【実施例1】
【0019】
図1に示す光触媒シートS1は、おもて面とうら面で異なる非周期的パターンが形成され、表裏を貫通する微細流路2が形成された非周期性海綿構造を有するステンレス基板1にチタン11が被覆され、その表面に酸化チタン皮膜3が形成され、酸化チタン皮膜3にアナターゼ型酸化チタン粒子4が担持されている。なお、おもて面とうら面は区別されない。
【0020】
図2はその光触媒シートS1の製造方法を示す説明図である。
まず、ステンレス基板1に微細流路2を形成するエッチング処理を行う。なお、エッチング処理の前にステンレス基板1を洗浄しておくことが好ましい。
本実施例ではステンレス基板1の厚みを0.2mmとした。
【0021】
エッチング処理としては以下の工程を行う。
ステンレス基板1の表裏両面にフォトレジスト剤6を塗布する塗布工程を行う(
図2(a))。フォトレジスト剤6の上から非周期的パターンが形成されたマスキングフィルム7を重ねて露光する露光工程を行う(
図2(b))露光後、フォトレジスト剤6の感光していない部分を洗浄して、感光した部分をステンレス基板1に残す洗浄工程を行う(
図2(c))。
次に、フォトレジスト剤6で非周期編み目パターンがマスキングされたステンレス基板1をエッチング液に浸漬し、表裏両面からステンレス基板1の厚さの半分まで浸食させることにより、表裏を貫通する微細流路2を形成する浸漬工程を行う(
図2(d))。
【0022】
このように、ステンレス基板1にエッチング処理を施せば、そのマスキングパターンに周期性がないことから、ステンレス基板1の表側と裏側とで異なるパターンの孔が形成される。その結果、
図1に示すように、ステンレス基板1の厚さ方向に複雑なラビリンス状の微細流路2が形成され、単純なワイヤメッシュやパンチングメタルなどよりも比表面積が著しく大きくなり、自然に存在する海綿構造体と同様、比表面積を著しく大きくすることができる。かくして、非周期性海綿構造を有するステンレス基板が形成される。
【0023】
なお、本実施例において、光触媒シートS1の空隙率(エッチング処理後の重量/エッチング処理前の重量)は20%程度である。
また、その表面を拡大観察すると、この時点では、
図2(e)に示すように、概ねフラットな状態となっている。
【0024】
次に、上記ステンレス基板1にチタンを被覆し、チタン被覆ステンレス基板とする(
図2(f))。
チタンを被覆する方法としては、適宜変更することが可能であるが、真空蒸着又はスパッタリングにより行うことが好ましい。本実施例では真空蒸着により行った。
これにより、ステンレス基板1の表面にチタン11が被覆される。なお、チタンは微細流路2の内壁面にも被覆される。
【0025】
このとき、被覆するチタンの厚みは、適宜変更することが可能であるが、0.5〜2.0μmが好ましく、0.8〜1.5μmがより好ましい。この範囲であると、ステンレス基板のクロムの影響を抑制し、脱臭性能を向上させることができる。また、チタンの使用量を抑えることで、コスト面でも有利である。被覆するチタンの厚みが1.5μmであれば、ほぼチタン箔を材料として用いた場合と同等の性能が得られる。
本実施例では被覆するチタンの厚みを0.8μmとして行った。
【0026】
次いで、その表面に酸化チタン皮膜3を形成する陽極酸化処理を行う。
陽極酸化処理は、リン酸浴(例えばリン酸3%水溶液)中で、陽極となるチタン11と陰極との間に所定電圧を印加して行われ、その結果、
図2(g)に示すように、チタン11の表面が酸化されて陽極酸化皮膜が形成される。
【0027】
このとき、酸化皮膜は、チタン被覆ステンレス基板の表裏両面だけでなく、微細流路2の内壁面などリン酸浴に曝されている全表面に形成される。
その後、チタン被覆ステンレス基板を加熱処理する。加熱は例えば大気中で450〜550℃、2〜3時間加熱する。加熱処理を施すことで、陽極酸化皮膜が加熱された酸化チタン皮膜3が形成される。
【0028】
その表面を拡大観察すると、エッチング処理した時点でフラットだった表面に、陽極酸化処理及び加熱処理によるひび割れ8が出現する。
【0029】
なお、チタン11を陽極酸化処理した場合、その酸化皮膜の厚さに応じて光の干渉により異なる色が発色し、厚さ70nm程度で紫色、150nm程度で緑色、200nm程度でピンク色を呈することが知られている。本実施例では、厚さ70〜150nmの皮膜を形成した。
【0030】
そして、アナターゼ型酸化チタン粒子4を担持させる焼き付け処理を行う。
表面に酸化チタン皮膜3が形成されたステンレス基板1を、アナターゼ型酸化チタン粒子4を分散したスラリー中にディッピングした後、これを400〜450℃で焼き付けると、
図2(h)に示すように、ステンレス基板1の表裏両面及び微細流路2の内壁面に光触媒層5が形成される。
【0031】
酸化チタン皮膜3と光触媒層5は、酸化チタン同士が結合することになるので、その結合性が極めて強くなり、その結果、光触媒層5が剥がれ難くなる。
【0032】
このとき、アナターゼ型酸化チタン粒子4を担持させた後、必要に応じてジェット風を送る工程を行うことが好ましい。これにより、表面に付着した剥がれやすい酸化チタン粒子を取り除くことができる。
【0033】
本実施例では、エッチング処理により微細流路2を形成したことにより表面が複雑な凹凸形状をなし、かつ陽極酸化皮膜からなる酸化チタン皮膜3はミクロンオーダーの微細なひび割れ8を生じている。そのため、その上に光触媒層5が強固に結合するだけでなく、表面積が増え、処理効率が格段に向上する。また、UV光を照射したときに光触媒層5の表面及び酸化チタン皮膜3との界面で乱反射/光散乱が起き、UV光を効率よく利用できる。
【0034】
さらにまた、ステンレス基板にチタンを被覆する方式を採用したことで、光触媒シート自体を安価に形成することができ、このことから設計の自由度が大きくなり、また耐熱性、耐薬品性にも優れるため、過酷な使用条件の下でも使用に耐え得る。
【0035】
さらに、光触媒シート1は、シート状に形成されているので、光源の配置によっては両面照射することもでき、多層化することも可能であり、その場合、光触媒効果もより向上することが期待できる。
【0036】
次に、本実施例で得られた光触媒シートについて以下の評価を行った。評価としては、容積1m
3の密閉空間内に、後述する
図4に示されるような空気清浄機を置き、この空気清浄機に対し風速5.5m/sの風を吹き付けながら、その密閉空間内の所定濃度のアセトアルデヒドの濃度変化を経時的に測定した。また、空気清浄機としては、A5サイズの光触媒シートS1を二重に巻きつけた光触媒ユニットU1を置き、中心に波長254nmの紫外線光源9を配して、処理チャンバ10内を流れる空気流に曝すように配した。
結果を
図3に示す。
【0037】
図3において、本実施例で得られた光触媒シート(チタンの厚み:0.8μm)で得られた結果を図中(A)で示している。図中(B)のグラフは、ステンレス基板1ではなく、チタン基板を用いて光触媒シートを作製した場合の評価結果である。すなわち、チタン基板をエッチングして非周期性海綿構造とし、陽極酸化処理を施し、アナターゼ型酸化チタン粒子を担持させたものである(特許文献2参照)。また、図中(C)のグラフは、ステンレス基板をエッチングして非周期性海綿構造とし、チタンの被覆を行わずに、アナターゼ型酸化チタン粒子を担持させたものである。
【0038】
図3(A)のグラフに示されるように、本実施例で得られた光触媒シートによれば、時間経過と共にアセトアルデヒドガスの濃度(ppm)が低下し、良好な脱臭性能が得られていることがわかる。一方、図中(C)のグラフに示されるように、チタンで被覆していない場合、アセトアルデヒドガスの濃度(ppm)の低下は少なく、脱臭性能が劣っていることがわかる。これは、チタン被覆していないステンレス基板を用いた場合、クロムの影響により脱臭性能が低くなるのに対し、チタン被覆したステンレス基板を用いた場合、クロムの影響が少ないため、脱臭性能が良好であると考えられる。
【0039】
また、図中(A)と(B)を比べると、本実施例で得られた光触媒シートはチタン基板を用いた光触媒シートに対して約80%の脱臭性能を示しており、チタン基板を用いた光触媒シートに近い脱臭性能を示していることがわかる。