特許第6887611号(P6887611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887611
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】ブレードホルダー及び試料ホルダー
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/32 20060101AFI20210603BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20210603BHJP
   G02B 21/26 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   G02B21/32
   G01N1/28 G
   G01N1/28 F
   G02B21/26
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-69601(P2017-69601)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-173441(P2018-173441A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】517113473
【氏名又は名称】株式会社ヒューテック
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】薗村 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 多喜夫
【審査官】 岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−011751(JP,A)
【文献】 米国特許第05715082(US,A)
【文献】 特開2008−076345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00−21/00
G02B 21/06−21/36
G01N 1/00−1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学顕微鏡の対物レンズに装着されるホルダー本体部と、
前記ホルダー本体部に保持された状態で固形試料を切断するブレードとを備えており、
前記ホルダー本体部は前記対物レンズの光軸が通過する貫通穴を有し、
前記ブレードは、その切断面が前記光軸と平行をなすように、および前記貫通穴の内周面の少なくとも一部と交差するように保持されるものであり、少なくとも一部が前記光軸上に位置することを特徴とするブレードホルダー。
【請求項2】
前記対物レンズの鏡胴が前記貫通穴に挿入され、前記貫通穴の内径を狭めようとする力の作用により、前記鏡胴の側面が前記貫通穴の内周面によって押圧され、前記ホルダー本体部が前記対物レンズに装着されることを特徴とする請求項1に記載のブレードホルダー。
【請求項3】
前記ブレードの刃先が前記貫通穴の内部に収容されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のブレードホルダー。
【請求項4】
光学顕微鏡の対物レンズに装着されるホルダー本体部と、
前記ホルダー本体部に保持された状態で固形試料を切断するブレードとを備えており、
前記ホルダー本体部は前記対物レンズの光軸が通過する貫通穴を有し、
前記ブレードは、その切断面が前記光軸と直交をなすように、および前記貫通穴の内周面の少なくとも一部と交差するように保持されることを特徴とするブレードホルダー。
【請求項5】
前記固形試料を照らすための照明装置を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のブレードホルダー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のブレードホルダーで前記固形試料をトリミングする際に前記固形試料を前記光学顕微鏡のステージ上に固定するための試料ホルダーであり、
前記ステージ上に保持されるプレートと、
前記固形試料が前記ブレードに対向するように前記固形試料を前記プレートに固定する試料固定手段とを備えており、
前記プレートが平面視正方形であり、
前記試料固定手段が前記プレートの中心で前記固形試料を固定するものであり、
前記プレートの90°又は180°の回転に伴い、前記固形試料も90°又は180°回転することを特徴とする試料ホルダー。
【請求項7】
前記試料固定手段が、前記プレートに対して鉛直方向にのびてその内部に前記固形試料を保持する試料保持部を備えており、
前記試料保持部が、前記固形試料の最下端が前記ステージの表面よりも低い位置になるように前記固形試料を保持することを特徴とする請求項6に記載の試料ホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極微小範囲を正確にトリミングできるブレードホルダー及び試料ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)等で生体等の試料の特定部位を観察する際に、作業者はまずエポン樹脂等の包埋剤で包埋した固形試料をトリミングして観察対象が含まれる突起を造形する。以後、当該突起を試料ブロックという。
トリミングでは作業者がブレード(カミソリの刃やガラスナイフ等)を使って固形試料の一部を台形柱等の直角柱状に切り出すことがある。
【0003】
具体的には、作業者は実体顕微鏡下に固形試料をセットして固形試料の表面を実体顕微鏡を通して見たり、或いは実体顕微鏡下にセットした固形試料の表面を斜め上方から肉眼で直接見たりしながら、ブレードで固形試料の表面に対して鉛直方向に台形の上底及び下底となる2本の平行な線と、台形の脚となる2本の非平行な線を切り込む。次に、固形試料の側面に対して水平方向に切り込んでいき、不要部分を切除することで台形柱状の試料ブロックを作製する。
次に、作業者は試料ブロックを持つ固形試料または試料ブロックそのものをウルトラミクロトームに装着し、試料ブロックを50 nm〜100 nm厚に超薄切することで高品質な透過電子顕微鏡観察用の薄切片を作製する。
【0004】
連続的に薄切片を得ようとする場合は、作製した複数の薄切片を水面にリボン状に繋げて並べることがある。ここで、連続する薄切片の直線性を確保するには、各薄切片が極めて厳密な2本の平行線を持つのが好ましいことが知られている(非特許文献1参照)。
そこで、例えば試料ブロックを台形柱状又は直方体状に正確に切り出すことにすれば、各薄切片の形状が台形又は長方形になり、2本の正確な平行線を持つので好ましく、さらに非等脚の台形柱状に切り出すことにすれば、各薄切片の形状が非等脚の台形になり、薄切片の向き(天地)の確認が容易になるため特に好ましい。
【0005】
また、近年、SEM(Scanning Electron Microscopes:走査型電子顕微鏡)を用いて連続的に断面像を撮影し、撮影した連続画像を三次元に再構築する方法が生体組織構造解析の分野で脚光を浴びている。
SEMによる連続断面像の取得方法として、例えば集束イオンビームを用いたブロック面観察法( FIB-SEM : Focused Ion Beam Scanning Electron Microscopes )、鏡体内に組み込んだミクロトームを使用する切削ブロック面観察法( SBF-SEM : Serial Block-Face SEM )、連続した超薄切片をガラスなどの硬い基板に載せ、SEMで撮影した画像を三次元に再構築する連続切片SEM法(Array tomography)等が知られている。
いずれの方法も試料内に特定部位以外の不必要な領域が広く含まれていると撮影前の粗削りに時間がかかり、連続断面像の取得および/または三次元再構築の効率が低下するという問題がある。特にFIB-SEMの場合は、特定部位以外の不必要な領域の粗削りのために高価なガリウムイオン銃の消費量が増加することになるので、そのことによるコスト増も大きな問題となる。また、三次元再構築法で撮影する画像は通常1,000〜10,000枚にものぼるので、観察に不要な領域を可能な限り取り除かなければ、データ量が膨大になるという問題がある。また、特にArray tomographyの場合には各薄切片の2本線の平行度が低いと三次元再構築の際の位置ずれの補正が必要になるため効率が低下するという問題もある。したがって、可能な限り極微小範囲内での正確なトリミングが要求される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Harrisら,The Journal of Neuroscience, November 22, 2006・26 (47):12101-12103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来技術では以下のような問題がある。
すなわち、作業者が実体顕微鏡を使用して固形試料の表面を見ると倍率が低いために特定部位の位置やブレードの位置を確認し辛いという問題や、落射照明の場合は固形試料の内部構造を全く見る事ができないという問題がある。
また、作業者の肉眼では対物レンズが邪魔になって固形試料の表面を斜め上方から見ることになり、2本の切り込み線を正確に平行に入れることが難しいという問題がある。
このような諸問題により、熟練した作業者であっても2本の切り込み線の間隔を小さくするのは困難であり、せいぜい0.5 mm程度にしかできない。2本の平行な切り込み線の間隔が大きいと薄切片の面積が大きくなるので、TEM用のグリッド/メッシュに保持できる薄切片の枚数が制限され、観察効率が低下するという問題もある。
また、上述したとおり連続断面SEM像を三次元に再構築する方法では可能な限り極微小範囲内での正確なトリミングが要求されるため、従来技術では対応が難しいという問題もある。
【0008】
本発明は、上記のような問題を考慮して、極微小範囲を正確にトリミングできるブレードホルダー及び試料ホルダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のブレードホルダーは、光学顕微鏡の対物レンズに装着されるホルダー本体部と、前記ホルダー本体部に保持された状態で固形試料を切断するブレードとを備えており、前記ホルダー本体部は前記対物レンズの光軸が通過する貫通穴を有し、前記ブレードは、その切断面が前記光軸と平行をなすように、および前記貫通穴の内周面の少なくとも一部と交差するように保持されるものであり、少なくとも一部が前記光軸上に位置することを特徴とする。
また、前記対物レンズの鏡胴が前記貫通穴に挿入され、前記貫通穴の内径を狭めようとする力の作用により、前記鏡胴の側面が前記貫通穴の内周面によって押圧され、前記ホルダー本体部が前記対物レンズに装着されることを特徴とする。
また、前記ブレードの刃先が前記貫通穴の内部に収容されていることを特徴とする。
また、光学顕微鏡の対物レンズに装着されるホルダー本体部と、前記ホルダー本体部に保持された状態で固形試料を切断するブレードとを備えており、前記ホルダー本体部は前記対物レンズの光軸が通過する貫通穴を有し、前記ブレードは、その切断面が前記光軸と直交をなすように、および前記貫通穴の内周面の少なくとも一部と交差するように保持されることを特徴とする。
また、前記固形試料を照らすための照明装置を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の試料ホルダーは、上記ブレードホルダーで前記固形試料をトリミングする際に前記固形試料を前記光学顕微鏡のステージ上に固定するための試料ホルダーであり、前記ステージ上に保持されるプレートと、前記固形試料が前記ブレードに対向するように前記固形試料を前記プレートに固定する試料固定手段とを備えており、前記プレートが平面視正方形であり、前記試料固定手段が前記プレートの中心で前記固形試料を固定するものであり、前記プレートの90°又は180°の回転に伴い、前記固形試料も90°又は180°回転することを特徴とする。
【0011】
また、前記試料固定手段が、前記プレートに対して鉛直方向にのびてその内部に前記固形試料を保持する試料保持部を備えており、前記試料保持部が、前記固形試料の最下端が前記ステージの表面よりも低い位置になるように前記固形試料を保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のブレードホルダーは光学顕微鏡の対物レンズに装着して使用する。ホルダー本体部に形成した貫通穴には対物レンズの光軸が通過し、この貫通穴の内周面を含む円筒の内側にブレードが保持されているが、このブレードが一定量デフォーカスされた位置に保持される場合は、作業者が顕微鏡の接眼レンズを覗く際に、前記ブレードは固体試料表面の観察の妨げにならない。また、ブレードが一定量デフォーカスされていることにより、試料表面にピントがあったときには、作業者は前記ブレードと試料との間には前記一定量の距離が保たれていると判断することができる。
また、固形試料を顕微鏡のステージに固定することで、作業者は顕微鏡の粗動ハンドルや微動ハンドルを操作することで固形試料をブレードに対して相対的かつ正確に所望の量だけ鉛直方向及び水平方向に移動させることができる。これにより、作業者は固形試料のうち観察対象である特定部位の極近傍までブレードを正確に移動させて、1本目の切り込み線を入れることができる。具体的には、試料表面にピントが合った状態から、顕微鏡の粗動または微動機構を用いて固形試料と対物レンズを鉛直方向に接近させ、ブレードを接触させる。この間の移動量はブレードのデフォーカス量と一致する。さらに接触点を超えて固形試料と対物レンズを近づければ、その近づけた量と等しい深さの切れ込み線を入れることができる。ここで、ブレードが貫通穴の中心を通るようにホルダー本体部に保持されている場合には、ブレードが対物レンズの光軸上に位置するため、切断面も顕微鏡の視野の中心を通ることとなる。
また、固形試料を顕微鏡ステージのXY微動ツマミの操作によりステージごと水平面内で正確に平行移動させることで2本目の切り込み線を1本目と正確に且つ0.1mm以下の極めて狭い間隔で平行に入れることができる。この際、水平面内の移動を行う前に、1本目の切り込み線を含む試料の表面にピントが合うようにすることで、作業者は特段の注意を払わずとも試料表面とブレードの間に前記デフォーカス量に等しいクリアランスが確保されることとなるため、不用意にブレードを試料表面に衝突させてしまう心配がない。
以上のとおり、本発明のブレードホルダーによれば極微小範囲内での正確なトリミングが可能になるので、観察効率を向上させ且つ観察に係るコストを抑えることができる。特にFIB-SEMの場合のトリミングに適用することで、FIB-SEMチャンバー内でガリウムイオン銃による粗削りを行う時間と費用を大幅に削減することが可能となる。また、Array tomographyのための連続切片を作成する前段階のトリミングに適用し、試料ブロックを小さく、高い平行度を持つように造形することで、三次元像を再構成するためのデジタルデータ量自体が削減されるばかりでなく、連続切片のリボンの直線性が高まり、各薄切片におけるアライメント補正のための計算時間が短縮されるという利点がある。さらに本発明のブレードホルダーによれば、試料の観察およびブレード移動の操作が容易になるため、作業者の不注意から貴重な試料を破壊してしまうリスクを減らすことができる。
【0013】
なお、本明細書において「貫通穴」とは、ホルダー本体部に形成され、対物レンズの光軸が通過する穴を指す。したがって、例えば二つの部位の表面に上下方向にのびる溝を形成し、各部位の溝を形成した面同士を相対させた場合には二つの溝によって穴が形成されることになるが、当該穴も「貫通穴」に含まれる。また、ガラス等の透光性を有する部材で穴の一部を塞いだ場合でも、光軸が通過する(光が通過する)限りは「貫通穴」に含まれる。
また、本明細書において「切断面」とは、ブレードを固形試料に接触させて相対的に移動させた際に固形試料が切断されることで形成される面を指す。
【0014】
固形試料を例えばエポン樹脂等の透光性を有する包埋剤で包埋することにすれば、本発明のブレードホルダーを透過型顕微鏡に適用できる。
また、ブレードの少なくとも一部を光軸上に位置させることにすれば、顕微鏡ステージの平面方向におけるブレードの正確な位置決めが容易になる。
また、貫通穴に対物レンズの鏡胴を挿入することでブレードホルダーを対物レンズに装着することにすれば、ブレードホルダーの部品点数を抑えることができる。
【0015】
また、ブレードの刃先を貫通穴の内部に収容することにすれば、刃先が貫通穴から外部に露出しないため、作業者が不意にブレードに接触して怪我してしまう事態を未然に防止できる。
ホルダー本体部がブレードを水平方向に保持する構成、すなわちブレードの切断面が対物レンズの光軸と直交をなすようにブレードを貫通穴の内部に保持する構成にしてもよい。この場合、固形試料に対して水平方向に正確に切り込み線を入れることができる。
また、ブレードホルダーに固形試料を照らすための照明装置を取り付けることにしてもよい。この場合、固形試料の表面が照明装置の光で照らされることで見易くなるという効果がある。
【0016】
固形試料を光学顕微鏡のステージ上に固定するための試料ホルダーには、トリミング中に固形試料を見易い位置で且つ固形試料が動かないように確実に固定できる仕組みが求められる。
本発明の試料ホルダーはステージ上に固定されるプレートと試料固定手段を備えており、試料固定手段が固形試料をブレードに対向させた状態で保持することができる。
また、プレートを90°又は180°で正確に回転させることでプレートと一体に保持される固形試料も正確に90°又は180°回転させることができる。ここで、プレートが平面視正方形であれば、90°又は180°の回転によって、プレートの中心は移動しない。
また、試料保持部によって固形試料の最下端をステージの表面よりも低い位置で保持できる機構にすれば、固形試料の最上端の位置も下がるので、対物レンズの作動距離の確保が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施の形態のブレードホルダーを右斜め上から見た図(a)及び右斜め下から見た図(b)
図2】ブレードホルダーの正面図(a)、平面図(b)、底面図(c)、左側面図(d)及び右側面図(e)
図3】ブレードホルダーを対物レンズに装着した状態を示す正面図(a)及び切り込み線を入れた状態を示す正面図(b)
図4】光学顕微鏡の斜視図
図5】ブレードホルダーの変形例を右斜め上から見た図(a)及び右斜め下から見た図(b)
図6】第2の実施の形態のブレードホルダーを示す正面図(a)
図7】第3の実施の形態のブレードホルダーを右斜め下から見た図
図8】第1の実施の形態の試料ホルダーと固形試料100を示す斜視図(a)〜(c)
図9】試料ホルダーの平面図(a)及び正面図(b)
図10】クレンメルを用いてステージに試料ホルダーをセットした状態を示す平面図(a)及びプレートを90°回転させた状態を示す平面図(b)
図11】L字状プレートを用いてステージに試料ホルダーをセットした状態を示す平面図(a)及びプレートを90°回転させた状態を示す平面図(b)
図12】第2の実施の形態の試料ホルダーの平面図(a)、固形試料を保持した状態を示す平面図(b)及びA-A’線断面図(c)
図13】トリミング方法を示す固形試料の平面図(a)〜(f)
図14】実施例におけるトリミング方法を示す写真(a)〜(f)
図15】実施例におけるトリミング方法を示す写真(a)〜(f)
図16】試料ブロックの顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ブレードホルダーの第1の実施の形態]
本発明のブレードホルダーの第1の実施の形態について説明する。
図1及び図2に示すようにブレードホルダー1はホルダー本体部10とブレード20を備えており、固形試料100(図3,図8等参照)をトリミングするために使用する。本実施の形態の固形試料100はエポン樹脂で包埋されており、透光性を有している。
図3に示すように、ブレードホルダー1は透過型の光学顕微鏡200の対物レンズ203に装着される。光学顕微鏡200の構造は周知であるため詳細な説明は省略するが、一例として図4に示すように接眼レンズ201、レボルバー202、対物レンズ203、ステージ204、コンデンサー205、粗動ハンドル206、微動ハンドル207、光源208及びXY微動ツマミ209等から概略構成される。なお、ブレードホルダー1を装着する光学顕微鏡200として正立型顕微鏡だけでなく倒立型顕微鏡であってもよい。
【0019】
ホルダー本体部10は直方体の部材であり、鉛直方向にのびる貫通穴11を備える。ホルダー本体部10の材質は特に限定されず、例えばアルミ、ステンレス、鉄等の金属やプラスチックを用いることができる。また、ホルダー本体部10の形状も直方体に限定されず、立方体、円柱形状などであってもよい。
貫通穴11は、ホルダー本体部10が対物レンズ203に装着された状態で、対物レンズ203の光軸を通過させるために設けられる。光源208から照射されて鉛直方向に進む光は固形試料100、貫通穴11及び対物レンズ203を通過し、更に光学顕微鏡200の構成によってはその他のレンズ群も通過し、最終的に接眼レンズ201に至る。
【0020】
ホルダー本体部10には、その右側面の上部から水平面内にのびて貫通穴11に至る第1スリット12と、その右側面の上部から鉛直面内にのびて貫通穴11に至る第2スリット13が形成されている。第1スリット12と第2スリット13によってホルダー本体部10の上部は前方片14と後方片15の2片に分割されており、前方片14と後方片15は一方の端部がホルダー本体部10の左側部分に支持された片持梁状態になっている。
また、前方片14の前面から後面まで貫通し、更に後方片15の前面からその内部にまで至るネジ穴16が形成されており、このネジ穴16にネジ17(例えばイモネジ)を螺合している。
ネジ17を締め上げる方向に回転させると、前方片14と後方片15が相対的に近づくようになっており、これにより第2スリット13の間隔が狭くなっていくため、貫通穴11の内径を小さくすることができる。作業者が貫通穴11の上方から対物レンズ203の鏡胴を挿入し、ネジ17を締め上げる方向に回転させると、貫通穴11の内径が小さくなり、鏡胴の側面が貫通穴11の内周面によって押圧されるので、ホルダー本体部10を対物レンズ203に装着することができる。つまり、ネジ17を締め上げることにより貫通穴11の内径を狭めようとする力が作用し、鏡胴の側面が貫通穴11の内周面によって押圧されるので、ホルダー本体部を対物レンズに装着できる。ホルダー本体部10を対物レンズ203から取り外す際にはネジ17を緩める方向に回転させて貫通穴11の内径を拡げればよい。
【0021】
なお、本実施の形態ではホルダー本体部10を直方体とし、ネジ17で締め上げることでホルダー本体部10を対物レンズ203に装着することにしたが、これに限らず例えばホルダー本体部10の周囲にバンドやクランプ等の周知の締結具を取り付け、これらで締め付けることによって第2スリット13の間隔を狭くしてホルダー本体部10を対物レンズ203に装着することにしてもよい。或いは第1スリット12及び第2スリット13を設けずに貫通穴11の内周面の上部にリング状の弾性部材を取り付けてもよい。この場合、対物レンズ203の鏡胴によって弾性部材を径方向外向きに押し広げながら貫通穴11に挿入することで、弾性部材の収縮力によってホルダー本体部10を対物レンズ203に装着することになる。
【0022】
ブレード20はホルダー本体部10に保持された状態で固形試料100を切断するための部材である。ブレード20の種類としては例えばカミソリの刃、ガラスナイフ、ワイヤー等、固形試料100に対して直線状の切り込みを入れることが出来れば特に限定されない。本実施の形態ではカミソリの刃を使用する。
ブレード20はその切断面が光軸と平行をなすように、および貫通穴11の内周面の少なくとも一部と交差するように貫通穴11の内部に保持される。
具体的には、ホルダー本体部10の下部において鉛直方向にのびてその右側面から貫通穴11の中心を通って左側面にまで至る第3スリット21が形成されている。ブレード20はその刃先22を下方に向けた状態で、刃先22が貫通穴11から下方に露出しないように第3スリット21に挿入されている。つまり、ブレード20の刃先22が貫通穴11の内部に収容されている。
【0023】
また、ホルダー本体部10の前面から第3スリット21まで至るネジ穴23が左右2箇所に形成されており、このネジ穴23にネジ24(例えばイモネジ)を螺合している。
左右のネジ24を締め上げる方向に回転させると、ネジ24がネジ穴23の内部を後方に移動していき、ネジ24の先端がブレード20の側面に接触する。ネジ24がブレード20の側面に接触した状態から更にネジ24を締め上げることでブレード20はネジ24の先端によって第3スリット21の内側面に押し付けられて固定される。
対物レンズ203の光軸が鉛直方向にのびており、ホルダー本体部10が対物レンズ203に装着された状態では第3スリット21も鉛直方向にのびているので、ブレード20はその切断面が光軸と平行をなすように貫通穴11の内部に保持されることになる。また、第3スリット21が貫通穴11の中心を通るように形成されているので、ブレード20は貫通穴11の中心を通るように保持される。これによりブレード20が対物レンズ203の光軸上に位置することになる。なお、ブレード20をより正確に対物レンズ203の光軸上に位置させるため、ブレード20をわずかに撓ませるように微動させるための専用のネジを追加してもよい。
なお、図5に示すようにホルダー本体部30を前後2つのブロック31,32で構成してもよい。この場合、各ブロック31,32に半円筒状の溝31a,32aを形成しておき、両ブロック31,32の間にブレード20を挟んだ状態で、両ブロック31、32をネジ33等で接合することになる。
【0024】
[ブレードホルダーの第2の実施の形態]
次に、本発明のブレードホルダーの第2の実施の形態について説明するが、上記第1のブレードホルダー1と同一の構成となる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図6に示すように、本実施の形態のブレードホルダー2は、固形試料100を照らすための照明装置40を備える点に特徴を有する。具体的には、照明装置40としてLEDのペンライトを使用しており、このペンライト40を、ホルダー本体部10に斜めに設けた穴41に挿入・固定している。ペンライト40の光によって固形試料100の表面が明るく照らされるのでトリミングの作業性が向上する。
照明装置40としては光源(図示略)からの光を一方の端部から内部に通して他方の端部から照射する光ファイバー等の周知の照明手段を用いることができる。また、照明装置40をホルダー本体部10の穴に挿入するのではなく、ホルダー本体部10の外側に取り付けることにしてもよい。
照明装置40を設けることにすれば、固形試料100の表面が照明装置40の光で照らされるため、試料表面100の観察が容易になる。
【0025】
[ブレードホルダーの第3の実施の形態]
次に、本発明のブレードホルダーの第3の実施の形態について説明するが、上記第1及び第2の実施の形態のブレードホルダー1,2と同一の構成となる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図7に示すように、本実施の形態ではブレード20の切断面が対物レンズ203の光軸と直交をなすように、ブレード20が貫通穴11の内部に保持される点に特徴を有する。
具体的には、ホルダー本体部10の下部において水平方向にのびる第4スリット50が形成されている。ブレード20はその刃先22が貫通穴11の内部に位置した状態で第4スリット50に周知の固定手段により固定されている。
対物レンズ203の光軸が鉛直方向にのびており、ホルダー本体部10が対物レンズ203に装着された状態では第4スリット50は水平方向にのびているので、ブレード20はその切断面が光軸と直交をなすように、および貫通穴11の内周面の少なくとも一部と交差するように貫通穴11の内部に保持されることになる。
本実施の形態のブレードホルダー3はトリミングの際に固形試料100に対して水平方向に切り込みを入れる際に有用である。
本実施の形態のブレードホルダー3にも上記第2の実施の形態で示した照明装置40を取り付けることができる。
【0026】
[試料ホルダーの第1の実施の形態]
次に、本発明の試料ホルダー60の第1の実施の形態について説明する。
図8及び図9に示すように試料ホルダー60は、上記ブレードホルダー1〜3で固形試料100をトリミングする際に固形試料100を光学顕微鏡200のステージ204上に固定するために用いられる。
試料ホルダー60はプレート61と試料固定手段62を備える。
プレート61はステージ204上に保持される部材であり、その中央に開口部61aを備える。本実施の形態のプレート61は平面視正方形になっている。プレート61の材質は特に限定されず、例えばアルミ、ステンレス、鉄等の金属やプラスチックを用いることができる。プレート61はステージ204に取り付けられているクレンメル210によって位置ずれが生じないように保持される。
【0027】
試料固定手段62は固形試料100の上面がブレード20に対向するように固形試料100をプレート61に固定するために用いられる。
具体的には試料固定手段62は、プレート61の開口部61aの周囲を囲んで下方にのびる円筒形状の試料保持部62aとリング62bを備えている。試料保持部62aにはターレット加工が施されている。すなわち、試料保持部62aの外周面にネジ山が切ってあり、更に試料保持部62aは鉛直方向にのびる複数のスリットによって分割されている。試料保持部62aの内部に固形試料100を挿入した状態で、ネジ山に螺合するリング62bを回すことで試料保持部62aを縮径させ、固形試料100の最下端がステージ204の表面よりも低い位置になるように保持する。これにより固形試料100の上面の位置が下がり、対物レンズ203の作動距離を充分確保できる。なお、プレート61を裏返して使用することもでき、この場合は固形試料100の上面の位置を更に下げることができる。
プレート61を正方形にすることで、図10に示すようにプレート61を水平面内で90°又は180°回転させてクレンメル210で保持することで、固形試料100を正確に90°又は180°回転させることができる。試料はプレート61の中心に固定されているため、90°又は180°の回転をした場合でも試料の観察部位は顕微鏡の視野から外れることがなく、トリミング作業に好都合である。
なお、図11に示すようにクレンメル210の替わりにL字状プレート63をステージ204に取り付けてもよい。この場合、L字状プレート63の直角の屈曲箇所にプレート61の二辺を突き当てることでプレート61を位置ずれが生じないように保持でき、更にプレート61を90°又は180°回転させて保持できる。
【0028】
[試料ホルダー60の第2の実施の形態]
次に、本発明の試料ホルダーの第2の実施の形態について説明するが、上記第1の実施の形態の試料ホルダー60と同一の構成となる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図12に示すように、本実施の形態の試料ホルダー70は、プレートが台形プレート71と長方形プレート72に二分割される点に特徴を有する。台形プレート71はクレンメル210の替わりにステージ204にボルト73によって固定される。台形プレート71と長方形プレート72には凹部71a,72aが形成されており、固形試料100を凹部に挟んだ状態でボルト74を締めて長方形プレート72を台形プレート71側に移動させることで固形試料100を保持する仕組みになっている。
【0029】
次に、本発明のトリミング方法について説明する。
本発明のトリミング方法は上記ブレードホルダー1〜3のいずれかと試料ホルダー60,70のいずれかを備える光学顕微鏡200を使用するものである。以下の説明では光学顕微鏡200がブレードホルダー1と試料ホルダー60を備えるものとする。
まず、作業者は適当な対物レンズ203にブレードホルダー1を装着すると共に試料ホルダー60に固形試料100を保持させる。
次に、作業者は光学顕微鏡200の接眼レンズ201を覗きながら粗動ハンドル206、微動ハンドル207、XY微動ツマミ209等を操作して、固形試料100をブレード20に対して光軸に沿った方向や光軸に直交する方向に移動させることで対物レンズ203のピントを固形試料100の特定部位に合わせ、同時にブレード20の位置決めも行なう(図13(a))。この際、ブレード20は対物レンズ203に近い側に一定量デフォーカスされているため、ブレード20は固形試料100の特定部位の極近傍に位置している。
【0030】
そして、作業者は固形試料100を鉛直方向に移動させることで、図13(b)に示すように固形試料100に1本目の直線状の切り込みC1を入れる。
次に、作業者は固形試料100を移動させて、図13(c)に示すように最初の切り込みに対して平行な位置にブレード20を位置決めし、図13(d)に示すように固形試料100に2本目の直線状の切り込みC2を入れる。この際にプレート61を180°回転することにしてもよい。 また、2本の直線C1,C2の間隔を適切に制御または観察するため、接眼ミクロメーター(レチクル)を使用してもよい。
そして、作業者は固形試料100を移動させて、図13(e)に示すように平行する2本の切り込みに交差する2本の切り込みC3,C4を入れる。これにより固形試料100に対して台形柱状又は直方体状の切込みを入れたことになる。この際にプレート61を90°回転することにしてもよい。
最後に、作業者は固形試料100に対して水平方向に切り込みを入れて不要部分を切除することで図13(f)に示すように台形柱状又は直方体状の試料ブロックBを作製する。水平方向への切り込みは作業者がブレード20を手で持って水平方向に移動させることで行ってもよいし、或いは上記第3の実施の形態で示したブレードホルダー3を用いて行ってもよい。
【実施例】
【0031】
本発明のブレードホルダー1及び試料ホルダー60を使用して、固形試料100として脳組織の一部を使用してトリミングを行った。
図14(a)に示すようにエポキシ樹脂から成る台の上に50μm厚の脳組織の薄切りを接着剤で固定した。脳組織の中には大小の血管が含まれている。
図14(b)に示すようにブレードホルダー1を用いて固形試料100の表面に5本の平行な切り込み線を入れた。2本目と3本目の切り込み線の間隔は約80μmであり、この間に観察対象である小さな血管が含まれている。
次に作業者がブレード20を左右の手で持ち、固形試料100の側面から水平方向にブレード20を移動させ(図14(c))、まず1本目の切り込み線までの不要部分を削除した(図14(d))。
次に2本目の切り込み線までブレード20を水平方向に移動させ(図14(e))、2本目の切り込み線までの不要部分を削除した(図14(f))。
【0032】
次に作業者は固形試料100を水平面内で180°回転させた(図15(a))。そして、固形試料100の反対側の側面から5本目の切り込み線まで水平方向にブレード20を移動させ(図15(b))、5本目の切り込み線までの不要部分を削除した(図15(c))。
同様の手順で4本目、3本目の切り込み線までの不要部分を削除した(図15(d)、15(e))。なお、図15(e)中の符号Hは大きさの比較のために置いた髪の毛(直径0.1mm以下)である。
次に作業者は固形試料100を水平面内で90°回転させ、2本目と3本目の切り込み線に挟まれた領域のうち観察対象から離れた領域を削除することでトリミングが終了した(図15(f))。
2本目と3本目の切り込み線の間隔は約0.1mmであった。
図16は本実施例と同様の手順でトリミングを行って得た試料ブロックの電子顕微鏡像である。2本の平行線の幅は約30μmである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、極微小範囲を正確にトリミングできるブレードホルダー及び試料ホルダーあり、産業上の利用可能性を有する。

【符号の説明】
【0034】
B 試料ブロック
C1〜C4 切り込み線
H 符号
1 ブレードホルダー
2 ブレードホルダー
3 ブレードホルダー
10 ホルダー本体部
11 貫通穴
12 第1スリット
13 第2スリット
14 前方片
15 後方片
16 ネジ穴
17 ネジ
20 ブレード
21 第3スリット
22 刃先
23 ネジ穴
24 ネジ
30 ホルダー本体部
31 ブロック
31a 溝
32 ブロック
32a 溝
33 ネジ
40 照明装置
41 穴
50 第4スリット
60 試料ホルダー
61 プレート
61a 開口部
62 試料固定手段
62a 試料保持部
62b リング
63 L字状プレート
70 試料ホルダー
71 台形プレート
71a 凹部
72 長方形プレート
72a 凹部
73 ボルト
74 ボルト
100 固形試料
200 光学顕微鏡
201 接眼レンズ
202 レボルバー
203 対物レンズ
204 ステージ
205 コンデンサー
206 粗動ハンドル
207 微動ハンドル
208 光源
209 XY微動ツマミ
210 クレンメル


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16