【実施例】
【0049】
[実施例1]
1.ダルマギク抽出物の調製(1)
採取後、乾燥処理されたダルマギク植物体から葉部及び茎部を回収し、粉砕機で粉砕した。この粉砕物100gを2リットル容量のガラス容器に入れ、更に50w/w%含水エタノール溶液1000gを加えて混合し、ダルマギクの葉部及び茎部粉砕物を含水エタノール溶液に浸漬させた状態で密閉した。約20〜25℃の室温にて7日間静置した後、ろ過して残渣を取り除き、ダルマギクの葉部及び茎部抽出液を得た。得られた抽出液1g当たりの乾燥固形分量は27.7mgであり、抽出液1mL当たりの乾燥固形分量は24.8mgであった。
【0050】
[実施例2]
2.ダルマギク抽出物の調製(2)
採取後、乾燥処理されたダルマギク植物体から花部のみを回収し、粉砕機で粉砕した。この粉砕物100gを2リットル容量のガラス容器に入れ、更に50w/w%含水エタノール溶液1000gを加えて混合し、ダルマギクの葉部及び茎部粉砕物を含水エタノール溶液に浸漬させた。約20〜25℃の室温にて7日間静置した後、ろ過して残渣を取り除き、ダルマギクの花部抽出液を得た。得られた抽出液1g当たりの乾燥固形分量は31.1mgであり、抽出液1mL当たりの乾燥固形分量は27.8mgであった。
【0051】
[実施例3]
3.ランゲルハンス細胞様細胞におけるCD39発現促進作用の検討
ランゲルハンス細胞は、試験利用できる状態で、ヒト皮膚組織から分離すること及び長時間培養することが困難な細胞である。そのため、ランゲルハンス細胞の代替として、ランゲルハンス様細胞であるTHP−1細胞が、皮膚感作アッセイ等のランゲルハンス細胞に関する試験において多く用いられている(Corinna Tietz et al., “Sensitization Assays: Monocyte-Derived Dendritic Cells Versus a Monocytic Cell Line (THP-1)”, Journal of Toxicology and Environmental Health, Part A, Vol. 71, 2008年, p.965-968、Yuko Nukada et al., “The relationship between CD86 and CD54 protein expression and cytotoxicity following stimulation with contact allergen in THP-1 cells”, Journal of Toxicological Sciences, Vol.36, No.3, 2011年, p. 313-324、Jenny Hennen et al., “Cross talk between keratinocytes and dendritic cells: impact on the prediction of sensitization”, Toxicological Sciences, Vol.123, No.2, 2011年, p. 501-510、Elodie Clouet et al., “The THP-1 cell toolbox: a new concept integrating the key events of skin sensitization”, Archives of Toxicology, Vol.93, No.4, 2019年, p. 941-951、及びNathalie Lambrechts et al., “THP-1 monocytes but not macrophages as a potential alternative for CD34+ dendritic cells to identify chemical skin sensitizers”, Toxicology and Applied Pharmacology, Vol.236, No.2, 2009年, p. 221-230等)。そして、上述した特許文献1においても、ランゲルハンス細胞の代替としてTHP−1細胞が用いられている。そこで、本実施例においても、ランゲルハンス細胞様細胞であり、CD39を発現するTHP−1細胞を用いてCD39発現促進効果を調べた。
【0052】
24ウェル細胞培養プレートの各ウェル(3.34mL容量/ウェル)に約10万個のTHP−1細胞(ATCC(登録商標)番号:TIB−202)をそれぞれ播種し、10%FBS含有RPMI−1640培地を998μL添加して、24時間培養した。その後、以下表1に示す配合量にて実施例1で調製したダルマギクの葉部及び茎部抽出液と50w/w%含水エタノールとを混合して2μLずつウェルに添加し、培地におけるダルマギク抽出液の濃度を0%(対照)、0.05%、0.1%又は0.2%とした。添加後、24時間培養を行った。試験は各濃度についてN=4で行った。
【0053】
【表1】
【0054】
培養終了後、各ウェルからTHP−1細胞を回収し、トータルRNA精製キット(FastGene RNA精製キット、日本ジェネティクス株式会社製品)を用いてトータルRNAを得た。次に、cDNA合成キット(ReverTra Ace、東洋紡株式会社製品)を用いて、各トータルRNAからcDNAを合成した。このcDNAを用い、リアルタイムPCR(QPCR)によりCD39の発現量を測定した。
【0055】
QPCRは、市販のQPCR試薬キット(PrimeTime(登録商標)Gene Expression Master Mix、Integrated DNA Technologies株式会社製品)とQPCR測定装置(LightCycler(登録商標)96、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製品)を用いて行った。QPCR用CD39プライマー及びプローブは下記表2に示す配列番号1〜3のプライマー及びプローブを用いた。他方、ハウスキーピング遺伝子であるヒト グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を内部標準として選択し、上述したCD39プライマー及びプローブに替えて下記表2に示す配列番号4〜6のプライマー及びプローブを用いてQPCRを行った。いずれのプローブも3´末端に末端クエンチャーとしてIBFQが付加され、5´末端から9塩基−10塩基の間に中間クエンチャーとしてZENが付加されたダブルクエンチャーシステムによるプローブを使用した(Integrated DNA Technologies株式会社製品)。なお、CD39用プローブ(配列番号3)の5´末端に付加された蛍光色素はFAMであり、GAPDH用プローブ(配列番号6)の5´末端に付加された蛍光色素はHEXであった。内部標準であるGAPDHの発現量から相対発現量を算出し、CD39の発現量とした。結果を
図1に示す。なお、
図1では、抽出液を添加していない対照(濃度0%)のTHP−1細胞におけるCD39発現量を1.00としたときの値を示している。
【0056】
【表2】
【0057】
ダルマギク抽出液として、実施例2で調製したダルマギクの花部抽出液を用いたほかは、上述と同様の材料及び方法にて、CD39の発現量を測定した。この結果を
図2に示す。なお、
図2においても、抽出液を添加していない対照(濃度0%)のTHP−1細胞におけるCD39発現量を1.00としたときの値を示している。
【0058】
図1に示すように、ダルマギクの葉部及び茎部抽出液をランゲルハンス様細胞であるTHP−1細胞に添加したところ、抽出液の添加濃度に比例してCD39の発現量が増加することが明らかとなった。ダルマギクの葉部及び茎部抽出液を添加した場合、未添加の対照(0%)と比較して、抽出液濃度0.05%では1.24倍、0.1%では1.65倍、0.2%では1.90倍ものCD39発現量の増加が見られた(p<0.01)。
【0059】
また、
図2に示すように、ダルマギクの花部抽出液をTHP−1細胞に添加した際においても、抽出液の添加濃度に比例してCD39の発現量が増加した。ダルマギクの花部抽出液を添加した場合、未添加の対照(0%)と比較して、抽出液濃度0.05%では1.16倍、0.1%では1.44倍、0.2%では1.70倍ものCD39発現量の増加が見られた(p<0.01)。
【0060】
[比較例1]
4.クジャクソウ抽出物のCD39発現促進作用の検討
ダルマギク(Aster spathulifolius)と同じシオン属(Aster)であるクジャクソウ(Aster hybrids)を用いて、クジャクソウ抽出物を調製し、そのCD39発現促進効果を調べた。
【0061】
採取後、乾燥処理されたクジャクソウ植物体から葉部、茎部及び花部を回収し、粉砕機で粉砕した。この粉砕物20gを0.5リットル容量のガラス容器に入れ、更に50w/w%含水エタノール溶液200gを加えて混合し、含水エタノール溶液に浸漬させた状態で密閉した。約20〜25℃の室温にて4日間静置した後、ろ過して残渣を取り除きクジャクソウ抽出液を得た。
【0062】
24ウェル細胞培養プレートの各ウェル(3.34mL容量/ウェル)に約10万個のTHP−1細胞(TIB−202)をそれぞれ播種し、10%FBS含有RPMI−1640培地を998μL添加して、24時間培養した。この時点におけるTHP−1細胞の継代数は4(P4)であった。その後、50w/w%含水エタノール1μLと、調製したクジャクソウ抽出液1μL又は実施例1で調製したダルマギクの葉部及び茎部抽出液1μLとの混合液2μLをウェルに添加し、24時間培養を行った。培地における抽出液濃度はいずれも0.1%である。他方、対照として、50w/w%含水エタノールのみを2μLウェルに添加し、24時間培養を行った。試験はN=2で行った。培養終了後、各ウェルから細胞を回収し、実施例3と同様の材料及び方法にて、リアルタイムPCRを行ってCD39の発現量を測定した。
【0063】
さらに、試験に用いたTHP−1細胞の継代数を19(P19)とした以外は、上述と同様の材料及び方法にて、CD39の発現量を測定した。これらの結果を
図3に示す。なお、継代数P4又はP19のいずれにおいても、対照(抽出液未添加)のTHP−1細胞におけるCD39発現量を1.00としたときの値を示している。
【0064】
図3に示すように、THP−1細胞の継代数が4の場合、未添加の対照(0%)と比較して、ダルマギクの葉部及び茎部抽出液(0.1%)については1.60倍のCD39発現量の増加がみられたが、クジャクソウ抽出液(0.1%)については0.87倍とCD39発現量の増加はみられなかった。また、THP−1細胞の継代数が19と長期継代された細胞を用いた場合においても、未添加の対照(0%)と比較して、ダルマギクの葉部及び茎部抽出液(0.1%)については1.49倍のCD39発現量の増加がみられたが、クジャクソウ抽出液(0.1%)については0.97倍とCD39発現量の増加はみられなかった。
【0065】
このように、同じキク科シオン属の植物であってもCD39発現促進作用は共通しておらず、ダルマギク抽出物のみにCD39発現促進作用がみられることがわかった。さらに、本比較例では、継代数が異なる2種類のTHP−1細胞を用い、継代数19と長期間に亘り培養継続されたTHP−1細胞を用いた試験を行ったが、このように長期間培養された細胞を用いた場合においても、ダルマギク抽出物のCD39発現促進効果は高く維持されることがわかった。
【0066】
[比較例2]
5.他のキク科植物抽出物のCD39発現促進作用の検討
ダルマギクはキク科シオン属に分類されるところ、下記表3に示す他のキク科植物の抽出物についてもCD39発現促進効果を調べた。試験は実施例3と同様の方法で行い、各植物抽出液の添加濃度は0.1%とした(50w/w%含水エタノール1μLと各植物抽出液1μLの混合液2μLをウェルに添加)。結果を
図4のグラフに示す。なお、いずれの抽出液においても、対照(抽出液未添加)のTHP−1細胞におけるCD39発現量を1.00としたときの値を示しており、グラフには、比較のために実施例1で調製したダルマギクの葉部及び茎部抽出液のデータを示している。
【0067】
【表3】
【0068】
図4に示すように、本比較例で試験を行ったキク科植物抽出液については、CD39発現量の増加はみられず、CD39発現促進効果は確認されなかった。このように、同じキク科物であってもCD39発現促進作用は共通しておらず、ダルマギク抽出物のみにCD39発現促進作用がみられることがわかった。
【0069】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。