【実施例】
【0063】
以下、実施例、合成例、参考例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(合成例1)
Nメチル−2−ピロリドン(以後、NMPと略す)73.2gに、トリエチルアルミニウム(以後、TEALと略す)11.35gを室温で加えた。十分攪拌して得られたTEAL/NMP溶液に、20±5℃の温度範囲で、水1.08gを滴下した。この時の水のTEALに対するモル比(水/TEAL)は1.0であった。水を所定量滴下後、65℃まで加熱し、65℃で2.5時間反応させた。反応終了後、放冷して反応生成物を回収した。反応後の生成物は黄色透明溶液であった。この生成物中に含まれる微量のゲル状の不溶物をフィルター(細孔:3μm以下)でろ過し、TEAL部分加水分解物のNMP溶液を回収した(溶液A)。
【0065】
(合成例2)
アルミニウムイソプロキシド((iPrO)
3Al))0.2gをヘプタン16g、ジイソプロピレングリコール0.35g及びイソプロパノール0.65gに室温で加えた後に、十分に攪拌を行った。この生成物中に含まれる微量の白色物の不要物を除去するために、遠心沈降機を用いて、上澄みの無色透明な部分のみを回収した(溶液B)
28%アンモニア水0.20gと超純水26.02gを混合して、ゲル析出のための加水分解溶液を調整した。(溶液C)
【0066】
実施例及び参考例におけるアルミニウム酸化物物品の構造は、X線回折測定(XRD)、X線反射測定(XRR)、透過電子顕微鏡(TEM)、X線光電子分光測定(XPS)、原子間力顕微鏡(AFM)及び可視光透過測定において同定を行った。
【0067】
X線回折測定(XRD)にはPANalytical社製X’pert PRO MRDを使用した。X線源には1.8kWのCuKα線源(8048eV)を用いた。X線MirrorによりX線を平行化し、約1°の角度で試料に入射させ2θ軸を操作する斜入射X線回折測定を行った。試料からの回折X線はコリメーターで平行化し、プロポーショナルカウンタで検出した。
【0068】
X線反射率(XRR)測定にはPANalytical社製X’pert PRO MRDを使用した。X線源には1.8kWのCuKα線源(8048eV)を用いた。X線MirrorによりX線を平行化し、試料表面すれすれの角度で入射させ、その入射角度に対するX線反射率の依存性を測定する。試料から反射したX線はコリメーターで平行化し、プロポーショナルカウンタで検出した。
【0069】
透過電子顕微鏡(TEM)観察には日本電子製JEM−2010を使用した。加速電圧200kVで高分解能観察を行なった。アルミニウム酸化物物品の薄切片化には日本電子製のイオンスライサーEM−09100ISを用いた。PET基板上アルミニウム酸化物物品にはRMC Boeckeler社製のウルトラミクロトームMT−7000を用いた。
【0070】
X線光電子分光測定(XPS)にはKRATOS社製AXIS−HSを使用した。X線源には単色化された150WのAlKα線源(1486.6eV)を用いた。約0.8mmφの範囲の任意の場所で高分解能測定を行った。
【0071】
原子間力顕微鏡(AFM)には日立ハイテクサイエンス社製AFM5200Sを使用した。カンチレバーを共振させた状態で、レバーの振動振幅が一定になるように探針・試料間の距離を制御しながら表面形状を測定するダイナミック・フォース・モード(DFM)測定モードで行った。
【0072】
可視光透過測定は日本分光社製V670を使用した。測定方法は、垂直及び積分球による透過率測定を行った。また、測定は波長200nmから波長2500nmの範囲で行った。さらに、ヘイズ率の算出には以下の式を用いた。
ヘイズ率 = (特定波長における積分球透過率 − 特定波長における垂直透過率)/特定波長における積分球透過率 × 100
【0073】
実施例、参考例及び比較例におけるアルミニウム酸化物物品の特性は、鉛筆硬度試験、水蒸気透過率試験及び電池試験において評価した。
【0074】
(試験例1)鉛筆硬度試験
アルミニウム酸化物物品の硬度はJIS K5600−5−4、引っかき硬度(鉛筆法)に準じて行った。具体的には、東洋精機製作所製鉛筆硬度試験機を用い、気温23±2度、湿度50±5%Rhの測定雰囲気で、試験機に750gの荷重を取り付け、試料に45度の角度で鉛筆を取り付けた。試料に鉛筆を当てた状態で10mm程度移動させ、試料に傷がついた場合は、鉛筆の硬度を下げ、試料に傷がつかなかった場合は、鉛筆硬度を上げて傷がつくまで評価を繰り返し、傷がついた際の鉛筆の硬度を鉛筆硬度とした。
【0075】
(試験例2)水蒸気透過率試験
アルミニウム酸化物物品の水蒸気透過率試験はJIS K7129 付属書A 乾湿センサー法に準じて行った。具体的にはLyssy社製、水蒸気透過度計(L80−5000)を用い、測定温度40℃、湿度90%Rh、測定直径80mmの基板をセットし、アルミニウム酸化物物品を形成していない側から透過することで水蒸気透過率を測定した。
【0076】
(実施例1)
合成例1で取得した溶液Aをスピンコート法により基材(18mm角、厚さ0.25mmの単結晶シリコン基板)表面上に塗布した。大気中、室温において、溶液A0.1mlを、前記シリコン基板に滴下し、回転数200rpmで10秒間基板を回転させた後に、回転数2000rpmで20秒間基板を回転させて、溶液をシリコン基板全体に塗布し、室温で乾燥後、100℃で2時間焼成を行い、アルミニウム酸化物物品を取得した。
【0077】
取得したアルミニウム酸化物物品の同定のために、TEM、XRD、XRR及びAFMの測定を行った。
20万倍の倍率で観測した、アルミニウム酸化物物品の断面TEM画像(
図5)より海部と島部を有する海島構造をしていることが確認された。島部を網掛けした図を
図6に示す。さらに、TEMによりアルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向において、アルミニウム酸化物全体が観察できる且つ、海島構造を確認できるTEM画像を取得した。
図1(5万倍)に示す。次にTEMの観察倍率を150万倍に上げて観察したTEM画像(
図3)より、島部は粒の周辺が結晶化していることが分かった。島部である、粒と周辺の結晶化部分及び非結晶部分である海部を識別した
図4を示す。
【0078】
低倍率で観察したアルミニウム酸化物物品全体が観察できるTEM画像をデジタルデータとして画像解析ソフト(MacView)に取り込み、明部である島部分を粒とみなして識別を行った。識別した領域は、アルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向の向きにおいて、アルミニウム酸化物物品がすべて収まる方形(長方形又は正方形)内である。さらに、方形の領域をアルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向に向かって3分割し、最表層の領域を領域1、中間層の領域を領域2、最深層の領域を領域3とし、各領域の島部を識別した。識別の方法は、粒周辺の濃淡が明らかであり、その濃淡の差異により粒と識別できる場所を島部とする識別方法を用いた。
図2に島部を識別した結果を示す。島部の識別の際には、画像を適宜拡大して粒周辺の濃淡が明らかな部分を確認することも行った。その後、各領域及び全体の、島部の粒径の平均値及び島部の数を求めた。各領域の境界付近に存在する島部に関しては、面積の割合が多く存在している領域の島部として識別した。粒径の平均値については体積平均径を用いた。島部の各領域及び全体の粒径の平均値を表1に示す。
【0079】
求めた各領域及び全体の島部の粒径の平均値を用いて、全体に対する各領域の粒径の比率を算出した。算出には以下の式を用いた。
島部の各領域に対する粒径の比率 = 各領域の平均粒径 / 全体の平均粒径
次いで、求めた各領域及び全体の島部の個数(粒子数)を用いて、全体に対する各領域の島部の個数の比率を算出した。算出には以下の式を用いた。
島部の各領域に対する個数の比率 = 各領域の島部の個数 / 全体の島部の個数
それぞれの算出結果を表1に示す。
前記XRD装置を用いてアルミニウム酸化物物品のXRD測定を行った結果、回折ピークは得られなかった。
【0080】
TEM画像により格子像が確認されたことから、結晶化部分は存在するが、XRDにより回折ピークを確認できなかった要因としては、明らかではないが次のことが考えられる。一つは、結晶化部分は結晶の成長方向が一定ではなく、様々な方位を向いているために回折強度が弱いこと。もう一つは、結晶化部分が小さいために、回折強度が弱いとことである。
【0081】
アルミニウム酸化物のXRR測定を行った結果、膜密度は1.9g/cm
3となった。
アルミニウム酸化物のAFM測定を行った結果、二乗平均平方根粗さは1.219nmとなった。
【0082】
次に、アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表1に示す。
【0083】
(参考例1)
合成例2で取得した溶液Bをスピンコート法により基材(18mm角、厚さ0.25mmの単結晶シリコン基板)表面上に塗布した。大気中、室温において、溶液B0.5mlを、前記シリコン基板に滴下し、回転数800rpmで30秒間基板を回転させた後に、回転数2000rpmで8秒間基板を回転させて、溶液をシリコン基板全体に塗布し、室温で乾燥させた。室温で乾燥後、合成例1で取得したC液0.3mlをシリコン基板上に滴下し、塗布した。室温で乾燥後、100℃で2時間焼成を行い、アルミニウム酸化物を取得した。
【0084】
次に、アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表1に示す。
【0085】
(実施例2)
焼成温度を700℃に変更した以外は実施例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
取得したアルミニウム酸化物物品の同定のために、TEM、XRD、XRR及びAFMの測定を行った。
TEMによりアルミニウム酸化物表面から内面に向かう深さ方向において、アルミニウム酸化物物品全体が観察できる且つ、海島構造を確認できるTEM画像を取得した。TEM画像から海部と島部を有する海島構造をしていることが確認された。次にTEMの観察倍率を150万倍に上げて観察したTEM画像より、島部は粒の周辺が結晶化していることが分かった。粒周辺の濃淡が明らかであり、その濃淡の差異により粒と識別できる場所を島部と識別した。
【0086】
実施例1と同様の画像処理を行い、島部の各領域及び全体の粒径の平均値、島部の各領域に対する粒径の比率、島部の各領域に対する個数の比率を算出した。結果を表1に示す。
【0087】
前記XRD装置を用いてアルミニウム酸化物物品のXRD測定を行った結果、回折ピークは得られなかった。
回折ピークが得られなかった要因は、実施例1と同様であると考えられる。
アルミニウム酸化物物品のXRR測定を行った結果、膜密度は2.2g/cm
3となった。
アルミニウム酸化物物品のAFM測定を行った結果、二乗平均平方根粗さは6.214nmとなった。
次に、アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表1に示す。
【0088】
(参考例2)
焼成温度を700℃以外は参考例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
【0089】
取得したアルミニウム酸化物物品の同定のために、TEMの測定を行った。
TEMによりアルミニウム酸化物表面から内面に向かう深さ方向において、アルミニウム酸化物物品全体が観察できる且つ、海島構造を確認できるTEM画像を取得した。TEM画像から海部と島部を有する海島構造をしていることが確認された。次にTEMの観察倍率を150万倍に上げて観察したTEM画像より、島部は粒の周辺が結晶化していることが分かった。粒周辺の濃淡が明らかであり、その濃淡の差異により粒と識別できる場所を島部と識別した。
実施例1と同様の画像処理を行い、島部の各領域及び全体の粒径の平均値、島部の各領域に対する粒径の比率、島部の各領域に対する個数の比率を算出した。結果を表1に示す。
次に、アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表1に示す。
【0090】
(実施例3)
用いた基材を18mm角のPET基板に変更した以外は実施例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
取得したアルミニウム酸化物物品の同定のために、TEM測定及び可視光透過測定を行った。
TEMによりアルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向において、アルミニウム酸化物物品全体が観察できる且つ、海島構造を確認できるTEM画像を取得した。TEM画像から海部と島部を有する海島構造をしていることが確認された。次にTEMの観察倍率を150万倍に上げて観察したTEM画像より、島部は粒の周辺が結晶化していることが分かった。粒周辺の濃淡が明らかであり、その濃淡の差異により粒と識別できる場所を島部と識別した。
実施例1と同様の画像処理を行い、島部の各領域及び全体の粒径の平均値、島部の各領域に対する粒径の比率、島部の各領域に対する個数の比率を算出した。結果を表1に示す。
【0091】
アルミニウム酸化物物品の可視光透過率測定の結果、550nmにおける垂直球透過率は84%、積分球透過率は91%となった。さらに、垂直球透過率と積分透過率から求めたヘイズ率は8.3%となった。
次に、アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験及びガスバリア試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表1に示す。
ガスバリア試験の結果を表2に示す。
【0092】
(参考例3)
用いた基材を18mm角のPET基板に変更した以外は参考例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
取得したアルミニウム酸化物物品の同定のために、TEM測定を行った。
TEMによりアルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向において、アルミニウム酸化物物品全体が観察できる且つ、海島構造を確認できるTEM画像を取得した。TEM画像から海部と島部を有する海島構造をしていることが確認された。次にTEMの観察倍率を150万倍に上げて観察したTEM画像より、島部は粒の周辺が結晶化していることが分かった。粒周辺の濃淡が明らかであり、その濃淡の差異により粒と識別できる場所を島部と識別した。
実施例1と同様の画像処理を行い、島部の各領域及び全体の粒径の平均値、島部の各領域に対する粒径の比率、島部の各領域に対する個数の比率を算出した。結果を表1に示す。
次に、アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験及びガスバリア試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表1に示す。
ガスバリア試験の結果を表2に示す。
【0093】
(実施例4)
焼成温度を200℃、用いた基材をLiCoO
2基板(豊島製作所製)に変更した以外は実施例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
LiCoO
2基板はSi基板上にスパッタ成膜により成膜を行った基板である。
取得したアルミニウム酸化物物品の同定のために、TEM、SEM及びXPSの測定を行った。
TEMによりアルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向において、アルミニウム酸化物物品全体が観察できる且つ、海島構造を確認できるTEM画像を取得した。
図7(10万倍)に示す。TEM画像から海部と島部を有する海島構造をしていることが確認された。次にTEMの観察倍率を150万倍に上げて観察したTEM画像より、島部は粒の周辺が結晶化していることが分かった。粒周辺の濃淡が明らかであり、その濃淡の差異により粒と識別できる場所を島部と識別した。
【0094】
実施例1と同様の画像処理を行った。
図8に島部を認識した結果を示す。その後、島部の各領域及び全体の粒径の平均値、島部の各領域に対する粒径の比率、島部の各領域に対する個数の比率を算出した。結果を表1に示す。
SEMにより、アルミニウム酸化物物品の基材からの厚さを明らかにした。アルミニウム酸化物物品の基材からの厚さは約210nmであった。
アルゴンエッチングを行い、XPS測定を繰り返すことにより、アルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向における、それぞれの場所のXPSピークの取得を行った。
アルミニウム酸化物物品表面から基材までのアルゴンエッチングに要した時間は13分であった。アルミニウム酸化物物品と基材(LiCoO
2)の境界面の判断は、基材であるさらに、LiCoO
2のCoの2p軌道のピークで行った。
SEMにより求めたアルミニウム酸化物物品の基材からの厚さと、アルミニウム酸化物の表面から基材までのアルゴンエッチングに要した時間を用いてエッチング速度を算出した。計算の結果、エッチング速度は16nm/分となった。
求めたエッチング速度から、測定したアルミニウム酸化物物品の、アルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向における測定場所は、アルミニウム酸化物物品表面から16nm、64nm、112nm、160nm、208nmの場所であることを特定した。
アルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向においての、AlとOのピーク面積強度の比率から、AlとOの組成はすべての場所でほとんど変化がないことが確認された。AlとOの組成の比率を表4に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
次に、Alの2p軌道のピークを2つのピーク、分離ピーク1と分離ピーク2に分離を行った。アルミニウム酸化物物品表面から内面へ向かう深さ方向において、すべての場所で、分離ピーク1及び分離ピーク2のピーク位置は一定であった。ピーク分離には、解析ソフトOriginePro2015のピークフィット機能により、ガウス関数を使用した。
【0100】
分離したそれぞれの分離ピークの面積比率を表5に示す。
【0101】
【表5】
【0102】
アルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向において、どの測定場所でも、分離ピーク1と分離ピーク2の比率はほぼ同じであった。このことから、アルミニウム酸化物物品表面から基材方向において、アルミニウム原子の結合状態がほぼ一定であるとわかった。
【0103】
(参考例4)
焼成温度を200℃、用いた基材をLiCoO
2基板(豊島製作所製)に変更した以外は参考例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
LiCoO
2基板はSi基板上にスパッタ成膜により成膜を行った基板である。
取得したアルミニウム酸化物物品の同定のために、TEM、SEM及びXPSの測定を行った。
TEMによりアルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向において、アルミニウム酸化物物品全体が観察できる且つ、海島構造を確認できるTEM画像を取得した。
図9(10万倍)に示す。TEM画像から海部と島部を有する海島構造をしていることが確認された。次にTEMの観察倍率を150万倍に上げて観察したTEM画像より、島部は粒の周辺が結晶化していることが分かった。粒周辺の濃淡が明らかであり、その濃淡の差異により粒と識別できる場所を島部と識別した。
【0104】
実施例1と同様の画像処理を行った。
図10に島部を認識した結果を示す。その後、島部の各領域及び全体の粒径の平均値、島部の各領域に対する粒径の比率、島部の各領域に対する個数の比率を算出した。結果を表1に示す。
SEMにより、アルミニウム酸化物物品の基材からの厚さを明らかにした。アルミニウム酸化物物品の基材からの厚さは約339nmであった。
アルミニウム酸化物物品表面から基材までのアルゴンエッチングに要した時間は7分であった。アルミニウム酸化物と基材(LiCoO
2)の境界面の判断は、基材であるさらに、LiCoO
2のCoの2p軌道のピークで行った。
SEMにより求めたアルミニウム酸化物物品の基材からの厚さと、アルミニウム酸化物物品表面から基材までのアルゴンエッチングに要した時間を用いてエッチング速度を算出した。計算の結果、エッチング速度は48nm/分となった。
求めたエッチング速度から、測定したアルミニウム酸化物物品の、アルミニウム酸化物物品表面から基材の方向における測定場所は、アルミニウム酸化物表面から48nm、194nm、339nmの場所であることを特定した。
アルミニウム酸化物物品表面から内面へ向かう深さ方向においての、AlとOの組成の比率から、AlとOの組成はすべての場所でほとんど変化がないことが確認された。AlとOの組成の比率を表6に示す。
【0105】
【表6】
【0106】
次に、Alの2p軌道のピークを2つのピーク、分離ピーク1と分離ピーク2に分離を行った。アルミニウム酸化物物品表面から内面へ向かう深さ方向において、すべての場所で、分離ピーク1及び分離ピーク2のピーク位置は一定であった。ピーク分離には、解析ソフトOriginePro2015のピークフィット機能により、ガウス関数を使用した。
【0107】
分離したそれぞれの分離ピークの面積比率を表7に示す。
【表7】
【0108】
アルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向において、基材表面に近づくと、分離ピーク2の比率が増加することがわかった。このことから、アルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向において、アルミニウム原子の結合状態が一定ではないことがわかった。
【0109】
(比較例1)
基材であるPET基板の特性を調べるために、鉛筆硬度試験及びガスバリア試験を行った。
ガスバリア試験の結果を表2に示す。
【0110】
(比較例2)
焼成温度を400℃、焼成時間を2分とし、基材をガラス基板に変更した以外は実施例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験を行った。鉛筆硬度試験の結果を表3に示す。
【0111】
(実施例5)
焼成温度を400℃、焼成時間を5分、10分、30分、60分とし、基材をガラス基板に変更した以外は実施例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表3に示す。
【0112】
(比較例3)
焼成時間を2分、5分とし、基材をPET基板に変更した以外は実施例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表3に示す。
【0113】
(実施例6)
焼成時間を10分とし、基材をPET基板に変更した以外は実施例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表3に示す。
【0114】
(実施例7)
焼成温度を75℃、焼成時間を10分とし、基材をPET基板に変更した以外は実施例1と同様にし、アルミニウム酸化物物品を取得した。
アルミニウム酸化物物品の特性を評価するために鉛筆硬度試験を行った。
鉛筆硬度試験の結果を表3に示す。
【0115】
(実施例8)
コバルト酸リチウム(Aldrich製、99.8%trace metals basis、以下、LiCoO
2と略記)は100℃、5kPaで約3時間乾燥したものを用いた。窒素気流下、前処理した20gのLiCoO
2にNMP、9.3gを加え、スラリー状に撹拌した。このスラリー溶液に合成例1で合成した溶液A(アルミ濃度6.2wt%)を0.6g(アルミナ換算でLiCoO
2、100質量部に対して0.5質量部)加え、一晩撹拌した。次にエバポレーターを用いて溶媒を留去したあと、大気中でるつぼに移し、200℃の温度条件下、2時間焼成処理を行った。ICP発行分光分析装置を用いて、得られたアルミニウム酸化物被覆LiCoO
2中のアルミ濃度を測定した結果、アルミ濃度は0.15wt%とほぼ理論値通りのアルミ濃度である事が確認された。
【0116】
TEMによりアルミニウム酸化物物品表面から内面に向かう深さ方向において、アルミニウム酸化物物品全体が観察できる且つ、海島構造を確認できるTEM画像を取得した。TEM画像から海部と島部を有する海島構造をしていることが確認された。次にTEMの観察倍率を150万倍に上げて観察したTEM画像より、島部は粒の周辺が結晶化していることが分かった。粒周辺の濃淡が明らかであり、その濃淡の差異により粒と識別できる場所を島部と識別した。TEM画像から島部が一様に点在している状態であることが分かった。
【0117】
得られたアルミニウム酸化物物品被覆LiCoO
2に導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をアルミニウム酸化物被覆LiCoO
2:アセチレンブラック:PVDF=94:3:3となるように配合し、NMPを用いてスラリー化したものをアルミ製集電体上に一定の膜厚で塗布し、乾燥させて正極シートを得た。
【0118】
電解液溶媒としてエチレンカーボネート(以下ECと略す)、エチルメチルカーボネート(以下EMCと略す)を体積比3:7の割合で混合した溶媒(キシダ化学製電池グレード)を用い、混合溶媒に電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.0mol/L溶解させたものを電解液として用いた。
【0119】
負極活物質に金属リチウム箔(本荘ケミカル製、0.5mm厚)、セパレータに無機フィラー含有ポリオレフィン多孔質膜を用いて、
図11に示した構造のコイン型セルを用いたリチウム二次電池を作成した。リチウム二次電池はセパレータ6を挟んで正極1、負極4を対向配置し、負極ステンレス製キャップ3にステンレス製板バネ5を設置し、負極4、セパレータ6および正極1からなる積層体をコイン型セル内に収納した。この積層体に本発明の電解液を注入した後、ガスケット7を配置後、正極ステンレス製キャップ2をかぶせ、コイン型セルケースを加締めることで作成した。
【0120】
このアルミニウム酸化物被覆LiCoO
2正極と金属リチウムによって作成したコインセル型リチウム二次電池(ハーフセル)を25℃の恒温条件下、0.1CmAの充電電流で上限電圧を4.2Vとして充電し、続いて0.1CmAの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この操作を3回行った後に50℃の恒温条件下、1CmAの充電電流で4.5Vまで定電流‐低電圧充電を行い、1CmAの放電電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とし、この操作を100回繰り返した際の放電容量を測定し、100サイクル後の放電容量/初期放電容量比をサイクル維持率として比較を行った。その結果、100サイクル後の放電容量維持率は96%であった。
【0121】
(比較例4)
LiCoO
2の被覆処理を行わなかったこと以外は、実施例9と同様の方法で正極シートおよびコインセル型リチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。その結果、100サイクル後の放電容量維持率は14%であった。
【0122】
(実施例9)
LiCoO
2(Aldrich製)10gにNMP4.6gを混合し、窒素雰囲気下、合成例1と同様の方法で合成した溶液A(アルミ濃度6.2wt%)0.42gを混合した。この混合した溶液に還流装置を取り付け、窒素気流下、50℃に加熱し、6時間継続して撹拌した。この溶液を冷却後、アセチレンブラック(AB)、PVdFをLiCoO
2:AB:PVdF=94:3:3の重量比で配合し、NMPを用いてスラリー化したものをアルミ集電体に一定の膜厚で塗布し、乾燥させて正極シートを得た。得られた正極シートを用いて、作成例1と同様の方法でコインセル型リチウム二次電池を作成した。
【0123】
作成したアルミニウム酸化物物品被覆LiCoO
2正極と金属リチウムによって作成したコインセル型リチウム二次電池(ハーフセル)を25℃の恒温条件下、0.1CmAの充電電流で上限電圧を4.2Vとして充電し、続いて0.1CmAの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この操作を3回行った後に25℃の恒温条件下、1CmAの充電電流で4.5Vまで定電流‐低電圧充電を行い、1CmAの放電電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とし、この操作を100回繰り返した際の放電容量を測定し、100サイクル後の放電容量/初期放電容量比をサイクル維持率として比較を行った。その結果、100サイクル後の放電世横領維持率は27%であった。