特許第6887790号(P6887790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887790
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】湿式ワイピングシート
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/17 20060101AFI20210603BHJP
   D04H 1/498 20120101ALI20210603BHJP
   D04H 1/495 20120101ALI20210603BHJP
【FI】
   A47L13/17 A
   D04H1/498
   D04H1/495
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-233223(P2016-233223)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-88999(P2018-88999A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】成田 行人
(72)【発明者】
【氏名】百合野 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】金田 学
【審査官】 柿沼 善一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−295886(JP,A)
【文献】 特開2011−125566(JP,A)
【文献】 特開平06−017361(JP,A)
【文献】 特開2007−154359(JP,A)
【文献】 特開平05−025763(JP,A)
【文献】 特開2004−169235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/16−13/17
D04H 1/495−1/498
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網状シートの片面もしくは両面に、繊維集合体を有し、これらが一体となった、縦方向とこれに交差する横方向を備える湿式ワイピングシートであって、
前記繊維集合体にワイピング液が担持されており、
前記網状シートが、熱可塑性樹脂からなる線材を前記縦方向および前記横方向に配した骨格と繊維が絡みつく開孔部とから構成された熱収縮性の格子状構造を有し、
前記繊維集合体は、前記網状シートの骨格構造部分に絡んで一体化されており、
前記湿式ワイピングシートが、前記網状シートの、前記縦方向または前記横方向のいずれか一方の方向に存在する複数の線材と平行に、前記繊維集合体を構成する繊維からなる線状の凹凸部列を繰り返して有し、
前記一方の方向と交差する方向に存在する複数の線材にそって、前記凹凸部列の凸部が窪んで、該凹凸部列が分断されており、
前記凹凸部列を構成している凸部のそれぞれの頂部から凸部間の底部に延びる壁部にて、前記繊維集合体を構成する個々の繊維が、繊維長方向を前記湿式ワイピングシートの厚さ方向に配列されてなり、前記ワイピングシートのシート面を基準にしたときの、前記壁部を構成する繊維の平均配向角度が80度以上であり、前記壁部を構成する繊維の配向強度が1.1以上である、湿式ワイピングシート。
【請求項2】
前記線状の凹凸部列が、該凹凸部列を構成している凸部のそれぞれの頂部および該凸部間の底部の繊維配向方向にそって配列している請求項1に記載の湿式ワイピングシート。
【請求項3】
前記ワイピング液が、界面活性剤を0.01質量%以上0.5質量%以下含むワイピング液であって、該ワイピング液を、該ワイピング液以外の湿式ワイピングシート100質量部に対し、100質量部以上800質量部以下担持する請求項1または2に記載の湿式ワイピングシート。
【請求項4】
熱融着性の網状シートの片面もしくは両面に、繊維集合体を有し、これらが一体となった、縦方向とこれに交差する横方向を備える湿式ワイピングシートの製造方法であって、
前記網状シートが、熱可塑性樹脂からなる線材を前記縦方向および前記横方向に配した骨格と繊維が絡みつく開孔部とから構成された熱収縮性の格子状構造を有し、
前記繊維集合体は、前記網状シートの骨格構造部分に絡んで一体化されており、
前記湿式ワイピングシートが、前記網状シートの、前記縦方向または前記横方向のいずれか一方の方向に存在する複数の線材と平行に、前記繊維集合体を構成する繊維からなる線状の凹凸部列を繰り返して有し、
前記一方の方向と交差する方向に存在する複数の線材にそって、前記凹凸部列の凸部が窪んで、該凹凸部列が分断されており、
前記凹凸部列を構成している凸部のそれぞれの頂部から凸部間の底部に延びる壁部にて、前記繊維集合体を構成する個々の繊維が、繊維長方向を前記湿式ワイピングシートの厚さ方向に配列されてなり、前記ワイピングシートのシート面を基準にしたときの、前記壁部を構成する繊維の平均配向角度が80度以上であり、前記壁部を構成する繊維の配向強度が1.1以上である、湿式ワイピングシートであり、
前記網状シートの片面もしくは両面に、前記繊維集合体のシートを重ね、該繊維集合体のシートの機械流れ方向に平行に水流を吹き付け、前記網状シートと前記繊維集合体のシートの一体化と、該繊維集合体のシートの機械流れ方向にそって凹凸部列を形成する水流交絡工程を行った後、
熱収縮工程を行い、
前記熱収縮工程における熱収縮率が、前記湿式ワイピングシート平面の縦方向および横方向ともに、10%以上60%以下である湿式ワイピングシートの製造方法。
【請求項5】
前記凹凸部列の分断を前記熱収縮工程によって形成する、請求項4に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
【請求項6】
前記熱収縮工程の後、繊維集合体にワイピング液を含有する工程を行う請求項4または5に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
【請求項7】
前記ワイピング液が、界面活性剤を0.01質量%以上0.5質量%以下含むワイピング液であって、該ワイピング液を、該ワイピング液以外の湿式ワイピングシート100質量部に対し、100質量部以上800質量部以下含有させる請求項6に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式ワイピングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カーペットのワイピングシート、清掃ワイパー、衛生用品などの湿式ワイピングシートは、日常に、日々使用される製品であり、要求される性能は高まり、精力的に検討が行われ、日進月歩、性能改善されている。
シート面に凹凸を付与した湿式ワイピングシートの検討も、盛んに行われている。
例えば、高収縮繊維が収縮する温度にて収縮しない繊維と高収縮繊維を併用して高収縮繊維に複数の凹凸を形成する方法(特許文献1参照)が提案されている。また強度と柔軟性を改善するため、網状シートと繊維集合体を一体化して、網状シートにより複数の凹凸を形成する方法(例えば特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−158226号公報
【特許文献2】特開平5−25763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記のような提案を含め、従来技術を検討した。従来のワイピング液を含む湿式ワイピングシートでは、ワイピングに伴い放出量が大きく減少してしまい、ラグ、カーペット、床など拭き面積の広い箇所の清掃の場合、清掃途中において新たな湿式ワイピングシートに交換することが多くなる。
清掃液(ワイピング液)の放出量は、汚れ落とし性能と関係があり、拭き面積の広い清掃だけでなく、汚れを落とすために、ごしごしと強く擦らないと汚れが落ちない場合にも問題となる。
【0005】
本発明は、ワイピング液の放出持続性の高い湿式ワイピングシートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、網状シートの片面もしくは両面に、繊維集合体を有し、これらが一体となった、縦方向とこれに交差する横方向を備える湿式ワイピングシートであって、前記繊維集合体にワイピング液が担持されており、前記湿式ワイピングシートが、該シート平面における縦方向または横方向のいずれか一方の方向にそって、線状の凸部列もしくは凹凸部列を繰り返して有し、前記凸部列もしくは凹凸部列が、前記一方の方向と交差する方向に、かつ前記網状シートの、前記一方の方向に収縮可能であり繊維が絡みつく開孔部が格子状に配列された網状シートの骨格を構成する部分にそって変形しており、前記凸部列もしくは凹凸部列の壁部にて、前記繊維集合体を構成する個々の繊維が、繊維長方向を前記湿式ワイピングシートの厚さ方向に配列されてなる湿式ワイピングシートである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ワイピング液の放出持続性の高い湿式ワイピングシートを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の湿式ワイピングシートの斜め上からの撮像した図面代用写真である。
図2】本発明の湿式ワイピングシートの断面の凸部を撮像した図面代用写真である。
図3】本発明の湿式ワイピングシートの繊維配向の求め方を示した図面代用写真である。図3(A)は観察理由の電子顕微鏡写真であり、図3(B)は2値化した画像を示した写真であり、図3(C)は表面繊維配向解析プログラムによって計算されたパワースペクトルを示した写真である。
図4】本発明の湿式ワイピングシートの断面の一部を、従来の湿式ワイピングシートの断面を比較した図面代用写真である。図4(A)は賦形なしの場合であり、図4(B)は網状シートによる賦形のみの場合であり、図4(C)は繊維集合体の熱収縮のみの場合であり、図4(D)は網状シートによる賦形と熱収縮の場合である。いずれも、観察範囲は縦5.2mm、横7mmである。
図5】製造した本発明の代表的な湿式ワイピングシートによって、1畳あたりの液放出量(g)と拭き面積(畳)を測定し、これをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、ワイピング液の放出持続性を高めるため、鋭意検討を行った。
この結果、湿式ワイピングシートに配される凸部列もしくは凹凸部列の形状や繊維集合体を構成する個々の繊維の配列が重要であることを見出し、本発明に至った。本発明におけるワイピングとは、清掃および清拭の両方の意味を含むものであり、拭くこと全般を意味する。例えば、床面、壁面、天井、柱等の建物の清掃、建具や備品の清掃、物品の拭き取り、身体、身体に係る器具の清拭、等を含むものとする。
【0010】
以下、本発明の湿式ワイピングシートおよびその製造方法をその好ましい実施形態に基づき説明する。
最初に、好ましい実施形態の湿式ワイピングシート(以下、単に「湿式ワイピングシート」とも言う)から順に説明する。
【0011】
<<湿式ワイピングシート>>
湿式ワイピングシートは、繊維集合体にはワイピング液が担持された湿式ワイピングシートである。湿式ワイピングシートは、網状シートの片面もしくは両面に、繊維集合体を有し、これらが一体となっている。しかも、湿式ワイピングシートは、該シート平面の縦方向または横方向のいずれか一方の方向に、線状の凸部列または凹凸部列を繰り返して有する。さらに、これらの凸部列もしくは凹凸部列が、前記の縦方向もしくは横方向のいずれか一方の方向とは異なる残りの方向に変形している。かつ網状シートの、縦方向もしくは横方向の一方向に(熱)収縮可能であり繊維が絡みつく開孔部が格子状に配列された網状シートの骨格を構成する部分にそって変形している。これに加えて、これらの凸部列もしくは凹凸部列は、その壁面にて、繊維集合体を構成する個々の繊維が、繊維長方向を湿式ワイピングシートの厚さ方向にして配列している。
【0012】
本実施形態の湿式ワイピングシートについて説明する。湿式ワイピングシートは、網状シートの両面に繊維集合体が絡みついて一体となった不織布構造体となっている。網状シートは、骨格部材が一方向とこれに交差する方向に延びていて、開孔部分と骨格構造部分から構成された格子状構造をなしている。繊維集合体は骨格構造部分に絡むことによって一体化されている。
【0013】
湿式ワイピングシートは縦方向と、これに直交する横方向とを備えている。本実施形態の湿式ワイピングシートでは、図1に示すように、縦方向および横方向に対してランダムに凸部が配置された凹凸構造を備えている。各凸部は、図2に示すように、骨格構造部分との間に空隙を有するように網状シートから突出しており、凹部において骨格構造部分に絡んでいる。この構造を取っているために、同じ坪量にして比較した場合、通常の畝溝構造のシート材や規則的に凹凸が配置されたシート材と比べて、比表面積が大きくなっている。
【0014】
湿式ワイピングシートに用いる繊維集合体は互いの繊維の交絡を主体として複合化された繊維集合体である。ここで、ワイピング面側を表面、ワイピング面と反対側を裏面とも称す。
【0015】
最初に、図面の図1〜4に基づき、本発明の湿式ワイピングシートの顕微鏡写真を用いて説明する。
図1は本発明の湿式ワイピングシートを斜め上から撮像した写真であり、図2は断面の凸部を撮像した顕微鏡写真である。本発明では、図1のように、表面に多数の凸部もしくは凹凸部を有する。図2は、1つの凸部の断面を示した図面であり、湿式ワイピングシートの機械流れ方向(MD)側からの断面である。図2から、繊維集合体を構成する個々の繊維が、互いに繊維長を上下にして配列していることがわかる。
なお、図1は観測範囲が横65mm×縦40mmであり、図2は観測範囲が横5.2mm×縦7mmである。
【0016】
<繊維>
湿式ワイピングシートにおける繊維集合体を構成する繊維は、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース繊維や、各種金属、ガラス、鉱物を原料とする繊維が代表的である。このうち、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース等の繊維が好ましい。
【0017】
ポリエステルは、ポリマー主鎖にエステル結合を有する構造であればどのようなポリエステルでもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)が挙げられる。
【0018】
ポリオレフィンは、エチレン性不飽和基を有するモノマーから得られるものである。ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコールの環状アセタール、アクリル樹脂(アクリル樹脂、メタクリル樹脂を含む)、ポリ塩化ビニルが挙げられる。
ポリオレフィンは、上記のように、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。
【0019】
ポリアミドは、ポリマー主鎖に、アミド結合を有する構造であればどのようなポリアミドでもよい。例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12のような重縮合ナイロン、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5Tのような共縮合ナイロンが挙げられる。また、下記のジアミン成分とジカルボン酸成分にて得られるポリアミドが挙げられる。
【0020】
ジアミン成分としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン化合物が挙げられる。また、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン化合物が挙げられる。さらに、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン化合物が挙げられる。
【0021】
カルボン酸成分としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸化合物が挙げられる。また、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物が挙げられる。さらに、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸化合物が挙げられる。
【0022】
ナイロン類も含め、これらのジアミン成分とジカルボン酸成分はそれぞれにおいて、単独でも併用してもよい。
【0023】
セルロース繊維は天然繊維でも合成繊維でもよく、合成繊維としては、例えば、セルロースのアセテート等のアシレート繊維が挙げられる。
【0024】
また、これらの混合繊維、例えば、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレートなども挙げられる。
【0025】
本発明では、繊維集合体を構成する繊維は、1種類でも2種以上を併用したものでもよいが、好ましくは1種類である。凸部列もしくは凹凸部列の形状やこれらの壁面おける個々の繊維の配列を調整するには、繊維は1種類の方が好ましい。
【0026】
本発明では、上記繊維のなかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ナイロン類およびセルロース繊維がより好ましい。アクリル樹脂(特に、アクリル酸)は、そのエステル、メタクリル酸もしくはそのエステルから得られる繰り返し単位を有するものが好ましい。
【0027】
繊維の繊維長は、1mm以上20mm以下が好ましく、2mm以上15mm以下がより好ましく、7mm以上14mm以下がさらに好ましい。繊維径は、0.1μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上50μm以下がより好ましく、5μm以上20μm以下がさらに好ましい。
【0028】
<網状シート>
網状シートは、湿式ワイピングシートにて使用されているもの、または使用が提案されているものであれば、どのようなものでもよいが樹脂製のシートが好ましい。特に、全体として格子状にされた樹脂製のネットが好ましい。網状シートを成す線材が縦方向および横方向に配された格子状であることが好ましい。
【0029】
網状シートの線径は、1〜1,000μmであり、50〜600μmが好ましく、100〜400μmがより好ましい。線間距離は、1〜80mmであり、2〜30mmが好ましく、4〜20mmがより好ましい。また、本発明では、熱収縮性の樹脂からなる網状シートが、凸部列もしくは凹凸部列にさらに凹凸をなしているために、特に好ましい。
【0030】
網状シートの構成材料としては、例えば、米国特許第5525397号明細書の第3欄39〜46行に記載の材料が使用できる。特に、各種熱可塑性樹脂が好適に用いられる。湿式ワイピングシートに荷重が加わってもその嵩高性を維持する観点から、網状シートの構成材料は弾力性を有するものであることが好ましい。具体的には、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル樹脂、ビニル樹脂、ビニリデン樹脂などが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン等が挙げられる。ポリエステル樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。ポリアミド樹脂としてはナイロン等が挙げられる。ビニル樹脂としてはポリ塩化ビニル等が挙げられる。ビニリデン樹脂としてはポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。これら各種樹脂の変成物や混合物等を用いることもできる。本発明では、これらのなかでも、ポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0031】
本発明では、網状シートの片面もしくは両面に、繊維集合体を有する。網状シートと繊維集合体を一体化するため、網状シートの両面に、繊維集合体を有し、網状シートが繊維集合体の繊維によって絡まっていることが好ましい。
【0032】
本発明では、湿式ワイピングシート全体での繊維の平均目付は、30g/m以上150g/m以下が好ましく、40g/m以上80g/m以下がより好ましく、50g/m以上70g/m以下がさらに好ましい。
【0033】
<凸部列もしくは凹凸部列>
本発明では、湿式ワイピングシートの縦方向もしくは横方向のいずれか一方の方向にそって(例えば平行に)線状の凸部列もしくは凹凸部列を繰り返して有する。しかも、凸部列もしくは凹凸部列が、上記の縦方向もしくは横方向のいずれか一方の方向とは異なる残りの方向にそって収縮して変形している。かつ前記網状シートの、縦方向もしくは横方向の一方向に(熱)収縮可能であり繊維が絡みつく開孔部が格子状に配列された網状シートの骨格を構成する部分にそって変形している。この変形している部分は、好ましくは、線状材から構成された網状ネットの線材部分である。例えば、網状ネットの場合、湿式ワイピングシートの表面から観察すると、凸部列もしくは凹凸部列は、該シート面において縦方向もしくは横方向のいずれか一方の方向に網状ネットのネット線が存在している。全体的に、このネット線に平行に線状の凸部列もしくは凹凸部列が存在し、このネット線と直交するネット線にそって、凸部列もしくは凹凸部列が窪んだり、ネット線の交差部分での繊維の絡み合いによる変形をなしている。このため、湿式ワイピングシートの少なくとも一方の面では、凸部列もしくは凹凸部列の凸部が窪んでいて、見かけ上分断され、小さな複数の凸部が存在している。
この凸部形成により厚さ方向への繊維の配向強度が高められる。それによって、湿式ワイピングシートの使用の際、ワイピング液がワイピング対象面に放出されるのに伴い、シート内の対象面上方側から下方側の対象面付近へワイピング液が迅速に供給される。このため、ワイピング液の放出持続性が向上する。
【0034】
本発明では、上記の線状の凸部列もしくは凹凸部列は、該凸部列もしくは凹凸部列を構成している凸部のそれぞれの頂部および該凸部間の底部の繊維配向方向にそって配列していることが好ましい。言い換えれば、凸部列もしくは凹凸部列は、機械流れ方向(MD)にそって配列していることが好ましい。凸部列もしくは凹凸部列を構成している凸部のそれぞれの頂部および該凸部間の底部の繊維の平均配向角度は、機械流れ方向を基準として、150°以上が好ましく、160°以上がより好ましく、170°以上がさらに好ましい。また、配向強度は、1以上が好ましく、1.1以上がより好ましく、1.2以上がさらに好ましい。
【0035】
上記配向角度および配向強度は、以下のように求める。一例として、図1に示した凹凸部列を構成している凸部と凸部との間の観察領域Aを撮像した電子顕微鏡写真(画像)を図3(A)に示す。図3(A)に示した画像は、観察領域の範囲が、縦408μm、横384μmであり、撮像倍率420倍である。画像の横方向が機械流れ方向(MD)になる。この画像に基づいて平均配向角度および配向強度を求めた。
具体的には、東京大学大学院農学生命科学研究科の繊維配向測定公開プログラムの「非破壊による紙の表面繊維配向解析プログラム FiberOri8single03」を用いて求めた。まず、上記の観察領域Aを撮像した図3(A)に示した画像を読み込み、移動平均法によって画像を2値化した(図3(B)参照)。さらに2値化画像の高速フーリエ変換を行ってパワースペクトル(図3(C)参照)を求め、振幅の角度分布を計算した。計算は、X軸正方向を0°として、反時計回りの角度に対する平均振幅を補間しながら行い、平均配向角度および配向強度を求めた。なお、配向角度は0°以上180°未満の数値となる。180°は0°と同じことを意味する。
その結果、上記観察領域Aの平均配向角度が172°であり、配向強度が1.28であった。平均配向強度および配向角度は、凹凸部列を構成している凸部と凸部との間の異なる箇所を10箇所測定し、その測定の平均値とした。このように、シート面の上方からシートを観察した結果、上記配向方向とほぼ平行な方向が機械流れ方向(MD)となっており、上記配向方向が機械流れ方向と判断できる。また、凹凸部列を構成している凸部の頂部においても繊維配向方向が上記と同様に機械流れ方向になっており、凸部の頂部の繊維配向方向が機械流れ方向と判断できる。
したがって、線状の凸部列もしくは凹凸部列が、該凸部列もしくは凹凸部列を構成している凸部のそれぞれの頂部および該凸部間の底部の繊維配向方向にそって配列している。
【0036】
本発明では、凸部列もしくは凹凸部列の壁部は、繊維集合体を構成する個々の繊維が、互いに、繊維長方向を湿式ワイピングシートの厚さ方向にして配列している。壁部とは、凸部列および凹凸部列を構成している凸部のそれぞれの頂部から凸部間の底部に延びる領域とし、かつ壁部には頂部および凸部間の底部は含まないとする。
【0037】
本発明では、繊維集合体の壁部を構成する繊維が湿式ワイピングシートの厚さ方向に配向していることが好ましい。壁部の繊維の平均配向角度は、湿式ワイピングシートのシート面の対象面と平行方向を基準線とした角度は、80°以上が好ましく、82°以上がより好ましく、85°以上がさらに好ましい。また、配向強度は、1.0以上が好ましく、1.1以上がより好ましく、1.15以上がさらに好ましい。
【0038】
なお、放出領域への供給速度は、ダルシーの法則により、液の流路がうねると圧損を生じ、流路が長くなり、液移行速度が低下することが知られている。流体の総放出速度は、例えば、下記数式によって定義される。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、Qは流体の総放出速度(m/sec)、Kはパッドの透過係数(m)、Aはパッドの断面積(m)、Δpはパッドの上下端における圧力差(N/m)、ηは流体の粘度(Pa・sec)、Lはパッドの長さ(m)である。
【0041】
本発明では、規定される構成を満たすことによって、ワイピング液の放出持続性を高めることができ、シートの厚さ方向に繊維を配向させることによって、液の流路のうねりによる圧損を低減することができる。かつ、流路を短くすることによって、ワイピング液の放出領域への供給速度を高めることができる。
【0042】
図4は、従来の湿式ワイピングシートの断面と比較した本発明の湿式ワイピングシートの断面の顕微鏡写真と、壁部の平均配向角および配向強度を示すものである。
【0043】
本発明の湿式ワイピングシートは、1回のワイピング、すなわち、ワイピング対象面を1回拭くことによって、ワイピング液がワイピングシートのワイピング面からワイピング対象面に放出される。その放出量は、0.5g/畳以上が好ましく、0.7g/畳以上がより好ましく、1g/畳以上がさらに好ましい。放出される量の上限は、8g/畳以下が現実的であり、7g/畳以下が好ましく、6g/畳以下がさらに好ましい。しかも、本発明では、ワイピング液がワイピング面からワイピング対象面に1g/畳以上放出される回数が多いほど、放出持続性が高く、好ましい。なお、畳の大きさは、1820mm×910mmであり、面積は1.6552mである。
【0044】
図5に、製造した本発明の代表的な湿式ワイピングシートにおける1畳あたりの液放出量(g)と拭き面積(畳)との関係をプロットしたグラフを示す。なお、上記の従来品のように、通常の放出挙動測定試験は、ワイピング荷重(荷重W)を0.16kN/m、ワイピング速度(速度V)を1m/sとして行っている。
【0045】
本発明では、湿式ワイピングシートに担持できるワイピング液の最大液担持量、すなわち、初期の液担持量は、1g/枚以上が好ましく、10g/枚以上がより好ましく、12g/枚以上がさらに好ましい。初期の液担持量の上限は、40g/枚以下が現実的であり、30g/枚以下が好ましく、20g/枚以下がさらに好ましい。
【0046】
このようにすることによって、目標とする1回のワイピング当たり1g/畳以上の液放出量が可能となり、しかも、6畳目以上にワイピングを持続させることが可能となる。
【0047】
ここで、湿式ワイピングシートの内部の情報を得るには、共焦点レーザー顕微鏡が利用できる。共焦点レーザー顕微鏡を使用することによって、試料内部のスペクトルが得られる。例えば、試料を深さ方向にラマンイメージングすることによって、試料内部における成分分布を非破壊にて観察することができる。例えば、面積被覆率や液膜被覆率、繊維接触部の被覆率を求めることができる。
【0048】
<ワイピング液>
ワイピング液は、一般に、湿式ワイピングシートにて使用されるワイピング液が適用される。すなわち、ワイピング液は水単独でも、界面活性剤を含む水溶液でも構わないが、界面活性剤を含む水溶液が好ましい。界面活性剤を含むことによって、ワイピング時に床面の汚れがより落ちやすくなる。
【0049】
界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤のいずれでも構わない。例えば、アルキルベンゼンスルホン酸等の陰イオン界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性を用いることができる。
特に、本発明では、ワイピング液に界面活性剤を0.01質量%以上0.5質量%以下含むことが好ましい。界面活性剤が少なすぎると、汚れ落ちについて、界面活性剤を含まないワイピング液とほとんど差がなくなり、多すぎると、ワイピング時に界面活性剤が床面に残りやすくなる。
【0050】
ワイピング液には、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、すすぎ効果を高めることを目的とした、アクリル酸、メタクリル酸もしくはマレイン酸の重合体またはこれらの塩、ならびにマレイン酸と他のビニル系モノマーとの共重合体またはこれらの塩などが挙げられる。また、殺菌剤、香料、芳香剤、消臭剤、研磨粒子、着色剤、pH調整剤、アルコールなどの水溶性有機溶媒などが挙げられる。
【0051】
上記のような添加剤の含有量は、一般に、湿式ワイピングシートにて使用される範囲において使用される。
【0052】
本発明では、ワイピング液以外の湿式ワイピングシート100質量部に対し、ワイピング液を、100質量部以上800質量部以下含有することが好ましい。ワイピング液の含有量が少なすぎると十分な面積をワイピングすることができず、多すぎるとワイピング液を床面に均等に供給することができなくなる。また、ワイピング液の含有量が許容量を超えてワイピング液がシートから溢れてしまう。
【0053】
<<湿式ワイピングシートの製造方法>>
本発明では、一度に、網状シートと前記繊維集合体のシート(好ましくは不織布)の一体化と凸部列もしくは凹凸部列の形成を行うことができる水流交絡法(ウオーターニードリング)による水流交絡工程と熱収縮工程を含む。特に、本発明では、水流交絡工程を行った後に熱収縮工程を行うのが好ましい。
【0054】
<水流交絡工程>
熱収縮性の網状シートの片面もしくは両面に、繊維集合体のシートを重ね、不織布の機械流れ方向(MD)に平行に水流を吹き付ける。この際、水流を吹き付ける側とは反対側に、ウエッジワイヤー(ウエッジワイヤースクリーン)を、水流が吹き付けられる位置にウエッジワイヤーのスロット網目が配されるように置く。ウエッジワイヤーは、スロット網目が、0.1mm以上30mm以下が好ましく、0.5mm以上20mm以下がより好ましく、1mm以上10mm以下がさらに好ましい。また、ワイヤロッドの形状は、くさび型、丸型、ホームベース型のいずれでもよいが、くさび型が好ましい。ワイヤロッドの寸法は、横0.8mm、縦2.0mmが好ましい。開口面積比は、ウエッジワイヤーの総面積に対するスロット網目の面積の割合であり、5%以上80%以下が好ましく、10%以上70%以下がより好ましく、20%以上60%以下がさらに好ましい。
【0055】
水流交絡法では、ウォータージェットノズルの本数および水圧、ラインスピード等の条件によって繊維集合体に加わる絡合エネルギーをコントロールすることができる。
【0056】
<熱収縮工程>
熱収縮工程における加熱温度は、80℃以上200℃以下が好ましく、90℃以上190℃以下がより好ましく、95℃以上170℃以下がさらに好ましい。加熱温度が低すぎると熱収縮が不十分となり、高すぎると熱収縮しすぎて凹凸形状が得られにくくなる。
加熱時間は、0.2分以上50分以下が好ましく、1分以上40分以下がより好ましく、2分以上30分以下がさらに好ましい。加熱時間が短すぎると熱収縮が不十分となり、長すぎると熱収縮しすぎて凹凸形状が得られにくくなる。
【0057】
本発明では、網状シートの熱収縮率は、網状シートの縦方向と横方向とが異なってもよいが、縦方向、横方向ともに同じであることが好ましい。その熱収縮率は、1%以上80%以下が好ましく、5%以上70%以下がより好ましく、10%以上60%以下がさらに好ましい。熱収縮率が低すぎると熱収縮が不十分となり、高すぎると熱収縮しすぎて凹凸形状が得られにくくなる。
【0058】
なお、繊維集合体を成す繊維によっては、繊維集合体からなるシート自体が熱収縮する場合がある。この場合、網状シートと繊維集合体一体型のシートの熱収縮率は、該シートの縦方向と横方向とが異なってもよいが、縦方向と横方向とが同じであることが好ましい。その熱収縮率は、1%以上80%以下が好ましく、5%以上70%以下がより好ましく、10%以上60%以下がさらに好ましい。熱収縮率が低すぎると熱収縮が不十分となり、高すぎると熱収縮しすぎて凹凸形状が得られにくくなる。
【0059】
<ワイピング液含有工程>
本発明では、最後の工程にて、ワイピング液を含有させる。ワイピング液の含有量は、ワイピング液以外の湿式ワイピングシート100質量部に対し、100質量部以上800質量部以下が好ましく、200質量部以上700質量部以下がより好ましく、300質量部以上600質量部以下がさらに好ましい。
【0060】
<<湿式ワイピングシートの用途>>
本発明の湿式ワイピングシートは液放出領域へのワイピング液の供給速度が高く、しかもワイピング液の放出持続性の高い。そのため、いわゆる湿式ワイピングシートとして、例えば、ラグ、カーペット、床などを含めた湿式ワイピングシート、清掃ワイパー以外に、衛生用品、土木、包装などにも使用できる。
【0061】
上記のようにして製造した本発明の代表的な湿式ワイピングシートを使用して、1畳あたりの液放出量(g)と拭き面積(畳)を測定し、これをプロットしたグラフが前述の図5である。図5に示した縦軸の1畳あたりの液放出量(g)において、1g/畳以上が最も好ましい目標レベルである。
【0062】
ここで製造した本発明の代表的な湿式ワイピングシートは、上記目標レベルを達成するものであり、具体的には以下のようにして製造したものである。なお、製造した本発明の代表的な湿式ワイピングシートの表面写真および断面写真は図1、2によって示しており、壁部の平均配向角度および配向強度を図4(D)に示した。
【0063】
2軸伸縮性のポリプロピレンからなる格子状の網状ネット(線径0.2mm)の両面に、繊維径12μm、繊維長4mmからなる繊維の繊維集合体を、平均目付、65g/mにて配した。これを、ウエッジワイヤー(スロット網目5mm、ワイヤロッド形状が楔形、ワイヤロッド寸法0.8mm×2mm、開口面積比30%)上方から、ウォータージェットを当てた。ウォータージェットは、ウォータージェットノズル5,000本、水圧5.5MPa、送り速度5m/minに設定して行った。
【0064】
これによって、網状ネットと繊維の繊維集合体が一体化し、シート平面の機械流れ方向(MD)に平行に、すなわち、ノズルの移動方向に、ノズルの本数の凹凸が形成された。1本のノズルによって水流を吹き付けた部分が、凹部、ノズルとノズルの間が凸部の線状の凹凸列が形成された。なお、凹部底辺と凸部頂点の距離は2.9mmであった。
【0065】
上記にて得られた網状シート一体型の不織布を、170℃、30分加熱し、熱収縮させた。収縮率は、シート平面の縦、横ともに、55%であった。熱収縮によって、機械流れ方向(MD)にそって配された線状の凹凸部列が、機械流れ方向と直交する方向(CD)のネット線によって分断され、凹凸が変形を受けた。一方、機械流れ方向にそって配された線状の凹凸部列は、凸部間および凹部の間隔が狭まり、凹部の高さ、凹部の底辺の深さが、熱収縮によって、より高く、より深くなった。
【0066】
分断された凹凸部列の凸部は、一方のシート面上から観察すると矩形が格子状に平面全体を埋め尽くしていた。反対の平面は、上記のシート面とは必ずしも対称でなく、凸部でなく、凹部が格子状に埋め尽くされていた。
【0067】
界面活性剤のエマルゲン108〔商品名 花王(株)製;ポリオキシエチレンラウリルエーテル〕を0.1質量%含有する水溶液からなるワイピング液を、上記によって得られた湿式ワイピング不織布シートに含有させた。
【0068】
このように、本発明により、ワイピング液の放出持続性の高い湿式ワイピングシートを提供することが可能となった。さらには、簡便であり、大量生産が可能な湿式ワイピングシートの製造方法を提供することが可能となった。
【0069】
上述した実施形態に関し、本発明は上記湿式ワイピングシートを含め、以下の湿式ワイピングシートおよびその製造方法を開示する。
【0070】
(1)網状シートの片面もしくは両面に、繊維集合体を有し、これらが一体となった、縦方向とこれに交差する横方向を備える湿式ワイピングシートであって、前記繊維集合体にワイピング液が担持されており、前記湿式ワイピングシートが、該シート平面における縦方向または横方向のいずれか一方の方向にそって、線状の凸部列もしくは凹凸部列を繰り返して有し、前記凸部列もしくは凹凸部列が、前記一方の方向と交差する方向に、かつ前記網状シートの、前記一方の方向に収縮可能であり繊維が絡みつく開孔部が格子状に配列された網状シートの骨格を構成する部分にそって変形しており、前記凸部列もしくは凹凸部列の壁部にて、前記繊維集合体を構成する個々の繊維が、繊維長方向を前記湿式ワイピングシートの厚さ方向に配列されてなる湿式ワイピングシート。
(2)前記湿式ワイピングシートは、前記網状シートの両面に繊維集合体が絡みついて一体となった不織布構造体となっている(1)に記載の湿式ワイピングシート。
(3)前記変形が、前記凸部列もしくは凹凸部列の凸部列に配した窪みによる分断である(1)または(2)に記載の湿式ワイピングシート。
(4)前記線状の凸部列もしくは凹凸部列が、該凸部列もしくは凹凸部列を構成している凸部のそれぞれの頂部および該凸部間の底部の繊維配向方向にそって配列している(1)〜(3)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(5)前記繊維集合体を構成する繊維は1種類である(1)〜(4)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(6)前記湿式ワイピングシートのシート面に基準線を取り、前記壁部を構成する繊維の平均配向角度が、80°以上である(1)〜(5)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(7)前記壁部を構成する繊維の配向強度が、1.1以上である(6)に記載の湿式ワイピングシート。
(8)前記網状シートは、全体として格子状にされた樹脂製のネットである(1)〜(7)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(9)前記網状シートは、線材が縦方向および横方向に配された格子状である(1)〜(8)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
(10)前記網状シートが、熱収縮性のネットである(1)〜(9)のいずれか1項に記載の湿式ワイピングシート。
(11)前記ワイピング液が、界面活性剤を0.01質量%以上0.5質量%以下含むワイピング液であって、該ワイピング液を、該ワイピング液以外の湿式ワイピングシート100質量部に対し、100質量部以上800質量部以下に担持する(1)〜(10)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシート。
【0071】
(12)熱収縮性の網状シートの片面もしくは両面に、繊維集合体を有し、これらが一体となった、縦方向とこれに交差する横方向を備える湿式ワイピングシートの製造方法であって、前記湿式ワイピングシートが、該シート平面における縦方向または横方向のいずれか一方の方向にそって、線状の凸部列もしくは凹凸部列を繰り返して有し、前記凸部列もしくは凹凸部列が、前記一方の方向と交差する方向に、かつ前記網状シートの、前記一方の方向に収縮可能であり繊維が絡みつく開孔部が格子状に配列された網状シートの骨格を構成する部分にそって変形しており、前記凸部列もしくは凹凸部列の壁部にて、前記繊維集合体を構成する個々の繊維が、繊維長方向を前記湿式ワイピングシートの厚さ方向に配列されてなる湿式ワイピングシートであり、前記網状シートの片面もしくは両面に、前記繊維集合体のシートを重ね、該繊維集合体のシートの機械流れ方向に平行に水流を吹き付け、前記網状シートと前記繊維集合体のシートの一体化と、該繊維集合体のシートの機械流れ方向にそって凸部列もしくは凹凸部列を形成する水流交絡工程を行った後、熱収縮工程を行う湿式ワイピングシートの製造方法。
(13)前記水流を吹き付ける側とは反対側に、ウエッジワイヤー(ウエッジワイヤースクリーン)を、前記水流が吹き付けられる位置に該ウエッジワイヤーのスロット網目が配されるように置く(12)に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(14)前記ウエッジワイヤーは、前記スロット網目が、0.1mm以上30mm以下が好ましく、0.5mm以上20mm以下がより好ましく、1mm以上10mm以下がさらに好ましい(13)に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(15)前記熱収縮工程における加熱温度は、80℃以上200℃以下が好ましく、90℃以上190℃以下がより好ましく、95℃以上170℃以下がさらに好ましい(12)〜(14)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(16)前記網状シートの熱収縮率は、該網状シートの縦方向と横方向とで異なっている(12)〜(15)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(17)前記網状シートの熱収縮率は、該網状シートの縦方向と横方向とが同じである(12)〜(15)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(18)熱収縮工程における熱収縮率が、前記湿式ワイピングシート平面の縦および横方向ともに、1%以上80%以下である(12)〜(17)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
(19)前記熱収縮工程の後、繊維集合体にワイピング液を含有する工程を行う(12)〜(18)のいずれか1に記載の湿式ワイピングシートの製造方法。
図1
図2
図3
図4
図5