特許第6887623号(P6887623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人三重大学の特許一覧 ▶ 松井建設株式会社の特許一覧 ▶ 昭和電線ケーブルシステム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6887623-伝統木造建物の柱脚部制振補強方法 図000002
  • 特許6887623-伝統木造建物の柱脚部制振補強方法 図000003
  • 特許6887623-伝統木造建物の柱脚部制振補強方法 図000004
  • 特許6887623-伝統木造建物の柱脚部制振補強方法 図000005
  • 特許6887623-伝統木造建物の柱脚部制振補強方法 図000006
  • 特許6887623-伝統木造建物の柱脚部制振補強方法 図000007
  • 特許6887623-伝統木造建物の柱脚部制振補強方法 図000008
  • 特許6887623-伝統木造建物の柱脚部制振補強方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6887623
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】伝統木造建物の柱脚部制振補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20210603BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20210603BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   E04G23/02 F
   E04H9/02 351
   F16F15/04 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-16844(P2020-16844)
(22)【出願日】2020年2月4日
【審査請求日】2020年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591135174
【氏名又は名称】松井建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306013120
【氏名又は名称】昭和電線ケーブルシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】坂本 功
(72)【発明者】
【氏名】花里 利一
(72)【発明者】
【氏名】荻原 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】内田 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三須 基規
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信夫
(72)【発明者】
【氏名】大村 祐樹
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−068307(JP,A)
【文献】 特開2002−285709(JP,A)
【文献】 特開2011−149230(JP,A)
【文献】 特開2012−017633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04H 9/02
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱脚部が固定されていない建物の補強方法であって、
前記柱脚部の一部を覆うように前記柱脚部の4つの各側面に配置された4つの内側金具と、
地面に固定される地面固定部と、前記地面固定部の一端から折曲されて前記内側金具と平行方向に延設された粘弾性体取付部と、で形成された外側金具と、
前記内側金具と前記粘弾性体取付部との間に固定された粘弾性体と、
を備えた耐震補強部材を前記柱脚部に設けたことを特徴とする建物の補強構造。
【請求項2】
前記内側金具は前記柱脚部に固定され、前記内側金具の下端が前記柱脚部の下端よりも下方に位置し、
前記内側金具の前記下端に、前記粘弾性体と前記外側金具の前記粘弾性体取付部とが固定されていることを特徴とする請求項1記載の建物の補強構造。
【請求項3】
前記内側金具は、前記柱脚部の一部を覆う柱固定部と、前記柱固定部の水平方向両端から折曲されて延設された連結部と、を備え、隣り合う辺の前記内側金具の前記連結部同士が連結され、前記柱固定部が前記柱脚部の4つの前記側面を抱持固定し、前記柱固定部の下端が前記柱脚部の下端よりも上方に位置し、
前記内側金具の前記下端に、前記粘弾性体と前記外側金具の前記粘弾性体取付部とが固定されていることを特徴とする請求項1記載の建物の補強構造。
【請求項4】
前記内側金具は前記柱脚部に固定され、
前記内側金具の下端が前記柱脚部の下端よりも上方に位置し、
前記内側金具の前記下端に、前記粘弾性体と前記外側金具の前記粘弾性体取付部とが固定されていることを特徴とする請求項1記載の建物の補強構造。
【請求項5】
柱脚部が固定されていない建物を補強する耐震補強部材であって、
前記柱脚部の一部を覆うように前記柱脚部の4つの各側面に配置された4つの内側金具と、
地面に固定される地面固定部と、前記地面固定部の一端から折曲されて前記内側金具と平行方向に延設された粘弾性体取付部と、で形成された外側金具と、
前記内側金具と前記粘弾性体取付部との間に固定された粘弾性体と、
を備えたことを特徴とする耐震補強部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱脚部が固定されていない建物の補強方法および耐震補強部材に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的な木造建物の柱脚部は、礎石などに載せているのみで基礎等に緊結されていない特徴がある。このような柱部材には、柱の幾何学的な関係から鉛直荷重が水平方向に置換されて地震力を減らす傾斜復元力と呼ばれる作用があると考えられている。この傾斜復元力の研究は古くから行われており、各種実験に取り組まれている。しかし、この柱の傾斜復元力は未解明な部分が多いため補強の具体的な検討は進んでいない状況である。
【0003】
現行法規による木造住宅などの構造設計は、地震被害調査や振動台実験の結果から、柱脚部−土台−基礎をそれぞれボルト等で接合するものとなっている。このような柱脚部を剛接合(緊結)された木造住宅などの耐震補強として、例えば、特許文献1〜3,非特許文献1が開示されている。
【0004】
特許文献1には、柱と梁の接合部に粘弾性体を用いて剛性と減衰を付加する補強構造(仕口ダンパー等)が開示されている。また、特許文献1の他に、オイルダンパー等で粘性減衰のみを付与する技術が知られている。
【0005】
特許文献2,3では、柱の下部を斜材で土台や基礎に連結する技術が開示されている。また、非特許文献1に示すように、柱の下部を斜材(ケーブル)で土台や基礎に連結する「耐震Jケーブル」が一般に販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−131962号公報
【特許文献2】特開2008−19693号公報
【特許文献3】特開2007−332743号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】商品紹介、ホールダウン金物“耐震Jケーブル”、[オンライン]、2019年12月12日、株式会社タナカホームページ、インターネット、〈http://www.tanakanet.jp/contents/product/holedown/ho65ct.html〉
【非特許文献2】河合直人、「古代木造建築の柱傾斜復元力と耐力壁の効果に関する実大実験」,日本建築学会大会、学術講演梗概集,1993年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3,非特許文献1は柱が傾いて作用する傾斜復元力を生かした補強方法ではない。特に、非特許文献1の説明には「緊結」,「確実に基礎へ伝達」と記載されている。
【0009】
以上示したようなことから、柱脚部が固定されていない古くからの建物において、傾斜復元力を活用して柱脚部を補強することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、柱脚部が固定されていない建物の補強方法であって、前記柱脚部の一部を覆うように前記柱脚部の4つの各側面に配置された4つの内側金具と、地面に固定される地面固定部と、前記地面固定部の一端から折曲されて前記内側金具と平行方向に延設された粘弾性体取付部と、で形成された外側金具と、前記内側金具と前記粘弾性体取付部との間に固定された粘弾性体と、を備えた耐震補強部材を前記柱脚部に設けたことを特徴とする。
【0011】
また、その一態様として、前記内側金具は前記柱脚部に固定され、前記内側金具の下端が前記柱脚部の下端よりも下方に位置し、前記内側金具の前記下端に、前記粘弾性体と前記外側金具の前記粘弾性体取付部とが固定されていることを特徴とする。
【0012】
また、他の態様として、前記内側金具は、前記柱脚部の一部を覆う柱固定部と、前記柱固定部の水平方向両端から折曲されて延設された連結部と、を備え、隣り合う辺の前記内側金具の前記連結部同士が連結され、前記柱固定部が前記柱脚部の4つの前記側面を抱持固定し、前記柱固定部の下端が前記柱脚部の下端よりも上方に位置し、前記内側金具の前記下端に、前記粘弾性体と前記外側金具の前記粘弾性体取付部とが固定されていることを特徴とする。
【0013】
また、前記内側金具は前記柱脚部に固定され、前記内側金具の下端が前記柱脚部の下端よりも上方に位置し、前記内側金具の前記下端に、前記粘弾性体と前記外側金具の前記粘弾性体取付部とが固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、柱脚部が固定されていない古くからの建物において、傾斜復元力を活用して柱脚部を補強することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】傾斜復元力の概略説明図。
図2】実施形態1における補強ダンパーを示す図。
図3】実施形態2における補強ダンパーを示す図。
図4】実施形態3における補強ダンパーを示す図。
図5】実施形態2、3における水平力と柱頭変位を示す図。
図6】補強ダンパーのせん断変形を示す図。
図7】圧縮・引張せん断試験の治具と試験体を示す図。
図8】圧縮・引張せん断試験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(a)は傾斜復元力の概略説明図である。図1において、hは柱の高さ、bは柱脚部の幅、Pは水平力、Wは鉛直荷重、xは水平変位を示す。また、図1では、柱脚部を剛体と仮定した場合と、柱脚部の圧縮を伴う場合の傾斜復元力が示されている。
【0017】
本明細書では、傾斜復元力の特徴を活かしつつ、減衰性能(エネルギー吸収性能)を補う補強方法を説明する。
【0018】
以下に基本コンセプト(1)〜(4)を示す。
(1)傾斜復元力を作用させるため柱脚部と基礎は剛接せず、水平力を受けると柱が傾斜する構造のままとする。
(2)柱脚部と基礎を剛接しない構造は、過大な水平力を受けて任意の水平変位を越えると急激に傾斜復元力が減少し、転倒してしまう。
(3)そこで、図1(b)に示すように、より大きな水平変位xでも傾斜復元力を発揮できるようにする。
(4)さらに減衰を付与して(すなわち、傾斜復元力特性を直線状→円弧状に作用させて)、地震時の応答加速度を低減させる。
【0019】
この基本コンセプト(1)〜(4)は粘弾性体による耐震補強部材(以下、補強ダンパーと称する)で実現できる。柱の傾斜に対して剛性と減衰を発生させ、変形量も大きくできるためである。
【0020】
以下、補強ダンパーの実施形態1〜3を図2図4に基づいて説明する。
【0021】
[実施形態1]
図2に本実施形態1における補強ダンパーを示す。図2(a)は平面図、図2(b)は断面図、図2(c)は側面図を示す。本実施形態1の補強ダンパーは図2に示すように、内側金具2a〜2dと、外側金具3a〜3dと、粘弾性体4a〜4dと、を備える。
【0022】
内側金具2a〜2dは、矩形状に形成され、柱脚部1の一部を覆うように柱脚部1の4つの各側面に配置される。内側金具2a〜2dはボルト等により柱脚部1に固定される。本実施形態1において、内側金具2a〜2dの下端は、柱の下端より下方に位置する。なお、柱脚部1と内側金具2a〜2dとの間にゴムシート等のフィラー類を入れても良い。
【0023】
外側金具3a〜3dは、矩形状に形成された地面固定部31と、地面固定部31の一端から折曲されて延設された粘弾性体取付部32と、で形成される。外側金具3a〜3dの地面固定部31は地面と水平に配置され、ボルト等により地面(例えば、コンクリート等)に固定される。外側金具3a〜3dの粘弾性体取付部32は、地面固定部31の一端から折曲されて内側金具2a〜2dと平行方向に下方に向かって延設される。
【0024】
内側金具2a〜2dの下端に粘弾性体4a〜4dが固定される。また、内側金具2a〜2dの下端に粘弾性体4a〜4dを介して外側金具3a〜3dの粘弾性体取付部32が固定される。図2(b)に示すように、本実施形態1の粘弾性体4a〜4dは、柱脚部1の下端部および柱脚部1の下端よりも下方に配置されることとなる。
【0025】
本実施形態1における補強ダンパーは、礎石等がなく、柱脚部1の下端と地面が同じ高さの場合に設置が容易である。
【0026】
[実施形態2]
図3に本実施形態2における補強ダンパーを示す。図3(a)は平面図、図3(b)は断面図、図3(c)は側面図を示す。本実施形態2の補強ダンパーも実施形態1と同様に、内側金具2a〜2dと、外側金具3a〜3dと、粘弾性体4a〜4dと、を備える。
【0027】
本実施形態2の内側金具2a〜2dは、矩形状に形成された柱固定部21と、柱固定部21の水平方向両端から約45°折曲されて延設された連結部22と、を備える。柱固定部21は柱脚部1の一部を覆うように4つの各側面に配置される。
【0028】
隣り合う辺の内側金具2a〜2dは、連結部22が平行になるため、互いの連結部22をボルト・ナット等により固定する。これにより、内側金具2a〜2dの柱固定部21が柱脚部1の4つの各側面を抱持固定する。
【0029】
本実施形態2において柱固定部21の下端は柱の下端よりも上方に位置する。なお、柱脚部1と柱固定部21との間にゴムシート等のフィラー類を入れても良い。
【0030】
外側金具3a〜3dは、矩形状に形成された地面固定部31と、地面固定部31の一端から折曲されて延設された粘弾性体取付部32と、で形成される。外側金具3a〜3dの地面固定部31は地面と水平に配置され、ボルト等により地面(例えば、コンクリート等)に固定される。外側金具3a〜3dの粘弾性体取付部32は、地面固定部31の一端から折曲されて内側金具2a〜2dと平行方向に上方に向かって延設される。
【0031】
内側金具2a〜2dの下端に粘弾性体4a〜4dが固定される。また、内側金具2a〜2dの下端に粘弾性体4a〜4dを介して外側金具3a〜3dの粘弾性体取付部32が固定される。図3(b)に示すように、本実施形態2の粘弾性体4は、柱脚部1の下端部よりも上方に配置されることとなる。
【0032】
本実施形態2における補強ダンパーは、礎石等があり柱脚部1の下端が地面よりも上方に位置する場合に設置が容易である。また、本実施形態2の補強ダンパーは、柱脚部1にボルト等で固定することなく設けることができる。
【0033】
[実施形態3]
図4に本実施形態3における補強ダンパーを示す。図4(a)は平面図、図4(b)は断面図、図4(c)は側面図を示す。本実施形態3の補強ダンパーも実施形態1,2と同様に、内側金具2a〜2dと、外側金具3a〜3dと、粘弾性体4a〜4dと、を備える。
【0034】
本実施形態3の内側金具2a〜2dは、矩形状に形成され、柱脚部1の一部を覆うように4つの各側面に配置される。内側金具2a〜2dはボルト等により柱脚部1に固定される。本実施形態3において、内側金具2a〜2dの下端は、柱の下端と同じ位置または柱の下端よりも上方に位置する。なお、柱脚部1と内側金具2a〜2dとの間にゴムシート等のフィラー類を入れても良い。
【0035】
外側金具3a〜3dは、矩形状に形成された地面固定部31と、地面固定部31の一端から折曲されて延設された粘弾性体取付部32と、で形成される。外側金具3a〜3dの地面固定部31は地面と水平に配置され、ボルト等により地面(例えば、コンクリート等)に固定される。外側金具3a〜3dの粘弾性体取付部32は、地面固定部31の一端から折曲されて内側金具2a〜2dと平行方向に上方に向かって延設される。
【0036】
内側金具2a〜2dの下端に粘弾性体4a〜4dが固定される。また、内側金具2a〜2dの下端に粘弾性体4a〜4dを介して外側金具3a〜3dの粘弾性体取付部32が固定される。図4(b)に示すように、本実施形態3の粘弾性体4は、柱脚部1の下端部に配置されることとなる。
【0037】
本実施形態3における補強ダンパーは、柱脚部1の下端が地面と同じ高さの場合、または、柱脚部1の下端が地面よりも上方に位置する場合に設置が容易である。
【0038】
[実験結果1]
以下、実施形態1〜3の補強ダンパーの2つの性能試験の結果について説明する。まず、図5に基づいて、補強ダンパーの静的加力実験結果を説明する。静的加力実験では、柱の上部から鉛直荷重を加えた状態で、水平荷重・水平変位を加えた際の水平力・柱頭変位を測定する。
【0039】
図5(a)は、縦軸が水平力(kN)、横軸が柱頭変位(mm)であり、実施形態2の補強ダンパーを設けた場合を実線、補強ダンパーを設けていない場合を点線で示している。図5(b)は実施形態3の補強ダンパーを設けた場合を実線、補強ダンパーを設けていない場合を点線で示している。
【0040】
実施形態1の実験結果は省略するが、実験結果より、補強ダンパーの形状が異なっていても柱脚部1に実施形態2,3の補強ダンパーを設けることで最大荷重が約1kNから約3kNに上昇している。よって、より大きな外力に対しても転倒することなく、耐震性能が向上することが明らかになった。
【0041】
[実験結果2]
柱脚部1の4つの側面に補強ダンパーを設置するため、加振直交方向に設置された粘弾性体は回転変形がせん断変形になると考えられるが、図6に示すように、加振方向に設置された粘弾性体4は圧縮せん断変形または引張せん断変形を起こす。
【0042】
そこで、粘弾性体4に圧縮変形または引張変形を与えてせん断加振した時の性能から圧縮せん断変形または引張せん断変形の挙動を推定できるようにする。圧縮・引張せん断試験の試験体および治具を図7、実験結果を図8に示す。
【0043】
図7に示すように、2つの粘弾性体4を圧縮・引張固定部材5で挟み、さらに、2つの粘弾性体4の間に加振部材6を挟む。圧縮・引張固定部材5は、粘弾性体4の圧縮・引張変形後にボルト・ナット等で位置決めし、粘弾性体4の圧縮・引張状態を保持する。加振部材6はアクチュエータ7により、せん断加振される。なお、試験に用いる2つの粘弾性体4は、ジエン系SDM−1、50mm×50mm×厚さ5mmとする。
【0044】
図8(a)では、圧縮変形0mm、圧縮変形1mm/層、圧縮変形2mm/層、圧縮変形2.5mm/層の時のせん断荷重[kN]とせん断変位[mm]の関係を示している。図8(b)では、引張変形0mm、引張変形1mm/層、引張変形2mm/層、引張変形2.5mm/層の時のせん断荷重[kN]とせん断変位[mm]の関係を示している。図8(c)では、圧縮変形0mm、圧縮変形直後の圧縮変形0mm、圧縮変形翌日の圧縮変形0mmの時のせん断荷重[kN]とせん断変位[mm]の関係を示している。図8(d)では、引張変形0mm、引張変形直後の引張変形0mm、引張変形翌日の引張変形0mmの時のせん断荷重[kN]とせん断変位[mm]の関係を示している。
【0045】
その結果、粘弾性体4が厚さ方向に圧縮変形を伴いながらせん断変形する場合は性能(剛性・減衰)が高まり、粘弾性体4が厚さ方向に引張変形を伴いながらせん断変形する場合は性能(剛性・減衰)が僅かに低下する傾向が確認できた。引張変形を伴いながらせん断変形する場合は性能が僅かに低下するが、対向する圧縮変形を伴いせん断変形する粘弾性体4は性能が高まるため、問題ないと考えられる。また、圧縮・引張変形直後はせん断性能が一時的に変化するが翌日に戻る傾向も把握した。
【0046】
このような実験結果をもとに、解析的に柱が傾斜した場合の粘弾性体4の変形状態を把握することによって、補強ダンパーの性能をシミュレーションでき、実建物の設計に用いることができる。
【0047】
以上示したように、本実施形態1〜3によれば、柱脚部が固定されていない古くからの建物に補強ダンパーを設けることにより傾斜復元力が増大される。その結果、より大きな水平変位でも傾斜復元力を発揮することができ、建物の耐震強度を強化することが可能となる。
【0048】
特許文献1〜3,非特許文献1では、柱脚部1の補強に柱と直交方向の梁や土台等が必要であったが、実施形態1〜3の補強ダンパーでは柱と直交方向の梁や土台等がなくても適用可能である。
【0049】
さらに、柱が傾くと補強ダンパーの粘弾性体4は、傾斜復元力が直線から円弧状に作用するため、地震時の応答加速度を低減させることができる。
【0050】
また、柱脚部1の4つの側面を粘弾性の補強ダンパーで囲う構造であり、粘弾性体4は低速時に剛性が下がるため、長期荷重による変形(めり込み等)にも追従してガタが生じない。また、粘弾性体4は粘性を伴う弾性体なので、緊結部材のような急激な荷重増加を起こさない。そのためボルト固定部のひび割れが起きない。
【0051】
また、基礎が礎石の場合、過大な水平力が与えられても柱がはみ出したり、ずり落ちる現象を抑制することが可能となる。また、補強ダンパーは、設置場所が床下となるため、建物の上部に設置する場合より補強ダンパーの点検・補修が容易である。さらに、同じ理由から、既存建物への設置も容易である。また、補強ダンパーは床下設置されるため、人目に触れることもない
なお、実施形態1〜3の補強ダンパーは、柱脚部を水平方向に拘束しており、柱脚部の横ずれ防止し、柱が浮き上がった際には粘弾性体4を抵抗要素にしてエネルギー吸収を図っており、法令違反を犯すものではない。
【0052】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0053】
1:柱脚部
2a〜2d:内側金具
3a〜3d:外側金具
4a〜4d:粘弾性体
5:圧縮・引張固定部材
6:加震部材
7:アクチュエータ
21:柱固定部
22:連結部
31:地面固定部
32:粘弾性体取付部
【要約】
【課題】柱脚部が固定されていない古くからの建物において、傾斜復元力を活用して柱脚部を補強する。
【解決手段】柱脚部1に、内側金具2a〜2dと、外側金具3a〜3dと、粘弾性体4a〜4dと、を備えた耐震補強部材を設ける。内側金具2a〜2dは、柱脚部1の一部を覆うように4つの各側面に配置される。外側金具3a〜3dは、地面に固定される地面固定部31と、地面固定部31の一端から折曲されて内側金具2a〜2dと平行方向に延設された粘弾性体取付部32と、で形成される。粘弾性体4a〜4dは、内側金具2a〜2dと粘弾性体取付部32との間に固定される。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8