特許第6887321号(P6887321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887321
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】発光装置、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/62 20100101AFI20210603BHJP
【FI】
   H01L33/62
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-117112(P2017-117112)
(22)【出願日】2017年6月14日
(65)【公開番号】特開2019-4032(P2019-4032A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平本 亜紀
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−63995(JP,A)
【文献】 特開2017−41479(JP,A)
【文献】 特開2016−72595(JP,A)
【文献】 特開昭58−50579(JP,A)
【文献】 特開平6−45651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/48−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面の一部に素子側電極を備えた半導体発光素子と、上面に基板側電極を備えた実装基板と、前記素子側電極と前記基板側電極とを接続する導電性接続層とを有し、
前記導電性接続層は、導電性粒子を焼結したものであって、前記半導体発光素子の底面と同等以上の面積をもち、その上面は、前記素子側電極と接続され、かつ、前記素子側電極が備えられていない半導体発光素子の底面との間に間隙を有することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発光装置であって、前記導電性接続層の上面と前記半導体発光素子の底面との間の間隙と、前記半導体発光素子の周囲の空間は、樹脂により封止されていることを特徴とする発光装置。
【請求項3】
請求項1に記載の発光装置であって、前記素子側電極は、前記半導体発光素子の底面の所定の領域の周囲を枠状に取り囲む形状であり、
前記半導体発光素子の周囲の空間は、樹脂により封止され、
前記素子側電極で取り囲まれた領域の内側に位置する前記半導体発光素子の底面と、前記導電性接続層の上面との間の間隙には、前記樹脂が充填されていないことを特徴とする発光装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の発光装置であって、前記導電性接続層の大きさは、前記半導体発光素子の底面の大きさと同等であることを特徴とする発光装置。
【請求項5】
実装基板の上面に設けられた基板側電極の上に、導電性粒子が分散された溶媒を塗布した後、底面の一部に素子側電極を備えた半導体発光素子を搭載する工程と、
前記導電性粒子が分散された溶媒を加熱して前記溶媒を揮発させるとともに前記導電性粒子を焼結することにより、前記半導体発光素子の底面と同等以上の面積をもち、その上面は、前記素子側電極と接続され、かつ、前記素子側電極が備えられていない半導体発光素子の底面との間に間隙を有する導電性接続層を形成する工程とを、
含むことを特徴とする発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子を実装基板に搭載した発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子を実装基板に実装する方法としては、銀ペースト等の導電性粒子が含有された接着剤(導電性接着剤)を用い、発光素子の裏面電極を実装基板の電極に接着する方法が知られている(特許文献1)。この方法では、発光素子の下面全体と、側面の下部も導電性接着剤で覆われる。導電性接着剤は、発光素子の裏面電極と実装基板の電極とを電気的に接続するだけでなく、発光素子の発光層から発光されて、発光素子の底面や側面の下部に到達した光を、発光素子と導電性接着剤の界面の屈折率差および導電性粒子の反射特性によって反射する。これにより、導電性接着剤は、発光層から下方に発せられた光を、発光素子の上面および側面から出射させる作用をする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4529041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、導電性接着剤を用いて発光素子を実装基板に接続した場合、発光素子の発する光等により導電性接着剤中の樹脂成分が消失し、導電性接着剤の体積が減少したり、接着力が低下するという問題が生じる。これにより、発光素子の底面や側面と導電性接着剤との界面に隙間が生じ、隙間に空気層が形成されるため、発光素子の底面や側面に到達した光の反射特性は、隙間が生じていない初期状態とは変化し、発光素子全体の出射光量が変化してしまう。なお、発光素子の発する光が当たらないため、裏面電極と導電性接着剤との界面においては、導電性接着剤の体積減少は生じず、導電性は維持される。
【0005】
発光素子を用いた製品は、出荷時の出射光量を基準として各部が設計されているため、導電性が維持されたとしても、長期使用しているうちに出射光量が変化することは望ましくなく、出荷時と変わらぬ光量が長期間維持されることが望まれる。
【0006】
本発明の目的は、長期間にわたって出射光量が変化しにくい発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、底面の一部に素子側電極を備えた半導体発光素子と、上面に基板側電極を備えた実装基板と、素子側電極と基板側電極とを接続する導電性接続層とを有する発光装置を提供する。ここで、導電性接続層は、導電性粒子を焼結したものであって、半導体発光素子の底面と同等以上の面積をもち、その上面は、素子側電極と接続され、かつ、素子側電極が備えられていない半導体発光素子の底面との間に間隙を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電性接続層の形状変化を抑制できるため、長期間にわたって出射光量が変化しにくい発光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の発光装置の断面図。
図2】比較例である従来の発光装置の(a)製造直後、(b)長期間使用後の断面図。
図3】(a)〜(d)第1実施形態の発光装置の製造工程を示す断面図。
図4】第2実施形態の発光装置の断面図。
図5】(a)第3実施形態の発光装置の断面図、(b)発光素子の底面図。
図6】第4実施形態の発光装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0011】
<第1実施形態>
第1実施形態の発光装置について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の発光装置の断面図である。また、比較例である従来の発光装置の製造直後(初期)の状態と長期間使用後の状態を示す断面図を図2(a),(b)にそれぞれ示す。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の発光装置は、実装基板4の上に半導体発光素子1を搭載した構造である。半導体発光素子1の底面の一部に備えられた素子側電極1は、導電性接続層3によって、実装基板4の上面に備えられた基板側電極5に接続されている。
【0013】
導電性接続層3は、導電性粒子を焼結したものであって、半導体発光素子1の底面と同等以上の面積をもつ。導電性接続層3の上面は、素子側電極2に固定され、これにより半導体発光素子1は、導電性接続層3に電気的および構造的に接続されている。導電性接続層3の上面と、素子側電極2が備えられていない半導体発光素子1の底面との間には、間隙6が形成されている。
【0014】
このように、本実施形態では、導電性接続層3の上面と半導体発光素子1の底面との間に、製造時において予め間隙6を形成しているため、導電性接続層3の上面と半導体発光素子1の底面との間には、素子側電極2の部分を除き、製造直後の状態から空気層が存在する。よって、半導体発光素子1から発せられた光は、半導体発光素子1の底面や側面において、空気層との界面において反射され、導電性接続層3に対して直接照射されない。したがって、製造直後から長期間使用後においても導電性接続層3の形状が変化しないため、光学特性も変わらない。
【0015】
さらに、本実施形態の導電性接続層3は、導電性粒子を焼結したものであるため、導電性接続層3はそもそも樹脂を含有せず、仮に長期間にわたって半導体発光素子1からの光が照射されたとしても、樹脂の消失や分解に起因する体積収縮や接着力の低下を生じない。
【0016】
このように、本実施形態の半導体発光装置は、製造直後も長時間にわたって半導体発光素子1を発光させた後も、導電性接続層3の形状が変化することがなく、長期間にわたって出射光量を維持することができる。
【0017】
なお、従来の図2(a)の発光装置は、半導体発光素子1の底面や側面下部において導電性接着剤層23に直接光が到達するため、図2(b)のように導電性接着剤層23の樹脂が消失して体積が収縮するという現象は生じる。よって、製造直後と長期間使用後とでは、導電性接続層3の形状が変化してしまうため、光学特性が変化する。
【0018】
具体的には、本実施形態の発光装置は、半導体発光素子1内の発光層から発せられた光が上面および側面から発せられる。また、発光層から下方に向けて発せられた光の一部は、底面の素子側電極2との界面において素子側電極2によって反射され、半導体発光素子1の上面または側面から反射される。また、発光層から下方に向けて発せられた光のうち、半導体発光素子1の底面と間隙6の空気層との界面に到達した光の一部は、その屈折率差によって反射され、半導体発光素子1の上面及び側面から反射される。このような各部の作用は、製造直後も長期間にわたって半導体発光素子1を発光させた後も同じであり、出射光量を維持することができる。
【0019】
導電性接続層を構成する導電性粒子としては、金属粒子を用い、具体的には、AuSn、Ag,Au等を用いることができる。焼結により導電性を発現させる金属粒子については、その粒径は、半導体発光素子1および実装基板4等にダメージを与えない加熱温度で焼結できるサイズのものを用いる。Agの粒子は、比較的低温で焼結可能であり、焼結後の洗浄も不要であるというメリットがある。
【0020】
以下、本実施形態の発光装置の製造方法について図3(a)〜(d)を用いて説明する。
【0021】
まず、図3(a)のように、上面に基板側電極5が予め設けられた実装基板4を用意し、基板側電極5の上に、導電性粒子が分散された溶媒33を塗布する。導電性粒子としては、上述のように例えばAuSn、Ag,Au等を用いることができる。例えば平均粒径が0.01〜5μm程度のものを用いる。また溶媒としては、アルコールやエチルヘキサンジオール等を用いることができる。必要に応じて、フラックスを添加してもよい。
【0022】
つぎに、図3(b)のように、塗布した導電性粒子が分散された溶媒33の上に、底面の一部に素子側電極を備えた半導体発光素子1を搭載する。これにより、溶媒33の表面張力により、半導体発光素子1の側面の下部にも溶媒33が這い上がる。
【0023】
そして、図3(c−1)のように、ホットプレート34または恒温槽によって、所定の温度で、導電性粒子が分散された溶媒33を少なくとも加熱する。これにより、溶媒33を揮発させ、導電性粒子を焼結する。したがって、所定の温度は、溶媒の沸点以上で、かつ、導電性粒子が焼結される温度以上であって、半導体発光素子1や実装基板4にはダメージを与えない温度に設定する。例えば、溶媒がエチルヘキサンジオールで、導電性粒子の平均粒径が1μmのAgである場合には、180℃に設定する。
【0024】
このとき、図3(c−2)のように、半導体発光素子1を溶媒33に押し付ける方向に加圧ツール35により加圧してもよい。加圧することにより、素子側電極2を導電性粒子に押し付けながら焼結することができるため、素子側電極2と導電性接続層3の密着性を高めることができる。
【0025】
このように導電性粒子が分散された溶媒33を加熱して溶媒33を揮発させ、導電性粒子を焼結することにより、導電性粒子が分散された溶媒33の体積が収縮し、図3(d)のように、半導体発光素子2の底面との間に間隙6が生じた導電性接続層3を形成することができる。
【0026】
最後に、必要に応じて導電性接続層3のフラックスを洗浄する。
【0027】
このように、本実施形態では、単純な工程で、長期間にわたって出射光量が変化しにくい発光装置を製造することができる。
【0028】
<第2実施形態>
第2の実施形態の発光装置を図4を用いて説明する。
【0029】
第2の実施形態の発光装置は、図4にその断面図を示したように、第1の実施形態の図1の発光装置の周囲を、半導体発光素子1の発する光を透過する封止樹脂8により封止した構成である。封止樹脂8は、間隙6内にも充填されている。また、実装基板4の周囲には、封止樹脂8を充填するための枠7が配置されている。他の構造は、第1の実施形態と同様である。
【0030】
このような構成において、半導体発光素子1の底面では、封止樹脂8との界面で発光層からの光が放出される構成となるが、封止樹脂8は、従来の導電性接着剤よりも、接着性は必要ないため、耐光性の高い樹脂(例えばシリコーン樹脂)を用いることができる。あるいは、金属粉がない樹脂では、樹脂中の光吸収を起こす不純物濃度を低減することが出来る為、従来の導電性接着剤よりも耐光性が高い。よって、封止樹脂8によって間隙6を充填した場合であっても、従来の導電性接着剤を用いた図2(a)の構造よりも、導電性接続層3の形状や封止樹脂8の界面が変化することがなく、長期間にわたって出射光量を維持することができる。
【0031】
また、半導体発光素子1の側面が空気よりも屈折率の高い封止樹脂8により封止されているため、全反射角度が第1の実施形態よりも小さい。よって、発光層から下方に向けて出射され、発光素子1の底面で反射され、側面に到達した光の側面からの出射効率を高めることができる。
【0032】
なお、本実施形態の発光装置を製造する方法としては、図3(a)〜(d)と同様の工程を用いることができるが、図3(d)の工程の後、実装基板4の縁に枠7を固定し、枠7内に封止樹脂8を充填する工程をさらに行えばよい。
【0033】
<第3実施形態>
第3の実施形態の発光装置を図5(a)、(b)を用いて説明する。
【0034】
本実施形態の発光装置は、第2の実施形態と同様に、半導体発光素子1の周囲の空間が、封止樹脂8により封止されている。素子側電極2は、半導体発光素子1の底面の所定の領域の周囲を枠状に取り囲む形状である。このため、素子側電極2で取り囲まれた領域の内側に位置する半導体発光素子1の底面と、導電性接続層5の上面との間の間隙6には、封止樹脂8が充填されていない。
【0035】
このように、本実施形態では、素子1の底面の中央部の領域に間隙6が位置する。また、間隙6に封止樹脂8が充填されていないため、間隙6は空気層であり、半導体発光素子1の底面と空気層との界面の屈折率差による全反射によって、発光層から底面に向かって反射された光を上方に反射することができる。よって、第2の実施形態と比較して、間隙6が空気層6であるため、光照射に対する安定性が大きく、長期間にわたって出射光量を変化させることがない。
【0036】
また、空気層との屈折率差による反射は、素子側電極2による金属反射と比較して、光の減衰が小さいため、高効率で発光層からの光を全反射することができる。よって、半導体発光素子1の上面からの発光量を増加させることができる。
【0037】
また、本実施形態では、枠状の導電性接続層2の大きさを、半導体発光素子1の底面の大きさと同等に設定しているため、中央部の間隙6の面積が大きく、半導体発光素子1の底面と空気層との界面で全反射を生じさせることができる領域が広いという効果も得られる。
【0038】
<第4実施形態>
第4の実施形態の発光装置を図6を用いて説明する。
【0039】
本実施形態の発光装置は、第3の実施形態と同様に、枠状の素子側電極2を用い、間隙6には封止樹脂8が充填されていない構造である。第3の実施形態と異なるのは、導電性接続層3の大きさが、半導体発光素子1の底面と同等であって、半導体発光素子1よりも外側領域には、導電性接続層3が配置されていない点である。
【0040】
このような構造であるため、第3の実施形態と同様の効果が得られるとともに、半導体発光素子1の側面から出射された光が、半導体発光素子1よりも外側に位置する導電性接続層3に入射して反射され、半導体発光素子1の側面から再び入射することがなく、半導体発光素子1への戻り光を低減することができる。よって、半導体発光素子1の発光効率を向上させることができる。
【0041】
なお、図6の発光装置を製造する方法としては、図3と同様な工程を用いることができるが、図3(a)の工程において、導電性粒子を分散させた溶媒33を塗布する際に、マスクを用いて、半導体発光素子1の底面サイズと同等の領域にのみ塗布すればよい。
【0042】
上述してきた各実施形態の発光装置は、長期間にわたって出射光量が変化しないため、車両用インジケータや車両内インテリア装置等に用いるのに好適である。
【符号の説明】
【0043】
1…半導体発光素子、2…素子側電極、3…導電性接続層、4…実装基板、5…基板側電極、6…間隙、7…枠、8…封止樹脂、23…導電性接着剤層、33…導電性粒子が分散された溶媒、34…ホットプレート、35…加圧ツール

図1
図2
図3
図4
図5
図6