(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ウレタン系鋳型の造型に用いられるウレタン硬化型有機粘結剤であって、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を含有すると共に、アミノ基を含有するアルコキシシラン(但し、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンを除く)からなる塩基性シラン化合物と、無機酸、有機スルホン酸(但し、メタンスルホン酸を除く)、有機カルボン酸、有機ホスホン酸及び有機酸のハロゲン化物からなる群より選択された酸若しくはそのハロゲン化物とを予め反応させて得られた反応生成物を含み、更に、炭素数が12以上の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(但し、不飽和二重結合の個数は一つである)を用いた高級脂肪酸エステルが、ポリイソシアネート化合物の100質量部に対して0.1〜30質量部の割合において、構成成分として配合せしめられてなることを特徴とする鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
前記ポリオール化合物の100質量部に対して、前記反応生成物が、0.1〜2.0質量部の割合で用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
前記アミノ基を含有するアルコキシシランが、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランからなる群より選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
前記酸若しくはそのハロゲン化物が、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ホウ酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ギ酸、酢酸、安息香酸、フェニルホスホン酸ジクロライド、イソフタル酸クロライド、塩化ベンゾイル、カプリル酸クロライド、ラウリン酸クロライド、ミリスチン酸クロライド、パルミチン酸クロライド、イソパルミチン酸クロライド、ステアリン酸クロライド、イソステアリン酸クロライド、オレイン酸クロライド及びセバシン酸ジクロライドからなる群より選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【背景技術】
【0002】
従来より、砂型鋳造において用いられる代表的な有機系鋳型の一つとして、フェノール樹脂の如きポリオール化合物と、ジフェニルメタンジイソシアネートの如きポリイソシアネート化合物とを粘結剤として用い、それらの重付加反応(ウレタン化反応)を利用して造型されるウレタン系鋳型、例えばフェノールウレタン系鋳型等と称するものが知られている。そして、そのようなフェノールウレタン系鋳型の如きウレタン系鋳型としては、造型時に加熱を必要としない、触媒としてアミンガスを用いたアミンコールドボックス法により製造される量産型のガス硬化鋳型や、常温自硬性法により製造される非量産型の自硬性鋳型が、広く知られている。
【0003】
具体的には、アミンコールドボックス法によるガス硬化鋳型は、通常、粒状耐火性鋳物砂を、ミキサーを用いて、有機溶剤を溶媒とするフェノール樹脂溶液とポリイソシアネート化合物溶液とからなる鋳型用有機粘結剤と混練することにより、そのような鋳物砂の表面を有機粘結剤で被覆してなる鋳物砂組成物を製造した後、かかる鋳物砂組成物を、所定の成形型内に吹き込んで鋳型を成形し、これに、アミン系触媒ガスを通気せしめて硬化を行うことにより、製造されている。また、常温自硬性法による自硬性鋳型は、粒状耐火性鋳物砂を、有機溶剤を溶媒とするフェノール樹脂溶液とポリイソシアネート化合物溶液とからなる鋳型用有機粘結剤と混練する際に、硬化触媒も混合し、その得られた混合物を、直ちに、所望の形状に成形することにより、製造されている。
【0004】
しかして、このようなフェノール樹脂とポリイソシアネート化合物との重付加反応(ウレタン化反応)を利用して得られるフェノールウレタン系鋳型の如きウレタン系鋳型にあっては、その化学的結合特性から、空気中の水分による硬化阻害や強度劣化等、所謂吸湿劣化の問題を内在するものであった。
【0005】
そこで、特表平1−501630号公報(特許文献1)においては、コールドボックス法で作製された鋳型の吸湿劣化防止対策として、エポキシシランやアミノシラン、ウレイドシラン等のシラン化合物を添加することが明らかにされているのであるが、そのようなシラン化合物をもってしても、未だ、十分な特性の確保には至らず、更なる吸湿劣化防止対策の確立が望まれていた。
【0006】
このため、特開2012−196700号公報(特許文献2)においては、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物に対して、更に、イソシアネート基を有するシラン化合物やイソシアネート基を有するアクリル化合物を組み合わせて、鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤を構成することにより、鋳型の吸湿劣化防止を図り、以て優れた鋳型強度を維持し得ることが明らかにされているが、そこでは、特別のイソシアネート基含有化合物を準備する必要があった。
【0007】
また、特開2001−205386号公報(特許文献3)においては、フェノール樹脂とイソシアネート化合物にホウ酸を組み合わせてなる気体状第三級アミン硬化性鋳型製造用粘結剤組成物が、明らかにされており、更にそこでは、粘結剤成分と骨材との接着性の向上を図るために、シラン化合物を含有せしめることが出来ることが、明らかにされている。そして、そのようなホウ酸を含有せしめてなる粘結剤組成物を用いることによって、従来の鋳型製造用組成物よりも可使時間が長く、そのために、粘結剤と粒状耐火性骨材とを混練して、数時間放置しても、鋳型としての強度を保持することが出来るとされているのであるが、そこにおける鋳型強度の評価は、湿度の高くない乾いた状況下において行われているに過ぎず、高湿度条件下においては、吸湿劣化によって鋳型強度が著しく低下して、充分な強度保持が困難となるものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、強度の耐吸湿劣化特性の向上せしめられた鋳型を有利に与え得るウレタン硬化型有機粘結剤を提供することにあり、また、造型後の放置による鋳型強度の向上を効果的に図ることの出来る鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤を提供することにもあり、更にそのようなウレタン硬化型有機粘結剤を用いた、優れた鋳型特性を付与し得る鋳物砂組成物、並びにその鋳物砂組成物を用いて造型された、優れた特性を有する鋳型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、かくの如き課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものである。なお、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいて採用可能であり、また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体の記載から把握される発明思想に基づいて認識され得るものであることが理解されるべきである。
【0011】
(1)ウレタン系鋳型の造型に用いられるウレタン硬化型有機粘結剤であって、ポリオー ル化合物及びポリイソシアネート化合物と共に、塩基性シラン化合物と酸若しくはそ のハロゲン化物との反応生成物を、構成成分として更に含むことを特徴とする鋳型用 ウレタン硬化型有機粘結剤。
(2)前記塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物が予め形成 されて、かかる反応生成物の形態において用いられる前記態様(1)に記載の鋳型用 ウレタン硬化型有機粘結剤。
(3)前記ポリオール化合物が、フェノール樹脂である前記態様(1)又は前記態様(2 )に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(4)前記フェノール樹脂が、オルソクレゾール変性フェノール樹脂である前記態様(3 )に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(5)前記ポリオール化合物の100質量部に対して、前記反応生成物が、0.1〜2. 0質量部の割合で用いられることを特徴とする前記態様(1)乃至前記態様(4)の 何れか1つに記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(6)前記塩基性シラン化合物が、アミノ基を含有するアルコキシシランであることを特 徴とする前記態様(1)乃至前記態様(5)の何れか1つに記載の鋳型用ウレタン硬 化型有機粘結剤。
(7)前記アミノ基を含有するアルコキシシランが、3−アミノプロピルトリメトキシシ ラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−ア ミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロ ピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチ リデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、 N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラ ン、ヘキサメチルジシラザン及び3−ウレイドプロピルトリアルコキシシランからな る群より選ばれることを特徴とする前記態様(6)に記載の鋳型用ウレタン硬化型有 機粘結剤。
(8)前記酸若しくはそのハロゲン化物が、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、フ ッ化水素酸、ホウ酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、安息香酸、フェニルホスホン酸ジクロライド、イソ フタル酸クロライド、塩化ベンゾイル、カプリル酸クロライド、ラウリン酸クロライ ド、ミリスチン酸クロライド、パルミチン酸クロライド、イソパルミチン酸クロライ ド、ステアリン酸クロライド、イソステアリン酸クロライド、オレイン酸クロライド 及びセバシン酸ジクロライドからなる群より選ばれることを特徴とする前記態様(1 )乃至前記態様(7)の何れか1つに記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(9)高級脂肪酸エステルを、更に構成成分として含むことを特徴とする前記態様(1) 乃至前記態様(8)の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤
(10)前記態様(1)乃至前記態様(9)の何れか1つに記載の鋳型用ウレタン硬化型 有機粘結剤と、鋳物砂とからなる鋳物砂組成物。
(11)前記態様(10)に記載の鋳物砂組成物を成形し、硬化せしめてなる鋳型。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤にあっては、その必須の構成成分であるポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物に加えて、更に、塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物を、構成成分として含むように構成されていることによって、そのような有機粘結剤を用いて造型される鋳型の強度の向上を有利に実現せしめ、特に、造型後における鋳型の放置強度を効果的に高め得ることとなったことに加えて、そのような鋳型の強度の耐吸湿劣化特性をも有利に向上せしめることが出来るのである。
【0013】
従って、本発明に従う鋳型用有機粘結剤を鋳物砂に混練せしめて得られる鋳物砂組成物にあっては、上述の如き優れた特性を有する鋳型を与え得るものとなり、また、そのような鋳物砂組成物を用いて造型された鋳型にあっては、優れた鋳型強度を有すると共に、強度の耐吸湿劣化特性の向上した鋳型として、目的とする金属の鋳造工程に有利に用いられ得ることとなるのである。
【0014】
なお、本発明にあっては、上述のような塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物と共に、高級脂肪酸エステルを併用することが、好適に推奨され、これによって、上記した鋳型強度やその吸湿劣化特性がより一層向上せしめられ得ることとなると共に、そのような特徴を維持したまま、鋳物砂との混練によって得られる鋳物砂組成物の可使時間のより有効な延長を図り得るという特徴を発揮せしめることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ところで、このような本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤において、その主たる成分の一つとして使用されるポリオール化合物としては、特に限定されるものではなく、従来からウレタン系の硬化鋳型を造型する際に用いられている公知の各種のポリオール化合物が、適宜に選択されて、用いられることとなる。具体的には、フェノール樹脂、ポリエーテルポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリマーポリオール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシブチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとの共重合体、テトラヒドロフランとプロピレンオキシドとの共重合体、テトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体等を挙げることが出来る。
【0016】
その中でも、ウレタン系の鋳型を造型する際に用いられるポリオール化合物として、フェノールウレタン系の鋳型を造型する際に用いられている、公知の各種のフェノール樹脂が、好適に用いられ得るのである。具体的には、反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを、フェノール類の1モルに対して、アルデヒド類が、一般に0.5〜3.0モルの割合になるようにして、付加・縮合反応せしめて得られる、有機溶媒に可溶なベンジルエーテル型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、及びそれらの変性フェノール樹脂、並びにこれらの混合物を例示することが出来、これらのうちの1種又は2種以上が、適宜に選択されて用いられることとなる。また、これらの中でも、特に、オルソクレゾールで変性したオルソクレゾール変性フェノール樹脂、更に好ましくはベンジルエーテル型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂及びその混合物にあっては、有機溶剤への溶解性やポリイソシアネート化合物との相溶性に優れているのみならず、得られる鋳型の強度(初期強度)等を効果的に向上せしめ得るところから、本発明においては、好適に用いられることとなる。
【0017】
なお、上記したフェノール類とアルデヒド類との付加・縮合反応の際に用いられる触媒としては、特に限定されるものではなく、所望とするフェノール樹脂のタイプに応じて、公知の酸性触媒や塩基性触媒の他、従来からフェノール樹脂の製造に用いられている各種の触媒が、適宜に用いられる。そして、そのような触媒としては、スズ、鉛、亜鉛、コバルト、マンガン、ニッケル等の金属元素を有する金属塩等を例示することが出来、より具体的には、ナフテン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、酢酸鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化鉛の他、このような金属塩を形成し得る酸と塩基の組み合わせ等を挙げることが出来る。また、かかる金属塩を反応触媒として採用する場合に、その使用量としては、特に限定されるものではないものの、一般に、フェノール類の100質量部に対して、0.01〜5質量部程度となる割合で、使用されることとなる。
【0018】
また、フェノール樹脂を与えるフェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノール、レゾルシノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA等の多価フェノール及びこれらの混合物等が挙げられる一方、アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、ポリオキシメチレン、グリオキザール、フルフラール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0019】
さらに、上述せるように、本発明において有利に採用されるフェノール樹脂の一つであるオルソクレゾール変性フェノール樹脂としては、例えば、金属塩等の反応触媒の存在下において、オルソクレゾール及びフェノールを、アルデヒド類と反応せしめて得られる、(1)オルソクレゾールとフェノールとの共縮合型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂、(2)オルソクレゾール樹脂とフェノール樹脂との混合型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂の他、これら(1)及び(2)の樹脂を変性剤(改質剤)で改質してなる、(3)改質型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂、及び、それら(1)、(2)及び(3)のうちの2種以上を組み合わせた混合物等を、例示することが出来る。なお、それら(1)、(2)及び(3)のオルソクレゾール変性フェノール樹脂は、何れも、よく知られており、本発明においては、そのような公知のものが、そのまま用いられることとなる。また、フェノール/オルソクレゾールの比率としては、質量基準にて、1/9〜9/1、好ましくは3/7〜7/3、より好ましくは4/6〜6/4の比率が採用されることとなる。
【0020】
そして、かくの如き本発明に従う鋳型用有機粘結剤の主たる成分の一つとして使用されるフェノール樹脂等のポリオール化合物は、その低粘度化、後述するポリイソシアネート溶液との相溶性、鋳物砂へのコーティング性、鋳型物性等の観点から、一般に、極性有機溶剤と非極性有機溶剤とを組み合わせてなる有機溶媒に溶解せしめられ、その濃度が、約30〜80質量%程度とされた溶液(以下、「フェノール樹脂溶液」という)の状態で、用いられることとなる。
【0021】
一方、本発明に従う鋳型用有機粘結剤において、その主たる成分の他の一つとして使用されるポリイソシアネート化合物は、上述せる如きフェノール樹脂等のポリオール化合物の活性水素と重付加反応することにより、鋳物砂同士をフェノールウレタンの如きウレタン結合で化学的に結合せしめ得るイソシアネート基を、分子内に2以上有する化合物である。そのようなポリイソシアネート化合物の具体例としては、芳香族、脂肪族、或いは脂環式のポリイソシアネート、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(以下、「ポリメリックMDI」という)、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートの他、これらの化合物をポリオールと反応させて得られるイソシアネート基を2以上有するプレポリマー等、従来より公知の各種ポリイソシアネートを挙げることが出来、これらは、単独で用いても、或いは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
さらに、かかるポリイソシアネート化合物にあっても、上述せる如きフェノール樹脂等のポリオール化合物と同様の理由から、一般に、非極性有機溶剤、又は非極性有機溶剤と極性溶剤との混合溶剤を溶媒として用い、この有機溶媒に、濃度が約40〜90質量%程度となるように溶解された溶液として用いられることとなる。なお、使用するポリイソシアネート化合物の種類等によっては、必ずしも、有機溶媒に溶解せしめる必要はなく、その原液のまま、使用することも可能である。以下においては、ポリイソシアネート化合物の原液、及びポリイソシアネート化合物を有機溶媒に溶解せしめてなる溶液を含めて、ポリイソシアネート溶液と呼称する。
【0023】
なお、ここにおいて、上述したポリオール化合物やポリイソシアネート化合物を溶解せしめるための有機溶剤としては、ポリイソシアネート化合物には非反応性で、且つ溶解対象である溶質(ポリオール化合物又はポリイソシアネート化合物)に対して良溶媒であれば、特に制限されるものではないものの、一般に、 i)フェノール樹脂等のポリオール化合物を溶解するための極性溶剤と、ii)フェノール樹脂等のポリオール化合物の分離が生じない程度の量のポリイソシアネート化合物を溶解するための非極性溶剤とが組み合わされて、用いられることとなる。
【0024】
より具体的には、上記した i)の極性溶剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステル、その中でも、特に、ジカルボン酸メチルエステル混合物(米国デュポン社製;商品名:DBE;グルタル酸ジメチルとアジピン酸ジメチルとコハク酸ジメチルとの混合物)等のジカルボン酸アルキルエステル、菜種油メチルエステル等の植物油のメチルエステルの他、例えば、イソホロン等のケトン類、イソプロピルエーテル等のエーテル類、フルフリルアルコール等を挙げることが出来る。また、上記のii)の非極性溶剤としては、例えば、パラフィン類、ナフテン類、アルキルベンゼン類等の石油系炭化水素類、具体例としては、イプゾール150(出光興産株式会社製;石油系溶剤)、ハイゾール100(JXエネルギー株式会社製;石油系溶剤)、HAWS(シェル・ケミカルズ・ジャパン株式会社製;石油系溶剤)等を例示することが出来る。
【0025】
そして、本発明にあっては、目的とする鋳型用の有機粘結剤の構成成分として、上記したポリオール化合物とポリイソシアネート化合物に加えて、更に、塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物が、含有せしめられるようにしたのである。このような特定の反応生成物の存在によって、有機粘結剤を用いて造型される鋳型の強度の向上、特に造型後における鋳型の放置強度の向上を有利に実現せしめ得ると共に、かかる鋳型を、保管・放置した場合における外的環境の悪影響、特に高湿度雰囲気下における鋳型強度の低下を効果的に抑制乃至は防止することが出来るのである。即ち、保管・放置中に、鋳型が空気中の湿気を吸収することによって惹起される強度低下を、効率よく改善乃至は防止して、鋳型の耐吸湿劣化特性の向上を図ることが出来る。なお、このような塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物を用いることによって、また、有機粘結剤と鋳物砂とを混練して得られる鋳物砂組成物の可使時間の改善をも有利に図られ得ることとなる。
【0026】
なお、かかる特定の反応生成物を与える塩基性シラン化合物としては、ケイ素(Si)に対して、アミノ基等の塩基性基を有する有機基が結合してなる構造を有する有機ケイ素化合物であって、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するアルコキシシランや、ヘキサメチルジシラザン、更には3−ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等のウレイド基を有するシラン化合物等を挙げることが出来る。なお、塩基性シラン化合物の中でも、塩基性アルコキシシランを用いることが好ましく、中でも、アミノ基を有するアルコキシシランがより好ましく、更に好ましくは、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリアルコキシシランが、有利に用いられることとなる。このアミノ基を有するアルコキシシランが最もよい理由としては、その入手が容易であることに加えて、ポリオール化合物や酸若しくはそのハロゲン化物中の水分により、アルコキシ基が加水分解して、水酸基に変化することにより、鋳物砂(骨材等)との接着がより強固になり、高い鋳型強度を発現し得ることとなるからである。
【0027】
また、かくの如き塩基性シラン化合物に反応せしめられる酸若しくはそのハロゲン化物としては、無機酸、有機酸及びそれらのハロゲン化物であって、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ホウ酸等の無機酸や、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸類;ギ酸、酢酸、安息香酸等の有機カルボン酸類;有機ホスホン酸類等を挙げることが出来、それらの中でも、塩酸、臭化水素酸、リン酸、フッ化水素酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が、有利に用いられることとなる。また、ハロゲン化物としては、上記した有機スルホン酸類、有機カルボン酸類、有機ホスホン酸類等の有機酸のハロゲン化物があり、例えば、フェニルホスホン酸ジクロライド、イソフタル酸クロライド、塩化ベンゾイル、カプリル酸クロライド、ラウリン酸クロライド、ミリスチン酸クロライド、パルミチン酸クロライド、イソパルミチン酸クロライド、ステアリン酸クロライド、イソステアリン酸クロライド、オレイン酸クロライド、セバシン酸ジクロライド等を挙げることが出来、その中でも、フェニルホスホン酸ジクロライド、ラウリン酸クロライド等が好適に用いられる。
【0028】
さらに、上記した塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との組み合わせとしては、それらの反応生成物を形成し得るものであれば、如何なる組み合わせも、採用可能であるが、好ましい組み合わせとしては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランと塩酸、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランとフッ化水素酸、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランとフェニルホスホン酸ジクロライド等の組み合わせを、挙げることが出来る。また、塩基性シラン化合物/酸若しくはそのハロゲン化物の比率としては、質量基準にて、2/8〜8/2、好ましくは3/7〜7/3、より好ましくは4/6〜6/4の比率が採用されることとなる。
【0029】
そして、かかる塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物の使用量としては、有機粘結剤の構成成分の一つであるポリオール化合物の100質量部に対して、0.1〜2.0質量部程度、好ましくは0.2〜1.0質量部程度となる割合が、好適に採用されることとなる。なお、そのような反応生成物の使用量が0.1質量部よりも少なくなると、かかる反応生成物の使用による効果が充分に発揮され難くなるようになり、また2.0質量部よりも多くなると、得られる鋳型の充分な強度向上に寄与し難くなる等の問題を生じるようになる。
【0030】
ところで、かくの如き本発明において用いられる特定の反応生成物を製造するに際しては、例えば、プラスチック製の容器中において、所定の塩基性シラン化合物と所定の酸若しくはそのハロゲン化物とを混合して反応せしめることにより、目的とする反応生成物を容易に得ることが出来る。このとき、塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応熱を抑えるために、それらのうちの一方に対して冷却、撹拌を行いながら、他方のものを、連続的に、又は断続的に、添加するようにすることにより、急激な反応の進行を阻止するようにすることが望ましい。また、それらの反応に際しては、塩基性シラン化合物に、酸若しくはそのハロゲン化物を添加することにより、反応を進行せしめる場合の他、それとは逆に、酸若しくはそのハロゲン化物に、塩基性シラン化合物を添加するようにすることも可能である。そして、それら塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応時の温度としては、80℃以下に抑えることが好ましく、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下において、反応が進行せしめられる。
【0031】
なお、ここで、塩基性シラン化合物又は酸若しくはそのハロゲン化物を、連続的に、又は断続的に、少しずつ添加するとは、その連続的な添加方式においては、一定量を一定のスピードにおいて添加する、一定割合の添加速度にて、反応系に添加する方式が有利に採用され、また断続的な添加方式においては、一定の間隔を空けて、一定量毎において、添加されるようにすることが望ましい。また、かかる間隔を空けた断続的な添加方式においては、例えば、1秒毎に、10秒毎に、或いは1分毎に等のように、時間を決めて一定量投入したり、それを反応系に漸次滴下する方式等も採用可能である。このような方法で、少しずつ添加することにより、反応熱の上昇を有利に防止せしめ、得られる反応生成物の物性の劣化を、効果的に阻止することが可能である。中でも、滴下による方式を採用すれば、反応熱による温度の上昇を、より効果的に抑制することが可能である。
【0032】
そして、本発明にあっては、望ましくは、かくの如き塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応によって得られる反応生成物が、予め形成された後、そのような反応生成物の形態において、ポリオール化合物やポリイソシアネート化合物と共に用いられて、目的とする有機粘結剤が有利に構成されるのである。このように、塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物を予め形成させておくことにより、酸の如き酸性物質を単独で添加する工程が不要となるために、特に強酸を用いる場合において、鋳物砂組成物を製造する際の安全性が、有利に確保され得ることとなるのである。なお、かかる特定の反応生成物の添加方式が、例示のものに限定されるものでないことは言うまでもないところであり、そのような反応生成物が、有機粘結剤中において、その構成成分として存在し得る形態となるものであれば、それら塩基性シラン化合物や酸若しくはそのハロゲン化物を適宜の形態において、ポリオール化合物やポリイソシアネート化合物に配合せしめることが可能である。
【0033】
また、本発明に従う鋳型用有機粘結剤においては、上記したポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及び特定の反応生成物に加えて、更に、高級脂肪酸エステルが、構成成分の一つとして有利に含有せしめられることとなる。この高級脂肪酸エステルの存在により、そのような有機粘結剤を用いて造型された鋳型の強度や吸湿劣化特性が、より向上せしめられ得ると共に、特に、優れた鋳型強度と吸湿劣化特性を維持したまま、鋳物砂との混練によって得られる鋳物砂組成物の可使時間を、効果的に向上させることが可能である。なお、ここで、高級脂肪酸エステルの高級脂肪酸とは、よく知られているように、分子中の炭素原子数が多い脂肪酸であって、一般的に炭素数が12以上の脂肪酸のことを指し、通常、12〜30の炭素数を有する脂肪酸、好ましくは14〜25、より好ましくは16〜20の炭素数を有する脂肪酸が、好適に用いられることとなる。なお、この高級脂肪酸エステルは、一般に、ポリイソシアネート化合物の100質量部に対して、0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜20質量部の割合において添加せしめられるのが望ましく、また、ポリイソシアネート化合物に添加されて用いられるのが望ましい。この高級脂肪酸エステルの使用量が少なくなると、高級脂肪酸エステルの使用による効果を充分に発揮し難くなるからであり、また、その多過ぎる使用は、鋳物砂組成物の特性や鋳型の特性に悪影響をもたらすようになるからである。
【0034】
そして、そのような高級脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、イソステアリン酸エステル、ヒドロキシステアリン酸エステル、ミリスチン酸エステル等の飽和脂肪酸エステルや、オレイン酸エステル、リノール酸エステル、リノレン酸エステル、リシノレイン酸エステル等の不飽和脂肪酸エステル等を挙げることが出来る。これらのうちでも、特に、不飽和脂肪酸エステルを用いるのが望ましく、更にはリシノレイン酸エステルが好ましく、中でも、リシノレイン酸とエチレングリコールやグリセリンとの重縮合物であることが、より好ましい。
【0035】
かくして、本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤は、フェノールウレタンの如きウレタン結合を形成するポリオール化合物とポリイソシアネート化合物に加えて、上述せる如き塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物を、構成成分として含み、更に好ましくは、高級脂肪酸エステルを含んで構成されることとなるのであるが、このような有機粘結剤には、また、必要に応じて、上記した配合成分とは異なる可使時間延長剤(硬化遅延剤)や、離型剤、強度劣化防止剤、乾燥防止剤等の、従来より鋳型用有機粘結剤に使用されている公知の各種の添加剤を、適宜に選択して、配合することも可能である。勿論、それらの各種添加剤は、本発明によって享受され得る効果を阻害しない量的範囲において使用されるものであることは、言うまでもないところである。なお、それら各種の添加剤のうち、可使時間延長剤(硬化遅延剤)は、ウレタン化反応を抑制し、鋳物砂組成物の可使時間を延長するために用いられるものであり、また離型剤は、造型された鋳型を成形型から抜型する際の抵抗を小さくすると共に、成形型内に吹き込み充填された鋳物砂組成物の一部が鋳型の抜型時に型に付着することによって発生するシミツキを防止し、成形面が均一で且つ精度の高い鋳型を得るために用いられるものである。
【0036】
かくの如くして得られる本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤は、従来と同様にして、鋳物砂(耐火性骨材)に混練せしめられて、ウレタン系のガス硬化鋳型を造型するための鋳物砂組成物が、形成されることとなるのである。
【0037】
具体的には、例えば、コールドボックス法によるガス硬化鋳型の造型に際して、先ず、鋳物砂(耐火性骨材)に対して、上記した本発明に従う鋳型用有機粘結剤を混練せしめることにより、かかる鋳物砂表面を、鋳型用有機粘結剤で被覆してなる鋳物砂組成物(混練砂)が、製造されるのである。即ち、鋳物砂に対して、有機粘結剤として、ポリオール化合物(溶液)と、ポリイソシアネート化合物(溶液)と、塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物と、更に所望の各種添加剤とを、十分に混練、混合することによって、鋳物砂表面に鋳型用有機粘結剤をコーティングして、鋳物砂組成物が製造されることとなる。なお、その際、塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物やその他の各種添加剤は、鋳物砂組成物に対して均一に混合され得るように、別個に調製されたポリオール化合物の溶液やポリイソシアネート化合物の溶液の何れか一方に、若しくは、その両方に添加されて、混合されるか、或いは、適当な有機溶剤に溶解乃至は分散せしめて、これを、混練時に、ポリオール化合物溶液やポリイソシアネート化合物溶液と共に、鋳物砂に対して混合せしめるか、或いは、フェノール樹脂の如きポリオール化合物の製造時の縮合完了後の如く、形成されたポリオール化合物に、直接に添加して、混合せしめることも可能である。中でも、本発明にあっては、かかる特定の反応生成物は、別個に調製されたポリオール化合物の溶液に添加せしめられるようにすることが望ましい。
【0038】
なお、かかる鋳物砂組成物を製造する際に、有機粘結剤を構成するポリオール化合物溶液とポリイソシアネート化合物溶液とは、それらを混合した段階から、徐々に重付加反応(ウレタン化反応)が進行するようになるところから、予め、別々に調製されて準備され、通常、鋳物砂との混練時に混合されることとなる。なお、その混練・混合操作は、従来と同様な連続式乃至はバッチ式ミキサーを用いて、好適には、−10℃〜50℃の範囲の温度下において行われることとなる。
【0039】
また、このような本発明に従う鋳型用有機粘結剤と混練せしめられる鋳物砂(耐火性骨材)としては、従来より鋳型用として用いられている耐火性のものであれば、天然砂であっても、人工砂であっても、何等差し支えなく、特に制限されるものではない。例えば、ケイ砂、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド、フェロクロム系スラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ、ムライト系人工粒子(例えば、伊藤忠セラテック株式会社から入手することの出来る商品名「セラビーズ」)やアルミナ系人工粒子、その他各種の人工粒子、及びこれらの再生砂や回収砂が挙げられ、これらのうちの1種、或いは2種以上が組み合わされて用いられ得るものである。なお、これらの中でも、シリカ分の高い天然ケイ砂(再生砂を含む)が、より一層好適に採用されることとなる。
【0040】
そして、上述の如くして得られた鋳物砂組成物を、所望とする形状を与える金型の如き成形型内で賦形した後、これに対して、硬化のための触媒ガスを通気することにより、鋳物砂組成物の硬化が促進せしめられて、ガス硬化鋳型が製造されることとなるのである。なお、触媒ガスとしては、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン等の従来から公知の第三級アミンガスの他、環状窒素化合物、ピリジン、N−エチルモルホリン等を例示することが出来、それらのうちの少なくとも1種が適宜に選択されて、通常の量的範囲において用いられることとなる。
【0041】
また、常温自硬性法によって、目的とする自硬性鋳型を造型するに際しても、上記したガス硬化鋳型の場合と同様に、先ず、鋳物砂表面を有機粘結剤で被覆してなる鋳物砂組成物が、製造されることとなるのであるが、その際、常温自硬性法に用いられる鋳物砂組成物には、混練時に、本発明に従う有機粘結剤と共に、更に硬化触媒が混入せしめられることとなる。なお、この硬化触媒としては、公知のアシュランド法において通常使用される塩基、アミン、金属イオン等を挙げることが出来る。
【0042】
さらに、上記したガス硬化鋳型や自硬性鋳型を与える鋳物砂組成物の調製に際して、ポリオール化合物溶液やポリイソシアネート化合物溶液の配合量としては、それぞれ、有効成分であるポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物の配合量が、鋳物砂の100質量部に対して、それぞれ、0.5〜5.0質量部程度、好ましくは1.0〜3.0質量部程度となる割合が、好適に採用されることとなる。また、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の配合比率としては、特に限定されるものではないものの、一般に、質量基準で、ポリオール化合物:ポリイソシアネート化合物=4:6〜6:4となるように、ポリオール化合物溶液やポリイソシアネート化合物溶液が組み合わされて、用いられることとなる。
【0043】
かくして、上述せる如くして造型されたガス硬化鋳型や自硬性鋳型にあっては、その強度が効果的に向上せしめられ、更に、その強度の耐吸湿劣化特性が高められ得た結果、アルミニウム合金やマグネシウム合金、鉄等の各種金属からなる鋳物製品の鋳造に、有利に用いられ得ることとなったのである。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の代表的な実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきである。
【0045】
また、以下の実施例や比較例において調製された有機粘結剤を用いて得られた鋳物砂組成物から造型された鋳型の強度の測定、更に鋳型の吸湿劣化後の強度の測定、またそのような鋳物砂組成物の可使時間の評価は、それぞれ、以下のようにして行った。
【0046】
(1)鋳型強度の測定
コールドボックス造型機のサンドマガジン内に、混練後の鋳物砂組成物を投入した後、この鋳物砂組成物を、曲げ強度試験片作製用金型内に、ゲージ圧:0.3MPaで充填する。次いで、かかる金型内に、ガスジェネレータにより、ゲージ圧:0.2MPaで1秒間、トリエチルアミンガスを通気した後、ゲージ圧:0.2MPaで14秒間、エアーパージし、更にその後、抜型して、幅:30mm×長さ:85mm×厚み:10mmの曲げ試験片(鋳型)を作製する。そして、その得られた試験片を、その造型直後に、及び気温:25℃、相対湿度:50%の常温常湿下において、24時間放置した後、デジタル鋳物砂強度試験機(高千穂精機株式会社製)により、その曲げ強度(kgf/cm
2 )を測定する。
【0047】
(2)吸湿劣化後の鋳型強度の測定
上記の鋳型強度の測定の場合と同様にして、それぞれの鋳物砂組成物から試験片を作製した後、その得られた試験片(鋳型)を、気温:10℃、相対湿度:90%の密閉容器内に、120分間或いは24時間放置し、更にその後、デジタル鋳物砂強度試験機(高千穂精機株式会社製)を用いて、曲げ強度(kgf/cm
2 )を測定する。
【0048】
(3)鋳物砂組成物の可使時間の評価
上記の鋳型強度の測定の場合と同様にして、それぞれの鋳物砂組成物から試験片を作製するに際して、鋳物砂としての遠州再生砂と、有機粘結剤(フェノール樹脂溶液+反応生成物+ポリイソシアネート化合物溶液)との混練により、調製される鋳物砂組成物について、その混練後、直ちに造型を行い(混練後待機時間:0分)、その得られた試験片と、混練後120分経過後に造型を行い(混練後待機時間:120分)、その得られた試験片について、それぞれの強度を、鋳型強度として測定し、それら二つの鋳型強度の値を比較することにより、可使時間の評価を行う。
【0049】
−フェノール樹脂溶液の調製(1)−
還流器、温度計及び撹拌機を備えた三つ口反応フラスコ内に、フェノールの100質量部、92質量%パラホルムアルデヒドの55.5質量部及び二価金属塩としてナフテン酸亜鉛の0.2質量部を仕込み、還流温度で90分間反応を行った後、加熱濃縮して、水分含有率が1%以下のベンジルエーテル型のフェノール樹脂を得た。次いで、その得られたフェノール樹脂の100質量部を、極性有機溶剤(DBE:米国デュポン社製)の36質量部及び非極性有機溶剤(ハイゾール100:JXエネルギー株式会社製)の61質量部を用いて溶解せしめて、フェノール樹脂分が約51質量%のフェノール樹脂溶液を調製した。
【0050】
−フェノール樹脂溶液の調製(2)−
還流器、温度計及び撹拌機を備えた三つ口反応フラスコ内に、フェノールの50質量部及びオルソクレゾールの50質量部(フェノール/オルソクレゾール=50/50)と、92質量%パラホルムアルデヒドの51.9質量部及び二価金属塩としてナフテン酸亜鉛の0.15質量部を仕込み、還流温度で90分間反応を行った後、加熱濃縮して、水分含有量が1%以下のオルソクレゾール変性ベンジルエーテル型のフェノール樹脂を得た。次いで、その得られたフェノール樹脂の100質量部を、極性有機溶剤(DBE:米国デュポン社製)の36質量部及び非極性有機溶剤(ハイゾール100:JXエネルギー株式会社製)の61質量部を用いて溶解せしめて、フェノール樹脂分が約51質量%のフェノール樹脂溶液を調製した。
【0051】
−ポリイソシアネート溶液の調製−
ポリイソシアネート化合物であるポリメリックMDIの146質量部を、非極性有機溶剤(イプゾール150:出光興産株式会社製)の38.24質量部を用いて溶解すると共に、そこに、ポリメリックMDI量の0.93質量%のフタル酸クロライドを加えて、ポリイソシアネート化合物が約79質量%のポリイソシアネート溶液を調製した。
【0052】
−塩基性シラン化合物と酸/ハロゲン化物との反応生成物の形成−
塩基性シラン化合物として、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE903)又はN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM602)を用い、また酸若しくはそのハロゲン化物としては、下記表1及び表2に示される化合物をそれぞれ用いて、下記表1及び表2に示される割合において、60℃以下の温度下で、撹拌しながら、塩基性シラン化合物中に、酸若しくはそのハロゲン化物を少しずつ滴下して反応させることにより、下表1,2に示される反応生成物A〜Tを、それぞれ、製造した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
(実施例1〜20)
先ず、上記のフェノール樹脂溶液の調製(1)で調製されたフェノール樹脂溶液の197質量部に対して、所定の塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物とを予め反応させて準備された反応生成物A〜Tを、それぞれ、下記表3及び表4に示される割合において添加して、撹拌することにより、均一に混合せしめた。次いで、ダルトン株式会社製品川式卓上ミキサー内に、遠州再生砂を投入すると共に、その1000質量部に対して、上記のフェノール樹脂溶液と反応生成物A〜Tのそれぞれの混合物と、上記で調製されたポリイソシアネート溶液とを、それぞれ、10質量部投入し、60秒間撹拌して、混練することにより、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた各種の鋳物砂組成物を用いて、それぞれの試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後、及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm
2 )及び造型後120分間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm
2 )を、それぞれ測定して、その得られた結果を、下記表3及び表4に示した。
【0056】
(実施例21)
実施例18において、ポリオール化合物として、上記のフェノール樹脂溶液の調製(2)で調製されたオルソクレゾール変性フェノール樹脂の溶液を用いることとしたこと以外は、かかる実施例18と同様にして、鋳物砂組成物を調製し、そして、その得られた鋳物砂組成物から造型された試験片(鋳型)について、上記した測定法に従って、造型直後、及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm
2 )及び造型後120分間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm
2 )を、それぞれ測定して、その得られた結果を、下記表4に示した。
【0057】
(比較例1〜2)
実施例1〜20における反応生成物に代えて、塩基性シラン化合物(KBM602又はKBE903)のみを、0.6質量部用いることとしたこと以外は、それら実施例と同様にして、鋳物砂組成物を調製し、そして、その得られた鋳物砂組成物から造型された試験片(鋳型)について、上記した測定法に従って、造型直後、及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm
2 )及び造型後120分間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm
2 )を測定し、その得られた結果を、下記表5に示した。
【0058】
(比較例3〜8)
実施例1〜20における反応生成物に代えて、酸若しくはそのハロゲン化物を単独にて0.4質量部用いたこと以外は、それら実施例と同様にして、鋳物砂組成物を調製し、更にその鋳物砂組成物から得られた試験片(鋳型)について、上記した測定法に従って、造型直後、及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm
2 )及び造型後120分間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm
2 )を測定して、その結果を、下記表5に示した。
【0059】
(比較例9)
実施例1〜20において、塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物A〜Tを添加しないこと以外は、それら実施例と同様にして、鋳物砂組成物を調製した後、その鋳物砂組成物から造型された試験片(鋳型)について、上記した測定法に従って、造型直後、及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm
2 )及び造型後120分間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm
2 )を、それぞれ測定し、その結果を、下記表5に示した。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
かかる表3乃至表5における結果の対比から明らかなように、所定のフェノール樹脂及びポリイソシアネートと共に、本発明に従って、塩基性シラン化合物と酸若しくはそのハロゲン化物との反応生成物を、構成成分として更に含有せしめてなる実施例1〜21において得られた有機粘結剤を用いて、鋳物砂組成物を調製し、更に、それから造型して得られた鋳型(試験片)にあっては、通常の湿度環境下における鋳型強度は勿論、高湿度下での吸湿劣化後における鋳型強度においても、優れた特性を有していることが、認められるのである。また、それら実施例の中でも、実施例21においては、フェノール樹脂としてオルソクレゾール変性フェノール樹脂が用いられているところから、鋳型強度が更に向上せしめられており、耐吸湿劣化特性もより一層優れたものとなっている。
【0064】
これに対して、そのような反応生成物が添加されていない比較例9における有機粘結剤や、塩基性シラン化合物単独又は酸若しくはそのハロゲン化物単独において添加されてなる比較例1〜8における有機粘結剤を用いて得られる鋳型(試験片)においては、通常の湿度環境下における鋳型強度は充分なものではなく、更に吸湿劣化後における鋳型強度においては、その強度低下が著しく、耐吸湿劣化特性に劣るものであって、そのような有機粘結剤を用いて得られる鋳型は実用性に欠けるものであることが認められる。
【0065】
(実施例22)
実施例18と同様にして、鋳物砂組成物を調製した後、その得られた鋳物砂組成物の混練後待機時間:0分及び120分のものから造型された試験片(鋳型)について、上記した測定法及び評価法に従って、造型直後、及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm
2 )、及び造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm
2 )を、それぞれ測定して、その得られた結果を、下記表6に示した。
【0066】
(実施例23〜26)
実施例22において、高級脂肪酸エステルとして、リシノレイン酸とグリセリンの重縮合物を、下記表6に示される割合において更に用いたこと以外は、かかる実施例22と同様にして、鋳物砂組成物を調製した後、そして、その得られた鋳物砂組成物の混練後待機時間:0分及び120分のものから造型された試験片(鋳型)について、上記した測定法及び評価法に従って、造型直後、及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm
2 )及び造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm
2 )を、それぞれ測定して、その得られた結果を、下記表6に示した。
【0067】
(比較例10)
比較例9において得られた、反応生成物や高級脂肪酸エステルを含有しない鋳物砂組成物の混練後待機時間:0分及び120分のものを用い、かかる比較例9と同様にして、造型された試験片(鋳型)について、それぞれ、上記の測定法及び評価法に従って、造型直後、及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm
2 )及び造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm
2 )を測定して、その得られた結果を、下記表6に示した。
【0068】
【表6】
【0069】
かかる表6に示される結果の対比から明らかな如く、本発明に従って、高級脂肪酸エステルを更に含有せしめてなる有機粘結剤を用いた実施例23〜26においては、混練後の待機時間が120分となっても、優れた鋳型強度を有していることが認められ、これによって、可使時間の向上が有利に図られ得ることが確認される。