【実施例1】
【0028】
《全体回路構成の一例》
図1に本発明の第1の実施形態である実施例1に係る電力変換装置の構成を示す。本実施例に係る電力変換装置は、複数のパワー半導体モジュール1a−n、1b−n(nは互いに並列接続された複数のパワー半導体モジュールの並列数を最大値とする任意の自然数。以下、同様。)と、複数のゲート駆動回路2a、2bとを備えた電力変換装置である。
【0029】
複数のパワー半導体モジュールは、上アームのパワー半導体11(図中の2つのパワー半導体11のうち上側のパワー半導体11)と下アームのパワー半導体11(図中の2つのパワー半導体11のうち下側のパワー半導体11)とを共通のモジュールにて一体的に、または別々のモジュールにて個別に有して構成される。つまり、
図1では上アームのパワー半導体11と下アームのパワー半導体11とが互いに別々のパワー半導体モジュールに搭載される、すなわち、それぞれ上側のパワー半導体モジュール11a−nと下側のパワー半導体モジュール11b−nとに搭載される形態を示しているが、本発明はこの形態に限定されず、例えば、上アームのパワー半導体11と下アームのパワー半導体11とが互いに共通のパワー半導体モジュールに一体的に搭載される形態(図示せず)も本発明の範囲に含まれる。
【0030】
上アームのパワー半導体11と下アームのパワー半導体11とはハーフブリッジ回路を構成する。上アームのパワー半導体11のドレイン端子D1は高電位端子である。上アームのパワー半導体のソース端子S1と下アームのパワー半導体のドレイン端子D2とは中間電位端子に共通に接続される。下アームのパワー半導体のソース端子S2は低電位端子である。
【0031】
上アームのパワー半導体11および下アームのパワー半導体11のゲート端子G1、G2、およびソースセンス端子Ss1、Ss2は、それぞれ、ゲート配線41とソースセンス配線42とを介して、上アーム用のゲート駆動回路2aおよび下アーム用のゲート駆動回路2bと互いに接続される。
【0032】
複数のゲート駆動回路2a、2bの各々は、ゲート駆動電圧を出力するゲート駆動端子G0と、ゲート駆動端子G0の電位の基準電位を出力するソースセンス駆動端子Ss0と、ゲート駆動電圧を構成する高電位側電位が印加される第1の電源端子GSHと、ゲート駆動電圧を構成する低電位側電位が印加される第2の電源端子GSLと、ゲート駆動電圧を制御する駆動制御信号端子SIGと、ゲート電圧閾値検知判定回路3と、第1のゲート抵抗切替回路28と第2のゲート抵抗切替回路29とを含む2つ以上のゲート抵抗切替回路と、第1のゲート抵抗切替回路28に接続され、かつ、抵抗可変機能を具備したターンオン時用ゲート抵抗33と、第2のゲート抵抗切替回路29に接続され、かつ、抵抗可変機能を具備したターンオフ時用ゲート抵抗34とを具備する。
【0033】
ゲート電圧閾値検知判定回路3は、パワー半導体11のゲート電圧を入力するための第1の入力端子G0と、パワー半導体11のソース電圧を入力するための第2の入力端子Ss0とを有する。ソースセンス駆動端子Ss0には第2の入力端子Ss0が接続される。ゲート駆動回路2a、2bの第1の電源端子GSHおよびゲート駆動回路2a、2bの第2の電源端子GSLにはそれぞれゲート電圧閾値検知判定回路3の第1の電源端子GSHおよびゲート電圧閾値検知判定回路3の第2の電源端子GSLが接続される。ゲート駆動回路2a、2bの駆動制御信号端子SIGには制御参照信号端子SIGが接続される。第1のゲート抵抗切替回路28の制御信号端子には第1の出力端子CNTONが接続され、第2のゲート抵抗切替回路29の制御信号端子には第2の出力端子DNTOFFが接続される。以上の接続関係により、ゲート電圧閾値検知判定回路3は、第1の入力端子G0と第2の入力端子Ss0との間の電位差である入力端子間電圧と、制御参照信号端子SIGの電位とに基づき、第1のゲート抵抗切替回路28の制御信号端子および第2のゲート抵抗切替回路29の制御信号端子の少なくともいずれか一方に、すなわち、ターンオン時には第1のゲート抵抗切替回路28の制御信号端子に、ダーンオフ時には第2のゲート抵抗切替回路29の制御信号端子に、ゲート抵抗の値の切り替え指示を与える動作を行う。
【0034】
本実施例に係る電力変換装置は、
図9に示す従来の電力変換装置の構成に加え、ゲート駆動回路2内部に、ゲート電圧閾値検知判定回路3、第1の抵抗切替スイッチ素子28、第2の抵抗切替スイッチ素子29、ゲート駆動抵抗RgON2(33)、およびゲート駆動抵抗RgOFF2(34)を具備した構成である。
図9に示す従来の電力変換装置の構成については後述する。
【0035】
本実施例に係る電力変換装置の構成は、ゲート電圧閾値検知判定回路3の端子CNTONおよびCNTOFFから出力される電圧値に応じて抵抗切替スイッチ素子28および29のスイッチが開閉され、ゲート駆動抵抗RgON2およびゲート駆動抵抗RgOFF2の抵抗値がゲート駆動抵抗として動作するか、スイッチ素子により短絡されて無効となるかを切り替えることが可能な構成である。ターンオンスイッチングの場合には、ゲート駆動電圧VGSHが印加されている端子GSHからゲート駆動回路出力端子G0までの経路ではゲート駆動抵抗RgON1とRgON2の値を加えたゲート駆動抵抗が発生する。後述するゲート電圧閾値検知判定回路3の動作によっては、抵抗切替スイッチ素子28が短絡し、実効のゲート駆動抵抗値はRgON1+RgON2の和からRgON1へ低減できる。同様に、ターンオフスイッチングの場合には、ゲート駆動電圧VGSLが印加されている端子GSLからゲート駆動回路出力端子G0までの経路にて、ゲート駆動抵抗RgOFF1とRgOFF2の和のゲート駆動抵抗が発生する。ゲート電圧閾値検知判定回路3の出力信号制御によって、抵抗切替スイッチ素子29が短絡し、実効のゲート駆動抵抗はRgOFF1+RgOFF2の和からRgOFF1の値のみに低減できる。
【0036】
ゲート電圧閾値検知判定回路3は、ゲート端子G0とソースセンス端子Ss0の差電位を入力とし、内部に予め設定された判定閾値電圧VGPRgと比較判定を行い、判定結果によってターンオン用ゲート駆動抵抗の制御信号CNTONとターンオフ用ゲート駆動抵抗の制御信号CNTOFFを変化させる。また、ゲート駆動回路2自体の制御信号SIGをモニタすることによって、その制御信号の出力を有効化と無効化の2状態に切り替える機能を有する。この制御信号CNTONおよびCNTOFFの無効化は、ゲート端子G0の電位にノイズが乗った場合やOFF状態を保持する期間でゲート電圧閾値検知判定回路3が誤動作することを防止する。
【0037】
《従来回路の構成》
図9に、本実施例に係る電力変換装置の基礎をなす従来の電力変換器の構成を示す。電力変換器の主回路は、パワー半導体モジュール1、ゲート駆動回路2、電源51、負荷インダクタンス52(Lload)、によって構成される。
【0038】
パワー半導体モジュール1は1アーム構成で示しており、複数のモジュール(1a−1〜1a−3、1b−1〜1b−3)を並列接続し、ハーフブリッジを構成するために上アーム用パワー半導体モジュール1aと下アーム用モジュール1bとを縦続に接続する構成をとる。電源51は、上アーム用モジュール1aのドレイン端子D1と下アームモジュール1bのソース端子S2との間に接続される。負荷インダクタンス52は、電流の流入および流出に応じて、等価的に下アーム用モジュールのS2端子に接続する場合があるが、本明細書では、上アーム用モジュールのD1端子に接続する場合を用いて説明する。尚、上記パワー半導体モジュール、電源、負荷インダクタンス間の接続には大電流を流すことのできるバスバーが用いられるが、
図9では表記を割愛する。
【0039】
パワー半導体モジュール1のスイッチング動作の制御のために、ゲート駆動回路2を用いる。上アーム用ゲート駆動回路2aは、電源端子GSHとGSL、駆動制御信号端子SIG、ゲート駆動端子G0とソースセンス端子Ss0を有し、ゲート配線41とソースセンス配線42を介して、パワー半導体モジュール1aのゲート端子G1とソースセンス端子Ss1と接続する。下アーム用ゲート駆動回路2bは、ゲート配線41とソースセンス配線42を介して、パワー半導体モジュール1bのゲート端子G2とソースセンス端子Ss2と接続される。
【0040】
ゲート駆動回路2の電源端子GSHとGSLの端子間には駆動回路2が動作可能な所定の電源電圧を印加する。駆動制御信号端子SIGには、上アーム用制御信号Vsigaと下アーム用制御信号Vsigbの別の制御信号を印加してスイッチング動作を制御する。
【0041】
パワー半導体モジュール1は、1つ以上のSiC−MOSFET型パワー半導体素子11と、1つ以上の還流用ダイオード素子12、によって構成する。前記パワー半導体素子11のドレインをドレイン端子D1に接続し、前記パワー半導体素子11のソースをソース端子S1に接続する。パワー半導体モジュールの電流定格が、パワー半導体素子11と還流用ダイオード素子12の定格を超える場合には、複数の素子を用いて並列接続される。
【0042】
ゲート端子G1(G2)には、前記パワー半導体素子11のゲートを接続し、前記G1(G2)と対になってゲート駆動電圧が印加されるソースセンス端子Ss1(Ss2)は前記パワー半導体素子11のソースに接続される。
【0043】
ゲート駆動回路2は、分圧回路21と分圧回路22、分圧コンデンサ23と分圧コンデンサ24、駆動信号制御回路25、高電位側スイッチ素子26と低電位側スイッチ素子27、ターンオン用ゲート駆動抵抗RgON1(31)とターンオフ用ゲート駆動抵抗RgOFF1(32)、によって構成する。前記分圧回路21と分圧回路22、分圧コンデンサ23と分圧コンデンサ24は、前記ゲート駆動回路2の電源端子GSHとGSL間に印可される電圧VGDを分圧して、ソースセンス端子Ss0の電位VSs0を決定する。駆動信号制御回路25は、前記駆動制御信号端子SIGに入力された制御信号電圧VSIGを入力信号とし、高電位側スイッチ素子26と低電位側スイッチ素子27の制御端子を駆動する。ターンオン用ゲート駆動抵抗RgON1(31)とターンオフ用ゲート駆動抵抗RgOFF1(32)と、前記スイッチ素子26およびスイッチ素子27は、前記端子GSHと端子GSLの間に
図9に示すように直列接続されており、前記高電位側スイッチ素子26と低電位側スイッチ素子27とを接続する節点を前記ゲート駆動端子G0とする。駆動信号制御回路25により高電位側スイッチ素子26がオフ(解放)からオン(閉鎖)、低電位側スイッチ素子27がオンからオフへ変化した場合には、端子G0は、抵抗RgOFF1を介してVGSLに接続した状態から、抵抗RgON1を介してVGSHへと状態を変化し、パワー半導体モジュールをターンオン動作させる。ターンオフ動作する場合には逆の制御を行い、高電位側スイッチ素子26がオンからオフ、低電位側スイッチ素子27がオフからオンへ変化した場合には、端子G0は、抵抗RgON1を介してVGSHへ接続した状態から、抵抗RgOFF1を介してVGSLに接続した状態へと変化する。
【0044】
《従来回路の過渡波形》
図10を用いて、過渡波形の動作を説明する。パワー半導体モジュール1aはオフ状態を保ち、パワー半導体モジュール1bをターンオンさせる場合の過渡応答波形を示す。波形を示した項目は、駆動制御信号Vsigb、モジュール1bのゲート・ソースセンス端子間電圧Vgs2(前記ゲート端子G2とソースセンス端子VSs2間の電圧)、前記端子G2へ流入するゲート駆動電流Ig2、前記ソース端子S2から流出するソース主電流Is2、モジュール1bのドレイン端子D2とソース端子S2と端子間電圧Vds2、である。
【0045】
Vsigのトリガ時刻t1では、電位がVLからVHへと変化し、一定の遅延時間(td1)を経た時刻t2に、ゲート駆動回路2内部の高電位側電位VGSHとモジュールソースセンス端子電圧のVSs2の間に、VGSL(例えば−10V)からVGSH(例えば+15V)へ正のステップ電圧が印加される。
【0046】
モジュールのターンオン動作を決めるゲート・ソースセンス端子間電圧Vgs2は、モジュールの入力容量Cissとゲート駆動経路に生じるターンオン駆動抵抗RgON1によるCR時定数で過渡応答し、VGSHへ向かって増加を始める。
【0047】
端子G2から流入するゲート電流Ig2は、前記ステップ電圧が前記Cissと前記RgON1の直列回路に印加した過渡応答を示し、ゲートピーク電流Ig2peakを最大値として減少する。
【0048】
時刻t3において、Vgs2はSiC−MOSFET型パワー半導体素子の閾値電圧VTHに到達し、前記パワー半導体素子のドレイン・ソース端子間に電流Is2が通流し始める。
【0049】
時刻t4で前記Is2の値は負荷電流値Iloadに達する。その後、時刻t4からt5までの期間では、一定のIs2(=Iload)を通流させながら、ドレイン・ソース端子間電圧Vds2が電源電圧VccからIload通流時のオン電圧VON1へ低下する。t4からt5までの期間では、Vds2の電圧低下に対応してゲート・ソースセンス端子間電圧Vgs2は増加する傾向がある。この傾向は、主電流Iloadが一定に流入する条件においては、Vdsが変化(減少)した場合には、ゲート・ソースセンス間電圧Vgsが変化(増加)するSiC−MOSFET型パワー半導体素子の静特性を反映するためである。Vgs2の変化に応じてゲート駆動電流Ig2の値はIGP1からIGP2へと減少する。
【0050】
時刻t5からt6への期間では、主電流Is2とVds2の変化がほぼ終了しているが、Vgs2は入力されたステップ応答の電圧値(VDSH)へ到達するように変化し、これに応じてIg2の値はゼロ電流値へと漸近し、Vgs2値の増加に伴ってオン抵抗が低下し、オン電圧はVON1より低い定常時VONであるVON2へ変化する。以上が、ターンオン時のスイッチング過渡応答の動作である。
【0051】
本発明の目的は素子温度が低温領域でのスイッチング損失の低減である。スイッチング損失は
図10中の(t4−t3)期間にソース電流の変化率dIs2/dtに応じて決まるターンオン損失EonIと、(t5−t4)期間にソース電流の変化率dVds2/dtに応じて決まるターンオン損失EonVの和である。
【0052】
《従来回路の過渡波形の温度依存性》
図11に、SiC−MOSFET型パワー半導体素子のターンオン時スイッチング過渡応答について、素子温度に対する依存性を模式的に示す。素子温度が高温(実線:例えば150℃)と低温(点線:例えば−50℃)の場合の波形例を示す。
【0053】
ゲート・ソースセンス端子間電圧Vgs2の過渡応答では、低温(LT)ほど閾値電圧VTHが高くなるため、高温(HT)時に比較してソース端子電流Is2の流れ出しタイミングt3
LTが遅くなる。Is2が定常値Iloadに達し、Vds2が減少し始めるタイミングt4のVgs2の電位をゲート・プラトー開始電位(VGP1)と呼ぶことにする。素子温度が低下することにより、VTHが増加し、VTH
LT>VTH
HTの関係を持つが、一方でVGP1も低温で増加し、VGP1
LT>VGP1
HTの関係が生じる。上述したように、非特許文献2ではパワー半導体素子の特性の1つであるゲート・プラトー電圧VGP1と負荷電流Iloadとの関係が定式化されており、VGP1がIloadとの間にVGP1≒VTH+Iload/gmなる関係を有することが明らかになっている。この式から、VGP−VTHの差電圧は電流Iloadと相互コンダクタンスgmによって決まる。Iloadを所定の値に決めた場合、gmの温度依存性が小さい場合には、VGP−VTHの差電圧は温度に依らずほぼ一定である。従って、差電圧(VGP1
LT―VTH
LT)と(VGP1
HT―VTH
HT)は同等であり、(t4
LT−t3
LT)と(t4
HT−t3
HT)の過渡時間の差は小さいと言える。時刻t3からt4への過渡応答は、ターンオン抵抗RgON1と素子の入力容量Cissの積で決まる時定数で、その時定数の温度依存性は小さく、前記の差電圧の値の温度依存性も小さいからである。(t4−t3)の期間は、ソース電流の変化(増加)期間であり、つまりdIs2/dtの値は温度依存性が小さい。そこで、ターンオンスイッチング損失Eonのうち、dIs2/dtが主要因となるEonIの値は素子温度に対する依存性が小さいと言える。
【0054】
次にターンオンスイッチング損失Eonのうち、dVds2/dtが主要因となる期間(t5−t4)について、その温度依存性を検討する。Vgs2がVGP1に到達した後(t4)、VGP2(t5)へと変化し、その期間にVds2がVccからオン電圧VON1へ減少する。この期間(t5−t4)の長さは、SiC−MOSFET型パワー半導体素子の帰還容量Cgdとその充電電流Ig2によって決まる。Cgdの温度依存性は無視できるため、Ig2の温度依存性が支配的となる。Ig2は
図11中のVgs波形に連動しており、VGP1
LT>VGP1
HTの関係から、VGPとVGSHとの差電圧で決まるターンオン時のゲート抵抗RgON1に印加されるVRgは、VRg
LT<VRg
HT の関係となる。ゲート電流Ig2はVRgの温度依存性から、Ig
LT<Ig
HTの関係となるため、温度依存性の無いCgdを充電する期間、すなわち(t5−t4)は、(t5
HT―t4
HT)<(t5
LT−t4
LT)の関係となることが
図11に示されている。更に、低温領域ではVGP1
LTからVGP2
LTへかけてのVgs2の増大が顕著であり、一層VRg
LTはVRg
HTに対して小さくなる傾向を有する。以上の検討から、低温時のターンオン波形においては、高温時に比較して、VGP1およびVGP2の電位が高電位に変動し、ゲート電流Igの値が減少し、Vds2が減少する変化期間が長くなり、ターンオンスイッチング損失Eonのうち、dVds2/dtによって決まるEonVの値が増大してしまうことが、明らかである。
【0055】
ここで、VGP1とVGP2の値について整理する。SiC−MOSFET型パワー素子を用いたパワー半導体モジュールが誘導性負荷に対してスイッチング動作をする場合に、所定の負荷電流をIloadとし、パワー半導体モジュールの素子温度(T)依存性を含む閾値をVTH(T)とし、パワー半導体モジュールのドレイン端子・ソース端子間電圧がオン電圧時のパワー半導体モジュールの相互コンダクタンスをgm(VON)とし、ゲート・プラトー電圧VGP2は、
VGP2≒VTH(T)+Iload/gm(VON)
と概算できる。
【0056】
また、パワー半導体モジュールのドレイン端子・ソース端子間電圧が電源電圧(Vcc)の場合の相互コンダクタンスをgm(Vcc)とした場合、ゲート・プラトー電圧VGP1は、
VGP1=VTH(T)+Iload/gm(Vcc)
と概算できる。
gm(VON)<gm(Vcc)のため、素子温度が一定の場合には、
VGP1<VGP2の関係が生じ、
図10および
図11で示すゲート・プラトー電圧の過渡応答を発生する。
【0057】
上記の
図10と
図11を用いたターンオン時の過渡応答の説明から、SiC−MOSFET型パワー半導体素子の素子温度依存性によって低温領域でスイッチング損失が増大する問題が明らかである。ターンオフ時においても同様の問題が発生する。
【0058】
図12に、SiC−MOSFET型パワー半導体素子のターンオフ時スイッチング過渡応答について、素子温度に対する依存性を模式的に示す。素子温度が高温(実線:例えば150℃)と低温(点線:例えば−50℃)の場合の波形例を示す。
【0059】
ゲート・ソースセンス端子間電圧Vgs2の過渡応答では、まず、時刻t2において、Vgs2が正の駆動電圧VGSHからVGSLに向かって減少する。その時定数は、ゲート抵抗RgOFF1と、パワー半導体素子の入力容量Cissの積で決まるCR時定数である。
【0060】
時刻t3では、ソース電流Is2は一定のまま、Vgs2がゲート・プラトー電圧VGP2の値まで減少し、Vds2がVON2の電位から増大し始める。VGP2の値は、素子の温度によって異なり、高温(HT)と低温(LT)では、(VGP2
LT>VGP2
HT)の関係がある。VGP2の温度依存性は、前述のように、VGP2≒VTH+Iload/gmの関係があり、温度の上昇に対して減少するVTH項が支配的であるためである。
【0061】
時刻t3からt4までの期間は、SiC−MOSFET型パワー半導体素子の帰還容量Cgdの印可電圧を増加させるため、ゲート電流Ig2が充電電流となる。Vds2の増大に伴って、Vgs2、つまりゲート・プラトー電圧も減少し、VGP2(時刻t3)からするVGP1(時刻t4)へと変動する。このVGP2からVGP1への電圧変動はSiC−MOSFET型パワー半導体素子の静特性(Id2−Vds2特性)によって決定される。電流Is2が一定の条件下では、Vds2に対するVgs2の変化率が異なり、低温であるほど変化率が大きい。従って、ゲート・プラトー電圧領域では、ゲート電流Ig2は、前記の帰還容量Cgdだけでなく、VGP2からVGP1へのVgs2の変化が発生するため、SiC−MOSFET型パワー半導体素子のゲート・ソース間入力容量Cgsに対しても充電電流となる。このため、Ig2は、SiC−MOSFET型パワー半導体素子のゲート端子にて、Cgd充電電流とCgs充電電流に分流し、Vds2を増加させるCgdへの充電電流が減少する。特に、素子温度が低温の領域では、VGP2からVGP1へのVgs2の変動が大きいため、その期間でCgdを充電する実効的なゲート電流値は、パワー半導体モジュール1のゲート端子G2を通流するゲート電流Ig2に対して減少し、Cgs充電時間(時刻t4−t3)が長くなってしまう。
【0062】
時刻t5は、ソース電流Is2がIloadの値から減少し、ゼロ電流へと減少した時刻である。この期間(t4からt5)では、Vgs2はVGP1からVTHへと減少する。減少に要する時間は、Vgs2の時定数で決まり、ゲート抵抗RgOFF1とSiC−MOSFET型パワー半導体素子のCgsで決定されため、素子温度による依存性は小さい。従って、dIs2/dtが主要因となる Eoff発生期間、つまり期間(t4からt5)で発生するEoffIは、素子温度依存性が少ない。上記の説明から、SiC−MOSFET型パワー半導体素子のターンオフ動作時のスイッチング損失は、dVds2/dtが主要因となる電圧変化期間の損失EoffVにて素子温度依存性があり、低温領域で増大する。一方、dIs2/dtが主要因となる電流変化期間の損失EoffIは、素子温度依存性が少ない、と言える。
【0063】
本発明の目的に示したように、SiC−MOSFET型パワー半導体素子に生じるスイッチング損失を低温領域で減少することが重要である。特に、スイッチング動作のうち、主電圧(Vds)の変化期間で生じるスイッチング損失(EonVおよびEoffV)の素子温度依存性が大きく、低温領域で低減することが必要である。
【0064】
図13に、SiC−MOSFET型パワー素子のゲート・ソース間電圧Vgsのターンオン時のゲート・プラトー期間のVds電圧依存性を示す。Vds電圧を横軸にVON1電圧から電源電圧Vccまでの範囲にて、ゲート・プラトー期間のVgsの特性を模式的に示した。ここで、VGP1は同一の素子温度の場合に、ゲート・プラトー期間のVgsの低電位側(ターンオンでは開始電圧)の電位を示し、VGP2は同一の素子温度の場合に、ゲート・プラトー期間のVgsの高電位側(ターンオンでは終了電圧)の電位を示す。素子温度が低温になるほど、ゲート・プラトー期間のVgs電位は高電位となる。上記に説明したように、ターンオン時のスイッチング動作のうち、主電圧(Vds)の変化期間で生じるスイッチング損失の温度依存性は、
図13中のVGP1からVGP2の電位の大小によってゲート電流Igの値が変動し、充電電流であるIgの値が低温領域で変動(減少)することによって生じる。
【0065】
《本発明の本実施例に係る判定閾値VGPRgの設定範囲》
そこで、本発明では、素子温度が低温領域であるか否かを判断し、低温領域である場合には、ゲート電流Igを増加させることによって、スイッチング損失の増加を抑制する。実現する手段として、ゲート・プラトー期間の電圧値に基づき素子温度を判定し、ゲート電流Igを増加させるために可変できるゲート抵抗を制御(抵抗値を低減)することを以下説明する。ゲート・プラトー期間の電圧値の基準値となり、ゲート抵抗を制御するためのVgsの判定閾値(VGPRg)の値は、一例として
図13中に示す範囲に設定する。特にスイッチング損失を低減する低温領域(LT)では、判定閾値VGPRgを、ゲート・プラトー開始電圧VGP1LT近傍に設定してゲート・プラトー期間の大部分の期間でゲート抵抗が低減されるよう設定し、同時にスイッチング損失が小さい中間温度(MT)ではゲート・プラトー期間の終了電圧VGP2MT近傍に設定してゲート抵抗の低減によるスイッチング損失への変化が少ないように設定する。
【0066】
《本実施例の効果》
本実施例によれば、上記の設定によって、低温領域のスイッチング損失を、中間温度領域に対して低減することができる。スイッチング損失の小さい高温領域では、そのスイッチング動作が終了した後に、ゲート抵抗が低減されるため、スイッチング損失については変動無く小さい値を保つ。なお、電力変換装置がパワー半導体モジュールに求める仕様によっては、中間温度領域にてもスイッチング損失の大幅低減が必要な場合も発生することから、そのVgsの判定閾値電圧(VGPRg)の設定値は
図13に示す範囲に限定されるものではないが、スイッチング損失を低減したい温度領域の低温側温度をLT、高温側をMTと称すならば、VGPRgの値は、VGP1
MTからVGP2
LTの間に設定することが必要である。
【実施例3】
【0070】
《ゲート電圧閾値検知判定回路の構成および機能を具体化した一例》
図7に本発明の第3の実施形態である実施例3の部分回路構成を示す。本実施例は実施例1または実施例2のゲート電圧閾値検知判定回路3の内部回路構成を具体化した一例であり、よって、実施例1または実施例2の変形例である。ゲート電圧閾値検知判定回路3の内部回路構成が具体化されている点で実施例1および実施例2と相違するが、その他の点は実施例1または実施例2と共通である。ゲート電圧閾値検知判定回路3は、ターンオン用ゲート駆動抵抗の制御信号CNTONを出力する検知判定回路3aとターンオフ用ゲート駆動抵抗の制御信号CNTOFFを出力する検知判定回路3bの2回路で構成する。閾値検知判定回路3aを例に構成を説明する。ゲート閾値発生回路101は、VGSHとVGSLを電源電圧として動作し、予め設定されるターンオン時のVGS値の検知閾値電圧VGPRgONを出力する。アンプ103はゲート端子G0の電圧とVGPRgONとの差電圧を増幅し、シュミットトリガ型コンパレータ104は、比較電圧発生回路105が出力する比較電圧VCOMPを基準に、アンプ103の出力電圧の大小を判断し、制御信号CNTONの出力電圧として2値の高低の電圧信号を発生する。この電圧信号が、
図1および
図6に示した抵抗切替スイッチ素子28および29の制御信号となり、例えば、低電位の場合には抵抗切替スイッチ素子28および29は解放、高電位では短絡となる動作を実現する。アンプ制御電源106は、ゲート駆動回路2自体の制御信号SIGを参照し、ゲート電圧を参照しているパワー半導体モジュールが、スイッチングする期間であって、かつ、ターンオン動作を指示されている場合にのみ、前記のコンパレータ104に供給する電源電圧を所定の値で出力し、コンパレータ104の出力にて、例えば高電位信号を出力可能とし、前記抵抗切替スイッチ素子の状態を変化できるように制御する。一方、ゲート電圧を参照しているパワー半導体モジュールが、スイッチングする期間であって、かつ、ターンオン動作を指示されている場合以外では、コンパレータ104への電源電圧が所定の電圧より低下した値で出力し、コンパレータ104出力はコンパレータ104の入力電位に依らず、例えば低電位信号のみ出力して前記抵抗切替スイッチ素子の状態を不変とし、ゲート電圧閾値検知判定回路3、もしくはゲート駆動回路2の電源端子の電位がノイズ等で変動した場合でも誤動作を発生させる制御信号の出力を抑制する機能を果たす。
【0071】
閾値検知判定回路3bは、閾値検知判定回路3a同様に、ゲート閾値発生回路102が出力する閾値電圧VGPRgOFFに基づき、アンプ103はゲート端子G0の電圧とVGPRgOFFとの差電圧を増幅し、シュミットトリガ型コンパレータ104は、比較電圧発生回路105が出力する比較電圧VCOMPを基準に、アンプ103の出力電圧の大小を判断し、制御信号CNTOFFの出力電圧となる2値の高低の電圧信号を発生する。
【0072】
本実施例に示すゲート電圧閾値検知判定回路3の構成とすることにより、ターンオン時ゲート抵抗(RgON1+RgON2、もしくはRgON1)の値と、ターンオフ時ゲート抵抗(RgOFF1+RgOFF2、もしくはRgOFF1)の値とを独立に制御して変化でき、さらにノイズ耐性が高く保ったまま、実施例1および2で記載した動作を実現できる。
【0073】
《本発明を適用した場合の過渡波形例》
実施例1乃至実施例3で示した本発明の回路のスイッチング動作時の過渡応答を、
図2に模式的に示す。実施例1(
図1)の下アームのパワー半導体モジュール1bをターンオン駆動する例である。ゲート・ソースセンス端子間電圧Vgs2は、時刻t2にて、
図9に示す従来回路の過渡応答動作(
図11)と同様に上昇する。この際に、パワー半導体モジュールの素子温度が低温(LT)である場合には点線で示す波形に、中間温度(MT)の場合は実線で示す波形となる。
図13に例示したパワー半導体モジュールに搭載のSiC−MOSFET型パワー半導体素子のゲート・プラトー電圧の温度依存性に従い、低温領域の場合は中間温度領域の場合に比較してゲート・プラトー電位が高く、ゲート・プラトー期間自体が長くなる。すでに説明したように、低温領域では、ゲート駆動回路の高電位VGSHとゲート・プラトー期間中のVgs2との差電圧が減少し、ゲート電流Ig2の値が低下するためである。実施例1乃至実施例3に示した回路構成を取ることにより、
図2中に示すゲート電圧判定閾値VGPRgONの値を設定できる。判定閾値VGPRgONの設定範囲は
図13の説明にて述べてあるように、中間温度時のゲート・プラトー電圧VGP1MTよりも高い電位で、かつ、低温時のゲート・プラトー期間のVgs2の最大電圧VGP2LTまでの範囲にVGPRgONの値を設定する。時刻t3
MTおよびt3
LTにて、Vgs2がSiC−MOSFET型パワー素子の閾値VTHを超過し、ソース電流Is2が通流し始める。ソース電流が、負荷電流Iloadと同じ値にまで増加した時刻t4のVgs2をゲート・プラトー開始電圧VGP1とすると、低温時のVGP1
LTに対して中間温度のVGP1
MTの値は、VGP1
MT<VGP1
LTの大小関係がある。Vgs2がVGP1からゲート・プラトー終了電圧VGP2まで増加する過程で、本発明では予め設定した判定閾値VGPRgONに到達し(時刻tx
LTおよびtx
MT)、ゲート抵抗値を低減する制御を行う。
図2中のRgON@LTの過渡応答波形に示すように、時刻txLTにてRgON1+RgON2の抵抗値から、RgON1のみへと抵抗値を低減する。なお、ゲート抵抗値の変更制御には、実施例1乃至実施例3に記載の回路動作に伴う遅延時間が生じるが、その遅延時間は本発明のスイッチング動作に対して小さいため、説明から割愛する。
【0074】
《本実施例の効果》
本実施例によれば、時刻tx
LTではRgONの値の変化により、ゲート電流Ig2が増加し、時刻t4
LTから低下しているVds2の変化率dVds2@LT/dtが、より急峻な変化率dVds2’@LT/dtへと変化する。この作用によって、低温領域でありながら、ターンオンスイッチングに要する時間を短縮することができ、ターンオン時のスイッチング損失Eonの値を低減することができるという効果が得られる。以上は低温時の本発明の効果を述べたが、
図2中に実線で示した中間温度の場合には、判定閾値電圧VGPRgONの設定によって、中間温度の場合にゲート抵抗が減少する変化タイミングは時刻tx
MTである。時刻tx
MTは、中間温度時のVds2の変化時間t5
MTを経過した後であるために、ゲート抵抗が低減される時刻はスイッチング損失が発生する期間外である。従って、中間温度では、スイッチング損失を従来回路同等の特性に保つことができる。
図2中のVds2において、時刻tx
LT時にVds2電圧降下の傾きが急峻へと変化することが実施例1における効果である。実施例2では、Vgs2に基づいてゲート抵抗制御を行う際に、Vgs2の過渡波形に高周波のノイズが重畳した場合に、実施例1の回路構成に対して、ゲート抵抗制御での誤動作発生回数を低減できることが効果である。
【0075】
ターンオン動作と同様に、
図3に示すターンオフ動作においても、実施例1乃至実施例3に示す構成は、素子温度が低温の場合にスイッチング損失低減の効果が得られる。ターンオフの場合には、実施例3で示したゲート電圧閾値検知判定回路3の内部回路で設定する検知閾値電圧VGPRgOFFの値を、中間温度時のゲート・プラトー電圧VGP1
MTより高い電圧とし、低温時のVGP2
LTより低い電圧に設定することで、本発明の効果を得ることができる。上記の範囲に設定したVGPRgOFFによって、低温時のゲート・プラトー電圧は、そのドレイン・ソース電圧Vds2が増加途中の時点でVGPRgOFF以下になり、ゲート電圧閾値検知判定回路3が動作し、ターンオン時のゲート駆動抵抗を(RgOFF1+RgOFF2)からRgOFF1へと低減させる。ゲート駆動抵抗の減少により、ゲート駆動電流Ig2の絶対値を増加し、パワー半導体モジュールに搭載のSiC−MOSFET型パワー半導体素子の帰還容量Cgdの充電時間は短縮される。従って、低温時のターンオフ動作に必要な時間は短くなり、特に電圧Vds2の上昇時間の短縮によって、ターンオフ時のスイッチング損失Eoffの値を低減することができる。
【0076】
ターンオン時の本発明の効果の説明と同様に、以上は低温時のターンオフ時スイッチングに対して本発明の効果を述べたものだが、
図3中に実線で示した中間温度の場合には、判定閾値電圧VGPRgOFFの設定によって、中間温度の場合にもスイッチング期間中にゲート抵抗が減少する場合を示している。中間温度時のゲート抵抗の変化タイミングは時刻tx
MTである。時刻tx
MTは、中間温度時のVds2の変化終了時間t4
MT以前であるために、ゲート抵抗が低減されてスイッチング損失を低減することができる。VGPRgONとVGPRgOFFの値を個別に設定可能とすることで、スイッチング損失の低減効果を得る素子温度を、ターンオン時とターンオフ時で別に設定することができる。
図3中のVds2においても、時刻tx
LTにてVds2電圧降下の傾きが、dVds2@LT/dtから、より急峻な変化率dVds2’@LT/dt急峻へと変化することが実施例1の効果である。ターンオン時と同様に、実施例2では、Vgs2に基づいてゲート抵抗制御を行う際に、Vgs2の過渡波形に高周波のノイズが重畳した場合に、実施例1の回路構成に対して、ゲート抵抗制御での誤動作発生回数を低減できることが効果である。
【0077】
ここで、ターンオン時の過渡波形(
図4)を用いて、同一の素子温度に対して、従来の動作と本発明を適用した場合の動作を比較する。
図4に示すように、本発明を適用することにより、時刻txLT以降で、ゲート駆動電流Ig2の絶対値を増加し、パワー半導体モジュールに搭載のSiC−MOSFET型パワー半導体素子の帰還容量Cgdの充電時間は短縮される。ターンオン動作に必要な時間は短くなり、特に電圧Vds2の降下時間の短縮によって、ターンオン時のスイッチング損失Eonの値を低減することができる。