイクルRFパルス状放射を用いて、回折限界を超える直径を有する集束(焦点)領域への集束が、例えば、テラヘルツ・パルス状放射に関して2mm乃至4mmの範囲およびRFパルス状放射に関して20cm乃至40cmの範囲で、形成される。高パワー・パルス状放射の集束は、ホーン型結合器および導波路デバイス内の電界放出効果(field emission effects)が回避されるように、調整されることが好ましい。
【0014】
導波路デバイスは、少なくとも1つのホーン型結合器の出力開孔に接続され、また、集束されたパルス状放射を受け取るまたは受信するよう適合化される。導波路デバイスは注入部を含み、注入部は、加速点で1束の荷電粒子を供給するよう、および導波路デバイス内でパルス状放射が注入部へと進むことによって荷電粒子を加速させるよう構成されている。さらに、導波路デバイスは、縦のビーム方向から逸脱した、特に縦ビーム方向に垂直な方向の、粒子加速方向に沿って、加速された荷電粒子を放出するための注入部の側方(横方向)出力ポートを含んでいる。
【0015】
本発明によれば、ホーン型結合器は、直線偏光(偏波)された平面波として整形された広帯域周波数スペクトルを含む複数の直線偏光単一サイクル・パルス(または広帯域パルス)を受け取るよう適合化された形態およびサイズを有する。「広帯域」という用語は、単一サイクル・パルスの複数の周波数成分にわたるスペクトル範囲、特に100%のスペクトル相対的帯域幅を指す。「単一サイクル・パルス」という用語は、光周波数より低い中心周波数、特に、テラヘルツ範囲(特に0.3THz〜3THz)またはRF範囲(特に0.3GHz乃至100GHz)の中心周波数を有し、中心周波数の電磁界の1つの発振サイクル(周期)に等しい持続時間またはサブ(部分)サイクル持続時間を有する、パルスを指す。複数の単一サイクル・パルスの包絡線は、単一サイクルまたはサブサイクル持続時間をカバーする(に広がる)。さらに、「単一サイクル・パルス」という用語は、広帯域周波数特性を有する、1より多いサイクルの、例えば最大2または3サイクルの、持続時間を有する複数のパルスを含んでもよい。複数の単一サイクル・パルスは、縦ビーム方向に垂直な少なくとも1つの方向に沿ってガウス形状を有する複数の平面波である。さらに、ホーン型結合器は、導波路デバイスに向けた直線偏光単一サイクル・パルスの広帯域集束用に適合化されている。さらに、本発明によれば、導波路デバイスは、非共振広帯域透過(伝達)特性(non-resonant broadband characteristic)を有する。
【0016】
利点として、本発明は、標準的な加速器と超高速レーザ技術の間の思想的な間隙(ギャップ)を埋めまたは無くす。通常の加速器で使用されるマイクロ波およびミリメートル波技術は、連続波(CW)放射を生成するために非常に良く開発されている。従って、通常の光学的加速器は、主に、単一周波数励起用に機能する最も狭帯域の装置である。例として、導波または案内モードの電界(場)が加速に使用される進行波加速器および共振動作に基づいて動作するカスケード・キャビティ(空洞)が広く使用される。従って、短パルス・レーザによって励起される標準的加速器の幾何学的形状を直接使用すると、入力エネルギの大部分が無駄になる。
【0017】
発明者たちは、従来使用されているホーン型結合器および導波路によって導入される帯域幅制限に起因して、通常のテラヘルツ加速器の適用が制限されることを見出した。通常の技術とは対照的に、本発明の主な利点として、本発明による加速装置は、ホーン型結合器および導波路デバイスを広帯域集束および伝送用に適合化させることによって、帯域幅制限なしで単一サイクル・パルスを受け取り案内する(導く)よう構成される。従って、単一サイクル・パルスを注入部へと向上した効率で導くことができ、従って単一サイクル・パルスの加速効果が増大する。
【0018】
単一サイクル・パルスで加速装置を動作させると、次の利点が得られる。即ち、実証的研究で最初に示されたことは、動作周波数fおよび加速電界のパルス持続時間τについてf1/2/τ1/4としてスケーリングする電界電子放出(electron field emission)によって、装置性能に主要な制限を加えられる(課される)ことである。上述の近似スケーリング動作によって、より高い動作周波数に向けた加速器の開発と、コンパクトな加速器を達成するための超高速方式とが正当化(正当なものと)された。しかし、種々の加速器の破壊閾値に関する最近の研究では、加速器壁部のパルス加熱が加速勾配を制限する支配的要因であることが示された。この結論によって、以前に導出されたスケーリング法則(scaling laws)の予測と比較して、既存施設において、観測されたより小さい動作勾配が確認された。加速電界のパルス持続時間は、装置内のパルス加熱を支配するパルス・エネルギに直接関連するので、破壊事象において主要な役割を果たす、と結論付けられた。従って、効率的な加速を短パルスの使用に適合化させると、加速器のサイズを小さくする新しい可能性が開かれる。
【0019】
本発明の第2の概略的な態様または特徴によれば、上述の目的(課題)は、直線偏光された平面波形状を有する一連(シーケンス)の直線偏光単一サイクル・パルスを供給するように構成された単一サイクル・パルス源(供給源)装置と、一連の単一サイクル・パルスを受け取るよう配置された本発明の上述の第1の態様による加速装置と、加速装置の注入部で加速される荷電粒子(粒子束、粒子パルス)を供給するよう構成された粒子源(供給源)装置と、を含む荷電粒子銃によって達成(解決)される。
【0020】
利点として、本発明は、コンパクトな荷電粒子銃、特に、単一サイクル・パルスに基づいて動作する電子銃を実現する。超短パルス持続時間に起因して、加速器壁部の電気的損傷によって生じる制限が大きく緩和される。従って、単一サイクル・パルスは、潜在的に、非常に小さいスポット・サイズに集束することができ、短い加速長が得られる大きい加速(加速度)勾配を形成することができる。本発明による荷電粒子銃は、低エネルギ(例えばμJレベル)のパルスと高エネルギ(例えばmJレベル)のパルスの双方に適合化させることができる。
【0021】
単一サイクル・パルス源は、レーザ源装置と、レーザ・パルスの光整流(optical rectification:光学検波)によって単一サイクル・パルスを生成する変換結晶(クリスタル)とを含んでいることが好ましい。レーザ源装置は、フェムト秒レーザより数桁(数オーダ)の大きさだけより効率的に機能するピコ秒レーザを使用して、そのような短いパルスによる加速の全体的効率が光学的加速に匹敵するようになる(と同等になる)こと、が好ましい。その利点は、波長がより長いこと、および一束当りの電荷量に関する制限が緩和されることである。
【0022】
本発明の第3の概略的な態様または特徴によれば、上述の目的(課題)は、本発明の第1の概略的な態様による加速装置を用いて荷電粒子を加速する方法によって達成(解決)される。その際、少なくとも1つの集束された直線偏光された単一サイクル・パルスが導波路デバイスの注入部に導かれ(案内され)、少なくとも1束の荷電粒子が、注入部に形成または供給され、加速用の半サイクル分の少なくとも1つの集束された単一サイクル・パルスの効果によって加速される。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのホーン型結合器は、広帯域の集束特性を有する単一サイクル・パルスを集束させるよう適合化された、入力開孔サイズ、縦(長手方向)の長さ、ホーン角度および出力開孔サイズを有する。ホーン型結合器の入力開孔は、各辺の長さが単一サイクル・パルスの中心波長よりも長い長方形の形状を有し、ホーン型結合器の出力開孔は、各辺の長さが単一サイクル・パルスの中心波長の半分(1/2)の長方形の形状を有し、各金属壁部は、入来するパルス状放射の全(total:全体の、合計の)角度拡がり(angular spread:角拡散)に近い(に等しいまたは近似する)ホーン角度を有すること、が好ましい。利点として、これらの寸法によって、少なくとも1つのホーン型結合器の広帯域集束特性が実現される。
【0024】
本発明の別の好ましい特徴によれば、少なくとも1つのホーン型結合器のダウンストリーム(下流、下り)の導波路デバイスは、少なくとも1つのホーン型結合器の出力開孔と注入部の間に伸びるパルス案内(導波)部を有する。パルス案内部が以下に挙げる各特徴の少なくとも1つを有する場合、単一サイクル・パルスの注入部への効率的な広帯域結合に関する各利点が得られる。
【0025】
第1の変形例によれば、パルス案内部は、単一サイクル・パルスの中心波長のほんの一部(fraction)に等しい選択された長さ(L)を有する。利点として、これは、注入部内への加速電磁界のトンネリング伝送(透過)を支援し、入射の単一サイクル・パルスを導波路中に集束させることによって導入されるカットオフ(遮断)周波数の欠点が低減される。
【0026】
第2の変形例によれば、パルス案内部および注入部は、縦ビーム方向に垂直な断面寸法(d)を有し、その寸法は、単一サイクル・パルスの減速サイクル区間(部)の到達前に、荷電粒子が、注入部から側方出力ポートを通って脱出することができるように、選択される。換言すれば、断面寸法(d)の値は、荷電粒子がパルスの加速半サイクルだけを経験する(その作用を受ける)ように、設計される。荷電粒子は加速点で生成され、加速点は側方出力ポートの反対側にある注入部の内壁部に位置することが好ましい。側方出力ポートに到達するのに必要な時間は、単一サイクル・パルスの増大するサイクル区間(部)の持続時間(単一サイクル・パルスの半パルス持続時間)に等しいかまたはそれより短い。従って、最大の効率を有する加速が達成される。
【0027】
第3の変形例によれば、パルス案内部は、少なくとも部分的に誘電材料を含む内面を有する。利点として、これは、導波路デバイスの非共振広帯域透過(伝達)特性の実現を支援する。さらに、単一サイクル・パルスの波面の、注入部における加速された荷電粒子の移動または動きに対する適合化が、容易になる。
【0028】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのホーン型結合器は、縦ビーム方向に垂直で粒子加速方向に平行な第1の集束方向に従って、好ましくは垂直面(単一サイクル・パルスのE面)において、直線偏光された単一サイクル・パルスを集束するよう適合化される。単一サイクル・パルス源および少なくとも1つのホーン型結合器は、単一サイクル・パルスが集束方向に沿って偏光されるように、互いに整列される。特に好ましくは、少なくとも1つのホーン型結合器は、縦ビーム方向および第1の集束方向に垂直な第2の集束方向に従って、好ましくは水平面(単一サイクル・パルスのH面)において、単一サイクル・パルスを追加的に集束するよう適合化される。利点として、これにより、注入部における加速電界がさらに増強される。
【0029】
注入部における直線偏光された単一サイクル・パルスの波面は、回折限界の点集束からより大きい集束領域までの範囲の、パルスの集束の度合に応じて決まる拡がり(extension:伸長)を有する。荷電粒子は、波面全体の効果によって加速される。従って、本発明の別の好ましい実施形態によれば、直線偏光された単一サイクル・パルスの波面は、粒子加速方向に沿って加速された荷電粒子の移動または動きに整合される。整合は、荷電粒子が波面を通る移動の期間の時間全体において加速されるように、波面を整形することを含む。
【0030】
ホーン状の結合および導波路デバイス内に波面整形構造体を設けることによって整合(マッチング)が達成されることが好ましい。本発明の特に好ましい実施形態では、波面整形構造体は、誘電体内包物(inclusions:含有物、介在物)を有する導電層の積層体(stack)を含み、それらの層の厚さおよび充填率(ファクタ、係数)は、直線偏光された単一サイクル・パルスの波面の側部(lateral sections:横部分、横方向部分)の到達時間が、粒子加速方向に沿った加速荷電粒子の位置と整合されるように、選択される。電磁放射ビームの波面は幾つかの部分に分割され、これらの部分は、例えば薄い金属表面のような導電層を用いて互いに分離される。各層において、誘電体内包物が加えられて、パルスの注入部への到達時間が調整される。波面全体にわたる、電子の、静止状態(rest、resting state)からの連続的な加速を達成することができる。利点として、波面整形構造体によって、粒子の加速動力学(dynamics:運動状態)に対してパルス特性を調整することができる。
【0031】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、ホーン状の結合装置は、導波路デバイスの一側部に単一のホーン型結合器を含み、その際、反射器装置がホーン型結合器の反対側の注入部に配置される。反射器装置は、パルス状放射の中心波長の4分の1に等しい注入部からの反射器距離を有し、および/または、反射器装置は、閉じた端部壁部を有するホーン形状を有すること、が特に好ましい。利点として、荷電粒子注入点からλ/4の距離にある構造体の受け取り側に反射器装置を追加することによって、加速電界が増強される。これを行うことによって、加速サイクルに先行する電界の半サイクルが、反転されて、主要な加速電界に加えられる。従って、電界の1サイクル全体が利用される。
【0032】
反射器装置は、反射器部を介して注入部に結合され、反射器部は、パルス案内部の長さに等しい長さを有すること、が好ましい。利点として、カットオフ(遮断)周波数効果は、構造体の受け取り側についても回避することができる。さらに、銃の反射器側を、左側に対して鏡面対称のテーパ状ホーンの形態に構成することによって、結合が増強され、それによって加速勾配が増大する。
【0033】
本発明の別の有利な変形によれば、ホーン状の結合装置は2つのホーン型結合器を含み、その第1の結合器は、単一サイクル・パルスを受け取るように配置され、導波路デバイスの入力側に結合され、その第2の結合器は、第1のホーン型結合器とは反対の関係にある注入部の受け取り側に配置される。利点として、この構成によって、荷電粒子に対する磁界効果を相殺(cancel:減殺)するために、2つの直線偏光された放射ビームが注入部内に対称に結合される。
【0034】
本発明による荷電粒子銃は、シーケンス(順次)動作に適合化され、その際、一連の粒子束が、同期化された一連(シーケンス)の直線偏光された単一サイクル・パルスで加速されること、が好ましい。好ましい動作モードによれば、単一サイクル・パルス源は、等しいキャリア(搬送波)包絡線(エンベロープ)位相(CEP)を有する一連の全ての単一サイクル・パルスを供給するよう構成される。利点として、この結果として、等しい加速を受けた一連の粒子束が得られ、従って、その結果、加速された粒子の狭いエネルギ分布が得られる。
【0035】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、荷電粒子銃は、単一サイクル・パルス源装置と粒子源装置の動作を適時に同期させるよう適合化された同期化装置を備えている。同期化装置は制御装置を含み、制御装置は、公差部において粒子束を生成する時に、単一サイクル・パルスが、交差部において、特にその加速点またはその集束領域に到達するように、単一サイクル・パルス源装置および粒子源装置を駆動する。導波路デバイスの内面への波面整形構造体の波面整形効果を考慮しつつ、同期化装置の動作が行われることが、特に好ましい。この実施形態では、波面の到達時間は、注入部における粒子束の生成と同期化される。
【0036】
粒子パルスを生成するために、複数の変形例が利用可能である。本発明の好ましい特徴によれば、粒子源装置は、注入部に存在し光放出(photoemission)レーザ源を備えた光電陰極電子源を含んでいる。光電陰極電子源は、例えば導波路デバイスの壁部に含まれまたは導波路デバイス内に配置された注入部、に位置する光電陰極を有する。光放出レーザ源は、背面から、即ち導波路デバイスの外部から直接、または加速経路を通して直接、光電陰極を照射するように配置することができる。代替的な粒子源装置は、例えば、熱光電陰極(thermal photo-cathodes)およびナノ構造の電界エミッタを含んでいる。
【0037】
さらに、本発明の他の有利な詳細および利点を、図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、本発明による加速装置の第1の実施形態を示す概略的な断面図である。
図2図2は、本発明による加速装置の第2の実施形態を示す概略図である。
図3図3は、図2の加速装置で得られ得る電子加速と、中心周波数0.3THzの20μJの単一サイクル・テラヘルツ・パルスとを表すグラフである。
図4図4は、本発明による加速装置の第3の実施形態を示す概略図である。
図5図5は、本発明による加速装置の第3の実施形態を示す概略図である。
図6図6は、中心周波数0.3THzの2つの1mJの単一サイクル・テラヘルツ・パルスを有する、図4および5の加速装置で得られ得る電子加速を、表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の好ましい実施形態の特徴を、それぞれ、単一のホーン型結合器(ホーン・カプラ)、反射器に結合されたホーン型結合器、および2つのホーン型結合器を有する3つの実施形態を例示的に参照して、以下説明する。本発明はこれらの実施形態に限定されない。特定の適用例に応じて、本発明は、例えば、ホーン型結合器および導波路の設計、パルス源(供給源)装置の特徴、粒子源(供給源)装置の特徴、別の画像化構成要素(コンポーネント)の設置、および粒子加速経路の設計に関する変形で、実現することができる。
【0040】
本発明を好ましいテラヘルツの動作形態(方式)を参照して説明するが、本発明は動作周波数によって制限されるものではない。従って、加速装置はスペクトルの他の周波数範囲についても同様に実現することができ、そこでは、誘電体と金属の双方の性質を有する材料が利用可能である。これは、光学領域より低いスペクトルの全範囲、特にRF波長範囲に対応する。
【0041】
図1は、1つのホーン型結合器11を有するホーン状(horn-shaped:角形状)の結合装置(coupling device)10と、注入部(injection section)21を有する導波路デバイス(装置)20とを有する加速装置(又は加速器装置)100の第1の実施形態を概略的に示している。荷電粒子銃200は、加速装置100、単一サイクル・テラヘルツ・パルス源装置210、粒子源装置220、および単一サイクル・テラヘルツ・パルス源装置210と粒子源装置220を同期化する同期化装置(又は同期装置)230を含んでいる。典型的には、少なくとも加速装置100は真空引きされ、即ち、結合装置10および導波路デバイス20に真空状態が形成される。代替形態として、加速装置100は、例えば、大気圧、特に周囲空気または外気で作動することができる。
【0042】
デカルト直交座標を参照すると、加速装置100は、縦のビーム方向(z方向)に沿って直線偏光で伝播する(複数の)単一サイクル・テラヘルツ・パルス1の入力のために配置されている。従って、単一サイクル・テラヘルツ・パルス1の電界は、z方向に直交する平面においてx方向に沿った直線偏光で方向付けられ、注入部21で生成された粒子2は、縦ビーム方向に垂直な粒子加速方向(x方向)に加速される。
【0043】
ホーン型結合器11は、入力開孔12、金属製の内面を有する複数の壁部13、および導波路デバイス20に接続された出力開孔14を有する。単一サイクル・テラヘルツ・パルス1がx方向にのみ集束される場合、2次元受信アンテナとしてy−z平面に対して傾斜角Θでy方向に沿って伸びる2つの平面壁部13で、充分であり得る。従って、壁部13はホーン角度2Θにわたる(及ぶ)。単一サイクル・テラヘルツ・パルス1は、y−z平面およびx−z平面に対して等しいまたは異なる傾斜角でy方向およびx方向に伸びる4つの壁部13(図2B参照)を設けることによって、x方向およびy方向に集束されることが好ましい。両方の場合において、入力開孔12および出力開孔14は長方形状を有すると見なすことができる。
【0044】
壁部13は、例えば、少なくとも50μm、好ましくは1mmの厚さを有し、金属、例えば銅からなり、または金属被覆を支持するプラスチック材料で形成することができる。入力開孔12は、テラヘルツ・パルス状放射(エネルギ、光、線、電磁波)の中心波長より長い各側辺の長さを有する。一例として、x方向およびy方向の各側辺の長さは、中心波長1mmの広帯域の集束テラヘルツ・パルスに対して、それぞれ4mmおよび4mmである。出力開孔14の各側辺の長さは、テラヘルツ・パルス状放射の中心波長の半分(1/2)に等しく、即ち、上述の例では、x方向およびy方向にそれぞれ0.05mmおよび0.5mmである。ホーン角度2Θは例えば14°であり、z方向におけるホーン型結合器11の縦(長手方向)の長さは、例えば4mmである。出力開孔の各側辺の長さは、放射周波数で、即ち励起がテラヘルツ(THz)(例えば0.3THz)からギガヘルツ(GHz)(例えば0.3GHz)へと変化したときに、装置の寸法は1000倍増加し、好ましくはパルス・エネルギも1000倍増加するはずである。
【0045】
導波路デバイス20は、導電性材料および任意に波面整形構造体(wavefront shaping structure)(以下参照)を含むチャネル壁部で形成された直線状のまたは真っ直ぐなチャネルを含んでいる。また、チャネルの入力部分は、テラヘルツ・パルス案内(導波)部24を形成し、チャネル壁部中に照射(照明)ポート22および反対側の側方出力ポート23を含むチャネルのダウンストリーム部分は、注入部31を形成する。テラヘルツ・パルス案内部24の長さLは、単一サイクル・テラヘルツ・パルス1の中心波長、例えば50μm、より短い。
【0046】
粒子源装置220の光電陰極(photocathode)221は、光放出レーザ源222を用いた照射用のチャネル壁部における照射ポート22を通して露出される。例えば1mmの中心波長を有する単一サイクル・テラヘルツ・パルスに基づいて動作する銃(ガン)用の約100μmの幅Dを有するスリット状の側方出力ポート23は、加速粒子2を逸らせるまたは脱出させるために反対側のチャネル壁部に配置される(図2Bも参照)。導波路デバイス20のダウンストリーム(下流側)端部では、単一サイクル・テラヘルツ・パルス1が、注入部21中を通過した後で、吸収されまたは任意に反射される(以下、図2参照)。
【0047】
単一サイクル・テラヘルツ・パルス源210(詳細は図示せず)は、例えば、ピコ秒パルス・レーザ源装置と、変換結晶とを含み、これ(変換結晶)は、例えば文献[6]に記載されているような、光整流によってテラヘルツの単一サイクル・パルスを生成するよう適合されるものである。効率的なテラヘルツ生成は、1%レベルの光−テラヘルツ(optical to THz)の変換効率を達成することができる。従って、5mJレベルの僅かサブピコ秒(ps)のパルスを使用して、典型的に300GHzの中心周波数で20μJレベルの単一サイクル・テラヘルツ・パルス1を安全に生成することができる。一例として、1kHzの繰り返し周波数(レート、率)を有する一連の単一サイクル・テラヘルツ・パルス1が生成される。全ての単一サイクル・テラヘルツ・パルス1は、同じキャリア包絡線(エンベロープ)位相を有することが好ましい。
【0048】
粒子源装置220は、光導波路デバイス20の壁部に一体化された、例えば銅製の、光電陰極221と、例えば紫外線(UV)レーザのような光放出レーザ源222とを含んでいる。光電陰極221は薄い層であり、その層は、背面から光放出レーザ源222で照射される。実際の例では、光放出レーザ源222は、40fsに等しいパルス持続時間およびスポット・サイズ直径40μmで作動され、光電陰極221は、光放出レーザ源222からのパルスに応答して1pCの電荷を有する粒子束2を放出する。光放出レーザ源222は、単一サイクル・テラヘルツ・パルス1の到達時に粒子束2が注入部に形成されるように、同期化装置230で制御される。任意に、光放出レーザ源222は、紫外線レーザビームがスリット状の側方出力23を通って陰極表面を照射するように、設定されてもよい。
【0049】
動作を説明すると、ホーン型結合器11は、入来する直線偏光された各単一サイクル・テラヘルツ・パルス1を小さいスポット・サイズに集束させる。複数の壁部13によって形成される金属境界によって、回折限界より小さく入力ビームを集束することができるが、入射エネルギの挿入損失(insertion loss)は避けられない。その後、閉じ込められた、単一サイクル・テラヘルツ・パルス1のテラヘルツ・ビームは、導波路デバイス20に沿って進み、注入部21に到達する。光放出レーザ源222は、テラヘルツ・パルス1の加速電界が注入点に到達したとき、光電陰極221の表面から電子束2を励起する。単一サイクル・テラヘルツ・パルス1(300GHz、中心波長λ=約1mm)のビームが回折限界まで集束され、加速装置の各寸法が、例えばΘ=16°、D=500μmである場合、2λのスポット・サイズ(約2mm)の集束(焦点)における合計の電界は最大約150MV/mの領域にまで達した。次いで、電子は、入来するテラヘルツ・パルス1によって加速され、距離dの後で、即ち導波路デバイス20の2つの壁部の間の分離(間隔)を後にして、注入領域21における加速領域から離れる。50MV/mの電界において、最初は静止状態にある電子は、中心波長より2乃至3のオーダ(桁)の大きさだけ小さい 最大でδx=eEτ/mω≒7.5μmだけ移動することができる。
【0050】
電子が、加速エッジ(境界、端縁)によって、および少なくとも部分的に単一サイクル・テラヘルツ・パルス1の減速エッジによって影響される場合、加速の効率は制限され得るであろう。その効率を改善するために、電子が加速サイクル部分(サイクルの前エッジ(前縁))のみを経験する(その作用を受ける)ように、以下の手段の中の少なくとも1つを用いることができる。第1に、粒子加速方向(x方向)に沿った導波路部の幅の選択は、加速電界が符号を変える前すなわち減速エッジが開始する前に、電子がテラヘルツ・パルスから離れるように、行われる。従って、テラヘルツ・パルス1のパワー(出力)に応じて、断面寸法(d)は、例えば50μm乃至200μmの範囲で、注入部におけるテラヘルツ波面のサイズと等しいかそれより小さい。第2に、図2を参照して以下説明するように、電子振動の振幅を伸ばす(大きくする)ために、集束されたテラヘルツ・パルスの加速電界を増強することができる。
【0051】
加速装置100をRF波長範囲での動作に適合化させるためには、ホーン型結合器および導波路の各寸法をRF波長に適合化させ、単一サイクル・テラヘルツ・パルス源210が、単一サイクルRFパルス源に、例えば光電子発振器に基づくパルス源に、置き換えられる。
【0052】
図2において、本発明の第2の実施形態の加速装置100は、例えばy方向に沿った上面図(図2A)、斜視図(図2B)、および例えばx方向に沿った側面図(図2C)で示されている。導波路デバイス20の一方の側部には、単一のホーン型結合器10が設けられ、一方、反射器装置30がホーン型入力結合器11の反対側に配置される。反射器装置30は、注入部21からλ/ 4の距離に配置されたホーン・アンテナ31を含んでいる。
【0053】
ホーン・アンテナ31のホーン角度は、ホーン型結合器11のホーン角度と等しく、一方、ホーン・アンテナ31の縦の長さの選択は、注入部21に到達する単一サイクル・テラヘルツ・パルス1が、反射された単一サイクル・テラヘルツ・パルスに重畳される(重ね合わせられる)ように、行われる。この重畳によって、半サイクル(半周期)時間について、パルスの前縁と、減速半サイクルとの間に構造的干渉が生じ、これ(減速半サイクル)が反射によって今度は加速サイクルとなる。従って、加速電界が増大する。
【0054】
実際の例では、ホーン・アンテナ31とホーン型結合器11のホーン角度は、y−z平面で約60°およびx−z平面で約32°であり、ホーン型結合器11とホーン・アンテナ31の縦の各長さはそれぞれ4mmおよび0.26mmであり、注入部21の各幅は、y方向に0.55mm、x方向に0.05mmであり、注入部21の縦の長さは0.05mmである。
【0055】
これらのパラメータを用いて、加速装置100は、ゼロ(0)のエネルギの垂直電界Ex=50MV/mで瞬時に注入される電子の最適な加速のために設計される。図3は、x方向の移動距離に応じた注入電子のエネルギを示している。発明者たちによって行われた、時間依存性の加速電界プロファイル(外形)のシミュレーションでは、14倍の加速度勾配の増強を示し、それは708MV/mのピーク加速電界の形成を示している。加速装置100から離れる電子の最終的なエネルギは35.2keVである。
【0056】
図1および2の第1および第2の実施形態は、20μJのレベルのエネルギを有する単一サイクル・テラヘルツ・パルスを用いて電子を最適に加速するよう適合化される。最適な集束によって、光電陰極221上に700MV/mの大きさのピーク電界が形成される。この値は、銅または他の金属の表面の電界放出閾値に近似するかまたはそれより大きい。従って、より高い加速度(レート)を達成するために入力テラヘルツ・ビームのエネルギをさらに増大させるのに、別の粒子源が必要となるであろう。代替形態として、本発明の第3の実施形態の形成は、電界放出閾値を超えることなく、約300GHzの中心周波数の約2mJのエネルギを有する高エネルギ短パルスを使用して効率的な加速を達成するように、行われる。
【0057】
高エネルギのテラヘルツ・パルスを用いて電子加速を行うために、次の2つの重要な点が考慮される。(i)電子は相対論的エネルギを獲得する可能性があり、これによってテラヘルツ・パルスの横の(transverse)磁界の効果が強くなる。この効果は、テラヘルツ・パルスからその伝播方向に沿って押す作用(push)を生じる。従って、図1または2の構成において、電子は、直線の代わりに湾曲した軌道上を進む。(ii)高エネルギのテラヘルツ・ビームは、小さいスポット・サイズに集束されるべきでない。さもなければ、電界放出閾値は、荷電粒子銃の性能を破壊する。従って、ビームの動作スポット・サイズは、1つの半サイクル内の電子の移動距離よりはるかに大きくなるであろう。その結果、効率的な加速を達成するために、テラヘルツ・パルスの位相面(phase front)を電子軌道に整合(マッチング)させることが、実現される。
【0058】
図4および5には本発明の第3の実施形態の構成が示されている。図4Aにおいて、本発明の第3の実施形態による加速装置100の波面整形構造体40の斜視図が概略的に示されており、図4Bはy−z平面における加速装置100の上面図を示しており、図4Cは波面整形構造体の2次元の表現を示している。図5は、図4の加速装置100を含む荷電粒子銃200を示している。図4に示された第3の実施形態は、図2の実施形態の特徴で変形することができること、に留意されたい。従って、反射器装置を備えた加速装置100は、以下で説明する波面整形構造体を含んでいてもよい。
【0059】
加速装置100は、導波路デバイス20に結合された2つのホーン型結合器11、15を有するホーン状の結合装置10を含んでいる。ホーン型結合器11、15は、x−y平面に対して鏡面対称に配置される。従って、磁界効果を相殺または減殺するために、2つの直線偏光された単一サイクル・テラヘルツ・パルス1が導波路デバイス20に対称に結合される。荷電粒子銃200は、加速装置100と、2つのテラヘルツ源211、212を有する単一サイクル・テラヘルツ・パルス源装置210と、粒子源装置220と、テラヘルツ源211、212および粒子源装置220を同期化する同期化装置230と、を含んでいる。加速装置100および荷電粒子銃200のこれらの構成要素は、図1および2を参照して上述したように構成することができる。
【0060】
図1および2とは違って、ホーン型結合器11、15は、特に導波路デバイス20の内側断面をカバーするまたは広がり覆うような、回折限界より大きい直径を有する集束領域に、テラヘルツ・パルスを集束させるように、適合化される。集束点は、導波路部20に対して、ホーン型結合器11と15の間の移行領域または遷移領域に近接するように調整されることが、好ましい。さらに、波面整形構造体40は、結合装置10および導波路デバイス20内に配置される。波面整形構造体40は、複数の支持層42によって互いに分離され縦のビーム方向(z方向)に沿って相異なる長さを有する複数の平面状の誘電体層41の積層体を含んでいる。誘電体層41は、ホーン型結合器11、15の集束方向に垂直な平面内で伸び、テラヘルツ帯(領域)において低損失特性を有する、例えば石英で、形成される。一例では、それぞれ0.5mm未満の厚さを有する8つの誘電体層41が設けられる。支持層42は、誘電体層41の屈折率とは異なる屈折率を有する材料で、例えば、少なくとも5μmの厚さを有するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のようなポリマーまたは金属で、形成される。
【0061】
誘電体層41の各長さおよび各厚さの選択は、単一サイクル・テラヘルツ・パルスの波面が変形し(歪み)、特に、縦ビーム方向に対して傾斜し、注入部で加速された荷電粒子の運動に適合化されるように、行われる。波面は傾斜しており、その傾斜は、粒子加速方向(x方向)に沿った光電陰極221からの波面の各部分の距離が増大するにしたがって、波面の各部分がより大きく遅延するようになっている。従って、荷電粒子は、側方の出力ポート23に向かう移動の全ての各位相でテラヘルツ・パルスの増大するエッジ(境界、端縁)によって、加速される。
【0062】
換言すれば、波面整形構造体40の多層構造で、テラヘルツ・パルスの波面は、金属層42を用いて互いに分離された幾つかの部分に分割される。誘電体層41によって、誘電体内包物が複数の金属層42相互間に加えられて、加速領域に対するパルスの到達時間が遅延される。誘電体の充填率および各層の厚さを適正に設計することによって、波面全体にわたって静止状態からの電子の連続的な加速を達成することができる。
【0063】
図4Cの例示的な2次元の例では、加速装置100に両側から結合された、ピーク電界0.5GV/mおよび300GHzの単一サイクルの時間シグネチャ(署名、記号、痕跡)を有する2つの直線偏光された平面波パルス1が考慮される。その8層の構成は、各層の厚さh={0.13, 0.3, 0.39, 0.44, 0.45, 0.48, 0.49, 0.495}mm、および石英系内包物の長さL={0.0, 0.46, 0.91, 1.37, 1.82, 2,28, 2.74, 3.18}mmで、考慮された励起に関して設計される。注入部の間隙サイズは60μmと考えられる。発明者たちが行ったシミュレーションでは、結果として、図6に示すように、粒子加速方向の移動距離に応じた電子のエネルギを示す、Ex=−50MV/mの点で静止状態から放出された2.1MeVまでの電子の加速プロファイル(外形)が得られる。
【0064】
例えば図4Aまたは5による、3次元構成において、テラヘルツ・パルス1は、横方向面(H面、x−z面)において集束され、その結果、効率がかなり向上する。さらに、波面整形構造体40は、石英で形成された複数の誘電体層41と、PTFEで形成された複数の支持層42とを含んでいる。
【0065】
上記の説明、図面および特許請求の範囲に開示された本発明の特徴は、その様々な実施形態における本発明の実現のために、個々にならびに組み合わせまたは部分的組合せについて重要であり得る。
【符号の説明】
【0066】
100 加速装置
200 荷電粒子銃
210 単一サイクル・テラヘルツ・パルス源装置
211、212 テラヘルツ源
220 粒子源装置
222 光放出レーザ源
230 同期化装置
10 ホーン状結合装置
20 導波路デバイス
30 反射器装置
1 単一サイクル・テラヘルツ・パルス
2 粒子
11、15 ホーン型結合器
12 入力開孔
13 壁部
14 出力開孔
21 注入部
22 照射ポート
23 側方出力ポート
24 テラヘルツ・パルス案内部
221 光電陰極
31 ホーン・アンテナ
40 波面整形構造体
41 平面誘電体層
42 支持層
図1
図2
図3
図4
図5
図6