特許第6887770号(P6887770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887770
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】PZT強誘電体膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20210603BHJP
   C04B 35/491 20060101ALI20210603BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20210603BHJP
   H01L 27/11507 20170101ALI20210603BHJP
   H01L 41/318 20130101ALI20210603BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20210603BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20210603BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20210603BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   H01L21/316 G
   C04B35/491
   C01G25/00
   H01L27/11507
   H01L41/318
   H01L41/43
   H01L41/187
   H01L27/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-165368(P2016-165368)
(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-45992(P2017-45992A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2019年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-168480(P2015-168480)
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】田頭 裕己
(72)【発明者】
【氏名】志村 礼司郎
(72)【発明者】
【氏名】高村 禅
(72)【発明者】
【氏名】李 金望
(72)【発明者】
【氏名】下田 達也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】曽山 信幸
【審査官】 加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−086819(JP,A)
【文献】 特開平06−234551(JP,A)
【文献】 特表2005−505911(JP,A)
【文献】 特開2014−192329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
C01G 25/00
C04B 35/491
H01L 21/822
H01L 27/04
H01L 27/11507
H01L 41/187
H01L 41/318
H01L 41/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PZT強誘電体膜形成用液組成物を塗布する工程と、
前記液組成物を塗布した膜を乾燥する工程と、
前記乾燥した膜に酸素含有雰囲気下150〜200℃の温度で5〜15分間紫外線照射する工程と、
前記塗布工程と前記乾燥工程と前記紫外線照射工程を1回又は2回以上行った後、酸素含有雰囲気下0.5℃/秒以上の速度で昇温し、昇温と同一の酸素含有雰囲気下で400〜500℃の温度に5〜60分間保持することにより前記紫外線照射した強誘電体膜の前駆体膜を、膜中の0価の鉛(Pb)を酸化させずに、パイロクロア相を経由(形成)することなく、焼成して結晶化させる工程と
を含み、
前記液組成物の1回当りの塗布量を、塗布1回当たりの前記強誘電体膜の厚さが150nm以上になるように設定し、前記紫外線照射するときにオゾンを供給するPZT強誘電体膜の形成方法。
【請求項2】
前記酸素含有雰囲気下0.5℃/秒以上10℃/秒以下の速度で昇温する請求項1記載のPZT強誘電体膜の形成方法。
【請求項3】
PZT強誘電体膜形成用液組成物を塗布する工程と、
前記液組成物を塗布した膜を乾燥する工程と、
前記乾燥した膜に酸素含有雰囲気下150〜200℃の温度で5〜15分間紫外線照射する工程と、
前記塗布工程と前記乾燥工程と前記紫外線照射工程を1回又は2回以上行った後、酸素非含有雰囲気下0.2℃/秒以上の速度で昇温し、昇温と同一の酸素非含有雰囲気下で400〜500℃の温度に5〜60分間保持することにより、前記紫外線照射した強誘電体膜の前駆体膜を、膜中の0価の鉛(Pb)を酸化させずに、パイロクロア相を経由(形成)することなく、焼成して結晶化させる工程と
を含み、
前記液組成物の1回当りの塗布量を、塗布1回当たりの前記強誘電体膜の厚さが150nm以上になるように設定し、前記紫外線照射するときにオゾンを供給するPZT強誘電体膜の形成方法。
【請求項4】
前記酸素非含有雰囲気下0.2℃/秒以上10℃/秒以下の速度で昇温する請求項3記載のPZT強誘電体膜の形成方法。
【請求項5】
前記液組成物中のPb、Zr、Tiの金属の原子比がPb:Zr:Ti=100〜125:20〜80:80〜20である請求項1ないし4いずれか1項に記載のPZT強誘電体膜の形成方法。
【請求項6】
前記液組成物が、PZT強誘電体膜のPZT前駆体、溶媒及びポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド又はポリビニルアセトアミドである反応制御物質を含み、前記反応制御物質の含有量が前記前駆体1モルに対して0.0025〜0.25モルである請求項1ないし5いずれか1項に記載の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CSD(Chemical Solution Deposition)法によるPZT強誘電体膜を形成する方法に関する。更に詳しくは、PZT強誘電体膜形成用液組成物(以下、単に「液組成物」ということもある。)の1回の塗布で焼成後にクラックのない150nm以上の厚さを有する、結晶性が高く、誘電特性及び圧電特性が良好なPZT強誘電体膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CSD法に代表されるゾルゲル法でペロブスカイト構造のPZT強誘電体膜を作製するときに、化学量論組成より過剰のPbを含んだ強誘電体膜の前駆体膜を通常の条件下(例えば、大気中)で焼成すると、パイロクロア相という準安定化相が形成される。このパイロクロア相を残存させたままではペロブスカイト構造のPZT強誘電体膜が得られない。このため、このパイロクロア相をペロブスカイト相に転移させるために、一般に600〜700℃の高温で焼成しなければならないことが知られている。
【0003】
この高温焼成を避けるために、PZT強誘電体膜形成用液組成物を基板に塗布した後、300℃以下の温度で乾燥させて前駆体膜を形成する工程と、前記前駆体膜中の2価の鉛イオン(Pb2+)を0価の鉛(Pb0)に還元してパイロクロア相の生成を抑制した後、酸化性雰囲気中で低温焼成してペロブスカイト相を生成させる工程とを含むPZT膜の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、還元は、前記前駆体膜を形成した基板を、非酸化性雰囲気中、5℃/分以上の昇温速度で300℃〜450℃に加熱するか、或いは前記前駆体膜を形成した基板を、酸化性雰囲気中、5℃/秒以上の昇温速度で300℃〜450℃に加熱することにより行われることを特徴とする。
【0004】
一方、支持基板の一表面上に金属アルコキシドと溶媒からなるゾルゲル液又は金属有機剤の溶液を塗布し、オゾンを含有する雰囲気ガス中でゾルゲル液又は金属有機剤の溶液からなる塗布膜に紫外線を照射した後、支持基板を熱処理するか、或いは紫外線を照射すると同時に支持基板を熱処理する強誘電体薄膜の形成方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。(BaXSr1-X)TiO3膜を製造する場合について説明されている特許文献2には、PZT膜又はPLZT膜など他の強誘電体薄膜の製造方法に使用しても同様の効果が得られることが記載されている。また特許文献2には、紫外線の照射によって塗布膜から遊離したフリーラジカル又は励起分子と酸素と紫外線の相互作用によって生じたオゾンとの光化学反応により塗布膜中の不要な化合物を効果的に除去できるので、熱処理工程において結晶成長に阻害要因の少ない電気特性の優れた強誘電体薄膜の形成方法を実現できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−086819号公報(請求項1、請求項3、請求項4、段落[0006])
【特許文献2】特開平6−234551号公報(請求項4、請求項5、段落[0016]、段落[0018])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、600〜700℃の高温で焼成した場合には、前駆体膜を形成する基板の種類が、高温焼成に耐え得るものに限定されるという問題があること、及び様々な電子部品の集積回路などにPZT強誘電体膜を形成する場合、高温焼成は、回路を構成する金属配線や各種デバイスに損傷を与えるとともに、PZT強誘電体膜と基板との間に内部拡散を生じさせるという問題があることが記載されている。
【0007】
上記特許文献1に示されるPZT膜の製造方法は、これらの問題を解決することができるけれども、還元を、PZT前駆体膜を所定の速度で昇温し、300〜450℃で加熱するため、1回の塗布量を増やすと、液組成物中の有機物の分解に伴って体積が収縮する際に、応力が十分に緩和されず、焼成後にクラックが発生する問題があった。即ち、液組成物の1回の塗布で焼成後にクラックのない150nm以上の厚膜を形成することができず、更に改善すべき余地があった。
【0008】
また上記特許文献2には、この文献に記載された方法をPZTの強誘電体膜の形成にも適用できる旨が記載されているけれども、この方法は、塗布膜中の不要な化合物を効果的に除去することを主目的とし、通常の条件下で形成されるPZT強誘電体固有のパイロクロア相についての言及がなく、また紫外線照射するときの温度条件及び紫外線照射後又は紫外線照射中の熱処理条件が明らかにされておらず、どのようにしたら、パイロクロア相のないペロブスカイト構造のPZT強誘電体膜を形成することができるのか示されていない。
【0009】
本発明の第1の目的は、PZT強誘電体膜形成用液組成物の1回の塗布で焼成後にクラックのない150nm以上の厚さを有する、結晶性が高く、誘電特性及び圧電特性が良好なPZT強誘電体膜を形成する方法を提供することにある。本発明の第2の目的は、液組成物により形成した強誘電体膜のリーク電流密度を、液組成物中の鉛過剰量を抑制することにより低く抑えたPZT強誘電体膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、PZT強誘電体膜形成用液組成物を塗布する工程と、前記液組成物を塗布した膜を乾燥する工程と、前記乾燥した膜に酸素含有雰囲気下150〜200℃の温度で5〜15分間紫外線照射する工程と、前記塗布工程と前記乾燥工程と前記紫外線照射工程を1回又は2回以上行った後、酸素含有雰囲気下0.5℃/秒以上の速度で昇温し、昇温と同一の酸素含有雰囲気下で400〜500℃の温度に5〜60分間保持することにより前記紫外線照射した強誘電体膜の前駆体膜を、膜中の0価の鉛(Pb0)を酸化させずに、パイロクロア相を経由(形成)することなく、焼成して結晶化させる工程とを含み、前記液組成物の1回当りの塗布量を、塗布1回当たりの前記強誘電体膜の厚さが150nm以上になるように設定し、前記紫外線照射するときにオゾンを供給するPZT強誘電体膜の形成方法である。
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記酸素含有雰囲気下0.5℃/秒以上10℃/秒以下の速度で昇温する形成方法である。
本発明の第3の観点は、PZT強誘電体膜形成用液組成物を塗布する工程と、前記液組成物を塗布した膜を乾燥する工程と、前記乾燥した膜に酸素含有雰囲気下150〜200℃の温度で5〜15分間紫外線照射する工程と、前記塗布工程と前記乾燥工程と前記紫外線照射工程を1回又は2回以上行った後、酸素非含有雰囲気下0.2℃/秒以上の速度で昇温し、昇温と同一の酸素非含有雰囲気下で400〜500℃の温度に5〜60分間保持することにより、前記紫外線照射した強誘電体膜の前駆体膜を、膜中の0価の鉛(Pb0)を酸化させずに、パイロクロア相を経由(形成)することなく、焼成して結晶化させる工程とを含み、前記液組成物の1回当りの塗布量を、塗布1回当たりの前記強誘電体膜の厚さが150nm以上になるように設定し、前記紫外線照射するときにオゾンを供給するPZT強誘電体膜の形成方法である。
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、前記酸素非含有雰囲気下0.2℃/秒以上10℃/秒以下の速度で昇温する形成方法である。
【0011】
本発明の第の観点は、第1の観点ないし第4の観点のいずれかの観点に基づく発明であって、前記液組成物中のPb、Zr、Tiの金属の原子比がPb:Zr:Ti=100〜125:20〜80:80〜20である形成方法である。
【0012】
本発明の第の観点は、第1の観点ないし第5の観点のいずれかの観点に基づく発明であって、前記液組成物が、PZT強誘電体膜の前駆体、溶媒及びポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド又はポリビニルアセトアミドである反応制御物質を含み、前記反応制御物質の含有量が前記前駆体1モルに対して0.0025〜0.25モルである形成方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点又は第3の観点のPZT強誘電体膜の形成方法では、乾燥した膜に酸素含有雰囲気下150〜200℃の温度で紫外線照射することにより、オゾンが発生するとともに、更にオゾンが供給されるため、紫外線照射で発生したオゾンと供給されたオゾンにより分解した有機物がCO又はCOとHOになり、液組成物中の有機物の大部分が分解される。有機物が分解する前の膜(前駆体膜)はその後の膜(酸化物膜)より厚くて、通常は3倍以上、少なくても2倍程度の体積の差がある。有機物の分解に伴い、前駆体膜の体積が収縮する。特許文献1の方法では、還元時に所定の速度で昇温し300〜450℃と高温で加熱するため、有機物が急速に分解し、前駆体膜の体積及び構造が急激に変化しながら結晶化する。このため、液組成物の1回当りの塗布量を、塗布1回当たりの強誘電体膜の厚さが150nm以上になるように設定した場合、前駆体膜の体積収縮時の応力緩和が十分にできずに、前駆体膜を焼成したときにクラックが発生する。これに対して第1の観点の形成方法では、上記厚さを150nm以上になるように設定しても、紫外線照射工程でオゾンにより有機物を150〜200℃の低温状態で分解するため、前駆体膜の体積及び構造に急激な変化が起こらず、また低温であってもオゾンにより有機物が十分に分解する。このため体積収縮時に十分に応力が緩和され、前駆体膜を焼成したときにクラックが発生しない。液組成物が分解する際には、C(炭素)とH(水素)の一部が膜中にフリーラジカルとして残存する。このC(炭素)とH(水素)の還元作用により、液組成物中の2価の鉛イオン(Pb2+)が0価の鉛(Pb)になり、かつ200℃以下であるため、膜中にパイロクロア相を生じさせない。この紫外線照射に続いて、酸素含有雰囲気下0.5℃/秒以上の速度で昇温するか、又は酸素非含有雰囲気下0.2℃/秒以上の速度で昇温し、400〜500℃の温度に保持することにより、パイロクロア相を経由することなく、クラックを生じさせずに、強誘電体膜の前駆体膜を結晶化させて誘電特性及び圧電特性が良好なペロブスカイト構造のPZT強誘電体膜が得られる。
【0014】
本発明の第の観点のPZT強誘電体膜の形成方法では、前記液組成物中のPb、Zr、Tiの金属の原子比がPb:Zr:Ti=100〜125:20〜80:80〜20であるため、この液組成物により形成した強誘電体膜のリーク電流密度を低く抑えることができる。
【0015】
本発明の第の観点のPZT強誘電体膜の形成方法では、前記液組成物が、PZT強誘電体膜の前駆体及び溶媒以外にポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド又はポリビニルアセトアミドである反応制御物質を含み、かつこの反応制御物質の含有量を前記前駆体1モルに対して0.0025〜0.25モルにすることにより、紫外線照射時のPZT前駆体膜の体積収縮に伴う応力緩和がより確実に行われ、前駆体膜を焼成したときにクラックを発生させない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施例2で得られたPZT強誘電体膜のX線回折図である。
図2】本実施例2で得られたPZT強誘電体膜の電界−分極のヒステリシス曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
〔PZT強誘電体膜形成用液組成物〕
本発明の液組成物は、PZT強誘電体膜を形成するための液組成物である。PZT強誘電体膜は、一般式:Pb(ZrXTi1-X)O3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造の複合金属酸化物の膜である。本発明の液組成物は、PZT強誘電体膜を形成するPZT前駆体を含むゾルゲル液(PZT前駆体液)である。液組成物中のPb、Zr、Tiの金属の原子比がPb:Zr:Ti=100〜125:20〜80:80〜20であることが好ましい。Pbが100未満では非ペロブスカイト相が生成され易く、Pbが125を超えるとリーク電流密度が上昇し易くなる。Pb:Zr:Ti=105〜120:20〜80:80〜20であることが更に好ましい。
【0019】
PZT前駆体は、Pb、Zr、Tiの各金属元素がPZT強誘電体を形成する量比になるように各金属元素の原料が配合されたものであり、これらの原料としては有機基がその酸素または窒素原子を介して結合している金属化合物が好適に用いられる。例えば、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属カルボン酸塩、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体、及び金属アミノ錯体からなる群より選ばれた1種または2種以上の化合物を用いることができる。特に好適な化合物は金属アルコキシド、その部分加水分解物、有機酸塩である。
【0020】
Pb、Zr、Tiの各金属元素の原料および溶媒を反応容器に入れ、不活性雰囲気下で加熱し還流してPZT前駆体液を形成する。各金属元素の原料はPZT強誘電体を形成する金属元素比になる量が混合される。
【0021】
液組成物中のPZT前駆体の濃度は酸化物換算濃度で17〜35質量%が好ましく、20〜25質量%がより好ましい。17質量%未満では十分な膜厚を得ることができず、一方、35質量%を超えるとクラックが発生しやすくなる。
【0022】
溶媒は、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3―プロパンジオール等のジオールを用いることができる。ジオールを溶媒に用いることによって液組成物の保存安定性を高めることができる。
【0023】
他の溶媒としては、カルボン酸、ジオール以外のアルコール、エステル、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル)、シクロアルカン類(例えば、シクロヘキサン、シクロヘキサノール)、芳香族系(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、その他テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0024】
アルコールを溶媒に用いる場合、液の塗布性、乾燥性という観点から希釈用途には炭素鎖が1〜4の直鎖状モノアルコールが好ましい。また、膜を緻密にする用途には炭素鎖6〜12の直鎖状モノアルコールを炭素鎖1〜4の直鎖状モノアルコールとともに用いるとよい。これによって、150〜200℃の温度での紫外線照射時に効果的に有機物を膜外に放出できるゲル膜を形成することができ、塗膜を厚くしても緻密で高特性のPZT膜を得ることができる。アルコールの炭素鎖が6未満のものだけでは沸点が十分に高くないので膜の緻密化が十分ではなく、一方、炭素鎖が12を超えるとゾルゲル液への溶解度が低く、十分な量を溶解させることが難しく、また液の粘性が高くなり過ぎて均一に塗布できなくなる。
【0025】
本発明の液組成物は、PZT強誘電体膜の前駆体と溶媒とからなる。本発明の液組成物は、これら以外にポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド、またはポリビニルアセトアミドの反応制御物質を含むことが好ましい。反応制御物質とは、焼成時に酸素を取込んで強誘電体構造を形成する反応を制御する物質である。この反応制御物質の含有量は前記前駆体1モルに対して0.0025〜0.25モルが好ましく、0.0025〜0.2モル未満がより好ましい。反応制御物質の含有量が適量よりも少ないと、膜の内部応力が十分に緩和されないためクラックが発生しやすくなる。一方、反応制御物質の含有量が適量よりも多いと、結晶性の高い緻密な薄膜を得ることができない。
【0026】
〔PZT強誘電体膜の形成方法〕
上記方法で製造された液組成物を用いてPZT強誘電体膜を形成する方法について説明する。この形成方法は、ゾルゲル法による強誘電体膜の形成方法である。
【0027】
先ず、液組成物を基板上に塗布し、所定の厚さを有する塗膜を形成する。この液組成物の1回当りの塗布量を、塗布1回当たりの強誘電体膜の厚さが150nm以上の範囲になるように設定する。これにより少ない塗布回数で焼成後にクラックのない厚膜を形成することができる。ここで「厚さ」とは、後述する焼成後の強誘電体膜の厚さである。塗布法については、特に限定されないが、スピンコート、ディップコート、LSMCD(Liquid Source Misted Chemical Deposition)法又は静電スプレー法等が挙げられる。強誘電体膜を形成する基板には、下部電極が形成されたシリコン基板やサファイア基板等の耐熱性基板は勿論のこと、合成石英基板、溶融石英基板、無アルカリガラス基板等の基板も用いることができる。基板上に形成する下部電極は、Pt、TiOX、Ir、Ru等の導電性を有し、かつ強誘電体膜と反応しない材料により形成される。例えば、下部電極を基板側から順にTiOX膜及びPt膜の2層構造にすることができる。上記TiOX膜の具体例としては、TiO2膜が挙げられる。更に基板としてシリコン基板を用いる場合には、この基板を熱酸化させることにより基板表面にSiO2膜を形成することができる。
【0028】
次いで、基板上に塗布した液組成物を大気雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、又は含水蒸気雰囲気下80〜250℃の温度で5〜30分間乾燥する。この乾燥により液組成物中の溶媒が蒸発するとともに、金属化合物が膜中でネットワークを組み、液組成物がゲル化する。なお、乾燥前に、特に低沸点溶媒や吸着した水分子を除去するため、ホットプレート等を用いて70〜90℃の温度で、0.5〜5分間低温加熱(乾燥)を行ってもよい。
【0029】
次に、基板上のゲル化した乾燥膜に酸素含有雰囲気下150〜200℃の温度で、好ましくは180〜200℃の温度で5〜15分間紫外線を照射する。酸素含有雰囲気としては、大気雰囲気又は酸素ガス雰囲気が挙げられる。酸素含有雰囲気下で紫外線を照射することにより、オゾンが発生とともに、更にオゾンが供給されるため、紫外線照射で発生したオゾンと供給されたオゾンにより分解した有機物がCO又はCO2とH2Oになり、PZT前駆体膜から遊離する。このときの雰囲気温度が150℃未満又は5分間未満の紫外線照射では液組成物中の有機物が分解されにくく、また200℃を超えると、液組成物中の有機物が急速に分解して前駆体膜の体積収縮時の応力緩和が十分にできずに、前駆体膜を焼成したときにクラックが発生しやすくなる。前述したように、紫外線照射により液組成物中の有機物の大部分が分解されるが、C(炭素)とH(水素)の一部が膜中にフリーラジカルとして残存する。このC(炭素)とH(水素)の還元作用により、液組成物中の2価の鉛イオン(Pb2+)が0価の鉛(Pb0)になり、かつ200℃以下であるため、膜中にパイロクロア相を生じさせない。これにより、PZT強誘電体膜の前駆体膜が作られる。
【0030】
更に続いて、紫外線照射により得られたPZT強誘電体膜の前駆体膜を焼成する。焼成は、大気雰囲気又は酸素ガス雰囲気等の酸素含有雰囲気下0.5℃/秒以上、好ましくは0.5〜10℃/秒の速度で昇温するか、又は酸素非含有雰囲気下0.2℃/秒以上、好ましくは0.2〜10℃/秒の速度で昇温した後、昇温時と同一の雰囲気下で400〜500℃、好ましくは420〜450℃の温度で5〜60分間保持する。400℃未満又は5分未満では前駆体が結晶化せず、500℃を超えるか、60分を超えると金属配線パターンが融解したり、或いはPdが揮発し組成が変化するという不具合を生じる。上記焼成条件により、膜中の0価の鉛(Pb0)を酸化させずに、パイロクロア相を経由(形成)することなく、前駆体膜が焼成され、クラックを生じさせずに結晶化したペロブスカイト構造のPZT強誘電体膜を形成することができる。酸素含有雰囲気下0.5℃/秒以上で昇温するか、又は酸素非含有雰囲気下0.2℃/秒以上の速度で昇温するのは、パイロクロア相が生じることを防ぐためである。なお、昇温速度を5℃/秒以上とする特許文献1よりも遅い0.5℃/秒の昇温速度でもパイロクロア相が生じないのは、次の理由による。オゾンによりPZT前駆体膜の最表面が酸化され、前駆体膜中の還元雰囲気を保つ外殻が形成される。このため、前駆体膜中に酸素が入りにくくなり、昇温速度が遅くても、紫外線照射で形成された還元雰囲気が保たれ、パイロクロア相が生じない。厚膜により酸素の拡散速度が遅れるため低い昇温速度でもパイロクロア相が形成されない。
【0031】
液組成物の塗布から紫外線照射までの工程は、所定の膜厚になるように、2回以上繰り返して、最後に一括して焼成を行うこともできる。前述した液組成物を使用し、更に酸素雰囲気下でオゾンを供給しつつ紫外線照射を行えば、成膜時に発生する膜収縮由来の応力を抑制できること等から、クラックを発生させることなく、1回の塗布で150〜200nm程度の厚い膜を形成できる。2回以上繰り返し行うことにより、PZTアクチュエータに適した300nm以上の厚膜の強誘電体膜を形成することができる。言い換えれば、例えば600nmの厚い強誘電体膜を少ない繰り返し数で成膜することができる。
【0032】
以上の工程により、PZT強誘電体膜が得られる。このPZT強誘電体膜を用いて、圧電MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、強誘電体メモリ、強誘電体トランジスタ、キャパシタ、圧電センサ等の電子部品を製造することができる。
【実施例】
【0033】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0034】
<実施例1>
酢酸鉛三水和物、チタン(iv)テトライソプロポキシド、ジルコニウム(iv)テトラブトキシド、アセチルアセトン、プロピレングリコールをPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=120:40:60となるようにそれぞれ秤量後、反応容器に入れ、窒素雰囲気下、150℃で1時間還流した。還流後、減圧蒸留により未反応物を除去した。この未反応物を除去した液を室温で冷却後、PZT前駆体1モルに対して水2モルになるように水を添加し、150℃で1時間還流した。室温まで冷却してPZT前駆体液(液組成物)を調製した。このPZT前駆体液に反応制御物質であるポリビニルピロリドン(PVP)をPZT前駆体1モルに対してモノマー換算で0.025モル添加し、室温で24時間撹拌した。撹拌後、エタノール、1−ブタノール、1−オクタノールを添加し、PZT前駆体濃度を酸化物換算で25質量%まで液を希釈した。得られた液をSi/SiO2/TiO2/Pt基板のPt表面に滴下し、5000rpmで60秒間スピンコートして焼成後の強誘電体膜の厚さが150nmとなるように塗膜を形成した。
【0035】
次いで、上記基板上に塗布したPZT前駆体液(液組成物)の膜をホットプレートで大気雰囲気下、80℃の温度で3分間低温加熱(乾燥)を行った。続いて別のホットプレートに基板を移し、塗膜を大気雰囲気下、250℃で10分間乾燥した。次に、波長184nm及び波長254nmの紫外線を照射する光源である低圧水銀灯を設置した気密容器付き装置(サムコ製UVオゾンクリーナー model UV-300H-E)に基板を入れ、酸素雰囲気下で乾燥膜を有する基板を150℃に加熱した。この状態でオゾンを気密容器内に3〜10sccmの流量で供給しかつ排出しながら、上記ゲル化した乾燥膜に10分間紫外線を照射した。
【0036】
前述した前駆体液の塗布と乾燥と紫外線照射を3回繰り返した。3回目の紫外線を照射した後、気密容器から基板を取り出し、室温まで冷却した。続いて空気を流しながらRTA(Rapid Thermal Annealing)装置(アルバック理工社製、型番MILA-5000)により10℃/秒の速度で基板上の前駆体膜を加熱し、450℃に達したところで60分間保持して前駆体膜を焼成してPZT強誘電体膜を得た。
【0037】
<実施例2>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0038】
<実施例3>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の保持温度を500℃にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0039】
<実施例4>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の昇温速度を0.5℃/秒にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0040】
<実施例5>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の雰囲気を窒素雰囲気にし、昇温速度を0.2℃/秒にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0041】
<実施例6>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の保持温度を400℃にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0042】
<比較例1>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を140℃に加熱した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0043】
<比較例2>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を250℃に加熱した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0044】
<比較例3>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の昇温速度を0.3℃/秒にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0045】
<比較例4>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の雰囲気を窒素雰囲気にし、昇温速度を0.1℃/秒にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0046】
<比較例5>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の保持温度を300℃にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0047】
<比較例6>
オゾンを気密容器内に供給することなく、紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱した。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0048】
<比較例7>
ゲル化した乾燥膜に紫外線を照射することなく、この乾燥膜を焼成した。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0049】
実施例1〜6及び比較例1〜7において、PZT強誘電体膜を得るまでの紫外線照射条件及び焼成条件を以下の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<比較評価その1>
実施例1〜6及び比較例1〜7で得られたPZT強誘電体膜について、膜厚、クラックの有無、結晶化の程度及び誘電特性を以下に示す方法でそれぞれ評価した。誘電特性の結果を図2に、それ以外の結果を表1に示す。
【0052】
[評価方法その1]
(1) 膜厚:強誘電体膜の膜厚(総厚)をフッ酸によるウエットエッチングと接触式段差測定器(KLA Tencor社製、Alpha-step500)により測定した。
【0053】
(2) クラックの有無:クラックの有無は、光学顕微鏡(オリンパス社製、BX51)により膜表面及び膜断面の組織を光学顕微鏡のデジタルカメラDP25により観察し、この倍率200倍の画像からクラックの有無を観察した。そして、クラックが観察されなかった状態であったときを「クラック無し」とし、クラックが観察された状態であったときを「クラック有り」とした。
【0054】
(3) 結晶化の程度: 結晶化の程度はX線回折装置(パナリティカル社製、X'Pert PRO MRD Epi)により測定した。PZTペロブスカイト相の(111)に相当する2θ=38度付近のピークの強度が明確であるとき、結晶化の程度を「優」とし、ピークが判別できるとき、結晶化の程度を「良」とし、ピークが確認できないとき、結晶化の程度を「不良」とした。
【0055】
(4) 誘電特性: 強誘電体膜上に蒸着法によってAu膜を形成した後、大気雰囲気下、450℃で10分間加熱し、キャパシタ(強誘電体素子)を作製した。得られたキャパシタのヒステリシス特性を調べた。
【0056】
[評価結果その1]
(1) 膜厚について
表1から明らかなように、実施例1〜6及び比較例1〜7の各強誘電体膜の膜厚はいずれも450nmであった。
【0057】
(2) クラックについて
表1から明らかなように、紫外線照射時の温度が140℃の比較例1と、250℃の比較例2と、紫外線照射時にオゾン供給なしの比較例6と、紫外線照射なしの比較例7の各強誘電体膜にはクラックが発生した。それ以外の実施例1〜8及び比較例3〜5の各強誘電体膜にはクラックは発生しなかった。
【0058】
(3) 結晶化の程度について
表1から明らかなように、比較例1〜7の各強誘電体膜は結晶化の程度が「不良」であった。これに対して、実施例1〜6の各強誘電体膜の結晶化の程度は「優」であった。図1から明らかなように、実施例2の強誘電体膜の結晶性は、2θ=38度のピークの強度が明確であり、「優」であった。
【0059】
(4) 誘電特性について
実施例2の強誘電体膜を用いて作製したキャパシタのヒステリシス特性を調べた。図2から明らかなように、角型のヒステリシス形状が確認され、良好な誘電特性を有するキャパシタであることが分かった。実施例1、実施例3〜6も同様であった。
【0060】
次に、PZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比を変えた実施例7〜16を以下に示す。
【0061】
<実施例7>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=95:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0062】
<実施例8>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=100:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0063】
<実施例9>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=105:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0064】
<実施例10>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=110:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0065】
<実施例11>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=115:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0066】
<実施例12>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=125:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0067】
<実施例13>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=130:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0068】
<実施例14>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=105:20:80となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0069】
<実施例15>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=105:52:48となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0070】
<実施例16>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=105:80:20となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0071】
<比較評価その2>
実施例1、7〜16で得られたPZT強誘電体膜のリーク電流密度、PZTペロブスカイト相(111)のピークの明確性、ペロブスカイト相以外の異相の有無について、以下に示す方法により、評価した。その結果を、PZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比とともに、表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
[評価方法その2]
(5) リーク電流密度:得られた強誘電体薄膜の表面に、スパッタ法により200μmφの電極を形成した後、RTAを用いて、酸素雰囲気中、450℃の温度で1分間ダメージリカバリーアニーリングを行った薄膜コンデンサを試験用サンプルとし、このサンプルに5Vの直流電圧を印加し、リーク電流密度を測定した。
【0074】
(6) PZT(111)のピークの明確性:前述した (3) 結晶化の程度と同様に評価した。
【0075】
(7) ペロブスカイト相以外の異相の有無:前述したX線回折装置によりPZTパイロクロア相ピークの有無により評価した。
【0076】
[評価結果その2]
表2から明らかなように、実施例1、7〜16で得られたPZT強誘電体膜のPZTペロブスカイト相(111)のピークはすべて明確であり、「優」であった。一方、Pbの割合が95である実施例7では、PZTペロブスカイト相(111)のピークは明確であったが、ペロブスカイト相以外の異相(非ペロブスカイト相)が僅かに生じた。またPbの割合が130である実施例13では、リーク電流密度が1.2×10-5A・cm-2と上昇する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のPZT強誘電体膜は、圧電MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、強誘電体メモリ、強誘電体トランジスタ、キャパシタ、圧電センサ等の電子部品に利用できる。
図1
図2