(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887661
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】吸音装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20210603BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20210603BHJP
E04B 1/86 20060101ALI20210603BHJP
B32B 3/20 20060101ALI20210603BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20210603BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/162
E04B1/86 N
B32B3/20
B32B5/26
B32B5/28 101
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-223626(P2016-223626)
(22)【出願日】2016年11月16日
(65)【公開番号】特開2018-81212(P2018-81212A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220169
【氏名又は名称】東京ブラインド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 武志
【審査官】
大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−062181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 3/20
B32B 5/26
B32B 5/28
E04B 1/86
G10K 11/16
G10K 11/162
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルト状吸音板材と、多数の小筒体を備えるペーパーコア材と、遮音材とを順に積層してなる吸音装置であって、以下のように構成したことを特徴とした吸音装置。
(1) 前記ペーパーコア材は、前記小筒体の一方の開口を前記フェルト状吸音材に、他方の開口を前記遮音材側に向けて配置し、
(2) 前記多数の小筒体の両開口を結ぶ方向を厚さ方向とし、少なくとも1つの小筒体内で、厚さ方向または厚さ方向と略直角な方向に、
「多孔質の微細粉体の集合体層」、または、
「連続気泡を備える多孔質の樹脂ブロック層」および「多孔質の微細粉体の集合体層」、
を形成した。
【請求項2】
フェルト状吸音板材と、多数の小筒体を備えるペーパーコア材と、遮音材とを順に積層してなる吸音装置であって、以下のように構成したことを特徴とした吸音装置。
(1) 前記ペーパーコア材は、前記小筒体の一方の開口を前記フェルト状吸音材に、他方の開口を前記遮音材側に向けて配置し、
(2) 前記多数の小筒体の両開口を結ぶ方向を厚さ方向とし、少なくとも1つの小筒体内で、厚さ方向または厚さ方向と略直角な方向に、
「多孔質の微細粉体の集合体層」および空気層
を形成した。
【請求項3】
フェルト状吸音板材と、多数の小筒体を備えるペーパーコア材と、遮音材とを順に積層してなる吸音装置であって、以下のように構成したことを特徴とした吸音装置。
(1) 前記ペーパーコア材は、前記小筒体の一方の開口を前記フェルト状吸音材に、他方の開口を前記遮音材側に向けて配置し、
(2) 前記多数の小筒体の両開口を結ぶ方向を厚さ方向とし、少なくとも1つの小筒体内で、厚さ方向または厚さ方向と略直角な方向に、
「連続気泡を備える多孔質の樹脂ブロック層」、「多孔質の微細粉体の集合体層」および空気層を形成した。
【請求項4】
フェルト状吸音板材と、多数の小筒体を備えるペーパーコア材と、遮音材とを順に積層してなる吸音装置であって、以下のように構成したことを特徴とした吸音装置。
(1) 前記ペーパーコア材は、前記小筒体の一方の開口を前記フェルト状吸音材に、他方の開口を前記遮音板側に向けて配置し、
(2) 少なくとも1つの小筒体内に連続気泡を備える多孔質の樹脂ブロック層を形成し、他の少なくとも1つの小筒体内に多孔質の微細粉体の集合体層を形成した。
【請求項5】
「連続気泡の微細空間を備える樹脂ブロック層」をフェノール系樹脂のブロック状発泡体とし、
「多孔質の微細粉体の集合体層」をフェノール系樹脂のブロック状発泡体を粉砕して形成したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の吸音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に室内で使用し、生活雑音を吸音できる吸音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の表面板で挟まれたコア材内に合成樹脂発泡粒子(独立気泡)を充填した断熱遮音パネルが提案されている(特許文献1)。この場合、表面板として、フェノール、エポキシなどの樹脂の化粧合板、石膏ボード、金属板などが提案されている。
【0003】
また、板材で仕切られたセル空間内弾性変形性を有するNBRゴムビーズ粉粒体等の弾性粉粒体を封入した提案があった(特許文献2)。この場合、弾性粉粒体の拘束、ロッキングによる制振性能低下を図るためセル空間内に少なくとも2%の空隙部を設ける提案もあった。また、板材としてアルミニウムなどの金属、木質材料が提案されている。
【0004】
また、建造物の床下や天井裏に、発泡性ポリスチロールの粉砕物を吹き込み断熱性能、吸音性能を向上させた断熱工法が提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、出願人は、フェルト状の吸音板とペーパーコア材と遮音板を積層した吸音パネルを提案している(特許文献4)。この場合、ペーパーコア材はフェルト状の吸音板と遮音板との間の空気層としての役割と、音がペーパーコア材の隔壁に触れて振動による減衰を図ったものである。また、この場合、ペーパーコア材の一部を切り取り、機能開口として、機能開口内に所望の吸音特性を確保するための各種吸音材料を詰める提案もしている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−17493号公報
【特許文献2】特開平11−217891号公報
【特許文献3】特開2007−63883号公報
【特許文献4】特開2015−229911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、3の前記従来の技術はいずれも、発泡性樹脂の多孔性を利用する提案である。特許文献2では、粒子の弾性変形による振動エネルギーとして、音を吸収しようとする提案である。また、特許文献1、2はセルで囲うことにより、単に粉粒体の収納スペースとしてしか機能させていない。さらに、特許文献1〜3では、粉粒体の特性により吸音効果を図ったものであるが、粉粒体に接触する板材に工夫がなく、粉粒体と板材もセル同様に粉粒体を収容するためだけの機能しかなかった。また、特許文献4では機能開口で吸音性能を調整する提案があったが、個々のセルを使って具体的な吸音性能を変える提案はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、多孔性の粉粒体とフェルト状の板材と遮音材とを組み合わせたので、装置全体としての吸音性能を向上させて、様々な音域での吸音効果を高めた。
【0009】
即ちこの発明は、フェルト状吸音板材と、多数の小筒体を備えるペーパーコア材と、遮音材とを順に積層してなる吸音装置であって、以下のように構成したことを特徴とした吸音装置である。
(1) 前記ペーパーコア材は、前記小筒体の一方の開口を前記フェルト状吸音材に、他方の開口を前記
遮音材側に向けて配置し、
(2) 前記多数の小筒体の両開口を結ぶ方向を厚さ方向とし、少なくとも1つの小筒体内で、厚さ方向または厚さ
方向と略直角な方向に、
「多孔質の微細粉体の集合体層」、または、
「連続気泡を備える多孔質の樹脂ブロック層」
および「多孔質の微細粉体の集合体層」、
を形成した。
また、他の発明は、フェルト状吸音板材と、多数の小筒体を備えるペーパーコア材と、遮音材とを順に積層してなる吸音装置であって、以下のように構成したことを特徴とした吸音装置である。
(1) 前記ペーパーコア材は、前記小筒体の一方の開口を前記フェルト状吸音材に、他方の開口を前記
遮音材側に向けて配置し、
(2) 前記多数の小筒体の両開口を結ぶ方向を厚さ方向とし、少なくとも1つの小筒体内で、厚さ方向または厚さ
方向と略直角な方向に、
「多孔質の微細粉体の集合体層」
および空気層
を形成した。
【0010】
また、他の発明は、フェルト状吸音板材と、多数の小筒体を備えるペーパーコア材と、遮音材とを順に積層してなる吸音装置であって、以下のように構成したことを特徴とした吸音装置である。
(1) 前記ペーパーコア材は、前記小筒体の一方の開口を前記フェルト状吸音材に、他方の開口を前記
遮音材側に向けて配置し、
(2) 前記多数の小筒体の両開口を結ぶ方向を厚さ方向とし、少なくとも1つの小筒体内で、厚さ方向または厚さ
方向と略直角な方向に、「連続気泡を備える多孔質の樹脂ブロック層」、「多孔質の微細粉体の集合体層」および空
気層を形成した。
【0011】
また、他の発明は、フェルト状吸音板材と、多数の小筒体を備えるペーパーコア材と、遮音材とを順に積層してなる吸音装置であって、以下のように構成したことを特徴とした吸音装置である。
(1) 前記ペーパーコア材は、前記小筒体の一方の開口を前記フェルト状吸音材に、他方の開口を前記
遮音板側に向けて配置し、
(2) 少なくとも1つの小筒体内に連続気泡を備える多孔質の樹脂ブロック層を形成し、他の少なくとも1つの小筒体内に多孔質の微細粉体の集合体層を形成した。
【0012】
また、前記において、「連続気泡の微細空間を備える樹脂ブロック層」をフェノール系樹脂のブロック状発泡体とし、「多孔質の微細粉体の集合体層」をフェノール系樹脂のブロック状発泡体を粉砕して形成したことを特徴とする吸音装置である。
【0013】
前記における遮音材は、表面が通気性を有しない材料で覆われた構造であれば良く、いわゆる遮音板や壁などの遮音面を含む。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、フェルト状の吸音板材と遮音板との間をペーパーコア材で、間隔を空けて配置し、ペーパーコア材内に連続気泡を備える多孔質の樹脂ブロック層および多孔質の微細粉体の集合体層を形成したので、吸音板材と遮音板との間に空気層を確保して、多孔質の樹脂による吸音性能を付加できる。樹脂により空気層が削減されたにも関わらず、とりわけ、低温域と高音域で、吸音率を向上させることができる。したがって、ペーパーコア材内に空気層のみとした構造と組み合わせることにより、各使用場所で、求める音域毎(周波数領域)に異なる吸音効果を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の吸音装置で、(a)は平面図、(b)はA−A断面図、(c)はB−B拡大断面図である。
【
図2】この発明の吸音装置の拡大A−A断面図で、コア材内の構成を表す図である。
【
図3】この発明の吸音装置で、B−B拡大断面図で、コア材内に配置を表す
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面に基づきこの発明の実施態様を説明する。
【0018】
(1) この発明の吸音装置40は、フェルト状の吸音板10と、多数の小筒体(コア)21、21を備えるペーパーコア材(ペーパーハニカム)20と、遮音板30とを順に積層して構成する(
図1)。ペーパーコア材20の小筒体21の一方の開口はフェルト状の吸音板10に向き、他の開口は遮音材30を向く。
【0019】
(2) フェルトの吸音板20は、繊維材料を圧縮して構成する。例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂繊維と塩化ビニル繊維とを含む材料を圧縮して、フェルト状の板として、このフェルト状の吸音板を形成する。 吸音板20は、厚さt
2で、形成する。
また、吸音板20は、例えば、以下のようにして製造した材料を使用することもできる。天然繊維と化学繊維とからなるリサイクル繊維原料を解繊し、バインダー樹脂として、これにPET樹脂繊維を混合して原反を作り、この原反を50℃〜150℃程度に加熱し冷熱ロールを使用して、面重量0.5〜1.0kg/m
2、空気流れ抵抗値1000〜4000N・s/m
3の繊維硬質板を形成して、この繊維硬質板からフェルト状吸音板を構成する。
【0020】
(3) 遮音板30として、通気性を有しない厚紙を使用する。遮音板30は、空気を通さない材料から構成することが望ましく、例えば鉄やアルミニウムなどの金属板、せっこうボード、樹脂板など任意である。また、遮音性を有しない板材の表面を、通気性を有しないフィルムや薄板で覆って構成することもできる。
【0021】
(4) ペーパーコア材20は、小筒体(コア)21、21が連続した主に紙製または紙に樹脂加工した材料で、小筒体21の断面を長方形で形成した材料を採用する。この場合、小筒体21の断面は、いわゆる6角形(ハニカムコア)、平行四辺形や長方形(バイアスコア)、円を基調にしたコア、直線と波を基調にした形状など任意である(図示していない)。
また、連続気泡を備える多孔質の樹脂ブロック層22として、フェノール系の樹脂の発泡体のブロックを使用する。このフェノール系の樹脂の発泡体のブロック層22は、連続気泡を備えており、すなわち、多数の気泡を内装しており、ブロック層22の一面から少なくとも対向する他面に気泡が連続して、空気が通る構造となっている。したがって、このようなブロック層22では、ブロック層22を水面に触れると毛細管作用により素早く水を吸収することができ、かつ吸収した水をブロック層22内に保持することができるような材料となる。
また、このフェノール系の樹脂の発泡体を砕くと細かい粉体を形成し、各粉体も多数の細かい気泡を有する多孔質となっている((この気泡も一部または全部が連続気泡となっていることが望ましいが、多孔質であれば、独立気泡のみでも可能である)。この多孔質の微細粉体を集めて、小筒体21内に充填して集合体層23を構成する。また、小筒体21内に粉体を充填する際には圧力を掛けずに、小筒体21内で粉体が自由に移動可能となるように充填する。また、細かい粉体は、1mmより充分に小さな、数μm〜300μm程度の大きさとなることが望ましい。また、ブロック層22の材料とは異なる材料から構成することもできる。
また、小筒体21内で、ブロック層22、粉体の集合体層23もいずれも充填しない部分を空気層24とする。
ここでは、
(ア)総ての小筒体21を粉体集合体層23とする場合
(イ)総ての小筒体21をブロック層22と粉体集合体層23とする場合
(ウ)総ての小筒体21をブロック層22と粉体集合体層23と空気層24とする場合
(エ)総ての小筒体21をブロック層22と空気層24とする場合
(オ)総ての小筒体21を粉体集合体層23と空気層24とする場合
(カ)総ての小筒体21を(ア)〜(オ)のいずれかの組み合わせとする場合
(キ)いくつかの小筒体21を空気層24のみとし、他の小筒体21を(カ)とする場合
が考えられる(
図2)。
【0022】
(5) このように形成した吸音装置40は主に板状(盤状)であり、主に垂直に立てて(壁状)使用するが、水平(天井など)などの配置で使用することもできる。また、室内の事務所などの作業環境で発生する雑音(人の声など)を吸音する際に最適である。
【0024】
(1) 上記(ア)〜(キ)は、各層を小筒体21の厚さ方向で層を形成したが、厚さ方向に直交する方向で層を形成することもできる(
図2(a)(b))。
【0025】
(2) 前記実施態様において、遮音板30を板材としたが、遮音性能を有する面から遮音材を構成することもできる(図示していない)。したがって、遮音性能を有するコンクリート壁の表面に、ペーパーコア材20(小筒体21内にブロック層22、粉体層23、空気層24など適宜配置)を、フェルト状の吸音材10を順に積層して、吸音装置40を構成することもできる(図示していない)。
また、両面に遮音性能を有する遮音板30の両面に、ペーパーコア材20(小筒体21内にブロック層22、粉体層23、空気層24など適宜配置)を、フェルト状の吸音材10を順に積層して、5層の吸音装置40を構成することもできる(
図4)。
【0027】
(1)試験体
フェルト状の吸音板10 厚さt
1= 6mm
ぺーパーコア20(バイアスコア) 厚さt
2=19mm
遮音板30(厚紙) 厚さt
3= 1mm
大きさ 900mm×900mm
ペーパーコア材20の小筒体21の構成は下記表のとおりである。
【表1】
【0028】
(2) 各試験体は板状であり、「900mm×900mm」の面を水平に配置して、試験体を挟んで上下方向で、残響室法吸音率(Alpha Cabin)を測定すると、
図5、
図6のグラフのような結果が出た。
【0029】
(3)
図5の試験結果1によれば、試験体Aおよび試験体Cでは、400Hz〜800Hz(低音域)での吸音率が、何も入っていない試験体Fに較べて、10〜20%の向上が認められた。また、1600Hz〜400Hz(中音域)では、試験体Fに較べて、逆に5〜10%の吸音率の低下が見られた。また、5000Hz以上の高音域では、試験体Fに較べて、吸音率の向上が見られた。
また、試験体Bについては、試験体Fに較べて、低音域、高音域での大きな向上は見られなかったが、逆に中音域での低下は見られず、全音域で、試験体Fに較べて吸音率が向上している。
【0030】
(4) また、
図6の試験結果2によれば、粉体が多くなれば(空気層が減る)、低音域での吸音率が向上し、中音域で吸音率の低下が見られた。
【0031】
(5) また、通常、多くの男性の話し声は300〜600Hz程度、女性の話し声は400〜700Hz程度になると考えられており、試験体A〜Eのいずれも、試験体Fに較べて400Hz〜800Hz(低音域)で改善が見られている。したがって、事務所環境において使用すれば、人の話声を吸音することが期待できる。
【0032】
(6) また、小筒体21内に、ブロック層22、粉体層23、空気層24の量を調整することにより、容易に様々な周波数に対応した吸音を実現できるので、様々な使用環境に適応した吸音装置40を構成することが期待できる。
【符号の説明】
【0033】
10 吸音板
20 ペーパーコア
21 小筒体
22 ブロック層
23 粉体層
24 空気層
30 遮音板
40 吸音装置