【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年5月20日 2017年度日本海水学会第68年会研究技術発表会講演要旨集、同年6月1日 同技術発表会(京都市国際交流会館)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リン系酸化防止剤を含みフェノール系酸化防止剤を実質的に含まない高分子基材に電離放射線を照射して、前記高分子基材からラジカルを発生させた後、前記高分子基材とラジカル重合性単量体を含む溶液とを接触させて、前記ラジカル重合性単量体に基づくグラフト鎖を前記高分子基材に導入することを特徴とする、グラフト鎖付き高分子基材の製造方法。
前記ポリオレフィンが、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、および、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」の総称である。
【0010】
本発明のグラフト鎖付き高分子基材の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)は、リン系酸化防止剤を含みフェノール系酸化防止剤を実質的に含まない高分子基材(以下、「特定高分子基材」ともいう。」)に電離放射線を照射して、特定高分子基材からラジカルを発生させた後、特定高分子基材とラジカル重合性単量体を含む溶液(以下、「重合液」ともいう。)とを接触させて、ラジカル重合性単量体に基づくグラフト鎖を特定高分子基材に導入する。
【0011】
本製造方法によれば、グラフト重合率に優れたグラフト鎖付き特定高分子基材が得られる。この理由は、概ね以下の理由によると推測される。
特許文献1および2に記載の高分子基材にグラフト鎖を導入する方法は、ラジカル開始剤などを使用する重合法と比較して、高分子基材から発生するラジカル量がラジカル重合性単量体に対して少ないため、ラジカル重合性単量体の利用効率が低い傾向にある。そのため、上記方法を工業的に利用するためには、例えば重合液を繰り返し使用する必要がある。
ここで、高分子基材(特にポリオレフィンを用いて得られる基材)には、その製造時における高分子材料の酸化劣化を抑制するために、酸化防止剤が含まれる場合が多い。重合液を繰り返し使用した場合、高分子基材に含まれる酸化防止剤が溶液中に溶出する。酸化防止剤の中でもフェノール系酸化防止剤は、ラジカルを失活させる機能をもつ。そのため、フェノール系酸化防止剤が、高分子基材から発生したラジカルを失活させて、グラフト鎖付き高分子基材のグラフト重合率を低下させたと推測される。
この問題に対して、リン系酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤とは異なる作用機構により高分子材料の酸化劣化を抑制するので、高分子基材から発生するラジカルを失活させにくい。そのため、特定高分子基材を用いる本製造方法によれば、グラフト重合率に優れたグラフト鎖付き特定高分子基材が得られたと考えられる。
特に、ラジカル重合性単量体としてスチレンまたはスチレン誘導体を用いた場合、重合時に生成するスチレンラジカルがフェノール系酸化防止剤の影響を受けやすい傾向にある。そのため、本製造方法を適用すれば、本発明の効果がより顕著に発揮される。
なお、グラフト重合率とは、後段で詳述するが、グラフト重合前の高分子基材の質量に対する、グラフト鎖の質量の割合を表す。
【0012】
本製造方法では、まず、特定高分子基材に電離放射線を照射して、特定高分子基材からラジカルを発生させる。
特定高分子基材を構成する材料は、ポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンは、耐薬品性に優れるので、後述するイオン交換膜用途に好適である。また、ポリオレフィンは、その製造時または成形時に熱の影響を受けやすいので、酸化防止剤を必要とする。そのため、ポリオレフィンを構成材料とする特定高分子基材は、本製造方法に好適に使用できる。
ポリオレフィンの具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体の水添物、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレンが挙げられる。
これらのポリオレフィンの中でも、フィルム状の形態に成形しやすい観点から、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、および、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。ポリオレフィンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、低密度ポリエチレンとは、密度(g/cm
3)が0.910以上0.930未満のポリエチレンであり、中密度ポリエチレンとは、密度(g/cm
3)が0.930以上0.942未満のポリエチレンであり、高密度ポリエチレンとは、密度(g/cm
3)が0.942以上のポリエチレンである。
特定高分子基材の形態の具体例としては、フィルム、不織布が挙げられる。特にグラフト鎖がイオン交換基を有する高分子基材をイオン交換膜として使用する場合等のように、イオン交換基の耐熱性の観点で熱成形が難しく、最初からフィルム(膜)状になっているのが好ましい用途では、フィルムが好ましい。
フィルムの膜厚は、グラフト重合の効率がより向上する観点から、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。フィルムの膜厚の下限値は、特に制限されるものではないが、通常フィルムの成形のしやすさの観点から30μmである。
【0013】
電離放射線の具体例としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線が挙げられ、高分子基材を均質に活性化できる観点から、電子線が好ましい。
本製造方法においては、電離放射線として電子線を用い、かつ、フィルム状の特定高分子基材(すなわち、特定高分子基材の形態がフィルム)を用いるのが好ましい。この場合、搬送されるフィルム状の特定高分子基材に対して、電子線を連続的に照射できる。この方法によれば、大量の特定高分子基材に対して電離放射線を照射する場合であっても、特定高分子基材を均質に活性化できるので、工業上の生産性に優れる。
図1は、本発明の製造方法における電離放射線を照射する工程の一例を模式的に示す説明図である。上記「電子線を連続的に照射する」手順について、
図1を用いて具体的に説明する。まず、ロール12に巻き取られたフィルム状の特定高分子基材10を搬送方向Aに向って巻き出して、電子線照射装置20が設置された電子線照射位置に特定高分子基材10を搬送する。次いで、電子線照射位置の特定高分子基材10に対して電子線22を照射した後、搬送方向Aに向って特定高分子基材10を搬送して、電子線22を照射した後の特定高分子基材10をロール14で巻き取る。このようにして、フィルム状の特定高分子基材10に対して、電子線22が連続的に照射される。
【0014】
特定高分子基材に対する電離放射線の線量は、特定高分子基材の活性化の観点から、10〜1000kGyが好ましく30〜500kGyがより好ましく、50〜200kGyがさらに好ましい。
電離放射線は、1回の照射で所望の線量になるように照射してもよいし(連続照射)、合計線量が所望の線量になるように複数回に分けて照射してもよい(断続照射)。特に、80kGy以上の線量が必要な場合、電子線の連続照射を実施すると、特定高分子基材が発熱して、照射により発生したラジカルが失活または架橋等の副反応を起こし、目標とする重合体が得られにくい場合がある。また、フィルム状の特定高分子基材に対して電子線の連続照射を実施すると、熱によってフィルムが変形する場合がある(例えば、フィルムの伸長など)。このような問題に対して、断続照射を実施すれば、未照射の間に特定高分子基材が冷却するので、特定高分子基材が熱で変質するのを抑制できる。特に、特定高分子基材を構成する材料がポリエチレンである場合、熱による機械強度の変化が大きいため、断続照射を実施するのが好ましい。
断続照射における特定高分子基材の冷却は、特定高分子基材を構成する材料の軟化点未満になるまで実施されるのが好ましい。
【0015】
断続照射の方法の具体例について、
図1を用いて説明する。まず、搬送方向Aに向って搬送された特定高分子基材10の特定箇所に電子線22を照射した後(1回目の照射)、特定高分子基材10の特定箇所を含む部分をロール14に巻き取る。ロール14に巻き取られた特定高分子基材10の特定箇所が十分に冷却した後、特定高分子基材10を搬送方向Aの反対方向に巻き出して、再度、電子線照射位置に特定高分子基材10を搬送して、特定高分子基材10の特定箇所に電子線22を照射した後(2回目の照射)、特定高分子基材10の特定箇所を含む部分をロール12に巻き取る。このようにして、特定高分子基材10に電子線の照射を2回実施できる。
なお、3回以上の照射が必要な場合には、所望の回数で照射されるように、上記動作を実行すればよい。
【0016】
本製造方法は、フェノール系酸化防止剤を実質的に含まず、リン系酸化防止剤を含む系にて、特定高分子基材を製造する工程を有していてもよい。
特定高分子基材がフィルムである場合、特定高分子基材を製造する方法の具体例としては、高分子材料(上述したポリオレフィン等)を準備して、高分子材料を含むフィルム形成用材料を調製した後、フィルム形成用材料をシート状(フィルム状)に成形する方法が挙げられる。この場合、高分子材料自体の製造時、フィルム形成用材料の調製時およびフィルム成形時に、フェノール系酸化防止剤を添加せずに、高分子材料の製造時、フィルム形成用材料の調製時およびフィルム成形時の少なくとも1つのタイミングで、リン系酸化防止剤を添加すれば、特定高分子基材が得られる。
フィルム形成用材料をシート状に成形する方法の具体例としては、例えば、インフレーション法、Tダイ法、カレンダー法が挙げられる。
【0017】
特定高分子基材は、リン系酸化防止剤を含む。
リン系酸化防止剤の具体例としては、トリフェニルホスファイト、フェニルイソデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製の商品名「Irgafos 168」、ADEKA社製の商品名「アデカスタブ 2112」として入手可能)が挙げられる。
特定高分子基材中のリン系酸化防止剤の含有量は、通常、特定高分子基材の全質量に対して、10〜5000質量ppmである。
【0018】
特定高分子基材は、フェノール系酸化防止剤を実質的に含まない。
フェノール系酸化防止剤とは、フェノール構造を有し、酸化防止能を有する化合物であれば特に限定されない。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジイソプロピルフェニル)プロピオン酸オクチル(BASF社製の商品名「Irganox 1135」として入手可能)、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(BASF社製の商品名「Irganox 1076」として入手可能)、テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール(BASF社製の商品名「Irganox 1010」として入手可能)が挙げられる。
本発明において、「特定高分子基材がフェノール系酸化防止剤を実質的に含まない」とは、具体的には、フェノール系酸化防止剤の含有量が、特定高分子基材の全質量に対して、10質量ppm未満であるのを意味し、0質量ppmが好ましい。
【0019】
本製造方法は、特定高分子基材と重合液とを接触させて、ラジカル重合性単量体に基づくグラフト鎖を特定高分子基材に導入する。
具体的には、特定高分子基材と重合液との接触により、ラジカル重合性単量体が重合して、特定高分子基材にグラフト鎖が導入される。
【0020】
ラジカル重合性単量体は、ラジカル重合性基(例えば、エチレン性二重結合基)を有する単量体を意味する。
ラジカル重合性単量体は、グラフト鎖にイオン交換基を導入するのが容易になって、特定高分子基材をイオン交換膜として使用できる観点から、イオン交換基を導入し得る基(例えば、芳香族基)を有するのが好ましい。
【0021】
ラジカル重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸およびその誘導体(例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル)、スチレンおよびスチレン誘導体(例えば、スチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、クロロスチレン、下式(1)で示される化合物、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン)、および、ビニルエステル(例えば、アクリロニトリル、ブタジエン、酢酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル)が挙げられる。
これらの中でも、スチレンおよびスチレン誘導体が好ましく、スチレン、p−クロロメチルスチレン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、および、下式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の単量体がより好ましい。スチレンおよびスチレン誘導体は、フェノール系酸化防止剤の影響を受けやすいため、本製造方法の効果がより顕著に発揮されるので好ましい。また、スチレンおよびスチレン誘導体は、イオン交換基を導入し得る基を有するため、イオン交換基(後述)を導入して得られるイオン交換膜の製造に適している観点からも好ましい。
イオン交換基を導入し得る基の具体例としては、芳香族基が挙げられる。
ラジカル重合性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
式中の記号は、以下の意味を示す。
R
1は、炭素数1〜6の2価の炭化水素基またはエーテル性酸素原子を含む炭素数1〜6の2価の炭化水素基である。炭化水素基は、飽和炭化水素基であっても、不飽和炭化水素基であってもよい。また、炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよく、これらを組み合わせた基であってもよい。
Xは、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)を表す。
式(1)で表される化合物の具体例としては、p−クロロメチルスチレンが挙げられる。
【0024】
ラジカル重合性単量体の含有量は、重合液の全質量に対して、10〜70質量%が好ましく、25〜50質量%がより好ましい。
【0025】
重合液は、溶媒を含むのが好ましい。溶媒は、ラジカル重合性単量体を均一に溶解できる溶媒(例えば有機溶媒)や、ラジカル重合性単量体を懸濁または乳化させて分散できる溶媒(例えば水)でもよい。これらの中でも、ラジカル重合性単量体を特定高分子基材に均一に接触できる観点から、ラジカル重合性単量体を溶解できる溶媒が好ましく、有機溶媒がより好ましい。
有機溶媒の具体例としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼンおよびジクロロベンゼン等の含塩素溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびテトラロン等のケトン溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸メチル、乳酸メチルおよび乳酸エチル等のエステル溶剤、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサンおよびデカン等の炭化水素溶剤、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルおよびエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテルおよびエチレングリコールモノアセテート等のアルコール溶剤、ならびに、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンおよびドデシルベンゼン等の芳香族溶剤が挙げられる。
溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
溶媒の含有量は、重合液の全質量に対して、30〜90質量%が好ましく、25〜50質量%がより好ましい。
【0026】
特定高分子基材と重合液とを接触させる方法の具体例としては、塗布法、浸漬法(例えば、フィルムを所定時間継続的に浸漬する方法や、フィルムを搬送しながら連続的に薬液中を通すなど断続的に浸漬する方法)が挙げられ、グラフト鎖を特定高分子基材に均質に導入できる観点から、浸漬法が好ましい。
上記接触時の温度(すなわち重合温度)は、20〜80℃が好ましく、25〜60℃がより好ましく、30〜50℃が特に好ましい。
【0027】
本製造方法では、グラフト鎖を特定高分子基材に導入した後、グラフト鎖にイオン交換基を導入するのが好ましい。これにより、本製造方法によって得られるグラフト鎖付き特定高分子基材が、イオン交換膜として使用できる。
イオン交換基の導入方法の具体例としては、以下に示すカチオン交換基の導入方法およびアニオン交換基の導入方法が挙げられる。
カチオン交換基の導入方法の具体例としては、クロロスルホン酸をジクロロメタン、ジクロロエタンまたはジクロロベンゼン等の溶媒に溶解させた溶液、無水硫酸および/またはクロロスルホン酸を濃硫酸に溶解させた溶液、または、濃硫酸と、特定高分子基材(例えば、スチレンに基づく繰り返し単位を有するグラフト鎖を有する特定高分子基材)とを接触(例えば、浸漬)させて、グラフト鎖にスルホン酸基を導入する方法が挙げられる。これらの方法における温度としては、限定されないが、濃硫酸と接触させる方法では、例えば40℃〜80℃の範囲で濃硫酸を加熱するのが好ましい。
アニオン交換基の導入方法の具体例としては、クロロメチルスチレンもしくは上記式(1)で表される化合物を重合して得られるグラフト鎖中のハロゲン化アルキル基と、弱塩基性イオン交換基を導入可能な化合物(例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン)、もしくは、強塩基性イオン交換基を導入可能な化合物(例えば、トリメチルアミン、ジメチルアミンエタノール、トリエタノールアミン)と、を反応させて、グラフト鎖に弱塩基性イオン交換基または強塩基性イオン交換基を導入する方法が挙げられる。
また、重合性単量体がピリジン環を有する場合、そのまま使用してもアニオン交換基を導入できるし、プロトンを有する酸によりプロトン酸塩化する方法、アルキル化剤によりピリジン環を4級化する方法等によって、アニオン交換基を導入できる。なお、プロトンを有する酸の具体例としては、硫酸、塩酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、リン酸が挙げられる。また、アルキル化剤の具体例としては、ヨウ化メチル、臭化メチル、塩化メチル、硫酸ジメチル、臭化エチル、臭化ブチルが挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0029】
[フィルム中の酸化防止剤の分析]
以下の表1に示すフィルムA〜Cを準備して、各フィルムを40℃のアセトン中で24時間浸漬後、アセトンを回収して濃縮した後、GC/MS分析法にて、アセトン中に溶出した酸化防止剤の定性および定量分析を実施した。
分析結果を表1に示す。なお、表1中の各フィルムおよび各酸化防止剤の概要は以下の通りである。また、表1中における数値は、1gのフィルムから検出された各酸化防止剤の量(mg/g)を意味する。
フィルムA:直鎖状ポリエチレンフィルム
フィルムB:直鎖状ポリエチレンフィルム
フィルムC:直鎖状ポリエチレンフィルム
リン系酸化防止剤A:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト
フェノール系酸化防止剤A:ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)
フェノール系酸化防止剤B:3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル
【0030】
【表1】
【0031】
[例1]
電子線照射装置を用いて、窒素雰囲気下25℃、加速電圧200keVで、線量が60kGyとなるように、リン系酸化防止剤Aのみが検出されたフィルムAに電子線を照射した。次いで、電子線照射済みのフィルムAを大気中に取り出してガラス容器に移し替えた後、ガラス容器内を高純度窒素によりバブリングし、予め同様の操作で高純度窒素のバブリングにより酸素ガスを除いた重合液(スチレン40質量部、クロロメチルスチレン4質量部、キシレン60質量部として各成分を混合して得た溶液。)をガラス容器内に充填した。充填後、35℃で4時間グラフト重合した後、フィルムAをガラス容器より取り出し、アセトンで洗浄し、80℃で3時間乾燥して、例1のグラフト鎖付きフィルムを得た。
グラフト鎖付きフィルムAのグラフト重合率は、70%であった。なお、グラフト重合率は、以下の式によって算出した。
グラフト重合率(%)=100×[(グラフト重合による重量増加分)/(グラフト重合前の基材重量]
【0032】
[例2〜例15]
例1で使用した重合液と同じ組成の重合液に、上記「フィルム中の酸化防止剤の分析」で検出された3種の酸化防止剤を表2に示す各量となるように添加した以外は、例1と同じ方法でグラフト重合して、例2〜例15のグラフト鎖付きフィルムを得た。
例2〜例15のグラフト鎖付きフィルムのグラフト重合率について、上記例1のグラフト重合率とともに表2に示す。なお、表2中、各酸化防止剤の添加量(mg/g)は、重合液1g当たりの添加量(mg)を示す。
ここで、添加した酸化防止剤は、「フィルム中の酸化防止剤の分析」で検出された各酸化防止剤の構造に対応する以下の市販品を用いた。
フェノール系酸化防止剤A:ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)
フェノール系酸化防止剤B:BASF社製、商品名「Irganox 1076」
リン系酸化防止剤A:BASF社製、商品名「Irgafos 168」
【0033】
【表2】
【0034】
例1〜例5に示すように、リン系酸化防止剤の添加量を増やしても、グラフト重合率への影響が少なく(すなわち、重合液の重合活性への影響が少なく)、優れたグラフト重合率のグラフト鎖付きフィルムが得られるのがわかった。
これに対して、例6〜例10の対比、および、例11〜例15の対比から、フェノール系酸化防止剤が添加されると、重合液の重合活性が低下して、グラフト鎖付きフィルムのグラフト重合率が低下するのがわかった。
【0035】
[例16〜例21]
フィルムAおよびフィルムBの2種の50〜80μmに製膜されたフィルムに対して、窒素雰囲気下25℃、加速電圧200keVで、線量60kGyとなるように電子線を照射した。電子線照射後のフィルム1g相当を大気中に取り出して、500ml容積のガラス容器に移し替えた後、ガラス容器内を高純度窒素によりバブリングし、予め同様の操作で高純度窒素バブリングにより酸素ガスを除いた重合液(スチレン40部、クロロメチルスチレン4部、キシレン60部として各成分を混合して得た溶液)500mlを充填した。充填後、35℃で4時間グラフト重合した後、フィルムをガラス容器から取り出し、アセトンで洗浄した後、80℃で3時間乾燥して、例16および例19のグラフト鎖付きフィルムをそれぞれ得た(重合液の使用回数1回)。その後、上記操作後の重合液を回収した。
回収した重合液を用い、新たに準備したフィルムAおよびフィルムBを用いた以外は、上記例16および例19と同様の操作を実行して、重合液の10回目の使用にあたる例17および例20のグラフト鎖付きフィルム、重合液の30回目の使用にあたる例18および例21のグラフト鎖付きフィルムを得た。
各グラフト鎖付きフィルムのグラフト重合率を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
例16〜例18に示すように、フェノール系酸化防止剤を実質的に含まず、リン系酸化防止剤を含むフィルムを用いれば、同じ重合液を繰り返し使用しても、優れたグラフト重合率のグラフト鎖付きフィルムが得られるのがわかった。
これに対して、例19〜例21に示すように、フェノール系酸化防止剤を含むフィルムを用い、同じ重合液を繰り返し使用した場合、徐々にフェノール系酸化防止剤が重合液に溶出して、これの影響で重合活性が低下して、グラフト鎖付きフィルムのグラフト重合率が低下するのがわかった。