(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
経方向に伸縮性を有する経編組織の緯方向に沿って配列された編目列にそれぞれ緯挿入糸を挿入して編成された地組織と、緯方向に振られるように蛇行して経方向に向かって配置されるとともに前記編目列の編目において前記緯挿入糸とともに挿入して編み込まれている導電糸とを備える伸縮性導電体であって、前記導電糸は、繊度が10デシテックス以下で誘電体である繊維材料の周囲を金属材料により被覆したマルチフィラメントを備えており、経方向の破断伸長率が180%以上であり、屈曲角度135°の動的駆動試験に対して破断屈曲回数が60万回以上である伸縮性導電体。
前記マルチフィラメントは、目付が0.1g/m〜1g/mで電気抵抗が0.5Ω/m〜10Ω/mであるとともにKESFB2−AUTO−Aにより求められる曲げ剛性が0.04gf・cm2/ヤーン〜5gf・cm2/ヤーンである請求項3に記載の伸縮性導電体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。本発明に係る伸縮性導電体は、経方向に伸縮性を有する経編組織の緯方向に沿って配列された編目列にそれぞれ緯挿入糸を挿入して編成された地組織と、緯方向に振られるように蛇行して経方向に向かって配置されるとともに編目列の編目において緯挿入糸とともに挿入して編み込まれている導電糸とを備えている。
【0013】
図1は、伸縮性導電体の一例に関する概略構成図であり、
図2は、
図1に示す伸縮性導電体に関する一部拡大図である。伸縮性導電体1は、所定幅に編成された帯状の地組織2に1本の導電糸3が幅方向に振られるように蛇行して配置されて編み込まれている。なお、この例では、地組織2の長手方向が経方向となり、幅方向が緯方向となる。地組織2は、所定間隔で幅方向に配列された複数の鎖編列20からなる経編組織を備えており、各鎖編列20には、弾性糸21が各編目を通過して経方向に沿って交絡するように編み込まれている。そのため、各鎖編列20は、弾性糸21により経方向に伸縮するように構成されており、無負荷状態では経方向に縮んだ状態となっているが、経方向に引張るように負荷をかけた状態では引き伸ばされるように伸長した状態となる。
【0014】
また、各鎖編列20を編成する際の同一コースの編目は、幅方向に直線状に配列された編目列を形成しており、形成された編目列にはそれぞれ緯挿入糸22が各編目を通過して緯方向に沿って挿入されている。緯挿入糸22は、1つの編目列に対して全幅にわたって挿入された後折り返して次のコースの編目列に全幅にわたって挿入されており、全幅にわたって振られるように順次編目列に挿入されて鎖編列20に編み込まれている。
【0015】
鎖編列20は、弾性糸21の弾性力により長手方向に縮むように作用するため、経編組織2を長手方向に引っ張ることで、全体を引き伸ばすように伸長させることが可能となり、長手方向に高い伸縮性を有するようになる。幅方向に挿入された緯挿入糸22により鎖編列20の編目が幅方向に連結されているため、地組織2が長手方向に伸縮する際に、鎖編列20が連動して同じように伸縮するようになる。伸縮動作の際に、鎖編列20の緯挿入糸22が挿入された編目列は、各編目がずれることなく長手方向に一緒に移動するように経編組織が伸縮するので、地組織2は長手方向に安定した伸縮動作を行うようになる。また、地組織2の幅方向の伸縮については、幅方向に緯挿入糸22が編み込まれているため、ほとんど伸縮しないようになっている。
【0016】
地組織2に用いる糸としては、絶縁性繊維材料からなる糸が好ましく、特に限定されるものではなく、公知の繊維材料から任意に選定できる。鎖編列20に用いる糸としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維その他、任意の繊維が挙げられ、複数種類の繊維材料を混繊したものでもよい。また、弾性糸21に用いる糸としては、伸縮性を付与するためにポリウレタン系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、天然ゴム及び合成ゴム系弾性繊維等を組み合わせてもよい。
【0017】
緯挿入糸22についても特に限定されるものではなく、公知繊維から任意に選定できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維その他、任意の繊維が挙げられ、複数種類の繊維材料を混繊したものでもよい。
【0018】
導電糸3は、地組織2において幅方向に振られるように蛇行して経方向に向かうように配置されており、緯挿入糸22が挿入された編目列の編目において緯挿入糸22とともに挿入して編み込まれている。緯挿入糸22が挿入された編目は、幅方向及び長手方向に格子状に配置されているので、導電糸3の配置位置と重なる編目を緯挿入糸22とともに通過するように挿入して編み込むことで、導電糸3を蛇行した形状で安定した状態に保持することができる。
【0019】
以上説明した地組織2及び導電糸3の編成については、公知のラッセル編機といった経編機を用いて編成することができる。また、導電糸3の振り幅を大きく設定したい場合には、経編機に導電糸用の糸振り機構を取り付けるようにしてもよい。また、経編組織として、鎖編列を複数配列した組織を例に説明したが、緯挿入糸を挿入可能な編目列が編成される経編組織であればこれ以外の経編組織でもよく特に限定されない。
【0020】
また、上述した編組織は、1本の緯糸から柄を表出するように編成することができるので、製品に張りを持たせながら厚みを薄くすることが可能となる。また、経糸と導電糸(緯糸)のみで製編することも可能で、その場合には緯挿入糸を省略することもできる。そして、経糸により柄を表出するように編成することで、メッシュ模様等の様々な柄を表出することができ、さらにその上に糸を重ねて編成することで、多種多様な柄表現に対応することが可能となる。
【0021】
導電糸3は、緯挿入糸22とともに編目に保持されているため、地組織2の長手方向の伸縮動作の際に、緯挿入糸22とともに移動するようになる。そのため、地組織2を長手方向に引張力を加えて伸長させた場合に、導電糸3は、編目からほとんどずれることなく蛇行した形状のまま経方向に引き伸ばされるようになり、引張力を解除して元の状態に戻る場合にも編目からほとんどずれることなく元の蛇行した形状となって、地組織2の長手方向の伸縮動作に対して編目からずれることによる導電糸3への負荷が加わることがなくなる。
【0022】
導電糸3を挿入する編目位置は、導電糸3がずれないように適宜設定すればよいが、同じ鎖編列の編目に導電糸3を挿入して編み込んでおくことで、鎖編列の伸縮に対して導電糸3が編目からずれにくくすることができる。例えば、1つの鎖編列に対して導電糸3が蛇行するように繰り返し交差する場合に、鎖編列の交差位置における編目で導電糸3を編み込むことで鎖編列の経方向の伸縮に対して導電糸3がスムーズに追従して形状変化するようになる。
【0023】
伸縮性導電体1の伸縮特性は、地組織2の鎖編列20及び弾性糸21の伸縮特性に基づいて適宜設定することができ、可動部位の動きに応じて最適化することが可能である。具体的には、伸長率(伸び率)は、180%以上に設定することで、ロボット及びウエアラブル機器の可動部位における動作に対応することが可能となる。また、伸縮性導電体1は、可動部位の動きにより屈曲変形を繰り返し受けるため、屈曲変形に対する耐久性を備えることが求められる。具体的には、屈曲角度135°の動的駆動試験に対して60万回以上の屈曲耐久性を備えていることが好ましい。
【0024】
そのため、導電糸3についても伸縮性導電体1の伸長率が180%以上でも破断しないような引張強度が求められるが、上述したように、鎖編列20の編目に緯挿入糸22とともに挿入して編み込むようにすることで、導電糸3が蛇行した状態で緯挿入糸とともに移動するため、十分な耐久性を備えている。また、地組織2に編み込まれる導電糸3は、蛇行した状態となっているため、地組織2が縮んだ状態では大きく曲げ変形するようになり、地組織2の伸縮動作に対応して曲げ変形を繰り返し受けるようになる。そのため、伸縮性導電体1の高伸長率によって導電糸3に曲げ変形の曲率が大きくなるとともにその変化率も大きくなる。したがって、導電糸3は、曲率の大きい曲げ変形に耐えられる柔軟性とともに曲げ変形の大きな変化率に対する十分な耐久性を備えることが求められる。具体的には、伸縮性導電体の繰り返し伸長耐久性試験において、繰り返し伸長回数が1万回で電気抵抗変化率10%以下となる耐久性を備えていることが好ましい。
【0025】
こうした伸縮特性及び曲げ変形特性を備えた導電糸としては、繊度が10デシテックス以下で誘電体である繊維材料の周囲を金属材料により被覆したマルチフィラメント及びマルチフィラメントの外周を絶縁材料により被覆する絶縁層を備えているものが好ましい。マルチフィラメントを構成する各繊維材料の周囲に金属材料が被覆しているため、マルチフィラメント全体にほぼ均一に金属材料が分布するようになり、低い電気抵抗といった優れた導電特性を実現することができるとともに、軽量化並びに優れた柔軟性及び屈曲耐久性を実現することができる。
【0026】
誘電体である繊維材料は、合成繊維材料としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリプロピレン、パラ系アラミド、メタ系アラミド、ポリアリレート、ポリベンゾイミダゾール等が挙げられ、無機繊維材料としてはガラスが挙げられる。そして、これらの繊維材料を混合したものであってもよい。繊維材料の繊度は、10デシテックス以下であることが好ましく、より好ましくは、1デシテックス〜10デシテックスである。繊度が10デシテックスより大きくなると、金属材料を付着させた場合に電気抵抗を十分低下させることができなくなる。
【0027】
金属材料としては、銅、銅/ニッケル、ニッケル、金、パラジウム、銀等の公知の無電解メッキ処理で析出することのできる金属であればよく、こうした金属を単一又は複合して形成することも可能で、特に限定されない。
【0028】
導電糸は、金属材料よりも軽量な合成繊維材料等の繊維材料を用いており、マルチフィラメントを構成する各繊維材料の周囲に金属材料が付着しているので、十分な導電性を確保しつつ軽量化を図ることができる。具体的には、マルチフィラメントの電気抵抗を0.5Ω/m〜10Ω/mに設定することが可能で、マルチフィラメントの目付を0.1g/m〜1g/mに設定することができる。電気抵抗については、0.5Ω/m〜10Ω/mに設定することで、従来の電線と同程度の導電性を確保することが可能となる。
【0029】
また、目付については、0.1g/mより目付が小さくなると、金属材料の付着量が不十分となって十分な導電性が確保しにくくなり、1g/mより目付が大きくなると、十分な軽量化を図ることが難しくなる。金属材料の付着量は、軽量化及び導電性の観点から0.4g/m以下とすることが好ましい。
【0030】
導電糸は、メッキ処理により各繊維材料の周囲に金属材料が均一に被覆しているので、各繊維材料の周囲に金属材料が薄く付着している場合でも、マルチフィラメント全体では導電性を確保するのに十分な付着量とすることができる。そして、各繊維材料の周囲に金属材料を薄く均一な層に付着させることで、各繊維材料の柔軟性を維持しつつ繊維材料の変形に伴う金属層の破断を抑止することが可能となる。そのため、マルチフィラメントの柔軟性を確保することが可能となり、屈曲耐久性を向上させることができる。そして、繊維材料の周囲に均一に金属材料が付着しているので、マルチフィラメントの柔軟性及び屈曲耐久性に異方性がほとんどなくなり、通常の糸と同様にいずれの方向に対しても湾曲変形させることができ、繰り返し伸縮動作や曲げ変形が加わった場合でも十分な耐久性を備えることが可能となる。
【0031】
導電糸の柔軟性については、伸縮性導電体の伸縮動作の際の大きな曲げ変形に耐えることが求められるが、具体的には、KESFB2−AUTO−Aにより求められる曲げ剛性が0.04gf・cm
2/ヤーン〜5gf・cm
2/ヤーンに設定することが好ましい。曲げ剛性が0.04gf・cm
2/ヤーンよりも低い場合には、繊維材料に付着した金属材料の量が少なく10Ω/m以下の電気抵抗を実現することが難しくなり、5gf・cm
2/ヤーンよりも高い場合には、柔軟性が低下して繰り返し曲げ変形を受ける際に不具合が発生するようになる。
【0032】
なお、KESFB2−AUTO−Aとは、カトーテック株式会社製の自動化純曲げ試験機であり、クランプ間隔10mm、曲げ変形速度0.5cm
-1/sの条件で曲率を変えて曲げモーメントを測定する装置である。糸の柔軟性を評価する方法のひとつとして、測定された曲げモーメントおよび糸本数に基づいて、任意の測定曲率範囲から糸一本の曲げ剛性(gf・cm
2/ヤーン)を求めることができる。
【0033】
導電糸は、撚りを加えることで、電気的特性を安定させることができ、均質な電気的特性を備える導電糸を得ることが可能となる。撚りを加えることで、金属材料で被覆された各繊維材料が互いに密着してマルチフィラメント全体で金属材料同士が安定した電気的接続状態となり、電気的特性が安定するようになる。
【0034】
具体的には、繊度が500デシテックス未満では撚り数を160回/m以上に設定することが好ましく、繊度が500デシテックス〜1200デシテックスでは撚り数を100回/m以上に設定することが好ましく、繊度が1200デシテックス〜2000デシテックスでは撚り数を50回/m以上に設定することが好ましい。繊度が500デシテックス未満の細い導電糸の場合には、撚り数が160回/mよりも少ないと、導電糸の電気抵抗にばらつきが生じるようになる。同様に、繊度が500デシテックス〜1200デシテックスの太い導電糸の場合には、撚り数が100回/mよりも少ないと電気抵抗のばらつきが生じ、繊度が1200デシテックス〜2000デシテックスのさらに太い導電糸の場合には、撚り数が50回/mより少ないと電気抵抗にばらつきが生じるようになる。
【0035】
導電糸を製造する場合には、長繊維からなる繊度が10デシテックス以下の繊維材料を無撚状態で集束した繊維束に対して各工程の処理を行う。繊維束は無撚状態となっているため、各処理槽内に浸漬させると長繊維からなる繊維材料がばらけた状態となり、各繊維材料の表面を均一に処理することができる。
【0036】
前処理工程では、まず繊維束に対して精錬処理を行い、繊維材料への触媒付与及び触媒の活性化処理を行う。触媒付与処理は、無電解メッキ処理を行うために繊維材料の表面に触媒を固定する処理であり、触媒としては、スズ銀、スズパラジウム又はパラジウムといった公知の金属材料が挙げられる。触媒の活性化処理では、酸浸漬といった処理を行い、触媒を活性化させる。
【0037】
無電解メッキ処理工程では、前処理工程で処理された繊維束(繊度Dデシテックス)に対して糸長方向に付与する張力(張力Tニュートン)をD/1000≦T≦D/300となるように設定した低張力状態で走行させながら複数の無電解メッキ槽に順次浸漬してメッキ処理を行う。繊維束を無電解メッキ槽内に浸漬した状態で繊維束に60Hz以下の振動を付与することで、走行中に集束状態となる繊維束の繊維材料がメッキ液内においてばらけた状態で振動するようになる。ばらけた状態で振動する繊維材料の間にメッキ液が浸入して各繊維材料の周囲を均一にメッキ処理して金属材料を付着させることができる。
【0038】
繊維束に振動を付与する方法としては、繊維材料がばらけた状態で振動すればよく、特に限定されないが、例えば、繊維束を走行させる走行ローラを走行方向と交差する方向に振動させて繊維材料をばらけた状態にすることができる。また、メッキ槽内を走行する繊維束に対して、断続的に振動ローラを接触させたり、メッキ液を流動させて振動させるようにしてもよい。付与する振動数は60Hz以下が好ましく、より好ましくは28Hz〜60Hzである。
【0039】
無電解メッキ処理工程では、公知の処理方法を用いて行うことができ、例えば、メッキ液として市販のメッキ液を使用して、メッキ浴の温度を25℃〜50℃に設定して、処理時間を10分〜20分行うようにすればよい。
【0040】
無電解メッキ処理により形成する金属メッキ層としては、銅、銅/ニッケル、ニッケル、金、パラジウム、銀等の公知の無電解メッキ処理で析出することのできる金属であればよく、こうした金属を単一又は複合して形成することも可能で、特に限定されない。触媒を各繊維材料の周囲に均一に付着させることで、無電解メッキ処理により各繊維材料の周囲を均一な金属メッキ層で被覆することができる。
【0041】
電気メッキ処理工程では、無電解メッキ処理工程で処理された繊維束(繊度Dデシテックス)に対して糸長方向に付与する張力(張力Tニュートン)をD/1000≦T≦D/300となるように設定した低張力状態で走行させながら複数の電気メッキ槽に順次浸漬してメッキ処理を行う。繊維束を電気メッキ槽内に浸漬した状態で、無電解メッキ処理工程と同様に、繊維束に60Hz以下の振動を付与することで、繊維束の繊維材料がメッキ液内においてばらけた状態で振動するようになる。ばらけた状態で振動する繊維材料の間にメッキ液が浸入して各繊維材料の周囲に無電解メッキ処理により形成された金属メッキ層に対して均一にメッキ処理して金属メッキ層の厚さを均一に厚くすることができる。したがって、電気メッキ処理により繊維材料の周囲への金属材料の付着量を所望の量に設定することができ、ムラの少ない金属メッキ層を形成することが可能となる。
【0042】
電気メッキ処理工程では、公知の処理方法により行うことができ、例えば、メッキ液として市販の硫酸銅溶液処方(奥野製薬工業株式会社製標準処方)を使用して、メッキ浴の温度を20℃〜50℃に設定して、処理時間を10分〜20分で行うようにすればよい。
【0043】
以上のように、原料となる長繊維の繊維材料を無撚状態で集束した繊維束に対して無電解メッキ処理及び電気メッキ処理を行うことで各繊維材料の周囲を金属材料で被覆したマルチフィラメントを製造することができるが、こうした処理は、繊維束を低張力を付与した状態で行われる。繊維束(繊度Dデシテックス)に対して糸長方向に付与する張力(張力Tニュートン)をT≦D/300となるように設定した状態で、好ましくは、D/1000≦T≦D/500の張力を付与した状態で、60Hz以下の振動を付与してメッキ処理することで、伸縮や屈曲といった変形に対して耐久性のある導電糸を得ることができる。例えば、繊度が1000デシテックスの繊維束の場合には、3ニュートン以下の低張力を付与した状態で処理すればよい。
【0044】
繊維材料の周囲を金属材料で被覆したマルチフィラメントは、周囲に絶縁性樹脂材料により被覆することで絶縁層を形成して導電糸を製造する。絶縁性樹脂材料としては、公知の電線の被覆層で使用されている樹脂材料を用いることができ、例えば、熱可塑性フッ素系樹脂(ETFE)、変性ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン等が挙げられる。絶縁層を形成する場合には、電線の製造で使用されている公知の押出成形により形成することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。実施例において用いた測定方法及び試験は、以下のとおりである。
【0046】
<強伸度測定試験>
引張試験機(島津製作所製オートグラフAGX-plus)を使用し、長さ200mm及び幅30mmの伸縮性導電体を引張速度200mm/分で伸長して行った。伸縮性導電体の導電糸に電気抵抗素子(4.7Ω、10Ω)と市販の乾電池(1.5V)を直列に接続し、試験中の電気抵抗の電圧変化を測定して伸縮性導電体の電気抵抗を算出した。そして、電気抵抗が急激に増加して電気的に断線した時点における伸長された長さ(mm)の元の長さに対する比率を破断伸長率(%)とした。
【0047】
<屈曲耐久性試験(動的駆動試験)>
図3に示すように、500mmの長さで幅30mmの伸縮性導電体Cを、1mm間隔を空けて水平に平行配列した一対の屈曲バーBの間に上方から挿入し、下端に20gの重りWを取り付けて上端側を把持体Aに取り付ける。屈曲バーBの断面形状は直径10mmの円形に形成されており、外周面の曲率半径は5mmに設定されている。そして、把持体Aを屈曲バーBと直交する方向に往復揺動させて屈曲バーBにより挟まれた位置を中心に導電糸Cを両側に135度まで屈曲させるように動作させる。把持体Aの動作速度は、約60回/分とした。把持体Aの動作により屈曲バーBに挟まれた伸縮性導電体Cの部分が繰り返し屈曲変形するようになる。そして、所定の屈曲回数毎に屈曲変形部分を含む箇所で電気抵抗測定を行った。そして、電気抵抗が急激に増加して電気的に断線した時点における屈曲回数を破断屈曲回数とした。
【0048】
<繰り返し伸長耐久性試験>
エアーサーボ(島津製作所製ADT−AV05K1S6)を使用し、長さ200mm及び幅30mmの伸縮性導電体の両端部を治具間距離20mmで治具にセットし、引張速度40mm/秒で長さ40mmになるまで伸長し、その後長さ20mmまで戻す伸長操作を1万回繰り返して行った。繰り返し伸長耐久性試験の前後で伸縮性導電体の導電糸の電気抵抗を測定し、試験の前後での電気抵抗変化率(%)を算出した。電気抵抗の測定はデジタルマルチメーター(アドバンスト社製R6552)を使用した。
【0049】
<導電糸の製造>
原料として、パラアラミド繊維からなる繊維束(帝人株式会社製;テクノーラ)を用いた。繊度として、440デシテックス、1100デシテックス及び1670デシテックスの3種類を準備した。原料として用いた繊維束は、複数の長繊維が繊維長方向に引き揃えられて無撚状態で集束したものを使用した。
【0050】
まず、前処理工程では、触媒として塩化パラジウムコロイド溶液(奥野製薬工業株式会社製標準処方)を用いて、浸漬法により繊維束を構成する長繊維の表面に触媒を付与し、市販の硫酸溶液(星和ケミカル株式会社製標準処方)を用いた酸浸漬により触媒の活性化処理を行った。
【0051】
次に、前処理により長繊維の周囲に付着した触媒を活性化させた繊維束に対して無電解メッキ処理を行った。無電解メッキ処理では、メッキ液として硫酸銅溶液処方(奥野製薬工業株式会社製標準処方)を用い、メッキ液を収容した複数のメッキ浴槽を繊維束の搬送方向に配列した。そして、繊維束(Dデシテックス)に対して糸長方向に付与する張力(張力Tニュートン)をT=D/500に設定して搬送しながら、溶液温度40℃及び処理時間15分の条件で各メッキ浴槽内を通過させて浸漬することで無電解メッキ処理を行った。繊維束が浸漬された状態で振動を付与することで、繊維束を構成する長繊維がばらけてその周囲を満遍なく無電解メッキ処理した。
【0052】
次に、無電解メッキ処理された繊維束に対して電気メッキ処理を行った。電気メッキ処理では、メッキ液として硫酸銅溶液処方(奥野製薬工業株式会社製標準処方)を用い、メッキ液を収容した複数のメッキ浴槽を繊維束の搬送方向に配列した。そして、繊維束(Dデシテックス)に対して糸長方向に付与する張力(張力Tニュートン)をT=D/500に設定して搬送しながら、溶液温度20℃及び処理時間15分の条件で各メッキ浴槽内を通過させて浸漬することで電気メッキ処理を行った。繊維束が浸漬された状態で振動を付与することで、繊維束を構成する長繊維がばらけてその周囲を満遍なく電気メッキ処理した。
【0053】
以上の処理により、長繊維の周囲を銅により被覆したマルチフィラメントを製造した。得られたマルチフィラメントは、その周囲に熱可塑性フッ素系樹脂(旭硝子株式会社製)を用いて押出成形により被覆して絶縁層を形成し、導電糸を製造した。得られた導電糸は、電気抵抗が2Ω/mで、金属付与重量が0.185g/m、フィラメント芯材重量が0.044g/m、フッ素系樹脂が0.179g/m、総重量0.408g/mであった。
【0054】
[実施例1]
伸縮性導電体は、18ゲージ細幅経編機(COMEZ社製)を用いて
図1に示す編組織をラッセル編により編成した。経編組織となる鎖編列には、経糸としてポリエステル加工糸(レクロン社製84T−36F)24本を使用し、弾性糸には、繊維ウレタン糸(オペロンテックス社製:ライクラ470Tに南亜社製:Pet 84T−36Fをダブルカバリングして作成)24本を緯挿入糸とともに使用した。緯挿入糸には、緯糸としてポリエステル加工糸(レクロン社製167T−48F)を3本引き揃えて10.5本/cmに設定し、幅30mmで緯糸にて経糸のニードルループを連結させて地組織を編成した。製造した導電糸は、地組織の幅中央部の鎖編列3本についてそれぞれの編目に緯挿入糸とともに挿入しながら、幅方向に左右に振り幅10mm、間隔4mmで蛇行するように設定して伸縮性導電体を編成した。
【0055】
<伸縮性導電体に関する各特性の測定>
編成した伸縮性導電体を長手方向に200mmの長さで切断して電気抵抗を測定し、強伸度測定試験を行った。伸長率が180%までは電気抵抗の変化は測定されず、これ以上の伸縮性導電体の伸長を行うことができなかったので、破断伸長率は180%以上と推定される。次に、屈曲耐久性試験を行ったが、屈曲回数が60万回までは電気抵抗の変化が測定されかったため、十分な屈曲耐久性が確認されたとして試験を停止した。そのため、破断屈曲回数は、60万回以上と推定される。次に、繰り返し伸長耐久性試験を行った。繰り返し伸長回数が1万回で電気抵抗変化率は3%であった。
【0056】
[比較例1]
実施例1で使用した導電糸に代えて銅単線(目付重量0.222g/m)を使用し、それ以外の地組織については実施例1と同様のものを使用して実施例1と同様に伸縮性導電体を編成した。
【0057】
<伸縮性電体に関する各特性の測定>
編成した伸縮性導電体を長手方向に200mmの長さで切断して電気抵抗を測定し、強伸度測定試験を行った。電気抵抗が急激に増加した時点の伸長率を算出したところ、破断伸長率は142%であった。次に、屈曲耐久性試験を行った。電気抵抗が急激に増加した時点までの屈曲回数をカウントしたところ、破断屈曲回数は16000回であった。次に、繰り返し伸長耐久性試験を行った。繰り返し伸長回数が1万回で電気抵抗が測定不能となり、銅単線が破断していたため、電気抵抗変化率は算出できなかった。
【0058】
[比較例2]
実施例1で使用した導電糸に代えて銅双線(目付重量0.265g/m)を使用し、それ以外の地組織については実施例1と同様のものを使用して実施例1と同様に伸縮性導電体を編成した。
【0059】
<伸縮性電体に関する各特性の測定>
編成した伸縮性導電体を長手方向に200mmの長さで切断して電気抵抗を測定し、強伸度測定試験を行った。電気抵抗が急激に増加した時点の伸長率を算出したところ、破断伸長率は144%であった。次に、屈曲耐久性試験を行った。電気抵抗が急激に増加した時点までの屈曲回数をカウントしたところ、破断屈曲回数は32000回であった。次に、繰り返し伸長耐久性試験を行った。繰り返し伸長回数が1万回で電気抵抗が測定不能となり、銅双線が破断していたため、電気抵抗変化率は算出できなかった。
【0060】
以上のとおり、誘電体である繊維材料の周囲を金属材料により被覆したマルチフィラメントを備えた導電糸を用いることで、伸縮性導電体は、金属材料と同程度の導電性を備えるとともに伸長耐久性、屈曲耐久性、繰り返し伸長耐久性といった各特性に関してバランスの良い特性を備えており、可動部位に対する信号伝送用や電源供給用の導電体として好適な素材であることを確認することができた。