(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
[強化用繊維]
本発明の強化用繊維は、モノフィラメント構造であるPEEKファイバーを含み、樹脂に用いられることを特徴とする。前記強化用繊維は、長繊維の強化用繊維であり、その繊維長は、切断しないで使用する場合の繊維長は、例えば0.5〜100m、好ましくは2〜50mであり、切断して使用する場合の繊維長は、例えば平均5〜100mm程度である。前記樹脂としては、例えば後述のマトリックス樹脂などが挙げられる。
【0019】
前記PEEKファイバーは、繊維径の小さい繊維であることが好ましく、その直径は、例えば10μm以下(0.1〜10μm)、好ましくは0.5〜8μm、より好ましくは0.7〜6μmである。また、このような直径を有する繊維には、例えば50〜1000nm程度の繊維径(直径)を有する微小な繊維が含まれていてもよい。PEEKファイバーの直径は、後述するPEEKファイバー製造方法の各種条件(例えば、高分子シートの厚みや高分子シートの送り速度、レーザー強度等)を適宜調整することにより、調整することができる。なお、PEEKファイバーの直径は、例えば電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0020】
前記PEEKファイバーの集合体としての平均繊維径(平均の直径)は、例えば10μm以下(0.1〜10μm)、好ましくは0.5〜8μm、より好ましくは0.7〜6μmである。平均繊維径は、例えば走査型電子顕微鏡を用いて繊維の形態を複数(例えば、10)撮影し、撮影した複数の画像から任意に1画像当たり10本程度の繊維径を画像処理ソフトなどで測定し、それらを平均することにより求めることができる。
【0021】
前記PEEKファイバーは、例えば結晶化度が30%以下、好ましくは29%以下、より好ましくは28%以下である。結晶化度が30%以下であると加工性に優れ、不織布に容易に成形することができる。上記結晶化度は、例えばX線回析法、DSC(示差走査熱量計)測定、密度法などにより求めることができる。なお、本願では結晶化度は、実施例に記載の方法によりDSC測定から求めた熱量から算出した。
【0022】
前記PEEKファイバーにおけるPEEKの割合は、前記PEEKファイバー全体に対して、例えば50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であり、特にPEEKファイバーがPEEKのみからなることが好ましい。PEEK以外には、その他の熱可塑性樹脂や添加剤などを含むことができる。また、前記PEEKファイバーは、原料として後述の高分子シートを用い、後述のPEEKファイバーの製造方法により得られることが好ましい。
【0023】
前記強化用繊維におけるPEEKファイバーの割合は、前記強化用繊維全体に対して、例えば50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であり、特に強化用繊維がPEEKファイバーのみからなることが好ましい。PEEKファイバー以外には、ガラス繊維、炭素繊維、PEEK以外のその他の熱可塑性樹脂からなるファイバーなどを含むことができる。
【0024】
[不織布]
本発明の不織布は、前記PEEKファイバーからなる強化用繊維から形成されたものであり、前記強化用繊維をシート状に集積させたものである。前記不織布は、前記強化用繊維以外の繊維(例えば、後述の繊維状のマトリックス樹脂)を含んでいてもよい。前記不織布の厚みは、例えば0.01〜10mm程度の範囲から選択できるが、好ましくは0.05〜5mm、より好ましくは0.1〜3mm、さらに好ましくは0.2〜1mmである。前記不織布の目付は、例えば2〜120g/m
2程度、好ましくは5〜70g/m
2、より好ましくは8〜30g/m
2である。前記不織布は、後述する不織布の製造方法において、シートの送り速度やレーザー強度、また、捕集部材の移動速度等を調整することにより、製造する不織布の繊維径、厚み、目付等の形状を制御することができる。
【0025】
前記不織布における前記PEEKファイバーの含有量は、不織布全体に対して、例えば50重量%以上であり、好ましくは70重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。PEEKファイバー以外には、その他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、金属、セラミックなどを本願発明の効果を損なわない範囲で含むことができる。
【0026】
[繊維強化樹脂]
本発明の繊維強化樹脂は、前記強化用繊維とマトリックス樹脂を含むものである。本発明の繊維強化樹脂は、前記強化用繊維からなる不織布とマトリックス樹脂を含むものでもよい。前記マトリックス樹脂としては、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。前記マトリックス樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。本発明の繊維強化樹脂は、上記以外に硬化剤や硬化促進剤、添加剤などを含んでもよい。なお、本発明の繊維強化樹脂は、前記強化用繊維又は前記不織布とマトリックス樹脂を混合することにより製造することができる。
【0027】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、酢酸セルロース樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート、ポリグリコール酸、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、液晶ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。中でも、得られる成形品の軽量性の観点からはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好ましく、強度の観点からはポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましく、表面外観の観点からポリカーボネート樹脂のような非晶性樹脂が好ましく、耐熱性の観点からポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましく用いられる。
【0028】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリル(テレ)フタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂の中でも、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂が好ましく、さらに耐熱性、力学特性および繊維との接着性のバランスに優れているエポキシ樹脂が好ましく用いられる。特に、アミン類、フェノール類、炭素−炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましく用いられる。具体的には、アミン類を前駆体とするグリシジルアミン型エポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体が挙げられる。
【0029】
前記マトリックス樹脂は、繊維状、粒状やペレット状などの固体でもよい。前記マトリックス樹脂が繊維状である場合の平均長は、例えば0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mmである。前記マトリックス樹脂が粒状である場合の平均粒子径(平均の直径)は、例えば0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mmである。また、前記マトリックス樹脂がペレット状である場合の平均の大きさは、例えば0.5〜5mm、好ましくは1〜3mmである。
【0030】
本発明の繊維強化樹脂は、前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合、前記強化用繊維と固体の熱可塑性樹脂が均一に分散したものであることが好ましい。前記繊維強化樹脂は、前記不織布に固体の熱可塑性樹脂を均一に分散したものでもよく、前記強化用繊維と固体(特に繊維状)の熱可塑性樹脂を均一に分散したものをシート状に集積させたものでもよい。前記繊維強化樹脂は、さらに加熱や加圧して成形したものでもよい。
【0031】
本発明の繊維強化樹脂は、前記マトリックス樹脂が液体でもよい。前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、PEEKファイバーからなる強化用繊維から形成された不織布に液体の熱硬化性樹脂を含浸させたものであることが好ましい。液体の熱硬化性樹脂は、半硬化(セミキュア)状態であってもよい。前記繊維強化樹脂は、さらに含浸後に加熱や加圧しながらの成形や加熱や光硬化による硬化(完全硬化)をしたものでもよい。
【0032】
本発明の繊維強化樹脂における前記強化用繊維の割合は、繊維強化樹脂全体に対して、例えば5〜90重量%、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは15〜75重量%である。また、前記強化用繊維の割合は、前記マトリックス樹脂100重量部に対して、例えば5〜300重量部、好ましくは10〜200重量部、より好ましくは20〜150重量部である。
【0033】
本発明の繊維強化樹脂における前記マトリックス樹脂の割合は、繊維強化樹脂全体に対して、例えば10〜95重量%、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは25〜85重量%である。また、前記マトリックス樹脂の割合は、前記強化用繊維100重量部に対して、例えば30〜500重量部、好ましくは40〜300重量部、より好ましくは50〜200重量部である。
【0034】
[強化用繊維の製造方法]
本発明の強化用繊維は、特に制限されないが、下記のPEEKファイバーの製造方法で得られるPEEKファイバーを含む。また、前記不織布は、特に制限されないが、下記の不織布の製造方法で得られる不織布である。
【0035】
(PEEKファイバーの製造方法)
前記PEEKファイバーは、特に制限されないが、レーザー溶融エレクトロスピニング法を用いて製造することができる。つまり、前記PEEKファイバーは、例えばレーザー溶融エレクトロスピニングPEEKファイバーである。PEEKファイバーの製造方法では、高分子シートに帯状レーザー光を照射して前記高分子シートの端部を線状に加熱溶融させるとともに、溶融した帯状溶融部と繊維捕集板との間に電位差を設けることにより、前記帯状溶融部に針状突出部を形成し、前記針状突出部から吐出される繊維を前記繊維捕集板方向に飛翔させ、前記繊維捕集板あるいは、前記帯状溶融部と前記繊維捕集板間に介在させた捕集部材上に捕集することにより、PEEKファイバーを得る。
【0036】
前記レーザー溶融エレクトロスピニング法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、PEEKファイバーの製造方法の一例を模式的に示す概略図である。
【0037】
前記PEEKファイバーの製造方法では、
図1に示すように、レーザー発生源1から出射した断面がスポット状のレーザー光をビームエキスパンダー及びホモジナイザー2、コリーメンションレンズ3及びシリンドリカルレンズ群4からなる光路調整手段を介して断面が線状の帯状レーザー光5に変換した後、保持部材7に保持された高分子シート6の端部に照射して帯状溶融部6aを形成するとともに、高電圧発生装置10により電圧を印加し、帯状溶融部6aと高分子シート6の下側に配設された繊維捕集板8との間に電位差を生じさせる。また、サーモグラフィー9により帯状溶融部6aの温度を観測し、電圧や照射するレーザー光などの条件を最適化することができる。
【0038】
図1に示した例では、高分子シート6を保持する保持部材7が電極としての機能を兼ねており、高電圧発生装置10により、保持部材7に電圧が印加されると、高分子シート6の帯状レーザー光5の照射により形成される帯状溶融部6aに電荷が付与されることとなる。繊維捕集板8は、表面電気抵抗値が金属と同等程度を有するものである。その形状は例えば、板状、ローラー状、ベルト状、ネット状、鋸状、波状、針状、線状などが挙げられる。
【0039】
図2は、帯状溶融部6aに形成されるテーラーコーンの模式図である。
図2に示すように電荷が付与された帯状溶融部6aには、その表面に電荷が集まり反発することによって、次第に複数の針状突出部(テーラーコーン)6bが形成され、電荷の反発力が表面張力を超えると、溶融した高分子シートは、テーラーコーン先端から静電引力により繊維捕集板8に向かって繊維として吐出され、即ち、針状突出部6bから繊維が形成され、繊維捕集板8方向に飛翔する。その結果、伸長した繊維は繊維捕集板8で捕集される。また、繊維捕集板8上に捕集部材を置くと、繊維は捕集部材上に捕集される。即ち、前記PEEKファイバーの製造方法では、繊維捕集板自体を繊維を捕集する部材としてもよく、繊維捕集板とは別に繊維捕集板上に捕集部材を載置してもよい。
【0040】
図2に示す上記テーラーコーンの数(テーラーコーンの間隔)は、高分子シート6の厚みを適宜変更することにより調整することができる。なお、テーラーコーンが発達するとは、テーラーコーンの高さ(
図2中、h)が大きくなることを意味する。
【0041】
上記テーラーコーンの数は、特に制限されないが、上記高分子シートの加熱溶融した部分の幅方向2cm当たり、好ましくは1〜100個、より好ましくは1〜50個、さらに好ましくは2〜10個である。テーラーコーンの数が、幅方向2cm当たり1〜100個であると、テーラーコーン同士の電気的な反発などによりファイバーの均整度が低下してしまうことがなく、適切な生産量を確保することができる。
【0042】
前記レーザー発生源としては、例えばYAGレーザー、炭酸ガス(CO
2)レーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザー、ヘリウム−カドミウムレーザー等が挙げられる。これらのなかでは、電源効率が高く、PEEKの溶融性が高い点から、炭酸ガスレーザーが好ましい。また、レーザー光の波長は、好ましくは200nm〜20μm、より好ましくは500nm〜18μm、さらに好ましくは5〜15μmである。
【0043】
また、前記PEEKファイバーの製造方法において、帯状レーザー光を照射する場合、そのレーザー光の厚みは、好ましくは0.5〜10mmである。レーザー光の厚みが0.5mm未満では、テーラーコーンの形成が困難となる場合があり、10mmを超えると、溶融滞留時間が長くなり、材料の劣化を起こす場合がある。
【0044】
また、上記レーザー光の出力は、前記帯状溶融部の温度が高分子シートの融点以上であり、かつ、高分子シートの発火点以下の温度となる範囲に制御すればよいが、吐出させるPEEKファイバーの直径を小さくする観点からは高い方が好ましい。具体的なレーザー光の出力は、用いる高分子シートの物性値(融点、LOI値(限界酸素指数))や形状、高分子シートの送り速度等に応じて適宜選択できるが、好ましくは5〜100W/13cm程度、より好ましくは20〜60W/13cm、さらに好ましくは30〜50W/13cmである。上記レーザー光の出力は、レーザー発生源から出射したスポットビームの出力である。
【0045】
また、前記帯状溶融部の温度は、PEEKの融点(334℃)以上で、発火点以下の温度であれば特に限定されないが、通常350〜600℃程度、好ましくは380〜500℃である。
【0046】
図1に示した前記PEEKファイバーの製造方法では、レーザー光は一方向のみから高分子シートの帯状溶融部(端部)に照射しているが、例えば反射ミラーを介してレーザー光を2方向から高分子シートの帯状溶融部(端部)に照射してもよい。高分子シートの厚みが厚くても、その端部をより均一に溶融させることができるからである。
【0047】
前記PEEKファイバーの製造方法において、上記高分子シートの端部と上記捕集部材との間に発生させる電位差は放電しない範囲で高電圧であるのが好ましく、要求される繊維径(直径)、電極と捕集部材との距離、レーザー光の照射量等に応じて適宜選択できるが、通常0.1〜30kV/cm程度、好ましくは0.5〜20kV/cm、より好ましくは1〜10kV/cmである。
【0048】
高分子シートの溶融部に電圧を印加する方法は、レーザー光の照射部(高分子シートの帯状溶融部)と電荷を付与するための電極部とを一致させる直接印加方法であってもよいが、簡便に装置を作製できる点、レーザー光を有効に熱エネルギーに変換できる点、レーザー光の反射方向を容易に制御でき、安全性が高い点等から、レーザー光の照射部と電荷を付与するための電極部とを別個の位置に設ける間接印加方法(特に、高分子シートの送り方向における下流側にレーザー光の照射部を設ける方法)が好ましい。特に、上記製造方法では、電極部よりも下流側で高分子シートに帯状レーザー光を照射するとともに、電極部とレーザー光照射部との距離(例えば、電極部の下端と、帯状レーザー光の上側外縁との距離)を特定の範囲(例えば、10mm以下程度)に調整するのが好ましい。この距離は、高分子シートの導電率、熱伝導率、ガラス転移点、レーザー光の照射量等に応じて選択でき、好ましくは0.5〜10mm、より好ましくは1〜8mm、さらに好ましくは1.5〜7mm、特に好ましくは2〜5mm程度である。両者の距離がこの範囲にあると、レーザー光照射部での樹脂の分子運動性が高まり、溶融状態の樹脂に充分な電荷を付与できるため、生産性を向上できる。
【0049】
前記高分子シートの端部(テーラーコーンの先端部)と前記捕集部材との距離は特に限定されず、通常5mm以上であればよいが、効率良く直径の小さいファイバーを製造するためには、好ましくは10〜300mm、より好ましくは15〜200mm、さらに好ましくは50〜150mm、特に好ましくは80〜120mmである。
【0050】
前記高分子シートを連続的に送り出す場合の送り速度は、好ましくは2〜20mm/min、より好ましくは3〜15mm/min、さらに好ましくは4〜10mm/minである。速度を速くすれば生産性が高まるが、速すぎるとレーザー光照射部での高分子シートが充分溶融しないのでファイバーを製造しにくい。一方、速度が遅いと高分子シートが分解したり、生産性が低くなる。
【0051】
前記高分子シートは、好ましくは結晶化度が25%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。上記結晶化度が25%以下であると、結晶化度の低いPEEKファイバーを得ることができる。高分子シートの結晶化度は、PEEKファイバーの結晶化度と同じ方法により求めることができる。
【0052】
前記高分子シートは、繊維径の小さいファイバーを得やすい点から、溶融粘度が低いことが好ましく、400℃で測定したシェアレート(せん断速度)121.6(1/s)の時の溶融粘度が、好ましくは800Pa・s以下(50〜800Pa・s)、より好ましくは600Pa・s以下、さらに好ましくは400Pa・s以下である。上記溶融粘度は、キャピラリーレオメーター(商品名「キャピログラフ 1D」、(株)東洋精機製作所製)により実施例に記載の方法で求めることができる。なお、シェアレート(せん断速度)もキャピラリーレオメーターを用いて測定することができる。
【0053】
前記高分子シートは、例えば、チップ状のPEEKをTダイ押出成形機などで加熱溶融し、シート状にすることにより製造することができる。チップ状のPEEKとしては、市販品を用いることができ、商品名「VESTAKEEP 1000G」(ダイセル・エボニック(株)製)などを好適に用いることができる。なお、Tダイ押出成形機の加熱温度は、PEEKの融点以上であればよく、例えば350〜400℃である。
【0054】
前記高分子シートは、ファイバーに用いられる各種の添加剤、例えば、赤外線吸収剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、つや消し剤、蓄熱剤、香料、蛍光増白剤、湿潤剤、可塑剤、増粘剤、分散剤、発泡剤、界面活性剤等を含有してもよい。これらの添加剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上組み合わせて配合してもよい。
【0055】
これらの添加剤のなかでは、界面活性剤を用いることが好ましい。高分子シートに高電圧を印加して電荷を注入する際、高分子シートは電気絶縁性が高く、電気抵抗の低くなる熱溶融部までに電荷を注入しにくい。しかし、界面活性剤を用いると、電気絶縁性の大きい高分子シートの表面の電気抵抗が低下し、熱溶融部まで十分に電荷を注入できる。また、界面活性剤などの付与は、高分子シートに高電圧を印加して電荷を注入する際、シートが複数成分で構成されている場合の相分離に有効である。
【0056】
これらの添加剤は、それぞれ、高分子シートを構成する樹脂100重量部に対して、50重量部以下の割合で使用でき、好ましくは0.01〜30重量部、より好ましくは0.1〜5重量部の割合である。
【0057】
前記高分子シートの厚みは、好ましくは0.01〜10mm、より好ましくは0.05〜5.0mmである。厚みが上記範囲であると、PEEKファイバーの製造がしやすい。
【0058】
また、前記PEEKファイバーの製造方法において、前記高分子シートの端部と前記捕集部材との間の空間は、不活性ガス雰囲気であってもよい。この空間を不活性ガス雰囲気とすることにより、繊維の発火を抑制できるため、レーザー光の出力を高めることができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、炭酸ガス等が挙げられる。これらのうち、通常、窒素ガスを使用する。また、上記不活性ガスの使用により、帯状溶融部における酸化反応を抑制することができる。
【0059】
また、上記空間は加熱してもよい。加熱することにより得られるファイバーの直径を小さくすることができる。即ち、空間の空気又は不活性ガスを加熱することにより、形成されつつある繊維の急激な温度低下を抑制することができ、これにより、繊維の伸長又は延伸を促進し、より極細な繊維が得られるのである。加熱方法としては、例えば、ヒーター(ハロゲンヒーター等)を用いた方法や、レーザー光を照射する方法等が挙げられる。加熱温度は、例えば、50℃以上の温度から樹脂の発火点未満までの温度範囲から選択できるが、紡糸性の点から、PEEKの融点未満の温度が好ましい。
【0060】
(不織布の製造方法)
次に、PEEKファイバーから形成された不織布を製造する方法の一例について説明する。以下のPEEKファイバーから形成された不織布の製造方法では、上述のPEEKファイバーの製造方法において、繊維捕集板方向に飛翔させた繊維の捕集位置を経時的に移動させつつ、前記PEEKファイバーの製造方法を連続的に行い、これらを布状に集積させて不織布を得る。以下に示す方法により、PEEKファイバーから形成された不織布を製造してもよく、前記PEEKファイバーの製造方法で得られたPEEKファイバーを他の方法で不織布としてもよい。
【0061】
ここで、繊維捕集板方向に飛翔させた繊維の捕集位置を経時的に移動させる方法としては、例えば(1)捕集部材(繊維捕集板自体が捕集部材として機能する場合は繊維捕集板)を移動させる方法、(2)高分子シートの保持位置を移動させる方法、(3)テーラーコーンから捕集部材に向かって、飛翔中の繊維に力学的、磁力的又は電気的な力を作用させる方法、例えば、飛翔中の繊維にエアーを吹き付ける方法、(4)上記(1)〜(3)の方法を選択的に組み合わせる方法等を用いることができる。
【0062】
これらのなかでは、装置の構成の簡略化が容易で、製造する不織布の形状(厚みや目付等)を制御しやすい点で、上記(1)の方法、即ち、捕集部材を移動させる方法が望ましい。以下、上記(1)の方法を用いる場合を例に、PEEKファイバーから形成された不織布の製造方法について詳述する。
【0063】
上記(1)の方法を用いたPEEKファイバーから形成された不織布の製造方法では、
図1に示したPEEKファイバーの製造方法において、繊維捕集板8上に捕集部材を載置しておき、この捕集部材を高分子シート6の幅方法に垂直な方向(図中、右方向又は左方向)に移動させつつ、前記PEEKファイバーの製造方法を連続的に行う。ここで、捕集部材の移動速度は、一定であってもよいし、経時的に変化してもよく、さらには、移動と停止とを繰り返してもよい。なお、前記PEEKファイバーの製造方法を連続的に行うには、既に説明したように、ファイバーの製造工程の進行に伴って、高分子シート6を繊維捕集板8側(捕集部材側)に連続的に送り出せばよい。なお、高分子シートを連続的に送り出す速度(送り速度)は、前記PEEKファイバーの製造方法で記載した通りである。
【0064】
また、繊維捕集板8上の捕集部材の移動速度は特に限定されず、製造する繊維シートの目付等を考慮して適宜決定すればよいが、通常10〜2000mm/min程度である。例えば、目付1000g/m
2の高分子シートの送り速度が0.5mm/minである場合、捕集部材の移動速度を1000mm/min程度に設定することにより、目付0.5g/m
2程度の不織布を連続的に製造することができる。
【0065】
図3は、上述の
図1に示すPEEKファイバーの製造方法を含む、不織布製造装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示す装置(不織布製造装置)は、レーザー発生源11と、光路調整部材12と、高分子シート6を連続的に送り出せる高分子シート送り装置13と、高分子シート6を保持する保持部材16、高分子シート6に電荷を付与する電極17、繊維を捕集するための捕集部材22、電極17と高分子シート6の帯状溶融部(端部)6a及び捕集部材22を介して対向配置された繊維捕集板14、及び、加熱装置15が配設された筐体23と、電極17、繊維捕集板14のそれぞれに電圧を印加する高電圧発生装置20a、20bと、捕集部材22を移動させるためのプーリー21を備えている。なお、上記光路調整部材12は、上述のように光学部品の集合体であり、
図1に示すビームエキスパンダー及びホモジナイザー2、コリーメンションレンズ3、及びシリンドリカルレンズ群4などから構成されている。
【0066】
図3において、レーザー発生源11から出射し、光路調整部材12を介した帯状レーザー光5は、筐体23内に導入され、高分子シート6の帯状溶融部(端部)6aに照射される。筐体23の上部には、モータとモータの回転運動を直線運動に変換する機構とを備えた高分子シート送り装置13が取り付けられており、高分子シート6は、この高分子シート送り装置13に取り付けられ、連続的に筐体23内へ送り出されることとなる。一方、高分子シート6の下部は、電極17が取り付けられた保持部材16により保持されている。高分子シート6と電極17とは常に接触しているため、電極17に電圧が印加されると、高分子シート6に電荷が付与されることとなる。
【0067】
電極17と対をなす電極として機能する繊維捕集板14は、高分子シート6の帯状溶融部(端部)6a及び捕集部材22を介して対向する位置に配設されている。そのため、電極17及び繊維捕集板14に電圧が印加された場合には、高分子シート6の帯状溶融部(端部)6aと捕集部材22との間には電位差が生じることとなる。電極17、繊維捕集板14への電圧の印加は、それぞれに接続された高電圧発生装置20a、20bにより行われる。なお、この不織布製造装置では、電極17が正電極であり、繊維捕集板14が負電極であるが、逆の場合でもよい。捕集部材22は、プーリー21とコンベアベルトとからなるベルトコンベアであり、コンベアベルト自体が、捕集部材22に相当する。そのため、プーリー21の駆動に伴って、捕集部材22(コンベアベルト)は所定の方向(例えば、図中、右方向)に移動する。
【0068】
図3に示す不織布製造装置は、加熱装置15を備えており、高分子シート6の帯状溶融部(端部)6aから捕集部材22に向かって吐出され、伸長した繊維を加熱することができる。また、筐体23内には、レーザー光吸収板19及び熱吸収板18が備えられている。
【0069】
図3に示す不織布製造装置では、電極17及び繊維捕集板14の両方に電圧を印加した状態で、高分子シート送り装置13及び保持部材16により高分子シート6を送りつつ、高分子シート6の帯状溶融部(端部)6aに帯状レーザー光5を照射することにより、既に説明したように、高分子シート6の帯状溶融部(端部)6aにテーラーコーンが形成され、このテーラーコーンより繊維が吐出され、繊維捕集板14に飛翔し、その結果、伸長した繊維が捕集部材22で捕集されることとなる。そして、高分子シート6を連続的に送りつつ(連続的に繊維を吐出させつつ)、捕集部材22を移動させることにより、捕集部材22上に不織布を製造することができるのである。
【0070】
図3に示す不織布製造装置において、捕集部材22はシート状の部材である。この装置において、捕集部材22はシート状であれば特に限定されないが、紙、フィルム、各種織物、不織布、メッシュ等である。また、捕集部材が、金属あるいは表面電気抵抗値が金属と同等程度を有するシートあるいはベルトであってもよい。
【0071】
図3に示す不織布製造装置において、電極17、繊維捕集板14の材料は、導電性材料(通常、金属成分)であればよく、例えば、クロム等の第6族元素、白金等の第10族元素、銅や銀等の第11族元素、亜鉛等の第12族元素、アルミニウム等の第13族元素等の金属単体や合金(アルミニウム合金やステンレス合金等)、又はこれらの金属を含む化合物(酸化銀、酸化アルミニウム等の金属酸化物等)等が挙げられる。これらの金属成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属成分のうち、銅、銀、アルミニウム、ステンレス合金等が特に好ましい。繊維捕集板14の形状は特に限定されないが、板状、ローラー状、ベルト状、ネット状、鋸状、波状、針状、線状などが挙げられる。これらの形状のうち板状、ローラー状が特に好ましい。レーザー光吸収板19としては、例えば、黒体を塗装した金属や多孔質セラミック等が挙げられる。熱吸収板18としては、例えば、黒色のセラミック等が挙げられる。このような装置を用いることにより、前記不織布を効率よく製造することができる。
【0072】
前記不織布は、上記製造方法以外に、例えば金型等を用いて圧縮成形する工程(プレス工程)等を経て製造されたものでもよい。また、前記不織布は、PEEKファイバーからなる不織布もしくはそれ以外の不織布を複数枚重ねて、圧縮成形(プレス)して一体化されたものでもよい。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0074】
実施例1
(高分子シートの作製)
PEEK[ダイセル・エボニック社製、商品名「VESTAKEEP 1000G」]のチップ状試料をラボプラストミルTダイ押出成形装置((株)東洋精機製作所製)にて、ダイス幅150mm、リップ幅0.4mmのTダイを用いて、押出温度345〜360℃でシート状に押出し、引き取りロール温度140℃、巻き取り速度1.0〜2.0m/minで巻き取って、厚さ0.1mmの高分子シートを作製した。
作製した高分子シートの以下の方法で測定した溶融粘度(400℃)は、151Pa・sであり、高分子シートの結晶化度は、12.7%であった。高分子シートの結晶化度は、以下の不織布を形成するPEEKファイバーの結晶化度と同じ方法で求めた。
【0075】
(高分子シートの溶融粘度(400℃)の測定方法)
高分子シートの400℃で測定したシェアレート(せん断速度)121.6(1/s)の時の溶融粘度は、キャピラリーレオメーター(商品名「キャピログラフ 1D」、(株)東洋精機製作所製)にて、キャピラリー径1mm、長さ10mmの冶具を用いて測定した。
【0076】
次に、上記の方法で作製した高分子シートを用いて、以下の方法によりPEEKファイバーから形成された不織布を製造した。
【0077】
(PEEKファイバーから形成された不織布の製造)
図3に概要を示す不織布製造装置により、PEEKファイバーから形成された不織布を製造した。
図3に示した装置のレーザー発生源11として、CO
2レーザー(ユニバーサルレーザーシステムズ社製、波長10.6μm、出力45W、空冷型、ビーム径φ4mm)を使用した。
図3に示した装置の光路調整部材12として、倍率2.5倍のビームエキスパンダーと、ホモジナイザー(入射ビーム径φ12mm(設計値)、出射ビーム径φ12mm(設計値))と、コリーメンションレンズ(入射ビーム径φ12mm(設計値)、出射ビーム径φ12mm(設計値))と、シリンドリカルレンズ(平凹レンズ、f−30mm)及びシリンドリカルレンズ(平凸レンズ、f−300mm)とをこの順で所定の位置に配置したものを使用した。これらの光路調整部材を介することにより、スポット状のレーザー光を幅約150mm、厚さ約1.4mmの帯状レーザー光5に変換して高分子シート6の帯状溶融部(端部)6aに照射した。このときのレーザー光の出力は61W/13cm、高分子シートの送り速度は、6mm/minであり、電極17と繊維捕集板14の間の電位差は、6kV/cmであった。
これにより、平均繊維径(直径)が0.7μmであるPEEKファイバーから形成される不織布が得られた。不織布を形成するPEEKファイバーの以下の測定方法での結晶化度は24.0%であった。
【0078】
実施例2
(不織布の製造)
上記実施例1のPEEKファイバーから形成された不織布で得られた不織布を金型(幅10mm、長さ30mm、厚さ1mm)に成形後の厚みが40μmとなるように束ねて挿入し、型閉じ後、120℃で30秒間加熱し、0.5MPaでプレス(圧縮成形)することにより不織布を得た。この不織布の平均気孔径は100μmであり、気孔率は70%であった。
【0079】
実施例3
(繊維強化樹脂の製造)
実施例2で得られた不織布に対し、以下の方法に従って不織布の空孔にエポキシ樹脂を充填した。上記不織布を、寺岡製作所製フィルムマスキングテープNo.603(#25)に貼り付けて固定した。不織布を貼り付けたフィルムマスキングテープを、KPI社製ホットプレート(商品名「MODEL HP-19U300」)の天板上にポリイミドテープで固定して60℃に昇温した。ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製エポキシ樹脂(商品名「アラルダイト2020」、2液性エポキシ樹脂)のA液/B液を重量比で100/30で混合して得た硬化性樹脂(未硬化のエポキシ樹脂)を不織布表面に載せた。硬化性樹脂をフッ素樹脂製のヘラで全体的に広げ、不織布の空孔部に未硬化のエポキシ樹脂を完全に充填した。余分のエポキシ樹脂はヘラと紙ウエスで除去した後、そのまま60℃で1.5時間加熱を続けてエポキシ樹脂を硬化させ、不織布の空孔に樹脂が充填された繊維強化樹脂を製造した。
【0080】
(不織布を形成するPEEKファイバーの結晶化度の測定方法)
不織布を形成するPEEKファイバーの結晶化度は、DSC測定から求めた熱量から算出した。
DSC測定は、示差走査熱量計(DSC−Q2000/TA社製)を用い、基準材料はアルミナを用い、窒素雰囲気下、温度範囲は0〜420℃、昇温速度20℃/minの条件で行った。
DSC測定で求めた熱量から、以下の式を用いて結晶化度を求めた。
結晶化度(%)={(試料の融解熱[J/g])−(試料の再結晶化熱[J/g])}/完全結晶の融解熱(130[J/g])×100