特許第6887361号(P6887361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6887361監視対象選定装置、監視対象選定方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887361
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】監視対象選定装置、監視対象選定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20210603BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20210603BHJP
   G21C 17/00 20060101ALN20210603BHJP
   G21D 3/04 20060101ALN20210603BHJP
【FI】
   G05B23/02 302T
   G01M99/00 Z
   !G21C17/00 110
   !G21D3/04 B
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-210663(P2017-210663)
(22)【出願日】2017年10月31日
(65)【公開番号】特開2019-82918(P2019-82918A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2020年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】椎塚 晋
(72)【発明者】
【氏名】野村 真澄
【審査官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−062730(JP,A)
【文献】 特開2017−062728(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/045319(WO,A1)
【文献】 特開2013−164720(JP,A)
【文献】 特開平10−154056(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0228306(US,A1)
【文献】 特開2001−334999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G21C 17/00
G21D 3/04
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの計測パラメータの相互の相関関係を表す相関値に基づき当該プラントの異常予兆を検知する異常予兆監視装置に前記計測パラメータを出力する監視対象選定装置であって、
前記プラントにおいて計測される複数の計測パラメータを取得し、前回の運転サイクルにおける前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類し、今回の運転サイクルにおける前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類する分類部と、
前記異常予兆監視装置に出力する前記今回の運転サイクルにおける計測パラメータを選択する選択部と、
を備え、
前記選択部は、前記分類の結果に基づいて前回の運転サイクルと今回の運転サイクルとで挙動が異なると判断した場合に、挙動が異なることが正常であるのか異常であるのかを、事前に記憶部に記憶された情報に基づいて判断し、正常であって監視が不要であると判断した場合に、前記今回の運転サイクルにおける計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力する、
監視対象選定装置。
【請求項2】
前記分類部は、
比較した結果、前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動とが同じ場合に、当該計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力する前記計測パラメータとして選択し、前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動とが異なる場合に、前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータが正常である場合に当該計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力する前記計測パラメータとして選択する、
請求項1に記載の監視対象選定装置。
【請求項3】
前記分類部は、
前記計測パラメータを、時刻に対する計測値の傾きの値に基づいて、前記傾きの値が分類閾値以上の第1の挙動と、前記傾きの値の絶対値が分類閾値未満の第2の挙動と、前記傾きの値が負の値の場合に傾きの値の絶対値が分類閾値以上の第3の挙動とに分類する、
請求項2に記載の監視対象選定装置。
【請求項4】
前記分類部は、
前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動との分類結果が同じ場合に、前記計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力するように選択する、
請求項3に記載の監視対象選定装置。
【請求項5】
前記分類部は、
前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動とがともに前記第2の挙動のときに各々の期間の計測パラメータの平均値の比または差が第1所定値の範囲内の場合に、前記計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力するように選択する、
請求項3または請求項4に記載の監視対象選定装置。
【請求項6】
前記分類部は、
前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動とがともに前記第1の挙動のときに各々の傾きの値の比または差が第2所定値の範囲内である場合に、前記計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力するように選択する、
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の監視対象選定装置。
【請求項7】
前記分類部は、
前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動とがともに前記第3の挙動であり各々の傾きの値が負の値ときに各々の傾きの値の比または差が第2所定値の範囲内である場合に、前記計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力するように選択する、
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の監視対象選定装置。
【請求項8】
前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動を、前記計測パラメータごとに記憶する記憶部、を備え、
前記選択部は、
前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動とが異なる場合、または前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動とがともに前記第2の挙動のときに各々の期間の計測パラメータの平均値の比または差が第1所定値の範囲外の場合、または前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動とがともに前記第1の挙動でありそれぞれの傾きの値の比が所定範囲外である場合、または前記前回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動と前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動とがともに前記第3の挙動であり各々の傾きの値が負の値ときに各々の傾きの値の比または差が第2所定値の範囲外である場合、前記記憶部が記憶する情報を参照して、前記今回の運転サイクルの前記計測パラメータの挙動が正常である場合、前記計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力するように選択する、
請求項3から請求項7のいずれか1項に記載の監視対象選定装置。
【請求項9】
プラントの計測パラメータの相互の相関関係を表す相関値に基づき当該プラントの異常予兆を検知する異常予兆監視装置に前記計測パラメータを出力する監視対象選定装置を用いた監視対象選定方法であって、
分類部が、前記プラントにおいて計測される複数の計測パラメータを取得し、前回の運転サイクルにおける前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類し、今回の運転サイクルにおける前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類するステップと、
選択部が、前記異常予兆監視装置に出力する前記今回の運転サイクルにおける計測パラメータを選択するステップと、
を有し、
前記計測パラメータを選択するステップでは、前記分類の結果に基づいて前回の運転サイクルと今回の運転サイクルとで挙動が異なると判断した場合に、挙動が異なることが正常であるのか異常であるのかを、事前に記憶部に記憶された情報に基づいて判断し、正常であって監視が不要であると判断した場合に、前記今回の運転サイクルにおける計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力する、
監視対象選定方法。
【請求項10】
プラントの計測パラメータの相互の相関関係を表す相関値に基づき当該プラントの異常予兆を検知する異常予兆監視装置に前記計測パラメータを出力する監視対象選定装置のコンピュータに、
分類部が、前記プラントにおいて計測される複数の計測パラメータを取得し、前回の運転サイクルにおける前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類し、今回の運転サイクルにおける前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類するステップと、
選択部が、前記異常予兆監視装置に出力する前記今回の運転サイクルにおける計測パラメータを選択するステップと、
を実行させるプログラムであって、
前記計測パラメータを選択するステップでは、前記分類の結果に基づいて前回の運転サイクルと今回の運転サイクルとで挙動が異なると判断した場合に、挙動が異なることが正常であるのか異常であるのかを、事前に記憶部に記憶された情報に基づいて判断し、正常であって監視が不要であると判断した場合に、前記今回の運転サイクルにおける計測パラメータを前記異常予兆監視装置に出力する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視対象選定装置、監視対象選定方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントにおいて、異常予兆監視システムは、制御対象に設けられた複数の計測装置から計測情報を取得し、取得した計測情報をプラント運転データとして取得する。また、異常予兆監視システムは、取得した複数の計測パラメータ間の相互関係を示す相関に基づいて、原子力発電プラントの異常予兆を検知する。なお、異常診断システムは、データベース、異常予兆監視システム等を備える。異常診断システムは、異常予兆監視システムが出力した異常予兆検知結果とデータベースの情報を基に、原子力発電プラントの異常事象等(異常事象・異常予兆設備・異常対応処置)を特定している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−62730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、複数の計測装置の運転サイクルが異なる場合等、計測情報が不連続に変化する場合に相関関係の崩れが生じるため、この影響を受け運転サイクル内の異常予兆検知が困難となる。また、特許文献1に記載の技術では、運転サイクルが異なることに起因する異常検知(誤検知)により、監視すべき運転サイクル内の異常検知が非効率となる。
【0005】
本発明は、誤検知を低減し、異常診断システムで効果的な異常事象等の特定を行うことができる監視対象選定装置、監視対象選定方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、監視対象選定装置は、当該監視対象選定装置が出力する計測パラメータの相互の相関関係を表す相関値に基づきプラントの異常事象を診断する異常診断装置に前記計測パラメータを出力する監視対象選定装置であって、前記プラントにおいて計測される複数の計測パラメータを取得し、第1期間における前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類し、前記第1期間と第2期間それぞれにおける前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類する分類部と、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と、前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とを比較した結果に基づいて、前記異常診断装置に出力する前記計測パラメータを選択する選択部と、を備える。
【0007】
また、本発明の第2の態様によれば、監視対象選定装置において、前記分類部は、比較した結果、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とが同じ場合に、当該計測パラメータを前記異常診断装置に出力する前記計測パラメータとして選択し、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とが異なる場合に、前記第2期間の前記計測パラメータが正常である場合に当該計測パラメータを前記異常診断装置に出力する前記計測パラメータとして選択するようにしてもよい。
【0008】
また、本発明の第3の態様によれば、監視対象選定装置において、前記分類部は、前記計測パラメータを、時刻に対する計測値の傾きの値に基づいて、前記傾きの値が分類閾値以上の第1の挙動と、前記傾きの値の絶対値が分類閾値未満の第2の挙動と、前記傾きの値が負の値の場合に傾きの値の絶対値が分類閾値以上の第3の挙動とに分類するようにしてもよい。
【0009】
また、本発明の第4の態様によれば、監視対象選定装置において、前記分類部は、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動との分類結果が同じ場合に、前記計測パラメータを前記異常診断装置に出力するように選択するようにしてもよい。
【0010】
また、本発明の第5の態様によれば、監視対象選定装置において、前記分類部は、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とがともに前記第2の挙動のときに各々の期間の計測パラメータの平均値の比または差が第1所定値の範囲内の場合に、前記計測パラメータを前記異常診断装置に出力するように選択するようにしてもよい。
【0011】
また、本発明の第6の態様によれば、監視対象選定装置において、前記分類部は、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とがともに前記第1の挙動のときに各々の傾きの値の比または差が第2所定値の範囲内である場合に、前記計測パラメータを前記異常診断装置に出力するように選択するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明の第7の態様によれば、監視対象選定装置において、前記分類部は、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とがともに前記第3の挙動であり各々の傾きの値が負の値ときに各々の傾きの値の比または差が第2所定値の範囲内である場合に、前記計測パラメータを前記異常診断装置に出力するように選択するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明の第8の態様によれば、監視対象選定装置は、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動を、前記計測パラメータごとに記憶する記憶部、を備え、前記選択部は、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とが異なる場合、または前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とがともに前記第2の挙動のときに各々の期間の計測パラメータの平均値の比または差が第1所定値の範囲外の場合、または前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とがともに前記第1の挙動でありそれぞれの傾きの値の比が所定範囲外である場合、または前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とがともに前記第3の挙動であり各々の傾きの値が負の値ときに各々の傾きの値の比または差が第2所定値の範囲外である場合、前記記憶部が記憶する情報を参照して、前記第2期間の前記計測パラメータの挙動が正常である場合、前記計測パラメータを前記異常診断装置に出力するように選択するようにしてもよい。
【0014】
また、本発明の第9の態様によれば、監視対象選定方法は、監視対象選定装置が出力する計測パラメータの相互の相関関係を表す相関値に基づきプラントの異常事象を診断する異常診断装置に前記計測パラメータを出力する前記監視対象選定装置の監視対象選定方法であって、分類部が、前記プラントにおいて計測される複数の計測パラメータを取得し、第1期間における前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類するステップと、前記分類部が、前記第1期間と第2期間それぞれにおける前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類するステップと、選択部が、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と、前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とを比較した結果に基づいて、前記異常診断装置に出力する前記計測パラメータを選択するステップと、を含む。
【0015】
また、本発明の第10の態様によれば、プログラムは、監視対象選定装置が出力する計測パラメータの相互の相関関係を表す相関値に基づきプラントの異常事象を診断する異常診断装置に前記計測パラメータを出力する前記監視対象選定装置のコンピュータに、前記プラントにおいて計測される複数の計測パラメータを取得し、第1期間における前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類する手順と、前記第1期間と第2期間それぞれにおける前記複数の計測パラメータそれぞれに対して時刻に対する計測値の変化の挙動を分類する手順と、前記第1期間の前記計測パラメータの挙動と、前記第2期間の前記計測パラメータの挙動とを比較した結果に基づいて、前記異常診断装置に出力する前記計測パラメータを選択する手順と、を実行させる。
【発明の効果】
【0016】
上記態様のうち少なくとも1つの態様によれば、監視対象選定装置は、誤検知を低減し、異常診断システムで効果的な異常事象等の特定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る異常診断システムの構成例を示す図である。
図2】本実施形態に係る監視対象選定装置の構成例を示す図である。
図3】本実施形態に係る計測パラメータの分類例を示す図である。
図4】本実施形態に係るNサイクルとN+1サイクルにおける挙動の変化例を示す図である。
図5】本実施形態に係る記憶部が記憶する情報例を説明する図である。
図6】本実施形態に係る監視対象選定装置が行う処理手順例を示すフローチャートである。
図7】本実施形態に係る異常予兆監視装置の構成例を示す図である。
図8】異常予兆判断部が選択した2つの計測パラメータの例を示す図である。
図9】異常指示値と警報発信閾値の例を示す図である。
図10】発生事象に対する計測パラメータの寄与度の例を示す図である。
図11】計測パラメータの監視例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る異常診断システム1の構成例を示す図である。図1に示すように、異常診断システム1は、監視対象選定装置3、異常予兆監視装置4、および異常診断装置5を備える。なお、以下の実施形態では、異常診断システム1を原子力発電プラントに適用する例を説明する。
また、異常診断装置5は、取得部51、記憶部52、および異常診断制御部53を備える。
【0019】
異常診断システム1は、原子力発電プラントに設けられる複数の計測装置21、22,23,・・・それぞれが出力する計測パラメータを、プラント運転データとして取得する。異常診断システム1は、取得した計測パラメータに基づいて原子炉を有する原子力発電プラントの異常を診断する。ここで計測装置21、22,23,・・・は、例えば、ポンプの圧力、注入される流量、出力される流量、水位、ポンプの軸受けの温度等を計測する装置である。
【0020】
監視対象選定装置3は、計測装置21、22,23,・・・それぞれから計測パラメータを取得する。監視対象選定装置3は、取得した計測パラメータそれぞれに対して、出力対象であるか否かを判断する。監視対象選定装置3は、出力対象であると判断した計測パラメータを選択し、選択した計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力する。なお、監視対象選定装置3の構成、判断方法等については、後述する。
【0021】
異常予兆監視装置4は、例えば、取得した複数の計測パラメータの相互の相関関係を表す相関値に基づいて、原子力発電プラントの異常予兆を検知する。異常予兆監視装置4は、検知した異常予兆の検知結果を異常診断装置5に出力する。異常予兆の検知結果には、例えば、パラメータ推移、パラメータ寄与度、及び計測パラメータの系統上の位置等が含まれている。なお、異常予兆監視装置4の構成、判断方法等については、後述する。
【0022】
異常診断装置5は、異常予兆監視装置4が出力する異常予兆の検知結果と、自装置が記憶する原子力発電プラントの過去の運転履歴とに基づいて、原子力発電プラントの異常事象を特定する。
【0023】
取得部51は、異常予兆監視装置4が出力する異常予兆の検知結果を取得する。
記憶部52は、原子力発電プラントの過去の運転履歴に基づいて生成される各種情報を記憶する。例えば、記憶部52は、原子力発電プラントの異常事象と、異常事象に関連付けられる異常予兆設備と、異常事象に関連付けられる異常対応処置と、を記憶する。また、記憶部52は、異常事象に関連付けられる判定用のパラメータ推移と、異常事象に関連付けられる判定用のパラメータ寄与度と、を記憶する。なお、判定用のパラメータ推移と判定用のパラメータ寄与度は、原子力発電プラントの過去の運転履歴に基づいて生成されている。
【0024】
異常診断制御部53は、取得した異常予兆の検知結果と、記憶部52が記憶する各種情報を比較・照合する(つまり、マッチング判定を行う)ことで、原子力発電プラントの異常事象等を特定する。例えば、異常診断制御部53は、取得した異常予兆の検知結果に含まれるパラメータ推移、パラメータ寄与度、及び計測パラメータの系統上の位置と、記憶部52が記憶するパラメータ推移、パラメータ寄与度、及び計測パラメータの系統上の位置を比較する。異常診断制御部53は、これらを比較した結果、異常予兆の検知結果に一致するパラメータ推移、パラメータ寄与度、及び計測パラメータの系統上の位置があれば、一致したパラメータ推移、パラメータ寄与度、及び計測パラメータの系統上の位置に関連付けられる異常事象を特定する。さらに、異常診断制御部53は、特定した異常事象に関連付けられる異常予兆設備及び異常対応処置を特定する。
なお、上述した異常診断装置5の異常診断方法は一例であり、これに限らない。
【0025】
次に、監視対象選定装置3の構成例と動作例を説明する。
図2は、本実施形態に係る監視対象選定装置3の構成例を示す図である。図2に示すように、監視対象選定装置3は、取得部31、記憶部32、対象選定部33、出力部34、およびトレンド監視部35を備える。また、対象選定部33は、分類部331、選択部332を備える。
【0026】
取得部31は、計測装置21、22,23,・・・それぞれから計測パラメータを取得する。
【0027】
対象選定部33は、取得部31が取得した計測パラメータそれぞれに対して、出力対象である計測パラメータを選択する。
【0028】
分類部331は、取得した計測パラメータ毎に、Nサイクル(第1期間)の時系列変化(挙動)を分類する。また、分類部331は、取得した計測パラメータ毎に、N+1サイクル(第2期間)の時系列変化(挙動)を分類する。ここで、Nサイクルは、例えば十三ヶ月であり、N+1サイクルは、例えば一週間である。このように、N+1サイクル(第2期間)は、Nサイクル(第1期間)より短い期間であってもよい。分類部331は、時刻に対する計測パラメータの変化を、例えば線形近似して傾きを求める。分類部331は、傾きの大きさに基づいて、挙動を分類する。挙動の種類は、例えば、時間の経過に従って計測値が増加する「上昇」、時間の経過に従って計測値が所定の値の範囲内である「一定」、時間の経過に従って計測値が減少する「低下」である。
【0029】
選択部332は、分類部331が分類したNサイクルにおける挙動の分類結果(以下、Nサイクルの分類結果という)と、N+1サイクルにける挙動の分類結果(以下、N+1サイクルの分類結果)が一致しているか異なっているか判断する。選択部332は、Nサイクルの分類結果と、N+1サイクルの分類結果が異なっている場合、評価対象であると判断する。選択部332は、Nサイクルの分類結果と、N+1サイクルの分類結果が一致している場合、Nサイクルにおける計測パラメータの第1の平均値と、N+1サイクルにおける計測パラメータの第2の平均値を求め、求めた第1の平均値と第2の平均値が同じであるか異なっているか判断する。なお、選択部332は、例えば、第1の平均値と第2の平均値の比または差が所定の値の範囲内である場合、第1の平均値と第2の平均値が同じであると判断する。選択部332は、第1の平均値と第2の平均値が異なっている場合、評価対象であると判断する。選択部332は、Nサイクルの分類結果と、N+1サイクルの分類結果が一致している場合、Nサイクルにおける計測パラメータの時刻に対する第1の傾きと、N+1サイクルにおける計測パラメータの時刻に対する第2の傾きを求め、求めた第1の傾きと第2の傾きが同じであるか異なっているか判断する。選択部332は、第1の傾きと第2の傾きが異なっている場合、評価対象であると判断する。選択部332は、Nサイクルの分類結果とN+1サイクルの分類結果が一致している場合、かつ第1の平均値と第2の平均値が一致している場合、かつ第1の傾きと第2の傾きが一致している場合、出力対象(評価対象外)であると判断して、取得した計測パラメータを、出力部34を介して異常予兆監視装置4に出力する。なお、分類部331は、複数の計測パラメータを分類する際に、複数の計測パラメータの最大値と最小値用いて計測値を規格化したのちに、挙動を分類するようにしてもよい。
【0030】
選択部332は、評価対象と判断した計測パラメータに対して、さらにNサイクルの分類結果とN+1サイクルの分類結果が異なっている場合、または第1の平均値と第2の平均値が異なっている場合、または第1の傾きと第2の傾きが異なっている分類結果が正常であるか異常であるかを、記憶部32が記憶する情報と比較して判断する。選択部332は、正常であると判断し、かつ監視対象選定装置3で監視不要な計測パラメータである場合、取得した計測パラメータを、出力部34を介して異常予兆監視装置4に出力する。選択部332は、異常であると判断した場合、または監視対象選定装置3で監視する必要がある計測パラメータである場合、取得した計測パラメータをトレンド監視部35に出力する。
【0031】
記憶部32は、計測データを分類するための分類閾値を記憶する。記憶部32は、計測パラメータ毎に、正常動作時のNサイクルの挙動の分類結果とN+1サイクルの挙動の分類結果を記憶する。記憶部32は、Nサイクル時の動作状態、N+1サイクル時の動作状態を記憶する。なお、動作状態とは、点検前、点検後、装置の交換前、装置の交換後、作業が行われた状態、作業が行われていなかった状態等である。記憶部32は、計測パラメータ毎に、Nサイクルにおける挙動の分類結果を記憶し、N+1サイクルにおける挙動の分類結果を記憶する。
【0032】
出力部34は、対象選定部33が選択した計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力する。
トレンド監視部35は、選択部332が出力した計測パラメータに対して、計測パラメータの監視(トレンド監視)等を行う。トレンド監視部35は、監視した結果を示す情報と監視した計測パラメータを、図1の破線のように異常予兆監視装置4または異常診断装置5に出力するようにしてもよい。または、トレンド監視部35は、自装置が備える不図示の表示部に表示するようにしてもよい。
【0033】
次に、計測パラメータの分類例を説明する。
図3は、本実施形態に係る計測パラメータの分類例を示す図である。図3において、横軸は時刻、縦軸は計測値である。
符号g1は、時系列変化の状態(挙動)が上昇の例である。分類部331は、線形近似して求めた傾きの大きさが、分類閾値以上である場合に、挙動の分類結果を「上昇」(第1の挙動)であると判断する。
【0034】
符号g2は、時系列変化の状態(挙動)が一定の例である。分類部331は、線形近似して求めた傾きの大きさの絶対値が、分類閾値未満である場合に、挙動の分類結果を「一定」(第2の挙動)であると判断する。
【0035】
符号g3は、時系列変化の状態(挙動)が低下の例である。分類部331は、線形近似して求めた傾きが負の値のとき、傾きの絶対値が分類閾値以上である場合に、挙動の分類結果を「低下」(第3の挙動)であると判断する。
【0036】
次に、計測パラメータの分類例を説明する。
図4は、本実施形態に係るNサイクルとN+1サイクルにおける挙動の変化例を示す図である。
図4に示す例では、Nサイクルの挙動は「上昇」であり、N+1サイクルの挙動は「一定」である。なお、Nサイクルにおける挙動は正常時の挙動である。そして、N+1サイクルの挙動が監視対象選定装置3の解析対象である。
このように、同じ計測パラメータにおいて、Nサイクルの挙動の分類結果と、N+1サイクルの挙動の分類結果が異なる場合、選択部332は、挙動の分類結果が異なる要因を確認し、異なっていることが正常であるのか異常であるのかを判断する。ここで、要因は、例えば、Nサイクルの計測パラメータが作業点検前でありN+1サイクルの計測パラメータが点検後である場合、またはNサイクルの計測パラメータが装置の交換前でありN+1サイクルの計測パラメータが装置の交換後である場合等である。
例えば、再起動後、N+1サイクルの期間(例えば一週間)の挙動が一定であることが正常である場合もある。また、装置の交換後であれば、N+1サイクルの挙動が一定であることが正常である場合もある。
【0037】
次に、記憶部32が記憶する情報例を説明する。
図5は、本実施形態に係る記憶部32が記憶する情報例を説明する図である。
図5に示すように、記憶部32は、分類部331が分類したNサイクルとN+1サイクルの挙動の分類結果を記憶する。例えば、記憶部32は、計測パラメータAに、Nサイクルの挙動の分類結果の「上昇」、N+1サイクルの挙動の分類結果の「上昇」を対応付けて記憶する。記憶部32は、計測パラメータCに、Nサイクルの挙動の分類結果の「一定」、N+1サイクルの挙動の分類結果の「一定」を対応付けて記憶する。
【0038】
次に、監視対象選定装置3が行う処理手順例を説明する。
図6は、本実施形態に係る監視対象選定装置3が行う処理手順例を示すフローチャートである。なお、監視対象選定装置3は、以下の処理を、計測パラメータ毎に行う。
【0039】
(ステップS1)取得部31は、計測装置21、22,23,・・・それぞれから計測パラメータを取得する。
(ステップS2)分類部331は、Nサイクルの時系列変化(挙動)を分類する。また、分類部331は、N+1サイクルの時系列変化(挙動)を分類する。
【0040】
(ステップS3)選択部332は、Nサイクルの挙動の分類結果と、N+1サイクルの挙動の分類結果とが異なっているか否かを判断する。選択部332は、Nサイクルの挙動の分類結果と、N+1サイクルの挙動の分類結果とが異なっていると判断した場合(ステップS3;YES)、ステップS7の処理に進める。選択部332は、Nサイクルの挙動の分類結果と、N+1サイクルの挙動の分類結果とが同じである判断した場合(ステップS3;NO)、ステップS4の処理に進める。
【0041】
(ステップS4)選択部332は、Nサイクルの挙動の分類結果と、N+1サイクルの挙動の分類結果とが、両方とも「一定」である場合、Nサイクルにおける計測パラメータの平均値を求め、N+1サイクルにおける計測パラメータの平均値を求める。続けて、選択部332は、Nサイクルにおける計測パラメータの平均値と、N+1サイクルにおける計測パラメータの平均値とが異なっているか否かを判断する。選択部332は、例えば、Nサイクルにおける計測パラメータの平均値と、N+1サイクルにおける計測パラメータの平均値の比または差が、第1所定値の範囲内である場合は、平均値が同じであると判断する。また、選択部332は、例えば、Nサイクルにおける計測パラメータの平均値と、N+1サイクルにおける計測パラメータの平均値の比または差が、第1所定値の範囲外である場合は、平均値が異なっていると判断する。選択部332は、Nサイクルにおける計測パラメータの平均値と、N+1サイクルにおける計測パラメータの平均値とが異なっていると判断した場合(ステップS4;YES)、ステップS7の処理に進める。選択部332は、Nサイクルにおける計測パラメータの平均値と、N+1サイクルにおける計測パラメータの平均値とが同じであると判断した場合(ステップS4;NO)、ステップS5の処理に進める。
【0042】
(ステップS5)選択部332は、Nサイクルの挙動の分類結果と、N+1サイクルの挙動の分類結果とが、両方とも「上昇」または「低下」である場合、Nサイクルにおける時間に対する計測パラメータの傾きを例えば線形近似で求め、N+1サイクルにおける時間に対する計測パラメータの傾きを例えば線形近似で求める。続けて、選択部332は、Nサイクルにおける傾きと、N+1サイクルにおける傾きとが異なっているか否かを判断する。選択部332は、例えば、Nサイクルにおける傾きと、N+1サイクルにおける傾きの比または差が、第2所定値の範囲内である場合は、傾きが同じであると判断する。また、選択部332は、例えば、Nサイクルにおける傾きと、N+1サイクルにおける傾きの比または差が、第2所定値の範囲外である場合は、傾きが異なっていると判断する。なお、第2所定値は、「上昇」と「低下」で同じ値であってもよく、異なっていてもよい。選択部332は、Nサイクルにおける傾きと、N+1サイクルにおける傾きが異なっていると判断した場合(ステップS5;YES)、ステップS7の処理に進める。選択部332は、Nサイクルにおける傾きと、N+1サイクルにおける傾きが同じであると判断した場合(ステップS5;NO)、ステップS6の処理に進める。
【0043】
(ステップS6)選択部332は、Nサイクルの挙動の分類結果とN+1サイクルの挙動の分類結果が同じであり、かつNサイクルにおける計測パラメータの平均値とN+1サイクルにおける計測パラメータの平均値が同じであり、かつNサイクルにおける計測パラメータの傾きとN+1サイクルにおける計測パラメータの傾きが同じである場合、その計測パラメータを評価対象外として選択する。選択後、選択部332は、ステップS8の処理を進める。
【0044】
(ステップS7)選択部332は、Nサイクルの挙動の分類結果とN+1サイクルの挙動の分類結果が異なる場合、またはNサイクルにおける計測パラメータの平均値とN+1サイクルにおける計測パラメータの平均値が異なる場合、またはNサイクルにおける計測パラメータの傾きとN+1サイクルにおける計測パラメータの傾きが異なる場合、その計測パラメータを評価対象として選択する。選択後、選択部332は、ステップS9の処理を進める。
【0045】
(ステップS8)選択部332は、選択した計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力する。監視対象選定装置3は、処理を終了する。
【0046】
(ステップS9)選択部332は、ステップS7で評価対象とした計測パラメータのNサイクルの挙動とN+1サイクルの挙動が異なることが正常であるのか異常であるのかを、記憶部32が記憶する情報に基づいて判断する。または、選択部332は、ステップS7で評価対象としたNサイクルにおける計測パラメータの平均値とN+1サイクルにおける計測パラメータの平均値が異なることが正常であるのか異常であるのかを、記憶部32が記憶する情報に基づいて判断する。または、選択部332は、ステップS7で評価対象としたNサイクルにおける傾きとN+1サイクルにおける傾きが異なることが正常であるのか異常であるのかを、記憶部32が記憶する情報に基づいて判断する。選択部332は、正常であると判断した場合(ステップS9;正常)、ステップS10の処理に進め、異常であると判断した場合(ステップS9;異常)、ステップS11の処理に進める。
【0047】
(ステップS10)選択部332は、正常であると判断された計測パラメータの監視が必要であるか否かを、記憶部32が記憶する情報に基づいて判断する。選択部332は、監視が不要であると判断した場合(ステップS10;予兆監視可)、ステップS8の処理に進める。選択部332は、監視が必要であると判断した場合(ステップS10;予兆監視否)、ステップS11の処理に進める。この意味合いは、N+1サイクルにおける挙動の分類結果の異なりが一時的なものであるのか継続するかを選択部332が判断している。選択部332は、継続的に挙動の分類結果が異なるのであれば、監視不要なので対象外と判断する。
【0048】
(ステップS11)選択部332は、計測パラメータをトレンド監視部35に出力する。トレンド監視部35は、選択部332が出力した計測パラメータに対して、トレンド監視等を行う。
【0049】
なお、上述した処理において、選択部332は、ステップS3でNサイクルとN+1サイクルの計測パラメータの挙動の分類結果が同じ場合に、その計測パラメータを選択して、選択した計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力するようにしてもよい。
【0050】
また、上述した処理において、選択部332は、ステップS4でNサイクルとN+1サイクルの計測パラメータの平均値が同じ場合に、その計測パラメータを選択して、選択した計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力するようにしてもよい。
【0051】
また、上述した処理において、選択部332は、ステップS3でNサイクルとN+1サイクルの計測パラメータの挙動の分類結果が同じ場合、かつステップS5でNサイクルとN+1サイクルの計測パラメータの傾きが同じ場合に、その計測パラメータを選択して、選択した計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力するようにしてもよい。
【0052】
ここで、ステップS9の処理を行う理由を、さらに説明する。
正常時の挙動であるNサイクルの挙動と、N+1サイクルの挙動とが異なっていても、計測値の挙動としては正常である場合もあり得る。例えばNサイクルの動作後に、計測装置21が交換された場合、N+1サイクルの挙動がNサイクルの挙動と異なる場合もある。また、例えばN+1サイクルの期間に作業が行われていた場合、N+1サイクルの挙動がNサイクルの挙動と異なる場合もある。ステップS9の処理の目的は、このように正常である計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力するように選択することにある。
【0053】
なお、上述した例では、分類部331が、計測パラメータに対して線形近似して挙動を3種類に分類する例を説明したが、これに限らない。分類部331は、時刻に対する計測値に対して、二次近似、三次近似、・・等を行って分類してもよい。または、所定の時間変化を有する挙動を記憶部32に記憶させておき、分類部331は、記憶部32が記憶する情報を参照して分類してもよい。所定の時間変化を有する挙動とは、例えば、台形形状の挙動、期間内に複数回の増加と低下を繰り返す挙動、矩形波のように高い計測値と低い計測値を繰り返す挙動等である。また、分類部331は、2種類以上に挙動を分類してもよく、4種類以上に挙動を分類してもよい。
【0054】
次に、異常予兆監視装置4の構成例と動作例を説明する。
図7は、本実施形態に係る異常予兆監視装置4の構成例を示す図である。図7に示すように、異常予兆監視装置4は、取得部41、記憶部42、および異常予兆判断部43を備える。
【0055】
取得部41は、監視対象選定装置3が出力する選択された計測パラメータを取得する。
記憶部42は、取得部41が取得した計測パラメータを、計測パラメータ毎に時系列に従って記憶する。また、記憶部42は、異常予兆であるか否かを判定するための閾値を記憶する。記憶部42は、時刻に対する計測値の変化の予測値または正常時の実測値を計測パラメータ毎に記憶する。さらに、記憶部42は、実測値と予測値との乖離閾値を、計測パラメータ毎に記憶する。
【0056】
異常予兆判断部43は、複数の計測パラメータのうち、2つの計測パラメータの相関強さを表す相関値それぞれを導出する。異常予兆判断部43は、導出した全ての計測パラメータの相関値を足し合わせた相関値を異常指示値として用いる。異常予兆判断部43は、監視指示値が警報発信閾値を超えた場合、異常予兆があると判定(検知)する。異常予兆判断部43は、監視指示値が警報発信閾値以下である場合、異常予兆がないと判定(未検知)する。異常予兆判断部43は、異常予兆があると検知した場合、異常予兆の検知結果を異常診断装置5に出力する。なお、異常指標値とは、異常度の指標である。また、警報発信閾値は、異常予兆であるか否かを判定するための閾値である。
【0057】
次に、異常予兆監視装置4が行う予兆監視の処理手順の概略を説明する。
異常予兆判断部43は、複数の計測パラメータのうち、2つの計測パラメータを選択する。
図8は、異常予兆判断部43が選択した2つの計測パラメータの例を示す図である。図8に示す例では、異常予兆判断部43は、第1の計測パラメータとして「AAライン出口流量」を選択する。そして、異常予兆判断部43は、第2の計測パラメータとして、まず「BBポンプ軸受温度」を選択する。次に、異常予兆判断部43は、第2の計測パラメータとして、「AAライン入口温度」を選択する。次に、異常予兆判断部43は、第2の計測パラメータとして、「CCライン出口温度」を選択する。このように、異常予兆判断部43は、複数の計測パラメータから、2つの計測パラメータの全ての組み合わせを選択していく。そして、異常予兆判断部43は、選択した第1の計測パラメータと第2の計測パラメータの相関の強さを示す相関値を、全ての組み合わせに対して求める。異常予兆判断部43は、第1の計測パラメータと第2の計測パラメータの全ての組み合わせそれぞれの相関値の総和を、異常指示値をして求める。
【0058】
図9は、異常指示値と警報発信閾値の例を示す図である。
図9において、横軸は時刻、縦軸は異常指示値である。破線g11は、警報発信閾値を表し、波形g12は、時刻に対する異常指示値の変化を表す。図9に表す例では、時刻t1のとき、異常指示値が警報発信閾値を超える例である。
異常予兆判断部43は、監視指示値が警報発信閾値を超えた場合、その時刻t1のときの計測パラメータそれぞれの異常指標値に帯する寄与度を求める。
【0059】
図10は、発生事象に対する計測パラメータの寄与度の例を示す図である。図10において、横軸は計測パラメータの種類、縦軸は寄与度である。
図10に示す例では、異常指標値に寄与している寄与度の高い計測パラメータが、順にパラメータA、パラメータB、パラメータC、パラメータD、パラメータE、パラメータFの例である。図10に示すように、図9において、時刻t1のとき寄与度が最も高い計測パラメータは、パラメータAである。
このように、異常予兆判断部43は、異常指示値が警報発信閾値を超えた時刻における寄与度の高い計測パラメータを抽出する。なお、異常予兆判断部43は、寄与度の高い計測パラメータを少なくとも1つ抽出し、2つ以上抽出するようにしてもよい。
【0060】
異常予兆判断部43は、抽出した寄与度の高い計測パラメータに対して、実測値と予測値との比較を行うことで計測パラメータを個別に監視する。
図11は、計測パラメータの監視例を説明する図である。図11において、横軸は時刻、縦軸は、計測値である。また、波形g21は、実測値であり、波形g22は予測値である。
図9図10に示す例において、異常予兆判断部43は、寄与度の高い計測パラメータとしてパラメータAを選択する。そして、異常予兆判断部43は、記憶部42が記憶するパラメータAの時刻に対する計測値の変化の予測値(または正常時の実測値)を読み出す。異常予兆判断部43は、予測値と実測値を比較し、予測値と実測値との乖離状態を監視する。異常予兆判断部43は、例えば、時刻t1以降、パラメータAの実測値と予測値との乖離状態を監視し、実測値と予測値との差が乖離閾値以上となった時刻t2のときに、パラメータAに異常予兆が発生していると検知する。異常予兆判断部43は、異常予兆があると検知した場合、異常予兆の検知結果を異常診断装置5に出力する。
【0061】
なお、異常予兆監視装置4は、異常指示値が警報発信閾値を超えたとき、不図示の報知部から報知するようにしてもよい。また、異常予兆監視装置4は、異常指示値が警報発信閾値を超えたとき、不図示の表示部に寄与度の高い計測パラメータと寄与度を表示させるようにしてもよい。
【0062】
なお、上述した異常予兆の方法は一例であり、これに限らない。例えば、先行技術文献における特許文献1の特開2015−62730号公報に記載のように行ってもよい。
【0063】
上述したように、異常予兆監視装置4は、運転サイクル内の異常予兆検知を目的としている。このため異常予兆監視装置4は、NサイクルとN+1サイクルの間で計測パラメータそれぞれの挙動が異なっている場合、相関が崩れることによって異常予兆検知が困難になる場合があった。
このため、本実施形態では、N+1サイクルの挙動が異常である場合に、その計測パラメータを異常予兆判断部43に出力しないように選択する。または、本実施形態では、その計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力する計測パラメータから除外する。換言すると、本実施形態では、計測パラメータの不連続な変化に起因する異常予兆を事前にスクリーニングし、運転サイクル内の異常を監視する異常予兆監視装置4の入力から除外する。
これにより、本実施形態によれば、異常予兆監視装置4に出力する計測パラメータを選択することで、異常予兆監視装置4の誤検出を低減することができる。この結果、本実施形態によれば、異常診断システム1の異常事象の特定時の精度を向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態では、計測パラメータそのものを異常予兆監視装置4に入力するのではなく、上述の監視対象選定装置3で監視対象を選定した上で異常予兆監視装置4に入力することとしている。
【0065】
また、本実施形態では、異常予兆監視前の計測パラメータを対象に挙動を分析(パターン化)して分類した。また、本実施形態では、運転サイクル間(例えば、前回の運転サイクルと今回の運転サイクル)で比較を行うようにした。
【0066】
以上のように、本実施形態では、計測パラメータ間の相互関係を示す相関値に基づいて、原子力発電プラントの異常予兆を検知する際に、監視対象選定装置3で取得した複数の計測パラメータから正常な挙動の計測パラメータを選択して、選択した計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力するようにした。
以上のように、本実施形態では、運転サイクルが異なる場合等、計測パラメータが不連続に変化する場合に相関関係の崩れが発生した場合であっても、正常な挙動の計測パラメータを選択して、選択した計測パラメータを異常予兆監視装置4に出力するようにした。この結果、本実施形態によれば、運転サイクル内の異常予兆検知・異常事象特定が困難となる課題を解決することができる。
【0067】
また、上述した例では、異常診断システム1を原子力発電プラントに適用する例を説明したが、これに限らない。異常診断システム1は、火力発電プラント、水力発電プラント、風力発電プラント、太陽光発電プラント等に適用することも可能である。この場合、第1期間、第2期間は、それぞれの発電プラントに応じた期間であってもよい。
【0068】
なお、本発明における監視対象選定装置3の機能の全てまたは一部を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより監視対象選定装置3が行う処理の全てまたは一部を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0069】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0070】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0071】
1…異常診断システム、3…監視対象選定装置、4…異常予兆監視装置、5…異常診断装置、31…取得部、32…記憶部、33…対象選定部、34…出力部、35…トレンド監視部、331…分類部、332…選択部、41…取得部、42…記憶部、43…異常予兆判断部、51…取得部、52…記憶部、53…異常診断制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11