(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は、第1実施形態に係るガラススライシング方法で用いる基板加工装置の構成を示す斜視図であり、(b)は、この基板加工装置のレーザ集光手段に配置されたレンズを説明する側面図である。
【
図2】第1実施形態に係るガラススライシング方法を行うことを説明する模式的な斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係るガラススライシング方法で、ガラス板に形成した改質層から剥離が生じることを説明する斜視図である。
【
図4】第2実施形態に係るガラススライシング方法で、ガラス板に形成した改質層から剥離が生じることを説明する斜視図である。
【
図5】実験例1で、改質層形成後に剥離が生じたガラス板を側面(
図2のU方向)から透過型顕微鏡で撮像した撮像図である。
【
図6】実験例1で、改質層から剥離することで形成された剥離面の観察を説明する説明図である。
【
図7】実験例1で、剥離面の凹凸形状の測定結果を示すチャート図である。
【
図8】実験例1で、透過率の測定結果を示すグラフ図である。
【
図9】実験例1で、表面粗さの測定結果を示すグラフ図である。
【
図10】実験例1で、ガラス板に形成した改質層から剥離が生じるときの作用を説明する説明図である。
【
図11】実験例2で、三次元状の改質層を形成して剥離を生じさせることを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、すでに説明したものと同一または類似の構成要素には同一または類似の符号を付し、その詳細な説明を適宜省略している。また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための例示であって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。この発明の実施の形態は、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0014】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態を説明する。
図1で、(a)は、本実施形態に係るガラススライシング方法で用いる基板加工装置の構成を示す斜視図であり、(b)は、この基板加工装置のレーザ集光手段に配置されたレンズを説明する側面図である。
図2は、本実施形態に係るガラススライシング方法を行うことを説明する模式的な斜視図である。
図3は、本実施形態に係るガラススライシング方法で、ガラス板に形成した平面状の改質層から剥離が生じることを説明する斜視図である。
【0015】
基板加工装置10は、上下方向位置が調整可能な載置台12に載置された加工対象材(本実施形態では、ガラス材としてガラス板を用いる)を保持するZステージ14と、Zステージ14をY方向に移動可能に支えるYステージ16と、Yステージ16をX方向に移動可能に支えるXステージ18とを備える。
【0016】
また、基板加工装置10は、載置台12上の基板保持具13に保持されたガラス板20に向けてレーザ光Bを集光するレーザ集光手段22(例えば集光器)を備える。レーザ集光手段22には、レーザ発振装置から出射したレーザ光が入射するようになっている。
【0017】
レーザ集光手段22は、補正環24と、補正環24内に保持された集光レンズ26(例えば、空気中で集光する第1レンズ28と、この第1レンズ28とガラス板20との間に配置される第2レンズ30とで構成されるレンズ)とを備えていて、ガラス板20の屈折率に起因する収差を補正する機能、すなわち収差補正環としての機能を有している。具体的には、
図1(b)に示すように、集光レンズ26は、空気中で集光した際に、集光レンズ26の外周部Eに到達したレーザ光Bが集光レンズ26の中央部Mに到達したレーザ光Bよりも集光レンズ側で集光するように補正する。つまり、集光した際、集光レンズ26の外周部Eに到達したレーザ光Bの集光点EPが、集光レンズ26の中央部Mに到達したレーザ光Bの集光点MPに比べ、集光レンズ26に近い位置となるように補正することが可能になっている。このような補正を行うと、レーザ光の集光によって形成される加工痕のレーザ照射方向における長さを短く、すなわち改質層32(後述)の厚みを薄くし易い。
【0018】
以下、本実施形態でガラススライシング方法を行うことを説明する。まず、Zステージ14上に載置されて保持された加工対象のガラス板20の被照射面20r上に、レーザ集光手段22を非接触に配置する第1工程を行う。
【0019】
そして、レーザ集光手段22によりガラス板20内部にレーザ光Bを集光しつつ、レーザ集光手段22とガラス板20とを相対的に移動させて、ガラス板20内部に改質層32を形成する第2工程を行う。本実施形態では、レーザ集光手段22とガラス板20とをX−Y平面内(二次元平面内)で相対的に移動させることで改質層32を平面状に形成する(
図2、
図3参照)。
【0020】
第2工程では、レーザ光Bの集光位置のガラス板部分20pに光子吸収させて温度上昇させることで膨張させ、更に、温度低下により収縮部20cを形成させて収縮部20cの周囲に残留応力を発生させていくことによって上記の改質層32を形成する。そして、収縮部20cの周囲に残留応力が発生していることにより、時間の経過に伴って、改質層32を伝播するクラックを生じさせる。
【0021】
本実施形態では、上記温度上昇でガラス転移点以上の温度にまで上昇させた後、自然に冷却(放置状態にすることで冷却)させることで固化させることによって収縮部20cを形成している。なお、上記ガラス板部分20pがこのように固化して収縮部20cになると、収縮部20cの表面(外面)は、通常、凸面状となっている。
【0022】
ガラスには、ガラス転移点が存在しており、このガラス転移点以上の温度になると急激に熱膨張係数が上がって急激に膨張する。このようにして急激に膨張したガラス板部分20pは、放置状態にすることで冷却、すなわち比較的急冷で冷却されると、収縮して収縮部20cとなるが、溶融前に比べ、体積が大きい。このため、収縮部20cの周囲のガラス部分には残留応力が存在している。
【0023】
ガラス板20にこの残留応力が生じていることで、時間の経過に伴って、改質層32を伝播するクラック(例えば収縮部20c同士を繋ぐクラック)が生じる。この結果、改質層32から自然に剥離し、
図3に示すように、2枚のガラス板20u、20vが得られる。
【0024】
よって、本実施形態により、レーザ光Bによりガラス板20をスライシング加工することができる。また、加工対象材の材質がガラスであるので、レーザ光Bの照射と同時に改質層32から剥離するのではなく、照射後、時間の経過に伴って、改質層32を伝播するクラックが生じることで改質層32から剥離している。従って、レーザ光Bの照射と同時に剥離する場合に比べ、剥離形態が異なっており、剥離面Su、Svが粗くなり難い。
【0025】
また、本実施形態では、レーザ光Bを集光させる際に、被照射面20rから所定の深さ位置となるように集光位置を予め調整しておく。本実施形態では、改質層32を平面状に形成するので、所定厚みのガラス板20uを得ることができる。
【0026】
また、レーザ光Bの走査方向P(本実施形態ではY方向)に隣り合う集光位置の間隔(収縮部20cの間隔)であるドットピッチDP、および、レーザ光Bの走査方向に直交する方向に隣り合う集光位置の間隔であるラインピッチLPは、ガラス板20の材質、レーザ光Bの強度、パルス幅などに応じて、改質層32から良好な剥離がなされるように設定する。
【0027】
また、レーザ光Bを発光するレーザ装置としては、超短パルスレーザ装置(例えばフェムト秒レーザ装置)を用いることが好ましい。これにより、光子吸光させて局部的に熱を与えるガラス板部分20pを微細な寸法に設定でき、また、ガラス板部分20p以外で生じる熱を抑え易い。
【0028】
また、本実施形態では、ガラス材として平板状のガラス板20を加工対象材としている。従って、改質層32を二次元平面状にしてガラス板20をスライスすることで、所望の薄厚のガラス板20uを容易に得ることが可能である。
【0029】
また、レーザ集光手段22は、補正環24と、補正環24内に保持された集光レンズ26とを備えていて、ガラス板20の屈折率に起因する収差を補正する機能、すなわち収差補正環としての機能を有している。これにより、レーザ光の集光によって形成される加工痕のレーザ照射方向における長さを短くし易い、すなわち改質層32の厚みを薄くし易い。
【0030】
なお、本実施形態では、改質層32を平面状に形成する例で説明したが、湾曲凸状、湾曲凹状などの三次元形状に形成してもよい。
【0031】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態を説明する。
図4は、本実施形態に係るガラススライシング方法で、ガラス板に形成した三次元状の改質層から剥離して三次元状の剥離面が生じることを説明する斜視図である。
【0032】
本実施形態では、第1実施形態で説明した基板加工装置10を用い、レーザ集光手段22によりガラス材40内部にレーザ光Bを集光しつつ、レーザ集光手段22とガラス材40とを相対的に移動させて、ガラス材40内部に三次元状の改質層42を形成する第2工程を行う。本実施形態では、
図4に示すように、非球面レンズのレンズ面に合わせた形状の改質層42を加工対象のガラス材40内部に形成する。
【0033】
この第2工程を行う際、第1実施形態と同様、レーザ光の集光位置のガラス材部分に光子吸収させて温度上昇させることで膨張させ、更に、温度低下により収縮部を形成させて収縮部周囲に残留応力を発生させていくことによって改質層42を形成する。ここで、改質層42を形成する際、第2工程では、レンズ中心位置からの半径距離に応じてガラス材40内での焦点深さ位置を調整する。この結果、改質層42の収縮部の周囲に、第1実施形態で説明した残留応力が発生している。
【0034】
この結果、時間の経過に伴って改質層42に沿ったクラックが伝播することで全て滑らかな剥離面Svが自然に生じる。すなわち、
図4に示すように、剥離面Svが非球面レンズのレンズ面に対応しているガラス部材40v(レンズ部材)を得ることができる。従って、大量生産に適したガラスモールドではなく、多品種少量生産に適したレーザ光を用いてガラス非球面レンズを製造することができる。非球面レンズのレンズ面は、収差をなくすために、曲率が互いに異なるいくつかの球面を組み合わせた曲面にされることが多いので、本実施形態のようにしてガラス非球面レンズを製造できることによって得られる効果は大きい。
【0035】
本実施形態では、第1実施形態と同様、上記温度上昇でガラス転移点以上の温度にまで上昇させた後、自然に冷却(放置状態にすることで冷却)させることで固化させることによって収縮部を形成している。
【0036】
また、上述のドットピッチおよびラインピッチは、ガラス板20の材質、レーザ光Bの強度、パルス幅、意図した剥離面形状などに応じて、改質層42から良好な剥離がなされるように設定する。
【0037】
また、レーザ光Bを発光するレーザ装置としては、第1実施形態と同様、超短パルスレーザ装置(例えばフェムト秒レーザ装置)を用いることが好ましい。
【0038】
また、第1実施形態と同様、レーザ集光手段22は、収差補正環としての機能を有しており、レーザ光の集光によって形成される加工痕のレーザ照射方向における長さを短くし易い、すなわち改質層42の厚みを薄くし易い。
【0039】
なお、本実施形態では、改質層42として、意図した剥離面形状(すなわち非球面レンズ形状)に沿って階段状に細長状剥離層を形成してもよい。これにより、改質層42に沿ったクラックが伝播することで、全て滑らかな剥離面Svと同様の面を生じさせることが可能である。
【0040】
<実験例1>
本発明者は、第1実施形態に係るスライシング方法で、加工対象のガラス板20の被照射面20rに全面にわたってレーザ光を照射し、基板内部に平面状に配列される収縮部20cを形成することで改質層32(
図1、
図3参照)を形成した。
【0041】
本実験例で用いたレーザ装置(レーザ発振器)、ガラス板20、集光レンズ26を以下に示す。
レーザ発振器:フェムト秒レーザ(Light Conversion社製のPHAROS-4W)
ガラス板20の材質:BK-7
ガラス板20の厚み:1.54mm
集光レンズ26:N.A.0.55
【0042】
また、本実験例でのレーザ光の照射条件を以下に示す。
波長(nm):513
周波数(kHz):200
パルス幅(fs):216
レーザ出力(mW):200
基板表面からの焦点深さ(μm):500
ドットピッチ(μm):0.5
ラインピッチ(μm):3
【0043】
レーザ光の照射後、時間の経過とともに、ガラス板20の表面、すなわちBK−7のガラス基板の表面が剥離して2枚のガラス板が得られた。
【0044】
図5に、
図2のU方向から透過型顕微鏡で撮像した撮像図を示す。
図5から判るように、改質層32の厚みtが約40μm程度であり、この改質層32内で改質層32に沿って剥離が進んでいることが判った。
【0045】
また、
図6は、本実験例で、改質層から剥離することで形成された剥離面の観察を説明する説明図である。
図6に示すように、剥離面Svでは、一定の間隔で直線状に真っ直ぐに延びる凸部と凹部とが交互に配列されていることが観察された。そして、SiC基板内部にレーザ光を集光することで加工痕を配列して基板面側を剥離(スライシング)させた場合に形成される、クラックが連鎖した粗い面は、ガラス板20では観察されなかった。
【0046】
図7に、
図6の線G−Gに沿って光干渉式粗さ測定機で測定して得られたチャート図を示す。
図7からも判るように、剥離面Svでは一定の間隔で直線状に延びる凸部と凹部とが交互に配列されている。
【0047】
ここで、本発明者は、ガラス基板(BK−7)の透過率と、シリコン基板の透過率との差について着目した。そして、シリコン基板に同様にしてレーザ光を照射して改質層を形成し、ガラス基板とシリコン基板とについて、剥離前後の光の透過率を測定した。測定結果を
図8に示す。シリコン基板では剥離後、波長1200mmでは剥離前に比べ、透過率が60%程度減少していた。
【0048】
次に、ガラス基板とシリコン基板について、剥離面の表面粗さを測定した。測定結果を
図9に示す。剥離前では表面粗さの差はあまりないが、剥離後では、ガラス基板の表面粗さが5.1mmRaであるのに対し、シリコン基板の表面粗さは330mmRaであった。
【0049】
従って、本実験例により、シリコン基板に比べ、ガラス基板(BK−7)の剥離形態が大きく異なることが推測される。
【0050】
ここで、ガラスにはガラス転移点が存在しており、レーザ光の照射によってガラスが加熱されると、ガラス転移点の温度から急激に熱膨張係数が上昇し、膨張する。膨張したガラスは急冷されると収縮するが、元の形状には戻らない。従って、膨張する前よりも体積が大きくなった収縮部20c(
図2参照)の周囲には引張応力F(
図10参照)が残留応力として存在していると考えられる。そして、クラックの一部が基板内部から基板外部にまで到達すると、時間経過とともにこの残留応力が作用する。この結果、加工面で横方向の割断が生じたことにより剥離したと考えられる(
図10参照)。
【0051】
従って、本実験例での剥離は、SiC基板内部にレーザ光で加工痕を配列したときのように加工と同時にクラックが連鎖して剥離する形態とは異なった形態で剥離していると考えられる。
【0052】
<実験例2>
本発明者は、第2実施形態で説明したガラススライシング方法で、加工対象である基板状のガラス材50の被照射面50rに全面にわたってレーザ光を照射し、ガラス材50に配列される収縮部を三次元状に形成することで改質層52を形成した(
図11参照)。本実験例では、加工対象基板として互いに平行な両側面を有するガラス材50を用い、両側面と同方向に延びる水平な細長状改質層52pを階段状に形成することで改質層52を形成した。
【0053】
この改質層52には、一方の側面から中央部にかけて形成高さ位置が階段状に高くなり、中央部から他方の側面にかけて形成高さ位置が階段状に低くなるように細長状改質層52pが配置されている。
【0054】
そして、改質層52の形成後、時間の経過に伴って、改質層52から自然に剥離して、ガラス材50の下部側からは中央部が高い山型のガラス部材50uが得られ、ガラス材50の上部側からは中央部が谷となる谷型のガラス部材50vが得られた。そして、改質層52がこのように階段状に形成されていても、山型のガラス部材50uの斜面50us、および、谷型のガラス部材50vの斜面50vsは、何れも全て滑らかな剥離面であった。そして、斜面50us、50vsは、細長状改質層52pが階段状に配置された方向に沿って形成されていた。