特許第6887589号(P6887589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887589
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】睡眠段階判定装置及び睡眠段階判定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20210603BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   A61B5/16
   A61B5/0245 A
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-163982(P2016-163982)
(22)【出願日】2016年8月24日
(65)【公開番号】特開2018-29772(P2018-29772A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】508131381
【氏名又は名称】株式会社スリープシステム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】根本 新
【審査官】 近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−065853(JP,A)
【文献】 特開2016−022276(JP,A)
【文献】 特許第6586557(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 − 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した心拍信号に基づいて利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定装置において、
前記利用者の心拍信号を無侵襲且つ無拘束で検出する心拍信号検出手段と、
前記心拍信号検出手段によって検出された心拍信号に対して利得制御を行うことによってピーク値を一定に制御し、そのときの利得の値を用いて算出した心拍信号の強度に対して正規化処理を施す正規化手段と、
前記正規化手段によって得られた正規化心拍強度のデータについての所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出手段と、
前記正規化手段によって得られた前記正規化心拍強度と、前記分散値算出手段によって算出された前記正規化心拍強度の分散値とに基づいて前記利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定手段とを備え、
前記正規化手段は、前記心拍信号の強度の平均値によって前記心拍信号の強度を除し、それを100倍して第1の正規化心拍強度を求める第1の正規化処理と、前記第1の正規化処理によって得られた前記第1の正規化心拍強度の全区間のデータについて所定時間のデータの移動平均値を求める第2の正規化処理とを行い、
前記睡眠段階判定手段は、
前記第1の正規化心拍強度の長期移動平均値と短期移動平均値との差分である第1の正規化補正心拍強度を求め、前記正規化補正心拍強度の分散値の平均値に所定値を加算した値を閾値とし、この閾値に基づいて覚醒段階の候補区間を求め、前記第1の正規化心拍強度の長期移動平均値に基づいて、候補区間の中から覚醒段階を判定し、
前記第1の正規化心拍強度の分散値の極大値の所定近傍区間、又は、前記第2の正規化処理によって求められた第2の正規化心拍強度が時間的に台形状に変化する区間をレム睡眠段階として判定し、
前記第1の正規化心拍強度の分散値とその平均値とに基づいて深いノンレム睡眠段階の候補区間を求め、求めた候補区間について、前記第1の正規化心拍強度の分散値が所定値以下となる区間を求め、この区間において、前記第2の正規化処理によって得られた移動平均値の波形の勾配が負であり且つ前記分散値が前記平均値よりも小さい区間を深いノンレム睡眠段階として判定し、
覚醒段階であると判定した区間のデータと、レム睡眠段階であると判定した区間のデータと、深いノンレム睡眠段階であると判定した区間のデータとを全睡眠時間のデータから差し引いた残りの区間を浅いノンレム睡眠段階の区間であると判定すること
を特徴とする睡眠段階判定装置。
【請求項2】
前記睡眠段階判定手段は、前記第2の正規化心拍強度が時間的に台形状に変化する区間を前記レム睡眠段階として判定する場合には、前記台形状に変化する区間の前記第2の正規化心拍強度の波形について最小自乗法を用いて台形上辺の勾配を検出し、前記勾配が正であり且つ所定時間以上継続する区間を前記レム睡眠段階として判定すること
を特徴とする請求項1記載の睡眠段階判定装置。
【請求項3】
睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した心拍信号に基づいて利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定方法において、
所定の心拍信号検出手段によって前記利用者の心拍信号を無侵襲且つ無拘束で検出する心拍信号検出工程と、
信号処理を行うプロセッサが、前記心拍信号検出工程にて検出された心拍信号に対して利得制御を行うことによってピーク値を一定に制御し、そのときの利得の値を用いて算出した心拍信号の強度に対して正規化処理を施す正規化工程と、
前記プロセッサが、前記正規化工程にて得られた正規化心拍強度のデータについての所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出工程と、
前記プロセッサが、前記正規化工程にて得られた前記正規化心拍強度と、前記分散値算出工程にて算出された前記正規化心拍強度の分散値とに基づいて前記利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定工程とを備え、
前記プロセッサが、前記正規化工程において、前記心拍信号の強度の平均値によって前記心拍信号の強度を除し、それを100倍して第1の正規化心拍強度を求める第1の正規化処理と、前記第1の正規化処理によって得られた前記第1の正規化心拍強度の全区間のデータについて所定時間のデータの移動平均値を求める第2の正規化処理とを行い、
前記プロセッサが、前記睡眠段階判定工程において、
前記第1の正規化心拍強度の長期移動平均値と短期移動平均値との差分である第1の正規化補正心拍強度を求め、前記正規化補正心拍強度の分散値の平均値に所定値を加算した値を閾値とし、この閾値に基づいて覚醒段階の候補区間を求め、前記第1の正規化心拍強度の長期移動平均値に基づいて、候補区間の中から覚醒段階を判定し、
前記第1の正規化心拍強度の分散値の極大値の所定近傍区間、又は、前記第2の正規化処理によって求められた第2の正規化心拍強度が時間的に台形状に変化する区間をレム睡眠段階として判定し、
前記第1の正規化心拍強度の分散値とその平均値とに基づいて深いノンレム睡眠段階の候補区間を求め、求めた候補区間について、前記第1の正規化心拍強度の分散値が所定値以下となる区間を求め、この区間において、前記第2の正規化処理によって得られた移動平均値の波形の勾配が負であり且つ前記分散値が前記平均値よりも小さい区間を深いノンレム睡眠段階として判定し、
覚醒段階であると判定した区間のデータと、レム睡眠段階であると判定した区間のデータと、深いノンレム睡眠段階であると判定した区間のデータとを全睡眠時間のデータから差し引いた残りの区間を浅いノンレム睡眠段階の区間であると判定すること
を特徴とする睡眠段階判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍信号検出手段から検出した心拍信号から睡眠段階を判定する睡眠段階判定装置及び睡眠段階判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は健康のバロメータであるといわれ、快適な睡眠をして気分のよい目覚めができれば、目覚めた際に颯爽とした気分となり健康を実感することは、日常において多く経験する。一方、不眠症や不眠傾向にある場合や、深夜労働等のために昼夜の生活が逆転した睡眠を強いられる場合等においては、その目覚めの後の気分は芳しくないことが多い。すなわち、意識的であるか無意識的であるかにかかわらず、睡眠の状態がその後の覚醒時の気分や行動に影響を及ぼし、ひいては覚醒後の活動の質を定めることになる。
【0003】
このように、睡眠は、人間の身体活動及び心的活動に重要な影響を及ぼす要素であり、良好な睡眠をとることができれば身体的及び心的に健康的な日常活動が保証されるといってよい。快適な睡眠をとることができれば心的には安定した状態となり、また、精神的に安定していれば快適な睡眠をとることができることが知られている。したがって、個人の健康状態について調べる際に、睡眠をその判定指標とすることが多く、睡眠と健康とが密接に関連していることはよく知られているところである。健康と睡眠の深さ及びその質が翌日の気分や気力と密接に関連しており、精神的なストレスや体調が不良である場合には、眠りの深さや睡眠段階の推移パターンに変化が起こり、快適な睡眠が得られない。
【0004】
健康な睡眠では、入眠した後にレム睡眠段階とノンレム睡眠段階とが所定間隔で繰り返し現れるが、体調を崩しているときや、精神的なストレスがかかっているときには、そのリズムが乱れることが知られている。したがって、夜間の睡眠中の睡眠段階とその発生パターンとを監視することにより、被験者の精神的なストレスや体調の不良を知ることが可能となる。
【0005】
特に高齢者は、眠りが浅い等の睡眠の不調を訴える人が多く、睡眠の質が問題となる。睡眠の質を知るためには睡眠段階の推移を知ることによって改善する対処法や措置を見出すことが可能となる。
【0006】
従来から、睡眠段階を知る方法としては、睡眠深度の国際判定基準である睡眠ポリソムノグラフ(PSG)を用いる方法が一般的である。PSGを用いる方法では、睡眠中の脳神経系の活動を、脳波、表面筋電位、眼球運動等から推定することにより、睡眠に関する多くの情報を得ることができる。
【0007】
しかしながら、PSGを用いる方法では、被験者の顔や身体に多くの電極を装着して測定を行うために、被験者に多くの違和感を与えてしまい、自然な睡眠を得ることが困難であり、さらに、電極の装着も多くの時間を要して極めて煩わしいという問題がある。また、PSGを用いる方法では、第1夜効果として通常の睡眠と異なる環境下で測定された1日目のデータは採用できない上、被験者がそのような環境に慣れるまでに数日から1週間の日時を要するという問題がある。したがって、被験者に与えられる身体的及び肉体的な負担が非常に大きなものとなることから日常的に連続使用することは困難であり、せいぜい数日間にわたる測定が限界である。さらに、この測定は、病院等の特定の施設において取り扱いに習熟した専門家が実施する必要があり、測定に使用する機器も高価であることから、必要とする費用が多額となる。したがって、PSGは、被験者が病院や在宅にて恒常的に使用するには実用的でなく、ましてや日常の健康管理に使用することは困難であるため、睡眠障害に対して有効な治療法となり得る一方で、そのような患者等に適用すること自体が困難であるという矛盾を備えている。
【0008】
そこで、PSGを用いずに、容易に睡眠段階を把握するための方法が提案されている。例えば、腕時計型や布団に敷設するタイプの振動強度測定装置等を用いて心拍信号を測定することによって睡眠段階を判定する方法が知られている。
【0009】
ところで、心拍信号は、その振幅(強度)が利用者や測定装置によって様々であり、個人による差異と測定装置による差異とが生じる。したがって、普遍的な測定を行って睡眠段階判定の精度を高めるためには、算出した心拍信号の強度について個人差や装置差をなくして一般化する必要がある。そのため、普遍的な測定によって睡眠段階を判定するために、心拍信号の強度を適切に正規化することが望ましいことが知られている(例えば、特許文献1等参照)。しかしながら、特許文献1をはじめとする従来の技術においては、正規化を行うための具体的な手法が開示されていなかった。これに対して、本願発明者は、特許文献2等において、正規化を行うための具体的な手法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−65853号公報
【特許文献2】特開2016−22276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2に記載された従来の技術においても改善の余地があった。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、利用者にとって身体的及び心的負担を何ら負うことなく、且つ、安価であって利用者が日常的に使用でき、また、適切な正規化手法を採用し、国際睡眠深度判定基準との整合をとりながら睡眠段階を高精度に判定することができる睡眠段階判定装置及び睡眠段階判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、上述した目的を達成する本発明にかかる睡眠段階判定装置は、睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した心拍信号に基づいて利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定装置において、前記利用者の心拍信号を無侵襲且つ無拘束で検出する心拍信号検出手段と、前記心拍信号検出手段によって検出された心拍信号に対して利得制御を行うことによってピーク値を一定に制御し、そのときの利得の値を用いて算出した心拍信号の強度に対して正規化処理を施す正規化手段と、前記正規化手段によって得られた正規化心拍強度のデータについての所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出手段と、前記正規化手段によって得られた前記正規化心拍強度と、前記分散値算出手段によって算出された前記正規化心拍強度の分散値とに基づいて前記利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定手段とを備え、前記正規化手段は、前記心拍信号の強度の平均値によって前記心拍信号の強度を除し、それを100倍して第1の正規化心拍強度を求める第1の正規化処理と、前記第1の正規化処理によって得られた前記第1の正規化心拍強度の全区間のデータについて所定時間のデータの移動平均値を求める第2の正規化処理とを行い、前記睡眠段階判定手段は、前記第1の正規化心拍強度の長期移動平均値と短期移動平均値との差分である第1の正規化補正心拍強度を求め、前記正規化補正心拍強度の分散値の平均値に所定値を加算した値を閾値とし、この閾値に基づいて覚醒段階の候補区間を求め、前記第1の正規化心拍強度の長期移動平均値に基づいて、候補区間の中から覚醒段階を判定し、前記第1の正規化心拍強度の分散値の極大値の所定近傍区間、又は、前記第2の正規化処理によって求められた第2の正規化心拍強度が時間的に台形状に変化する区間をレム睡眠段階として判定し、前記第1の正規化心拍強度の分散値とその平均値とに基づいて深いノンレム睡眠段階の候補区間を求め、求めた候補区間について、前記第1の正規化心拍強度の分散値が所定値以下となる区間を求め、この区間において、前記第2の正規化処理によって得られた移動平均値の波形の勾配が負であり且つ前記分散値が前記平均値よりも小さい区間を深いノンレム睡眠段階として判定し、覚醒段階であると判定した区間のデータと、レム睡眠段階であると判定した区間のデータと、深いノンレム睡眠段階であると判定した区間のデータとを全睡眠時間のデータから差し引いた残りの区間を浅いノンレム睡眠段階の区間であると判定することを特徴としている。
【0014】
また、上述した目的を達成する本発明にかかる睡眠段階判定方法は、睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した心拍信号に基づいて利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定方法において、所定の心拍信号検出手段によって前記利用者の心拍信号を無侵襲且つ無拘束で検出する心拍信号検出工程と、信号処理を行うプロセッサが、前記心拍信号検出工程にて検出された心拍信号に対して利得制御を行うことによってピーク値を一定に制御し、そのときの利得の値を用いて算出した心拍信号の強度に対して正規化処理を施す正規化工程と、前記プロセッサが、前記正規化工程にて得られた正規化心拍強度のデータについての所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出工程と、前記プロセッサが、前記正規化工程にて得られた前記正規化心拍強度と、前記分散値算出工程にて算出された前記正規化心拍強度の分散値とに基づいて前記利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定工程とを備え、前記プロセッサが、前記正規化工程において、前記心拍信号の強度の平均値によって前記心拍信号の強度を除し、それを100倍して第1の正規化心拍強度を求める第1の正規化処理と、前記第1の正規化処理によって得られた前記第1の正規化心拍強度の全区間のデータについて所定時間のデータの移動平均値を求める第2の正規化処理とを行い、前記プロセッサが、前記睡眠段階判定工程において、前記第1の正規化心拍強度の長期移動平均値と短期移動平均値との差分である第1の正規化補正心拍強度を求め、前記正規化補正心拍強度の分散値の平均値に所定値を加算した値を閾値とし、この閾値に基づいて覚醒段階の候補区間を求め、前記第1の正規化心拍強度の長期移動平均値に基づいて、候補区間の中から覚醒段階を判定し、前記第1の正規化心拍強度の分散値の極大値の所定近傍区間、又は、前記第2の正規化処理によって求められた第2の正規化心拍強度が時間的に台形状に変化する区間をレム睡眠段階として判定し、前記第1の正規化心拍強度の分散値とその平均値とに基づいて深いノンレム睡眠段階の候補区間を求め、求めた候補区間について、前記第1の正規化心拍強度の分散値が所定値以下となる区間を求め、この区間において、前記第2の正規化処理によって得られた移動平均値の波形の勾配が負であり且つ前記分散値が前記平均値よりも小さい区間を深いノンレム睡眠段階として判定し、覚醒段階であると判定した区間のデータと、レム睡眠段階であると判定した区間のデータと、深いノンレム睡眠段階であると判定した区間のデータとを全睡眠時間のデータから差し引いた残りの区間を浅いノンレム睡眠段階の区間であると判定することを特徴としている。
【0015】
このような本発明にかかる睡眠段階判定装置及び睡眠段階判定方法は、無侵襲且つ無拘束で検出した心拍信号の強度のデータについて適切な正規化処理を行って睡眠段階を判定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、無侵襲且つ無拘束で心拍信号を検出することから、利用者にとって身体的及び心的負担を何ら負うことなく、且つ、安価であって利用者が日常的に使用でき、また、適切な正規化手法を採用することによって個人差や装置差をなくすことができ、国際睡眠深度判定基準との整合をとりながら睡眠段階を高精度に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態として示す睡眠段階判定装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態として示す睡眠段階判定装置の構成を示す図であり、図1において矢視方向からみたときの一部断面図である。
図3】心拍強度の時系列波形を示す図である。
図4図3の波形について正規化した正規化心拍強度の時系列波形を示す図である。
図5図4の波形について求めた分散値の時系列波形を示す図である。
図6図4の波形について求めた移動平均値の時系列波形を示す図である。
図7図4の波形について求めた正規化補正心拍強度の時系列波形を示す図である。
図8図7の波形について求めた分散値の時系列波形を示す図である。
図9】第1の正規化心拍強度の長期移動平均値の時系列波形を示す図である。
図10】心拍強度の分散値の時系列波形を示す図である。
図11図10に示す波形について異常値を平均値に置き換えた時系列波形を示す図である。
図12図11に示す波形について求めた長期移動平均値の時系列波形を示す図である。
図13】心拍強度の時系列波形を示す図であり、心拍強度が急激に台形状に変化する状況を示す図である。
図14】PSG判定結果の時系列波形を示す図であり、レム睡眠段階の判定結果との符号を示す図である。
図15】心拍強度の分散値の時系列波形を示す図であり、分散値が小さい区間が深いノンレム睡眠段階の候補区間である。
図16図6の移動平均値の時系列波形を示す図であり、深いノンレム睡眠段階について示す図である。
図17】PSG判定結果の時系列波形を示す図であり、深いノンレム睡眠段階の判定結果との符号を示す図である。
図18】他の生体信号検出部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
この実施の形態は、睡眠段階を判定する睡眠段階判定装置である。特に、この睡眠段階判定装置は、心拍信号の振幅を測定し、その心拍信号の振幅とその振幅のばらつきとに基づいて高精度な睡眠段階判定を実現するものである。
【0020】
図1に、本発明の実施の形態として示す睡眠段階判定装置の処理をブロックとして表した構成を示し、図2に、図1において矢視方向からみたときの一部断面図を示している。すなわち、睡眠段階判定装置は、寝台21上に横臥している利用者の生体信号を検出する生体信号検出部1と、この生体信号検出部1によって検出された生体信号を増幅する信号増幅部2と、この信号増幅部2によって増幅された生体信号に対してフィルタリング処理を施すフィルタ部3と、このフィルタ部3を通過した心拍信号に対して自動的に利得制御を行う自動利得制御部4と、心拍信号の強度を算出する信号強度算出部5と、この信号強度算出部5によって算出された心拍強度を正規化する正規化部6と、この正規化部6によって得られた正規化心拍強度の分散値を算出する分散値算出部7と、この分散値算出部7によって算出された心拍強度の分散値に基づいて利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定部8とを備える。なお、これら各部のうち、少なくとも、信号強度算出部5、正規化部6、分散値算出部7、及び、睡眠段階判定部8は、例えば、信号処理を行うコンピュータにおけるCPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェアを用いて実行可能なプログラムとして実装したり、コンピュータに装着可能な拡張ボードに搭載されたDSP(Digital Processing Unit)等の専用プロセッサを用いて実装したりすることができる。
【0021】
生体信号検出部1は、利用者の微細な生体信号を検出する無侵襲且つ無拘束センサである。具体的には、生体信号検出部1は、圧力検出チューブ1aと、この圧力検出チューブ1aの内部に収容されている空気の微小な圧力変動を検出するセンサである微差圧センサ1bとから構成され、無侵襲且つ無拘束な生体信号の検出手段を構成している。
【0022】
圧力検出チューブ1aとしては、生体信号の圧力変動範囲に対応して内部の圧力が変動するように適度な弾力を有するものを使用する。また、圧力検出チューブ1aとしては、圧力変化を適切な応答速度で微差圧センサ1bに伝達するために、チューブの中空部の容積を適切に選択する必要がある。圧力検出チューブ1aが適度な弾性と中空部容積とを同時に満足できない場合には、圧力検出チューブ1aの中空部に適切な太さの芯線をチューブ長さ全体にわたって装填し、中空部の容積を適切にとることができる。
【0023】
このような圧力検出チューブ1aは、寝台21上に敷設された硬質シート22上に配置される。睡眠段階判定装置においては、硬質シート22上に弾性を有するクッションシート23が敷設されており、圧力検出チューブ1aの上に利用者が横臥することになる。なお、圧力検出チューブ1aは、クッションシート23等に組み込んだ構成とすることにより、圧力検出チューブ1aの位置を安定させる構造としてもよい。
【0024】
微差圧センサ1bは、微小な圧力の変動を検出するセンサである。本実施の形態においては、微差圧センサ1bとして、低周波用のコンデンサマイクロフォンタイプのものを使用するが、これに限定されるものではなく、適切な分解能とダイナミックレンジとを有するものであればよい。本実施の形態において使用した低周波用のコンデンサマイクロフォンは、一般の音響用マイクロフォンが低周波領域に対して配慮されていないのに引き替え、受圧面の後方にチャンバーを設けることによって低周波領域の特性を大幅に向上させたものであり、圧力検出チューブ1a内の微小圧力変動を検出するのに好適なものである。また、このコンデンサマイクロフォンは、微小な差圧を計測するのに優れており、0.2Paの分解能と約50Paのダイナミックレンジとを有し、通常使用されるセラミックを利用した微差圧センサと比較して数倍の性能を持つものであり、生体信号が体表面に通して圧力検出チューブ1aに加えた微小な圧力を検出するのに好適なものである。また、周波数特性は、0.1Hz〜30Hzの間で略平坦な出力値を示し、心拍及び呼吸等の微小な生体信号を検出するのに適している。
【0025】
本実施の形態においては、一方が利用者の胸部の部位の生体信号を検出し、他方が利用者の臀部の部位を検出するように、2組の圧力検出チューブ1aが設けられており、利用者の就寝の姿勢にかかわらず生体信号を検出するように構成されている。なお、睡眠段階判定装置においては、胸部の部位又は臀部の部位の一方のみに圧力検出チューブ1aを配置する構成としてもよい。このような生体信号検出部1によって検出された生体信号は、信号増幅部2に供給される。睡眠段階判定装置は、このような無侵襲且つ無拘束で生体信号を検出する構成とすることにより、日常生活において容易に使用することができ、特に高齢者の使用に極めて好適である。
【0026】
信号増幅部2は、後の処理工程で処理できるように生体信号検出部1によって検出された信号を増幅し、さらに、明らかに異常なレベルの信号を除去する等して適切な信号整形処理を行う。この信号増幅部2によって増幅された生体信号は、フィルタ部3に供給される。
【0027】
フィルタ部3は、信号増幅部2によって増幅された生体信号から不要な信号をバンドパスフィルタ等によって除去することにより、心拍信号を抽出する。すなわち、生体信号検出部1によって検出された生体信号は、人体から発する様々な振動が混ざり合った信号であり、その中に心拍信号の他、寝返り等による体動信号等の様々な信号が含まれている。このうち、心拍信号は、心臓のポンプ機能に基づく圧力の変化(すなわち血圧)が振動となって生体信号に含まれるものである。睡眠段階判定装置においては、これをフィルタ部3によって抽出することにより、心拍信号として認識する。このフィルタ部3を通過した心拍信号は、自動利得制御部4に供給される。なお、心拍信号のサンプル周期は、4ミリ秒としている。
【0028】
自動利得制御部4は、フィルタ部3の出力が所定の信号レベルの範囲内に入るように自動的に利得制御を行ういわゆるAGC回路である。この自動利得制御部4による利得制御は、例えば信号のピーク値が所定の上限閾値を超えた場合に出力信号の振幅が小さくなるように利得を設定するとともに、ピーク値が所定の下限閾値を下回った場合に振幅が大きくなるように利得を設定している。自動利得制御部4は、このような利得制御を行った際の利得の値(係数)を信号強度算出部5に供給する。
【0029】
信号強度算出部5は、自動利得制御部4において心拍信号に対して施した利得制御の係数に基づいて、心拍信号の強度を算出する。上述した自動利得制御部4から得られる利得の値は、信号の大きさが大きいときには小さく、また、信号の大きさが小さいときは大きく設定されることから、利得の値とは反比例の関係で信号強度が表されることになる。信号強度算出部5は、算出した心拍強度のデータについて個人差や装置差をなくして一般化するために、心拍強度のデータを正規化部6に供給する。
【0030】
正規化部6は、信号強度算出部5によって算出された心拍強度のデータを、その振幅が所定の測定レンジにおさまるように正規化する。特に、正規化部6は、後述するように、第1の正規化処理及び第2の正規化処理という2種類の正規化処理を行う。正規化部6は、正規化した正規化心拍強度のデータを分散値算出部7に供給する。
【0031】
分散値算出部7は、正規化部6によって正規化された正規化心拍強度のデータについて、所定時間のデータのばらつきを示す分散値HIDを算出する。なお、本実施の形態においては、ある時点において、その時点までの一定時間内にサンプリングしたデータのばらつきを示す指標を分散値と称するものとすると、そのデータの標準偏差を分散値として採用している。具体的には、分散値算出部7は、信号強度のデータが1秒毎に測定されているものとすると、一連の信号強度のデータのうち、例えば60秒間のデータの分散値を算出する。この場合、ある時点から遡及して60秒間のデータ、すなわち、60個の心拍強度データの分散値を算出し、その後、次の1秒後から遡及して60秒間のデータの分散値を算出する、といった処理を繰り返し行う。この結果、分散値算出部7は、信号強度のばらつき(分散値)についての1秒間隔の時系列データを得ることができる。分散値算出部7は、このようにして得られた時系列データを睡眠段階判定部8に供給する。
【0032】
睡眠段階判定部8は、心拍強度の分散値HIDの時系列データに基づいて、睡眠中の利用者の睡眠段階、すなわち、覚醒段階、レム睡眠段階、第1のノンレム睡眠段階及び第2のノンレム睡眠段階(浅いノンレム睡眠段階)、並びに、第3のノンレム睡眠段階及び第4のノンレム睡眠段階(深いノンレム睡眠段階)の6段階の種別を判定する。なお、体動がある場合には、信号が大きく振れ且つその信号強度の分散値HIDも大きくなる。そこで、睡眠段階判定部8は、このような異常値の影響を除去するため、所定値を超える信号強度の分散値HIDをその所定値で置換する等の異常値処理を行う。そして、睡眠段階判定部8は、判定した睡眠段階情報を出力し、図示しない表示装置に表示させたり、印刷装置によって印刷させたり、記憶装置にデータとして記憶させたりする。
【0033】
このような睡眠段階判定装置は、生体信号検出部1によって生体信号を取り込んで検出した生体信号を信号増幅部2によって増幅し、フィルタ部3によって不要な信号をバンドパスフィルタ等によって除去することにより、心拍信号を検出する。そして、睡眠段階判定装置においては、自動利得制御部4による利得制御を行いながら信号強度算出部5によって心拍信号の強度を算出し、算出した心拍信号の強度について正規化部6による正規化を行い、得られた正規化心拍強度のデータについて分散値算出部7によって算出された分散値に基づいて、睡眠段階判定部8による睡眠段階の判定を行う。
【0034】
このような睡眠段階判定装置は、以下のような正規化を行う。
【0035】
まず、自動利得制御部4から得られる利得の値をAGCとし、信号強度算出部5によって算出される心拍強度をHIとしたとき、正規化部6は、心拍信号の振幅の測定レンジが0から100までであったとすると、第1の正規化心拍強度HInとして、
HIn=HI*100/HIの平均値
を算出する。この処理を第1の正規化処理というものとする。具体的には、正規化部6は、図3に示すように、心拍強度HIをその全体の平均値(ここでは、56.17)によって除し、その100倍の値を求め、図4に示すような第1の正規化心拍強度HInを得る。このとき、正規化部6は、離床時や体動等による異常値は除去した上で全体の平均値を求める。第1の正規化心拍強度HInは、分散値算出部7に供給され、図5に示すような60秒の分散値が求められる。このような処理を1秒ずつずらして行うことにより、信号強度のばらつき(分散値HInD)についての1秒間隔の全区間の時系列データが得られる。
【0036】
また、正規化部6は、第2の正規化処理として、図6に示すように、第1の正規化処理によって得られた第1の正規化心拍強度HInの全区間のデータについて60秒間のデータの移動平均値MAV60(HIn)を求め、これを第2の正規化心拍強度HIn2とする。
【0037】
正規化部6は、このような演算を行うことにより、心拍信号の波形を測定レンジの0〜100%におさまる波形に正規化する。これにより、睡眠段階判定装置は、心拍強度の個人差をなくすことができるのはもちろんのこと、測定装置の差もなくすことができる。
【0038】
つぎに、睡眠段階判定部8による睡眠段階の判定について説明する。
【0039】
まず、覚醒段階の判定について説明する。
【0040】
睡眠段階判定部8は、第1の正規化心拍強度HInと分散値HInDとに基づいて、覚醒段階であるか否かを判定する。
【0041】
ただし、健常者の第1の正規化心拍強度HInは、レム睡眠時において台形状に急激な時系列変化がみられる。これは、自律神経の変化によって生じる現象だと思われる。この変化は体動による変化ではないことから、その急激な変化によって生じる信号の大きさの段差を取り除く必要がある。具体的には、分散値算出部7は、必要に応じて、第1の正規化心拍強度HInの長期移動平均値MAVL HIn(例えば、500秒)と短期移動平均値MAVS HIn(例えば、40秒)とを用いて、図7に示すように、正規化補正心拍強度HInrとして、
HInr=HIn+MAVL HIn−MAVS HIn
を求める。そして、分散値算出部7は、図8に示すように、この正規化補正心拍強度HInrの60秒の分散値HInrDを求めることにより、信号の大きさの段差の影響を取り除いた分散値を求め、睡眠段階判定部8に供給する。
【0042】
睡眠段階判定部8は、このような前処理が施された分散値HInrDを用いて覚醒段階の有無を判定する。具体的には、睡眠段階判定部8は、分散値HInrDの平均値AV(HInrD)に所定値A1(例えば、2%)を加算した値AV(HInrD)+A1を閾値とし、この閾値を超える体動の保持時間が所定時間(例えば、80秒)以上であり且つ所定時間(例えば、200秒)以内に体動がない場合には、その区間を覚醒段階の候補とする。また、睡眠段階判定部8は、体動の保持時間が所定時間(例えば、50秒)以上であり且つ所定時間(例えば、200秒)以内に所定の保持時間(例えば、40秒)が継続する場合又はこのような状況が複数回断続的に継続する場合にも、その区間を覚醒段階の候補とする。
【0043】
睡眠段階判定部8は、このようにして覚醒段階の候補を判定すると、第1の正規化心拍強度HInの長期移動平均値MAVL HInに基づいて、候補の中から覚醒の有無を判定する。すなわち、睡眠段階判定部8は、図8に示すように体動等によって大きく変化する覚醒段階の候補として求めた分散値HInrDの中央点の時間軸位置に対応する図9に示すような長期移動平均値MAVL HInの値に基づいて覚醒の判定を行う。具体的には、睡眠段階判定部8は、対応する時間軸位置における長期移動平均値MAVL HInの値が100%よりも大きく且つ第1の保持時間>H1である場合、第1の保持時間+維持時間(例えば、300秒)を覚醒段階と判定する。また、睡眠段階判定部8は、対応する時間軸位置における長期移動平均値MAVL HInの値が100%を超え且つ第2の保持時間>H2であり且つ体動間隔<h1且つ第3の保持時間>H3である場合、第2の保持時間+体動間隔+第3の保持時間+維持時間(例えば、300秒)を覚醒段階と判定する。さらに、睡眠段階判定部8は、対応する時間軸位置における長期移動平均値MAVL HInの値が90%以上100%以下であり且つ第1の保持時間>H1(例えば、70秒)である場合、第1の保持時間を覚醒段階と判定する。さらにまた、睡眠段階判定部8は、対応する時間軸位置における長期移動平均値MAVL HInの値が90%以上100%以下であり且つ第2の保持時間>H2であり且つ体動間隔<h1且つ第3の保持時間>H3である場合、第2の保持時間+体動間隔+第3の保持時間を覚醒段階と判定する。また、睡眠段階判定部8は、対応する時間軸位置における長期移動平均値MAVL HInの値が90%未満である場合には、覚醒段階とは判定しない。
【0044】
なお、睡眠段階判定部8は、在床から入眠までは必ず覚醒段階と判定する。また、睡眠段階判定部8は、例えば在床しながら読書している場合等、体動がなく浅い睡眠である場合であっても、長期移動平均値MAVL HInの値が105%よりも大きい場合には覚醒段階と判定する。
【0045】
睡眠段階判定部8は、このようにして覚醒段階を高精度に判定することができる。
【0046】
つぎに、レム睡眠段階の判定について説明する。
【0047】
レム睡眠段階は、一般に、自律神経成分が大きくなる。具体的には、レム睡眠段階は、心拍強度の分散値が交感神経成分と比例関係にあるため、心拍強度の分散値が極大値になる場合がある。また、急激に交感神経成分が大きくなる場合には、その台形状の時系列変化において台形上辺がプラス勾配の場合にはレム睡眠となることから、心拍強度が急激に台形状に変化する場合もレム睡眠となる。睡眠段階判定部8は、このような心拍強度の分散値と心拍信号のピーク間隔から求めた交感神経成分との関連があることを利用してレム睡眠の判定を行う。なお、心拍信号のピーク間隔信号とは、心拍信号の強さがピークとなる付近の波形(R波)の間隔を変数とする信号であり、心拍変動解析においては、R波の隣り合うピークの間隔を表すR−R間隔信号としてよく使用されるものである。また、このピーク間隔信号と自律神経成分との関係は、ピーク間隔信号に対して高速フーリエ変換等の周波数解析を施して算出されたパワースペクトル密度が自律神経系の状態によって異なる様相を示すことに基づいている。すなわち、ピーク間隔信号のパワースペクトル密度は、略0.05Hz〜0.15Hzの帯域と、略0.2Hz〜0.35Hzの帯域とに顕著な極大値が現れるが、略0.05Hz〜0.15Hzの帯域おける極大値をLF値と称し、略0.2Hz〜0.35Hzの帯域における極大値をHF値と称するものとすると、これらHF値及びLF値は、自律神経の活動状況を示すパラメータであり、LF値が大きく且つHF値が小さい場合には、交感神経系が活発で緊張時であることを示し、LF値が小さく且つHF値が大きい場合には、副交感神経系活動が活発であることを示す。睡眠中は心拍数が減少するが、これは緊張時に活発となる交感神経系活動が低下し、弛緩時に活発となる副交感神経系活動が増加することによるものである。すなわち、睡眠の深さの状態によってHF値及びLF値は顕著に変動することになる。
【0048】
具体的には、睡眠段階判定部8は、心拍強度の分散値が極大値になることを利用してレム睡眠段階を判定する場合には、まず異常値を除去する。すなわち、睡眠段階判定部8は、図10に示すような分散値HInDのC%(例えば、4%)以上を異常値として取り除いた信号の平均値(AV(HInD2)を求めた上で、図11に示すように、C%以上となる区間を求めた平均値に置き換える。そして、睡眠段階判定部8は、図12に示すように、この信号の長期移動平均を求め、極大値>AV(HInD2)×110%として、その極大値を求める。なお、極大値が多数出現することがあるため、睡眠段階判定部8は、体動間隔をKI=K2=K3=300秒とし、f(t0−K2)+2α<f(t0−K1)+α<f(t0)>f(t0+K1)+α>f(t0+K2)+2αの間を極大値として求める。なお、α=0.2%(小数点第一位)である。そして、睡眠段階判定部8は、極大値の90%の大きさを有する区間をレム睡眠段階として判定する。
【0049】
一方、睡眠段階判定部8は、心拍強度が急激に台形状に変化することを利用してレム睡眠段階を判定する場合には以下のようになる。なお、心拍強度が急激に台形状に変化する状況は、図13に示すように、上に凸となる台形状の波形が得られる状況をいう。このような台形状に変化する区間は、図14に比較例として示すPSG判定結果においてレム睡眠段階(図14における「2」)と判定された区間と符号する。
【0050】
睡眠段階判定部8は、通常の場合には、分散値HInDに基づいて、平均値AV(HInD)+2%であり且つ保持時間60秒の区間(区間時間>500秒)を台形状の変化がみられる候補区間として求める。そして、睡眠段階判定部8は、求めた候補区間について、上述した第2の正規化処理によって第2の正規化心拍強度HIn2として得られた移動平均値MAV(HIn)に基づいて台形の検出を行う。具体的には、睡眠段階判定部8は、移動平均値MAV(HIn)について、最小自乗法を用いて台形上辺の勾配を検出する。この勾配が正である台形区間は、レム睡眠段階となる。睡眠段階判定部8は、台形内に極大値がある場合にはその極大値まで上辺の勾配が正であり且つ300秒以上継続する区間を、最小自乗法を用いて求め、この区間をレム睡眠段階と判定する。
【0051】
睡眠段階判定部8は、このようにしてレム睡眠段階を高精度に判定することができる。
【0052】
つぎに、深いノンレム睡眠段階の判定について説明する。
【0053】
睡眠段階判定部8は、分散値HInD<平均値AV(HInD)であり且つその状態が300秒以上継続する区間を深いノンレム睡眠段階の候補とする。ただし、睡眠段階判定部8は、AV(HInD)+1%>HInD以上であり且つHInDの継続時間<50秒である区間については、深いノンレム睡眠段階ではないものとして除外する。また、睡眠段階判定部8は、分散値HInD<AV(HInD)×80%である場合を深いノンレム睡眠段階の候補とすることもできる。この場合、睡眠段階判定部8は、AV(HInD)+1%>HInD以上であり且つHInDの継続時間<50秒である区間については、深いノンレム睡眠段階ではないものとして除外する。
【0054】
そして、睡眠段階判定部8は、求めた深いノンレム睡眠段階の候補区間に極大値及び極小値が存在するか否かによって処理を区別する。この極大値及び極小値の存在の判定は、第2の正規化処理によって得られた移動平均値MAV(HIn)のうち3点の間隔が所定秒以上であるか否かを基準に行うことができる。
【0055】
睡眠段階判定部8は、極大値及び極小値が存在しない場合には、図15に示すように、心拍強度の分散値HInDが所定値以下となる区間を求める。そして、睡眠段階判定部8は、この区間において、図16に示すように、第2の正規化処理によって得られた移動平均値MAV(HIn)の波形の勾配が負であり且つ分散値と平均値との関係がHInD<AV(HInD)である区間を深いノンレム睡眠段階と判定する。なお、勾配は、最小自乗法によって求めることができる。また、反応時間は、入眠から3時間以内の場合には約300秒とし、3時間以上の場合には800秒とする。より詳細には、睡眠段階判定部8は、入眠から3時間以内の場合には、最小自乗法によって求めた勾配が−0.002%以下であり且つ平均値AV(HInD)≦95%を満たす区間を深いノンレム睡眠段階と判定する。なお、区間の前後50秒間は不安定であることから、判定対象から除外する。また、睡眠段階判定部8は、入眠から3時間以上の場合には、最小自乗法によって求めた勾配が−0.003%以下であり且つ平均値AV(HInD)≦95%を満たす区間を深いノンレム睡眠段階と判定する。この場合にも、区間の前後50秒間は不安定であることから、判定対象から除外する。一方、睡眠段階判定部8は、極大値及び極小値が存在して勾配が大きく変化する場合には、極値間で勾配を測定して同様にして判定する。このようにして深いノンレム睡眠段階として判定された区間は、図17に比較例として示すPSG判定結果において深いノンレム睡眠段階(図17における「6」)と判定された区間と符号する。
【0056】
睡眠段階判定部8は、このようにして深いノンレム睡眠段階を高精度に判定することができる。そして、睡眠段階判定部8は、覚醒段階であると判定した区間のデータと、レム睡眠段階であると判定した区間のデータと、深いノンレム睡眠段階であると判定した区間のデータとを全睡眠時間のデータから差し引いた残りの区間を浅いノンレム睡眠段階の区間として判定する。
【0057】
以上説明したように、本発明の実施の形態として示す睡眠段階判定装置においては、心拍強度について適切な正規化処理を行って得られた心拍強度の分散値に基づいて各睡眠段階を判定することから、個人差や装置差がない普遍的な測定を行うことができ、国際睡眠深度判定基準との整合をとりながら睡眠段階を高精度に判定することができる。
【0058】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0059】
例えば、上述した実施の形態では、生体信号を検出する方法として、利用者の身体の下に敷設した無拘束の生体信号検出部1によって得られた生体信号から心拍信号を抽出する方法を示したが、本発明は、継続的に心拍信号又はこれらと同等の信号が得られる検出手段であれば適用可能である。例えば、本発明は、手首や上腕部等の身体に装着するタイプの心拍計や脈拍計であってデータを連続的に記録することが可能なものであれば生体信号検出部1として適用可能である。
【0060】
また、生体信号検出部1としては、上述した中空チューブを用いる代わりに、図18に示すようなエアマット式の検出手段を用いてもよい。すなわち、図18に示す生体信号検出部30は、内部に空気を封入したエアマット30aの一端にエアチューブ30bが接続され、さらに、このエアチューブ30bに微差圧センサ30cが接続されて構成される。なお、微差圧センサ30cは、中空チューブを用いた生体信号検出部1の場合において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0061】
さらに、上述した実施の形態では、心拍強度のばらつきを示す分散値として標準偏差を採用したが、本発明は、例えば、分散、偏差平方和、所定範囲等の統計量を採用してもよい。
【0062】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0063】
1,30 生体信号検出部
1a 圧力検出チューブ
1b,30c 微差圧センサ
2 信号増幅部
3 フィルタ部
4 自動利得制御部
5 信号強度算出部
6 正規化部
7 分散値算出部
8 睡眠段階判定部
21 寝台
22 硬質シート
23 クッションシート
30a エアマット
30b エアチューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18