(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被接合物を部分的に攪拌する回転工具と、前記被接合物を押圧するクランプ部材とを備える摩擦攪拌点接合装置を用いて、前記被接合物を摩擦攪拌点接合する摩擦攪拌点接合方法であって、
前記回転工具は、予め定められた軸線周りに回転し且つ前記軸線方向に進退可能に設けられたピン部材と、前記ピン部材の外周を囲んだ状態で前記軸線周りに回転し且つ前記ピン部材とは独立して前記軸線方向に進退可能に設けられたショルダ部材とを有し、
前記クランプ部材は、前記ショルダ部材の外周を囲むようにして前記ピン部材と前記ショルダ部材との収容空間を形成する内周面と、前記被接合物と面接触可能な円環状の端面とを有し、
前記被接合物が支持され且つ前記クランプ部材の前記端面により前記被接合物が押圧された状態において、前記ピン部材と前記ショルダ部材とにより前記被接合物を摩擦攪拌点接合する接合ステップと、
前記接合ステップ後、前記ピン部材と前記ショルダ部材とが前記収容空間に収容された状態において、前記被接合物の摩擦攪拌された領域、及び、前記被接合物の前記摩擦攪拌された領域と隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面及び裏面を、前記摩擦攪拌点接合装置により、前記回転工具側とその反対側とから押圧する押圧ステップと、を備える、摩擦攪拌点接合方法。
前記押圧ステップでは、前記ピン部材と前記ショルダ部材との先端を覆うように、前記被接合物の前記表面を押圧可能な端面を有する接合側押圧ツールが前記回転工具に取り付けられ、
前記接合側押圧ツールは、前記被接合物の前記表面と対向配置される端面と、前記接合側押圧ツールの前記端面から前記軸線方向に突出して前記軸線周りに延び且つ前記被接合物の前記表面を押圧可能に配置される接合側突出部とを有し、
前記押圧ステップでは、前記接合側突出部により、前記被接合物の前記表面を押圧する、請求項1に記載の摩擦攪拌点接合方法。
前記押圧ステップでは、前記軸線方向から見て、前記被接合物を介して、前記回転工具側とその反対側とで前記被接合物の押圧位置が重なり合うように、前記被接合物を押圧する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の摩擦攪拌点接合方法。
予め定められた軸線周りに回転し且つ前記軸線方向に進退可能に設けられたピン部材と、前記ピン部材の外周を囲んだ状態で前記軸線周りに回転し且つ前記ピン部材とは独立して前記軸線方向に進退可能に設けられたショルダ部材とを有する回転工具により、被接合物を部分的に攪拌して点接合する摩擦攪拌点接合装置に備えられ、摩擦撹拌点接合された前記被接合物を押圧するための押圧ツールセットであって、
前記ピン部材と前記ショルダ部材との先端を覆うように前記回転工具に取り付けられ、前記被接合物の摩擦攪拌された領域、及び、前記被接合物の前記摩擦攪拌された領域と隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面と対向配置される端面を有する接合側押圧ツールと、
前記被接合物の前記回転工具側とは反対側に配置されて前記被接合物を支持し、前記被接合物の裏面と対向配置される対向面を有する裏当側押圧ツールと、
を備える、押圧ツールセット。
予め定められた軸線周りに回転し且つ前記軸線方向に進退可能に設けられたピン部材と、前記ピン部材の外周を囲んだ状態で前記軸線周りに回転し且つ前記ピン部材とは独立して前記軸線方向に進退可能に設けられたショルダ部材とを有する回転工具により、被接合物を部分的に攪拌して点接合する摩擦攪拌点接合装置に備えられ、摩擦撹拌点接合された前記被接合物を押圧するための押圧ツールセットであって、
前記ショルダ部材の外周を囲むようにして前記ピン部材と前記ショルダ部材との収容空間を形成する内周面と、前記被接合物の摩擦攪拌された領域、及び、前記被接合物の前記摩擦攪拌された領域と隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面と対向配置される円環状の端面とを有するクランプ部材と、
前記被接合物の前記回転工具側とは反対側に配置されて前記被接合物を支持し、前記被接合物の裏面と対向配置される対向面を有する裏当側押圧ツールと、を備える、押圧ツールセット。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して各実施形態を説明する。
【0028】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る複動式摩擦攪拌点接合装置1の要部構成図である。
図1では、回転工具2を断面で示すと共に、回転工具2と工具駆動部3との繋がりを破線により模式的に示している。
【0029】
装置1は、被接合物W(一例として一対の被接合材(第1板材W1及び第2板材W2))を摩擦攪拌点接合する。装置1は、回転工具2、工具駆動部3、制御部4、裏当部材5、及びクランプ部材8を備える。
【0030】
工具駆動部3は、回転工具2を予め定められた複数の位置に移動させると共に、回転工具2を回転駆動させる。制御部4は、回転工具2が有する各部材6〜8を駆動させるように、工具駆動部3を制御する。工具駆動部3の具体的な構造は限定されず、例えば公知の構造を利用できる。
【0031】
制御部4は、一例として、CPU、ROM、及びRAM等を備えたコンピュータであり、工具駆動部3の動作を制御する。ROMには、所定の制御プログラムが格納され、RAMには、オペレータにより入力された設定情報が記憶される。この設定情報には、例えば、板材W1,W2の各板厚値の情報と、各接合位置の情報とが含まれる。裏当部材5は、被接合物Wの回転工具2側とは反対側に配置されて被接合物Wを支持する。裏当部材5の一部は、被接合物Wを介して回転工具2と対向する。
【0032】
回転工具2は、被接合物Wを部分的に攪拌する。本実施形態の装置1は、裏当部材5により支持された被接合物Wを被接合物Wの支持された側とは反対側から回転工具2により部分的に攪拌する。回転工具2は、ピン部材6とショルダ部材7とを有する。回転工具2は、ピン部材6の外側にショルダ部材7が配置され、ショルダ部材7の外側にクランプ部材8が配置された入れ子構造を有する。
【0033】
ピン部材6は、予め定められた軸線P周りに回転し且つ軸線P方向に進退可能に設けられている。本実施形態のピン部材6は、軸線P方向に延びる円柱状に形成されている。ピン部材6の軸線P方向後端部(ピン部材6の被接合物W側とは反対側の端部)は、工具駆動部3の固定部(不図示)に支持されている。
【0034】
ショルダ部材7は、ピン部材6の外周を囲んだ状態で軸線P周りに回転し且つピン部材6とは独立して軸線P方向に進退可能に設けられている。ショルダ部材7は中空部7aを有し、ピン部材6はショルダ部材7の中空部7aに内挿されている。
【0035】
本実施形態の回転工具2では、ショルダ部材7の中空部7aにピン部材6が内挿された状態で、ピン部材6とショルダ部材7とが、それぞれ独立して軸線P周りに回転し且つ軸線P方向に進退可能に設けられている。またショルダ部材7は、軸線P方向に延びる円筒状に形成されている。
【0036】
クランプ部材8は、ショルダ部材7の外周を囲むように設けられている。クランプ部材8は、ピン部材6とショルダ部材7とは独立して、軸線P方向に進退可能に設けられている。
【0037】
クランプ部材8は、円筒状の部材であって、端面8aと内周面8bとを有する。内周面8bは、ショルダ部材7の外周を囲むようにしてショルダ部材7の収容空間(以下、単に収容空間と称する。)を形成する。
【0038】
端面(当接面)8aは円環状であり、被接合物Wの表面(ここでは第1板材W1の板面)と対向配置される。端面8aは、被接合物Wの表面と面接触可能に配置される。端面8aは、軸線P方向に対して垂直な面に平行に延びている。
【0039】
被接合物Wを摩擦攪拌点接合しない場合、収容空間には、ショルダ部材7の外周を囲むようにショルダ部材7が収容される。収容空間を形成する内周面8bは、クランプ部材8の内部において軸線P方向に延びている。収容空間には、ショルダ部材7とは独立してピン部材6も収容される。収容空間にピン部材6とショルダ部材7とが収容された場合、収容空間の開口は、ピン部材6とショルダ部材7とにより塞がれる。被接合物Wを摩擦攪拌点接合する際、ピン部材6とショルダ部材7とは、収容空間から被接合物W側に延びる。
【0040】
クランプ部材8の軸線P方向後端部には、軸線P方向に被接合物Wに向けてクランプ部材8に付勢力を付与するためのスプリング9が配置されている。クランプ部材8は、スプリング9からの付勢力により、裏当部材5に支持された被接合物Wを軸線P方向に押圧する。クランプ部材8が被接合物Wから後退させられる際、クランプ部材8は、工具駆動部3により引き上げられ、被接合物Wから後退させられる。
【0041】
なお装置1は、例えば、C型フレーム構造を有していてもよい。この場合、回転工具2、工具駆動部3、制御部4、及びクランプ部材8は、装置1の上部に配置され、裏当部材5は、装置1の下部に配置されていてもよい。また装置1は、例えば、多関節ロボットに取り付けられていてもよい。また装置1は、回転工具2、工具駆動部3、制御部4、及びクランプ部材8が多関節ロボットに取り付けられ、裏当部材5が前記多関節ロボットとは別の構成(ポジショナー等)に取り付けられていてもよい。
【0042】
図2は、第1実施形態に係る押圧ツールセット11の斜視図である。押圧ツールセット11は、装置1に備えられ、摩擦攪拌点接合された被接合物Wを装置1により押圧するために用いられる。
【0043】
図2に示すように、押圧ツールセット11は、接合側押圧ツール10と裏当側押圧ツール15とを有する。接合側押圧ツール10は、回転工具2に取り付けられる。本実施形態の接合側押圧ツール10は、ピン部材6とショルダ部材7との先端を覆うように回転工具2に取り付けられる。一例として、接合側押圧ツール10は、ピン部材6、ショルダ部材7、及びクランプ部材8の各先端と、クランプ部材8の外周とを覆うように回転工具2に取り付けられる。
【0044】
接合側押圧ツール10は、円柱状であり、端面10aと接合側突出部10bとを有する。端面10aは、被接合物Wの表面(ここでは第1板材W1の板面)と対向配置される。突出部10bは、端面10aから軸線P方向に突出して軸線P周りに延び且つ被接合物Wの表面を押圧可能に配置される。接合側押圧ツール10が回転工具2に取り付けられた状態では、突出部10bは、端面10aから軸線P方向に突出する。突出部10bは、摩擦攪拌点接合された被接合物Wを押圧する圧子である。突出部10bは、摩擦攪拌点接合された被接合物Wを軸線P方向に押圧可能に配置される。
【0045】
突出部10bは、通常の摩擦攪拌点接合装置の接合ステップに要する荷重出力範囲内において、被接合物Wの荷重伝達部位である接合界面に圧縮塑性歪を与えるための形状を有する。このように装置1は、被接合物Wに対する圧縮加工機構を備えている。
【0046】
具体的に、端面10aの突出部10b以外の領域は、平坦に形成されている。突出部10bは、軸線P方向から見て、端面10aの周方向に延びる円環状に形成されている。一例として、突出部10bの幅寸法及び高さ(軸線P方向)寸法は一定である。また、突出部10bの長手方向に垂直な断面は矩形状である。
【0047】
突出部10bの高さ(軸線P方向)寸法は、適宜設定可能である。被接合物Wが一対の板材W1,W2である場合、突出部10bの高さ寸法は、例えば、板材W1の板厚寸法よりも小さい値に設定できる。
【0048】
突出部10bの幅寸法及び高さ寸法の少なくともいずれかは、突出部10bの複数位置において異なっていてもよい。また、突出部10bの長手方向に垂直な断面は、矩形状に限定されず、例えば、被接合物Wに向けて凸となる放物線状でもよい。
【0049】
裏当側押圧ツール15は、被接合物Wの回転工具2側とは反対側に配置されて被接合物Wを支持する。裏当側押圧ツール15は、対向面15aと裏当側突出部15bとを有する。対向面15aは、被接合物Wの裏面と対向して配置される。対向面15aの突出部15b以外の領域は、平坦に形成されている。
【0050】
突出部15bは、摩擦攪拌点接合された被接合物Wを押圧する圧子である。裏当側押圧ツール15が装置1に備えられた状態では、突出部15bは、対向面15aから軸線P方向に突出して軸線P周りに延び且つ被接合物Wの裏面を押圧可能に配置される。
【0051】
突出部15bは、軸線P方向から見て対向面15aの周方向に延びる円環状に形成されている。一例として、突出部15bは、突出部10bと同一形状及びサイズに形成されている。
【0052】
本実施形態の押圧ツールセット11は、軸線P方向から見て、被接合物Wを介して、回転工具2側と、その反対側(裏当側押圧ツール15側)とで、突出部10b,15bが重なり合う(ここでは完全に重なり合う)ように配置される。
【0053】
図3は、第1実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を示すステップ図である。
図3に示すように、該方法では、複数のステップS1〜S4を順に含むシークエンスを行う。具体的には、所定の接合位置において摩擦攪拌点接合を行うために被接合物Wに対して回転工具2の位置合わせを行う位置合わせステップS1と、位置合わせステップS1後、被接合物Wが支持され且つクランプ部材8の端面8aにより被接合物Wが押圧された状態において、ピン部材6とショルダ部材7とにより被接合物Wを摩擦攪拌点接合する接合ステップS2とを行う。
【0054】
また接合ステップS2後、ピン部材6とショルダ部材7とを被接合物Wから後退させ、且つ、装置1に押圧ツールセット11を取り付ける取付ステップS3と、取付ステップS3後、装置1により被接合物Wを押圧する押圧ステップS4とを行う。この押圧ステップS4により、被接合物Wに残留応力を付与し、被接合物Wの疲労強度を向上させる。
【0055】
図4の(a)〜(f)は、第1実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を説明するための断面図である。最初にオペレータは、設定情報を装置1に入力し、板材W1,W2を重ねた状態で裏当部材5に支持させる。制御部4は、回転工具2が予め定められた接合位置まで移動されるように、工具駆動部3を制御する(
図4(a))。これにより位置合わせステップS1が行われ、回転工具2が被接合物Wに対して位置合わせされる。
【0056】
次に制御部4は、ピン部材6とショルダ部材7とが回転駆動されるように工具駆動部3を制御すると共に、ショルダ部材7とクランプ部材8とを被接合物Wの表面に当接するように、工具駆動部3を制御する。その後、制御部4は、ショルダ部材7を被接合物Wに押圧するように、工具駆動部3を制御する。これにより、端面8aが被接合物Wの表面に面接触すると共に、ショルダ部材7が被接合物Wの内部に押し込まれて被接合物Wが摩擦攪拌される(
図4(b))。
【0057】
このとき制御部4は、ピン部材6の被接合物Wへの押込側端面を、ショルダ部材7の被接合物Wへの押込側端面よりも押し込み方向とは反対側に移動させるように、工具駆動部3を制御する。これにより、ショルダ部材7の摩擦攪拌により生じた被接合物Wの塑性流動部W3を、ショルダ部材7の中空部7aに入り込ませる(
図4(b))。
【0058】
次に制御部4は、クランプ部材8の端面8aを被接合物Wの表面に面接触させた状態で、ピン部材6とショルダ部材7との被接合物Wへの押込側端面を、ピン部材6とショルダ部材7とが被接合物Wの表面に接触する前の被接合物Wの表面位置に向けて移動させるように、工具駆動部3を制御する。
【0059】
これにより、ショルダ部材7による摩擦攪拌によってショルダ部材7の内部に入り込む被接合物Wの塑性流動部W3をピン部材6により埋め戻しながら、被接合物Wを摩擦攪拌点接合する(
図4(c))。
【0060】
以上により接合ステップS2が行われ、被接合物Wが摩擦攪拌点接合されて、被接合物Wに、軸線P方向から見て(正面視において)円形状の摩擦攪拌された領域Jが形成される(
図5参照)。
【0061】
次に制御部4は、ピン部材6、ショルダ部材7、及びクランプ部材8を被接合物Wから離隔(後退)させるように、工具駆動部3を制御する(
図4(d))。その後、オペレータは、回転工具2に接合側押圧ツール10を取り付けると共に、裏当側押圧ツール15を配置する。ここでは、裏当側押圧ツール15を裏当部材5と交換するが、裏当部材5に裏当側押圧ツール15を載置してもよい。裏当部材5を使用しない場合、被接合物Wは図示しない支持部材により支持してもよい。
【0062】
このとき軸線P方向から見て、被接合物Wを介して、突出部10b,15bが重なり合う(ここでは完全に重なり合う)ように、接合側押圧ツール10と裏当側押圧ツール15とを位置合わせする。これにより、押圧ツールセット11の取付ステップS3が行われる。
【0063】
次に、接合ステップS2後(ここでは取付ステップS3後)、ピン部材6とショルダ部材7とがクランプ部材8の収容空間に収容された状態において、被接合物Wの摩擦攪拌された領域J、及び、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jと隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面及び裏面を、装置1により、回転工具2側と、その反対側(裏当側押圧ツール15側)とから押圧する。
【0064】
本実施形態では、取付ステップS3後、制御部4は、ピン部材6の被接合物Wに対する軸線P位置を接合ステップS2での軸線P位置に維持した状態で、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jとその隣接領域との境界における表面及び裏面を、突出部10b,15bにより押圧するように、工具駆動部3を制御する(
図4(f))。
【0065】
以上により押圧ステップS4が行われ、被接合物Wの突出部10bにより押圧された部分に凹部Lが形成され,被接合物Wの突出部15bにより押圧された部分に凹部Mが形成される。これにより、被接合物Wの凹部L,M間を含む領域に圧縮部(圧縮塑性歪部)Kが形成されて、被接合物Wに残留応力が付与される。本実施形態では、軸線P方向から見て円環状の突出部10b,15bを用いることで、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jとその隣接領域との境界における表面及び裏面の全周が一度に押圧されると共に、この境界における表面及び裏面の全周に一度に圧縮部Kが形成される。
【0066】
摩擦攪拌された領域Jの温度が摩擦攪拌温度よりも低下した状態で押圧ステップS4を行うことにより、被接合物Wは冷間圧縮される。その後制御部4は、クランプ部材8による圧縮を解除するように、工具駆動部3を制御する。
【0067】
図5は、第1実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された被接合物Wの継手部分の正面図である。
図6は、第1実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された被接合物Wの継手部分に被接合物Wの両端から引張荷重を加えたときの様子を示す断面図である。
【0068】
図5に示すように、摩擦攪拌点接合後の被接合物Wには、正面視において円形状の摩擦攪拌された領域Jが形成されている。摩擦攪拌された領域Jとその隣接領域との境界における表面及び裏面には、摩擦攪拌された領域Jの全周にわたって円環状の凹部L,Mが形成されている。凹部L,Mは、一例として、正面視において被接合物Wを介して完全に重なるように形成されている。正面視において被接合物Wの凹部L,Mと対応する領域には、円環状の圧縮部Kが形成されている。
【0069】
被接合物Wは、圧縮部Kが形成されたことで残留応力(圧縮残留応力)が付与され、疲労強度が向上されている。本実施形態の被接合物Wは、摩擦攪拌された領域Jの全周にわたって疲労強度が向上されている。
【0070】
このため、例えば
図6に示すように、被接合物Wの第1板材W1と第2板材W2とに、各板材W1,W2が延びる方向に引張力D1を繰り返し負荷する疲労荷重が及び、摩擦攪拌領域Jの境界(接合境界)等が疲労破壊の起点及び進展経路となる場合、被接合物Wは、圧縮部Kに残留応力が付与されたことにより、疲労寿命が延長される。
【0071】
なお本願発明者らの検討により、実施例として、摩擦攪拌された領域Jとその隣接領域との接合界面よりも摩擦攪拌された領域Jの内側に位置する被接合物Wの領域に圧縮部Kを形成したところ、継手部分の疲労寿命が10倍程度向上することが確認された。
【0072】
以上説明したように、第1実施形態によれば、接合ステップS2後(ここでは取付ステップS3後)に押圧ステップS4を行うことで、被接合物Wを摩擦攪拌点接合した後、被接合物Wの表面及び裏面を、回転工具2側とその反対側とから押圧できる。よって、被接合物Wを圧縮し、被接合物Wの継手部分に良好に残留応力を付与できる。従って、被接合物Wの継手部分の疲労強度を向上できる。
【0073】
また、このような被接合物Wの押圧は、被接合物Wの摩擦攪拌点接合に用いた装置1を流用して実施できると共に、複数の摩擦攪拌点接合を一連の接合動作により行う場合には、この接合動作に付随して実施できる。よって、被接合物Wの摩擦攪拌点接合と押圧とを一連の動作で効率的に行うことができ、押圧ステップS4を設けたことによる接合体の生産性低下を抑制できる。
【0074】
また押圧ステップS4では、ピン部材6とショルダ部材7との先端を覆うように回転工具2に取り付けられた接合側押圧ツール10の突出部10bにより、被接合物Wの表面を押圧するので、被接合物Wの表面の所望領域を効率よく押圧できる。また、突出部10bにより被接合物Wを押圧することで、押圧面積を小さくできる分、比較的小さい押圧力でも良好に被接合物Wを圧縮できる。このため、被接合物Wを押圧するための専用装置を別途用意しなくてもよい。従って、継手部分の疲労強度を向上させるためのコストや作業負担を軽減でき、継手部分の疲労強度を効率よく向上させることができる。
【0075】
また押圧ステップS4では、裏当側押圧ツール15を用い、裏当側押圧ツール15の突出部15bにより被接合物Wの裏面を押圧するので、被接合物Wの裏当側押圧ツール15側から被接合物Wの裏面の所望領域を効率よく押圧できると共に、突出部15bにより被接合物Wを押圧することで、押圧面積を小さくできる分、比較的小さい押圧力でも良好に被接合物Wを圧縮できる。
【0076】
また押圧ステップS4では、軸線P方向から見て、被接合物Wを介して、回転工具2側とその反対側とで被接合物Wの押圧位置が重なり合うように、被接合物Wを押圧するので、軸線P方向から見て、被接合物Wの重なり合う領域を、被接合物Wの軸線P方向両側から押圧でき、該領域の疲労強度を更に向上させることができる。
【0077】
また押圧ツールセット11は、接合側押圧ツール10と裏当側押圧ツール15とを備えるので、被接合物Wの摩擦攪拌された領域J、及び、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jと隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面及び裏面を、装置1の回転工具2に取り付けた接合側押圧ツール10と、裏当側押圧ツール15とにより、回転工具2側と裏当側押圧ツール15側とから押圧できる。このような被接合物Wの押圧は、被接合物Wの摩擦攪拌点接合に用いた装置1に押圧ツールセット11を備えさせることで、効率よく実施できる。
【0078】
また、接合側押圧ツール10の端面10aには、接合側突出部(第1突出部)10bが配置され、裏当側押圧ツール15の対向面15aには、裏当側突出部(第2突出部)15bが配置されているので、各突出部10b,15bを用いて、被接合物Wの表面及び裏面の所望領域を効率よく押圧できると共に、押圧面積を小さくできる分、比較的小さい押圧力でも良好に被接合物を圧縮できる。次に、その他の実施形態について、先行する実施形態との差異を中心に説明する。
【0079】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る押圧ツールセット21の斜視図である。
図8は、第2実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された被接合物Wの継手部分に被接合物Wの両端から引張荷重を加えたときの様子を示す断面図である。
【0080】
接合側押圧ツール20の接合側突出部20bは、端面20aの正面視において(軸線P方向から見て)、一定の曲率で湾曲しながら円弧状に形成されている。突出部20bの長さは、適宜設定可能である。
【0081】
裏当側押圧ツール25の裏当側突出部25bは、端面25aの正面視において(軸線P方向から見て)、一定の曲率で円弧状に形成されている。突出部25bの長さは、適宜設定可能である。本実施形態の突出部20b,25bは、同一形状且つ同一サイズに形成されている。
【0082】
端面20aに平行な面内で、突出部20bの円弧を円周の一部とする円の中心位置O1と、端面25aに平行な面内で、突出部25bの円弧を円周の一部とする円の中心位置O2とが軸線P上に位置するように、押圧ツールセット21が装置1に備えられた状態において、突出部20b,25bは、軸線P方向から見て、軸線Pに対して点対称となる位置に配置される。
【0083】
また、端面10aに平行な面内において突出部20bの長手方向両端と中心位置O1とを通る2線の間の角度は、適宜設定可能であるが、一例として数°以上数十°以下の範囲の値(ここでは30°)に設定できる。
【0084】
また、対向面15aに平行な面内において突出部25bの長手方向両端と中心位置O2とを通る2線の間の角度は、適宜設定可能であるが、一例として数°以上数十°以下の範囲の値(ここでは30°)に設定できる。
【0085】
第2実施形態の取付ステップS3では、被接合物Wである一対の被接合材(ここでは板材W1,W2)の各々における摩擦攪拌された領域Jとその隣接領域とのうち、各接合材の引張力D1が及ぶ側に予め突出部20b,25bが配置されるように、押圧ツールセット21が装置1に取り付けられる。
【0086】
図8に示すように、これにより押圧ステップS4では、一対の被接合材(ここでは板材W1,W2)の各々における摩擦攪拌された領域Jとその隣接領域とのうち、引張力D1が及ぶ側の部分(被接合物Wの計2カ所)に、凹部L,Mが形成されると共に圧縮部Kが形成される。
【0087】
第2実施形態によれば、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jの全周のうち一部領域とその隣接領域とに部分的に圧縮部Kを形成しながら、引張力D1に対して必要な疲労強度を被接合物Wに付与できる。
【0088】
なお、押圧ツールセット21が上記のように装置1に備えられた状態において、突出部20b,25bは、軸線P方向から見て、軸線Pに対して点対称とはならないように配置されていてもよい。
【0089】
また突出部20b,25bは、互いに異なる形状でもよい。例えば突出部20b,25bのうち、一方が他方に比べて長くてもよいし、互いの高さ寸法が異なっていてもよい。
【0090】
また、被接合物Wの複数の位置に圧縮部K(凹部L,M)を形成するように、装置1に対する押圧ツールセット21の位置を変化させながら、複数回の押圧ステップS4を行ってもよい。
【0091】
また、このように複数回の押圧ステップS4を行うことで、第1実施形態(
図5参照)のように、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jとその隣接領域との境界における表面及び裏面の全周にわたって連続する圧縮部Kを形成してもよい。
【0092】
(第3実施形態)
図9(a)〜(f)は、第3実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を説明するための断面図である。第3実施形態の装置1は、押圧ツールセットとして、クランプ部材18と裏当側押圧ツール25とを備える。
【0093】
クランプ部材18は、クランプ側突出部18cを有する。この突出部18cは、端面18aから軸線P方向に突出している。突出部18cは、摩擦攪拌点接合された被接合物Wを押圧する圧子である。突出部18cは、摩擦攪拌点接合された被接合物Wを軸線P方向に押圧可能に配置されている。突出部18cは、通常の摩擦攪拌点接合装置の接合ステップに要する荷重出力範囲内において、被接合物Wの荷重伝達部位である接合界面に圧縮塑性歪を与えるための形状を有する。
【0094】
具体的に、クランプ部材18の端面18aの突出部18c以外の領域は、平坦に形成されている。端面18aは、軸線P方向から見て円環状に形成されている。突出部18cは、軸線P方向から見て軸線Pの周方向に延びる円弧状に形成されている。即ち突出部18cは、軸線P方向から見て、一定の曲率で湾曲しながら延びている。一例として、突出部18cの幅寸法及び高さ(軸線P方向)寸法は一定である。また、突出部18cの長手方向に垂直な断面は矩形状である。
【0095】
本実施形態の突出部18cは、クランプ部材18の内周面18bの周縁に沿った円弧状に形成されている。突出部18cは、端面18aの外縁よりも軸線P側に配置されている。一例として、突出部18cは、内周面18bと連続する位置に配置されている。突出部18cの軸線P側側面は、内周面18bと滑らかに連続している。
【0096】
一例として、突出部18cの長さ寸法は、軸線P方向から見て、内周面18bにおける周縁の全周長の1/2(半周長)の値に設定されている。突出部18cの長さ寸法は、これに限定されず、第2実施形態の突出部20bと同等でもよいし、内周面18bの全周長の値に設定されていてもよい。即ち突出部18cは、軸線P方向から見て円環状であってもよい。
【0097】
突出部18cの高さ(軸線P方向)寸法は、適宜設定可能である。被接合物Wが一対の板材W1,W2である場合、突出部18cの高さ寸法は、例えば、板材W1の板厚寸法よりも小さい値に設定できる。
【0098】
突出部18cの幅寸法及び高さ寸法の少なくともいずれかは、突出部18cの複数位置において異なっていてもよい。また、突出部18cの長手方向に垂直な断面は、矩形状に限定されず、例えば、被接合物Wに向けて凸となる放物線状でもよい。また突出部18cは、内周面18bとは非連続な位置に配置されていてもよい。言い換えると、突出部18cの軸線P側側面と、内周面18bとの間には、段差が設けられていてもよい。
【0099】
裏当側押圧ツール25は、第2実施形態のものと同様である。裏当側押圧ツール25は、押圧ツールセットが装置1に備えられた状態において、軸線P方向から見て、被接合物Wを介して、突出部18c,25bの少なくとも一部以上が重なる構成であることが望ましい。このため、本実施形態の突出部18c,25bは、同様の形状を有している。また、押圧ツールセットが装置1に備えられた状態では、突出部18c,25bは、一例として、軸線P方向から見て、被接合物Wを介して、完全に重なり合うように配置される。
【0100】
第3実施形態の摩擦攪拌点接合方法では、接合ステップS2後、ピン部材6とショルダ部材7とを被接合物Wから後退させ、且つ、所定位置において被接合物Wを押圧するために被接合物Wに対してクランプ部材18の位置合わせを行う第2位置合わせステップS5と、第2位置合わせステップS5後、前記所定位置においてクランプ部材18により被接合物Wを押圧する押圧ステップS4とを行う。この押圧ステップS4により、被接合物Wに残留応力を付与し、被接合物Wの疲労強度を向上させる。
【0101】
具体的には、第1実施形態と同様に位置合わせステップS1(第1位置合わせステップS1)が行われる(
図9(a))。次に制御部4は、ピン部材6とショルダ部材7とが回転駆動されるように工具駆動部3を制御すると共に、ショルダ部材7とクランプ部材18とが第2板材W2に向けて所定位置まで移動されるように、工具駆動部3を制御する。
【0102】
これにより、端面18aが被接合物Wの表面に面接触すると共に、クランプ部材18の突出部18cが被接合物Wの表面を押圧する。その結果、突出部18cが押圧した被接合物Wの部分に、溝状の凹部Nが形成される。また、ショルダ部材7が被接合物Wの内部に押し込まれて被接合物Wが摩擦攪拌される(
図9(b))。
【0103】
また制御部4は、第1実施形態と同様に、ショルダ部材7による摩擦攪拌によってショルダ部材7の内部に入り込む被接合物Wの塑性流動部W3をピン部材6により埋め戻しながら、被接合物Wを摩擦攪拌点接合するように、工具駆動部3を制御する(
図9(c))。
【0104】
以上により接合ステップS2が行われ、被接合物Wが摩擦攪拌点接合されて、被接合物Wに、軸線P方向から見て(正面視において)円形状の摩擦攪拌された領域Jが形成される。本実施形態の接合ステップS2では、押圧ステップS4において突出部18cにより被接合物Wの表面を押圧する押圧位置とは異なる退避位置に突出部18cを位置させた状態で、摩擦攪拌点接合が行われる。
【0105】
次に制御部4は、ピン部材6、ショルダ部材7、及びクランプ部材18を被接合物Wから離隔(後退)させるように、工具駆動部3を制御する(
図9(d))。その後、オペレータは、裏当部材5を裏当側押圧ツール15と交換する。また制御部4は、ピン部材6の被接合物Wに対する軸線P位置を、被接合物Wの表面に沿って、摩擦攪拌点接合時の位置X1から所定距離ずれた位置X2へ移動して回転工具2を位置合わせするように、工具駆動部3を制御する。位置X2は、本実施形態では摩擦攪拌された領域Jと重なる位置に設定される。
【0106】
また制御部4は、突出部18cの軸線P周りの位置を、位置X2において、突出部18cの長手方向中央が、凹部Nに隣接する摩擦攪拌された領域Jの周縁に位置し、且つ、突出部18cが摩擦攪拌された領域Jの周方向に延びるように、工具駆動部3を制御する。またオペレータは、裏当側押圧ツール15を、軸線P方向から見て突出部18c,25bが重なり合う(一例として完全に重なり合う)位置に位置合わせする(
図9(e))。以上により第2位置合わせステップS5が行われる。
【0107】
第2位置合わせステップS5では、クランプ部材18は、押圧ステップS4において、被接合物Wにおける回転工具2側の摩擦攪拌された領域Jの周縁に凹部Qを形成するため、突出部18cの少なくとも一部以上が凹部Nとは重ならない領域で被接合物Wの表面を押圧可能に位置合わせされる。
【0108】
次に、接合ステップS2後、被接合物Wからピン部材6とショルダ部材7とを離隔させた状態において、被接合物Wの接合ステップS2により形成された摩擦攪拌された領域J、又は、摩擦攪拌された領域Jと隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面及び裏面を、突出部18c,25bにより押圧する。
【0109】
本実施形態では、第2位置合わせステップS5後、制御部4は、ピン部材6の被接合物Wに対する軸線P位置を位置X2に合わせた状態で、被接合物Wにおける回転工具2側の摩擦攪拌された領域Jの表面を突出部18cにより押圧するように、工具駆動部3を制御する(
図9(f))。これにより、退避位置から押圧位置へ突出部18cを移動させた状態で、突出部18c,25bにより被接合物Wの表面及び裏面が押圧される。
【0110】
以上により押圧ステップS4が行われ、被接合物Wの回転工具2側に凹部Qが形成されると共に、被接合物Wの回転工具2側とは反対側に凹部Rが形成される。これにより被接合物Wは、圧縮部Kが形成されて残留応力が付与される。
【0111】
摩擦攪拌された領域Jの温度が摩擦攪拌温度よりも低下した状態で押圧ステップS4を行うことにより、被接合物Wは冷間圧縮される。その後、制御部4は、突出部18c,25bによる圧縮を解除するように、工具駆動部3を制御する。
【0112】
第3実施形態によれば、突出部18cを用いて、被接合物Wの表面の所望領域を効率よく押圧できる。また、突出部18cにより被接合物Wを押圧することで、押圧面積を小さくできる分、比較的小さい押圧力でも良好に被接合物Wを圧縮できる。このため、被接合物Wを押圧するための専用装置を別途用意しなくてもよい。
【0113】
従って、継手部分の疲労強度を向上させるためのコストや作業負担を軽減でき、継手部分の疲労強度を効率よく向上させることができる。また、このような被接合物Wの押圧は、被接合物Wの摩擦攪拌点接合に用いた装置1に押圧ツールセットを備えさせることで実施できるため、迅速に行える。
【0114】
(第4実施形態)
図10(a)〜(f)は、第4実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を説明するための断面図である。第4実施形態の装置1は、押圧ツールセットとして、クランプ部材28と裏当側押圧ツール35とを備える。
【0115】
クランプ部材28は、円筒状の部材であって、内周面28bと端面28aとチャンバ部28dとを有する(
図10(a)参照)。内周面28bは、ショルダ部材7の外周を囲むようにしてショルダ部材7の収容空間を形成する。端面(当接面)28aは、軸線P方向から見て円環状であり、被接合物Wの表面(ここでは第1板材W1の板面)と面接触して該表面を押圧する。クランプ部材28が装置1に備えられた状態では、端面28aは、軸線P方向に垂直な面に平行に延びている。
【0116】
チャンバ部28dは、内周面28bと端面28aとの間に介在して、内周面28bよりも拡径方向に窪むと共に、被接合物W側に開口している。チャンバ部28dは、クランプ部材28の被接合物W側の端部(軸線P方向先端部)に設けられ、被接合物W側に開口している。即ちチャンバ部28dは、クランプ部材28の軸線P方向先端側で開口すると共に、クランプ部材28の軸線P方向内側に窪んでいる。チャンバ部28dは、被接合物Wに肉盛部W4(
図10(d)参照)を形成するために用いられる。
【0117】
本実施形態のチャンバ部28dの内表面は、端面28aの径方向内側の周縁からクランプ部材28の軸線P方向内部に向けてクランプ部材28の内径が漸減するように傾斜する傾斜面として形成されている。この内表面の端面28aの径方向中央には、収容空間の開口が形成されている。
【0118】
本実施形態のチャンバ部28dの傾斜面(内表面)は、クランプ部材28の軸線P方向に垂直な方向から見て曲線状に延びている。一例として傾斜面は、軸線P方向に垂直な方向から見て、端面28aの径方向内側の周縁から円弧状に延びた後、軸線Pに向けて、軸線P方向に垂直に延びている。なお傾斜面は、軸線P方向に垂直な方向から見て、端面28aの径方向内側の周縁から軸線P方向に向けて、直線状に延びていてもよい。
【0119】
また、軸線P方向に垂直な方向から見て、軸線Pの両側に位置する一対の傾斜面の形状は、本実施形態ではクランプ部材28の軸線P周りの全周において対称形状であるが、これに限定されない。
【0120】
前記一対の傾斜面の形状は、軸線P方向に垂直な一方向から見て、非対称形状であってもよい。この場合、例えば、前記一対の傾斜面のうちの一方の傾斜面の形状が、他方の傾斜面に比べて軸線Pに垂直な方向に長く延びる形状であってもよい。
【0121】
またこの場合、前記一対の傾斜面のうち、後述する圧縮部K(
図10(f)参照)の形成予定側における傾斜面の形状は、他方の傾斜面に比べて軸線Pに垂直な方向に長く延びる形状であってもよい。これにより、圧縮部Kを肉盛部W4の比較的広い領域に形成できる。
【0122】
収容空間は、クランプ部材28のチャンバ部28dよりも軸線P方向内側に設けられている。被接合物Wを摩擦攪拌点接合しない場合、収容空間には、ショルダ部材7の外周を囲むようにショルダ部材7が収容される。収容空間を形成する内周面28bは、クランプ部材28の内部において軸線P方向に延びている。収容空間には、ショルダ部材7とは独立してピン部材6も収容される。収容空間にピン部材6とショルダ部材7とが収容された場合、収容空間の開口は、ピン部材6とショルダ部材7とにより塞がれる。被接合物Wを摩擦攪拌点接合する際、ピン部材6とショルダ部材7とは、収容空間からチャンバ部28dを介して被接合物W側に延びる。
【0123】
裏当側押圧ツール35は、端面35bと、端面35bに囲まれて軸線P方向に窪む凹部35aとを有する(
図10(e)参照)。端面35bと凹部35aの底面とは、被接合物Wと対向する対向面である。
【0124】
端面35bは、軸線P方向から見て円環状であり、被接合物Wの裏面(ここでは第1板材W1の板面)と面接触して該裏面を押圧する。また端面35bは、裏当側押圧ツール35の被接合物Wを支持する支持面である。裏当側押圧ツール35が装置1に備えられた状態では、端面35bは、軸線P方向に垂直な面に平行に延びている。
【0125】
凹部35aは、被接合物Wを介してチャンバ部28dと対向する位置に配置され、被接合物Wの裏面に沿って延びている。一例として凹部35aは、軸線P方向から見て円形状である。凹部35aは、その周縁から裏当側押圧ツール35の軸線P方向内部に向けて内径が漸減する傾斜面と、傾斜面に囲まれた底面とを有する。凹部35aの周縁の内径は、適宜設定可能であり、ここではショルダ部材7の外径よりも大きく設定されている。一例として、軸線Pに垂直な方向から見て、チャンバ部28dと凹部35aとは、同一形状及びサイズに形成されている。
【0126】
ここで、チャンバ部28dと凹部35aとの各開口の内径は、収容空間の開口の内径(ショルダ部材7の外径)よりも大きい。従って、第4実施形態において被接合物Wを摩擦攪拌点接合した場合、チャンバ部28dによって形成される肉盛部W4に対して、ピン部材6とショルダ部材7とによる摩擦攪拌により生じる摩擦攪拌された領域Jと、これに隣接する隣接領域との接合界面が形成される。
【0127】
第4実施形態の摩擦攪拌点接合方法では、所定の接合位置において摩擦攪拌点接合を行うために被接合物Wに対して回転工具2の位置合わせを行う位置合わせステップS1(以下、第1位置合わせステップS1と称する。)と、第1位置合わせステップS1後、接合位置においてピン部材6とショルダ部材7とを回転させながら被接合物Wに押し込んで被接合物Wを摩擦攪拌点接合すると共に、チャンバ部28d内に被接合物Wの一部を充填することで被接合物Wに肉盛部W4を形成する接合ステップS2とを行う。
【0128】
また接合ステップS2後、ピン部材6とショルダ部材7とを被接合物Wから後退させ、且つ、肉盛部W4の表面の所定の押圧位置において被接合物Wを押圧するために被接合物Wに対してクランプ部材28の位置合わせを行う第2位置合わせステップS5と、第2位置合わせステップS5後、押圧位置においてクランプ部材28の端面28aにより肉盛部W4を押圧すると共に、裏当側押圧ツール35の端面35bにより被接合物Wの肉盛部W4側とは反対側の部分とを押圧する押圧ステップS4とを行う。
【0129】
この押圧ステップS4により、被接合物Wの肉盛部W4と、被接合物Wの肉盛部W4とは反対側の部分とを圧縮して、これらに残留応力を付与し、被接合物Wの疲労強度を向上させる。
【0130】
具体的にオペレータは、設定情報を装置1に入力し、板材W1,W2を重ねた状態で裏当部材5に支持させる。制御部4は、チャンバ部28dの傾斜面の内周縁にショルダ部材7の被接合物Wへの押込側端面の外周縁を一致させると共に、ショルダ部材7の被接合物Wへの押込側端面の内周縁にピン部材6の被接合物Wへの押込側端面の外周縁が一致するように、工具駆動部3を制御する。
【0131】
また制御部4は、回転工具2が予め定められた接合位置まで移動されるように、工具駆動部3を制御する(
図10(a))。これにより第1位置合わせステップS1が行われ、回転工具2が被接合物Wに対して位置合わせされる。
【0132】
次に制御部4は、ピン部材6とショルダ部材7とが回転駆動されるように工具駆動部3を制御すると共に、ショルダ部材7とクランプ部材28とが第2板材W2に向けて所定位置まで移動されるように、工具駆動部3を制御する。
【0133】
これにより、端面28aにより被接合物Wの表面が押圧された状態において、ピン部材6とショルダ部材7とにより被接合物Wが摩擦攪拌され、ピン部材6又はショルダ部材7の少なくともいずれか(ここでは
図10(c)の状態も含めて両方)が被接合物Wの塑性流動部W3に押し込まれる(圧入される)ことで、チャンバ部28d内に軟化した被接合物Wの一部が充填されて被接合物Wに肉盛部W4が形成される(
図10(b),(c))。
【0134】
肉盛部W4は、ピン部材6とショルダ部材7とによる摩擦攪拌により生じた被接合物Wの塑性流動部W3と、塑性流動部W3の生成に伴って軟化した被接合物Wの軟化部とを含んでいる。
【0135】
このとき制御部4は、ピン部材6の被接合物Wへの押込側端面を、ショルダ部材7の被接合物Wへの押込側端面よりも押し込み方向とは反対側に移動させるように、工具駆動部3を制御する。これにより、被接合物Wの塑性流動部W3をショルダ部材7の中空部7aに入り込ませる。
【0136】
次に制御部4は、クランプ部材28の端面28aを被接合物Wの表面に面接触させた状態で、ピン部材6とショルダ部材7との被接合物Wへの押込側端面を、ピン部材6とショルダ部材7とが被接合物Wの表面に接触する前の被接合物Wの表面位置に向けて移動させるように、工具駆動部3を制御する(
図10(c))。
【0137】
これにより、ショルダ部材7の内部に入り込んだ被接合物Wの塑性流動部W3をピン部材6により埋戻しながら、ショルダ部材7を収容空間内に退避させる。第4実施形態では、制御部4は、肉盛部W4の体積を考慮して、ピン部材6の被接合物Wへの押込側端面が肉盛部W4の表面(頂面)よりも被接合物Wの内側に位置されるように、工具駆動部3を制御する。
【0138】
以上により接合ステップS2が行われ、被接合物Wが摩擦攪拌点接合されて、肉盛部W4に摩擦攪拌された領域Jが形成される。摩擦攪拌された領域Jの中央には、ピン部材6によって凹部Sが形成される(
図10(d)参照)。
【0139】
次に制御部4は、ピン部材6、ショルダ部材7、及びクランプ部材28を被接合物Wから離隔(後退)させるように、工具駆動部3を制御する(
図10(d))。その後、オペレータは、裏当部材5を裏当側押圧ツール35と交換する。
【0140】
次に、端面28aを、被接合物Wの摩擦攪拌された領域J、及び、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jと隣接する領域の少なくともいずれかの表面(ここでは両方の表面)と対向配置する。
【0141】
具体的に制御部4は、ピン部材6の被接合物Wに対する軸線P位置を、被接合物Wの表面に沿って、摩擦攪拌点接合時の位置X1から所定距離ずれた位置X2へ移動して回転工具2を位置合わせするように、工具駆動部3を制御する。またオペレータは、被接合物Wを介して、軸線P方向に端面28a,35bが重なり合う(一例として完全に重なり合う)ように、裏当側押圧ツール35を位置合わせする((
図10(e))。
【0142】
以上により第2位置合わせステップS5が行われ、端面28aが肉盛部W4の頂面と対向するように位置合わせされると共に、端面35bが被接合物Wの肉盛部W4側とは反対側の部分と対向するように位置合わせされる。
【0143】
ここで、本実施形態の位置X2は、軸線P方向から見て、摩擦攪拌された領域Jと端面28aが重なる位置に設定される。一例として端面28aは、位置X2において肉盛部W4の頂面と接する際、摩擦攪拌された領域Jとこれに隣接する隣接領域との各周縁と面接触し、且つ、摩擦攪拌された領域Jの周方向に延びる領域に面接触するように設定される。
【0144】
また端面28a,35bは、肉盛部W4の頂部と軸線P方向に重なる位置において、摩擦攪拌された領域Jとこれに隣接する隣接領域とにわたって圧縮部Kを形成するように、被接合物Wの表面及び裏面を押圧可能に設定される。
【0145】
次に、ピン部材6とショルダ部材7とをクランプ部材28の収容空間内に退避させた状態において、肉盛部W4のうちショルダ部材7により摩擦攪拌された領域J、又は、肉盛部W4のうち摩擦攪拌された領域Jと隣接する領域の少なくともいずれか(ここでは両方)の表面を、端面28aにより押圧すると共に、被接合物Wの回転工具2側とは反対側の裏面を、端面35bにより押圧する。
【0146】
本実施形態では、第2位置合わせステップS5後、制御部4は、ピン部材6の被接合物Wに対する軸線P位置を位置X2に合わせた状態で、肉盛部W4の摩擦攪拌された領域Jと、これに隣接する隣接領域との表面を、端面28aにより押圧すると共に、被接合物Wの回転工具2側とは反対側の裏面を、端面35bにより押圧するように、工具駆動部3を制御する(
図10(f))。
【0147】
以上により押圧ステップS4が行われ、被接合物Wの肉盛部W4に圧縮部(圧縮塑性歪部)Kが形成されて、被接合物Wに残留応力が付与される。押圧ステップS4では、被接合物Wの肉盛部W4を囲む領域と端面28aとの接触を回避しながら、被接合物Wの表面及び裏面が端面28a,35bにより押圧される。
【0148】
摩擦攪拌された領域Jの温度が摩擦攪拌温度よりも低下した状態で押圧ステップS4を行うことにより、被接合物Wは冷間圧縮される。その後、制御部4は、クランプ部材28による押圧を解除するように、工具駆動部3を制御する。
【0149】
第4実施形態によれば、被接合物Wの継手部分に局所的に残留応力を付与して、被接合物Wの継手部分の疲労強度を向上できる。また、被接合物Wの重量増加を抑制しながら、摩擦攪拌された領域Jとこれに隣接する隣接領域との間に位置する接合界面を増大できると共に、この接合界面に圧縮部Kを形成することで、被接合物Wの継手部分の剛性を更に向上できる。
【0150】
このように第4実施形態では、押圧ステップS4において、クランプ部材28の端面28aと、裏当側押圧ツール35の端面35bとにより、被接合物Wの表面及び裏面を押圧するので、クランプ部材28の端面28aと裏当側押圧ツール35の端面35bとを用いて、被接合物Wを効率よく押圧できる。
【0151】
また、第4実施形態の押圧ツールセットを用いることで、被接合物Wの摩擦攪拌された領域J、及び、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jと隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面及び裏面を、回転工具2側と裏当側押圧ツール25側とから押圧できる。
【0152】
(第5実施形態)
図11(a)〜(f)は、第5実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を説明するための断面図である。第4実施形態との差異として、第5実施形態における摩擦攪拌点接合方法の接合ステップS2では、裏当側押圧ツール35により被接合物Wを支持し、凹部35a内に被接合物Wと摩擦攪拌混合可能な付加材料W5を供給した状態で(
図11(a))、付加材料W5を被接合物Wと摩擦攪拌点接合する。ここでは一例として、被接合物Wの板材W1,W2と付加材料W5との摩擦撹拌点接合を同時に行う(
図11(b),(c))。
【0153】
これにより付加材料W5は、凹部35aを型として成形されながら、被接合物Wと一体化される。従って、第5実施形態において形成される肉盛部W4の厚み寸法は、第4実施形態において形成される肉盛部W4の厚み寸法よりも増大される。被接合物Wを摩擦攪拌点結合して回転工具2を被接合物Wから離隔した後(
図11(d))、押圧ステップS4では、被接合物Wの軸線P方向両側から肉盛部W4を端面28a,35bにより押圧して、肉盛部W4に圧縮部Kを形成する(
図11(e),(f))。
【0154】
このように、第5実施形態の摩擦攪拌点接合方法によれば、裏当側押圧ツール35の凹部35aに供給した付加材料W5を用いて、肉盛部W4の厚み寸法を更に増大させることができる。よって、被接合物Wの重量増加を抑制しながら、摩擦攪拌された領域Jとこれに隣接する隣接領域との間に位置する接合界面を一層増大できると共に、この接合界面に圧縮部Kを形成して、被接合物Wの継手部分の剛性を第4実施形態よりも更に向上できる。
【0155】
また、摩擦撹拌混合前の被接合物Wと付加材料W5とを異なる材質に設定することで、被接合物Wに付加材料W5の材料特性を付加することもできる。よって、肉盛部W4の疲労強度を向上できると共に、摩擦攪拌点接合後の被接合物Wが有する特性の設計自由度を高めることができる。
【0156】
なお、付加材料W5の形状は適宜設定できる。付加材料W5は板状に限定されず、例えばブロック状や粉末状であってもよい。また第5実施形態の接合ステップS2では、被接合物Wの板材W1,W2と付加材料W5との摩擦撹拌点接合を同時に行う必要はなく、例えば、被接合物Wの板材W1,W2とを摩擦攪拌点接合した後、被接合物Wに付加材料W5を摩擦攪拌点接合してもよい。
【0157】
(第6実施形態)
図12は、第6実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を説明するための断面図である。
図12は、押圧ステップS4の様子を示している。第6実施形態の装置1は、押圧ツールセットとして、接合側押圧ツール30と裏当側押圧ツール45とを備える。
【0158】
接合側押圧ツール30は、端面30aとチャンバ部30dとを有する。端面30a(当接面)は、第4実施形態におけるクランプ部材28の端面28aと同様の形状を有する。
【0159】
即ち、接合側押圧ツール30が装置1に備えられた状態では、軸線P方向から見て、端面30aは円環状であり、被接合物Wの表面(ここでは第1板材W1の板面)と対向配置される。端面30aは、軸線P方向に垂直な面に平行に延びている。端面30aは、被接合物Wの表面を押圧可能に配置される。端面30aは、被接合物Wの摩擦攪拌された領域J、及び、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jと隣接する領域の少なくともいずれかの表面(ここでは両方の表面)と対向配置される。
【0160】
チャンバ部30dは、接合側押圧ツール30が装置1に備えられた状態において、接合側押圧ツール30の被接合物W側となる端部(軸線P方向先端部)に設けられ、被接合物W側に開口している。即ちチャンバ部30dは、接合側押圧ツール30の軸線P方向先端側で開口すると共に、接合側押圧ツール30の軸線P方向内側に窪んでいる。
【0161】
チャンバ部30dの内表面は、端面30aの径方向内側の周縁からチャンバ部30dの軸線P方向内部に向けて接合側押圧ツール30の内径が漸減するように傾斜する傾斜面として形成されている。
【0162】
裏当側押圧ツール45は、端面45bの面積が異なる以外は、第4及び5実施形態の裏当側押圧ツール35と同様の構成である。一例として端面45bは、端面30aと面積が同一であるが、異なっていてもよい。
【0163】
第6実施形態では、接合ステップS2において、第1実施形態と同様に、被接合物Wに摩擦攪拌された領域Jが形成される(
図4(c),(d)参照)。その後、取付ステップS3において、回転工具2に接合側押圧ツール30が取り付けられると共に、被接合物Wの回転工具2側とは反対側に裏当側押圧ツール45が配置される。本実施形態の端面30a,45bは、軸線P方向から見て、被接合物Wを介して、重なり合う(ここでは完全に重なり合う)位置に配置される。
【0164】
押圧ステップS4では、端面30a,45bにより、被接合物Wの表面及び裏面が押圧される。これにより、被接合物Wの摩擦攪拌された領域Jの全周とその隣接領域とにわたって圧縮部Kが形成される。第6実施形態では、端面30a,45bに装置1の押圧力を集中できるため、被接合物Wの回転工具2側とその反対側とから、比較的小さい押圧力でも良好に被接合物Wを圧縮できる。
【0165】
なお第6実施形態では、第5実施形態のように、裏当側押圧ツール45の凹部45aに付加材料W5を供給することで、被接合物Wの回転工具2側とは反対側に肉盛部を形成してもよい。
【0166】
本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成又は方法を変更、追加、又は削除できる。当然ながら、被接合物Wは、一対の板材W1,W2に限定されない。被接合物Wは、航空機、自動車、及び鉄道車両等の乗物の部品でもよいし、建築物の部品でもよい。