【実施例】
【0033】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0034】
<実施例1>
酢酸鉛三水和物、チタン(iv)テトライソプロポキシド、ジルコニウム(iv)テトラブトキシド、アセチルアセトン、プロピレングリコールをPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=120:40:60となるようにそれぞれ秤量後、反応容器に入れ、窒素雰囲気下、150℃で1時間還流した。還流後、減圧蒸留により未反応物を除去した。この未反応物を除去した液を室温で冷却後、PZT前駆体1モルに対して水2モルになるように水を添加し、150℃で1時間還流した。室温まで冷却してPZT前駆体液(液組成物)を調製した。このPZT前駆体液に反応制御物質であるポリビニルピロリドン(PVP)をPZT前駆体1モルに対してモノマー換算で0.025モル添加し、室温で24時間撹拌した。撹拌後、エタノール、1−ブタノール、1−オクタノールを添加し、PZT前駆体濃度を酸化物換算で25質量%まで液を希釈した。得られた液をSi/SiO
2/TiO
2/Pt基板のPt表面に滴下し、5000rpmで60秒間スピンコートして焼成後の強誘電体膜の厚さが150nmとなるように塗膜を形成した。
【0035】
次いで、上記基板上に塗布したPZT前駆体液(液組成物)の膜をホットプレートで大気雰囲気下、80℃の温度で3分間低温加熱(乾燥)を行った。続いて別のホットプレートに基板を移し、塗膜を大気雰囲気下、250℃で10分間乾燥した。次に、波長184nm及び波長254nmの紫外線を照射する光源である低圧水銀灯を設置した気密容器付き装置(サムコ製UVオゾンクリーナー model UV-300H-E)に基板を入れ、酸素雰囲気下で乾燥膜を有する基板を150℃に加熱した。この状態でオゾンを気密容器内に3〜10sccmの流量で供給しかつ排出しながら、上記ゲル化した乾燥膜に10分間紫外線を照射した。
【0036】
前述した前駆体液の塗布と乾燥と紫外線照射を3回繰り返した。3回目の紫外線を照射した後、気密容器から基板を取り出し、室温まで冷却した。続いて空気を流しながらRTA(Rapid Thermal Annealing)装置(アルバック理工社製、型番MILA-5000)により10℃/秒の速度で基板上の前駆体膜を加熱し、450℃に達したところで60分間保持して前駆体膜を焼成してPZT強誘電体膜を得た。
【0037】
<実施例2>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0038】
<実施例3>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の保持温度を500℃にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0039】
<実施例4>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の昇温速度を0.5℃/秒にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0040】
<実施例5>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の雰囲気を窒素雰囲気にし、昇温速度を0.2℃/秒にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0041】
<実施例6>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の保持温度を400℃にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0042】
<比較例1>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を140℃に加熱した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0043】
<比較例2>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を250℃に加熱した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0044】
<比較例3>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の昇温速度を0.3℃/秒にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0045】
<比較例4>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の雰囲気を窒素雰囲気にし、昇温速度を0.1℃/秒にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0046】
<比較例5>
紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱し、焼成時の保持温度を300℃にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0047】
<比較例6>
オゾンを気密容器内に供給することなく、紫外線照射時にゲル化した乾燥膜を有する基板を200℃に加熱した。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0048】
<比較例7>
ゲル化した乾燥膜に紫外線を照射することなく、この乾燥膜を焼成した。それ以外は、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0049】
実施例1〜6及び比較例1〜7において、PZT強誘電体膜を得るまでの紫外線照射条件及び焼成条件を以下の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<比較評価その1>
実施例1〜6及び比較例1〜7で得られたPZT強誘電体膜について、膜厚、クラックの有無、結晶化の程度及び誘電特性を以下に示す方法でそれぞれ評価した。誘電特性の結果を
図2に、それ以外の結果を表1に示す。
【0052】
[評価方法その1]
(1) 膜厚:強誘電体膜の膜厚(総厚)をフッ酸によるウエットエッチングと接触式段差測定器(KLA Tencor社製、Alpha-step500)により測定した。
【0053】
(2) クラックの有無:クラックの有無は、光学顕微鏡(オリンパス社製、BX51)により膜表面及び膜断面の組織を光学顕微鏡のデジタルカメラDP25により観察し、この倍率200倍の画像からクラックの有無を観察した。そして、クラックが観察されなかった状態であったときを「クラック無し」とし、クラックが観察された状態であったときを「クラック有り」とした。
【0054】
(3) 結晶化の程度: 結晶化の程度はX線回折装置(パナリティカル社製、X'Pert PRO MRD Epi)により測定した。PZTペロブスカイト相の(111)に相当する2θ=38度付近のピークの強度が明確であるとき、結晶化の程度を「優」とし、ピークが判別できるとき、結晶化の程度を「良」とし、ピークが確認できないとき、結晶化の程度を「不良」とした。
【0055】
(4) 誘電特性: 強誘電体膜上に蒸着法によってAu膜を形成した後、大気雰囲気下、450℃で10分間加熱し、キャパシタ(強誘電体素子)を作製した。得られたキャパシタのヒステリシス特性を調べた。
【0056】
[評価結果その1]
(1) 膜厚について
表1から明らかなように、実施例1〜6及び比較例1〜7の各強誘電体膜の膜厚はいずれも450nmであった。
【0057】
(2) クラックについて
表1から明らかなように、紫外線照射時の温度が140℃の比較例1と、250℃の比較例2と、紫外線照射時にオゾン供給なしの比較例6と、紫外線照射なしの比較例7の各強誘電体膜にはクラックが発生した。それ以外の実施例1〜8及び比較例3〜5の各強誘電体膜にはクラックは発生しなかった。
【0058】
(3) 結晶化の程度について
表1から明らかなように、比較例1〜7の各強誘電体膜は結晶化の程度が「不良」であった。これに対して、実施例1〜6の各強誘電体膜の結晶化の程度は「優」であった。
図1から明らかなように、実施例2の強誘電体膜の結晶性は、2θ=38度のピークの強度が明確であり、「優」であった。
【0059】
(4) 誘電特性について
実施例2の強誘電体膜を用いて作製したキャパシタのヒステリシス特性を調べた。
図2から明らかなように、角型のヒステリシス形状が確認され、良好な誘電特性を有するキャパシタであることが分かった。実施例1、実施例3〜6も同様であった。
【0060】
次に、PZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比を変えた実施例7〜16を以下に示す。
【0061】
<実施例7>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=95:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0062】
<実施例8>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=100:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0063】
<実施例9>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=105:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0064】
<実施例10>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=110:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0065】
<実施例11>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=115:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0066】
<実施例12>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=125:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0067】
<実施例13>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=130:40:60となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0068】
<実施例14>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=105:20:80となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0069】
<実施例15>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=105:52:48となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0070】
<実施例16>
実施例1のPZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比がPb:Zr:Ti=105:80:20となるようにそれぞれ秤量した以外、実施例1と同様にして、PZT強誘電体膜を得た。
【0071】
<比較評価その2>
実施例1、7〜16で得られたPZT強誘電体膜のリーク電流密度、PZTペロブスカイト相(111)のピークの明確性、ペロブスカイト相以外の異相の有無について、以下に示す方法により、評価した。その結果を、PZT前駆体中のPb、Zr、Tiの各金属元素の比とともに、表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
[評価方法その2]
(5) リーク電流密度:得られた強誘電体薄膜の表面に、スパッタ法により200μmφの電極を形成した後、RTAを用いて、酸素雰囲気中、450℃の温度で1分間ダメージリカバリーアニーリングを行った薄膜コンデンサを試験用サンプルとし、このサンプルに5Vの直流電圧を印加し、リーク電流密度を測定した。
【0074】
(6) PZT(111)のピークの明確性:前述した (3) 結晶化の程度と同様に評価した。
【0075】
(7) ペロブスカイト相以外の異相の有無:前述したX線回折装置によりPZTパイロクロア相ピークの有無により評価した。
【0076】
[評価結果その2]
表2から明らかなように、実施例1、7〜16で得られたPZT強誘電体膜のPZTペロブスカイト相(111)のピークはすべて明確であり、「優」であった。一方、Pbの割合が95である実施例7では、PZTペロブスカイト相(111)のピークは明確であったが、ペロブスカイト相以外の異相(非ペロブスカイト相)が僅かに生じた。またPbの割合が130である実施例13では、リーク電流密度が1.2×10
-5A・cm
-2と上昇する結果となった。