特許第6887366号(P6887366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6887366-プレコートフィン材 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887366
(24)【登録日】2021年5月20日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】プレコートフィン材
(51)【国際特許分類】
   F28F 19/04 20060101AFI20210603BHJP
   C09D 133/26 20060101ALI20210603BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20210603BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20210603BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20210603BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20210603BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   F28F19/04 A
   C09D133/26
   F28F1/32 G
   C09D129/04
   C09D171/02
   C09D7/40
   C09D5/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-235335(P2017-235335)
(22)【出願日】2017年12月7日
(65)【公開番号】特開2019-100675(P2019-100675A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】世古 佳也
(72)【発明者】
【氏名】笹崎 幹根
【審査官】 河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−090105(JP,A)
【文献】 特開2015−222155(JP,A)
【文献】 特開2017−197734(JP,A)
【文献】 特開2010−096416(JP,A)
【文献】 特開2009−233872(JP,A)
【文献】 特開2016−156614(JP,A)
【文献】 特開2009−186149(JP,A)
【文献】 特開平10−148488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/04
C09D 5/00
C09D 7/40
C09D 129/04
C09D 133/26
C09D 171/02
F28F 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムからなる基板と、
前記基板上に形成され、表面に露出した樹脂塗膜と、を有し、
前記樹脂塗膜は、
けん化度が95.0〜99.8%であるポリビニルアルコール(A)と、
酸価が20〜100mgKOH/gであるアクリルアミド系ポリマー(B)と、
数平均分子量が6000〜20000であるポリエチレングリコール(C)と、
体積基準における平均粒子径が100〜300nmであるフッ素樹脂粒子(D)と、を含有し、
前記樹脂塗膜の質量を100質量部とした場合に、前記ポリエチレングリコール(C)の含有量は1.0〜13質量部であり、かつ、前記フッ素樹脂粒子(D)の含有量は2.0〜5.0質量部であり、
前記ポリビニルアルコール(A)の含有量は、質量比において、前記アクリルアミド系ポリマー(B)の含有量の0.3〜0.6倍である、
プレコートフィン材。
【請求項2】
前記フッ素樹脂粒子(D)は、パーフルオロアルキル基を備えたフッ素樹脂から構成されている、請求項1に記載のプレコートフィン材。
【請求項3】
前記樹脂塗膜中には、ブロック化イソシアネート化合物及びメラミン樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物がさらに含有されている、請求項1または2に記載のプレコートフィン材。
【請求項4】
前記樹脂塗膜中には、抗菌剤及び防カビ剤のうち少なくとも一方がさらに含有されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項5】
流量2L/分の流水中に24時間浸漬した後の前記プレコートフィン材を用いて鉛筆法による硬度の測定を行った場合に、前記樹脂塗膜の表面に黒鉛を付着させることができる鉛筆の硬度が6Hまたはそれよりも硬い、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項6】
前記基板と前記樹脂塗膜との間に介在する耐食性塗膜を有しており、前記耐食性塗膜は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びエステル樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の樹脂を含有している、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコートフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機や冷蔵庫等に搭載される熱交換器として、多数のフィンと、これらのフィンと交差したチューブとを有する、いわゆるプレートフィンチューブ型熱交換器が多用されている。フィンは、アルミニウム(純アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。以下同じ。)からなる基板と、基板上に設けられた樹脂皮膜とを有するプレコートフィン材にプレス加工を施すことにより作製されている。
【0003】
樹脂皮膜は、親水性の樹脂または疎水性の樹脂から構成されている。また、樹脂皮膜の表面には、プレス加工時の潤滑性を向上させる目的で、潤滑材が設けられている。この種の潤滑材としては、ポリエチレングリコール等が多用されている。潤滑材は、結露水等のフィン表面に付着した水分に溶出し、熱交換器の使用期間が長くなるにつれてフィンの表面から流出する。
【0004】
フィンの表面には、熱交換器の使用に伴って、環境中に存在する汚染物質が付着する。汚染物質としては、例えば、砂や埃などの粉塵や、高級脂肪酸や高級アルコールなどの油性物質などが知られている。フィンの表面がこれらの汚染物質に覆われると、樹脂皮膜の親水性または疎水性が低下するため、フィン表面に付着した結露水の排出が妨げられる。その結果、熱交換性能の低下を招くおそれがある。
【0005】
しかし、従来の樹脂皮膜は比較的軟らかいため、樹脂皮膜に接触した粉塵が樹脂皮膜に埋め込まれやすい。また、従来の樹脂皮膜は、潤滑材の存在によって表面粗さが粗くなっており、場合によっては樹脂皮膜の表面に多数の細孔が形成されているため、樹脂皮膜の表面に付着した粉塵が、アンカー効果によって表面に保持されやすい。
【0006】
このように、従来のフィンは、粉塵が表面に付着しやすく、かつ、表面に付着した汚染物質を除去することが難しいという問題があった。
【0007】
そこで、かかる問題を解決するため、例えば特許文献1には、シリカ微粒子からなるシリカ膜中にフッ素樹脂粒子が露出した構造を有するコーティング膜をフィンの表面に形成する技術が記載されている。特許文献1においては、コーティング膜の硬度を高くすることにより、粉塵の付着を抑制することを図っている。
【0008】
また、特許文献2には、導電性粒子とバインダとを含み、導電性粒子の表面がフッ素樹脂により覆われた膜表面を有する防汚膜をフィンの表面に形成する技術が記載されている。特許文献2においては、導電性粒子によって粉塵と防汚膜との静電的な吸引力の低減を図るとともに、フッ素樹脂によって粉塵を防汚膜から剥離しやすくすることを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−235338号公報
【特許文献2】国際公開WO2012/144121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1及び2の技術は、油性物質のフィンへの付着を抑制する効果が低い。そのため、フィンへの汚染物質の付着を抑制する効果に関して、未だ改善の余地がある。
【0011】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、フィン表面への汚染物質の付着を抑制するとともに、フィン表面に付着した汚染物質を容易に除去することができるプレコートフィン材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、アルミニウムからなる基板と、
前記基板上に形成され、表面に露出した樹脂塗膜と、を有し、
前記樹脂塗膜は、
けん化度が95.0〜99.8%であるポリビニルアルコール(A)と、
酸価が20〜100mgKOH/gであるアクリルアミド系ポリマー(B)と、
数平均分子量が1000〜20000であるポリエチレングリコール(C)と、
体積基準における平均粒子径が100〜300nmであるフッ素樹脂粒子(D)と、を含有し、
前記樹脂塗膜の質量を100質量部とした場合に、前記ポリエチレングリコール(C)の含有量は1.0〜13質量部であり、かつ、前記フッ素樹脂粒子(D)の含有量は2.0〜5.0質量部であり、
前記ポリビニルアルコール(A)の含有量は、質量比において、前記アクリルアミド系ポリマー(B)の含有量の0.3〜0.6倍である、
プレコートフィン材にある。
【発明の効果】
【0013】
前記プレコートフィン材は、前記特定の組成を備えた樹脂塗膜を有している。前記樹脂塗膜は、ポリビニルアルコール(A)とアクリルアミド系ポリマー(B)との質量比を前記特定の範囲とすることにより、基板側においてポリビニルアルコール(A)の濃度が高く、表面側においてアクリルアミド系ポリマー(B)の濃度が高い濃度勾配を形成することができる。
【0014】
そして、前記プレコートフィン材は、表面側におけるアクリルアミド系ポリマー(B)の濃度を高くすることにより、樹脂塗膜の親水性を高めることができる。これにより、フィンの表面が結露した際に、樹脂塗膜と、樹脂塗膜の表面に付着した汚染物質、つまり油性物質や粉塵などとの間に結露水が浸入しやすくなる。その結果、これらの汚染物質をフィンの結露水等の水分によって洗い流し、フィンの表面から容易に除去することができる。
【0015】
また、前記プレコートフィン材は、基板側におけるポリビニルアルコール(A)の濃度を高くすることにより、硬度を高くすることができる。そのため、フィンの表面に接触した粉塵は、前記樹脂塗膜によって跳ね返されやすくなる。その結果、フィンの表面への粉塵の付着を抑制することができる。
【0016】
更に、前記プレコートフィン材は、潤滑材としてポリエチレングリコール(C)とフッ素樹脂粒子(D)とを併用することにより、フッ素樹脂粒子(D)を使用しない場合に比べて、プレス加工時の潤滑性を損なうことなくポリエチレングリコール(C)の含有量を低減することができる。そして、ポリエチレングリコール(C)の含有量を低減することにより、樹脂塗膜の表面を平滑化し、フィンの表面に付着した粉塵をフィンから剥離しやすくすることができる。その結果、フィンの表面に付着した粉塵をフィンの表面から容易に除去することができる。
【0017】
以上のように、前記プレコートフィン材によれば、汚染物質の付着を抑制するとともに、表面に付着した汚染物質を容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例における、プレコートフィン材の要部を示す一部拡大断面図である。
図2】実験例における、流水に浸漬した後のプレコートフィン材の要部を示す一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前記プレコートフィン材において、基板を構成するアルミニウムは、純アルミニウム及びアルミニウム合金の中から所望する機械的特性や耐食性等に応じて適宜選択することができる。基板は、例えば、JIS A1200やJIS A1050等の純アルミニウムから構成されていてもよい。
【0020】
基板上には、ポリビニルアルコール(A)、アクリルアミド系ポリマー(B)、ポリエチレングリコール(C)及びフッ素樹脂粒子(D)を含む樹脂塗膜が形成されている。樹脂塗膜は、基板上に直接積層されていてもよいし、基板と樹脂塗膜との間に他の皮膜や塗膜が介在していてもよい。
【0021】
例えば、前記プレコートフィン材は、基板上に積層された下地皮膜を更に有していてもよい。下地皮膜は、その材質に応じて、例えば、基板と耐食性塗膜との密着性を向上させる、基板の耐食性を向上するなどの作用効果を奏することができる。
【0022】
下地皮膜としては、例えば、リン酸クロメートなどのクロメート処理、クロム化合物以外のリン酸チタンやリン酸ジルコニウム、リン酸モリブデン、リン酸亜鉛、酸化ジルコニウムなどによるノンクロメート処理などの化学皮膜処理、いわゆる化成処理により得られる皮膜を採用することができる。
【0023】
なお、前述した化成処理方法には、反応型及び塗布型があるが、いずれの手法でもよい。下地皮膜の付着量は、例えば金属の含有量として100mg/m2以下の範囲から適宜選択することができる。また、下地皮膜の付着量は、蛍光X線分析装置により測定することができる。
【0024】
また、前記プレコートフィン材は、基板と樹脂塗膜との間に介在する耐食性塗膜を更に有していてもよい。耐食性塗膜は、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びエステル樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の樹脂を含有していてもよい。これらの樹脂を含有する耐食性塗膜は、フィンの耐食性をより向上させることができる。
【0025】
耐食性塗膜の膜厚は、例えば、0.3〜5.0μmの範囲内から適宜設定することができる。耐食性塗膜の膜厚を前記特定の範囲内から設定することにより、耐食性塗膜による放熱性能の低下を回避しつつ、フィンの耐食性を向上させる効果を十分に得ることができる。
【0026】
ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)は、樹脂塗膜の形成過程において基板側に沈降することにより、樹脂塗膜内に、これらを含む親水性層を形成することができる。また、親水性層内に、基板側においてポリビニルアルコール(A)の濃度が高くなり、表面側においてアクリルアミド系ポリマー(B)の濃度が高くなる濃度勾配を形成することができる。樹脂塗膜内にこのような親水性層を形成することにより、フィンに、表面への汚染物質の付着を抑制するとともに、表面に付着した汚染物質を除去する機能を付与することができる。
【0027】
樹脂塗膜の表面には、ポリエチレングリコール(C)が露出している。また、フッ素樹脂粒子(D)の少なくとも一部は、前述した親水性層の表面に配置されている。樹脂塗膜の表面に露出したポリエチレングリコール(C)及び親水性層の表面に配置されたフッ素樹脂粒子(D)は、前記プレコートフィン材にプレス加工を施す際に、プレコートフィン材とプレス金型との摩擦を低減する潤滑材として機能し、プレス加工時の潤滑性を向上させることができる。
【0028】
樹脂塗膜の膜厚は、例えば、0.3〜2.0μmの範囲内から適宜設定することができる。樹脂塗膜の膜厚を0.3μm以上とすることにより、樹脂塗膜の親水性を高め、フィンの表面に付着した汚染物質をフィンの表面からより容易に除去することができる。また、樹脂塗膜の膜厚を2.0μm以下とすることにより、樹脂塗膜を形成する際の塗料の塗工性を高めることができる。
【0029】
樹脂塗膜中のポリビニルアルコール(A)のけん化度は、95.0〜99.8%とする。前記特定の範囲のけん化度を備えたポリビニルアルコール(A)を使用することにより、樹脂塗膜中のポリビニルアルコール(A)を結晶化させ、樹脂塗膜の硬度を高くすることができる。その結果、フィンの表面への粉塵の付着をより効果的に抑制することができる。
【0030】
樹脂塗膜の硬度をより高くし、フィンの表面への粉塵の付着をより効果的に抑制する観点からは、ポリビニルアルコール(A)のけん化度を97.0%以上とすることが好ましい。ポリビニルアルコール(A)のけん化度が95.0%未満の場合には、樹脂塗膜の硬度が低下するため、フィンの表面に粉塵が付着しやすくなるおそれがある。
【0031】
一方、けん化度が99.8%を超えるポリビニルアルコール(A)は、一般的な方法によって製造することが難しいため、材料コストの増大を招くおそれがある。ポリビニルアルコール(A)のけん化度を99.8%以下、好ましくは99.5%以下とすることにより、材料コストの増大を抑制しつつ樹脂塗膜の硬度を高めることができる。
【0032】
また、樹脂塗膜中のポリビニルアルコール(A)の含有量は、質量比において、アクリルアミド系ポリマー(B)の0.3〜0.6倍である。アクリルアミド系ポリマー(B)に対するポリビニルアルコール(A)の比率を前記特定の範囲とすることにより、優れた親水性と、高い硬度とを備えた樹脂塗膜を基板上に形成することができる。その結果、汚染物質のフィン表面への付着を抑制するとともに、フィン表面に付着した汚染物質をフィン表面から容易に除去することができる。
【0033】
ポリビニルアルコール(A)の含有量がアクリルアミド系ポリマー(B)の0.3倍未満である場合には、樹脂塗膜中のポリビニルアルコール(A)の含有量が不足するため、樹脂塗膜の硬度の低下を招くおそれがある。それ故、この場合には、フィンの表面に粉塵が付着しやすくなるおそれがある。樹脂塗膜の硬度をより高め、フィンの表面への粉塵の付着をより効果的に抑制する観点からは、ポリビニルアルコール(A)の含有量をアクリルアミド系ポリマー(B)の0.35倍以上とすることが好ましい。
【0034】
ポリビニルアルコール(A)の含有量がアクリルアミド系ポリマー(B)の0.6倍を超える場合には、樹脂塗膜中のアクリルアミド系ポリマー(B)の含有量が不足するため、樹脂塗膜の親水性の低下を招くおそれがある。それ故、この場合には、フィンの表面に付着した汚染物質を除去することが難しくなるおそれがある。樹脂塗膜の親水性をより高め、フィン表面に付着した汚染物質をより容易に除去する観点からは、ポリビニルアルコール(A)の含有量をアクリルアミド系ポリマー(B)の0.5倍以下とすることが好ましい。
【0035】
樹脂塗膜中のアクリルアミド系ポリマー(B)の酸価は、20〜100mgKOH/gとする。前記特定の範囲の酸価を備えたアクリルアミド系ポリマー(B)を使用することにより、長期間にわたって優れた親水性を維持することができる。その結果、フィンの表面に付着した汚染物質をフィンの表面から容易に除去するとともに、汚染物質を除去する能力を長期間にわたって維持することができる。
【0036】
アクリルアミド系ポリマー(B)の酸価が20mgKOH/g未満の場合には、アクリルアミド系ポリマー(B)がフィンの表面に付着した結露水等の水分中に溶出しやすくなる。そのため、フィンの使用期間が長くなるにつれて、樹脂塗膜中のアクリルアミド系ポリマー(B)の含有量が減少し、親水性の低下を招く恐れがある。その結果、汚染物質を除去する能力が早期に低下するおそれがある。汚染物質を除去する能力をより長期間にわたって維持する観点からは、アクリルアミド系ポリマー(B)の酸価を40mgKOH/g以上とすることが好ましい。
【0037】
アクリルアミド系ポリマー(B)の酸価が100mgKOH/gを超える場合には、高級脂肪酸や高級アルコール等の油性物質が樹脂塗膜上に強固に付着し、油性物質の除去が困難になる恐れがある。汚染物質を除去する能力をより高める観点からは、アクリルアミド系ポリマー(B)の酸価を90mgKOH/g以下とすることが好ましい。
【0038】
アクリルアミド系ポリマー(B)としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等の、(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体をモノマーとするホモポリマー、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体からなる群より選ばれる2種以上の化合物をモノマーとするコポリマー、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、これら以外の化合物とをモノマーとするコポリマーなどを採用することができる。前記樹脂塗膜は、アクリルアミド系ポリマー(B)として、これらのホモポリマー及びコポリマーのうち1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0039】
アクリルアミド系ポリマー(B)としては、1級アミドまたは2級アミドのホモポリマー、または、1級アミドまたは2級アミドをモノマーとして含むコポリマーを使用することが好ましい。これらのホモポリマー及びコポリマーには、高い極性を有する1級アミド基または2級アミド基が含まれている。そのため、アクリルアミド系ポリマー(B)としてこれらのホモポリマー及びコポリマーを使用することにより、樹脂塗膜の親水性をより高くし、汚染物質をフィン表面からより容易に除去することができる。かかる観点からは、アクリルアミド系ポリマー(B)としてポリアクリルアミドを使用することが特に好ましい。
【0040】
樹脂塗膜中のポリビニルアルコール(A)とアクリルアミド系ポリマー(B)との含有量の合計は特に限定されることはないが、例えば、樹脂塗膜全体の質量を100質量部とした場合に、ポリビニルアルコール(A)とアクリルアミド系ポリマー(B)との質量の合計を85〜97質量部の範囲から適宜設定することができる。この場合には、ポリビニルアルコール(A)とアクリルアミド系ポリマー(B)との合計と、ポリエチレングリコール(C)とフッ素樹脂粒子(D)との合計との比率を適正な範囲にすることができる。その結果、プレス加工時の潤滑性を損なうことなく樹脂塗膜の親水性を高めることができる。
【0041】
前記樹脂塗膜中には、1.0〜13質量部のポリエチレングリコール(C)が含まれている。また、ポリエチレングリコール(C)の数平均分子量は1000〜20000の範囲内である。ポリエチレングリコール(C)は、前述したように、樹脂塗膜の表面に露出し、プレス加工時の潤滑材として機能する。ポリエチレングリコール(C)の数平均分子量及び含有量を前記特定の範囲とすることにより、プレス加工時の潤滑性の悪化を回避しつつ、フィン表面への粉塵の付着を抑制することができる。
【0042】
ポリエチレングリコール(C)の含有量が1.0質量部未満の場合には、プレス加工時におけるプレコートフィン材と金型との摩擦が増大し、潤滑性の悪化を招くおそれがある。プレス加工時におけるプレコートフィン材と金型との摩擦をより低減する観点からは、ポリエチレングリコール(C)の含有量を3.0質量部以上とすることが好ましい。
【0043】
ポリエチレングリコール(C)の含有量が13質量部を超える場合には、樹脂塗膜の表面粗さが粗くなり、フィンの表面に粉塵が付着しやすくなるおそれがある。樹脂塗膜の表面をより平滑にし、フィンの表面への粉塵の付着をより効果的に抑制する観点からは、ポリエチレングリコール(C)の含有量を8.0質量部以下とすることが好ましい。
【0044】
ポリエチレングリコール(C)の数平均分子量が1000未満の場合には、樹脂塗膜の形成過程において、塗料の乾燥に要する時間が長くなるおそれがある。また、ポリエチレングリコール(C)の数平均分子量が20000を超える場合には、プレコートフィン材の製造コストの増大を招くおそれがある。
【0045】
前記樹脂塗膜中には、2.0〜5.0質量部のフッ素樹脂粒子(D)が含まれている。また、フッ素樹脂粒子(D)の体積基準における平均粒子径は100〜300nmの範囲内である。フッ素樹脂粒子(D)の少なくとも一部は、前述したように親水性層の表面に配置され、ポリエチレングリコール(C)とともにプレス加工時の潤滑材として機能する。フッ素樹脂粒子(D)の平均粒子径及び含有量を前記特定の範囲とすることにより、プレス加工時の潤滑性の悪化を回避しつつ、フィン表面への粉塵の付着を抑制することができる。
【0046】
フッ素樹脂粒子(D)の含有量が2.0質量部未満の場合には、プレス加工時におけるプレコートフィン材と金型との摩擦が増大し、潤滑性の悪化を招くおそれがある。プレス加工時におけるプレコートフィン材と金型との摩擦をより低減する観点からは、フッ素樹脂粒子(D)の含有量を3.0質量部以上とすることが好ましい。
【0047】
フッ素樹脂粒子(D)の含有量が5.0質量部を超える場合には、親水性層の表面に占めるフッ素樹脂粒子(D)の面積比率が過度に大きくなり、親水性の低下を招くおそれがある。親水性の低下を回避しつつプレス加工時の潤滑性を向上する観点からは、フッ素樹脂粒子(D)の含有量を5.0質量部以下とすることが好ましい。
【0048】
フッ素樹脂粒子(D)の平均粒子径が100nm未満の場合には、親水性層の表面にフッ素樹脂粒子(D)が露出しにくくなり、プレス加工時における潤滑性の悪化を招くおそれがある。また、フッ素樹脂粒子(D)の平均粒子径が300nmを超える場合には、親水性層の表面に、フッ素樹脂粒子(D)によって比較的大きな凹凸が形成されるため、フィン表面に粉塵が付着しやすくなるおそれがある。
【0049】
なお、体積基準におけるフッ素樹脂粒子(D)の平均粒子径は、体積基準の粒子径分布における累積50%径をいう。フッ素樹脂粒子(D)の平均粒子径は、具体的には、レーザー回折・散乱法によって得られた粒子径分布における累積50%径として算出することができる。
【0050】
フッ素樹脂粒子(D)を構成するフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(つまり、PTFE)などの完全フッ素化樹脂、ポリフッ化ビニリデン(つまり、PVDF)、ポリフッ化ビニル(つまり、PVF)等の部分フッ素化樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(つまり、PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(つまり、ETFE)等のフッ素化樹脂共重合体を使用することができる。フッ素樹脂粒子(D)は、これらのフッ素樹脂からなる粒子のうち1種類から構成されていてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
フッ素樹脂粒子(D)は、パーフルオロアルキル基を備えたフッ素樹脂から構成されていることが好ましい。この場合には、プレス加工時の潤滑性を損なうことなく、ポリエチレングリコール(C)の含有量をより低減することができる。その結果、樹脂塗膜の表面粗さの増大をより確実に回避し、フィンの表面への粉塵の付着をより効果的に抑制することができる。
【0052】
前記樹脂塗膜中には、必須成分としてのポリビニルアルコール(A)、アクリルアミド系ポリマー(B)、ポリエチレングリコール(C)及びフッ素樹脂粒子(D)の他に、任意成分として、これら以外の成分が含まれていてもよい。
【0053】
例えば、前記樹脂塗膜中には、ポリビニルアルコール(A)の結晶構造をよりち密にするための架橋剤が含まれていてもよい。樹脂塗膜中に架橋剤を添加することにより、樹脂塗膜の硬度をより高め、粉塵の付着をより効果的に抑制することができる。架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂やブロック化イソシアネート化合物などを使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
また、前記樹脂塗膜中には、抗菌剤及び防カビ剤のうち少なくとも一方がさらに含有されていてもよく、両方が添加されていてもよい。また、抗菌作用及び防カビ作用を兼ね備えた抗菌・防カビ剤を前記樹脂塗膜中に添加することもできる。樹脂塗膜中に抗菌作用及び防カビ作用のうち少なくとも一方を備えた化合物を添加することにより、樹脂塗膜の腐食を抑制し、樹脂塗膜による作用効果をより長期間にわたって維持することができる。
【0055】
抗菌作用及び防カビ作用を備えた化合物としては、例えば、イソチアゾリン系抗菌・防カビ剤、アルデヒド系抗菌・防カビ剤、ベンズイミダゾール系抗菌・防カビ剤、ハロゲン系抗菌・防カビ剤、カルボン酸系抗菌・防カビ剤、スルファミド系抗菌・防カビ剤、チアゾール系抗菌・防カビ剤、トリアゾール系抗菌・防カビ剤、フェノール系抗菌・防カビ剤、フタルイミド系抗菌・防カビ剤、ナフテン酸系抗菌・防カビ剤、ピリジン系抗菌・防カビ剤等の有機系抗菌・防カビ剤や、Ag、Cu、Zn等の無機系抗菌・防カビ剤を使用することができる。
【0056】
抗菌・防カビ剤としては、ジンクピリチオン、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)−ピリジン及び2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾールのうち少なくとも1種を使用することが好ましい。これらの化合物は、樹脂塗膜の物性に及ぼす影響が少なく、水に不溶であり、熱に対する安定性が高い。それ故、これらの化合物を樹脂塗膜中に添加することにより、抗菌作用及び防カビ作用を長期間にわたって維持することができる。
【0057】
前記プレコートフィン材は、流量2L/分の流水中に24時間浸漬した後の前記プレコートフィン材を用いて鉛筆法による硬度の測定を行った場合に、前記樹脂塗膜の表面に黒鉛を付着させることができる鉛筆の硬度が6Hまたはそれよりも硬いことが好ましい。かかる特性を備えたプレコートフィン材は、樹脂塗膜の硬度が十分に高いため、フィンの表面への粉塵の付着をより効果的に抑制することができる。なお、前述した鉛筆法とは、JIS K5600−5−4:1999(ISO/DIS 15184:1996)に規定される方法をいう。
【0058】
前記プレコートフィン材の作製方法としては、例えば、基板上にポリビニルアルコール(A)、アクリルアミド系ポリマー(B)、ポリエチレングリコール(C)及びフッ素樹脂粒子(D)を含む塗料を塗布した後、塗料を加熱して乾燥させる方法を採用することができる。塗料を乾燥する過程においては、ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)が基板側に沈降し、親水性層が形成される。
【0059】
この際、塗料の乾燥と並行してポリビニルアルコール(A)の結晶化が進行することにより、ポリビニルアルコール(A)の粘度が増大する。そのため、親水性層の基板側にポリビニルアルコール(A)が沈降しやすくなる。それ故、乾燥後の樹脂塗膜においては、ポリビニルアルコール(A)の濃度が基板側において高くなり、表面側に向かうにつれて低くなる濃度勾配が形成される。
【0060】
また、ポリエチレングリコール(C)及びフッ素樹脂粒子(D)は、塗膜の乾燥に伴って表面側に浮上し、これらの少なくとも一部が樹脂塗膜の表面に露出する。
【0061】
前記プレコートフィン材は、例えば以下のようにして熱交換器の製造に用いられる。まず、プレコートフィン材を所望の寸法に切断することにより、フィンを作製する。得られたフィンに、プレス加工機を用いてスリット加工、ルーバー成型、カラー加工を適宜組み合わせて実施し、スリット、ルーバー及びカラーを形成する。その後、複数のフィンを互いに所定の間隔をあけた状態で配置し、これら複数のフィンを貫通するようにして冷媒を流通させるための金属管を取り付ける。その後、金属管内に拡管プラグを挿入して金属管の外径を拡大することにより、金属管とフィンを密着させる。このようにして、熱交換器を得ることができる。熱交換器は、例えば空気調和装置の室内機や室外機等に組み込むことができる。
【実施例】
【0062】
(実施例)
前記プレコートフィン材1の実施例について、図1を用いて説明する。本例のプレコートフィン材1は、図1に示すように、アルミニウムからなる基板2と、基板2上に形成され、表面に露出した樹脂塗膜3と、を有している。また、樹脂塗膜3は、けん化度が95.0〜99.8%であるポリビニルアルコール(A)と、酸価が20〜100mgKOH/gであるアクリルアミド系ポリマー(B)と、数平均分子量が6000〜20000であるポリエチレングリコール(C)と、体積基準における平均粒子径が100〜300nmであるフッ素樹脂粒子(D)と、を含有している。
【0063】
樹脂塗膜3の質量を100質量部とした場合に、ポリエチレングリコール(C)の含有量は1.0〜13質量部であり、かつ、フッ素樹脂粒子(D)の含有量は2.0〜5.0質量部である。また、ポリビニルアルコール(A)の含有量は、質量比において、前記アクリルアミド系ポリマー(B)の含有量の0.3〜0.6倍である。
【0064】
以下、本例のプレコートフィン材1のより詳細な構成を、製造方法とともに説明する。プレコートフィン材1の基板2としては、JIS A1050アルミニウムからなり、H26調質が施された板厚0.1mmのアルミニウム板を使用した。この基板2をリン酸クロメート溶液に浸漬して化成処理を行い、基板2の両面にリン酸クロメートからなる下地皮膜21を形成した。
【0065】
次いで、ポリビニルアルコール(A)、アクリルアミド系ポリマー(B)、ポリエチレングリコール(C)及びフッ素樹脂粒子(D)を含む塗料を、バーコーターを用いて下地皮膜21上に塗布した。そして、塗料を225℃の温度で10秒間加熱することにより、下地皮膜21上に樹脂塗膜3を形成した。なお、樹脂塗膜3の膜厚は1μmであった。
【0066】
塗料を加熱して乾燥させる過程において、塗料中のポリビニルアルコール(A)は、水酸基同士の水素結合によって結晶化し、次第に粘度が増大する。そのため、ポリビニルアルコール(A)は、塗料の乾燥が進行するにつれて基板2側へ沈降する。また、比較的粘度の低いポリエチレングリコール(C)は、塗料の乾燥が進行するにつれて表面側へ浮上する。
【0067】
アクリルアミド系ポリマー(B)は、ポリビニルアルコール(A)とポリエチレングリコール(C)と中間程度の粘度を有しているため、両者の間に集まりやすくなる。また、フッ素樹脂粒子(D)は、塗料の乾燥過程において、塗料中に均一に分散している。
【0068】
以上の結果、本例の樹脂塗膜3内には、下地皮膜21上に積層された親水性層31と、親水性層31上に積層され、表面に露出した潤滑層32との2層構造が形成されている。親水性層31中には、ポリビニルアルコール(A)、アクリルアミド系ポリマー(B)及びフッ素樹脂粒子(D)が含まれている。親水性層31内には、基板2側においてポリビニルアルコール(A)の濃度が高くなり、表面側においてアクリルアミド系ポリマー(B)の濃度が高くなるような濃度勾配が形成されている。また、フッ素樹脂粒子(D)の一部は親水性層31の表面に露出している。
【0069】
また、潤滑層32は、ポリエチレングリコール(C)から構成されている。
【0070】
次に、本例のプレコートフィン材1の作用効果を説明する。プレコートフィン材1は、前記特定の組成を備えた樹脂塗膜3を有しているため、前述したように、基板2側においてポリビニルアルコール(A)の濃度が高く、表面側においてアクリルアミド系ポリマー(B)の濃度が高い濃度勾配を形成することができる。
【0071】
プレコートフィン材1は、表面側におけるアクリルアミド系ポリマー(B)の濃度を高くすることにより、樹脂塗膜3の親水性を高めることができる。これにより、フィンの表面が結露した際に、樹脂塗膜3と、樹脂塗膜3の表面に付着した汚染物質、つまり油性物質や粉塵などとの間に結露水が浸入しやすくなる。その結果、これらの汚染物質をフィンの結露水によって洗い流し、フィンの表面から容易に除去することができる。
【0072】
また、プレコートフィン材1は、基板2側におけるポリビニルアルコール(A)の濃度を高くすることにより、硬度を高くすることができる。そのため、フィンの表面に接触した粉塵は、前記樹脂塗膜3によって跳ね返されやすくなる。その結果、フィンの表面への粉塵の付着を抑制することができる。
【0073】
更に、プレコートフィン材1は、潤滑材としてポリエチレングリコール(C)とフッ素樹脂粒子(D)とを併用することにより、フッ素樹脂粒子(D)を使用しない場合に比べて、プレス加工時の潤滑性を損なうことなくポリエチレングリコール(C)の含有量を低減することができる。そして、ポリエチレングリコール(C)の含有量を低減することにより、樹脂塗膜3の表面を平滑化し、フィンの表面に付着した粉塵をフィンから剥離しやすくすることができる。その結果、フィンの表面に付着した粉塵をフィンの表面から容易に除去することができる。
【0074】
以上のように、前記プレコートフィン材1によれば、汚染物質の付着を抑制するとともに、表面に付着した汚染物質を容易に除去することができる。
【0075】
(実験例)
本例は、樹脂塗膜の組成を種々変更したプレコートフィン材を作製し、これらの性能を評価した例である。なお、本例以降において使用する符号のうち、既出の実施例において用いた符号と同一のものは、特に説明のない限り既出の実施例における構成要素等と同様の構成要素等を示す。
【0076】
本例においては、表1〜表8に示す試験材1〜74を作製した。試験材1〜59及び試験材63〜74は、基板2上にリン酸クロメートからなる下地皮膜21及び膜厚1μmの樹脂塗膜3が順次積層された構造を有している。これらの試験材は、樹脂塗膜3の組成が表1〜表8に示す組成に変更された以外は、実施例のプレコートフィン材1と同様の方法により作製された。
【0077】
また、試験材60〜62については、下地皮膜21と樹脂塗膜3との間に膜厚1μmの耐食性塗膜が介在している。耐食性塗膜の形成は、下地皮膜21上に表7に示す樹脂を含む塗料を塗布した後、塗料を225℃の温度で10秒間加熱して乾燥させることにより行った。試験材60〜62は、下地皮膜21と樹脂塗膜3との間に前述した方法によって耐食性塗膜を形成した以外は、実施例のプレコートフィン材1と同様の方法により作製された。
【0078】
以上により得られた試験材1〜74について、以下の方法により、樹脂塗膜3の硬度、親水性、粉塵付着性、耐汚染性及びプレス加工時の潤滑性の評価を行った。
【0079】
・樹脂塗膜の硬度
各試験材を流量2L/分の流水中に24時間浸漬し、図2に示すように、樹脂塗膜3の表面に露出したポリエチレングリコール(C)及びフッ素樹脂粒子(D)を試験材Sから除去した。その後、JIS K5600−5−4:1999(ISO/DIS 15184)に規定された方法により樹脂塗膜3の表面に鉛筆を押し付けながら往復移動させ、鉛筆の黒鉛が樹脂塗膜3の表面に付着したか否かを目視観察によって確認した。鉛筆の黒鉛が樹脂塗膜3の表面に付着しなかった場合には、より硬い鉛筆を用いて同様の試験を行い、鉛筆の黒鉛が樹脂塗膜3の表面に付着した時点で試験を終了した。試験終了時の鉛筆の硬度は、表1〜表8の「樹脂塗膜の硬度」欄に示した通りであった。
【0080】
・親水性
本例では、作製直後における試験材の水接触角と、劣化試験を行った後の試験材の水接触角とを測定することにより、試験材の親水性を評価した。劣化試験は、具体的には、試験材をイオン交換水に2分間浸漬した後、試験材に6分間空気を吹き付けて乾燥させるサイクルを1サイクルとして、このサイクルを300サイクル繰り返すことにより行った。作製直後の試験材の水接触角及び劣化試験後の試験材の水接触角は、表1〜表8の「親水性」欄に示した通りであった。
【0081】
・粉塵付着性
本例では、試験材への親水性粉体の付着量と、疎水性粉体の付着量とを測定することにより、試験材の粉塵付着性を評価した。なお、親水性粉体としてはJIS Z8901−2006年に規定の粉体である関東ローム粉塵を使用し、疎水性粉体としてはJIS Z8901−2006年に規定の粉体であるカーボンブラックを使用した。エアーにより親水性粉体または疎水性粉体のいずれかを樹脂塗膜に5秒間吹き付けた後、試験材への親水性粉体または疎水性粉体の付着量を測定した。試験材1m2当たりの親水性粉体の付着量及び疎水性粉体の付着量は、表1〜表8の「粉塵付着性」欄に示した通りであった。
【0082】
・耐汚染性
本例では、汚染試験後における試験材の水接触角を測定することにより、試験材の耐汚染性を評価した。汚染試験は、具体的には、以下の方法により行った。まず、容器内に、試験材と、汚染物質としての高級脂肪酸とを、両者が直接接触しないようにして配置した。容器を密封した後、80℃の温度に120分間保持して高級脂肪酸を気化させ、試験材を高級脂肪酸の雰囲気に曝露した。密封状態を維持したまま容器を室温まで冷却した後、容器から試験材を取り出し、汚染試験を完了した。汚染試験後の試験材の水接触角は、表1〜表8の「耐汚染性」欄に示した通りであった。
【0083】
・プレス加工時の潤滑性
バウデン・レーベン式摩耗試験機を用い、試験材表面の動摩擦係数を測定した。試験材の動摩擦係数は、表1〜表8の「プレス加工時の潤滑性」欄に示した通りであった。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】
【0092】
表1〜表7に示すように、試験材1〜62は、基板上に、前記特定の範囲の組成を備えた樹脂塗膜を有している。そのため、これらの試験材は、作製直後の水接触角が10°以下となり、作製直後に優れた親水性を示した。また、これらの試験材は、劣化試験後の水接触角が20°以下となり、長期間にわたって高い親水性を維持することができた。更に、これらの試験材は、汚染試験後の水接触角が40°以下となり、油性物質が樹脂塗膜の表面に付着した場合にも、親水性の低下を抑制することができた。
【0093】
これらの結果から、試験材1〜62は、優れた親水性を有するとともに、長期間にわたって優れた親水性を維持することができる。それ故、これらの試験材を用いてフィンを作製することにより、フィンの表面に付着した汚染物質を結露水等の水分によって洗い流し、フィンの表面から汚染物質を容易に除去可能であることが理解できる。
【0094】
また、試験材1〜62は、親水性粉体の付着量及び疎水性粉体の付着量を0.4g/m2以下に抑制することができた。更に、これらの試験材は、動摩擦係数を0.1以下に抑制することができた。それ故、これらの試験材を用いてフィンを作製することにより、プレス加工時の潤滑性を損なうことなくフィンの表面への粉塵の付着を抑制可能であることが理解できる。
【0095】
また、試験材1〜62のうち、樹脂塗膜中にブロック化イソシアネート化合物を添加した試験材54〜56は、ブロック化イソシアネート化合物を含まない試験材43に比べて樹脂塗膜を硬くするとともに、粉塵の付着をより効果的に抑制することができた。同様に、樹脂塗膜中にメラミン樹脂を添加した試験材57〜59は、メラミン樹脂を含まない試験材43に比べて樹脂塗膜を硬くするとともに、粉塵の付着をより効果的に抑制することができた。
【0096】
それ故、試験材54〜59と試験材43との比較から、樹脂塗膜中にブロック化イソシアネート化合物またはメラミン樹脂を添加することにより、樹脂塗膜をより硬くし、粉塵の付着をより効果的に抑制することが可能であることが理解できる。なお、ブロック化イソシアネート化合物及びメラミン樹脂の含有量が比較的多い試験材56及び試験材59については、試験材54〜55及び試験材57〜58に比べて塗料のポットライフが若干短くなった。
【0097】
一方、表7に示すように、試験材63は、アクリルアミド系ポリマー(B)の酸価が前記特定の範囲よりも低かった。そのため、劣化試験の際にアクリルアミド系ポリマー(B)が樹脂塗膜から溶出し、試験材1〜62に比べて早期に親水性が低下した。
試験材64は、アクリルアミド系ポリマー(B)の酸価が前記特定の範囲よりも高かった。そのため、試験材1〜62に比べて樹脂塗膜の表面に付着した高級脂肪酸が樹脂塗膜の表面から除去されにくかった。
【0098】
試験材65は、ポリビニルアルコール(A)のけん化度が前記特定の範囲よりも低かった。そのため、ポリビニルアルコール(A)の結晶化が不十分となり、試験材1〜62に比べて樹脂塗膜の硬度が低下するとともに、粉塵が付着しやすかった。
試験材66は、ポリビニルアルコール(A)のけん化度が前記特定の範囲よりも高かった。そのため、材料コストの増大を招いた。
試験材67は、ポリビニルアルコール(A)とアクリルアミド系ポリマー(B)との含有量の合計が前記特定の範囲よりも少なかった。そのため、樹脂塗膜の親水性が試験材1〜62に比べて早期に低下した。
【0099】
表8に示すように、試験材68は、ポリビニルアルコール(A)とアクリルアミド系ポリマー(B)との含有量の合計が前記特定の範囲よりも多かった。そのため、ポリエチレングリコール(C)及びフッ素樹脂粒子(D)が不足し、試験材1〜62に比べてプレス加工時の潤滑性が低下した。
試験材69は、アクリルアミド系ポリマー(B)に対するポリビニルアルコール(A)の質量比が前記特定の範囲よりも少なかったため、ポリビニルアルコール(A)が不足した。その結果、試験材1〜62に比べて樹脂塗膜の硬度が低下するとともに、粉塵が付着しやすくなった。
【0100】
試験材70は、アクリルアミド系ポリマー(B)に対するポリビニルアルコール(A)の質量比が前記特定の範囲よりも多かったため、アクリルアミド系ポリマー(B)が不足した。その結果、試験材1〜62に比べて、樹脂塗膜の表面に付着した高級脂肪酸が樹脂塗膜の表面から除去されにくくなった。
試験材71は、フッ素樹脂粒子(D)の含有量が前記特定の範囲よりも少なかった。そのため、試験材1〜62に比べてプレス加工時の潤滑性が低下した。
【0101】
試験材72は、フッ素樹脂粒子(D)の含有量が前記特定の範囲よりも多かった。そのため、樹脂塗膜の親水性が試験材1〜62に比べて早期に低下した。
試験材73は、フッ素樹脂粒子(D)の平均粒子径が前記特定の範囲よりも小さかった。そのため、試験材1〜62に比べてプレス加工時の潤滑性が低下した。
【0102】
試験材74は、フッ素樹脂粒子(D)の平均粒子径が前記特定の範囲よりも大きかった。そのため、樹脂塗膜の表面の凹凸が大きくなり、試験材1〜62に比べて粉塵が付着しやすくなった。
【0103】
本発明に係るプレコートフィン材の具体的な態様は、前述した実施例及び実験例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更することができる。例えば、前述した実施例及び実験例においては、基板2上に下地皮膜21を形成したプレコートフィン材1の例を示したが、下地皮膜21を形成するための化成処理を省略し、基板2上に直接樹脂塗膜3を形成することも可能である。また、下地皮膜21を形成するための化成処理を省略し、基板2上に耐食性塗膜及び樹脂塗膜3を順次形成してもよい。
【0104】
また、実施例においては、親水性層31がポリエチレングリコール(C)からなる潤滑層32によって覆われている例を示したが、親水性層31の表面に配置されたフッ素樹脂粒子(D)が潤滑層32よりも外方まで突出していてもよい。ポリエチレングリコール(C)及びフッ素樹脂粒子(D)の両方が樹脂塗膜3の表面に存在していれば、これらの作用効果によってプレス加工時の潤滑性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0105】
1 プレコートフィン材
2 基板
3 樹脂塗膜
(A) ポリビニルアルコール
(B) アクリルアミド系ポリマー
(C) ポリエチレングリコール
(D) フッ素樹脂粒子
図1
図2