特許第6887658号(P6887658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887658
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】吸着パッド
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
   B25J15/06 K
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-172426(P2016-172426)
(22)【出願日】2016年9月5日
(65)【公開番号】特開2018-39056(P2018-39056A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年7月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代ロボット中核技術開発/(革新的ロボット要素技術分野)次世代機能性材料/機能性ポリマーを用いた移動ロボットの吸着機構の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 敏男
【審査官】 稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−238292(JP,A)
【文献】 特公昭59−028193(JP,B2)
【文献】 特開2015−077655(JP,A)
【文献】 特開2008−074565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負圧により被吸着面に吸着する吸着パッドであって、
負圧吸引される吸引孔を中央に形成する筒状に形成され、一方の端面が被吸着面に当接する吸着面とされている吸着部と、
前記吸着部の前記吸着面とは反対側の面に隣接して設けられる液体供給部と、を備えており、
前記吸着部は、連続気泡構造を有し、容積空隙率65%〜84%、連続気泡の平均孔径150μm〜600μmの弾性を有する多孔質体であり、吸着時には、連続気泡内に貯留されたシール液体が前記吸着面から滲み出て、前記吸着面と前記被吸着面との間に液体シールを形成し、
前記液体供給部は、前記連続気泡に連通する平均直径50μm〜200μmの複数の毛細管を形成するとともに、前記複数の毛細管内に前記シール液体を流通して前記吸着部に前記シール液体を供給することを特徴とする吸着パッド。
【請求項2】
前記液体供給部に隣接して設けられ、前記毛細管に連通する空間を形成するとともに、前記液体供給部に供給するシール液体を前記空間内に貯留する液体貯留部を備えていることを特徴とする請求項記載の吸着パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着パッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の吸着パッドを開示している。この吸着パッドは弾性体の内シール壁を備えている。内シール壁の外周部には、内シール壁よりも硬質な弾性体の外シール壁が設けられている。外シール壁の吸着面は、内シール壁の吸着面よりも高い位置に設定されている。また、外シール壁と内シール壁の間には保水弾性体が設けられている。吸着パッドは、吸着時に内シール壁及び外シール壁が被吸着面の凹凸に沿って変形し、この変形によって保水弾性体を収縮させることで、内シール壁と外シール壁の間から液体を流出して液体シール壁を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−77655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の吸着パッドは、液体シールとなるシール液体が内シール壁と外シール壁の間から線状に流出する。このため、十分な液体シールを形成することができず、凹凸面の程度によっては、十分な吸着力を得られないおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、粗面や凹凸面において安定した吸着を実現することができる吸着パッドを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の吸着パッドは、負圧により被吸着面に吸着する吸着パッドであって、
負圧吸引される吸引孔を中央に形成する筒状に形成され、一方の端面が被吸着面に当接する吸着面とされている吸着部を備えており、
前記吸着部は、連続気泡構造を有し、容積空隙率65%〜84%、連続気泡の平均孔径150μm〜600μmの弾性を有する多孔質体であり、吸着時には、連続気泡内に貯留されたシール液体が前記吸着面から滲み出て、前記吸着面と前記被吸着面との間に液体シールを形成することを特徴とする。
【0007】
この吸着パッドは、連続気泡構造を有する多孔質体の吸着部を備えている。吸着部は弾性を有している。また、吸着部は、容積空隙率65%〜84%、連続気泡の平均孔径150μm〜600μmに形成されている。そして、吸着時には、連続気泡内に貯留されたシール液体が吸着面から滲み出て吸着面と被吸着面との間に液体シールを形成する。このため、この吸着パッドは、吸着時には、シール液体によって湿潤した吸着部が被吸着面に合わせて変形するとともに、吸着面と被吸着面の間に形成される液体シールにより気密性が確保される。これにより、被吸着面が粗面や凹凸面であっても、被吸着面と好適に密着することができ、負圧状態を維持することができる。
【0008】
したがって、吸着パッドは、粗面や凹凸面において安定した吸着を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係る吸着パッドが取り付けられたロボット装置を模式的に示す図である。
図2】実施例1に係る吸着パッドを模式的に示す縦断面図である。
図3】実施例1に係る吸着パッドを被吸着面に吸着させた状態を模式的に示す図である。
図4】実施例1に係る吸着部及び液体供給部を模式的に示す拡大図である。
図5】実施例2に係る吸着パッドを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
本発明の吸着パッドは、吸着部の吸着面とは反対側の面に隣接して設けられ、連続気泡に連通する平均直径50μm〜200μmの複数の毛細管を形成するとともに、これらの毛細管内にシール液体を流通して吸着部にシール液体を供給する液体供給部を備える。この場合、液体シールとして消費したシール液体の消費量に応じて、液体供給部から吸着部にシール液体を一定量ずつ供給することができる。このため、継続的に、安定した吸着を実現することができる。また、毛細管の毛細管力により、吸着面からシール液体が過度に滲出しようとするのを防止することができる。
【0011】
本発明の吸着パッドは、液体供給部の吸着部に隣接する面とは反対側の面に隣接して設けられ、毛細管に連通する空間を形成するとともに、この空間内に液体供給部に供給するシール液体を貯留する液体貯留部を備え得る。この場合、吸着部に供給したシール液体の供給量に応じて、液体貯留部から液体供給部にシール液体を供給することができる。このため、より継続的に、安定した吸着を実現することができる。
【0012】
次に、本発明の吸着パッドを具体化した実施例1及び2について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
<実施例1>
本実施例の吸着パッド1は、負圧により被吸着面Wに吸着する吸着パッドである。吸着パッド1は、図1に示すように、ロボット100の吸着機構に用いられる。ロボット100は、インフラ点検やビル清掃等を行うためのロボットであり、ビルの外壁や橋梁の裏面などを吸着パッド1により吸着しつつ移動する。吸着パッド1は、コンクリート面、錆や砂などの付着した面、自然石の表面など、多様な表面性状の被吸着面Wを対象として吸着する。
図2に示すように、吸着パッド1は吸着部10を備えている。また、吸着パッド1は、液体供給部20及び液体貯留部30を備えている。
【0014】
吸着部10は、図2及び図3に示すように、負圧吸引される吸引孔11を中央に形成する円筒状に形成されている。吸引孔11は、連通孔11Aを介して、図示しない負圧発生源に連通している。吸着部10は、一方の端面が被吸着面Wに当接する吸着面12とされている。吸着部10はエラストマーからなり、弾性を有する。また、吸着部10は、連続気泡構造を有する多孔質体である。吸着部10は、連続気泡Pの平均孔径が500μm、容積空隙率が約75%とされている。連続気泡Pは、吸着部10の吸着面12から背面13まで連続して形成されている。そして、吸着部10は、この連続気泡P内にシール液体としての水を貯留する。図3に示すように、吸着部10は、吸着時には、カタツムリの腹足のように、シール液体としての水を吸着面12から滲み出すことで、吸着面12と被吸着面Wとの間に液体シールSを形成する。
【0015】
吸着部10となるエラストマーの多孔質体は、液状のエラストマー原料に水溶性の粒子を拡散させて硬化、成形したのち、粒子を水に溶解して取り除くことによって形成されている。本実施例の場合、エラストマーとして、熱硬化性のポリジメチルシロキサン(PDMS)を採用している。また、本実施例では、多孔質体の形成方法として糖の粒子を用いたシュガーリーチング法を採用している。具体的には、平均粒径が約500μmの糖の粒子を用い、これを硬化前のPDMSに混ぜて硬化、成形したのち、水に溶解して取り除くことで多孔質体を形成している。
【0016】
液体供給部20は吸着部10にシール液体を供給する。液体供給部20は吸着部10に隣接して設けられている。図2に示すように、液体供給部20は、吸着部10の背面13に隣接して、吸着部10と層状に連なって形成されている。また、液体供給部20は、吸着部10とともに中央に吸引孔11を形成する。液体供給部20は、吸引孔11となる空間を第1端面21側の端部に凹状に形成する円柱状に形成されている。
【0017】
また、液体供給部20は内部に毛細管Cを形成する。毛細管Cは、液体供給部20の第1端面21から第2端面22まで貫通して複数形成されている。図4に示すように、各毛細管Cは吸着部10の連続気泡Pに連通している。液体供給部20は、これら毛細管C内にシール液体を流通する。そして、液体供給部20は、毛細管C内のシール液体を吸着部10に供給する。毛細管Cは、平均直径が約100μmとされている。このため、液体供給部20内を通過するシール液体には毛細管力が作用し、その流通抵抗は、吸着部10内を通過する際の流通抵抗よりも大きい。
【0018】
本実施例において、液体供給部20は、吸着部10と同様にエラストマーからなる弾性体である。液体供給部20は、液状のエラストマー原料に水溶性の繊維を挿通した状態で硬化、成形したのち、繊維を水に溶解して取り除くことによって形成されている。本実施例の場合、エラストマーとして、吸着部10と同様に熱硬化性のポリジメチルシロキサン(PDMS)を採用している。また、毛細管Cの形成には繊維状の糖を用いたシュガーリーチング法を採用している。
【0019】
なお、本実施例において、吸着部10と液体供給部20は、液体供給部20を先に成形したのち、その上端面に吸着部10となる液状のエラストマー原料を積層して成形することにより製造される。この方法によると、吸着部10と液体供給部20が一体的に強固に連結して形成されて接合性が良好であるとともに、連続気泡Pと毛細管Cの連結も良好である。
【0020】
液体貯留部30は、液体供給部20に供給するシール液体を貯留する。液体貯留部30は液体供給部20に隣接して設けられている。図2に示すように、液体貯留部30は、底壁31と、底壁31の周縁から伸びる周壁32とを有している。これら底壁31及び周壁32はアルミニウム製で一体に形成されており、全体として有底筒状をなしている。液体貯留部30は、これら底壁31及び周壁32により液体供給部20の吸着部10に隣接する面とは反対側の面を覆っている。
【0021】
液体貯留部30はスペーサー33を有している。スペーサー33は、液体供給部20と底壁31の間に介在されている。スペーサー33は、吸着部10及び液体供給部20と同様にエラストマー製であるが非多孔質体である。スペーサー33は、液体供給部20の外径よりも小さい外径を有する円板状に形成されている。これにより、スペーサー33の周囲の液体供給部20と底壁31との間には空間Rが形成される。液体貯留部30は、この空間Rにシール液体を貯留する。空間Rは、底壁31、周壁32、スペーサー33及び液体供給部20に囲まれた円環状に形成されており、液体供給部20の毛細管Cに連通している。また、空間Rには、補給口34が連通している。補給口34は底壁31に開口している。
【0022】
液体貯留部30は、底壁31とスペーサー33が液体供給部20にねじ止めされている。具体的には、図2に示すように、複数のねじ41が中心軸周りに等間隔に配され、液体供給部20側から挿通されて液体供給部20、スペーサー33及び底壁31を貫通し、底壁31の背面でナット42により締結されている。なお、ねじ41の基端側(液体供給部20側)には押えプレート43が配されている。押えプレート43は、ねじ止めによる液体供給部20の破損を防止する。押えプレート43はアルミニウム製で、円板状に形成されている。この押えプレート43と、液体供給部20、スペーサー33及び底壁31は、吸引孔11と図示しない負圧発生源とを連通する連通孔11Aを夫々の軸中心に形成する。すなわち、連通孔11Aは、押えプレート43と、液体供給部20、スペーサー33及び底壁31を貫通して形成されている。
【0023】
このような構成を有する吸着パッド1は、次に示すようにして被吸着面Wに吸着する。なお、被吸着面Wに吸着する前の吸着パッド1は、吸着部10の連続気泡P、液体供給部20の毛細管C及び液体貯留部30の空間Rに、シール液体である水が充填されている。
【0024】
最初に、吸着パッド1を被吸着面Wに押しつける。これにより、図3に示すように、吸着部10が被吸着面Wの凹凸形状に合わせて変形する。この時、吸着部10は弾性を有することから、吸着部10は被吸着面Wの表面形状に沿った形状に容易に変形する。また、平均孔径約500μmの連続気泡Pが形成されていることにより、被吸着面Wの微細な凹凸にも対応して変形する。
【0025】
また、吸着面12と被吸着面Wとの間に生じる微細な隙間には、連続気泡P内のシール液体が滲み出でる。これにより、吸着面12と被吸着面Wの間に液体シールSが形成され、負圧状態が好適に維持される。また、この液体シールSの形成時、シール液体は、平均孔径約500μmの連続気泡P内を流通して滲み出るので、適度な流通抵抗が生じた状態とされている。また、連続気泡Pが毛細管Cに連通しており、この毛細管Cの流通抵抗が連続気泡Pの流通抵抗よりも大きいことから、負圧吸引によるシール液体の過度の滲出が抑制される。したがって、吸着パッド1は、適量のシール液体を被吸着面Wの表面に滲み出させる。
【0026】
以上説明したように、吸着パッド1は、負圧により被吸着面に吸着する吸着パッドである。吸着パッド1は、負圧吸引される吸引孔11を中央に形成する筒状に形成され、一方の端面が被吸着面に当接する吸着面12とされている吸着部10を備えている。吸着部10は、連続気泡構造を有し、容積空隙率約75%、連続気泡Pの平均孔径約500μmの弾性を有する多孔質体である。そして、吸着時には、連続気泡P内に貯留されたシール液体が吸着面12から滲み出て、吸着面12と被吸着面Wの間に液体シールSを形成する。
【0027】
このような構成により、吸着パッド1は、吸着時には、シール液体によって湿潤した吸着部10が被吸着面Wに合わせて変形するとともに、吸着面12と被吸着面Wの間にシール液体が滲み出して液体シールSを形成する。このため、被吸着面Wが粗面や凹凸面であっても、被吸着面Wに好適に密着することができ、負圧状態を維持することができる。
【0028】
したがって、吸着パッド1は、粗面や凹凸面において安定した吸着を実現することができる。
【0029】
また、吸着パッド1は、吸着部10の吸着面12の背面13に隣接して設けられ、連続気泡Pに連通する平均直径約100μmの複数の毛細管Cを形成するとともに、これらの毛細管C内にシール液体を流通して吸着部10にシール液体を供給する液体供給部20を備えている。このため、液体シールSとして消費したシール液体の消費量に応じて、液体供給部20から吸着部10にシール液体を一定量ずつ供給することができる。これにより、継続的に、安定した吸着を実現することができる。
【0030】
また、吸着パッド1は、液体供給部20の第2端面22に隣接して設けられ、毛細管Cに連通する空間Rを形成するとともに、この空間R内に液体供給部20に供給するシール液体を貯留する液体貯留部30を備えている。このため、吸着部10に供給したシール液体の供給量に応じて、液体貯留部30から液体供給部20にシール液体を供給することができる。このため、より継続的に、安定した吸着を実現することができる。また、毛細管Cの毛細管力により、吸着面12からシール液体が過度に滲出しようとするのを防止することができる。
【0031】
また、吸着パッド1は、吸着部10として、容積空隙率約75%、連続気泡Pの平均孔径約500μmのPDMS製の多孔質体を採用している。このため、被吸着面の凹凸に対する追従性に優れるとともに、保水性に優れた吸着部を実現することができ、より一層継続的に安定した吸着を実現することができる。
【0032】
また、吸着パッド1は、シール液体として水を採用している。このため、シール液体が蒸発することにより、被吸着面Wを残留固形物などにより汚染することがなく、被吸着面の美観を損なうことなく吸着することができる。
【0033】
<実施例2>
実施例2の吸着パッド201は、図5に示すように、実施例1の吸着パッド1の構成に加えて、独立気泡構造を有する第2吸着部210を備え、これを吸引孔11内に収容してなる点において、実施例1と相違する。他の構成は実施例1と同様であり、同一の構成は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0034】
第2吸着部210は、吸引孔11の内周壁に嵌め込まれる円筒状に形成されている。第2吸着部210は金属製のフレーム211に支持されている。第2吸着部210及びフレーム211には連通孔11Aが貫通して設けられている。これら第2吸着部210及びフレーム211は市販の吸着パッドを流用している。第2吸着部210は、独立気泡構造であることから、通水性、保水性を有していない。また、第2吸着部210は、吸着部10よりも硬質に形成されている。さらに、第2吸着部210は、その吸着面212が、吸着部10の吸着面12よりも吸引孔11の深さ方向に奥まった位置となるように配置されている。
【0035】
このような構成の吸着パッド201は、実施例1と同様の作用効果を奏する。また、吸着パッド201は、連続気泡構造を有する吸着部10の内側に独立気泡構造を有する第2吸着部210を配したので、吸引孔11内の気密性に優れた吸着パッドを実現することができる。
【0036】
また、吸着パッド201は、吸着部10よりも硬質な第2吸着部210を吸着部10の内側に配したことにより、負圧吸引による吸着部10の径方向の変形を抑制することができる。
【0037】
また、吸着パッド201は、第2吸着部210の吸着面212を、吸着部10の吸着面12よりも吸引孔11の深さ方向に奥まった位置に配置している。このため、吸着時には、より柔軟な吸着部10が被吸着面Wの凹凸に対して追従して変形するのを阻害することがない。これにより、粗面や凹凸面において吸着部10の性能を十分に発揮させることができる。
【0038】
<実験例>
実施例1及び2の吸着部10の効果を確認するために行った実験の結果を以下の表1及び表2に示す。本実験では、市販の独立気泡構造のスポンジを有する吸着パッド(株式会社日本ピスコ社製 型番:VPA50S6J)の周囲に、実施例1及び2の吸着部10と略同様の構成の多孔質体を取り付けてその吸着力及び負圧を測定した。被吸着面としては、(1)建築用コンクリートブロック、及び(2)御影石を採用した。本実験では、被吸着面(1)の5箇所(A)〜(E)、及び被吸着面(2)の5箇所(a)〜(e)の夫々について7回ずつ測定を行い、それらの平均値を求めた。なお、多孔質体にはシール液体としての水を予め十分に吸収させた。比較例として、市販品の吸着パッドのみについても同様に測定した。
【0039】
【表1】
【表2】
【0040】
表1の結果より、実験例では、比較例よりも吸着力及び負圧のいずれも増加することが確認された。また、表2の結果より、比較例では吸着不能であった測定箇所において、実験例では吸着が可能となることが確認された。なお、御影石の測定箇所(b)は、高低差約4mmの段差のある箇所であった。これらのように、多孔質体を装着することによって、凹凸面における吸着能力が向上することが確認された。
【0041】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1及び2に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1及び2では、吸着パッドを、ビルの外壁や橋梁の裏面などの壁面移動用ロボットに適用する形態を例示したが、据置型ロボットのアーム先端の吸着パッド等、負圧により被吸着面に吸着する用途全般に適用できる。特に、凹凸が形成されていたり、錆や砂などが付着していたりなど、従来の吸着パッドでは吸着が困難であった被吸着面への吸着に好適である。
(2)実施例1及び2では、吸着部を円筒形状としたが、これに限定されず、例えば、四角、五角等の多角筒形状であってもよい。
(3)実施例1及び2では、PDMS製の吸着部としたが、これに限定されない。吸着部の材質としては、所定の弾性を有する弾性体であればよい。なお、吸着部の容積空隙率は、65%〜84%であることができ、好ましくは、70%〜80%である。また、吸着部内の連続気泡の平均孔径は、150μm〜600μmであることができ、好ましくは、200μm〜500μmである。
(4)実施例1及び2では、吸着部の連続気泡及び液体供給部の毛細管を形成する例として、糖の粒子及び繊維を用いたシュガーリーチング法を示したが、塩を用いたソルトリーチング法など、他の方法により空隙を形成してもよい。
)実施例1及び2では、PDMS製の液体供給部を例示したが、これに限定されない。液体供給部の材質は特に問わないが、吸着部と同じ材質を採用することが好ましい。
体供給部の内部毛細管、その平均直径、50μm〜200μmであ、好ましくは、80μm〜150μmである。
)実施例1及び2では、液体供給部を先に成形したのち、その上端面に吸着部となる液状のエラストマー原料を積層することにより吸着部と液体供給部を一体的に形成する形態を例示したが、形成形態は特に限定されない。吸着部と液体供給部は、例えば、吸着部を先に成形することにより吸着部と液体供給部を一体に形成してもよい。また、吸着部と液体供給部を夫々別々に成形したのちに、2部材を接合する形態であってもよい。
)実施例1及び2では、液体貯留部を備える形態を例示したが、本発明において、液体貯留部は必須の構成ではない。
)実施例1及び2では、特定構成の液体貯留部を例示したが、本発明に係る液体貯留部は、貯留した液体を液体供給部に供給する限り、その形態は特に限定されない。
(1)実施例1及び2では、シール液体が水である形態を例示したが、水以外の液体を採用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1,201…吸着パッド
10…吸着部
11…吸引孔
12,212…吸着面
20…液体供給部
30…液体貯留部
210…第2吸着部
C…毛細管
P…連続気泡
R…空間
S…液体シール
W…被吸着面
図1
図2
図3
図4
図5