(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記制御装置に記憶されている溶接用開先に関するデータが、X軸回りの所定角度間隔をおいた複数の位置において実測された、溶接用開先のX軸方向中心位置、及び、X軸に対して垂直な方向の開先底の位置を含んでおり、
上記制御装置に記憶されている溶接条件に関するデータが、ビード層に応じた電流値、及び、フィラーワイヤの送り速度を含んでいる、請求項1から6のいずれかに記載の溶接装置。
上記溶接装置設置ステップにおいて、溶接装置を、その3軸位置決め機構のX軸が弁箱の弁座中心軸に平行な方向となり、Z軸が弁箱の鉛直中心軸に平行な方向となり、Y軸がX軸及びY軸のいずれにも直交する方向となるように弁箱に取り付け、
上記開先検出ステップにおいて、上記3軸位置決め機構及び上記溶接ヘッド回転機構により、上記トーチを、X軸回りに回転させ、X軸方向及びX軸に対して垂直な方向に沿って移動させることにより、上記溶接用開先の位置を検出する、請求項8に記載の溶接方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した現況に鑑みてなされたものである。本発明は、対象弁の弁箱に弁座を溶接によって装着するに際し、弁箱への溶接装置の設置を含む段取り作業を除いては、殆どの作業が自動的になされる溶接装置及び溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る溶接装置は、
弁箱内に弁座を溶接によって固定する溶接装置であって、
溶接トーチ機構を有する溶接ヘッドと、
この溶接ヘッドを回転させる溶接ヘッド回転機構と、
この溶接ヘッド回転機構を、XYZの直交3軸方向それぞれに移動させる3軸位置決め機構と、
溶接用開先及び溶接条件に関するデータを記憶し、このデータに基づいて、上記溶接ヘッド、溶接ヘッド回転機構及び3軸位置決め機構の各動作を制御する制御装置とを備えており、
この制御装置が、上記溶接トーチ機構のトーチへ近接した物を検知しうるように構成されており、
上記3軸位置決め機構が、対象弁に対して着脱可能にされており、
上記溶接ヘッド回転機構は、溶接ヘッドを、X軸回りに回転させるように構成されている。
【0007】
好ましくは、
上記溶接トーチ機構のトーチと、このトーチへ近接した物との間の電圧を測定するための電圧検出器を備えており、
上記トーチは、上記測定電圧値に基づいて接近物を検知するために使用される接近物検知用電源との電気的接続、及び、溶接のために使用される溶接用電源との電気的接続が可能にされている。
【0008】
好ましくは、
上記3軸位置決め機構が、X軸移動機構、Y軸移動機構及びZ軸移動機構を含んでおり、
これら3機の移動機構のうちの1機が、対象弁に着脱されうる第一移動機構であり、
他の2機のうちの1機が、上記第一移動機構に取り付けられて第一軸方向に往復動されうる第二移動機構であり、
残りの1機が、上記第二移動機構に取り付けられて上記第一軸方向に垂直な第二軸方向に往復動されうる第三移動機構であり、
上記溶接ヘッド回転機構が、この第三移動機構に取り付けられて上記第一軸方向及び第二軸方向のいずれにも垂直な第三軸方向に往復動されうるように構成されている。
【0009】
好ましくは、
上記溶接ヘッドが、
上記溶接トーチ機構をX軸方向に往復動させるウイービング機構と、
溶接トーチ機構をX軸に対して垂直な方向に往復動させるトーチ上下駆動機構とを有しており、
上記ウイービング機構が、上記溶接ヘッド回転機構に、回転させられるように取り付けられており、
上記トーチ上下駆動機構が、上記ウイービング機構に、X軸方向に往復動させられるように取り付けられている。
【0010】
好ましくは、
上記溶接ヘッドが、
フィラーワイヤを案内するワイヤ挿入機構と、
このワイヤ挿入機構を、X軸方向及びX軸に対して垂直な方向それぞれに往復動させるワイヤ前後上下駆動機構とを有しており、
このワイヤ前後上下駆動機構が、上記溶接トーチ機構に取り付けられており、
上記ワイヤ挿入機構が、ワイヤ前後上下駆動機構に取り付けられている。
【0011】
好ましくは、
上記ワイヤ挿入機構に、トーチ機構のトーチの先端のアークを観察するアークモニターが備えられている、請求項5に記載の溶接装置。
【0012】
好ましくは、
上記制御装置に記憶されている溶接用開先に関するデータが、X軸回りの所定角度間隔をおいた複数の位置において実測された、溶接用開先のX軸方向中心位置、及び、X軸に対して垂直な方向の開先底の位置を含んでおり、
上記制御装置に記憶されている溶接条件に関するデータが、ビード層に応じた電流値、及び、フィラーワイヤの送り速度を含んでいる。
【0013】
溶接装置を用いて対象弁の弁箱内に弁座を溶接する方法であって、
この溶接装置が、前述した電圧検出器を備え、且つ、上記トーチに接近物検知用電源が電気的接続可能にされている溶接装置であり、
この溶接装置を上記弁箱に取り付ける、溶接装置設置ステップと、
上記溶接トーチ機構のトーチをセンサとして、弁座及び弁箱の溶接用開先の内面に接近させて、溶接用開先の位置を検出する開先検出ステップと、
検出された溶接用開先のデータをフィードバックした倣い機能を使用して自動溶接を施工する開先倣い溶接ステップとを含む。
【0014】
好ましくは、
上記溶接装置設置ステップにおいて、溶接装置を、その3軸位置決め機構のX軸が弁箱の弁座中心軸に平行な方向となり、Z軸が弁箱の鉛直中心軸に平行な方向となり、Y軸がX軸及びY軸のいずれにも直交する方向となるように弁箱に取り付け、
上記開先検出ステップにおいて、上記3軸位置決め機構及び上記溶接ヘッド回転機構により、上記トーチを、X軸回りに回転させ、X軸方向及びX軸に対して垂直な方向に沿って移動させることにより、上記溶接用開先の位置を検出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶接装置及び溶接方法によれば、弁箱に対して弁座を溶接によって装着することができる。そして、この弁座の溶接においては、対象弁の弁箱への溶接装置の設置を含む段取り作業を除いては、殆どの作業が自動的になされうる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
ここでは、本発明の一実施形態に係る溶接装置2が説明される。
図10には、この溶接装置2による溶接対象の弁として、スイング式逆止弁102が例示されている。図中の矢印から明らかなように、この弁102の弁箱104の左方開口が流体の入り口106、右方開口が流体の出口108である。弁箱104の上端開口110は、ボンネット112によって開閉可能にされている。ボンネット112は、上端開口110周囲のフランジ114にボルト116止めされる。弁箱104の内部の流路部には、弁座118が溶接で装着されている。溶接部119は、この溶接のための開先をも示している。この溶接用開先(以下、単に開先という)119は、弁箱104と弁座118とを溶接するための開先である。この溶接は、後述する本実施形態に係る溶接装置2によって施工されたものである。また、弁体120は、アーム122によって、弁座118のシート面124に当接しうるように揺動可能に取り付けられている。図中に実線で示すように、弁体120がシート面124に当接した状態が閉弁状態であり、二点鎖線で示すように、弁体120がシート面124から離間した状態が開弁状態である。
【0019】
図1から
図4には、上記溶接装置2が示されている。
図1は、溶接装置2の正面図であり、
図10に示す逆止弁102の弁箱104を、入り口106側から右方を見た図といえる。
図2は、溶接装置2の平面図であり、
図10に示す弁箱104を、上端開口110側から下方に見た図といえる。
図3は、溶接装置2の右側面図である。
【0020】
この溶接装置2は、板状の取付ベース4と、この取付ベース4に取り付けられる3軸位置決め機構(3軸移動機構ともいう)6と、この3軸位置決め機構6によってXYZの直交3軸それぞれに移動させられる溶接ヘッド8、溶接ヘッド回転機構10及びワイヤ送給機構12とを備えている。取付ベース4にはボルト用の貫通孔が形成されている。貫通孔は、図示しないが、複数の同心円のそれぞれに等間隔をおいて形成されてもよい。複数のサイズの弁箱に設置可能とするためである。1つの弁箱に設置するために使用される貫通孔の個数は、弁箱104のフランジ114のボルト孔の個数より少なくてよい。溶接ヘッド8は、溶接を施工する部分である。以下に、この溶接ヘッド8を移動させて溶接部位の位置決めを行う機構が説明される。
【0021】
上記3軸位置決め機構6は、X軸移動機構14と、Y軸移動機構16と、Z軸移動機構18とを備えている。ここで、X軸方向は、
図1では前後方向、
図2及び
図4では上下方向、
図3では左右方向である。Y軸方向は、X軸に垂直な方向であり、
図1及び
図2では左右方向、
図3では前後方向、
図4では左右方向である。Z軸方向は、X軸及びY軸に垂直な方向であり、
図1及び
図3では上下方向、
図2及び
図4では前後方向である。ここでは、この溶接装置2は、そのX軸方向が弁箱104の流路方向に一致し、Z軸方向が弁箱104の上下方向と一致するように取り付けられている。弁箱104の流路方向とは、
図10に示す弁座114の中心軸XCL方向である。
【0022】
上記取付ベース4は、平板状の部材でり、弁箱104の上端フランジ114にボルト止めされる。本実施形態では、この取付ベース4に、Y軸移動機構16が取り付けられている。Y軸移動機構16は、取付ベース4の上面に固定されたY軸基部24と、このY軸基部24上をY軸方向に往復動可能に設けられたY軸移動部26とを備えている。このY軸移動部26には、X軸移動機構14が取り付けられている。このX軸移動機構14は、Y軸移動部26の上面に固定されたX軸基部20と、このX軸基部20上をX軸方向に往復動可能に設けられたX軸移動部22とを備えている。このX軸移動部22には、Z軸移動機構18が取り付けられている。このZ軸移動機構18は、X軸移動部22の側面に固定されたZ軸基部28と、このZ軸基部28上をZ軸方向に往復動可能に設けられたZ軸移動部30とを備えている。Y軸移動機構16は、取付ベース4に取り付けられているので第一移動機構とも呼ぶ。X軸移動機構14は、この第一移動機構たるY軸移動機構16に取り付けられているので第二移動機構とも呼ぶ。Z軸移動機構18は、この第二移動機構たるX軸移動機構14に取り付けられているので第三移動機構とも呼ぶ。X軸、Y軸、Z軸のいずれの移動機構14、16、18を第一移動機構、第二移動機構、第三移動機構にしてもよい。しかし、溶接装置をコンパクトな形態で対象弁に納めるためには、Z軸移動機構18を第三移動機構とするのが好ましい。このように、X軸移動機構14、Y軸移動機構16及びZ軸移動機構18は、寸法は異なるが、それぞれ基部と移動部とを備えた同様の基本構成を有している。後述するトーチウイービング機構(以下、単にウイービング機構という)72、トーチ上下駆動機構74及びワイヤ前後上下機構76も、同様に、基部と移動部とを含む構成を有している。移動部は、スライドプレートとも呼ばれる。トーチ82の先端は、ここではタングステン電極である。
【0023】
上記各基部20、24、28に対する上記各移動部22、26、30の取付機構としては、ラック&ピニオン、送りネジ機構等が採用されうる。本実施形態では、X軸移動機構14、Y軸移動機構16及びZ軸移動機構18のいずれにも、ボールねじを用いた送りネジ機構が採用されている。この機構は、
図5を参照しつつ以下に説明される。
【0024】
図5には、本溶接装置2における全移動機構を代表して、Y軸移動機構16が示されている。他の移動機構も、この移動機構16と略同等の構成を有している。このY軸移動機構16は、前述の取付ベース4に固定するための固定プレート32と、固定プレート32の上面に設置されたボックス34と、ボックス34の上面に設置されたレール板36と、このレール板36に直線移動可能に係合された移動部(スライドプレート)26と、ボックス34内に収容されて、移動部26を移動させる駆動部38とを有している。ここで、固定プレート32、ボックス34、レール板36及び駆動部38が、Y軸基部24に相当する。
【0025】
上記駆動部38は、エンコーダ40が接続された駆動用モータ42と、この駆動用モータ42によって駆動される送りネジ機構44とを有している。送りネジ機構44は、ボールねじ46と、ボールねじ46の回転を直線駆動力として移動部26に伝達する駆動固定部48とを有している。駆動固定部48は、図示しない雌ねじ部が回転不能な状態でボールねじ46に螺合しており、その先端は移動部26に固定されている。駆動部38はさらに、駆動用モータ42からボールねじ46に回転力を伝達するタイミングベルト50と、ボールねじ46の回転データを記録するポテンショメータ52と、ボールねじ46の回転をポテンショメータ52に伝達する歯車機構54とを有している。溶接ヘッド回転機構10のモータにもエンコーダ及びポテンショメータが付設されており、ウイービング機構72及びトーチ上下駆動機構74の各モータにはエンコーダが付設されている。
【0026】
Z軸移動部30の上部には、ワイヤ送給機構12が取り付けられており、Z軸移動部30の下部には溶接ヘッド回転機構10が取り付けられている。溶接ヘッド回転機構10とワイヤ送給機構12とは、Z軸移動機構18によって一体で上下動させられる。まず溶接ヘッド回転機構10について説明し、ワイヤ送給機構12については後述する。
【0027】
図6には、溶接ヘッド回転機構10が示されている。溶接ヘッド回転機構10は、溶接ヘッド8をX軸回りに回転させる機構である。溶接ヘッド回転機構10の下端には、TIG溶接を実行する溶接ヘッド8が取り付けられる(
図1及び
図3参照)。溶接ヘッド回転機構10は、その上端に配置された駆動用モータ56と、この駆動用モータ56の回転軸方向及び回転数を変更する、係合し合った一対の傘歯車58と、係合し合った一対のアイドラーギア60、62と、傘歯車58の回転を上側のアイドラーギア60に伝達するタイミングベルト64と、下側のアイドラーギア62に係合した出力用駆動ギア66と、これらを収容する本体ケース68とを有している。上記出力用駆動ギア66の回転軸が、X軸とされている。出力用駆動ギア66には、後述するウイービング機構72が接続されるための固定用プレート70が設けられている。
【0028】
図1、
図3及び
図4に示されるように、溶接ヘッド8は、ウイービング機構72と、トーチ上下駆動機構74と、ワイヤ前後上下機構76と、ワイヤ挿入機構及びアークモニタ機構78と、トーチ82を保持した溶接トーチ機構80とを備えている。上記ウイービング機構72は、溶接ヘッド回転機構10の出力用駆動ギア66の一部である固定用プレート70(
図6参照)に取り付けられている。従って、ウイービング機構72は、出力用駆動ギア66(
図6参照)により、X軸回りに回転させられる。後述するように、ウイービング機構72には、トーチ上下駆動機構74と、ワイヤ前後上下機構76と、ワイヤ挿入機構及びアークモニタ機構78と、溶接トーチ機構80とが連結されているので、これらが一体で出力用駆動ギア66によってX軸回りに回転させられる。
【0029】
ウイービング機構72は、トーチ82をウイービングさせる機構である。トーチ82をウイービングさせるとは、トーチ82を、溶接方向に垂直な方向に往復動させることである。本実施形態では、ウイービング機構72は、その移動部73をX軸方向に往復動させる。ウイービング機構72の移動部73には、トーチ上下駆動機構74が取り付けられている。従って、トーチ上下駆動機構74は、ウイービング機構72により、X軸方向に往復動させられる。
【0030】
トーチ上下駆動機構74の移動部75には、溶接トーチ機構80が取り付けられている。トーチ上下駆動機構74は、溶接トーチ機構80をX軸に垂直な方向(X軸を中心とする円の半径方向)に往復動させる機構である。一例として、トーチ82の長手方向がZ軸方向(上下方向)に向けられているときには、溶接トーチ機構80は、トーチ上下駆動機構74によってZ軸方向(上下方向)に往復動させられる。溶接トーチ機構80には、ワイヤ前後上下機構76が取り付けられ、このワイヤ前後上下機構76の図示しない移動部には、ワイヤ挿入機構及びアークモニタ機構78が付けられている。従って、ワイヤ前後上下機構76、ワイヤ挿入機構及びアークモニタ機構78も、トーチ上下駆動機構74により、溶接トーチ機構80と一体でX軸に垂直な方向に往復動させられる。
【0031】
ワイヤ前後上下機構76は、その移動部に接続されたワイヤ挿入機構及びアークモニタ機構78を、X軸方向(前後方向)、及び、X軸に垂直な方向に移動させる。一例として、トーチ82の長手方向がZ軸方向(上下方向)に向けられているときには、ワイヤ挿入機構及びアークモニタ機構78は、ワイヤ前後上下機構76によってX軸方向、及び、Z軸方向(上下方向)に往復動させられる。
【0032】
ワイヤ挿入機構とアークモニタ機構とは一体化されている。具体的には、ワイヤ挿入機構78内に、アークの状態を監視するカメラ(図示せず)が内蔵されている。このカメラは、トーチ82の先端とフィラーワイヤの先端とを撮影している。また、ワイヤ挿入機構78は、ワイヤ送給機構12から送られて来るフィラーワイヤを、ガイド用のパイプ等によってトーチ82の先端に案内する。このトーチ82には、溶接動作のための図示しない溶接用電源と、開先内面等の当接物及び近接物を検知するための図示しない検知用電源とが接続されている。
【0033】
ワイヤ送給機構12は、フィラーワイヤ91を巻いて収納するワイヤリール86と、このワイヤリール86からフィラーワイヤ91を引き出して溶接ヘッド8のワイヤ挿入機構78に送り込む引き出し機構88と、モータ90とを備えている。引き出し機構88は、モータ90によって回転させられる図示しない一対のローラによってフィラーワイヤ91を挟持した状態で引き出す。引き出し機構88とワイヤ挿入機構78との間には、フィラーワイヤ91をその中に通して案内する柔軟なチューブ92が掛け渡されている(
図1及び
図3参照)。
【0034】
図7に示されるように、この溶接装置2には制御装置93が備えられている。この制御装置93には、制御盤94、中間ボックス96及び操作盤98が含まれている。操作盤98にはタッチパネル等が含まれる。中間ボックス96又は操作盤98には、モニタ画面等が含まれる。この制御装置93は、各移動機構及び検知機構の動作等を制御する。この検知機構は、主にセンサとしてのトーチ82に接続されたものである。
【0035】
この制御装置93は、X軸移動機構14、Y軸移動機構16及びZ軸移動機構18による溶接ヘッド8(ウイービング機構72と、トーチ上下駆動機構74と、ワイヤ挿入機構及びアークモニタ機構78と、溶接トーチ機構80とを含む、)の位置決め動作を制御する。また、溶接ヘッド回転機構10による溶接ヘッド8の位置決め動作を制御する。さらに、トーチ上下駆動機構74による溶接トーチ機構80の位置決め動作を制御する。溶接トーチ機構80のトーチ82による開先検知時の接触検知制御を行う。この開先検知は、内径検知ともいう。開先が、弁座及び弁箱の内面に、円周方向に形成されているからである。選択された溶接条件に基づいて、溶接ヘッド8による溶接施工を制御する。
【0036】
以上の構成により、この溶接装置2は、そのトーチ82及びフィラーワイヤを、X軸回りに回転させ、X軸方向及びX軸に垂直な方向に往復動させることができる。この溶接装置2が、そのX軸が弁座118の中心軸XCLと一致するように対象弁箱104に設置されると、そのトーチ82及びフィラーワイヤは、弁座118の中心軸XCL回りに回転可能となる。また、この中心軸XCL方向、及び、この中心軸XCLに垂直な方向に往復動可能となる。この動作により、溶接装置2は、弁箱104と弁座118との溶接用開先119の検出、及び、この開先119における溶接を行うことが可能となる。開先119の検出には、トーチ82がセンサとして機能する。
【0037】
以下に、溶接装置2に対する前準備、及び、溶接装置2の弁箱104への設置について説明がなされる。溶接装置2を弁箱104へ設置する前に、段取り作業として、以下の作業が成される。予め、溶接ヘッド8におけるトーチ(タングステン電極)82とフィラーワイヤとの位置調整がなされる。具体的には、ワイヤ前後上下機構76を動作させることにより、トーチ82の先端位置に、ワイヤ挿入機構78から送出されたフィラーワイヤを対応させる。
【0038】
弁箱104へ弁座118を溶接するための溶接条件が、操作盤98のタッチパネルの画面に入力される。溶接条件として、溶接ビード層に応じた電流値、フィラーワイヤの送り速度等の複数種類の溶接条件が制御装置93内のCPUに入力される。また、
図9に示すTIG溶接の初層から最終層201、202、203、204、205までの各ビード層の厚さもCPUに入力される。
【0039】
また、溶接対象弁に関する設計データ及び寸法測定データ等から得られる当該弁の弁箱内部の各部寸法が、操作盤98のタッチパネルの画面に、初期データとして入力される。この入力は、溶接装置2の弁箱104への設置後に行うこともできる。初期データとは、
図10に示すように、上端フランジ114の中心を通って鉛直下方に延びる線である弁箱中心軸ZCL、弁箱中心軸ZCLと弁座中心軸XCLとの交点である弁箱中心O、弁箱104の上端フランジ114の上面から弁座中心軸XCLまでの鉛直方向距離である弁座中心深さDL、弁座内径DS、開先深さ、弁箱中心Oから開先中心までのX軸方向距離等である。この初期データは、前述の溶接条件とともに、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)のメモリに記憶される。
【0040】
なお、溶接装置2が対象弁の弁箱104に設置されて位置合わせがなされる前のトーチ82の位置は、原点位置(基準位置)とされる。位置合わせが行われてこの対象弁に対する溶接動作が終了する毎に、トーチ82は原点復帰しうる。ある弁の溶接が終了した後、次の弁に溶接装置2が設置される前に、トーチ82は自動的に原点復帰される。原点位置は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向において、トーチ82の±移動ストロークの初期位置(中間位置)とすることが可能である。つまり、各移動ストロークの±0の位置を、原点位置とすることが可能である。X軸方向では、弁箱104のZ軸方向中心軸ZCL上を原点位置とすることも可能である。
【0041】
次に、
図1から
図3に示すように、溶接装置2が弁箱104に設置される。具体的には、溶接ヘッド8及び溶接ヘッド回転機構10が、弁箱104内に収まるように、溶接装置2の取付ベース4が、弁箱104上端のフランジ114に図示しないボルトによって固定される。溶接装置2は、そのX軸方向が弁箱104の流路方向(弁座114の中心軸XCL方向)に一致し、Z軸方向が弁箱104の上下方向と一致するように取り付けられる。そうすると、トーチ82の先端位置の、弁箱104内における位置(弁箱内面に対する相対位置)が確定され、制御装置93に読み込まれる。
【0042】
次いで、Y軸移動機構16及びZ軸移動機構18が、トーチ82の回転軸(溶接ヘッド8の回転軸)を弁座中心軸XCLに一致させるように、溶接ヘッド8及び溶接ヘッド回転機構10をY方向及びZ方向に移動させる。トーチ82の回転軸とは、すなわちX軸である。トーチ82の回転軸(X軸)が弁座中心軸ZCLに一致したときのトーチ82の位置が、トーチ82の初期設定位置である。溶接ヘッド8は、少なくとも溶接ヘッド8の回転軸(X軸)が弁座中心軸XCLに一致しているときには、弁座118に干渉することなく挿入されうるような形状寸法にされている。
【0043】
次いで、開先119の開先底及び開先中心の検出を行う開先検出動作が開始される。この開先検出においては、トーチ82が開先検知センサとして用いられ、このトーチ82が開先内面に接触することにより、検出がなされる。この検出法は、接触式の検出法と言える。実際は、後述するように、トーチ82が対象物に近接することにより、この近接物が検知される。図示しないが、トーチ82には、開先内面を検知するために、溶接用電源とは別の検知用電源、及び、電圧検出器を含んだ接触検知回路が接続されている。
【0044】
図8(a)に示すように、まず、X軸移動機構14が、溶接トーチ機構80を、弁箱104及び弁座118の開先中心位置まで、X軸方向(弁座の中心軸XCL方向)に移動させる。この段階での開先中心位置は、初期データから得られる開先中心位置である。また、開先中心とは、開先のX軸方向の中心位置のことである。
【0045】
次に、センサとしてのトーチが、開先119を検出すべく動作する。開先検出は、弁座118の内周の90°間隔位置(0°、90°、180°、270°)のそれぞれにおいて実行される。ここでは、0°位置が鉛直(Z軸)下方、180°位置が鉛直(Z軸)上方、90°位置が水平(Y軸)左方、270°位置が水平(Y軸)右方としている。内周の基準位置(0°)をどの方向にするかは、特に限定されない。
【0046】
次に、
図8(a)に示すように、トーチ上下駆動機構74が、初期データの開先中心に在るトーチ82を開先の底に向けて移動させる。具体的には、溶接トーチ機構80が、弁座半径方向外方に移動させられる。例えば、0°位置であれば鉛直下方(Z軸下方)に移動させられる。これにより、トーチ82は、開先内を開先底に向かって移動する。トーチ82が開先底への接触したことは、上記電圧検出器によって検知される。実際には、接触というより、以下の通り近接である。電圧検出器がトーチ82の先端と開先119の内面との間の電圧を測定している。トーチ82の先端が開先底に所定の極少距離まで接近すると、微量な電圧値が測定される。この電圧検知により、トーチ上下駆動機構74のモータが停止してトーチ82の移動が停止する。これにより、その開先底の半径方向位置が検知される。半径方向位置とは、X軸を中心とする円の半径方向である。前述のとおり、このX軸は、弁座中心軸XCLと一致させられている。3軸位置合わせ機構6のみならず、前述のとおり、溶接ヘッド回転機構10のモータにもエンコーダ及びポテンショメータが付設されており、ウイービング機構72及びトーチ上下駆動機構74の各モータにはエンコーダが付設されている。エンコーダのパルス数と、ポテンショメータの電圧値が、制御装置93内の高速カウンタに読み込まれ、その値が距離数及び回転角度に変換され、開先底の位置データとして制御装置93内のCPUに記憶される。以下、同様である。
【0047】
次いで、真の開先中心位置を検出する。
図8(b)に示すように、トーチ上下駆動機構74が、トーチ82を、初期データの開先中心における真の開先底から、半径方向内方に移動させる。すなわち、トーチ82の先端を、開先底から離間する方向に移動させる。このとき、トーチ82の先端を開先119から脱出させることはしない。トーチ82の先端を、開先底から開先深さより短い距離だけ移動させる。
【0048】
次いで、
図8(c)に示すように、X軸移動機構14が、トーチ82を、半径方向位置(図中の上下方向位置)を維持しつつ、X軸方向の一方(例えば前方)へ所定寸法(例えば0.2mm)ピッチで移動させる。トーチ82の先端が開先内周面に接触する(所定の極少離間距離まで接近する)と、その開先内周面のX軸方向一方端位置が検知され、トーチ82の移動が停止する。このトーチの先端位置が記憶される。次いで、X軸移動機構14が、トーチ82を、半径方向位置を維持しつつ、X軸方向の他方(例えば後方)へ所定寸法(例えば0.2mm)ピッチで移動させる。トーチ82の先端が開先内周面に接触する(所定の極少離間距離まで接近する)と、その開先内周面のX軸方向の他方端位置が検出され、トーチ82の移動が停止する。このトーチ82の先端位置が記憶される。そして、真の開先中心位置が検出される。検出された開先内周面のX軸方向一方端位置と他方端位置との中間位置が、真の開先中心位置(開先のX軸方向中心位置)として記録される。この中間位置は、弁箱中心Oを原点(基準点)とした位置である。
【0049】
前述した開先中心位置の検出において、トーチ82が、X軸を中心とする円の半径方向に移動する。このトーチ82を移動させるために、トーチ上下駆動機構74のみならず、Y軸移動機構及びZ軸移動機構6が並行して動作することがある。それは、例えば、トーチ上下駆動機構74の駆動のみでは、トーチ82を必要距離移動させることが困難な場合である。必要な半径方向移動距離が大きいときとは、例えば、対象弁の口径が大きい場合である。弁座118内の下方と上方、すなわち、0°及び180°の方向に対しては、トーチ上下駆動機構74と主にZ軸移動機構18とが協働する。弁座118内の左方と右方、すなわち、90°と270°との方向に対しては、トーチ上下機構74と主にY軸移動機構16とが協働する。
【0050】
次に、残りの3つの角度位置(90°、180°、270°)それぞれにおいて、上記0°位置で行われたのと同じ開先中心位置検出動作が順次繰り返される。
図8(b)に示すトーチ82の半径方向内方移動距離は、4つの全ての角度位置において同一である。まず、0°位置で開先中心位置を検出し終わったトーチ82を、トーチ上下駆動機構74と主にZ軸移動機構18とが、半径方向内方に所定距離だけ移動させて、トーチ82の先端を開先外へ出す。次いで、溶接ヘッド回転機構10が、溶接ヘッド8を90°回転させて、トーチ82を90°の角度位置に移動させる。その状態から、前述した0°の角度位置で行われた開先中心位置検出動作と同じ動作が順次繰り返される。同様にして、180°位置及び270°位置それぞれにおいて、この開先中心位置検出動作が順次繰り返される。そして、開先底位置(半径方向位置、Z軸方向位置及びY軸方向位置)及び開先中心位置(X軸方向位置)が演算され、記憶される。
【0051】
以上から、周方向の4点における開先底の3次元位置が特定され、記憶される。換言すれば、開先底がなす円の直交する2直径の位置及び長さが特定される。
【0052】
特定された4点の開先底位置(0°、90°、180°、270°)は真円上に無い場合がある。その場合には、補正することにより、溶接線としての円が特定される。例えば、90°離間して隣接する2点を結ぶ円弧を形成するために、その円弧の中心点をX軸(溶接ヘッド8の回転軸)上から変位させることができる。すなわち、円弧補完である。円弧補完を簡潔に言うと、溶接時に、トーチ82が、検出角度位置(0°、90°、180°、270°)で検出した4つの開先底の位置を通るように、円弧を描いて移動させられることである。
【0053】
以上のごとくして測定された各角度位置(0°、90°、180°、270°)における開先の位置データが、制御装置93内のCPUにデータベースとしてファイル化されている。また、溶接位置に応じた電流値やフィラーワイヤの送り速度等の溶接条件がファイル化されている。
図9に例示される5層のビード層からなるTIG溶接の場合、初層(第1層)201から最終層(第5層)205までの、各電流値、各フィラーワイヤの送り速度等がファイル化されている。
【0054】
上記開先の位置データに基づいた開先倣いにより、上記溶接条件が自動的に選択されつつ、弁座118の弁箱104への自動溶接が施工される。ここで言う開先倣いとは、4つの角度位置で検出した開先底及び開先中心の位置データをフィードバックして溶接施工されることである。例えば、ストレート(ウイービング無し)溶接が施工される場合では、開先検出によって得られたデータが選択され、開先中心位置に沿ってトーチが移動するように溶接ヘッド回転機構10が動作させられる倣い機能が使用される。
【0055】
開先底の半径方向の位置(内径データ)に、各ビード層の半径方向の層厚さが加算されていくことにより、各ビード層の半径方向位置が定まる。換言すれば、開先底の半径方向の位置から、あるビード層の開先底からの高さを減ずれば、当該ビード層の半径方向の位置となる。
【0056】
また、
図9に例示される溶接位置に応じて、初層から最終層201、202、203、204、205までの溶接条件が適宜選択される。溶接条件として、各ビード層に応じた電流値やフィラーワイヤの送り速度等の条件が選択される。例えば、
図9における初層201には第1条件が選択され、電流200A、ワイヤ送り速度50cm/分で溶接される。例えば最終層205には第5条件が選択され、電流180A、ワイヤ送り速度80cm/分で溶接される。
【0057】
一方、ウイービング溶接は、トーチ上下駆動機構74のエンコーダによる位置データのフィードバックにより、アーク倣い機能が用いられて施工されうる。このウイービング溶接は、トーチ82が、溶接方向に移動しつつ、溶接方向に垂直な方向に変位しながらなされる溶接である。ウイービング溶接は、ウイービング機構72及び/又はX軸移動機構6が動作することにより、施工可能である。ウイービング溶接により、ビード幅が広がる。アーク倣い機能とは、以下の機能である。トーチ82先端の電極が開先119の内面に近接すると、電極と開先内面との間のアーク電圧の変化に対し、AVC(Arc Voltage Control)機能が反応してトーチ82が上下動する。つまり、トーチ上下駆動機構74が動作する。このトーチ上下駆動機構74のエンコーダによる位置データのフィードバックにより、トーチ82が、上記アーク電圧の変化の前のトーチ位置に戻る。