特許第6887618号(P6887618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887618
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】調光機能付き積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 17/10 20060101AFI20210603BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20210603BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20210603BHJP
【FI】
   B32B17/10
   C03C27/12 K
   C03C27/12 L
   B32B7/023
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-103487(P2018-103487)
(22)【出願日】2018年5月30日
(65)【公開番号】特開2019-206137(P2019-206137A)
(43)【公開日】2019年12月5日
【審査請求日】2020年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】野田 隆行
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/099167(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/098769(WO,A1)
【文献】 特表2017−502903(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/213191(WO,A1)
【文献】 実開昭64−32124(JP,U)
【文献】 欧州特許出願公開第2128688(EP,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102975432(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C03C 27/00−29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏両側でそれぞれ最外層に配置された両ガラスシートと、該両ガラスシートの相互間に配置された樹脂シート及び調光シートとを含む複数のシートを備え、該複数のシートが隣り合うシート同士の相互間に介在した接着層により積層一体化された調光機能付き積層体であって、
前記調光シートの表側に隣接して配置された表側シートと、裏側に隣接して配置された裏側シートとが、共にガラスシート、又は、共に樹脂シートであることを特徴とする調光機能付き積層体。
【請求項2】
前記表側シートと前記裏側シートとの熱膨張係数について、大きい方の値が小さい方の値の4倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の調光機能付き積層体。
【請求項3】
前記表側シートと前記裏側シートとの組成が、同一であることを特徴とする請求項1又は2に記載の調光機能付き積層体。
【請求項4】
前記表側シートと前記裏側シートとの厚みが、同一であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の調光機能付き積層体。
【請求項5】
前記表側シートと前記裏側シートとの厚みが、異なることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の調光機能付き積層体。
【請求項6】
前記最外層に配置された両ガラスシートの厚みが、同一であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の調光機能付き積層体。
【請求項7】
前記最外層に配置された両ガラスシートの厚みが、異なることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の調光機能付き積層体。
【請求項8】
前記接着層が、紫外線遮蔽機能を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の調光機能付き積層体。
【請求項9】
前記調光シートの表面と接着した前記接着層と裏面と接着した前記接着層との厚みが、異なることを特徴とする請求項8に記載の調光機能付き積層体。
【請求項10】
当該調光機能付き積層体を構成するガラスシートの厚みが、0.05mm〜1.5mmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の調光機能付き積層体。
【請求項11】
当該調光機能付き積層体を構成するガラスシートが、無アルカリガラス又は化学強化ガラスでなるシートであるか、或いは、無アルカリガラスでなるシートと化学強化ガラスでなるシートとを含んでいることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の調光機能付き積層体。
【請求項12】
前記調光シートが、可撓性を有する液晶方式のシートであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の調光機能付き積層体。
【請求項13】
前記調光シートが、可撓性を有するSPD方式のシートであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の調光機能付き積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスシート、樹脂シート、及び調光シートを備えた調光機能付き積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶方式、サーモクロミック方式、SPD方式(Suspended Particle Device)、エレクトロクロミック方式等により窓の光学特性(光の透過率や色調等)を調節することが可能な調光窓がある。
【0003】
ところで、調光窓の軽量化を図るに際しては、調光窓を構成するガラス板に代えて、特許文献1に開示されるような、樹脂シートの表裏両側にそれぞれ接着層を介してガラスシートを貼り合わせた積層体を利用する場合がある。具体的には、積層体の樹脂シートとガラスシートとの間に接着層を介して調光シート(電源のオン・オフの切り換えに伴って光の透過率が調節されるシート等)を配置し、調光機能付き積層体とする。この調光機能付き積層体は、同じ厚みのガラス板よりも軽いことから、その分だけ調光窓の軽量化を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/098769号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の調光機能付き積層体においては、下記のような解決すべき問題があった。
【0006】
すなわち、調光シートを挟んで対向するガラスシートと樹脂シートとの熱膨張係数の差に起因して応力が発生し、この応力により調光シートの機能が低下したり、調光シートが破損したりする不具合が生じていた。具体例を挙げると、対向して配置された二枚の基材シートと、両基材シートの間に封入された液晶又は配向粒子とを備える調光シートでは、上記の応力により両基材シートの間隔が不均一になって光の透過率にバラつきが生じたり、基材シートが剥離して調光シートが破損したりする場合があった。
【0007】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、ガラスシート、樹脂シート、及び調光シートを備えた調光機能付き積層体において、調光シートの機能低下や破損を回避することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、表裏両側でそれぞれ最外層に配置された両ガラスシートと、両ガラスシートの相互間に配置された樹脂シート及び調光シートとを含む複数のシートを備え、複数のシートが隣り合うシート同士の相互間に介在した接着層により積層一体化された調光機能付き積層体であって、調光シートの表側に隣接して配置された表側シートと、裏側に隣接して配置された裏側シートとが、共にガラスシート、又は、共に樹脂シートであることを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、表側シートと裏側シートとが共にガラスシート、又は、共に樹脂シートであることから、表側シートと裏側シートとが類似した熱膨張特性を有することになる。これにより、表側シートと裏側シートとの熱膨張係数の差に起因した応力の発生を可及的に抑制できる。その結果、調光シートの機能低下や破損を回避することが可能となる。
【0010】
上記の構成において、表側シートと裏側シートとの熱膨張係数について、大きい方の値が小さい方の値の4倍以下であることが好ましい。
【0011】
このような構成によれば、両シートの熱膨張係数について、大きい方の値が小さい方の値の4倍以下であるため、表側シートと裏側シートとの熱膨張係数の差に起因した応力の発生をさらに抑制できる。その結果、調光シートの機能低下や破損をより確実に回避することが可能となる。
【0012】
上記の構成において、表側シートと裏側シートとの組成が、同一であることが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、両シートの熱膨張係数が同じになるため、表側シートと裏側シートとの熱膨張係数の差に起因した応力の発生を回避できる。その結果、調光シートの機能低下や破損をより確実に回避することが可能となる。
【0014】
上記の構成において、表側シートと裏側シートとの厚みが、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0015】
例えば、表側シートと裏側シートとのうち、一方のシートが最外層に配置されたガラスシートである場合に、当該ガラスシートの厚みを他方のシート(ガラスシート)の厚みよりも大きくすれば、一方のシートの厚さにより調光機能付き積層体の外力に対する強度を確保しつつ、他方のシートの薄さにより積層体の厚みの不当な増大を防止できる。さらに、例えば、表側シートと裏側シートとが共に樹脂シートである場合に、一方のシートの厚みを他方のシートの厚みよりも大きくすれば、一方のシートの厚さにより積層体の芯材としての十分な強度を確保しつつ、他方のシートの薄さにより積層体の厚みの不当な増大を防止できる。
【0016】
上記の構成において、最外層に配置された両ガラスシートの厚みが、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0017】
例えば、調光機能付き積層体の厚み方向における片側半分にのみ調光シートが配置される場合に、調光シートが存在しない側の最外層のガラスシートの厚みを、存在する側の最外層のガラスシートの厚みよりも大きくすれば、表裏両側での剛性のバランスが取れ、積層体の反りを可及的に抑制することが可能となる。
【0018】
上記の構成において、接着層が、紫外線遮蔽機能を有することが好ましい。
【0019】
このようにすれば、紫外線に対する耐性の低い樹脂シートや調光シートについて、これらのシートを紫外線による劣化から保護することが可能となる。
【0020】
上記の構成において、調光シートの表面と接着した接着層と裏面と接着した接着層との厚みが、異なっていてもよい。
【0021】
例えば、調光シートの表面側の接着層と裏面側の接着層とのうち、調光機能付き積層体に対して光が入射する側(採光側)に存する接着層の厚みを、他方の接着層の厚みよりも大きくすれば、樹脂シートや調光シートを紫外線による劣化から保護する機能を一層高めることが可能となる。
【0022】
上記の構成において、当該調光機能付き積層体を構成するガラスシートの厚みが、0.05mm〜1.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、調光機能付き積層体の軽量性や強度を確保しつつ、積層体の厚みの不当な増大を防止できると共に、反りの発生についても抑制できる。
【0024】
上記の構成において、当該調光機能付き積層体を構成するガラスシートが、無アルカリガラス又は化学強化ガラスでなるシートであるか、或いは、無アルカリガラスでなるシートと化学強化ガラスでなるシートとを含んでいることが好ましい。
【0025】
ガラスシートが無アルカリガラスでなるシートである場合には、耐環境性に優れることから、調光機能付き積層体の変質を好適に防ぐことが可能となる。また、調光シートとして、エレクトロクロミック方式のシートを採用する場合に、アルカリ成分によるエレクトロクロミック機能材料の変質を防ぐのに好適である。一方、ガラスシートが化学強化ガラスでなるシートである場合には、ガラスシートが薄くとも十分な強度を確保できる。この化学強化ガラスでなるシートは、最外層のガラスシートとすることが好適である。
【0026】
上記の構成において、調光シートが、可撓性を有する液晶方式又はSPD方式のシートであってもよい。
【0027】
調光シートが可撓性を有する液晶方式又はSPD方式のシートであって、当該シートが樹脂シートとガラスシートとの間に接着層を介して配置されるような場合には、特に調光シートの機能低下や破損が生じやすい。従って、調光シートが可撓性を有する液晶方式又はSPD方式のシートである場合に本発明を適用すれば、その効果を一層好適に享受できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ガラスシート、樹脂シート、及び調光シートを備えた調光機能付き積層体において、調光シートの機能低下や破損を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第一実施形態に係る調光機能付き積層体を示す縦断側面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る調光機能付き積層体の第一変形例を示す縦断側面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る調光機能付き積層体の第二変形例を示す縦断側面図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る調光機能付き積層体の第三変形例を示す縦断側面図である。
図5】本発明の第一実施形態に係る調光機能付き積層体の第四変形例を示す縦断側面図である。
図6】本発明の第二実施形態に係る調光機能付き積層体を示す縦断側面図である。
図7】本発明の第三実施形態に係る調光機能付き積層体を示す縦断側面図である。
図8】本発明の第三実施形態に係る調光機能付き積層体の第一変形例を示す縦断側面図である。
図9】本発明の第三実施形態に係る調光機能付き積層体の第二変形例を示す縦断側面図である。
図10】本発明の第四実施形態に係る調光機能付き積層体を示す縦断側面図である。
図11】本発明の第四実施形態に係る調光機能付き積層体の変形例を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態に係る調光機能付き積層体について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、実施形態の説明で参照する図面では、便宜上、調光機能付き積層体に備わった複数のシートの厚みの比率を、実際とは異なる比率で表している場合がある。さらに、実施形態の説明では、図面上の調光機能付き積層体における上側を「表側」、下側を「裏側」と表記している。また、「表側」が太陽光の入射側(採光側又は外部環境側)であるが、本発明の積層体はこれに限定されず、例えば太陽光の入射がない内部環境に配置されてもよい。
【0031】
<第一実施形態>
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係る調光機能付き積層体1(以下、「積層体1」と表記)は、表裏両側でそれぞれ最外層に配置された両ガラスシート2,3と、両ガラスシート2,3の相互間に配置された調光シート4、ガラスシート5、及び樹脂シート6とを備えている。これら複数のシート2〜6について、隣り合うシート同士の相互間には接着層7が介在しており、接着層7により複数のシートが積層一体化されている。
【0032】
本実施形態では、調光シート4の表側および裏側に隣接して、それぞれガラスシート2,5が配置されている。すなわち、本実施形態では、調光シート4の表側に隣接して配置された表側シート、及び、裏側に隣接して配置された裏側シートを、それぞれガラスシート2,5が構成している。
【0033】
積層体1を構成するガラスシート2,3,5は、無アルカリガラスでなる場合もあるし、化学強化ガラスでなる場合もある。また、ガラスシート2,3,5の一部が無アルカリガラスでなり、残りが化学強化ガラスでなる場合もある。なお、化学強化ガラスでなるシートを使用する場合には、アルミノシリケートガラスのシートを化学強化して用いることができる。化学強化ガラスは、表裏両側又は表裏一方の最外層に配置することが好ましい。なお、ガラスシート2,3,5として、無アルカリガラスおよび化学強化ガラス以外のガラスでなるシートを使用してもよい。
【0034】
ガラスシート2,3,5の厚みは、0.05mm〜1.5mmの範囲内である。なお、より好ましくは0.1mm〜1.3mmの範囲内であり、さらに好ましくは0.2mm〜1.1mmの範囲内である。
【0035】
本実施形態では、ガラスシート2(調光シート4の表側シート)とガラスシート5(調光シート4の裏側シート)との厚みは同一である。しかしながら、この限りではなく、図2に示した第一実施形態の第一変形例のように、両ガラスシート2,5の厚みが異なっていてもよい。或いは、最外層に配置されたガラスシート2、3の厚みを、積層体1の内部に配置されたガラスシート5よりも大きくしてもよい。これにより、樹脂シート6の表側に配置されたガラスシート2、5の厚みの合計と樹脂シート6の裏側に配置されたガラスシート3の厚みの差を低減でき、樹脂シート6の表側と裏側で剛性のバランスが向上するので、積層体の反りを可及的に抑制することが可能となる。
【0036】
また、本実施形態では、最外層に配置された両ガラスシート(ガラスシート2とガラスシート3)の厚みは同一である。しかしながら、この限りではなく、図3に示した第一実施形態の第二変形例のように、両ガラスシート2,3の厚みが異なっていてもよい。具体的には、両ガラスシート2,3のうち、調光シート4が隣接しないガラスシート3の厚みを、調光シート4が隣接するガラスシート2よりも大きくしてもよい。この場合には、ガラスシート3の厚みを、ガラスシート2の厚みの7倍以下とすることが好ましく、6倍以下とすることがより好ましく、4倍以下とすることが最も好ましい。これにより、樹脂シート6の表側に配置されたガラスシート2、5の厚みの合計と樹脂シート6の裏側に配置されたガラスシート3の厚みの差を低減でき、樹脂シート6の表側と裏側で剛性のバランスが向上するので、積層体の反りを可及的に抑制することが可能となる。
【0037】
樹脂シート6の表側に配置されたガラスシート2、5の厚みの合計t1(mm)と、樹脂シート6の裏側に配置されたガラスシート3の厚みt2(mm)との比(t1/t2)は、例えば2以下とすることができ、1.5以下とすることが好ましく、1.2以下とすることがより好ましい。また、0.4以上とすることが好ましく、0.5以上とすることがより好ましく、0.8以上とすることが最も好ましい。
【0038】
ガラスシート2(調光シート4の表側シート)とガラスシート5(調光シート4の裏側シート)とは、同一組成(例えば、同一組成の無アルカリガラス同士、化学強化ガラス同士等)であるか、又は、組成が異なっていても、両ガラスシート2,5の熱膨張係数について、大きい方の値が小さい方の値の4倍以下とすることが好ましい。なお、大きい方の値が小さい方の値の3倍以下となることがより好ましい。
【0039】
ここで、ガラスシート2,3,5は、成膜されていてもよく、膜により熱線吸収性、熱線反射性、遮熱性を有していてもよい。
【0040】
調光シート4としては、例えば、液晶方式、SPD方式、サーモクロミック方式、エレクトロクロミック方式、フォトクロミック方式等のシートを使用することが可能である。本実施形態では、液晶方式の調光シート4を使用している。この調光シート4は、電源のオン・オフの切り換えに伴って光の透過率が調節されるシートである。ここで、調光シート4としては、省エネルギーの観点から、非通電時に透過率が上がり、通電時に透過率が下がるリバースモードタイプを使用することが好ましい。しかしながら、これには限定されず、通電時に透過率が上がり、非通電時に透過率が下がるノーマルモードタイプを使用してもよい。
【0041】
調光シート4は、それぞれに透明導電膜が成膜された二枚の基材シートを平行に対向させて配置すると共に、両基材シートの相互間に液晶を封入してなるシートである。この調光シート4は可撓性を有しており、調光シート4の厚みは、例えば200μm以下である。なお、基材シートの材質としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)を採用することが可能である。また、基材シートの厚みは、例えば100μm以下である。
【0042】
なお、サーモクロミック方式の調光シートを用いる場合、調光シートに外部環境の熱が伝わりやすいので、本実施形態のように、表側の最外層に配置されたガラスシート2に隣接させて調光シートを配置することが好ましい。
【0043】
樹脂シート6の材質としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル、PETを採用することが可能である。樹脂シート6の厚みは、ガラスシート2,3,5の厚みの2〜30倍とすることが好ましく、具体的には0.5mm〜30mmの範囲内とすることが好ましい。
【0044】
接着層7は、ホットメルトタイプや粘着シートタイプの接着剤でなる。ホットメルトタイプの接着剤としては、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)やTPU(熱可塑性ポリウレタン樹脂)を使用することが可能である。一方、粘着シートタイプの接着剤としては、例えば、光学用透明粘着剤を使用することが可能である。なお、接着層7は紫外線遮蔽機能を有することが好ましい。また、接着層7の厚みは、0.02mm〜1.0mmの範囲内とすることが好ましい。
【0045】
本実施形態では、調光シート4の表面と接着した接着層7aと、裏面と接着した接着層7bとの厚みが同一である。しかしながら、この限りではなく、図4に示した第一実施形態の第三変形例や、図5に示した第一実施形態の第四変形例(積層体1の表裏を逆にした形態)のように、両接着層7a,7bの厚みが異なっていてもよい。具体的には、両接着層7a,7bのうち、光の入射側に配置された接着層7aの方が、接着層7bよりも厚みが大きくてもよい。なお、両接着層7a,7bは、同一の接着剤でなってもよいし、異なる接着剤でなってもよい。図4の第三変形例は、外部環境の熱が調光シートに伝導し難いことから、熱によって変質しやすいエレクトロクロミック方式の調光シートを用いる場合に好適である。
【0046】
以下、本発明の他の実施形態に係る調光機能付き積層体について説明する。なお、他の実施形態の説明において、上記の第一実施形態で説明済みの要素と実質的に同一の要素については、同一の符号を付すことで重複する説明を省略し、第一実施形態との相違点についてのみ説明する。
【0047】
<第二実施形態>
図6に示すように、第二実施形態に係る積層体1が、上記の第一実施形態と相違している点は、調光シート4に加えて、新たな調光シート8が配置されている点と、調光シート8の表側および裏側に隣接して、それぞれガラスシート3,9が配置されている点と、積層体1の厚み方向の中央を基準として、表側と裏側とが対称な構成となっている点である。
【0048】
調光シート8、ガラスシート9は、それぞれ調光シート4、ガラスシート2と同一の構成を有する。第二実施形態では、ガラスシート2、9が、最外層に配置された両ガラスシートであり、調光シート4の表側シートがガラスシート2であり、調光シート4の裏側シートがガラスシート5であり、調光シート8の表側シートがガラスシート3であり、調光シート4の裏側シートがガラスシート9である。この積層体1においては、二つの調光シート4,8により、二段階の調光が可能となっている。なお、二つの調光シート4,8は、白色と黒色などの異種のものを組み合わせてもよい。
【0049】
<第三実施形態>
図7に示すように、第三実施形態に係る積層体1が、上記の第一実施形態と相違している点は、調光シート4の表側および裏側に隣接して、それぞれ樹脂シート10,11が配置されている点と、積層体1の厚み方向の中央を基準として、表側と裏側とが対称な構成となっている点である。
【0050】
本実施形態では、調光シート4の表側シート及び裏側シートを、それぞれ樹脂シート10,11が構成している。両樹脂シート10、11の材質は、上記の樹脂シート6と同一である。
【0051】
本実施形態では、樹脂シート10と樹脂シート11との厚みが同一である。しかしながら、この限りではなく、図8に示した第三実施形態の第一変形例のように、両樹脂シート10,11の厚みが異なっていてもよい。この場合、厚い樹脂シート10が積層体1の芯材として作用し、積層体1の十分な強度を確保できる。また、薄い樹脂シート11により積層体1の厚みの不当な増大を防止できる。
【0052】
また、本実施形態では、調光シート4の表面と接着した接着層7aと、裏面と接着した接着層7bとの厚みが同一である。しかしながら、この限りではなく、図9に示した第三実施形態の第二変形例のように、両接着層7a,7bの厚みが異なっていてもよい(本変形例では、両樹脂シート10,11の厚みも異なる)。具体的には、両接着層7a,7bのうち、光の入射側に配置された接着層7aの方が、接着層7bよりも厚みが大きくてもよい。
【0053】
<第四実施形態>
図10に示すように、第四実施形態に係る積層体1が、上記の第一実施形態と相違している点は、調光シート4に加えて、新たな調光シート12が配置されている点と、調光シート4の表側および裏側に隣接して、それぞれ樹脂シート13,14が配置されると共に、調光シート12の表側および裏側に隣接して、それぞれ樹脂シート14,15が配置されている点と、積層体1の厚み方向の中央を基準として、表側と裏側とが対称な構成となっている点である。
【0054】
調光シート12は、調光シート4と同一の構成を有する。また、樹脂シート13〜15の材質は、上記の樹脂シート6と同一である。第四実施形態では、調光シート4の表側シートが樹脂シート13であり、調光シート4の裏側シート及び調光シート12の表側シートが樹脂シート14であり、調光シート12の裏側シートが樹脂シート15である。この積層体1においては、二つの調光シート4,12により、二段階の調光が可能となっている。なお、二つの調光シート4,8は、白色と黒色などの異種のものを組み合わせてもよい。
【0055】
本実施形態では、樹脂シート13〜15の厚みが相互に同一である。しかしながら、この限りではなく、図11に示した第四実施形態の変形例のように、樹脂シート13〜15の厚みが異なっていてもよい。具体的には、樹脂シート13〜15のうち、積層体1の厚み方向の中央に位置した樹脂シート14の厚みが、両樹脂シート13,15の厚みよりも大きくてもよい。
【実施例】
【0056】
本発明の実施例として、以下の[表1]〜[表9]に示した構造を有する9種の調光機能付き積層体をそれぞれ作製し、比較例として、以下の[表10]に示した構造を有する調光機能付き積層体を作製した。これらの積層体における調光シートの機能低下や破損の有無について検証を行った。
【0057】
以下の[表1]〜[表10]においては、上段が「表側」であり、下段が「裏側」である。例えば、[表1]に示した構造の調光機能付き積層体においては、表側から裏側に向かって順番にガラスシート、接着層、調光シート、接着層、ガラスシート、接着層、樹脂シート、接着層、ガラスシートが配置されている。また、表中の「CTE」は、ガラスシートでは30℃〜380℃における平均熱膨張係数を表し、樹脂シートでは20℃〜120℃における平均熱膨張係数を表している。なお、[表1]〜[表9]に示した構造の調光機能付き積層体は、それぞれ実施例1〜9に該当し、[表10]に示した構造の調光機能付き積層体は、比較例に該当する。
【0058】
[実施例1]
【表1】
【0059】
[実施例2]
【表2】
【0060】
[実施例3]
【表3】
【0061】
[実施例4]
【表4】
【0062】
[実施例5]
【表5】
【0063】
[実施例6]
【表6】
【0064】
[実施例7]
【表7】
【0065】
[実施例8]
【表8】
【0066】
[実施例9]
【表9】
【0067】
[比較例]
【表10】
【0068】
実施例1〜9及び比較例の調光機能付き積層体(500mm×500mm)に、60℃で30分保持する保温処理と−10℃で30分保持する保冷処理とを交互に10回繰り返し施すことにより、熱膨張係数の差に起因する応力を付与した。保温処理及び保冷処理を経た積層体を格子状に100mm×100mmで25個に区分けし、各区画の面中心を調光特性の評価部に設定した。
【0069】
調光シートが液晶方式、SPD方式又はエレクトロクロミック方式である場合、調光シートを調光状態(遮光状態)にして各サンプル(積層体)の表側から30,000lxの照明を裏側に向けて常温で照射し、各区画の面中心を通過してくる光の照度(lx)を測定した。調光シートがサーモクロミック方式である場合、各サンプル(積層体)の表側から30,000lxの照明を裏側に向けて常温で照射し、各区画の面中心を通過してくる光の照度(lx)を測定した。その際、雰囲気温度を60℃として調光シートを調光状態(遮光状態)にした。なお、いずれの方式でも、照明を照射した際に調光機能が消失していた場合は、破損とした。
【0070】
各区画から得た25個の照度の測定値から最大値、最小値及び平均値を求め、平均値に対して最大値と最小値の差が占める割合が15%以下である場合に機能低下なしとし、15%を上回る場合に機能低下ありとした。
【0071】
[表1]〜[表9]に示した実施例1〜9では、調光シートの機能低下や破損は確認されなかった。これに対し、[表10]に示した比較例では、調光シートを構成する基材シートが剥離してしまい、調光シートが破損するに至った。これは、調光シートの表側に隣接して配置されたガラスシートの熱膨張係数の大きさに対し、裏側に隣接して配置された樹脂シートの熱膨張係数の大きさが、約17倍と大きいことに起因するものと想定される。
【0072】
以上のことから、本発明に係る調光機能付き積層体によれば、調光シートの機能低下や破損を回避することが可能になるものと推認される。
【符号の説明】
【0073】
1 調光機能付き積層体
2 ガラスシート
3 ガラスシート
4 調光シート
5 ガラスシート
6 樹脂シート
7 接着層
7a 接着層
7b 接着層
8 調光シート
9 ガラスシート
10 樹脂シート
11 樹脂シート
12 調光シート
13 樹脂シート
14 樹脂シート
15 樹脂シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11