(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記底面部材は、紙からなる基材層と、前記基材層の前記内表面側に積層された樹脂とアルミニウムフィラーとを含むマイクロ波発熱層と、前記マイクロ波発熱層の前記内表面側に積層された前記第1の合成樹脂層とを備える、請求項1又は請求項2記載の紙容器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来の紙容器では、側壁部材と底面部材とを互いに異なる原紙から製造した場合に、側壁部材の表面のポリエステル樹脂層と底面部材の表面のポリエステル樹脂層とを熱接着した接着箇所において、接着強度が低く接着が剥がれる場合があった。
【0007】
上記接着箇所の接着が剥がれた場合には、底面部材と胴体部との一体化が解除され、紙容器の収容物が漏出する等の問題が発生しかねない。
【0008】
又、上記接着箇所の接着性は、製造された紙容器の外観等から判断することは容易でなく、接着箇所を剥がす方向の引張試験(測定装置又は手作業による)等を直接実施することで接着強度を測定し、接着性を評価する場合には、手間が生じていた。更に、接着前の紙容器原紙において、熱接着後の接着性が良好となるか否かをあらかじめ評価する方法も一般的には知られていなかった。
【0009】
更に、このような熱接着によるポリエステル樹脂同士の接着性を向上させることは、紙容器に限らず他のポリエステル樹脂同士の接合構造においても同様に課題となっていた。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、底面部材と側壁部材とが良好に接着された紙容
器、紙容器の製造方法、及び、接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、少なくともその内表面に第1の
ポリエチレンテレフタレートからなる第1の合成樹脂層が積層された底面部材と、少なくともその内表面に第2の
ポリエチレンテレフタレートからなる第2の合成樹脂層が積層され、その一部の内表面と底面部材の周縁の内表面とが熱接着により接続され上方に立ち上がる側壁部材とを備える紙容器であって、第1の
ポリエチレンテレフタレートの二次昇温における降温結晶化温度(「Tc2´α」とする)と第2の
ポリエチレンテレフタレートの二次昇温における降温結晶化温度(「Tc2´β」とする)との差(|Tc2´β−Tc2´α|)が20℃を超えないように設定されて
おり、第1のポリエチレンテレフタレート及び第2のポリエチレンテレフタレートは、その結晶化度がいずれも3%以上12%以下であるものである。
【0012】
このように構成すると、熱接着の接着強度が向上する。
【0015】
請求項
2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、第1の
ポリエチレンテレフタレート及び第2の
ポリエチレンテレフタレートは、その一方の結晶化度が5%以上12%以下であり、その他方の結晶化度が3%以上5%以下であるものである。
【0016】
このように構成すると、熱接着の接着強度がより向上する。
【0017】
請求項
3記載の発明は、請求項1
又は請求項2記載の発明の構成において、底面部材は、紙からなる基材層と、基材層の内表面側に積層された樹脂とアルミニウムフィラーとを含むマイクロ波発熱層と、マイクロ波発熱層の内表面側に積層された第1の合成樹脂層とを備えるものである。
【0018】
このように構成すると、電子レンジで加熱したとき、収容物の発熱効率が向上する。
【0023】
請求項
4記載の発明は、少なくともその内表面に第1の
ポリエチレンテレフタレートからなる第1の合成樹脂層が積層された底面部材と、少なくともその内表面に第2の
ポリエチレンテレフタレートからなる第2の合成樹脂層が積層され、第2の
ポリエチレンテレフタレートの二次昇温における降温結晶化温度(「Tc2´β」とする)と第1の
ポリエチレンテレフタレートの二次昇温における降温結晶化温度(「Tc2´α」とする)との差(|Tc2´β−Tc2´α|)が20℃を超えないように設定されている側壁部材とを準備する準備工程と、側壁部材の一部の内表面と底面部材の周縁の内表面とを熱接着により接続する溶着工程とを備え
、第1のポリエチレンテレフタレート及び第2のポリエチレンテレフタレートは、その結晶化度がいずれも3%以上12%以下であるものである。
【0024】
このように構成すると、熱接着の接着強度が向上する。
【0025】
請求項
5記載の発明は、少なくともその表面に第1の
ポリエチレンテレフタレートからなる第1の合成樹脂層が積層された第1部材と、少なくともその表面に第2の
ポリエチレンテレフタレートからなる第2の合成樹脂層が積層され、その少なくとも一部の表面と第1部材の少なくとも一部の表面とが熱接着により接続された第2部材とを備える接合構造であって、第1の
ポリエチレンテレフタレートの二次昇温における降温結晶化温度(「Tc2´α」とする)と第2の
ポリエチレンテレフタレートの二次昇温における降温結晶化温度(「Tc2´β」とする)との差(|Tc2´β−Tc2´α|)が20℃を超えないように設定されて
おり、第1のポリエチレンテレフタレート及び第2のポリエチレンテレフタレートは、その結晶化度がいずれも3%以上12%以下であるものである。
【0026】
このように構成すると、熱接着の接着強度が向上する。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、熱接着の接着強度が向上するため、底面部材と側壁部材とが良好に接着された紙容器となる。
【0029】
請求項
2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、熱接着の接着強度がより向上するため、底面部材と側壁部材とがより良好に接着された紙容器となる。
【0030】
請求項
3記載の発明は、請求項1
又は請求項2記載の発明の効果に加えて、電子レンジで加熱したとき、収容物の発熱効率が向上するため、収容物が均一に加熱される紙容器となる。
【0033】
請求項
4記載の発明は、熱接着の接着強度が向上するため、底面部材と側壁部材とが良好に接着された紙容器を安定的に製造することができる。
【0034】
請求項
5記載の発明は、熱接着の接着強度が向上するため、第1部材と第2部材とが良好に接着された接合構造となる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1はこの発明の第1の実施の形態による紙容器の全体形状を示す概略斜視図であり、
図2は
図1で示したII−IIラインの概略端面図であり、
図3は
図2で示した“X”部分の概略拡大図である。
【0037】
これらの図を参照して、紙容器1は、円板状の底面部材3と、底面部材3の周縁と接続され上方に立ち上がる円筒状の側壁部材4と、側壁部材4の上端縁にカール状に形成された縁巻部5とから構成され、上方に開放されている。
【0038】
特に
図3に示されるように、底面部材3は、紙からなる基材層7と、基材層7の内表面側に積層された樹脂とアルミニウムフィラーとを含むマイクロ波発熱層14と、マイクロ波発熱層14の内表面側に積層された第1の合成樹脂層8から構成されている。即ち、底面部材3の内表面(紙容器1の内部方向の表面)には第1のポリエチレンテレフタレートからなる第1の合成樹脂層8が押出ラミネートにより積層されている。
【0039】
尚、底面部材3の基材層7の坪量は150g/m
2〜500g/m
2であることが好ましく、マイクロ波発熱層14の厚さは50μm〜500μmであることが好ましい。このように構成することで、成形が容易となると共にコストを抑制することができる。尚、マイクロ波発熱層14自体は、底面部材3の表面に露出することが基本的にないため、後述する第1の合成樹脂層と第2の合成樹脂層との熱接着には影響を及ぼさない。
【0040】
又、マイクロ波発熱層14は、アルミニウムフィラーを層中に均一に含有する合成樹脂からなる。アルミニウムフィラーは、その平均粒子径(レーザー回折散乱法に基づく体積平均値)が1μm〜30μmのアルミニウムの粉状体(粒状体)であり、マイクロ波発熱層14の全体100重量%において30重量%〜95重量%含まれる。例えばアトマイズ法等の公知の方法により製造することができる。又、マイクロ波発熱層14に用いられる樹脂は特に限定されないが、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ニトロセルロース樹脂等が挙げられる。
【0041】
又、第1の合成樹脂層8の厚さは6μm〜50μmであることが好ましい。6μm以下であると、後述する第1の合成樹脂層と第2の合成樹脂層との熱接着の際にトンネリングやピンホールが発生したり耐熱性が不十分となったりすることで接着性が不良となる虞があり、50μm以上であると、熱接着の際に合成樹脂層の温度が均一に適切に上昇し難く、後述する本発明の降温結晶化温度又は結晶化度の設定による効果が十分に奏されない虞がある。即ち、上記数値範囲内に設定することで、熱接着の接着性がより良好となる。
【0042】
又、側壁部材4は、紙からなる側壁基材層9と、側壁基材層9の一方面側に積層された第2のポリエチレンテレフタレートからなる第2の合成樹脂層10とから構成されている。即ち、側壁部材4の内表面(紙容器1の内部方向の表面)には第2のポリエチレンテレフタレートからなる第2の合成樹脂層10が、押出ラミネートにより積層されている。
【0043】
尚、側壁部材4の側壁基材層9の厚さは、底面部材3の基材層7と同様に坪量150g/m
2〜500g/m
2あることが製造上の便宜の観点から好ましい。
【0044】
又、第2の合成樹脂層10の厚さは6μm〜50μmであることが好ましい。第1の合成樹脂層の場合と同様に、6μm以下であると、後述する第1の合成樹脂層と第2の合成樹脂層との熱接着の際にトンネリングやピンホールが発生したり耐熱性が不十分となったりすることで接着性が不良となる虞があり、50μm以上であると、熱接着の際に合成樹脂層の温度が均一に適切に上昇し難く、後述する本発明の降温結晶化温度及び結晶化度の設定による効果が十分に奏されない虞がある。即ち、上記数値範囲内に設定することで、熱接着の接着性がより良好となる。
【0045】
このようにして、紙容器1の内面には、PETからなる合成樹脂層が押出ラミネートにより積層された状態となっている。
【0046】
又、底面部材3の周縁11は下方に折り曲げられると共に、側壁部材4の下端部12は底面部材3の周縁11の折り曲げられた部分を覆うように上方に折り曲げられている。
【0047】
そして、
図3の“Y”部分に含まれる箇所(接着箇所)において、底面部材3の内表面と側壁部材4の内表面とが熱接着により接続され、紙容器1が上方に開放された円筒形状となるように構成している。
【0048】
このようにして構成された紙容器1は、PETの耐熱性や収容物の臭気の収着の低さを利用して、例えば内部にグラタン等の食品を収容する目的に好適に用いられる。
【0049】
又、後述するように、底面部材3の内表面に積層された第1のPETの示差走査熱量測定(後述)の二次昇温における降温結晶化温度(Tc2´αとする)と、側壁部材4の内表面に積層された第2のPETの二次昇温における降温結晶化温度(Tc2´βとする)との差(|Tc2´β−Tc2´α|)は20℃を超えないように設定されている。
【0050】
このように構成することで、熱接着の接着強度が向上するため、底面部材と側壁部材とが良好に接着された紙容器となる。
【0051】
加えて、この実施の形態では、上述したように底面部材3には樹脂とアルミニウムフィラーとを含むマイクロ波発熱層14が形成されていることによって、電子レンジで加熱したとき、収容物の発熱効率が向上するため、収容物が均一に加熱される紙容器となっている。
【0052】
次に、PETの降温結晶化温度について説明する。
【0053】
図4は
図1で示した紙容器の側壁部材の第2のPETに対する、示差走査熱量測定による一次昇温の測定結果を示す図であり、
図5は
図1で示した紙容器の側壁部材の第2のPETに対する、示差走査熱量測定による二次昇温の測定結果を示す図である。
【0054】
示差走査熱量測定(以下、「DSC」と称する)は、測定試料と基準物質との間の熱量の差を計測することで、融点やガラス転移点等を測定する熱分析の手法である。室温の状態から一次昇温を行い測定試料を溶融させ、その溶融状態から急冷することで熱履歴による結晶性への影響をなくし、再度昇温及びその後降温させる二次昇温において測定試料の物性を測定することができる。
【0055】
図4及び
図5に示すDSCは、上述した紙容器1の側壁部材3の内表面から所定量(例えば約4mg)の第2のPETをサンプリングし、示差走査熱量計により測定したものである。ここで測定条件としては、一次昇温は、例えばサンプルが40℃の状態から開始し、20℃/分の昇温速度で285℃まで温度を上昇させたものをいう。又、二次昇温は、例えば一次昇温後に285℃で3分間温度を保持した後、液体窒素中で急冷し、サンプルが40℃の状態から開始し、20℃/分の昇温速度で285℃まで温度を上昇させ、285℃で3分間温度を保持した後、10℃/分の降温速度で40℃まで温度を降下させたものをいう。
【0056】
これらの図において、図の横軸は温度[℃]を表し、縦軸は測定した吸熱・発熱量[mW/mg]を表す。
【0057】
まず
図4を参照して、点21は、一次昇温におけるガラス転移点(以下、「Tg」とする)を表し、本実施の形態の第2のPETにおいては79℃である。ガラス転移点は、非晶部ポリマー分子の相対的な位置は変化しないが分子主鎖が回転や振動を始める、又は停止する温度である。
【0058】
点22a、22bは、一次昇温における結晶化に伴う発熱ピークに対応する温度である昇温結晶化温度(以下、「Tc1」とする)を表し、本実施の形態の第2のPETにおいては、それぞれ、137℃、156℃である。
【0059】
又、一次昇温における結晶化に伴う発熱ピークの面積で表される発熱量[J/g]をΔHc1とすると、本実施の形態の第2のPETにおいては23J/gである。
【0060】
点23は、一次昇温における融解に伴う吸熱ピークに対応する温度である融点(以下、「Tm」とする)を表し、本実施の形態の第2のPETにおいては250℃である。
【0061】
又、一次昇温における融解に伴う吸熱ピークの面積で表される吸熱量[J/g]をΔHmとすると、本実施の形態の第2のPETにおいては27J/gである。
【0062】
そして、サンプルとしたPETの全容積に占める結晶部の比率を表す結晶化度は、PET完全結晶の融解熱量を117.6J/g(文献値)として、以下の式で算出され、本実施の形態の第2のPETにおいては3%である。
【0063】
結晶化度(%)=(ΔHm−ΔHc1)/117.6×100
次に
図5を参照して、点24は、二次昇温におけるガラス転移点(以下、「Tg´」とする)を表し、本実施の形態の第2のPETにおいては78℃である。
【0064】
点25a、25bは、二次昇温において温度を上昇させていく昇温過程の結晶化に伴う発熱ピークに対応する温度である昇温結晶化温度(以下、「Tc1´」とする)を表し、本実施の形態の第2のPETにおいては、それぞれ、138℃、153℃である。
【0065】
又、二次昇温における昇温過程の結晶化に伴う発熱ピークの面積で表される発熱量[J/g]をΔHc1´とし、本実施の形態の第2のPETにおいては29J/gである。
【0066】
点26は、二次昇温における融点(以下、「Tm´」とする)を表し、本実施の形態の第2のPETにおいては249℃である。
【0067】
又、二次昇温における融解に伴う吸熱ピークの面積で表される吸熱量[J/g]をΔHm´とすると、本実施の形態の第2のPETにおいては30J/gである。
【0068】
点27は、二次昇温における、溶融状態から温度を降下させていく降温過程の結晶化に伴う発熱ピークに対応する温度である降温結晶化温度(以下、「Tc2´」とする)を表し、本実施の形態の第2のPETにおいては211℃である。Tc2´は、素材として同一のPETを用いたとしても、例えば押出ラミネートの際の温度や厚さ等の製造上の条件や温度・湿度雰囲気条件で変化し得るものである。換言すれば、上述のように第1のPET及び第2のPETの少なくとも一方の製造条件等を当業者が適宜変更することで、両者のTc2´の差を所望の数値範囲内に設定することができる。
【0069】
又、二次昇温における降温過程の結晶化に伴う発熱ピークの面積で表される発熱量[J/g]をΔHc2´とすると、本実施の形態の第2のPETにおいては36J/gである。
【0070】
これらの物性値は、第1のPETに対しても同様にDSCによって測定することができ、第1のPETと第2のPETとのヒートシールによる接着性の是非に影響するものであり、その詳細は後述する。
【0071】
次に
図6は
図1で示した紙容器の溶着工程前の紙容器原紙の形状を示す概略平面図であって、(1)は側壁部材を示すものであり、(2)は底面部材を示すものである。
【0072】
まず図の(1)を参照して、側壁部材4´は、その表面に第2のPETからなる第2の合成樹脂層が積層された平面視円弧状のシートである。例えば紙からなる基材層の一方面に第2の合成樹脂層が押出ラミネートされた状態の原紙を打ち抜いて成形することで構成される。尚、このような紙容器の側壁部材を構成するための状態のものを、本明細書において側壁部材原紙と称する場合もある。
【0073】
又、図の(2)を参照して、底面部材3´は、その表面に第1のPETからなる第1の合成樹脂層が積層された平面視円形状のシートである。例えば紙からなる基材層の一方面に樹脂とアルミニウムフィラーとを含むマイクロ波発熱層を印刷もしくは塗布加工し、更に樹脂とアルミニウムフィラーとを含むマイクロ波発熱層の一方面側に第1の合成樹脂層が押出ラミネートされた状態の原紙を打ち抜いて成形することで構成される。尚、このような紙容器の底面部材を構成するための状態のものを、本明細書において底面部材原紙と称する場合もある。
【0074】
底面部材3´及び側壁部材4´は、その第1のPETと第2のPETとのTc2´の差が20℃を超えないように設定されている。
【0075】
図1で示した紙容器の製造にあっては、底面部材3´の周縁を、第2の合成樹脂層が外方(側壁部材4の方向)に向くように下方に折り曲げると共に、側壁部材4´の下端を、底面部材3´の周縁の折り曲げた部分を覆うように上方に折り曲げる。そして、第1のPETと第2のPETとが接触する状態とし、熱接着により接続することで
図3に示したような一体化した状態となる。即ち、上述した底面部材3´及び側壁部材4´を準備する準備工程と、側壁部材4´の一部の内表面と底面部材3´の周縁の内表面とを熱接着により接続する溶着工程とを経て、本実施の形態に係る紙容器が構成される。
【0076】
このとき、上述したように底面部材3´の第1のPETと側壁部材4´の第2のPETとのTc2´の差が20℃を超えないように設定されていることから、熱接着の接着強度が向上するため、底面部材と側壁部材とが良好に接着された紙容器を安定的に製造することができる。
【0077】
ここで、熱接着は、2つの合成樹脂からなる部材(本実施の形態においては第1のPETと第2のPET)を接触させ、所定の加熱温度、圧力及び時間設定で加熱操作を行うことで、合成樹脂の熱可塑性を利用して接着するものである。即ち、2つの合成樹脂が加熱された溶融状態で混ざり合い、冷却に伴い結晶化して一体化するものである。
【0078】
そのため、本実施の形態の第1のPETと第2のPETにあっては、そのTc2´が近い(Tc2´の差が基準値以内にある)ことで、溶融状態から結晶化し始めるタイミングが近しいものとなり、先に結晶化した層と溶融状態の層の2層に分離することなく、良好に2つのPETが一体化することで、熱接着の接着強度が向上したものと推測される。
【0079】
このような観点から、第1のPETと第2のPETとのTc2´の差(|Tc2´β−Tc2´α|)は、0℃より大きく20℃以下であることが好ましく、5℃以上20℃以下であることが更に好ましい。この基準値範囲内に設定することで熱接着の接着強度が安定的に向上する。
【0080】
このような上記Tc2´の差は、上述したDSCによって第1のPET及び第2のPETについて測定することで算出できる。
【0081】
そして、第1のPET及び第2のPETのTc2´は、製造工程における溶着工程を経て本実施の形態に係る紙容器として構成された状態の、底面部材及び側壁部材に対しても測定して取得することが可能である。
【0082】
即ち、上述した紙容器の底面部材と側壁部材との接着性を評価する接着性評価方法は、第1のPETのTc2´αと第2のPETのTc2´βとをDSCによって測定する等して取得する第1の工程と、その温度の差(|Tc2´β−Tc2´α|)が基準値範囲内であるか否かによって接着性の是非を評価する第2の工程とからなる。
【0083】
このようにすることで、差が基準値範囲内であるとき、紙容器の底面部材と側壁部材との接着性が良好であると評価することができるため、接着後の紙容器の接着箇所に対して、引張試験等を直接実施することなく接着性を評価することができる。
【0084】
又、第1のPET及び第2のPETのTc2´は、製造工程における溶着工程を経る前の底面部材及び側壁部材に対しても測定して取得することも可能である。
【0085】
即ち、上述した紙容器を構成するための紙容器原紙の底面部材と側壁部材との接着性をあらかじめ評価する接着性評価方法は、紙容器の底面部材を構成するための底面部材原紙の第1のPETのTc2´αと、紙容器の側壁部材を構成するための側壁部材原紙の第2のPETのTc2´βとをDSCによって測定する等して取得する第1の工程と、その温度の差(|Tc2´β−Tc2´α|)が基準値範囲内であるか否かによって接着性の是非を評価する第2の工程とからなる。
【0086】
このようにすることで、差が基準値範囲内であるとき、紙容器の底面部材と側壁部材との接着性が良好となると評価することができるため、接着前の紙容器原紙において、製造工程において熱接着した場合に接着性が良好となるか否かをあらかじめ評価することができる。
【0087】
これによって、例えば、第2のPETからなる第2の合成樹脂層を積層した側壁部材(側壁部材原紙)を製造した後、この第2のPETのTc2´をDSCにより測定しTc2´βを取得し、差(|Tc2´β−Tc2´α|)が基準値範囲内のTc2´αとなるような第1のPETからなる第1の合成樹脂層を積層した底面部材(底面部材原紙)を製造することができる。即ち、製造条件の指針として好適に用いることができる。
【0088】
尚、同一の製造ラインにおいて製造(押出ラミネート)された第1のPETにおいては、製造条件が同一である場合にはTc2´αは同一と推測できる。第2のPETにおけるTc2´βについても同様である。そのため、上述した接着前又は接着後の接着性評価方法の第1の工程における「取得」とは、製造された第1のPET又は第2のPETから所定数のサンプルを選択しTc2´をDSC等により測定して記録し、当該サンプルと同一の製造条件で製造した第1のPET又は第2のPETについてはTc2´を当該記録から推測することを含む。
【0089】
次に、第1のPET及び第2のPETの結晶化度について説明する。
【0090】
上述したように、本明細書においては結晶化度とはPETの全容積に占める結晶部の比率をいい、一般的にはPETの結晶化度が低いほど(0%に近づくほど)非晶部の比率が高くなるため被着体に対する熱接着の接着性が良好となるとされる。
【0091】
しかしながら本発明において、PET同士の熱接着の接着にあっては、一方のPETの結晶化度が3%以上12%以下とわずかに結晶化が進行している場合には、他方のPETの結晶化度が0%や1%と結晶化が全く進行していないものであると、一般的な知見とは異なって接着性が不良となり、一方のPETと同様に結晶化度が3%以上12%以下とわずかに結晶化が進行しているものであると接着性が良好となるという新たな知見を見出した。
【0092】
これは、PETの結晶化度が3%以上12%以下とわずかに結晶化が進行している場合には部分的に分子が規則的に配列されているのに対し、結晶化が全く進行していないものはランダムな分子配列であるため良好に相溶せず、同様にわずかに結晶化が進行しているものに対しては良好に相溶し接着したものと考えられる。
【0093】
即ち、第1のポリエチレンテレフタレート及び第2のポリエチレンテレフタレートは、その結晶化度がいずれも3%以上12%以下であることが好ましい。このように構成することで、熱接着の接着強度がより向上するため、底面部材と側壁部材とがより良好に接着された紙容器となる。又、第1のポリエチレンテレフタレート及び第2のポリエチレンテレフタレートは、その一方の結晶化度が5%以上12%以下であり、その他方の結晶化度が3%以上5%以下であることが更に好ましい。このように構成することで、熱接着の接着強度がより向上するため、底面部材と側壁部材とがより良好に接着された紙容器となる。
【0094】
このようなPETの結晶化度は、結晶核材の意図的な添加又は意図的でない添加、ラミネート条件(結晶化速度及び時間を含む)、加水分解又は熱分解等に起因する分子量低下等を適宜制御することで所定の数値範囲内に設定することができる。
【0095】
尚、本明細書において熱接着条件は、特筆しない限り、加熱温度350℃、圧力0.6MPa、加熱時間0.5秒で行うものとするが、その他の熱接着条件を除外するものではない。例えば、加熱温度200℃〜500℃、圧力0.2MPa〜0.6MPa、加熱時間0.3秒〜1.0秒の範囲内で適宜選択することができる。
【0096】
又、本発明の紙容器に用いる原紙にあっては、紙の種類は特に限定されないが、所望の用途に応じて、純白ロール紙、クラフト紙、パーチメント紙、アイボリー紙、マニラ紙、カード紙、カップ紙等を用いることができる。
【0097】
更に、上記の原紙の表裏面には、印刷が施されていても良い。これによって意匠性を向上させることができる。
【0098】
更に、本発明の紙容器は、その内部に食品等を収容した後、シーラントフィルムを用いてトップシールしても良い。
【0099】
更に、本発明の紙容器の縁巻部には、例えば縁巻部の先端部の外周側の表面に接着剤が塗布されていても良い。これによって縁巻部が接着剤により固定されるため、縁巻部のスプリングバックを抑制することができる。
【0100】
更に、上記の実施の形態にあっては、側壁部材の上端縁に縁巻部が形成されていたが、縁巻部が無くても良い。
【0101】
更に、上記の実施の形態にあっては、紙容器が特定の形状であったが、他の形状であっても良い。即ち、2種の部材がその一部同士を熱接着により接続されてなる紙容器であれば良く、例えば底面部材が平面視多角形のものが挙げられる。
【0102】
更に、上記の実施の形態にあっては、紙容器が特定の製造方法により製造されたものであったが、他の製造方法により製造されたものであっても良い。
【0103】
更に、上記の実施の形態にあっては、側面部材の下端の内表面が底面部材の周縁の内表面と接続されていたが、側面部材の一部の内表面であっても良い。
【0104】
更に、上記の実施の形態にあっては、底面部材に樹脂とアルミニウムフィラーとを含むマイクロ波発熱層が積層されていたが、該層がなくとも良い。
【0105】
更に、上記の実施の形態にあっては、底面部材の内表面に第1のPETからなる第1の合成樹脂層が積層されていたが、底面部材の両面(内表面及び反対側の外表面)に積層されていても良い。又、側壁部材の第2のPETからなる第2の合成樹脂層についても同様である。
【0106】
更に、本発明による第1のPETと第2のPETとの接着性は、例えば底面部材のみが樹脂とアルミニウムフィラーとを含むマイクロ波発熱層が積層されたものである場合等、側壁部材と底面部材とが異なる原紙を用いて構成される場合に特に好適に適用できる。第1のPETと第2のPETとの押出ラミネートの際の条件が異なる場合が多いためである。
【0107】
更に、上記の実施の形態にあっては、底面部材は基材層とその内表面に積層された第1の合成樹脂層とを含むものであったが、底面部材の実質的に熱接着に供される部分(内表面)が第1のPETからなる第1の合成樹脂層であれば良く、他の層が基材層との間に挟まれたり内表面の一部に現れたりしても良い。又、側壁部材の第2のPETからなる第2の合成樹脂層についても同様である。
【0108】
更に、上記の実施の形態にあっては、第1のPET及び第2のPETは素材として同一のPETを用いてラミネートされたものであったが、素材として異なるPETを用いてラミネートされたものであっても良い。
【0109】
更に、上記の実施の形態にあっては、底面部材の内表面に第1のPETが積層され、側壁部材の内表面に第2のPETが積層されていたが、第1のPETと第2のPETとを入れ替えても同様に本発明の熱接着に係る効果を奏することができる。
【0110】
更に、本明細書において、ポリエチレンテレフタレート(PET)とは、テレフタル酸あるいはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを重縮合して得られる熱可塑性ポリエステルをいう。
【0111】
更に、上記の実施の形態にあっては、第1のPETと第2のPETとが熱接着により接続された紙容器について説明したが、紙容器に限らず、第1のPETと第2のPETとが熱接着により接続された接合構造であれば本発明を同様に適用できる。即ち、少なくともその表面に第1のポリエチレンテレフタレートからなる第1の合成樹脂層が積層された第1部材と、少なくともその表面に第2のポリエチレンテレフタレートからなる第2の合成樹脂層が積層され、その少なくとも一部の表面と第1部材の少なくとも一部の表面とが熱接着により接続された第2部材とを備える接合構造であって、第1のポリエチレンテレフタレートの二次昇温における降温結晶化温度(「Tc2´α」とする)と第2のポリエチレンテレフタレートの二次昇温における降温結晶化温度(「Tc2´β」とする)との差(|Tc2´β−Tc2´α|)が20℃を超えないように設定されているものであれば良い。このように構成することで、熱接着の接着強度が向上するため、第1部材と第2部材とが良好に接着された接合構造となる。
【0112】
更に、上記の実施の形態にあっては、上述したPETの結晶化度の設定は紙容器におけるものであったが、上述した接着工程を経る前又は経た後の接着性評価方法、紙容器の製造方法、及び、接合構造についても同様に適用することができる。
【0113】
更に、上記の実施の形態にあっては、第1の合成樹脂層及び第2の合成樹脂層の各々に特定のPETが用いられていたが、第1の合成樹脂層及び第2の合成樹脂層の一方あるいは両方にPET以外のポリエステル樹脂を用いることもできる。このようなポリエステル樹脂としては、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等が挙げられる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例に基づいて本発明について具体的に説明する。尚、本発明の実施の形態は実施例に限定されるものではない。
【0115】
上述した本発明の実施の形態における側壁部材の第2のPETを熱接着の被着体とし、底面部材の第1のPETの構成を種々変更した各実施例及び比較例のサンプルを準備して、その各々の各種物性及び第2のPETとの熱接着の接着性を測定した。
【0116】
尚、各サンプルの第1のPET及び側壁部材の第2のPETは、いずれも素材として三菱化学株式会社製のPET樹脂BK−6180を使用した。
【0117】
又、合成樹脂層(側壁部材の第2のPETからなる第2の合成樹脂層及び各サンプルの底面部材の第1のPETからなる第1の合成樹脂層)の厚さは、断面を市販の顕微鏡により測定した。
【0118】
更に、各種物性はDSCにより測定した。その測定方法及び算出方法は本発明の実施の形態において上述したものと同様である。即ち、4mgの第2のPET及び各サンプルの第1のPETをサンプリングし、まず一次昇温としてサンプルが40℃の状態から開始し、20℃/分の昇温速度で285℃まで温度を上昇させた。この一次昇温においてTg、Tc1、ΔHc1、Tm、ΔHm及び結晶化度を測定及び算出した。そして、285℃で3分間温度を保持した後、液体窒素中で急冷し、二次昇温としてサンプルが40℃の状態から開始し、20℃/分の昇温速度で285℃まで温度を上昇させ、285℃で3分間温度を保持した後、10℃/分の降温速度で40℃まで温度を降下させた。この二次昇温においてTg´、Tc1´、ΔHc1´、Tm´、ΔHm´、Tc2´、ΔHc2´及び|Tc2´β−Tc2´α|を測定及び算出した。
【0119】
又、接着性試験として、側壁部材の第2のPETと各サンプルとを加熱温度380℃、圧力0.5MPa、加熱時間0.5秒で熱接着することで得られた接着幅8mmの各試料を、プッシュプルゲージ(アイコーエンジニアリング株式会社製デジタルプッシュプルゲージ MODEL−9502)を用いて100mm/minの速度で引張剥離し、その接着強度[N]を測定した。接着強度の数値は、剥離距離400mmとし、その時のピーク値とした。
【0120】
各サンプルの構成及び結果は以下の表1に示すようになった。
【0121】
【表1】
尚、表中、接着性が○(適)とは、熱接着の接着強度が実際の使用に耐える程度に良好であったことを示し、具体的には接着強度が4N以上であり、側壁部材と各サンプルの底面部材とを試験者の手で剥離したときの剥離箇所において紙剥け(第1のPET及び第2のPETの一方が他方に接着された状態のまま剥離し、基材層の紙が視認できたこと)が発生したことで評価した。
【0122】
又、接着性が◎(好適)とは、熱接着の接着強度が上記○より更に良好であったことを示し、具体的には接着強度が5N以上であったことで評価した。
【0123】
更に、接着性が×(不良)とは、熱接着の接着強度が不良であったことを示し、具体的には接着強度が4N未満であり、上述した剥離箇所において第1のPET及び第2のPET間で剥離し、紙剥けが発生しなかったことで評価した。
【0124】
表を参照して、実施例1〜実施例5は、いずれも第1のPETのTc2´αと第2のPETのTc2´βとの差(|Tc2´β−Tc2´α|)が20℃を超えないものであった。その結果、これらの接着性はいずれも良好となることが確認された。
【0125】
又、結晶化度は、側壁部材の第2のPETでは3%であり、接着性が◎(好適)であった実施例1では9%、実施例2では8%、実施例3では6%、実施例4では9%であった。又、接着性が○(適)であった実施例5では2%であった。更に、接着性が不良であった比較例1では1%、比較例2では0%であった。