(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887639
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】撹拌装置、撹拌方法、細胞培養方法及び反応促進方法
(51)【国際特許分類】
B01F 13/08 20060101AFI20210603BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20210603BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20210603BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
B01F13/08 Z
C12M1/00 D
C12M3/00 A
C12N1/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-37577(P2017-37577)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-140375(P2018-140375A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000100838
【氏名又は名称】アイセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111257
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 栄二
(74)【代理人】
【識別番号】100110504
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】西村 智
(72)【発明者】
【氏名】望月 昇
(72)【発明者】
【氏名】田中 鋭治
【審査官】
山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−326066(JP,A)
【文献】
特開2014−023531(JP,A)
【文献】
特開2007−282629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 9/00−13/10
7/00− 7/32
C12M 1/00− 3/10
C12N 1/00− 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋により覆われた容器内に収容された流体を撹拌するための撹拌装置であって、
回転軸線を中心に回転することにより流体を撹拌する撹拌子と、前記撹拌子を回転させる回転磁場を発生させる回転磁場発生手段とを備え、
前記撹拌子は、流体を撹拌する混合体と、回転磁場を受ける磁石又は磁性体を備える台座とを有し、
前記混合体は、複数の混合エレメントを前記回転軸線方向に積層した積層物により構成し、
前記混合エレメントは、前記混合体内部の孔となる複数の第1の貫通孔を有し、
前記混合体において前記混合エレメントは、前記第1の貫通孔の一部又は全部が、隣接する混合エレメントの第1の貫通孔とその位置をずらせて部分的に重なり合うように配置され、且つ隣接する混合エレメントの第1の貫通孔との間で流体を流通可能に連通し、混合エレメントの積層方向と延在方向とに分割するように配置され、
前記撹拌子は、前記回転磁場発生手段により回転させられるように蓋上部の内平面に配設されて容器底部に接しない構成とする撹拌装置。
【請求項2】
前記混合体における前記混合エレメントは、第1の貫通孔より大きい第2の貫通孔を有し、
前記混合体には、前記第2の貫通孔が積層方向に連通し、流体を混合体内部に流入させるための中空部が形成されている請求項1に記載の撹拌装置。
【請求項3】
前記撹拌子における前記混合体は、固定手段により複数の混合エレメントが分解可能に積層状態に固定されるとともに、前記台座に固定されている請求項1又は2に記載の撹拌装置。
【請求項4】
前記撹拌子における前記混合体は、一体物により構成されている請求項1又は2に記載の撹拌装置。
【請求項5】
前記撹拌子を構成する前記混合体及び前記台座は、表面層がフッ素樹脂により形成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の撹拌装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載された撹拌装置を用いて蓋により覆われた容器内に収容された流体を撹拌する撹拌方法であって、
前記撹拌子を構成する混合体の外表面には、当該混合体内部の孔により繋がっている流体の吸入口及び吐出口を有し、
前記撹拌子を蓋上部の内平面に配設して回転させ、当該撹拌子がその吸入口から容器内の流体を吸い込み、当該撹拌子内部の孔に流体を流通させ、当該撹拌子の吐出口から容器内へ流出させて流体を撹拌する撹拌方法。
【請求項7】
請求項6に記載の撹拌方法による細胞培養方法であって、
前記容器内の流体を細胞培養液とし、
前記撹拌子により細胞培養液を撹拌する細胞培養方法。
【請求項8】
請求項7に記載の細胞培養方法において、
前記細胞培養液又は培養環境の温度を制御しながら細胞培養液を撹拌する細胞培養方法。
【請求項9】
請求項6に記載の撹拌方法による反応促進方法であって、
前記容器内の流体を反応溶液とし、
前記撹拌子により反応溶液を撹拌して反応を促進する反応促進方法。
【請求項10】
請求項9に記載の反応促進方法において、
前記反応溶液又は反応環境の温度を制御しながら反応溶液を撹拌する反応促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば小型の容器内に収容された流体を撹拌する撹拌装置、撹拌方法、細胞培養方法及び反応促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディッシュと呼ばれる小型容器は、底板とその外周に配される側壁から形成される平皿状の容器であって、蓋に覆われて微生物や細胞の培養、または広く試験研究用途に使用されている。培養のためにディッシュ内に収容された流体を撹拌するには、振盪や、マグネチックスターラーと棒状撹拌子を組み合わせたものがある(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−136443号公報
【特許文献2】特開2006−150221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体内部を模した生理的な震盪は、より細胞の分化・増殖を促すと期待されている。しかし、通常の一方向性・単調な振盪では容器内の流体が溢れ易く、棒状撹拌子ではあまり良く混合されない。また、付着細胞を培養する場合は、棒状撹拌子では容器底部の細胞を撹拌子の回転により傷付けてしまう。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、特に小型容器内の流体を効率的に迅速に撹拌することを可能とする撹拌装置、及び撹拌方法を提供することを目的とする。また、微生物や細胞を効率的に培養することを可能とする細胞培養方法や反応促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る撹拌装置は、
蓋により覆われた容器内に収容された流体を撹拌するための撹拌装置であって、
回転軸線を中心に回転することにより流体を撹拌する撹拌子と、前記撹拌子を回転させる回転磁場を発生させる回転磁場発生手段とを備え、
前記撹拌子は、流体を撹拌する混合体と、回転磁場を受ける磁石又は磁性体を備える台座とを有し、
前記混合体は、複数の混合エレメントを前記回転軸線方向に積層した積層物により構成し、
前記混合エレメントは、前記混合体内部の孔となる複数の第1の貫通孔を有し、
前記混合体において前記混合エレメントは、前記第1の貫通孔の一部又は全部が、隣接する混合エレメントの第1の貫通孔とその位置をずらせて部分的に重なり合うように配置され、且つ隣接する混合エレメントの第1の貫通孔との間で流体を流通可能に連通し、混合エレメントの積層方向と延在方向とに分割するように配置され
、
前記撹拌子は、前記回転磁場発生手段により回転させられるように蓋上部の内平面に配設されて容器底部に接しない構成とする。
【0007】
本発明に係る撹拌方法は、
前記撹拌装置を用いて蓋により覆われた容器内に収容された流体を撹拌する撹拌方法であって、
前記撹拌子を構成する混合体の外表面には、当該混合体内部の孔により繋がっている流体の吸入口及び吐出口を有し、
前記撹拌子を蓋上部の内平面に配設して回転させ、当該撹拌子がその吸入口から容器内の流体を吸い込み、当該撹拌子内部の孔に流体を流通させ、当該撹拌子の吐出口から容器内へ流出させて流体を撹拌する方法である。
前記撹拌方法においては、前記容器内の流体を細胞培養液とし、前記撹拌子により細胞培養液を撹拌する細胞培養方法や、前記容器内の流体を反応溶液とし、前記撹拌子により反応溶液を撹拌して反応を促進する反応促進方法とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、撹拌子の回転により容器内の流体の流れが乱されるので、容器内の流体を効率的に混合することができる。また、混合体内部において流体が分割されるので、流体を高度に混合し、容器内部の流体を効率的に混合することができる。また、生理的に類似の撹拌を起こさせることで、生体を再現し、目的とする反応を引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態による攪拌装置を示す断面図である。
【
図2】撹拌子を示す斜視図(
図2(a))及び側面図(
図2(b))である。
【
図3】台座を示す斜視図(
図3(a))及び側面図(
図3(b))であり、同図(c)は支持突起の変形例を示す側面図である。
【
図4】混合体を構成する混合エレメントを示す平面図である。
【
図5】混合体内部の流体の流動状態を示す模式図であり、同図(a)は半径方向の流動を示す平面模式図、同図(b)は積層方向の流動を示す断面模式図である。
【
図6】3Dプリンターで作製した一体物の撹拌子を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。
本発明の実施形態として、
図1に示す撹拌装置を用いた撹拌方法は、ディッシュと呼ばれる平皿状の容器6内に微生物や細胞等の培養液からなる流体Aを収容して蓋61により覆い、この培養液(流体A)を撹拌する細胞培養方法等に適用したり、また、容器6内に反応促進液からなる流体Aを収容して蓋61により覆い、この反応促進液(流体A)を撹拌して反応を促進する反応促進方法に適用することができる。この場合、細胞培養方法では、温度制御装置(図示せず)により培養液又は培養環境の温度を制御しながら撹拌することができ、また、反応促進方法では、温度制御装置(図示せず)により反応液又は反応環境の温度を制御しながら撹拌することができる。なお、本発明は、これらに限られるものではなく、各種の撹拌方法に適用することができる。
なお、本明細書において記載する方向として、「積層方向」とは、撹拌子1(混合体2、台座3を含む。)の回転軸方向や上下方向等と同義であり、「延在方向」とは、積層方向と直交する方向、混合エレメント21の半径方向や周方向等と同義である。
【0011】
図1に示す撹拌装置は、流体Aを撹拌するための撹拌子1と、撹拌子1を回転させるための回転磁場を発生させるマグネチックスターラー(回転磁場発生手段)4とを備えている。マグネチックスターラー4は、交流電源その他により駆動させられる。
【0012】
容器6を覆う蓋61の外平面61aにはマグネチックスターラー4が載置され、マグネチックスターラー4内のモータに取り付けられた磁石(図示せず)により吸引された撹拌子1は、蓋61の内平面61bに接するように配置されている。この撹拌子1は、マグネチックスターラー4からの回転磁場を受けて回転させられ、容器6内に収容する試料等の流体Aを撹拌するものである。撹拌子1は、
図2(a)(b)も参照して、回転軸線Sを中心に回転することにより流体Aを撹拌する混合体2と、混合体2を支持するとともに回転磁場を受ける撹拌用磁石5a,5bを内蔵する台座3とを備えている。なお、台座3は、撹拌用磁石5a,5bに代わる磁性体を備えていてもよい。撹拌子1の上下位置関係は、混合体2を上とし、台座3を下として、以下に説明するが、
図1の使用態様では、撹拌子1は、
図2に示した撹拌子1の状態とは上下位置が逆に配置され、
図1の撹拌子1においては、蓋61側を下部、容器6側を上部として
図2と対応する。
【0013】
台座3は、
図3(a)(b)に示すように、横置きにされる角柱状の棒状体31を備えている。棒状体31の上面両端部には、それぞれ、混合体2を取り付け固定するためのネジ筒部33が設けられている。また、棒状体31の両端部には、それぞれ、マグネチックスターラー4からの回転磁場を受ける撹拌用磁石5a,5bが収容されている。各撹拌用磁石5a,5bは、着磁方向が棒状体31の長手方向と直交する方向になるように配置され、且つ各撹拌用磁石5a,5bの磁極の位置が互いに逆位置となるように配置されている。すなわち、棒状体31の横置き状態では、例えば、一方の撹拌用磁石5aのN極が下面側に配置されている場合には、他方の撹拌用磁石5bの下面側にS極が配置される。撹拌用磁石5a,5bとしては、円柱型、リング型、または角型磁石を使用することができる。
【0014】
また、棒状体31には、撹拌子1の回転を安定させるために円環部32が設けられている。円環部32は、棒状体31の下面と面一となるように棒状体31の両端部に連設されている。棒状体31の下面の中央部には、蓋61上部の内平面61bと接触する円弧状の支持突起34が突設されている。これにより、撹拌子1は、支持突起34が回転中心となるため、回転時にほとんど移動せずに撹拌子1が支持される。そのため、撹拌子1と蓋61上部の内平面61bとの摩擦抵抗が非常に小さくなり、撹拌子1をスムーズに回転させることができる。
【0015】
円環部32の下面(棒状体31の連設部分も含む。)には、支持突起34の突出高さ以下で、円弧状の安定化突起を等間隔に2以上設けるようにしてもよい。この場合、回転時に支持突起34で支持されている撹拌子1の姿勢が斜めに傾いても、安定化突起が蓋61上部の内平面61bに接触して安定した姿勢に保つことができる。また、
図3(c)に示すように、支持突起34が棒状体31の下面全体にわたって形成されていてもよい。
【0016】
混合体2は、
図2(a)(b)に示すように、円板から構成される混合エレメント21を複数枚(ここでは4枚)積層した積層物により構成されており、積層した混合エレメント21を外周部の180度位置の2ヶ所でボルト11(固定手段)により台座3のネジ筒部33にそれぞれ締め付けて台座3に固定される。これにより、積層した複数の混合エレメント21が分解可能に一体化された混合体2を容易に構成するとともに台座3に固定される。また、複数の混合エレメント21が個々に分解可能に構成されることにより、各混合エレメント21に分解して混合エレメント21(後述の第1の貫通孔22、第2の貫通孔23等)に残存した残留物や異物の除去のような洗浄作業を容易に行うことができる。なお、複数の混合エレメント21を一体化する構造や混合体2の台座3への取付け構造としては、ボルト11による固定に限らず、凹凸の嵌め合い構造等のような分解可能な取付け方としてもよい。
【0017】
混合体2は、
図4に示すように、2種類の混合エレメント21a,21bを交互に積層して構成されており、これら2種類の混合エレメント21a,21bは、それぞれ、厚さ方向に貫通する第1の貫通孔22を複数有している。複数の第1の貫通孔22は、略円板形状の混合エレメント21a,21bの延在方向に延びる延在面に沿って設けられている。混合エレメント21a,21bの中央部には、第1の貫通孔22よりも開口面積が大きい第2の貫通孔23を有している。第2の貫通孔23は、略円形状に形成されており、混合エレメント21a,21bが積層されることにより、混合体2には、各第2の貫通孔23が連通した円筒状の中空部24が形成される。この中空部24の上部開口が流体Aの吸入口20αを構成する。中空部24の中心軸線は、撹拌子1の回転軸線Sと一致する。従って、吸入口20αは、回転軸線S上の位置に配置されている。なお、混合エレメント21a,21bは、
図2に示すものと周方向及び半径方向の仕切壁の数が異なってもよい。
【0018】
また、第1の貫通孔22は、平面視略矩形状に形成されており、第2の貫通孔23の中心点を中心として同心円状に配設されている。第1の貫通孔22は、千鳥状に配置され、2種類の混合エレメント21a,21bでは、第1の貫通孔22の配列パターン自体を異ならせている。一方の混合エレメント21aは、第1の貫通孔22が第2の貫通孔23の内周面では閉じられ、外周面では開放されているが、他方の混合エレメント21bは、第1の貫通孔22が第2の貫通孔23の内周面では開放され、外周面では閉じられている。混合エレメント21aの外周面に開放された第1の貫通孔22の各々が流体Aの吐出口20βを構成する。従って、吐出口20βは、中空部24の上端開口である吸入口20αよりも回転軸線Sより外側の位置(例えば、回転軸線Sに直交する半径方向外側の位置)に配置されている。
【0019】
第1の貫通孔22の大きさは、混合エレメント21a,21bの同一円周方向では同じ大きさに形成され、混合エレメント21a,21bの半径方向外側に向かうに従い大きくなるように形成することができる。また、2種類の混合エレメント21a,21bの重なり状態では、第1の貫通孔22が相互に重なり合った部分の面積は、円周方向において均等となっているが、非均等に形成することもできる。
【0020】
そして、混合体2において隣接する混合エレメント21a,21bの各々の第1の貫通孔22は、半径方向及び円周方向に部分的にずれて重なり合うように配置され、混合エレメント21a,21bの積層方向及び延在方向に連通されている。換言すれば、混合エレメント21a,21bの半径方向と円周方向とのそれぞれに延びる第1の貫通孔22間の仕切壁が、隣接する混合エレメント21a,21b相互間において位置を違えて配置されている。従って、混合体2内部は、流体Aを隣接する混合エレメント21a,21bの第1の貫通孔22間に順次通り抜けさせて、混合エレメント21a,21bの積層方向及び延在方向のそれぞれにおいて分割するように構成されている。このように、混合体2内部の複数の第1の貫通孔22は、吸入口20αとなる中空部24の上部開口と吐出口20βとなる混合エレメント21aの外周面に開放する第1の貫通孔22との間を繋ぐための複数の流路を構成している。
【0021】
混合体2を構成する混合エレメント21a,21bや台座3は、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂等の樹脂から作製されたものであるが、セラミック、金属等で作製されたものでもよい。混合エレメント21a,21bや台座3を樹脂製とすることにより、樹脂成形により混合エレメント21a,21bや台座3を容易に且つ安価に製造することができる。また、混合エレメント21a,21bや台座3がフッ素系樹脂以外の樹脂で作製されている場合は、コーティング等により表面層をフッ素系樹脂により形成してもよい。この場合、耐薬品性が向上する。
【0022】
一方、マグネチックスターラー4の内部には、2個の駆動用磁石を備えたモータが配設されている(図示せず。)。2個の駆動用磁石は、撹拌子1の台座3の撹拌用磁石5a,5bの着磁方向と同方向であって、かつ、各々の磁極(N極、S極)が互いに逆になるように配置されている。そして、モータの回転駆動により、2個の駆動用磁石が回転して回転磁場を発生させる。
【0023】
次に、以上の構成の撹拌子1を用いた流体Aの撹拌方法を説明する。
図1のように、流体Aが収容された容器6を覆う蓋61上部の外平面61a上にマグネチックスターラー4を載置して、蓋61上部の内平面61bに台座3側が接するように撹拌子1を配置させる。このとき、撹拌子1に収容された撹拌用磁石5a,5bがマグネチックスターラー4内部の駆動用磁石により吸着されるので、混合体2が容器6の底部に接することなく、撹拌子1が容器6内に浮いた状態となる。そして、マグネチックスターラー4のモータを駆動させ、モータに取り付けられた駆動用磁石を回転させる。そうすると、マグネチックスターラー4内部の回転する駆動用磁石から発生する回転磁場に、撹拌子1の台座3の撹拌用磁石5a,5bが吸引され、蓋61上部の内平面61bに接する撹拌子1が回転させられる。
【0024】
この撹拌子1の回転により、混合体2内部に保持されている流体Aは遠心力を受けて混合体2外周部方向へ流通し、混合体2の外周面に開く混合エレメント21aの第1の貫通孔22から混合体2外部へ流出する。一方、容器6内の流体Aは、混合体2が配置される容器6上部に向かって、混合体2の吸入口20αから中空部24内に流入する。中空部24内に流入した流体Aは撹拌子1の回転による遠心力を受け、中空部24の内周面に開く混合エレメント21bの第1の貫通孔22から混合体2内部に流入する。そして流体Aは、流入場所の第1の貫通孔22から当該第1の貫通孔22に連通する他の第1の貫通孔22を通り抜け、さらに、他の第1の貫通孔22に連通する第1の貫通孔22を通り抜けるというように混合体2内部を流通し、混合体2外周部の流出口20βから流出する。混合体2の流出口20βから流出した流体Aは、容器6内を循環して再び混合体2の吸入口20αから混合体2内部に取り込まれる。このようにして、流体Aが撹拌される。
【0025】
この場合、混合体2内部を流通する流体Aは、
図5(a)に示すように、混合エレメント21a,21bの複数の第1の貫通孔22を通り抜けて内周部から外周部に向かって略放射状に流通し、この際、流体Aは、混合エレメント21a,21bの延在方向に分割され、合流する。
【0026】
また、混合体2は、混合エレメント21a,21bを積層方向に複数備えるので、積層方向に連通する各第1の貫通孔22により流体Aを混合エレメント21a,21bの積層方向にも流通させる複数の流路が形成されている。従って、混合体2内部の流体Aは、第1の貫通孔22を通り抜ける際に、
図5(b)に示すように、混合エレメント21a,21bの積層方向にも流通し、この際、流体Aは、混合エレメント21a,21bの積層方向にも分割され、合流し、混合される。
【0027】
なお、混合体2は、混合エレメント21a,21bを積層方向に1枚ずつ備えていてもよい。混合エレメント21a,21bが1枚ずつ積層されていても、容器6内の流体Aは、混合体2の吸入口20αから中空部24内に流入し、撹拌子1の回転による遠心力を受け、中空部24から混合体2内部に流入し、連通する第1の貫通孔22を通り抜けて混合体2外周部の流出口20βから流出する。このようにしても、流体Aは、混合エレメント21a,21bの延在方向に分割され、合流して混合されるからである。
【0028】
こうして、混合体2内部における流体Aの流動は、混合エレメント21a,21bの延在方向への平面的すなわち二次元的な分割と合流だけではなく、混合エレメント21a,21bの積層方向にも広がりをもった三次元的に分割と合流が行われる。このような三次元的な流動により、流体Aは、分割、合流、乱流等を繰り返して混合される。混合エレメント21a,21bを1枚ずつ積層した場合には、平面的・二次元的な分割と合流が行われるが、この場合でも、流体Aは、分割、合流、乱流等を繰り返して混合される。また、流体Aは、混合体2内部で分割されるだけでもよい。この場合でも、混合体2から流出した流体Aは容器6内部で合流して、混合されるからである。
【0029】
ところで、従来のような、棒状やクロス状等の回転体からなる撹拌子では、撹拌子周辺部にはきわめて高いずり応力が発生し、ディッシュ(平皿状の容器6)により細胞等を培養する場合に細胞が損傷される。一方、容器6内の中央部は一様で比較的遅い流れとなり、十分な撹拌が得られないことが多い。
【0030】
これに対して、本実施形態の撹拌子1では、混合体2中央部において回転軸線S方向に貫通する中空部24を備えている。そのため、容器6内の中央部の流体Aは、混合体2の吸入口20αから中空部24内に吸い込まれ、混合体2内部で高度に撹拌されることにより迅速に混合される。
【0031】
この混合体2の中空部24は、第1の貫通孔22より開口面積の大きい第2の貫通孔23が積層して形成され、第1の貫通孔22に対して十分大きく開口している。それゆえ、中空部24への流体Aの流入抵抗は、吸入口20αに隣接する第1の貫通孔22に比べて小さい。また、混合体2の中空部24は、撹拌子1の回転中心部に位置するので、撹拌子1の回転により、この中空部24と対向する容器6内の流体Aを滞らせることなく吸入口20αを経て中空部24内に吸い込ませることができる。そして、中空部24内に吸い込まれた流体Aは、混合体2の回転による遠心力を受け、各第1の貫通孔22を通過することで、上述したように、混合エレメント21a,21bの積層方向及び延在方向へそれぞれ分割と合流を繰り返して高度に混合されて、混合体2外部へ流出する。
【0032】
以上より、このような混合体2を備える撹拌子1によれば、回転中心にある容器6内部の流体Aを迅速に撹拌し、流体A全体を効率よく撹拌することができ、その結果、容器6内の流体A全体を均一に撹拌するまでの時間を短くすることができる。また、撹拌子1が容器6底部に接触しないので、容器6底部に付着した細胞が損傷されることがない。さらに、倒立顕微鏡を用いれば、容器6下部から撹拌子1の動作中の撮影をすることも可能である。
【0033】
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で様々な変更を施すことが可能であり、例えば、以下のように変形することが可能である。
【0034】
混合体2は、複数の混合エレメント21を分解可能に積層した積層物ではなく、上述した第1の貫通孔22及び中空部24を設けた一体物により構成することができる。このような一体物の混合体2は、例えば、3Dプリンター装置により容易に作製することができる。また、他の混合体2として、第1の貫通孔22となる連続気孔を有する多孔質の一体物に、上述した中空部24を設けたものでもよい。撹拌子1は、台座3も混合体2とともに一体物として構成することができる。因みに、
図6に示した撹拌子1は、3Dプリンター装置により製作したアクリル系UV硬化樹脂製の撹拌子1であり、その台座3部分には撹拌用磁石5a,5bを埋め込んで接着したものである。
【0035】
また、マグネチックスターラー4の上に容器6を載置し、容器6内底部に撹拌子1を配置しても良い。このようにしても、容器6内の流体Aは撹拌子1により混合されるからである。また、浮遊細胞の培養であれば、撹拌子1を容器6内部の底部で回転させても、細胞を傷付け難いからである。
【0036】
以上の他の形態の混合体及び撹拌装置によっても、上述の実施形態と同様に、回転中心にある容器6内部の流体Aをも迅速に撹拌し、流体A全体を効率よく撹拌することができ、その結果、容器6内の流体A全体を均一に撹拌するまでの時間を短くすることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 撹拌子
2 混合体
3 台座
4 マグネチックスターラー
6 容器