(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887635
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】アクセルペダル誤操作防止機構
(51)【国際特許分類】
B60K 26/02 20060101AFI20210603BHJP
G05G 1/30 20080401ALI20210603BHJP
【FI】
B60K26/02
G05G1/30 E
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-53036(P2016-53036)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-165294(P2017-165294A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】591061297
【氏名又は名称】福辻 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】福辻 範彦
【審査官】
中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】
実開平06−049491(JP,U)
【文献】
特開2012−091765(JP,A)
【文献】
実開昭63−043219(JP,U)
【文献】
国際公開第2012/131766(WO,A1)
【文献】
実公昭35−008708(JP,Y1)
【文献】
国際公開第2005/058631(WO,A1)
【文献】
登録実用新案第3142317(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0055279(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 26/00 − 26/04
B60K 28/00 − 28/16
G05G 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダルとブレーキペダルとを踏み間違えたり、意識喪失下でアクセルペダルを踏み込むという誤操作を防止するためのアクセルペダル誤操作防止機構であって、
前記ブレーキペダルに隣接して配置された前記アクセルペダルを有し、
前記アクセルペダルは、足のサイズが20cm〜22cmの運転者の第一趾及び第二趾のみが掛かる幅であり、かつ、前記足のサイズが28cm〜30cmの運転者の少なくとも第一趾が掛かる幅であること、
を特徴とするアクセルペダル誤操作防止機構。
【請求項2】
未操作時の前記アクセルペダルの操作面の高さを、未操作時の前記ブレーキペダルの操作面の高さよりも低くしたことを特徴とする請求項1に記載のアクセルペダル誤操作防止機構。
【請求項3】
前記アクセルペダル及び前記ブレーキペダルのいずれか一方に、前記第一趾を当接させる当接部材を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のアクセルペダル誤操作防止機構。
【請求項4】
前記ブレーキペダル又は前記アクセルペダルのいずれか他方に、前記当接部材とブレーキペダル又は前記アクセルペダルとの干渉を防止する干渉防止手段を設けたことを特徴とする請求項3に記載のアクセルペダル誤操作防止機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者が誤ってアクセルペダルとブレーキペダルとを間違えて操作したり、運転中の意識喪失によりアクセルペダルを踏む込んでしまうというようなアクセルペダルの誤操作を抑制できるアクセルペダル誤操作防止機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運転者のブレーキペダルとアクセルペダルとの踏み間違いによる車両事故が多く発生している。これは、クラッチペダル操作のない自動変速機が一般化したことと、高齢ドライバーの増大に起因するところが大きい。このような運転者による誤った車両の操作を低減するために、従来より種々の提案がなされている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
例えば特許文献1には、ブレーキペダルよりもアクセルペダルを小さくして、踏み間違いが起きにくいようにした技術が記載されている。また、特許文献2,3には、レバー形のアクセルをブレーキペダルに一体に設けて、アクセルをブレーキペダルに対して横方向に動かすようにした技術が記載されている。
また、特許文献4や特許文献5のように、ソフトウェアを利用した制御によって誤操作を抑制しようとする試みもなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−91765号公報(例えば段落0003、段落0005及び
図4の記載参照)
【特許文献2】特開2014−151898号公報(例えば
図1,2の記載参照)
【特許文献3】特許第2753405号公報(例えば
図8〜10の記載参照)
【特許文献4】特開2015−205536号公報
【特許文献5】特開2014−6853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、現状の車両においてもアクセルペダルはブレーキペダルより小さく、特許文献1に記載の技術のように単にアクセルペダルの大きさをブレーキペダルの大きさよりも小さくしただけでは誤操作を効果的に抑制することはできない。
また、特許文献2,3のように、アクセルペダルの操作方向をブレーキペダルの操作(踏み込み)方向に対して直交させれば、誤操作を効果的に抑制できると思われるが、自動車が普及して以来、永い歴史のある従来の踏み込み式のアクセルの操作方向を横向きに変えることは、一般の運転者になじみにくいばかりか却って事故を誘発するおそれがある。
【0006】
さらに、特許文献4,5のようにソフトウェアで制御するものは、センサを配置したり、プログラムを書き換えたりする必要があるなど煩雑で、普及が進んで一般化されないとバグなどによる誤動作のおそれがあるという問題がある。
またさらに最近では、心臓疾患や脳疾患などの疾病が原因で運転の途中で運転者が意識を喪失し、アクセルペダルを強く踏み込んで児童生徒の列や人混みに車両が突っ込んで多くの犠牲者が出る事件が多発し、社会問題になっている。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、咄嗟の場合に運転者がアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み間違える誤操作を効果的に抑制でき、かつ、疾病等により運転者が運転の途中に意識を喪失しても、アクセルペダルから自然に足が離れることで事故を未然に防止できる簡単な構成の車両用誤操作防止機構の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、パニック状態に陥った運転者は足底の全体でペダルを踏み込もうとする傾向が強いことを見出した。このような動作に対しては、アクセルペダルをブレーキペダルよりも小さくするだけでは不十分である。また、通常、人は意識を喪失すると脚の筋力が抜けて膝が外側に開き、これにより足が外傾しようとする。本発明の発明者はこのような作用に着目し、意識を喪失したときにアクセルペダルから自然に足が脱落するようにすればよいことを見出した。
【0009】
そこで本発明の発明者は、ブレーキペダルの横にアクセルペダルを隣接して配置すること及びアクセルペダルの幅を、足の指の第一趾及び第二趾が掛かる程度、好ましくは第一趾が掛かる程度の幅とすれば良いこと、また前記アクセルペダルの長さは、運転者の足の第一趾から母趾球までの長さと同等程度とすればよいことに想到した。
このようにすることで、パニック状態に陥った運転者がアクセルペダルだけを踏み込む、という誤操作を効果的に抑制することができる。
また、運転者の体幹中心のほぼ延長線上に配置されたブレーキペダルの横に上記したようなアクセルペダルを配置することで、運転者が意識を喪失したときに運転者の足がアクセルペダルから自然に脱落しやすくすることができる。
【0010】
未操作時のアクセルペダルの操作面の高さは、未操作時のブレーキペダルの操作面の高さよりも低くするとよい。
また、ブレーキペダルとアクセルペダルとにどの程度の高低差を設けて配置するかによるが、高低差が大きかったり、運転者の足が非常に小さいような場合は、ブレーキペダルとアクセルペダルとの間の隙間に運転者の足の先が嵌り込んでしまうおそれがある。そこでこのような事態を抑制すべく、アクセルペダルのブレーキペダル側の端縁に、運転者の足が当接する当接部材を設けるとよい。また、このような当接部材を設ければ、アクセルペダルが小さくても、当接部材に当接するまで運転者の足をブレーキ側に移動させるだけで、簡単にアクセルペダルに足を掛けることができるようになるという利点もある。さらに、ブレーキペダルやアクセルペダルには横方向に若干の遊びがあることから、ブレーキペダルの操作時に、ブレーキペダルが隣接配置したアクセルペダルと干渉しないようにするための干渉抑制手段を設けてもよい。
【0011】
具体的に、本発明は、請求項1に記載するように、アクセルペダルとブレーキペダルとを踏み間違えたり、意識喪失下でアクセルペダルを踏み込むという誤操作を防止するためのアクセルペダル誤操作防止機構であって、前記ブレーキペダルに隣接して配置された前記アクセルペダルを有し、前記アクセルペダル
は、足のサイズが20cm〜22cmの運転者の第一趾及び第二趾のみが掛かる幅であり、かつ、前記足のサイズが28cm〜30cmの運転者の少なくとも第一趾が掛かる幅である構成として
ある。また、請求項2に記載するように、未操作時の前記アクセルペダルの操作面の高さを、未操作時の前記ブレーキペダルの操作面の高さよりも低くするとよい。
【0012】
アクセルペダルとブレーキペダルとの間の隙間に運転者の足の先が入り込まないように、例えば請求項
3に記載するように、前記アクセルペダル及び前記ブレーキペダルのいずれか一方に、前記第一趾を当接させる当接部材を設けるとよい。この場合請求項
4に記載するように、前記ブレーキペダル又は前記アクセルペダルのいずれか他方に、前記当接部材とブレーキペダル又は前記アクセルペダルとの干渉を防止する干渉防止手段を設けるとよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は本発明の誤操作防止機構の第一の実施形態にかかり、(a)はブレーキペダルとアクセルペダルとの位置関係及びアクセルペダルの大きさを説明する平面図、(b)はブレーキペダル及びアクセルペダルの操作面の高さ関係を説明する側面図である。
【0014】
ブレーキペダル1は、運転者の足Fによって十分に操作が容易な大きさであって、従来の車両用のブレーキペダルと同じものを用いることができる。ブレーキペダル1の配置位置は、後述のアクセルペダル2の配置位置を決定する。そこで、ブレーキペダル1の配置位置は、運転者の意識喪失により膝が外側に開いて足Fがアクセルペダル2から自然に脱落するような位置にする。そのためブレーキペダル1は可能な限り運転者の体幹の中心線上に近い位置に配置するのが好ましいが、一般的な車両ではブレーキペダル1は従来でもほぼこの位置に配置されていることから、配置位置も従来と同じであってよい。
運転者の身体の大小や性別などによって足Fの大きさは相違するが、この実施形態においてアクセルペダル2の幅Hは、平均的なサイズの足Fを有する運転者の五本の指f1〜f5のうち、第一趾f1及び第二趾f2が掛かる程度としてある。アクセルペダル2の長さLは、平均的なサイズの足Fを有する運転者の足Fの第一趾f1〜母趾球f1a間の長さを目安としている。
【0015】
このようにすれば、大きなサイズ(28cm〜30cm程度)の足Fを有する運転者であっても、少なくとも第一趾f1をアクセルペダル2に掛けることができ、小さなサイズ(20cm〜22cm程度)の足Fを有する運転者であっても、第一趾f1及び第二趾f2の先をアクセルペダル2に掛けることが可能である。
このようにアクセルペダル2の幅H及び長さLを小さくし、かつ、ブレーキペダル1に隣接して配置することで、咄嗟の際、特に運転者がパニックに陥ったような場合に、運転者の足Fがブレーキペダル1と間違えてアクセルペダル2だけを踏み込む可能性を低減することができる。
【0016】
図2は、本発明の別の作用を説明する図である。本発明のように幅H及び長さLを運転者の足Fに対して十分に小さくしたアクセルペダル2を、ブレーキペダル1の横に隣接配置することで、
図2に示すように、通常の運転時に運転者は、
図2中の実線で示すように足Fをアクセルペダル2に掛けて運転を行っているが、疾病などにより運転者が運転の途中で意識を失うと、運転者の足Fは、
図2中仮想線で示すように脚の筋力の弛緩により自然と外傾し(外傾方向を矢印Xで示す)、足Fがアクセルペダル2から自然に脱落する。そのため、意識喪失時にアクセルペダル2を踏み込むことによる車両暴走を防止することができる。
【0017】
また、アクセルペダル2の操作面2aの高さは、ブレーキペダル1の操作面1aよりも低い位置に位置させるとよい。これは現状の車両と同じであり、このような高低差を設けることで、従来の車両のブレーキペダル1やアクセルペダル2と同様に違和感無く操作することが可能になる。さらに、ブレーキペダル1に対するアクセルペダル2の前後位置は、図示するようにアクセルペダル2の前端がブレーキペダル1の前端とほぼ同じになるようにするとよい。
【0018】
[第二の実施形態]
この実施形態では、
図3に示すように、上記の第一の実施形態のアクセルペダル2よりもアクセルペダル2の幅Hをさらに小さくし、平均的なサイズの足Fを有する運転者の五本の指f1〜f5のうち、第一趾f1のみが掛かるようにする。大きなサイズ(28cm〜30cm程度)の足Fを有する運転者では、第一趾f1がアクセルペダル2から少しはみ出す可能性があるが、第一趾f1の中心はアクセルペダル2に載せることができ、操作に問題は生じない。
このように幅Hを第一の実施形態の場合よりも小さくすることで、ブレーキペダル1とアクセルペダル2の誤操作をより低減することができる。また、運転者の意識喪失による車両暴走の可能性もより低減することができる。
【0019】
[第三の実施形態]
本発明のように、ブレーキペダル1に隣接させてアクセルペダル2を配置し、アクセルペダル2の操作面2aの高さをブレーキペダル1の操作面1aよりも低い位置に位置させると、ブレーキペダル1とアクセルペダル2との間の隙間に足Fの指(特に第一趾f1)が入り込んでしまって、とっさの際に第一趾f1を前記隙間から上手く脱出させることができず、ブレーキペダル1を踏む操作が遅れる可能性が考えられる。
【0020】
そこでこの実施形態では、
図4に示すように、アクセルペダル2の操作面2aのブレーキペダル1側の端縁に、運転者の足Fの第一趾f1と当接して第一趾f1が前記隙間に入り込まないようにする当接部材3を設けている。当接部材3の幅及び高さは、第一趾f1と当接することで第一趾f1が前記隙間に入り込まないようにできる寸法であればばよい。また、当接部材3の上端は、ブレーキペダル1の操作面1aから上方に突出しないものとする。
【0021】
なお、アクセルペダル2を小さくしてブレーキペダル1に隣接させると、運転者にとってアクセルペダル2の位置がわかりづらくなる可能性があるが、このような当接部材3を設けることで、運転者は当接部材3に当接するまでブレーキペダル1側に足Fを移動させるだけでよく、アクセルペダル2の位置がわかりやすくなるという利点がある。
【0022】
[第四の実施形態]
ブレーキペダル1やアクセルペダル2に、横方向(
図1(a)及び
図3において紙面の左右方向)に「遊び」がある場合において、第三の実施形態のようにアクセルペダル2の操作面2aの端縁に当接部材3を設けると、ブレーキペダル1を操作させたときにブレーキペダル1の下面が当接部材3と干渉して不作為にアクセルペダル2を操作してしまうおそれがある。ブレーキペダル1とアクセルペダル2とが同時に操作されたときは、ソフトウェアを利用した制御によって、ブレーキペダル1の操作を優先させたりアクセルペダル2の操作を無効にするなどの処理が可能である。
【0023】
この実施形態では、これら制御とは別に又はこれら制御とともに、
図5に示すように、ブレーキペダル1の下面のアクセルペダル2側に半円柱状の干渉防止部材4を設けている。
そして、
図5(b)に示すように、ブレーキペダル1を踏み込むことによってその下面がアクセルペダル2の当接部材3と干渉すると、
図5(c)に示すように干渉防止部材4が当接部材3を介してアクセルペダル2をブレーキペダル1の外側に押し、ブレーキペダル1によってアクセルペダル2が操作されないようにする。
【0024】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明のアクセルペダル誤操作防止機構は上記の説明に限定されない。
例えば、上記の第三及び第四の実施形態では、アクセルペダル2側に当接部材3を設け、ブレーキペダル1側に干渉防止部材4を設けているが、ブレーキペダル1側に当接部材3を設けアクセルペダル2側に干渉防止部材4を設けてもよい。
また、本発明は、同様のブレーキペダル及びアクセルペダルを有するものであれば、車両に限らず船舶その他の輸送機械にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の誤操作防止機構の第一の実施形態にかかり、(a)はブレーキペダルとアクセルペダルとの位置関係及びアクセルペダルの大きさを説明する平面図、(b)はブレーキペダル及びアクセルペダルの操作面の高さ関係を説明する側面図である。
【
図2】本発明の誤操作防止機構の作用を説明する図で、意識喪失時に運転者の足がアクセルペダルから脱落する様子を説明する図である。
【
図3】本発明の誤操作防止機構の第二の実施形態にかかり、ブレーキペダルとアクセルペダルとの位置関係及びアクセルペダルの大きさを説明する平面図である。
【
図4】本発明の誤操作防止機構の第三の実施形態にかかり、(a)はアクセルペダルに当接部材を設けた側面図、(b)は(a)のI方向矢視図である。
【
図5】ブレーキペダルに干渉防止部材を設けた本発明の第四の実施形態にかかり、ブレーキペダルの操作に伴う干渉防止部材の作用を説明する図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ブレーキペダル
1a 操作面
2 アクセルペダル
2a 操作面
3 当接部材
4 干渉防止部材
F 足
f1 第一趾
f1a 母趾球
f2 第二趾