(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
無機粒子群の下位の凝集体同士が非化学的結合により高位の凝集体を形成して水中に分散している水分散体であって、高位の凝集体間における下位の凝集体レベルでの交換および/または高位の凝集体における下位の凝集体レベルでの配向が誘起された状態で、
前記高位の凝集体は、親水リッチな下位の凝集体の高密度部分が水相と接し、疎水リッチな下位の凝集体の高密度部分が他の疎水リッチな下位の凝集体と接し、内部に空間を形成する自己ミセル的凝集体を含む、ことを特徴とする無機粒子の水分散体。
無機粒子群の下位の凝集体同士が非化学的結合により高位の凝集体を形成して水中に分散している水分散体であって、前記下位の凝集体の凝集性に応じて、前記無機粒子群の各々における表面親水基のモル数の前記無機粒子群にわたる合計モル数/前記無機粒子群の各々における表面疎水基のモル数の前記無機粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率が、所定下限値以上所定上限値以下の数値範囲であることにより、前記高位の凝集体は、高位の凝集体間における下位の凝集体レベルでの交換および/または高位の凝集体における下位の凝集体レベルでの配向が誘起された自己ミセル的凝集体を含む、ことを特徴とする無機粒子の水分散体。
無機粒子群の下位の凝集体同士が非化学的結合により高位の凝集体を形成して水中に分散している水分散体であって、前記下位の凝集体の凝集性に応じて、前記無機粒子群の各々における表面親水基のモル数の前記無機粒子群にわたる合計モル数/前記無機粒子群の各々における表面疎水基のモル数の前記無機粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率が、所定下限値以上所定上限値以下の数値範囲であり、かつ、前記合計モル数比率の平均値と、高位の凝集体の各々における表面親水基のモル数/表面疎水基のモル数であるモル比率との差が所定値以下であることにより、前記高位の凝集体は、高位の凝集体間における下位の凝集体レベルでの交換および/または高位の凝集体における下位の凝集体レベルでの配向が誘起された状態で、内部に形成される空間が調整された自己ミセル的凝集体を含む、ことを特徴とする無機粒子の水分散体。
【背景技術】
【0002】
シリカ、酸化チタン等の無機固体粒子を水中に分散させ、乳化状態、懸濁状態等とする水分散体は従来から知られ、レオロジー制御剤や化粧品への配合剤として広く使用されている。これら無機粒子の水分散体においては、無機粒子が水に溶解していないからこそ、分散状態において無機粒子が長時間沈降しないという安定性、および分散状態の水分散体中での局所的な偏りが生じていないという意味における均一性が重要となっている。
無機粒子として特にフュームドシリカを用いる際、疎水性シリカの場合には、水分散体に増粘かつチクソトロピーが付与される一方、水分散体そのものが増粘し過ぎ、かつ疎水性シリカ粒子が沈降するなどの不安定性があった。一方、親水性シリカの場合には、親水性シリカが水に溶解し、その意味で安定性が確保可能であるが、水分散体として高粘度が必要な用途に用いる場合には、不向きである。
以上のように、水分散体としての用途に応じて、要求される特性は変わるが、要求される特性と水分散体の安定性および均一性との両立は技術的に困難であった。
【0003】
この点、特許文献1は、無機粒子をシリカとした場合の水分散体として、シリカのバルク状態での接触角に注目し、接触角を最適化させることで、シリカの水分散体において、時間経過によるシリカの沈降を抑制する意味での安定性を向上させることが開示されている。
しかし、分散状態における安定性のみならず、分散状態における均一性を確保する点についての開示はなく、ましてや水分散体として要求される特性と水分散体の安定性および均一性との両立については、示唆すらなされていない。
【0004】
一方、分散体の一態様である、固相または液相と、液相との乳化状態であるエマルジョンにおいて、従来から、界面活性剤を用いて乳化状態を形成する技術が知られており、エマルジョンにおいても水分散体と同様に、本来、固相または液相と、液相とが時間経過とともに分離しない意味における乳化状態での安定性が重要である。
【0005】
特許文献2には、特に、界面活性剤の代替として無機粒子を用いるピッカリングエマルジョンとして、酸化チタン粒子により種々油性成分が乳化されたものが化粧品等用途に用いられている。
さらに、特許文献3には、シリカ粒子によりシリコーンオイルその他のシリコーン物質を乳化したピッカリングエマルジョンも知られている。
このようなピッカリングエマルジョンは、水中油型エマルジョンとして、コアを構成する油滴と、油相と水相との界面である油滴の表面に存在する無機粒子とからなる複合粒子が複合粒子群として水相中に乳化状態で存在する形態をとる。
これらは、有機系界面活性剤を用いないでエマルジョンを形成することにより、環境に有害である有機系界面活性剤による弊害をなくしたり、機能剤としてのシリカを、粒子としてでなく水系で提供することが可能である点において、水中油型エマルジョンとして、医薬、食料品、消泡剤等多種の用途展開が期待されている。
このようなピッカリングエマルジョンにおいて、非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3において、ピッカリングエマルジョンの安定性確保にとって、界面活性剤の代替としての無機粒子として、界面に存在する無機粒子の疎水性―親水性バランスが重要と指摘されている。
しかしながら、従来のピッカリングエマルジョンには、以下のような技術的問題点が存する。
【0006】
第1に、固相または液相と、液相とが時間経過とともに分離しない意味における乳化状態での安定性の確保が不十分である点である。
より詳細には、非特許文献1および非特許文献2においては、ピッカリングエマルジョンモデルとして、液相(たとえば、水相)と液相(たとえば、油相)の界面に球形粒子が存在する簡易モデルを構築して検討しているにすぎず、ピッカリングエマルジョンを形成するに際し、水相と液相との関係において無機粒子を添加するタイミング、および乳化するためのせん断速度、せん断時間がエマルジョンの特性にどのような影響を与えるかについては、着目されておらず、そのため、エマルジョンの安定性を支配する要素とメカニズムがほとんど解明されていない。
【0007】
特に、無機粒子としてシリカを採用する場合に、シリカの凝集性に起因して形成される1次凝集体および2次凝集体が、疎水性―親水性バランスに対してどのような影響を与えるかについて、言及されていない。
この点、非特許文献3においては、無機粒子として疎水性シリカを用いて、疎水性シリカの表面に親水性高分子界面活性剤を吸着させることにより、疎水性―親水性バランスを調整し、以て、エマルジョンの特性を変える試みがなされている。
しかしながら、非特許文献3においては、無機粒子として疎水性シリカをベースに、親水性高分子界面活性剤を吸着させるのみであり、コアである油相も1種類であり、乳化する油剤の種類が限定されるという問題があるとともに、疎水性―親水性バランスがエマルジョンの特性に対して影響を与えるとしても、疎水性―親水性バランスの調整方法が、煩雑かつコスト高であり、エマルジョンを製品化するに際しての製品設計手法として確立されているものでない。
このような工業的なシリカ粒子によるピッカリングエマルジョンの設計手法としては、従来、シリカの表面のシラノール基を部分的に疎水化することにより油分を乳化的に取り囲むために、原料段階でシリカの疎水化度の前処理を行うに過ぎず、安定化したエマルジョンを工業的に実用化レベルで製造するのに、どのような設計パラメータに着目すべきかも不明であった。
【0008】
第2に、ピッカリングエマルジョン形成後、水分を除去することにより単離生成される、たとえば、各々、シリカ粒子がコアである油滴の表面(界面)に存在する複合粒子群は、無機粒子であるシリカ粒子が、油滴表面を被覆する態様でコア表面に対して強固に固着可能であるところ、機能剤としてのシリカ粒子と、別の機能剤としてのコアとが互いに別個に適用対象に対して適用される場合に比べ、複合粒子として適用対象に適用される方が有利な場面等、複合粒子群として多用途が期待されているにも関わらず、複合粒子群間のばらつきの問題に検討がなされていない。
より詳細には、複合粒子には、その諸元として、粒子径、被覆層厚、被覆度およびシリカ粒子のコア表面に対する埋め込み度(接触角)があり、粒子径、被覆層厚および被覆度は、複合粒子としての硬度に深く関係し、シリカ粒子のコア表面に対する埋め込み度は、シリカ粒子とコアとの固着程度に深く関連するところ、このような諸元について、複合粒子群間でばらつきを生じるのでは、信頼性のある製品提供が困難となる。
【0009】
第3に、ピッカリングエマルジョンを形成する際、用途に応じて、複合粒子の諸元として、粒子径、被覆層厚、被覆度、埋め込み度(接触角度)を調整する点については、従来注目されていない。
より詳細には、たとえば、化粧品用途の場合、コアをシリコーンゴム粒子とする複合粒子を採用することが多いが、粒子径および被覆層厚が使用感に対して影響を与えるとしても、粒子径および被覆層厚をどのような手法で調整するのかについて、検討されていない。
より具体的には、複合粒子全体が柔らかければ、複合粒子の塗布後の肌への密着感に優れるが、塗布時に複合粒子が変形し、肌への接着面積が増大するともに、粒子間の摩擦抵抗が上がることから、複合粒子の肌への伸展性が低下するところ、コアであるゴム粒子を柔らかくする一方、外皮殻を構成するシリカ被覆層を硬くすることにより、このような伸展性を確保する技術が要望されている。
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0021】
界面活性剤による水中油型エマルジョンに対して、固形粒子による水中油型ピッカリングエマルジョンにおいては、水相と油相との界面に存在する固形粒子の親水性と疎水性とのバランスが、エマルジョンの安定性にとって重要なファクターであることは既知であるが、本発明者らは、固形粒子が、特にシリカ粒子の場合には、シリカ粒子を水に分散させた水分散体をベースに油分を添加することにより、水中油型ピッカリングエマルジョンを形成することがエマルジョンの安定性にとって重要であることを発見し、この事実に基づき、ピッカリングエマルジョン中のシリカ粒子と油分との複合粒子構造の形成メカニズムが、シリカ粒子の凝集性に起因して独特である点を基礎に、水中油型ピッカリングエマルジョンの安定性のみならず、シリカ粒子を水に分散させた水分散体の安定性を評価するパラメータとして、シリカ粒子の表面親水基と表面疎水基とのいわゆる合計モル数比率および合計モル比率のばらつきに注目することにより、出発原料であるシリカ粒子および油分それぞれの選択に対する制約が緩和可能であるとともに、用途に応じた水分散体の安定性と特性との両立、用途に応じたエマルジョン中の複合粒子構造の調整が可能であることを見出したものである。
【0022】
本発明の無機粒子の水分散体の原料として用いられる無機粒子としては、シリカ、二酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、カオリン、雲母、パーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、弗素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、金属石鹸等の無機粒子が挙げられる。 また、粒子に金属酸化物等を被覆させて得られる複合粒子や、粒子表面を化合物等で処理した改質粒子を用いてもよい。
通常これらの粒子の表面はシラノール基、カルビノール基、あるいはその他の水酸基等の親水基で覆われている部分と、それらの基をアルキル基等で疎水化処理した基、ないしは、別の疎水性の基で覆われている部分が存在する。
その親水性基と疎水性基の比率を調整することにより、無機粒子の凝集性、溶解性等との関係において水分散体の安定性、均一性を本発明により、その親水性と疎水性のバランスにより粒子の凝集性や溶解性を制御できる。
【0023】
無機粒子の中では、シリカを用いることが好ましい。シリカはフュームドシリカ、湿式シリカ、コロイダルシリカ等の種類があるが、いずれの種類のシリカの粒子においても表面には親水性であるシラノールが存在することと、そのシラノール基を任意の割合でアルキル基等による疎水化処理を行うことができるために、表面の親水基と疎水基のモル比を設定することが容易である。また、シリカは、凝集構造を取ること、各種油分との親和性が高く、ピッカリングエマルジョンへも移行しやすいこと、入手容易性や経済性等の観点から、広汎な用途を与えることとなるため好ましい。
シリカ粒子は、無機粒子の中で必ずしも100%を占める必要はなく、部分的に含有していることでも構わない。シリカ粒子は、シリカ粒子以外の無機粒子とネットワークを形成し、水分散体を安定、均一に存在させるために主導的な役割はシリカ粒子が演じながら、他の無機粒子が補佐的に役割に加担することができるからである。
【0024】
水分散体の原料として最も好ましいシリカはフュームドシリカである。
フュームドシリカ粒子は、多次の凝集構造を取っている。そのため、凝集レベルに応じて表面の親水基と疎水基のバランスを制御したり、凝集単位を組み換えたりすることができる。そのため、本発明を実施するに当たり、最も効果的に水分散体の安定性、均一性を制御できる。
また、フュームドシリカ粒子は、多孔質構造を有しているので、表面積が大きくなり、より会合や吸着の機能が大きくなるため、水分散体を、より安定、均一に生成できるからである。また、各種油分への会合、吸着の機能が大きくなるため、ピッカリングエマルジョンへ移行する際にも有利である。
【0025】
フュームドシリカ粒子は、最小単位である1次粒子は、通常、5〜30ナノメートル程度の大きさであり、1次粒子が凝集して1次凝集体、すなわち2次粒子を形成している。1次凝集体の大きさは、通常、100〜400ナノメートル程度である。1次粒子同士は化学結合により融合しているので、1次凝集体を分離するのは通常困難である。さらに、1次凝集体同士が凝集構造を形成しており、これを2次凝集体、すなわち3次粒子と称する。2次凝集体の大きさは概ね10μm程度である。2次凝集体における1次凝集体間の凝集形態は、通常、化学結合ではなく、水素結合その他の会合性の凝集力によるものである。従って、何らかの外力を加えれば2次凝集体を1次凝集体レベルまでに、一部あるいは全部を分離することも可能である。例えば、水中で一定以上のせん断力をかける等である。分離した2次凝集体は、外力を取りされば再び2次凝集体として凝集する。
なお、本発明の説明においては、1、2次凝集体のことを適宜、1、2次凝集レベルでのシリカ粒子群と称することがある。
フュームドシリカ粒子は、粉末状では2次凝集体が多くの場合の最も大きな凝集レベルである。しかし、水分散体の状況では2次凝集体がさらに凝集することができる。その凝集を分離させる力は、2次凝集体を分離させる力よりも弱い力で分離できる。
ただし、上記の1次凝集体、2次凝集体という凝集レベルは必ずしも明確に形成されているとは限らず、例えば、1次凝集体と2次凝集体との中途段階のような凝集レベルもある程度連続して分布し混在する場合がある。そのような、分布の幅をも含んで、1次凝集体、2次凝集体と称することにする。
因みに、フュームドシリカ粒子は、特に2次凝集レベルにおいて、ネットワーク構造を取ることも知られており、このことがピッカリングエマルジョン用の無機粒子として使いやすい場合がある。この場合、ネットワーク構造を形成するとしても、単一の油滴をベースとして、単一の油滴の外周面を覆うフュームドシリカ粒子の凝集体を特定することにより、自己ミセル的凝集体、親水リッチ凝集体および疎水リッチ凝集体間の区別が可能と考えられる。
【0026】
以下、本発明による無機粒子の水分散体の水中での状態、水分散体の製造方法、用途について、フュームドシリカを原料として用いる場合について説明する。その説明において、1次凝集レベル、2次凝集レベルという用語の使用においては、100%そのレベルのみについての説明ではなく、主体的にはその凝集レベルに関することであることを意味する。
フュームドシリカ以外の無機粒子の水分散体の場合でも、基本的な部分は共通している。
【0027】
フュームドシリカ粒子を水中に分散させる場合に、どのような凝集体ができうるかについて、
図1に示す。本明細書中では、便宜的に、親水リッチ凝集体、疎水リッチ凝集体、自己ミセル的凝集体という用語を用いる。自己ミセル的凝集体は本発明において見出した新たな概念である。また、本発明において、これら3種の凝集体の間の関係を見出したので、説明する。
フュームドシリカ粒子の表面の親水基/疎水基のモル比が親水基リッチである場合は、シリカ粒子表面と水が親和するため、シリカ粒子は水に溶解しやすく、2次凝集体14はそれ以上凝集せず単独で水中に安定して溶解している場合が多い。水分散体の粘度は低く、チクソトロピー性は低い。こうした凝集体を親水リッチ凝集体と称することにする。
フュームドシリカ粒子の表面の親水基/疎水基のモル比が疎水基リッチである場合は、シリカ粒子表面と水は親和しにくいため、シリカ粒子と水の接触面積をなるべく小さくする方向にシリカ粒子同士が配置しようとするため、シリカ粒子は凝集しやすくなる。水中で2次凝集体14同士が多数寄り集まる凝集体を形成する。従って、水分散体の粘度が高くなり、チクソトロピー性が大きくなる。この状態においては、水分散体の安定性は良好ではない。シリカ粒子の沈降等が経時により起こりやすくなる。こうした凝集体を疎水リッチ凝集体と称することにする。この状態は、既に疎水性のフュームドシリカとして既に、増粘剤やチクソトロピー性付与剤としての用途が存在している。ただし、使用者がシリカ粒子を水に分散させ直ちに目的の材料へ投入しなくてはならないという制約がある。
フュームドシリカ粒子の表面の親水基/疎水基のモル比が、親水リッチ凝集体と疎水リッチ凝集体との間の領域にある場合は、2次凝集体14において比較的親水度の高い1次凝集体10の密度が高い部分を水相と接し、比較的疎水度の高い1次凝集体12の密度が高い部分を他の2次粒子と接する凝集体を形成することができる。通常の界面活性剤の自己ミセルと類似の凝集形態なので、自己ミセル的凝集体と称することにする。この状態では、2次凝集体14の凝集個数は小さい数に限られ、凝集体のサイズも自ずと均質になるため、安定かつ均一な水分散体となる。自己ミセル的凝集体の外側、すなわち水相と接する部分には親水性基の濃度が高いので、親水リッチ凝集体に準じた十分に高い安定性を得ることができる。疎水リッチ凝集体よりはかなり安定である。自己ミセル的凝集体の内部には空間16があり、親油的な環境であるため、油分を外部から取り込みやすくなっている。自己ミセル的凝集体の粘度とチクソトロピー性は親水リッチ凝集体と疎水リッチ凝集体の中間的な性質である。界面活性剤の自己ミセルは、乳化しようとする油分との関係で、界面活性剤が余剰となった場合に形成されるが、フュームドシリカ粒子においては、油分の存在によらず、また濃度による影響も受けにくく、形成することができる。
【0028】
界面活性剤の場合、低濃度では水分子と十分に相互作用をして界面活性剤一分子または一イオンの状態(単分散状態)で溶解しているが、ある特定の濃度以上になると、単分散状態の濃度は飽和濃度となり、それ以降の界面活性剤は会合をして超分子または自組織体を形成するようになり、これがいわゆる自己ミセルである。自己ミセルは、通常、親水部を外側、疎水部を内側にした会合構造である。
本発明者らは、2次凝集レベルのシリカの水分散状態においても同様に、飽和濃度を超えれば、このような親水部を外側、疎水部を内側にした会合構造である自己ミセル的凝集体が形成されることに注目するものである。ただし、飽和濃度は界面活性剤の場合よりはかなり低い。
【0029】
これら3種の凝集体を互いに相対的に定義すると下記のようになる。
疎水リッチ凝集体とは、フュームドシリカ粒子の凝集体として、自己ミセル的凝集体および親水リッチ凝集体と比較して、チクソトロピー性を発現するほどの疎水性を呈し、凝集レベルが高いフュームドシリカ粒子群の塊、親水リッチ凝集体とは、フュームドシリカ粒子の凝集体として、自己ミセル的凝集体および疎水リッチ凝集体と比較して、水に溶解するほどの疎水性を呈し、凝集レベルが低いフュームドシリカ粒子群の塊、自己ミセル的凝集体とは、フュームドシリカ粒子の凝集体として、疎水リッチ凝集体および親水リッチ凝集体と比較して、内側に疎水性、外側に親水性が発現され、凝集レベルが疎水リッチ凝集体と親水リッチ凝集体との間に位置するフュームドシリカ粒子群の塊であり内部に空間があり親油的であり、外部から油分を取り込みやすい構造である。
フュームドシリカ粒子以外の無機粒子でもこのような3種の凝集形態を有する場合がある。
【0030】
フュームドシリカ粒子の水分散体を製造するには、いずれの種類の凝集体を形成する場合でも、原料のシリカ粒子が水へ自発的に溶解ないしは分散することは困難であるため、何らかのせん断力を与える装置を用いる必要がある。通常の混合機、例えばホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサー、高速ステーターローター攪拌装置等を用いて作製することができる。
【0031】
水分散体におけるフュームドシリカ粒子の配合量としては、水分散体組成物全量に対し0.1〜30.0質量%の範囲が好ましく、0.2〜10質量%の範囲であることがより好ましい。配合量が0.1質量%未満であると凝集が進まないことがあり、配合量が30.0質量%を超えると粘度が大きくなるために、攪拌装置の適正範囲を超えてしまう。
【0032】
フュームドシリカ粒子の1次凝集体同士の凝集力は、特定のせん断力をかければ解き放たれ、そしてせん断を取りやめれば再び凝集する。従って、水分散体の製造において、特定のせん断をかければ、別々の2次凝集体の間で、1次凝集体を交換することもできる。これにより、1つの2次凝集体の中の親水リッチな1次凝集体と疎水リッチな1次凝集体との割合を変えることができる。このような2次凝集体の間で、1次凝集体を交換をリアレンジメントと称することにする。
リアレンジメントを起こさせるには、7500s
−1以上のせん断速度をかけるのが好適である。せん断速度が7500s
−1未満だと十分なリアレンジメントが起こらない。リアレンジメンとを起こすためのせん断速度の上限値はないが、100000s
−1を超えると装置上の不具合が生じやすくなつとともに、水分散体が加熱されることにより水分が蒸発したり、油分がある場合は分解が起こるなどの問題が生じる可能性があるので、好ましくない。
リアレンジメントを十分に起こさせることは、2次凝集体間の1次凝集体の交換を促進することになるので、水分散体の系全体のフュームドシリカ粒子の2次凝集体の中の親水リッチな1次凝集体と疎水リッチな1次凝集体との割合が、より均一なものになっていく。
また、リアレンジメントが起こるのに十分なせん断速度をシリカ粒子の凝集体に対しかけた場合、同一の2次凝集体の中で、1次凝集体の移動が起こり、配置が変わる可能性もある。そして、自己ミセル的凝集体が形成される場合においては、
図1に示されているように、疎水的な1次凝集体は、2粒子の凝集方向に向かって配向を起こす可能性がある。
【0033】
上記説明と
図1に図式的に示したように、フュームドシリカ粒子の親水性/疎水性の程度により最もできやすい凝集体の種類が異なってくる。
より具体的には、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率が、所定の下限以下であれば、疎水リッチ凝集体が主に生成する。そして、合計モル比率が所定の上限以上であれば、親水リッチ凝集体が主に生成する。そして、合計モル比率が所定の下限以上かつ上限以下であれば、自己ミセル的凝集体が主に生成する。
フュームドシリカの場合は、合計モル比率の下限値は概ね20/80である。上限値は概ね80/20である。
【0034】
本発明では、フュームドシリカの粒子のリアレンジメントを起こすために、一定以上のせん断力をかければ、出発物質としてのフュームドシリカの状態には制約を受けないことを思いがけずも発見した。すなわち、原料段階で、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を、20/80以上および/または80/20以下に設定しさえすれば、原料のシリカの種類は問わない。表面のシラノール基が残留した親水性シリカ粒子であっても、表面のシラノール基を疎水化処理した疎水性シリカ粒子であってもよく、これらを任意に混合して用いてもよい。また、任意の比率で疎水化処理されたフュームドシリカでもよい。これらのフュームドシリカ粒子は市販のものを利用できる。あるいは、親水性シリカ粒子を、メチルトリクロロシランのようなハロゲン化有機ケイ素やジメチルジアルコキシシランのようなアルコキシシラン類、シラザン、低分子量のメチルポリシロキサンで処理する公知の方法によって疎水化することができる。
以上のシリカ粒子は、乾燥状態での比表面積が、2〜350m
2/gの微粉末であることが好ましく、特に、50〜300m
2/gであることが好ましい。
原料としては上記の種類のフュームドシリカ粒子を利用できるが、原料段階で、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を、20/80以上および/または80/20以下に設定することが必要である。
【0035】
本発明で得られる無機粒子の水分散体は、従来存在しなかった安定かつ均一で、かつ増粘性やチクソトロピー性付与といった機能も与えられるので、非常に多くの新しい用途が拓ける。かつ、市販のシリカを用い、原料段階で親水基と疎水基のモル比率を調整し、通常の装置で製造できるので、コスト的、肯定的に大きなメリットを生む。
【0036】
本発明によれば、フュームドシリカ粒子の合計モル比率を設定することにより、疎水リッチ凝集体、親水リッチ凝集体、または自己ミセル的凝集体の存在割合を変化させることが可能になる。そのことにより、新たな用途展開が可能になる。
自己ミセル的凝集体は、疎水リッチ凝集体ほどではないにせよ、増粘作用およびチクソトロピー性付与作用を有している。かつ、安定性、均一性に優れる。
【0037】
よって、合計モル比率を20/80以上に設定すれば、自己ミセル的凝集体と疎水リッチ凝集体が混在する状態となる。このような場合、従来の疎水的フュームドシリカによる増粘剤、チクソトロピー性付与剤よりも安定性が向上する。すなわち、安定性および増粘性・チクソトロピー性の双方を重視した新たな用途が可能になる。例えば、塗料やポリマー材料に添加して増粘性やチクソトロピー性を付与する場合は、従来のようなシリカ粒子がすぐに沈降するような不安定さがないので、安定な水分散体として製品化が可能になる。ユーザーでの貯蔵安定性が増し、ユーザーで水分散体を調製する必要がなくなるので、取扱い容易性が向上する。
【0038】
合計モル比率を80/20以下に設定すれば、自己ミセル的凝集体と親水リッチ凝集体が混在する状態となる。このような場合、従来の親水的フュームドシリカでは安定性はよいものの、増粘性、チクソトロピー性はほとんど得られなかったことに比較すれば、増粘性、チクソトロピー性はある程度増大する。すなわち、安定性および低粘度性の双方を重視した新たな用途が可能になる。例えば、クリームや乳液状の化粧料のような、程度の小さい増粘性、チクソトロピー性が求められている場合で、かつ良好な安定性が求められるような場合における新たな用途が拓ける。また、ユーザーでの貯蔵安定性は良好であり、ユーザーで水分散体を調製する必要がなくなるので、取扱い容易性が向上する。
【0039】
合計モル比率を20/80以上、かつ、80/20以下に設定すれば、自己ミセル的凝集体が中心に存在する状態となる。この場合は、安定であり、かつ、ある程度の粘度、チクソトロピー性がある状態である。さらに、疎水リッチ凝集体や親水リッチ凝集体が存在しないので、均一な状態である。
従って、増粘、チクソトロピー性付与を中心とした機能付与剤として安定かつ均一なものを提供できることになるので、非常に幅広い用途展開が可能になる。同一バッチ内における昨日のばらつきやバッチ間のばらつきも低減できる。このような特長を利用できる用途としては、化粧品、機能性塗料、機能性コーティング剤、接着剤、建築用シーラントなど非常に多くの用途が考えられる。しかも、各用途の所望の増粘やチクソトロピー性付与の程度を、合計モル比率を適宜調整することにより、合わせることが可能になる。また、ユーザーでの貯蔵安定性は良好であり、ユーザーで水分散体を調製する必要がなくなるので、取扱い容易性が向上する。
【0040】
本発明によるピッカリングエマルジョンは、2次凝集体のフュームドシリカ粒子群により形成される自己ミセル的凝集体内部に油分が含有した形態の複合粒子群を含み、複合粒子群それぞれは、自己ミセル的凝集体が油滴の表面を被覆している水中油型エマルジョンである。水分散体において自己ミセル型凝集体が安定であることが、基本的にピッカリングエマルジョンにも当てはまる。
自己ミセル的凝集体により油滴が被覆されることにより、安定かつ均一で、再現性のよいピッカリングエマルジョンが生成する。
【0041】
フュームドシリカの2次凝集体は通常の存在形態では、その大きさが約10μm程度と言われている。しかし、本発明による水中油型エマルジョンでは、球形のシリカ粒子の塊状物が被覆しており、1つの塊状物は0.1μmから数μm程度の大きさであることが多い。従って、2次凝集体と言っても、ごく一部には1次凝集体を含み、1次から2次への中途の段階の凝集体を含んでいる可能性がある。あるいは、2次凝集体が、一般的に存在するよりも密に形成されていることが考えられる。
【0042】
本発明の水中油型乳化組成物に含まれる油分としては、限定されるものではなく、あらゆる種類の油性成分を用いることができる。例えば、シリコーン、鉱物油、合成油、植物油、動物油、等を用いることができる。
シリコーンは、産業用、化粧品用等の広汎な用途で優れた特性を与えるので好ましい油分であり。その種類は限定されない。例えば、鎖状ポリシロキサン(例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等)、環状ポリシロキサン(例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等)、3次元網目構造を形成しているシリコーン樹脂、シリコーンゴム、各種変性ポリシロキサン(アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等)、アルケニル変性ポリシロキサン、ハイドロジェンポリシロキサン、アクリルシリコーン類等が挙げられる。
【0043】
油分の粘度も限定されない。また、流動性さえあれば、固形成分を含むものでもよい。また、流動性を有するゴムまたはゴム含有物、あるいはエマルジョン形成後に硬化しゴムになるような硬化性ゴム組成物でもよい。
【0044】
本発明による水中油型エマルジョン中に存在する個々の複合粒子においては、フュームドシリカ粒子の自己ミセル的凝集体が油滴を被覆している。その際、2次凝集体一つずつの層をもって被覆している場合もあれば、2次凝集体の複数の層を形成している場合もある。また、あるいは、一部フュームドシリカ粒子によって被覆していない部分があっても構わない。
【0045】
油滴と接している2次凝集体は、一部が油滴に埋め込まれている。埋め込みの程度は、油分の極性の程度とフュームドシリカ2次凝集体の表面の親水基と疎水基のモル比により異なる。油滴と2次凝集体との極性が近い場合、例えば、シリコーンが油滴である場合、2次粒子の表面の極性がシリコーンに近い場合は、親和性が大きいため、埋め込みの程度が大きくなる。逆に、極性の差が大きい場合は埋め込みの程度が小さい。
ピッカリングエマルジョンが安定に存在するためには、無機粒子と油滴と水の3者により決定される接触角を最適な値として取ることが重要だと言われている。本発明の水中油型エマルジョンにおいては、フュームドシリカ粒子の2次凝集体が油滴へ埋め込まれる程度は上記の機構により主に決まるが、エマルジョンが完成する過程において、適当なせん断力により、2次凝集体内の1次凝集体が移動し、油滴の方向に向け疎水度の高い1次粒子が配向することにより、2次粒子内で極性の傾斜を生じる可能性がある。エマルジョンが最も安定に存在するために、上述の傾斜の程度を自ら調整することにより埋め込みの程度を決めることにより、最適な接触角を得ている可能性がある。
また、2次凝集体は、エマルジョンが形成された後も、適当なせん断力の下、移動が可能である。油滴の表面を移動して均一な間隔になったり、積層の状態を均一化も可能である。さらには、一部は他の複合粒子間でも行き来が可能である。
【0046】
フュームドシリカ粒子の2次凝集体による油滴の被覆は全面的な被覆に加えて、部分的な被覆を含む。被覆の程度を示す指標としてはシリカ層の厚さや形態的な観察による結果なども考えられるが、今回、被覆量を取り上げることにより、より実際的な被覆の程度として特性を制御できる。特性とは、エマルジョンとしての特性(安定性等)および、複合粒子として単離して利用する場合は、単離した複合粒子の非ブロッキング性等の特性を言う。
表面に有するシリカ粒子の被覆層の量としては、油滴の表面の単位面積当たりのフュームドシリカ粒子の重量としてパラメータ化することができる。
本発明においては、このシリカ被覆層の量は、複合粒子の粒径から計算される表面積に対するシリカ粒子の処理量で制御できる。この量は好ましくは2.0×10
−9〜3.2×10
−6kg/m
2の範囲内である。2.0×10
−9kg/m
2未満だと複合粒子の水中または単離後のブロッキングが起きてしまい、3.2×10
−6kg/m
2を超えると複合粒子の摩擦が大きくなるなどの理由で、特定の用途では好ましくない現象、例えば化粧品でのきしみ感、ほか、エマルジョン中ないしは粒子単離後に余剰のシリカによる汚染等が起きてしまう。
【0047】
本発明による水中油型エマルジョン中に存在する個々の複合粒子の粒径は、油分の合計量に対するフュームドシリカ粒子の質量比率によって影響を受ける。その比率が高いほど、粒径は小さくなる。ただし、上記した好ましいシリカ被覆層の量の範囲内においては、油分の種類にかかわらず、ほぼ10μm程度の粒径となる。通常の有機系界面活性剤により乳化されたエマルジョンの粒子の粒径よりは大きいが、この粒径で安定かつ均一であり、種々用途に応用した場合に、ピッカリングエマルジョンとしては概ね100μm以下の粒径であれば好適である。100μmを超える粒子径では、エマルジョンの安定性が低下するほか、複合粒子を単離して用いる場合は、例えば化粧品用途では、紛体の大きさが触感で感じられる領域となるため、使用感の観点から好ましくない。
本発明による水中油型エマルジョン中に存在する複合粒子群の粒径のばらつきは小さい。油滴の表面をフュームドシリカ粒子の自己ミセル型凝集体が覆うためである。水分散体の自己ミセル的凝集体は均一であるため、油滴への作用が均一化するため、粒径のばらつきが少なくなる。
【0048】
本発明による水中油型エマルジョンを製造するには、フュームドシリカ粒子の水分散体の製造に用いる装置と同様の攪拌装置を用いることにより製造できる。
油滴の表面をフュームドシリカ粒子の自己ミセル的凝集体を被覆させるためには、順番として、まず、フュームドシリカ粒子の自己ミセル的凝集体を形成し、しかる後に油分を投入する方法を採る必要がある。油分を最初に投入すると、フュームドシリカ粒子の自己ミセル的凝集体が形成されないので、目的のピッカリングエマルジョンである水中油型エマルジョンができないからである。
従って、製造方法としては、第1段階として、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を、20/80以上80/20以下となるように、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群を準備する。合計モル比率を所定値範囲とするためには、水分散体の自己ミセル的凝集体の生成方法と同じく、原料のフュームドシリカでモル比を合わせる。
次に第2段階として、準備した2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群を水に添加して、所定せん断速度でせん断することにより、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群間における1次凝集レベルでの交換および/または2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子における1次凝集レベルでの配向を促進することにより、合計モル数比率の平均値と、フュームドシリカ粒子群を構成する2次粒子の各々における表面親水基のモル数/表面疎水基のモル数であるモル比率との差が所定値以下となるように2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群による自己ミセル的凝集体を含む水分散体を生成する。リアレンジメントを起こさせるには、7500s
−1以上のせん断速度をかけるのが好適である。
次に第3段階として、生成した水分散体中に、油分を添加して、エマルジョンを形成する。この際、攪拌装置において、適度なせん断速度を加え、自己ミセル的凝集体が油滴の表面を均一に覆い複合粒子としての構造体を均一に形成するために、適宜せん断をかける時間を要する。せん断速度は、リアレンジメントが起こる7500s
−1以上は必要なく、通常、数千s
−1程度で十分である。
【0049】
フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を所定値の範囲内に設定することにより、自己ミセル的凝集体が中心的に生成することが、安定かつ均一なピッカリングエマルジョンを作製するために重要なことであるが、油滴表面に自己ミセル的凝集体が被覆した個々の複合粒子の中での自己ミセル的凝集体の状態(例えば界面における2次凝集体の油滴への埋め込みの度合い)はできる限りばらつきがないことが好ましい。ばらつきが小さければ、自己ミセル凝集体同士の連携がより強固となるために、複合粒子がより安定になりやすい。そして、そのことが複合粒子群全体が安定になるともに、個々の複合粒子間の状態のばらつきも小さくなる。
【0050】
2次凝集体の間でのばらつきを小さくするには、上記の製造法における第2段階によりなされる。2次凝集体毎の疎水化度(親水化度)のばらつきが小さいことは、各自己ミセル凝集体の中で油滴に接する2次凝集体の埋め込みの程度のばらつきも小さくなる。次凝集体毎の疎水化度(親水化度)のばらつきは、全2次凝集体の疎水化度(親水化度)のばらつきの平均値に対して概ねプラスマイマス60%以内であれば、安定した水中油型エマルジョンが形成される。
2次凝集体間のばらつきを小さくするためには、せん断をかけてリアレンジメントを起こさせなくても、原料のフュームドシリカ粒子として、特定の疎水化率にて親水基を疎水化した粒子を用いても達成される。ただし、その方法は製造コストが多くかかる。そのような特殊なシリカ粒子を用いなくても、市販で安価な親水性のフュームドシリカ粒子と疎水性のフュームドシリカ粒子を原料として用い、所定の合計モル比率になるように質量比を調整するのみで、簡便な方法で製造できるからである。
【0051】
2次凝集体の疎水化度(親水化度)のばらつきを著しく低減させないでも、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子における1次凝集レベルでの配向を促進することで複合粒子の状態のばらつきを低減することもできる。配向が進めば、2次凝集体における油滴界面と接する部分の近傍に疎水基の濃度が高くなり、逆に水相と接する部分の近傍に親水基の濃度が高くなり、油滴への埋め込みと水相との親和の双方が効率よく行われるようになるからである。
2次凝集体の疎水化度(親水化度)のばらつきが低減し、かつ、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子における1次凝集レベルでの配向が進んだ場合は、相乗効果が発揮し、より安定で均一な複合粒子を作製することができる。
【0052】
複合粒子間のばらつきという意味では、フュームドシリカ粒子と油分の質量比の設定も重要である。前述したように、油滴の表面のシリカ粒子の被覆厚さは複合粒子間でばらつきがなるべくない方がよい。そのためには、油分の質量に対して、前述の安定な被覆量の範囲にシリカ粒子の質量を設定するのがよい。
本発明の水中油型エマルジョンまたは単離した複合粒子において、シリカを機能性粒子としても活用する場合は、シリカ粒子に対する油分の質量比率も重要な意味を持つ。
【0053】
フュームドシリカ粒子の水分散体および水中油型エマルジョンにおいて、2次凝集体の親水基/疎水基のモル比率の凝集体間の平均値と各2次凝集体のモル比率のばらつきを求める方法を本発明において発見したので、ここに説明する。本発明においては、フュームドシリカ粒子の自己ミセル型凝集体を油滴に被覆させ水中油型エマルジョン(ピッカリングエマルジョン)とするものであり、2次粒子間のリアレンジメントは水分散体の作製の過程で完結している。従って、上述のモル比率のばらつきは、エマルジョンの段階と、その前段階である水分散体が作製完了した段階では、同じであると考えられる。同じであるという前提で、上述のモル比率のばらつきを求める方法を説明する。
【0054】
フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を適宜、0〜100%までの間で振り、7500s
−1以上のせん断速度をかけてリアレンジメントを十分に起こさせ、ばらつきがゼロになった水分散体と、もう一方は、リアレンジメントを起こさせないで、ばらつきが最大限になった水分散体について、粘度を測定する。そして、せん断速度が小さい点での粘度の値をせん断速度が大きい点での粘度の値で除した結果の数値を算出する。これは、従来既知のチクソトロピックインデックス(以下、TI値と略す)である。ばらつきが大きい水分散体は、疎水リッチ凝集体の存在割合が多いので、TI値、すなわちチクソトロピー性が増大する。
2次凝集体の親水基/疎水基のモル比率の凝集体間の平均値と各2次凝集体のモル比率のばらつきの%値は、エマルジョン作製後に複合粒子を取り出し、そのシリカ粒子の2次凝集体の表面をSEM−EDX(エネルギー分散型X線分光法。SEM{走査型電子顕微鏡}に元素分析等の機能が付いた分析法)で分析し、その比率の平均値とばらつき%を解析する。本発明の水中油型エマルジョンの複合粒子表面のSEMによる観察では、2次凝集体と思われる球形の凝集体が油滴に埋め込まれているのが確認できるので、その球形の凝集体を2次凝集体として解析する。シリカ粒子の表面にはSiOH基とSiOSiMe
3基が存在するとして、炭素原子と酸素原子の量を元素マッピングで解析する。
【0055】
図2には、SEM−EDXによるばらつきが0%の場合の、その元の水分散体の表面疎水化度(原料における合計モル比)対TI値のプロットと、同ばらつきが80%の場合の同水分散体のプロットを示す。詳細なデータは実施例で述べる。
図2に示すように、疎水化度XにおけるTI値がYである場合のばらつきZ%について、ばらつきα%のTI検量曲線の疎水化度XにおけるTI値がY1、ばらつきβ%(≦α%)のTI検量曲線の疎水化度XにおけるTI値がY2を利用して、比例配分により式(1)で求める。
Z=β+(α―β)×(Y―Y2)/(Y1―Y2) (1)
予め、マスター水分散体を用いて、2本の検量線を作成しておけば、任意の疎水化度Xにおけるばらつき%値が、TI値を測定するだけで算出できる。すなわち、非常に低コストで簡便な方法で安定性および均一性をチェックできることがわかった。
用途と目的応じて、許容できるばらつき度以内に収めるために、所定のTI値を設定しておき、測定値がそれ以下であれば、水分散体およびそれを用いた水中油型エマルジョンの安定性および均一性の選定とすることができる。
なお、エマルジョンのTIの評価は困難である。油滴の種類や粒径等の効果が現れてくるので、現実的なパラメーターを整理できない。
水分散体の安定性、均一性はゼータ電位の測定によっても解析できる。フュームドシリカ粒子の凝集状態に応じたピークが現れるからである。
【0056】
以上のように、本発明の水中油型エマルジョンは、用途や目的に応じて、安定性、均一性の要求レベルを獲得するための、原料の選択、疎水化度の設定、シリカ対油分の量比、そして安定性、均一性の予備チェックといった、エマルジョンの設計が可能である。
【0057】
既に述べてきたように、安定かつ均一な水中油型エマルジョン(ピッカリングエマルジョン)を得るには、エマルジョンの中間体としての水分散体は、その作製段階でフュームドシリカ粒子の自己ミセル的分散体を形成するとともに、TI値のチェックによりばらつきが少なく、安定かつ均一な水分散体を完成させておくことが必要である。その状態が基本的にエマルジョンでも維持される。
それに加え、2次凝集体の中での1次凝集体の配向をより促進させるための、補助的なせん断をエマルジョンの作製過程で加えることは重要である。
さらに、シリカ粒子が油滴を一定の厚みで均一に覆うためには、適当なせん断を加えた上で、適当な時間が必要である。
【0058】
本発明で得られるフュームドシリカ粒子が油滴を被覆する水中油型エマルジョン(ピッカリングエマルジョン)は、水分散体生成段階で、主たる安定性と均一性を確保しており、そこへ補助的な安定化を施すので、非常に安定性と均一性が高まる。さらに、再現性がよく、信頼性も高いこと、そして油分の選択や形態の制約がないことから、非常の多くの用途展開が可能になる。
本発明によれば、水中油型エマルジョンの中間体の段階で、水分散体中の複合粒子の均一性を簡便な方法でチェックできるので、最終的なエマルジョンの安定性、均一性を確保できる。不良製品を出さないための歩留まりが著しく向上する。また、そのための設計が可能である。
エマルジョンが目的物の場合は、種々化粧料に配合して、油分である各種シリコーンを毛髪や皮膚に付着させて種々効果を与えるような用途、各種電子材料の被膜やエアバッグの被膜として非常に精密かつ再現性が必要なコートを求められるような用途、ダイカスト用の離型剤のような非常に耐熱性を求められかつ均質なコートを求められるようなコートなど、非常に多くの既存の用途の改良や新規用途の開拓が期待される。
本発明によれば、安定性と均一性を確保した水中油型エマルジョンが生成し、シリカ層の被覆度を制御できるので、単離した複合粒子として信頼性のあるものが得られる。
【0059】
水を除去し複合粒子を単離する場合において、シリカが機能粒子として働く場合は、従来のプラスチックの補強材の用途において、油分の作用により吸湿性を低減させるような機能を付与させたり、ゴム弾性を付与したり、油分が硬化したシリコーンゴムの場合には、内部が柔らかく、外側が硬いことにより、さらさら感を与えかつ進展性のあるような化粧品用パウダーなどの用途が考えられる。これらの用途において複合粒子としてのばらつきが小さいために、用途上の機能が向上する。
シリカが機能粒子ではない場合は、シリコーンゴム粒子を各種塗料やプラスチックに配合する際に、粒径や形の均一性がよいために性能を向上させたり、複合粒子を適宜、再び水に戻してエマルジョン化させるという、一種のドライエマルジョンとしての新しい製品形態なども考えられる。
【実施例】
【0060】
次に本発明を実施例によって説明する。なお、本発明はこれによって限定されるものではない。
また、実施例にて使用したフュームドシリカの内容は下記の通りであり、本発明のフュームドシリカ粒子の水分散体、水中油型エマルジョン、比較例における組成物に対する評価方法は、以下のようにして行った。
【0061】
<フュームドシリカの内容>
本発明の実施例および比較例で用いたシリカは、表1に示すシリカ1〜3であり、いずれもフュームドシリカ(乾式シリカ)である。その内容は表1に示す通りである。
【0062】
【表1】
【0063】
<粘度、TI(チクソトロピックインデックス)測定法>
実施例及び比較例で得られたシリカ水分散体について、B型粘度計(ブルックフィールド社製、型式:DV−II+Pro)を用いて25℃、7.5s
−1の条件における粘度と、25℃、350s
−1の条件における粘度を測定した。25℃、7.5s
−1の条件で測定した粘度を、25℃、370s
−1の条件で測定した粘度で除してTI(チクソトロピックインデックス)値を導出した。
【0064】
<粒子径測定法>
実施例及び比較例で得られた水中油型エマルジョン粒子の粒子径は、ベックマン・コールター社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(商品名「LS−230」)を用いて測定し、平均粒子径を示した。
【0065】
<安定性、均一性評価法>
実施例及び比較例で得られた水分散体、水中油型エマルジョンの安定性の評価法は、試料50mlスクリュー管に30g入れ、室温貯蔵1か月後に、沈降分離の有無を確認した。エマルジョンについてはクリーミングの有無も確認した。また、目視で大きな粒状物の存在はないか、辺部に濁りがあるかどうかの確認を行い、均一性を確認した。
評価基準;
◎:クリーミング、沈降分離全くなし、均一、○:クリーミング、沈降分離がわずかにある、ごくわずかに不均一性あり、△:クリーミング、沈降分離、不均一の傾向あり、×:クリーミング、沈降分離あり、不均一。
【0066】
<SEM−EDX測定による複合粒子の疎水化度のばらつきの解析>
実施例及び比較例で得られた水中油型エマルジョンにおける複合粒子表面に存在するシリカ粒子の2次凝集体における、表面の疎水基と親水基のモル比率を、SEM−EDXの表面分析による元素マッピングで解析した。
粒子表面の炭素原子および酸素原子の元素マッピングによる存在比率の定量手法は以下の方法で行った。
まず、エマルジョンを150°Cで3時間以上乾燥させ、水分を完全に蒸発させた乾燥エマルジョン粒子、すなわち複合粒子を得た。
SEM−EDXによる定量は以下の方法で行った。
乾燥エマルジョン粒子を、スパッタ装置あるいは蒸着装置を用いて、厚み10nm程度の貴金属の帯電防止層を形成してSEM用のサンプルを作製した。
このSEM用サンプルをJSM−5600LV、JEOL製のSEM−EDX装置にセットし、5,00〜10,000倍程度の倍率で観察した。試料の中央付近でEDX点分析を試料傾斜角度:0°、加速電圧20kVで積算し、複合粒子表面の炭素原子および酸素原子の割合を得た。
この炭素原子割合値を元に、2次凝集体単位ごとの表面の疎水化度の、平均値に対するばらつきの%を算出した。
【0067】
<SEM−EDX測定により2次凝集体の疎水化度のばらつき値とTIの関係の考察>
各実施例及び比較例における原料の疎水化度において、マスター水分散体として、2次凝集体レベルで疎水化度のばらつきが0のものと±80%のものを、それぞれ、せん断速度を調整することにより作製し、SEM−EDXで所望のものができたことを確認し、その時の水分散体のTI値を測定し、疎水化度との関係でプロットし、これを検量線とした。
この関係図上に、各実施例及び比較例で得られた水分散体のTI値をプロットした。その値が、上記の2種の検量線間の存在位置から比例配分されることにより得られたばらつき値とSEM−EDXにより実測値により得られた実測値との整合性を確認した。
図2に考察結果を示す。
【0068】
<実施例、比較例における水分散体、水中油型エマルジョンの作製方法>
各実施例、比較例においては、表2に示す処方量および作製条件にて水分散体を得た。さらにその水分散体を経由して、同表に示す処方量により水中油型エマルジョンの作製を行った。
水分散体、水中油型エマルジョンの評価結果を表3に示す。
【0069】
<実施例1>
第1段階として、親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)2.5gと疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)2.5gを500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて3,000rpmで2分間攪拌することにより、シリカ水分散体を得た。その際のせん断速度は約11,000s
−1であった。
続いて、第2段階として粘度1000mPa・s のジメチルポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社(ドイツ、ミュンヘン)から「AK1000」の名称で入手可能)を投入し、1,500rpmで2分間攪拌することで、低粘度白色の水中油型エマルションを得た。その際のせん断速度は約5,700s
−1であった。
【0070】
<実施例2>
シリカ1を1g、シリカ2を4 gを投入したこと以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。
【0071】
<実施例3>
シリカ1を4g、シリカ2を1 gを投入したこと以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。
【0072】
<実施例4>
部分疎水化処理親水性フュームドシリカ(「シリカ3」)5gを500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて3,000rpmで2分間攪拌することにより、シリカ水分散体を得た。
続いて、粘度1000mPa・s のメチルポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社(ドイツ、ミュンヘン)から「AK1000」の名称で入手可能)を投入し、1,500rpmで2分間攪拌することで、低粘度白色の水中油型エマルションを得た。
【0073】
<実施例5>
第2段階での攪拌時間を1分間とした以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。
【0074】
<実施例6>
第2段階での攪拌を500rpmとした以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。その際のせん断速度は約1,900s
−1であった。
【0075】
<実施例7>
第1段階での攪拌時間を1分間とした以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。
【0076】
<比較例1>
親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)5gを500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて3,000rpmで2分間で攪拌することにより、シリカ水分散体を得た。
続いて、粘度1000mPa・s のメチルポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社(ドイツ、ミュンヘン)から「AK1000」の名称で入手可能)を投入し、1,500rpmで2分間攪拌することで、エマルジョンを得たが、水中油型性は十分ではなかった。
【0077】
<比較例2>
親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)5gの代わりに疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)5gを投入したこと以外は、比較例1と全く同様にして、全体白色液を得たが、連続相である水相と分散相である油相とに分離した状態の水中油型性は十分ではなかった。
【0078】
<比較例3>
親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)2.5gと疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)2.5gを500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて500rpmで2分間攪拌することにより、シリカ水分散体を得た。その際のせん断速度は約1,900s
−1であった。
続いて、粘度1000mPa・s のメチルポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社(ドイツ、ミュンヘン)から「AK1000」の名称で入手可能)を投入し、1,500rpmで2分間攪拌することで、全体白色液を得たが、連続相である水相と分散相である油相とに分離した状態の水中油型性は十分ではなかった。
【0079】
<比較例4>
第1段階として、粘度1000mPa・s のジメチルポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社「AK1000」を500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて1,900rpmで2分間攪拌することにより、水中油型エマルジョンを得た。その際のせん断速度は約5,700s
−1であった。
続いて、第2段階として親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)2.5gと疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)2.5gを投入し、3,000rpmで2分間攪拌した。。その際のせん断速度は約5,700s
−1であった。
全体白色液を得たが、連続相である水相と分散相である油相とに分離した状態の水中油型性は十分ではなかった。
【0080】
<比較例5>
親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)2.5gと疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)2.5gと粘度1000mPa・s のジメチルポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社「AK1000」を500mLのステンレス鋼ビーカー中に同時に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて3,000rpmで2分間攪拌した。。その際のせん断速度は約5,700s
−1であった。
全体白色液を得たが、連続相である水相と分散相である油相とに分離した状態の水中油型性は十分ではなかった。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
<水分散体、水中油型エマルジョンの作製結果まとめ>
表2、3で示されたように、原料のフュームドシリカの段階でのシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数の粒子群にわたる合計モル数と、粒子群の各々における表面疎水基のモル数の粒子群にわたる合計モル数との比率を26/74〜74/26の範囲では、安定な水分散体および水中油型エマルジョンが生成した。しかし、そのモル比が90/10では、水分散体は安定だが、安定な水中油型エマルジョンは生成しなかった。モル比が10/90では、水分散体もエマルジョンも安定ではなかった。
モル比が50/50であっても、せん断速度が低い場合は、水分散体もエマルジョンも安定ではなかった。
せん断速度が十分大きい場合は、いずれも、2次凝集レベルでの表面の疎水化度のばらつきは十分に小さくなったが、せん断速度が十分でない場合は、ばらつきが大きくなった。
水分散体の作製の際にかけたせん断速度よりも大幅に小さいせん断速度で油分が取り込まれたため、水分散体の自己ミセル的凝集体がほぼそのままの状態で水中油型エマルジョン(ピッカリングエマルジョン)に移行したと考えられる。
SEM−EDXによる観察は水分散体の自己ミセル的凝集体の状態をほぼ反映していると考えられることから、実施例各例においては、安定かつ均一な水分散体およびエマルジョンが生成したと考えられる。
複合粒子間のばらつき抑制にとって、自己ミセル的凝集体間の均質化は重要なファクターである点を確認した。
シリカ、水、油の同時混合、水と油の混合後、シリカ混入いずれも、安定したエマルジョンできなかった点を確認した。また、水分散体で主せん断、エマルジョンで補助せん断でもよい点を確認した。それらを根拠に、水分散体中での自己ミセル的凝集体の形成が推察される。
シリカの凝集性に応じて、エマルジョンの安定性確保にとって、全体モル比率、ばらつきは変動することを確認した。
せん断に関し、エマルジョンの安定性にとって、リアレンジメントが必要であるところ、せん断速度が所定以上であれば、せん断時間は問わないが、複合粒子の諸元調整にとって、せん断速度およびせん断時間が関係する点を確認した。
【0084】
<SEM−EDX結果とTI結果の考察>
図2に、マスター水分散体として、実施例、比較例で用いたシリカ1、シリカ2を用い、SEM−EDXにて2次凝集体の疎水化度のばらつきが0のもの、すなわちリアレンジメントが完全に行われたもののTI値の測定結果をプロットしたものを実線で示し、同ばらつきが±80%だったもの、すなわちリアレンジメントが全く行われていないもののTI値の測定結果をプロットしたものを破線で示し、2つの検量線とした。この図に、実施例1〜4、比較例1、2におけるTI値を×印でプロットした。なお、SEM−EDXの測定は、各マスター水分散体を、実施例1と同じ方法で水中油型エマルジョン化し、複合粒子を分析した。
マスター水分散体の作製条件とばらつき値、TIの測定値を表4に示す。
図2の×印の位置から、疎水化度XにおけるTI値がYである場合のばらつきZ%について、ばらつきα%のTI検量曲線の疎水化度XにおけるTI値がY1、ばらつきβ%(≦α%)のTI検量曲線の疎水化度XにおけるTI値がY2を利用して、比例配分により式(1)で求めた。
Z=β+(α―β)×(Y―Y2)/(Y1―Y2) (1)
その算出結果を表4に示す。
実施例1〜4、比較例1、2におけるSEM−EDXにより算出されたばらつき値とTIの検量線から式(1)で算出したばらつき値を表5に比較した。よい整合性を示した。
従って、任意の原料段階での疎水化度のモル比におけるTI値を測定することにより、この検量線からばらつき値が求められることを確認できた。
電子顕微鏡のような高度で煩雑な直接的観察によらなくても、TIという簡便な方法で安定かつ均質な水分散体が作製および設計できることもわかった。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
<自己ミセル的凝集体の生成の考察>
(1) シリカ、水および油分から水中油型エマルジョンにおいて、シリカおよび水による水分散体を形成後に、油分を添加することにより、安定した水中油型エマルジョンが形成され、シリカ、水および油分の同時添加、および油分と水とを先添加し、シリカを後添加するのでは、安定した水中油型エマルジョンが形成されなかった事実
(2) シリカおよび水による水分散体を形成後に、油分を添加する場合、水分散体を形成する際に所定せん断速度以上のせん断をかけることが、安定かつ均一な水分散体の形成にとって必要であり、安定かつ均一な水分散体により油分を添加して水中油型エマルジョンを形成するのに、必ずしもせん断をかけることが必要でなかった事実
(3) 原料であるシリカおよび油分の種類に係わらず、シリカおよび水による水分散体を形成後に、油分を添加することにより、水中油型エマルジョンが形成可能である事実
(4) シリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のシリカ粒子群にわたる合計モル数/シリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率、および合計モル数比率の平均値と、シリカ粒子群を構成する2次粒子の各々における表面親水基のモル数と表面疎水基のモル数のモル数とのモル比率との差という2つのパラメータを所定範囲とすることにより、安定したエマルジョン形成可能であり、この場合には、シリカ粒子群が親水リッチな凝集体主体であることによる、シリカの水への溶解性、シリカ粒子群が疎水リッチな凝集体主体であることによる、チクソトロピー性の発現が低下していた事実
(5) 安定した水中油型エマルジョン中の複合粒子をSEMで観察すると、複合粒子表面には、比較的球形かつ均一な大きさの塊状物が油滴表面を被覆している事実
(6) 形成される複合粒子群において、複合粒子群間の粒径等のばらつきが小さいこと、水分散体形態時のせん断速度が複合粒子の諸元に影響を及ぼす事実
実施例における以上の事実より、シリカおよび水による水分散体の形成の際、所定せん断速度のせん断をかけることにより、親水リッチな凝集体主体でも疎水リッチな凝集体主体でもない凝集体が形成され、合計モル数比率および合計モル数比率のばらつきを調整して、原料シリカ、油分の種類に係わらず、油分を後添加することにより、安定した水中油型エマルジョンが形成されることから、せん断をかける際に、シリカの凝集体間でリアレンジメントおよび/またはシリカの凝集体内における配向が誘起され、外側に親水性、内側に疎水性の密度が高いという意味において、水分散体形成時に自己ミセル的凝集体が形成されていることが確実に推認される。