特許第6887287号(P6887287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6887287鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤並びにこれを用いて得られる鋳物砂組成物及び鋳型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887287
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤並びにこれを用いて得られる鋳物砂組成物及び鋳型
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/22 20060101AFI20210603BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20210603BHJP
   B22C 1/00 20060101ALI20210603BHJP
   C08G 18/54 20060101ALI20210603BHJP
   B22C 9/12 20060101ALN20210603BHJP
【FI】
   B22C1/22 P
   B22C9/02 103D
   B22C1/00 B
   B22C1/00 G
   B22C1/22 B
   C08G18/54
   !B22C9/12 A
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-68335(P2017-68335)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-167317(P2018-167317A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】千田 芳也
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−173050(JP,A)
【文献】 特開平09−253786(JP,A)
【文献】 特表2003−516234(JP,A)
【文献】 特表2011−502797(JP,A)
【文献】 特開2012−196700(JP,A)
【文献】 特表2015−508023(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/141012(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0042000(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00 − 3/02
B22C 5/00 − 9/30
C08G 18/38
C08G 18/54
C08G 18/65
C08G 18/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール化合物を主成分とするA液と、ポリイソシアネート化合物を主成分とするB液との二液から構成される、ウレタン系鋳型の造型に用いられるウレタン硬化型有機粘結剤であって、
前記A液に、アミノ基を含有するアルコキシシラン(但し、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、及びN−トリメトキシシリルプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライドを除く)からなる塩基性シラン化合物とフッ化水素酸とを予め反応させて得られた反応生成物が、構成成分として配合せしめられており、且つ、該A液の水分含有量が0.1〜15wt%であることを特徴とする鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項2】
前記ポリオール化合物が、フェノール樹脂である請求項1に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項3】
前記フェノール樹脂が、オルソクレゾール変性フェノール樹脂である請求項2に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項4】
前記ポリオール化合物の100質量部に対して、前記反応生成物が、0.1〜2.0質量部の割合で用いられる請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項5】
前記アミノ基を含有するアルコキシシランが、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランからなる群より選ばれるものである請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項6】
前記A液又はB液が、構成成分として高級脂肪酸エステルを更に含有する請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤と、鋳物砂とからなる鋳物砂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の鋳物砂組成物を成形し、硬化せしめてなる鋳型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂型鋳造において使用されるウレタン系のガス硬化鋳型又は自硬性鋳型の造型に用いられる鋳型用有機粘結剤、及びこれを用いて得られる鋳物砂組成物、並びにそのような鋳物砂組成物を造型して得られる鋳型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、砂型鋳造において用いられる代表的な有機系鋳型の一つとして、フェノール樹脂の如きポリオール化合物と、ジフェニルメタンジイソシアネートの如きポリイソシアネート化合物とを粘結剤として用い、それらの重付加反応(ウレタン化反応)を利用して造型されるウレタン系鋳型、例えばフェノールウレタン系鋳型等と称するものが知られている。そして、そのようなフェノールウレタン系鋳型の如きウレタン系鋳型としては、造型時に加熱を必要としない、触媒としてアミンガスを用いたアミンコールドボックス法により製造される量産型のガス硬化鋳型や、常温自硬性法により製造される非量産型の自硬性鋳型が、広く知られている。
【0003】
具体的には、アミンコールドボックス法によるガス硬化鋳型は、通常、粒状耐火性鋳物砂を、ミキサーを用いて、有機溶剤を溶媒とするフェノール樹脂溶液とポリイソシアネート化合物溶液とからなる鋳型用有機粘結剤と混練することにより、そのような鋳物砂の表面を有機粘結剤で被覆してなる鋳物砂組成物を製造した後、かかる鋳物砂組成物を、所定の成形型内に吹き込んで鋳型を成形し、これに、アミン系触媒ガスを通気せしめて硬化を行うことにより、製造されている。また、常温自硬性法による自硬性鋳型は、粒状耐火性鋳物砂を、有機溶剤を溶媒とするフェノール樹脂溶液とポリイソシアネート化合物溶液とからなる鋳型用有機粘結剤と混練する際に、硬化触媒も混合し、その得られた混合物を、直ちに、所望の形状に成形することにより、製造されている。
【0004】
しかして、このようなフェノール樹脂とポリイソシアネート化合物との重付加反応(ウレタン化反応)を利用して得られるフェノールウレタン系鋳型の如きウレタン系鋳型にあっては、その化学的結合特性から、空気中の水分による硬化阻害や強度劣化等、所謂吸湿劣化の問題を内在するものであった。
【0005】
そこで、特表平1−501630号公報(特許文献1)においては、コールドボックス法で作製された鋳型の吸湿劣化防止対策として、エポキシシランやアミノシラン、ウレイドシラン等のシラン化合物を添加することが明らかにされているのであるが、そのようなシラン化合物をもってしても、未だ、十分な特性の確保には至らず、更なる吸湿劣化防止対策の確立が望まれていた。
【0006】
このため、特開2012−196700号公報(特許文献2)においては、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物に対して、更に、イソシアネート基を有するシラン化合物やイソシアネート基を有するアクリル化合物を組み合わせて、鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤を構成することにより、鋳型の吸湿劣化防止を図り、以て優れた鋳型強度を維持し得ることが明らかにされているが、そこでは、特別のイソシアネート基含有化合物を準備する必要があった。
【0007】
また、特開2001−205386号公報(特許文献3)においては、フェノール樹脂とイソシアネート化合物にホウ酸を組み合わせてなる気体状第三級アミン硬化性鋳型製造用粘結剤組成物が、明らかにされており、更にそこでは、粘結剤成分と骨材との接着性の向上を図るために、シラン化合物を含有せしめることが出来ることが、明らかにされている。そして、そのようなホウ酸を含有せしめてなる粘結剤組成物を用いることによって、従来の鋳型製造用組成物よりも可使時間が長く、そのために、粘結剤と粒状耐火性骨材とを混練して、数時間放置しても、鋳型としての強度を保持することが出来るとされているのであるが、そこにおける鋳型強度の評価は、湿度の高くない乾いた状況下において行われているに過ぎず、高湿度条件下においては、吸湿劣化によって鋳型強度が著しく低下して、充分な強度保持が困難となるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平1−501630号公報
【特許文献2】特開2012−196700号公報
【特許文献3】特開2001−205386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、強度の耐吸湿劣化特性の向上せしめられた鋳型を有利に与え得るウレタン硬化型有機粘結剤を提供することにあり、また、造型後の放置による鋳型強度の向上を効果的に図ることの出来る鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤を提供することにもあり、更にそのようなウレタン硬化型有機粘結剤を用いた、優れた鋳型特性を付与し得る鋳物砂組成物、並びにその鋳物砂組成物を用いて造型された、優れた特性を有する鋳型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、かくの如き課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものである。なお、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいて採用可能であり、また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体の記載から把握される発明思想に基づいて認識され得るものであることが理解されるべきである。
【0011】
(1)ポリオール化合物を主成分とするA液と、ポリイソシアネート化合物を主成分とす るB液との二液から構成される、ウレタン系鋳型の造型に用いられるウレタン硬化型 有機粘結剤であって、前記A液が、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成 物を構成成分として含有し、且つ、該A液の水分含有量が0.1〜15wt%である ことを特徴とする鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(2)前記塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物が予め形成されて、かかる 反応生成物の形態において前記A液に含有せしめられる前記態様(1)に記載の鋳型 用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(3)前記ポリオール化合物が、フェノール樹脂である前記態様(1)又は前記態様(2 )に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(4)前記フェノール樹脂が、オルソクレゾール変性フェノール樹脂である前記態様(3 )に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(5)前記ポリオール化合物の100質量部に対して、前記反応生成物が、0.1〜2. 0質量部の割合で用いられる前記態様(1)乃至前記態様(4)の何れか1つに記載 の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(6)前記塩基性シラン化合物が、アミノ基を含有するアルコキシシランである前記態様 (1)乃至前記態様(5)の何れか1つに記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(7)前記アミノ基を含有するアルコキシシランが、3−アミノプロピルトリメトキシシ ラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−ア ミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロ ピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチ リデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、 N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラ ン、3−ウレイドプロピルトリアルコキシシラン及びヘキサメチルジシラザンより選 ばれるものである前記態様(6)に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(8)前記A液又はB液が、構成成分として高級脂肪酸エステルを更に含有する前記態様 (1)乃至前記態様(7)の何れか1つに記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(9)前記態様(1)乃至前記態様(9)の何れか1つに記載の鋳型用ウレタン硬化型有 機粘結剤と、鋳物砂とからなる鋳物砂組成物。
(10)前記態様(9)に記載の鋳物砂組成物を成形し、硬化せしめてなる鋳型。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤は、粘結剤を構成する二液のうちの一方の液(ポリオール化合物を主成分とするA液)が、1)塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を構成成分として含むと共に、2)液中の水分含有量が0.1〜15wt%となるように調製されて、構成されている。このような構成を採用していることにより、本発明の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤にあっては、それを用いて造型される鋳型の強度の向上を有利に実現せしめ、特に、造型後における鋳型の放置強度を効果的に高め得ることとなったことに加えて、そのような鋳型の強度の耐吸湿劣化特性をも有利に向上せしめることが出来るのである。
【0013】
従って、本発明に従う鋳型用有機粘結剤を鋳物砂に混練せしめて得られる鋳物砂組成物についても、上述の如き優れた特性を有する鋳型を与え得るものとなり、また、そのような鋳物砂組成物を用いて造型された鋳型にあっては、優れた鋳型強度を有すると共に、強度の耐吸湿劣化特性の向上した鋳型として、目的とする金属の鋳造工程に有利に用いられ得ることとなるのである。
【0014】
なお、本発明においては、有利には、ポリイソシアネート化合物を主成分とするB液中に高級脂肪酸エステルが含有せしめられるのであり、これによって、上記した鋳型強度やその吸湿劣化特性がより一層向上せしめられ得ることとなると共に、そのような特徴を維持したまま、鋳物砂との混練によって得られる鋳物砂組成物の可使時間のより有効な延長を図り得るという特徴を発揮せしめることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ところで、本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤は、主成分が異なる二液より構成されるものであるところ、かかる二液のうちの一方の液(A液)の主成分たるポリオール化合物としては、特に限定されるものではなく、従来からウレタン系の硬化鋳型を造型する際に用いられている公知の各種のポリオール化合物が、適宜に選択されて、用いられることとなる。具体的には、フェノール樹脂、ポリエーテルポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリマーポリオール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシブチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとの共重合体、テトラヒドロフランとプロピレンオキシドとの共重合体、テトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体等を挙げることが出来る。
【0016】
その中でも、ウレタン系の鋳型を造型する際に用いられるポリオール化合物として、フェノールウレタン系の鋳型を造型する際に用いられている、公知の各種のフェノール樹脂が、好適に用いられ得るのである。具体的には、反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを、フェノール類の1モルに対して、アルデヒド類が、一般に0.5〜3.0モルの割合になるようにして、付加・縮合反応せしめて得られる、有機溶媒に可溶なベンジルエーテル型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、及びそれらの変性フェノール樹脂、並びにこれらの混合物を例示することが出来、これらのうちの1種又は2種以上が、適宜に選択されて用いられることとなる。また、これらの中でも、特に、オルソクレゾールで変性したオルソクレゾール変性フェノール樹脂、更に好ましくはベンジルエーテル型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂及びその混合物にあっては、有機溶剤への溶解性やポリイソシアネート化合物との相溶性に優れているのみならず、得られる鋳型の強度(初期強度)等を効果的に向上せしめ得るところから、本発明においては、好適に用いられることとなる。
【0017】
なお、上記したフェノール類とアルデヒド類との付加・縮合反応の際に用いられる触媒としては、特に限定されるものではなく、所望とするフェノール樹脂のタイプに応じて、公知の酸性触媒や塩基性触媒の他、従来からフェノール樹脂の製造に用いられている各種の触媒が、適宜に用いられる。そして、そのような触媒としては、スズ、鉛、亜鉛、コバルト、マンガン、ニッケル等の金属元素を有する金属塩等を例示することが出来、より具体的には、ナフテン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、酢酸鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化鉛の他、このような金属塩を形成し得る酸と塩基の組み合わせ等を挙げることが出来る。また、かかる金属塩を反応触媒として採用する場合に、その使用量としては、特に限定されるものではないものの、一般に、フェノール類の100質量部に対して、0.01〜5質量部程度となる割合で、使用されることとなる。
【0018】
また、フェノール樹脂を与えるフェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノール、レゾルシノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA等の多価フェノール及びこれらの混合物等が挙げられる一方、アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、ポリオキシメチレン、グリオキザール、フルフラール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0019】
さらに、上述せるように、本発明において有利に採用されるフェノール樹脂の一つであるオルソクレゾール変性フェノール樹脂としては、例えば、金属塩等の反応触媒の存在下において、オルソクレゾール及びフェノールを、アルデヒド類と反応せしめて得られる、(1)オルソクレゾールとフェノールとの共縮合型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂、(2)オルソクレゾール樹脂とフェノール樹脂との混合型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂の他、これら(1)及び(2)の樹脂を変性剤(改質剤)で改質してなる、(3)改質型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂、及び、それら(1)、(2)及び(3)のうちの2種以上を組み合わせた混合物等を、例示することが出来る。なお、それら(1)、(2)及び(3)のオルソクレゾール変性フェノール樹脂は、何れも、よく知られており、本発明においては、そのような公知のものが、そのまま用いられることとなる。また、フェノール/オルソクレゾールの比率としては、質量基準にて、1/9〜9/1、好ましくは3/7〜7/3、より好ましくは4/6〜6/4の比率で用いられることとなる。
【0020】
そして、かくの如きフェノール樹脂等のポリオール化合物は、その低粘度化、後述するポリイソシアネート溶液との相溶性、鋳物砂へのコーティング性、鋳型物性等の観点から、本発明においては、極性有機溶剤と非極性有機溶剤とを組み合わせてなる有機溶媒に溶解せしめられ、その濃度が、約30〜80質量%程度とされた溶液(以下、適宜「A液」又は「フェノール樹脂溶液」という)の状態で、用いられることとなる。
【0021】
一方、上述したA液と共に、本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤を構成するB液は、ポリイソシアネート化合物を主成分とするものであるところ、かかるポリイソシアネート化合物とは、上述せる如きフェノール樹脂等のポリオール化合物の活性水素と重付加反応することにより、鋳物砂同士をフェノールウレタンの如きウレタン結合で化学的に結合せしめ得るイソシアネート基を、分子内に2以上有する化合物である。そのようなポリイソシアネート化合物の具体例としては、芳香族、脂肪族、或いは脂環式のポリイソシアネート、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(以下、「ポリメリックMDI」という)、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートの他、これらの化合物をポリオールと反応させて得られるイソシアネート基を2以上有するプレポリマー等、従来より公知の各種ポリイソシアネートを挙げることが出来、これらは、単独で用いても、或いは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
また、かかるポリイソシアネート化合物にあっても、上述せる如きフェノール樹脂等のポリオール化合物と同様の理由から、本発明においては、非極性有機溶剤、又は非極性有機溶剤と極性溶剤との混合溶剤を溶媒として用い、この有機溶媒に、濃度が約40〜90質量%程度となるように溶解された溶液として用いられることとなる。なお、使用するポリイソシアネート化合物の種類等によっては、必ずしも、有機溶媒に溶解せしめる必要はなく、その原液のまま、使用することも可能である。本明細書及び特許請求の範囲において、「ポリイソシアネート化合物を主成分とする・・・液」とは、ポリイソシアネート化合物の原液、及びポリイソシアネート化合物を有機溶媒に溶解せしめてなる溶液の何れをも包含するものである。
【0023】
なお、ここにおいて、上述したポリオール化合物やポリイソシアネート化合物を溶解せしめるための有機溶剤としては、ポリイソシアネート化合物には非反応性で、且つ溶解対象である溶質(ポリオール化合物又はポリイソシアネート化合物)に対して良溶媒であれば、特に制限されるものではないものの、一般に、 i)フェノール樹脂等のポリオール化合物を溶解するための極性溶剤と、ii)フェノール樹脂等のポリオール化合物の分離が生じない程度の量のポリイソシアネート化合物を溶解するための非極性溶剤とが組み合わされて、用いられることとなる。
【0024】
より具体的には、上記した i)の極性溶剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステル、その中でも、特に、ジカルボン酸メチルエステル混合物(米国デュポン社製;商品名:DBE;グルタル酸ジメチルとアジピン酸ジメチルとコハク酸ジメチルとの混合物)等のジカルボン酸アルキルエステル、菜種油メチルエステル等の植物油のメチルエステルの他、例えば、イソホロン等のケトン類、イソプロピルエーテル等のエーテル類、フルフリルアルコール等を挙げることが出来る。また、上記のii)の非極性溶剤としては、例えば、パラフィン類、ナフテン類、アルキルベンゼン類等の石油系炭化水素類、具体例としては、イプゾール150(出光興産株式会社製;石油系溶剤)、ハイゾール100(JXエネルギー株式会社製;石油系溶剤)、HAWS(シェル・ケミカルズ・ジャパン株式会社製;石油系溶剤)等を例示することが出来る。
【0025】
そして、本発明においては、鋳型用の有機粘結剤の構成成分として、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を、ポリオール化合物を主成分とするA液に含有せしめたところに、本発明における大きな技術的特徴の一つが存するのである。このような特定の反応生成物をA液中に含有せしめることによって、本発明の有機粘結剤を用いて造型される鋳型の強度の向上、特に造型後における鋳型の放置強度の向上を有利に実現せしめ得ると共に、かかる鋳型を、保管・放置した場合における外的環境の悪影響、特に高湿度雰囲気下における鋳型強度の低下を効果的に抑制乃至は防止することが出来るのである。即ち、保管・放置中に、鋳型が空気中の湿気を吸収することによって惹起される強度低下を、効率よく改善乃至は防止して、鋳型の耐吸湿劣化特性の向上を図ることが出来る。また、このような塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を用いることによって、有機粘結剤と鋳物砂とを混練して得られる鋳物砂組成物の可使時間の改善をも有利に図られ得ることとなる。なお、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を、ポリイソシアネート化合物を主成分とするB液に含有せしめる(添加する)と、かかる反応生成物とポリイソシアネート化合物とが反応し、上記した種々の効果を有利に享受することが出来ない恐れがある。
【0026】
ここで、フッ化水素酸との反応生成物を与える塩基性シラン化合物としては、ケイ素(Si)に対して、アミノ基等の塩基性基を有する有機基が結合してなる構造を有する有機ケイ素化合物であって、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するアルコキシシランや、3−ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等のウレイド基を有するシラン化合物、ヘキサメチルジシラザン等を挙げることが出来る。なお、塩基性シラン化合物の中でも、塩基性アルコキシシランを用いることが好ましく、中でも、アミノ基を有するアルコキシシランがより好ましく、更に好ましくは、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリアルコキシシランが、有利に用いられることとなる。このアミノ基を有するアルコキシシランが最もよい理由としては、その入手が容易であることに加えて、ポリオール化合物やフッ化水素酸中の水分により、アルコキシ基が加水分解して、水酸基に変化することにより、鋳物砂(骨材等)との接着がより強固になり、高い鋳型強度を発現し得ることとなるからである。
【0027】
また、そのような塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物の使用量としては、A液における主成分たるポリオール化合物の100質量部に対して、0.1〜2.0質量部程度、好ましくは0.2〜1.0質量部程度となる割合が、好適に採用されることとなる。なお、そのような反応生成物の使用量が0.1質量部よりも少なくなると、かかる反応生成物の使用による効果が充分に発揮され難くなるようになり、また2.0質量部よりも多くなると、得られる鋳型の充分な強度向上に寄与し難くなる等の問題を生じるようになる。また、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物における、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との比率(塩基性シラン化合物/フッ化水素酸)としては、質量基準にて、好ましくは2/8〜8/2、より好ましくは3/7〜7/3、さらに好ましくは4/6〜6/4である。
【0028】
ところで、かくの如き本発明において用いられる特定の反応生成物を製造するに際しては、例えば、プラスチック製の容器中において、所定の塩基性シラン化合物とフッ化水素酸とを混合して反応せしめることにより、目的とする反応生成物を容易に得ることが出来る。このとき、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応熱を抑えるために、それらのうちの一方に対して冷却、撹拌を行いながら、他方のものを、連続的に、又は断続的に、添加するようにすることにより、急激な反応の進行を阻止するようにすることが望ましい。また、それらの反応に際しては、塩基性シラン化合物にフッ化水素酸を添加することにより、反応を進行せしめる場合の他、それとは逆に、フッ化水素酸に、塩基性シラン化合物を添加するようにすることも可能である。そして、それら塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応時の温度としては、80℃以下に抑えることが好ましく、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下において、反応が進行せしめられる。
【0029】
なお、ここで、塩基性シラン化合物又はフッ化水素酸を、連続的に、又は断続的に、少しずつ添加するとは、その連続的な添加方式においては、一定量を一定のスピードにおいて添加する、一定割合の添加速度にて、反応系に添加する方式が有利に採用され、また断続的な添加方式においては、一定の間隔を空けて、一定量毎において、添加されるようにすることが望ましい。また、かかる間隔を空けた断続的な添加方式においては、例えば、1秒毎に、10秒毎に、或いは1分毎に等のように、時間を決めて一定量投入したり、それを反応系に漸次滴下する方式等も採用可能である。このような方法で、少しずつ添加することにより、反応熱の上昇を有利に防止せしめ、得られる反応生成物の物性の劣化を、効果的に阻止することが可能である。中でも、滴下による方式を採用すれば、反応熱による温度の上昇を、より効果的に抑制することが可能である。
【0030】
そして、本発明にあっては、望ましくは、かくの如き塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応によって得られる反応生成物が、予め形成された後、そのような反応生成物の形態において、A液中においてポリオール化合物と共に用いられて、目的とする有機粘結剤が有利に構成されるのである。このように、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を予め形成させておくことにより、フッ化水素酸を単独でA液に添加する工程が不要となるために、鋳物砂組成物を製造する際の安全性が有利に確保され得ることとなるのである。なお、かかる特定の反応生成物の添加方式が、例示のものに限定されるものでないことは言うまでもないところであり、そのような反応生成物が、A液(ポリオール化合物を主成分とする溶液)中において、その構成成分として存在し得る形態となるものであれば、塩基性シラン化合物やフッ化水素酸を適宜の形態において、A液中に配合せしめることが可能である。また、予め形成された塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物をA液に添加するに際しては、水分量が0.2〜99.5wt%、好ましくは0.5〜50wt%、さらに好ましくは1〜25wt%である反応生成物が適宜、調製されて、A液(ポリオール化合物を主成分とする溶液)に添加されることとなる。
【0031】
また、本発明においては、ポリオール化合物を主成分とするA液に、上述の如き塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を含有せしめることに加えて、A液中の水分含有量を0.1〜15wt%とすることにあっても、大きな技術的特徴とするところである。有機粘結剤を構成するA液中の水分含有量を所定の割合とすることによって、上述した本発明の効果(鋳型の放置強度の向上、鋳型の耐吸湿特性の向上、鋳物砂組成物における可使時間の改善)を有利に享受することが可能となる。本発明におけるA液中の水分含有量は、0.1〜15wt%、好ましくは0.15〜10wt%、さらに好ましくは0.2〜5wt%とされる。
【0032】
さらに、上述したA液(ポリオール化合物を主成分とする溶液)、又はB液(ポリイソシアネート化合物を主成分とする溶液)においては、有利には、高級脂肪酸エステルが、構成成分として含有せしめられることとなる。この高級脂肪酸エステルの存在により、そのような有機粘結剤を用いて造型された鋳型の強度や吸湿劣化特性が、より向上せしめられ得ると共に、特に、優れた鋳型強度と吸湿劣化特性を維持したまま、鋳物砂との混練によって得られる鋳物砂組成物の可使時間を、効果的に向上させることが可能である。なお、ここで、高級脂肪酸エステルの高級脂肪酸とは、よく知られているように、分子中の炭素原子数が多い脂肪酸であって、一般的に炭素数が12以上の脂肪酸のことを指し、通常、12〜30の炭素数を有する脂肪酸、好ましくは14〜25、より好ましくは16〜20の炭素数を有する脂肪酸が、好適に用いられることとなる。なお、この高級脂肪酸エステルは、一般に、B液に含まれるポリイソシアネート化合物の100質量部に対して、0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜20質量部の割合において、A液又はB液に添加せしめられ、また、望ましくはB液に添加されて用いられる。この高級脂肪酸エステルの使用量が少なくなると、高級脂肪酸エステルの使用による効果を充分に発揮し難くなるからであり、また、その多過ぎる使用は、鋳物砂組成物の特性や鋳型の特性に悪影響をもたらすようになるからである。
【0033】
そして、そのような高級脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、イソステアリン酸エステル、ヒドロキシステアリン酸エステル、ミリスチン酸エステル等の飽和脂肪酸エステルや、オレイン酸エステル、リノール酸エステル、リノレン酸エステル、リシノレイン酸エステル等の不飽和脂肪酸エステル等を挙げることが出来る。これらのうちでも、特に、不飽和脂肪酸エステルを用いるのが望ましく、更にはリシノレイン酸エステルが好ましく、中でも、リシノレイン酸とエチレングリコールやグリセリンとの重縮合物であることが、より好ましい。
【0034】
かくして、本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤は、フェノールウレタンの如きウレタン結合を形成するポリオール化合物とポリイソシアネート化合物に加えて、上述せる如き塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を構成成分とし、更に好ましくは、高級脂肪酸エステルを含んで構成されることとなる。このような有機粘結剤にあっては、また、必要に応じて、上記した配合成分とは異なる可使時間延長剤(硬化遅延剤)や、離型剤、強度劣化防止剤、乾燥防止剤等の、従来より鋳型用有機粘結剤に使用されている公知の各種の添加剤を、適宜に選択して、ポリオール化合物を主成分とするA液及び/又はポリイソシアネート化合物を主成分とするB液に配合することや、鋳物砂組成物製造の際に本発明の鋳型用有機粘結剤と併せて使用することも、可能である。勿論、それらの各種添加剤は、本発明によって享受され得る効果を阻害しない量的範囲において使用されるものであることは、言うまでもないところである。なお、それら各種の添加剤のうち、可使時間延長剤(硬化遅延剤)は、ウレタン化反応を抑制し、鋳物砂組成物の可使時間を延長するために用いられるものであり、また離型剤は、造型された鋳型を成形型から抜型する際の抵抗を小さくすると共に、成形型内に吹き込み充填された鋳物砂組成物の一部が鋳型の抜型時に型に付着することによって発生するシミツキを防止し、成形面が均一で且つ精度の高い鋳型を得るために用いられるものである。
【0035】
かくの如くして得られる本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤は、従来と同様にして、鋳物砂(耐火性骨材)に混練せしめられて、ウレタン系のガス硬化鋳型を造型するための鋳物砂組成物が、形成されることとなるのである。
【0036】
具体的には、例えば、コールドボックス法によるガス硬化鋳型の造型に際して、先ず、鋳物砂(耐火性骨材)に対して、上記した本発明に従う鋳型用有機粘結剤(A液及びB液)を混練せしめることにより、かかる鋳物砂表面を、鋳型用有機粘結剤で被覆してなる鋳物砂組成物(混練砂)が、製造されるのである。即ち、鋳物砂に対して、有機粘結剤として、A液(ポリオール化合物を主成分とし、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を含み、水分含有量が0.1〜15wt%に調製されてなる溶液)と、B液(ポリイソシアネート化合物を主成分とし、望ましくは高級脂肪酸エステルをも含む溶液)と、更に所望の各種添加剤とを、十分に混練、混合することによって、鋳物砂表面に鋳型用有機粘結剤たるA液及びB液をコーティングして、鋳物砂組成物が製造されることとなる。
【0037】
なお、かかる鋳物砂組成物を製造する際に、有機粘結剤を構成するA液とB液とは、それらを混合した段階から、徐々に重付加反応(ウレタン化反応)が進行するようになるところから、予め、別々に調製されて準備され、通常、鋳物砂との混練時に混合されることとなる。なお、その混練・混合操作は、従来と同様な連続式乃至はバッチ式ミキサーを用いて、好適には、−10℃〜50℃の範囲の温度下において行われることとなる。
【0038】
また、このような本発明に従う鋳型用有機粘結剤と混練せしめられる鋳物砂(耐火性骨材)としては、従来より鋳型用として用いられている耐火性のものであれば、天然砂であっても、人工砂であっても、何等差し支えなく、特に制限されるものではない。例えば、ケイ砂、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド、フェロクロム系スラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ、ムライト系人工粒子(例えば、伊藤忠セラテック株式会社から入手することの出来る商品名「セラビーズ」)やアルミナ系人工粒子、その他各種の人工粒子、及びこれらの再生砂や回収砂が挙げられ、これらのうちの1種、或いは2種以上が組み合わされて用いられ得るものである。なお、これらの中でも、シリカ分の高い天然ケイ砂(再生砂を含む)が、より一層好適に採用されることとなる。
【0039】
そして、上述の如くして得られた鋳物砂組成物を、所望とする形状を与える金型の如き成形型内で賦形した後、これに対して、硬化のための触媒ガスを通気することにより、鋳物砂組成物の硬化が促進せしめられて、ガス硬化鋳型が製造されることとなるのである。なお、触媒ガスとしては、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン等の従来から公知の第三級アミンガスの他、環状窒素化合物、ピリジン、N−エチルモルホリン等を例示することが出来、それらのうちの少なくとも1種が適宜に選択されて、通常の量的範囲において用いられることとなる。
【0040】
また、常温自硬性法によって、目的とする自硬性鋳型を造型するに際しても、上記したガス硬化鋳型の場合と同様に、先ず、鋳物砂表面を有機粘結剤(A液及びB液)で被覆してなる鋳物砂組成物が、製造されることとなるのであるが、その際、常温自硬性法に用いられる鋳物砂組成物には、混練時に、本発明に従う有機粘結剤と共に、更に硬化触媒が混入せしめられることとなる。なお、この硬化触媒としては、公知のアシュランド法において通常使用される塩基、アミン、金属イオン等を挙げることが出来る。
【0041】
さらに、上記したガス硬化鋳型や自硬性鋳型を与える鋳物砂組成物の調製に際して、A液(ポリオール化合物を主成分とし、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を含み、水分含有量が0.1〜15wt%に調製されてなる溶液)や、B液(ポリイソシアネート化合物を主成分とし、望ましくは高級脂肪酸エステルをも含む溶液)の配合量としては、それぞれ、主成分であるポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物の配合量が、鋳物砂の100質量部に対して、それぞれ、0.5〜5.0質量部程度、好ましくは1.0〜3.0質量部程度となる割合が、好適に採用されることとなる。また、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の配合比率としては、特に限定されるものではないものの、一般に、質量基準で、ポリオール化合物:ポリイソシアネート化合物=4:6〜6:4となるように、A液とB液とが組み合わされて、用いられることとなる。
【0042】
かくして、上述せる如くして造型されたガス硬化鋳型や自硬性鋳型にあっては、その強度が効果的に向上せしめられ、更に、その強度の耐吸湿劣化特性が高められ得た結果、アルミニウム合金やマグネシウム合金、鉄等の各種金属からなる鋳物製品の鋳造に、有利に用いられ得ることとなったのである。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の代表的な実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきである。
【0044】
また、以下の実施例や比較例において調製された有機粘結剤について、(1)A液中の水分含有量の測定、(2)有機粘結剤を用いて得られた鋳物砂組成物から造型された鋳型の強度の測定、(3)鋳型の吸湿劣化後の強度の測定、更には(4)鋳物砂組成物の可使時間の評価は、それぞれ、以下のようにして行った。
【0045】
(1)A液中の水分含有量の測定
JIS−K−0113:2005に規定されるカール・フィッシャー滴定に従い、平沼産業株式会社製の水分測定装置(商品名:AQV-7 )を用いて、有機粘結剤を構成するA液中の水分含有量を測定した。
【0046】
(2)鋳型強度の測定
コールドボックス造型機のサンドマガジン内に、混練後の鋳物砂組成物を投入した後、この鋳物砂組成物を、曲げ強度試験片作製用金型内に、ゲージ圧:0.3MPaで充填する。次いで、かかる金型内に、ガスジェネレータにより、ゲージ圧:0.2MPaで1秒間、トリエチルアミンガスを通気した後、ゲージ圧:0.2MPaで14秒間、エアーパージし、更にその後、抜型して、幅:30mm×長さ:85mm×厚み:10mmの曲げ試験片(鋳型)を作製する。そして、その得られた試験片を、i)その造型直後に、及びii)気温:25℃、相対湿度:50%の常温常湿下において、24時間放置した後に、デジタル鋳物砂強度試験機(高千穂精機株式会社製)により、その曲げ強度(kgf/cm2 )を測定する。
【0047】
(3)吸湿劣化後の鋳型強度の測定
上記の鋳型強度の測定の場合と同様にして、それぞれの鋳物砂組成物から試験片を作製した後、その得られた試験片(鋳型)を、気温:10℃、相対湿度:90%の密閉容器内に、24時間放置し、更にその後、デジタル鋳物砂強度試験機(高千穂精機株式会社製)を用いて、曲げ強度(kgf/cm2 )を測定する。
【0048】
(4)鋳物砂組成物の可使時間の評価
上記の鋳型強度の測定の場合と同様にして、それぞれの鋳物砂組成物から試験片を作製するに際して、鋳物砂としてのフラタリー砂と、有機粘結剤(フェノール樹脂溶液+反応生成物+ポリイソシアネート化合物溶液)との混練により、調製される鋳物砂組成物について、その混練後、直ちに造型を行い(混練後待機時間:0分)、その得られた試験片と、混練後120分経過後に造型を行い(混練後待機時間:120分)、その得られた試験片について、それぞれの強度を、鋳型強度として測定し、それら二つの鋳型強度の値を比較することにより、可使時間の評価を行う。
【0049】
−フェノール樹脂溶液の調製(1)−
還流器、温度計及び撹拌機を備えた三つ口反応フラスコ内に、フェノールの100質量部、92質量%パラホルムアルデヒドの55.5質量部及び二価金属塩としてナフテン酸亜鉛の0.2質量部を仕込み、還流温度で90分間反応を行った後、加熱濃縮して、水分含有率が1%以下のベンジルエーテル型のフェノール樹脂を得た。次いで、その得られたフェノール樹脂の52.0質量部を、極性有機溶剤(DBE:米国デュポン社製)の10.0質量部及び非極性有機溶剤(イプゾール150:出光興産株式会社製)の38.0質量部を用いて溶解せしめて、フェノール樹脂分が52.0質量%のフェノール樹脂溶液を調製した。
【0050】
−フェノール樹脂溶液の調製(2)−
還流器、温度計及び撹拌機を備えた三つ口反応フラスコ内に、フェノールの50質量部及びオルソクレゾールの50質量部(フェノール/オルソクレゾール=50/50)と、92質量%パラホルムアルデヒドの51.9質量部及び二価金属塩としてナフテン酸亜鉛の0.15質量部を仕込み、還流温度で90分間反応を行った後、加熱濃縮して、水分含有量が1%以下のオルソクレゾール変性ベンジルエーテル型のフェノール樹脂を得た。次いで、その得られたフェノール樹脂の52.0質量部を、極性有機溶剤(DBE:米国デュポン社製)の10.0質量部及び非極性有機溶剤(イプゾール150:出光興産株式会社製)の38.0質量部を用いて溶解せしめて、フェノール樹脂分が52.0質量%のフェノール樹脂溶液を調製した。
【0051】
−ポリイソシアネート溶液の調製−
ポリイソシアネート化合物であるポリメリックMDIの78.0質量部を、非極性有機溶剤(イプゾール150)の22.0質量部を用いて溶解すると共に、そこに、反応遅延剤の0.3質量部を加えて、ポリイソシアネート化合物が78.0質量%のポリイソシアネート溶液を調製した。
【0052】
−塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物の製造−
塩基性シラン化合物としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM602)を用いて、60℃以下の温度下で、撹拌しながら、塩基性シラン化合物(KBM602)の0.6質量部中に、46%フッ化水素酸の0.6質量部を少量ずつ滴下して反応させることにより、反応生成物を製造した。
【0053】
(実施例1〜5)
先ず、上記のフェノール樹脂溶液の調製(1)で調製されたフェノール樹脂溶液の100質量部に対して、塩基性シラン化合物(KBM602)とフッ化水素酸との反応生成物を、下記表1に示される割合において添加し、撹拌して均一に混合せしめることにより、実施例1〜5の各々に係るA液を調製した。次いで、ダルトン株式会社製品川式卓上ミキサー内に、フラタリー砂を投入すると共に、その1000質量部に対して、上述の如くして調製されたA液と、上記で調製されたB液としてのポリイソシアネート溶液とを、それぞれ、10質量部投入し、60秒間撹拌して、混練することにより、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた各種の鋳物砂組成物を用いて、それぞれの試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その得られた結果を、下記表1に示した。
【0054】
(実施例6〜11、比較例2)
A液の調製に際して、塩基性シラン化合物(KBM602)とフッ化水素酸との反応生成物と共に、表1及び表2に示される割合(下記表1及び表2における水分内添量)において水分を添加したこと以外は実施例1〜5と同様の条件及び手法に従い、鋳物砂組成物を調製した。そして、得られた各種の鋳物砂組成物を用いて、それぞれの試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その得られた結果を、下記表1及び表2に示した。
【0055】
(実施例12)
フェノール樹脂溶液の調製(1)で調製されたフェノール樹脂溶液に代えて、上記のフェノール樹脂溶液の調製(2)で調製されたフェノール樹脂溶液を用いたことを除いては実施例2と同様の手法に従い、鋳物砂組成物を調製した。得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を測定して、その結果を、下記表2に示した。
【0056】
(比較例1)
ダルトン株式会社製品川式卓上ミキサー内に、フラタリー砂を投入すると共に、その1000質量部に対して、フェノール樹脂溶液の調製(1)で調製されたフェノール樹脂溶液に対して表2に示される割合において水分を添加したものと、上記で調製されたB液としてのポリイソシアネート溶液とを、それぞれ、10質量部投入し、60秒間撹拌して、鋳物砂組成物を調製した。そして、得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を測定して、その結果を、下記表2に示した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
かかる表1及び表2における結果の対比から明らかなように、フェノール樹脂と共に、塩基性シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を含有せしめてなる溶液であって、水分含有量が所定の範囲内とされたもの(A液)と、ポリイソシアネート化合物の溶液(B液)とから構成される有機粘結剤(実施例1〜12)を用いて、鋳物砂組成物を調製し、更に、それから造型して得られた鋳型(試験片)にあっては、通常の湿度環境下における鋳型強度は勿論、高湿度下での吸湿劣化後における鋳型強度においても、優れた特性を有していることが、認められるのである。また、それら実施例の中でも、実施例12においては、フェノール樹脂としてオルソクレゾール変性フェノール樹脂が用いられているところから、鋳型強度が更に向上せしめられており、耐吸湿劣化特性もより一層優れたものとなっている。
【0060】
次いで、B液に高級脂肪酸エステルを含有せしめた場合の効果を確認すべく、以下の実験を行った。
【0061】
(実施例13〜16)
ポリイソシアネート溶液の調製の際の非極性有機溶剤(イプゾール150)の使用割合を下記表3に示される割合とし、また、非極性有機溶剤の使用割合が異なるポリイソシアネート溶液に対して、高級脂肪酸エステルとしてのリシノレイン酸とグリセリンとの重縮合物を下記表3に示す割合において添加したこと以外は実施例10と同様の条件及び手法に従い、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた各種の鋳物砂組成物を用いて、それぞれの試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その結果を、下記表3に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、可使時間の評価を行った。得られた結果を、下記表3に示した。
【0062】
(比較例3)
ダルトン株式会社製品川式卓上ミキサー内に、フラタリー砂を投入すると共に、その1000質量部に対して、フェノール樹脂溶液の調製(1)で調製されたフェノール樹脂溶液と、上記のポリイソシアネート溶液の調製で調製されたポリイソシアネート溶液とを、それぞれ10質量部投入し、60秒間撹拌して、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を測定して、その結果を、下記表3に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型後24時間の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を測定して、可使時間の評価を行った。得られた結果を、下記表3に示した。
【0063】
なお、比較として、実施例2及び実施例10に係る各鋳物砂組成物についても、同様に可視時間の評価を行った。得られた結果を、下記表3に示した。
【0064】
【表3】
【0065】
かかる表3に示される結果の対比から明らかな如く、本発明に従って、B液に高級脂肪酸エステルを含有せしめてなる有機粘結剤を用いた実施例13〜16においては、混練後の待機時間が120分となっても、優れた鋳型強度を有していることが認められ、これによって、可使時間の向上が有利に図られ得ることが確認される。