(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粉末材料層を形成する工程と、前記粉末材料層に対してエネルギー線を走査させながら照射することにより硬化層を形成する工程とを繰り返すことにより、前記硬化層を積層した三次元構造体を製造する方法であって、
前記エネルギー線の照射エネルギーを変更した複数のサンプル構造体を予め作製し、
前記サンプル構造体のそれぞれについて、前記硬化層の積層方向における各高さ位置および前記エネルギー線の各走査方向位置の欠陥解析を行い、
前記欠陥解析の結果に基づいて、前記硬化層を形成する際の前記硬化層の高さ位置毎に、前記走査方向位置においての前記粉末材料層に対する前記エネルギー線の照射エネルギーの補正値を求め、
前記硬化層を形成する工程においては、前記補正値にしたがって補正した照射エネルギーのエネルギー線を前記粉末材料層に対して照射する
三次元構造体の製造方法。
前記サンプル構造体を作製する際には、前記硬化層の形成において前記エネルギー線の直前の走査位置からの熱拡散の影響が安定する長さ領域を含む大きさの各サンプル構造体を作製し、
前記欠陥解析を行う際には、前記安定する長さ領域に設定された走査方向位置において前記高さ方向の前記欠陥発生率を導出する
請求項2に記載の三次元構造体の製造方法。
前記サンプル構造体を作製する際には、前記硬化層の形成において前記エネルギー線の直前の走査位置からの熱拡散の影響が安定する長さ領域を含む大きさの各サンプル構造体を作製し、
前記欠陥解析を行う際には、前記サンプル構造体の長さ方向にわたって設定された複数の走査方向位置において前記高さ方向の前記欠陥発生率を導出し、
前記補正値を求める際には、前記設定した複数の走査方向位置毎に前記高さ位置においての補正値を求める
請求項2または3に記載の三次元構造体の製造方法。
昇降自在なステージを底面として内部に粉末材料層が形成される形成槽と、前記形成槽内に形成された粉末材料層に対してエネルギー線を照射して硬化層を形成するためのエネルギー線照射部と、前記エネルギー線照射部によるエネルギー線の照射を制御する照射制御部とを備えた三次元構造体の製造装置であって、
前記照射制御部は、
前記エネルギー線の照射エネルギーを変更して作製された複数のサンプル構造体のそれぞれについて、前記硬化層の積層方向における各高さ位置および前記エネルギー線の各走査方向位置の欠陥解析を行った結果と、製造する三次元構造体の形状データとを入力するための入力部と、
前記入力部から入力された前記欠陥解析の結果に基づいて、前記硬化層を形成する際の前記硬化層の高さ位置毎に、前記走査方向位置においての前記粉末材料層に対する前記エネルギー線の照射エネルギーの補正値を求める補正データ作成部と、
前記補正データ作成部で求められた補正値を、前記硬化層の高さ位置と、前記硬化層を形成する際のエネルギー線の走査方向位置とに関連付けた補正データを記憶する補正データ記憶部と、
前記補正データ記憶部に記憶された補正データと、前記入力部から入力された三次元構造体の形状データとに基づいて、前記エネルギー線照射部によるエネルギー線の照射エネルギーを制御する入出力制御部とを備えた
三次元構造体の製造装置。
前記入力部は、さらに前記エネルギー線の走査方向の長さが異なる複数のサンプル構造体のそれぞれについて各走査方向位置の欠陥解析を行った結果を入力するためのものであり、
前記照射制御部は、さらに、
前記入力部から入力された前記長さが異なる複数のサンプル構造体についての前記欠陥解析の結果に基づいて、前記エネルギー線の走査が開始されてから、隣接する次の走査線に沿った前記エネルギー線の走査が開始されるまでの走査必要時間を算出する必要時間算出部と、
前記必要時間算出部で算出した走査必要時間を記憶する必要時間記憶部とを備え、
前記入出力制御部は、前記必要時間記憶部に記憶された走査必要時間と、前記入力部から入力された三次元構造体の形状データとに基づいて、前記硬化層を形成する際の前記エネルギー線の走査方向の長さ毎に、前記走査必要時間を満たすように次の隣接する走査線に沿ったエネルギー線の走査を開始するまでの待機時間を設定して前記エネルギー線の走査を制御する
請求項11に記載の三次元構造体の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施の形態を三次元構造体の製造装置、三次元構造体の製造方法の順に図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
≪三次元構造体の製造装置≫
図1は、実施形態に係る三次元構造体の製造装置の概略構成図である。この図に示す三次元構造体の製造装置1は、粉末溶融積層方式の製造方法を実施するためのものである。この製造装置1は、枠体10、ステージ11、ステージ駆動制御部12、規制板13、規制板制御部14、エネルギー線照射部15、照射制御部16を備えている。
【0012】
<枠体10およびステージ11>
枠体10は、筒状の構造体であり、三次元構造体の形成槽を構成する。ステージ11は、枠体10の側周壁に内接して設けられていて、三次元構造体の形成槽の底面を構成する。このステージ11は、枠体10内において昇降自在であり、形成槽の深さを可変としている。このような枠体10とステージ11とで構成された三次元構造体の形成槽の内部には、ベースプレート11aが配置されると共に、粉末材料100が貯蔵され、また粉末材料層100aが形成される。
【0013】
<ステージ駆動制御部12>
ステージ駆動制御部12は、枠体10内においてのステージ11の昇降を制御する。ステージ駆動制御部12によるステージ11の昇降は、エネルギー線照射部15からのエネルギー線Bの照射の合間に実施され、1回のエネルギー線の照射によって硬化させる粉末材料層100aの厚み分だけ、ステージ11を段階的に下降させる。このようなステージ駆動制御部12は、規制板制御部14および照射制御部16に接続されている。
【0014】
<規制板13および規制板制御部14>
規制板13は、平板状のものであって、平板状の一辺が枠体10の上部開口10aに接触する程度の高さ位置を保った状態で、枠体10の上部開口10aに沿って移動自在である。規制板制御部14は、規制板13の駆動を制御する。規制板制御部14による規制板13の駆動は、ステージ駆動制御部12によってステージ11が段階的に降下され、ここでの図示を省略した材料供給部によって枠体10内に粉末材料100が供給された後に実施される。この際、規制板制御部14による規制板13の駆動により、上部開口10aの高さを超えて枠体10内に供給された粉末材料100を、枠体10の上部開口10aと同じ高さに揃える。
【0015】
<エネルギー線照射部15>
エネルギー線照射部15は、粉末材料100を溶融可能なレーザー光や電子ビームなどのエネルギー線Bの発振部であり、枠体10内に貯蔵された粉末材料100からなる粉末材料層100aに、エネルギー線Bを照射する。このようなエネルギー線照射部15からのエネルギー線Bの照射により、粉末材料層100aの一部を溶融させた後に固化させた硬化層101を形成する。なお、粉末材料層100aを構成する粉末材料の溶融状態によっては、固化は焼結であってもよい。
【0016】
<照射制御部16>
照射制御部16は、エネルギー線照射部15からのエネルギー線Bの照射を制御するものである。照射制御部16によるエネルギー線照射部15の制御は、例えば、エネルギー線Bの照射エネルギー、および走査経路などである。エネルギー線Bの照射エネルギーの制御は、走査速度、電流値(照射密度)、および照射ピッチのうちの少なくとも1つによって実施される。このような照射制御部16は、入力部16a、補正データ作成部16b、補正データ記憶部16c、必要時間算出部16d、必要時間記憶部16e、および入出力制御部16fを備えている。これらの構成は次のようである。
【0017】
[入力部16a]
入力部16aは、三次元構造体を形成するために必要な他のデータを入力するためのものである。入力部16aから入力されるデータは、製造装置1によって製造する三次元構造体の形状データ、以降に説明するサンプル構造体に関する欠陥解析の結果、および三次元構造体を形成するために必要な他のデータが入力される。このような入力部16aは、例えばタッチパネル付きの表示部、キーボード、または外部のパーソナルコンピュータとの接続インターフェースであってもよい。
【0018】
[補正データ作成部16b]
補正データ作成部16bは、入力部16aから入力された欠陥解析の結果に基づいて、硬化層101を形成する際に、粉末材料層100aに照射するエネルギー線Bの照射エネルギーの補正値を求める。ここでは、硬化層101の高さ位置毎に、エネルギー線Bの走査方向の各位置においての照射エネルギーの補正値を求める。このような補正値の求め方は、以降の三次元構造体の製造方法において詳細に説明する。
【0019】
[補正データ記憶部16c]
補正データ記憶部16cは、補正データ作成部16bで求めた補正値を、硬化層101の高さ位置と、硬化層101を形成する際のエネルギー線Bの走査方向位置とに対して関連付けて、補正データとして記憶する。
【0020】
[必要時間算出部16d]
必要時間算出部16dは、入力部16aから入力された欠陥解析の結果に基づいて、1つの走査線においてのエネルギー線Bの走査が開始されてから、隣接する次の走査線に沿ったエネルギー線Bの走査が開始されるまでの走査必要時間を算出する。このような走査必要時間の算出方法は、以降の三次元構造体の製造方法において詳細に説明する。
【0021】
[必要時間記憶部16e]
必要時間記憶部16eは、必要時間算出部16dで算出した走査必要時間を記憶する。
【0022】
[入出力制御部16f]
入出力制御部16fは、入力部16aから入力された三次元構造体の形状データと、補正データ記憶部16cに記憶された補正データと、必要時間記憶部16eに記憶された走査必要時間とに基づいて、エネルギー線照射部15によるエネルギー線Bの照射を制御する。入出力制御部16fによるエネルギー線Bの照射の制御は、以降の三次元構造体の製造方法において詳細に説明する。
【0023】
また以上のような照射制御部16は、CPU、ROM、およびRAMによって構成された計算機であって、CPUが、ROMやRAMに記録されたプログラムを実行することにより、以降に説明する三次元構造体の製造方法を実施する。
【0024】
<製造装置1の駆動>
以上のような構成の製造装置1は、次のように駆動される。先ず、ステージ駆動制御部12により、枠体10内のステージ11を所定の高さに配置する。次に、ここでの図示を省略した材料供給部によって上部開口10aの高さを超えて枠体10内に供給された粉末材料100を、規制板13の駆動によって枠体10の上部開口10aと同じ高さに揃えて粉末材料層100aを形成する。
【0025】
その後、粉末材料層100aに対し、エネルギー線照射部15からエネルギー線Bを照射する。この際、粉末材料層100aの表面においてエネルギー線Bを走査させることにより、粉末材料層100aにおけるエネルギー線Bの照射部分を溶融させ、粉末材料同士を接合させた硬化層101を所望の形状に形成する。またこの際、照射制御部16によって、エネルギー線照射部15からのエネルギー線Bの走査経路、および照射エネルギーが制御される。照射制御部16によるエネルギー線照射部15の制御は、以降の三次元構造体の製造方法において詳細に説明する。
【0026】
以上のようにして所望形状の硬化層101を形成した後には、ステージ駆動制御部12により、枠体10内のステージ11を所定の高さだけ降下させ、さらに粉末材料層100aの形成以降を繰り返す。これにより、複数の硬化層101を積層した三次元構造体を作製する。
【0027】
以上のような三次元構造体の作製においては、以下の(1)〜(3)に説明するように、エネルギー線Bの走査位置によって、粉末材料層100aを溶融させた後に固化させた硬化層101の状態に差が生じる。なお(3)は、粉末材料層100aの表面に対して、平行に設定された隣接する走査線間で走査位置を移動させながら、走査線に沿った同一方向にエネルギー線Bを走査させるラスター走査を想定した場合に適用される。以下、エネルギー線Bの照射によって得られた硬化層101の積層方向を、三次元構造体の高さ方向(z方向)として説明を行う。
【0028】
(1)三次元構造体の高さ方向(z方向)
硬化層101の積層が進んだ高さ位置における硬化層101の形成は、下層に複数層の硬化層101が積層されていることにより、下層に積層された硬化層101から安定して放熱を行うことができる。このため、下地構造の影響が小さく抑えられる。これに対し、硬化層101の積層数が少なく、下地構造に近い位置における硬化層101の形成は、下地構造からの熱的な影響を受ける。特に、下地構造が粉末材料である場合、硬化層101と比較した粉末材料の蓄熱効果が高いため、下地構造からの熱拡散の影響を受ける。したがって、三次元構造体の高さ方向(z方向)においては、下地構造から近い範囲で下地構造からの高さに応じて粉末材料層100aの溶融状態が変化し易く、溶融後に固化させた硬化層101の状態にばらつきが生じやすい。
【0029】
(2)エネルギー線Bの走査方向(x方向)
エネルギー線Bの走査方向における1本の走査線内で、ある程度走査が進んだ位置における硬化層101の形成は、その直前の走査位置からの熱拡散の影響を安定的に受けることができる。これに対し、走査開始位置ではその影響を受けることがない。したがって、エネルギー線Bの走査方向(x方向)においては、1本の走査線内の走査開始位置に近い範囲で、走査開始位置からの距離に応じて粉末材料層100aの溶融状態が変化し易く、溶融後に固化させた硬化層101の状態にばらつきが生じやすい。
【0030】
(3)走査線の隣接方向(y方向)
走査線の隣接方向では、1本前の走査線が短いほど、次の走査線に対してエネルギー線Bの走査が開始されるまでの時間が短く、1本前の走査線からの熱拡散の影響を受け易い。したがって、走査線の隣接方向(y方向)においては、1本前の走査線の長さが短い場合に、1本前の走査線の長さに応じて次の走査線上の各部における粉末材料層100aの溶融状態が変化し易く、溶融後に固化させた硬化層101の状態にばらつきが生じやすい。
【0031】
≪三次元構造体の製造方法≫
次に、以上のような構成の三次元構造体の製造装置1を用いた三次元構造体の製造方法を説明する。ここで説明する製造方法は、粉末溶融積層方式においてエネルギー線Bをラスター走査する場合に適用される手順であって、先の(1)〜(3)の溶融状態のばらつきを抑制するために、エネルギー線Bの照射条件の補正する手順であり、以下のように実施する。
【0032】
<第1のサンプル構造体S1の作製>
先ず、三次元構造体の製造装置1を用いて、第1のサンプル構造体S1を作製する。ここで作製する第1のサンプル構造体S1は、上述した(1)、(2)のばらつきを抑制するための、エネルギー線Bの照射エネルギーの補正値を求めるために用いる。
【0033】
図2は、第1のサンプル構造体S1の作製を説明する斜視図である。この図に示すように、第1のサンプル構造体S1の作製は、図中の矢印で示したx方向をエネルギー線の走査方向としたラスター走査によって実施する。また、走査線の隣接方向をy方向とし、硬化層101が積層された三次元構造体の高さ方向をz方向とする。
【0034】
ここで作製する第1のサンプル構造体S1は、下地構造からの熱的な影響が及ぶことのない程度の十分な高さ(Lz)を有する。また第1のサンプル構造体S1は、1本の走査線内において直前の走査位置からの熱拡散の影響が均一に得られる程度に十分な長さ(Lx)を有する。このような第1のサンプル構造体S1は、立方体形状であってよい。なお下地構造は、一例として、
図1を参照し、粉末材料100中に、複数本の支柱102を設けた構成であることとする。支柱102は、枠体10内のステージ11上にベースプレート11aを配置し、このベースプレート11a上に立設させた状態で設けられている。これらの支柱102は、硬化層101の形成に対して、熱拡散および放熱の影響を無視してよい程度の大きさおよび本数であることとする。
【0035】
またここでは、エネルギー線Bの照射エネルギーを変化させた複数の第1のサンプル構造体S1を作製する。エネルギー線Bの照射エネルギーは、エネルギー線Bの走査速度v、電流値(照射密度)、照射ピッチのうちの何れか1つまたは複数によって変化させることができる。ここではエネルギー線の走査速度vを変化させた複数の第1のサンプル構造体S1を作製することする。エネルギー線の走査速度vとは、x方向に移動させるエネルギー線Bの速さである。第1のサンプル構造体S1の製造における走査速度vは、例えば製造装置1を用いた通常の三次元構造体の作製で適用される通常の速さを含む前後に、所定間隔で設定された各速度…v
-4,v
-3,…v
4,…であってよい。
【0036】
以上のようにして作製された第1のサンプル構造体S1のそれぞれは、先に説明した(1)、(2)のような粉末材料の溶融状態の変化に起因し、以下の4つの領域に分けられる。
【0037】
[第1領域A1]
第1領域A1は、下地構造位置(z=0)から近く、かつ1本の走査線内において走査開始位置(x=0)に近い範囲の領域である。このような第1領域A1は、先の(1)で説明したように下地構造位置(z=0)からの高さに応じて粉末材料の溶融状態にばらつきが生じ、かつ先の(2)で説明したように走査開始位置(x=0)からの距離に応じて硬化層101の状態にばらつきが生じる領域である。
【0038】
[第2領域A2]
第2領域A2は、下地構造位置(z=0)から近いが、1本の走査線内において走査開始位置(x=0)からある程度の距離がある範囲である。このような第2領域A2は、先の(1)で説明したように下地構造位置(z=0)からの高さに応じて粉末材料の溶融状態にばらつきが生じるが、1本の走査線内において直前の走査位置からの熱拡散の影響を安定して受けられる領域である。
【0039】
[第3領域A3]
第3領域A3は、下地構造位置(z=0)からある程度の距離があるが、1本の走査線内において走査開始位置(x=0)に近い範囲の領域である。このような第3領域A3は、下地構造からの熱拡散の影響は小さく抑えられるものの、先の(2)で説明したように走査開始位置(x=0)からの距離に応じて粉末材料の溶融状態にばらつきが生じる領域である。
【0040】
[第4領域A4]
第4領域A4は、下地構造位置(z=0)からある程度の距離があるため下地構造から影響を受けることはない。また1本の走査線内において走査開始位置(x=0)からある程度の距離があるため直前の走査位置からの熱拡散の影響を安定して受けられる領域である。このような第4領域A4は、粉末材料の溶融状態が均一な領域である。
【0041】
次に、以上のようにして作製した複数の第1のサンプル構造体S1を用い、上述した粉末材料の溶融状態のばらつきを抑制するための照射エネルギーの補正値を求める。以下においては、第1領域A1〜第4領域A4の領域毎に補正値を求める手順を説明する。しかしながら、以下に示す第1のサンプル構造体S1を用いて補正値を求める手順は、各領域毎に実施されることに限定されず、各領域の欠陥解析をまとめて実施した後で、各領域の補正値をまとめて算出してもよい。
【0042】
<第2領域A2における補正値>
先ず、作製した複数の第1のサンプル構造体S1を用い、三次元構造体の第2領域A2を製造する場合の(1)高さ方向(z方向)のばらつきを抑制するためのエネルギー線Bの補正値を求める手順を説明する。
【0043】
[第2領域A2を含む領域のz方向の欠陥解析]
図3は、第1のサンプル構造体S1の第2領域A2を含む領域における高さ方向(z方向)の欠陥解析を説明する図である。先ず、作製した複数の第1のサンプル構造体S1の第2領域A2を含む領域について、高さ方向(z方向)の欠陥解析を実施する。なお、欠陥解析は、例えば第1のサンプル構造体S1内にある単位体積あたりの空孔の体積によって評価する。単位体積あたりの空孔の体積は、X線による分析に基づいて算出し、これを欠陥発生率の一例とする。これは、以降においても同様である。
【0044】
この際、第1のサンプル構造体S1において、直前の走査位置からの熱拡散の影響が安定する長さ領域に、高さ方向(z方向)にわたる解析領域P2を設定する。この解析領域P2は、高さ方向(z方向)にわたる領域であって、第2領域A2から第4領域A4にわたっている。この長さ領域は、エネルギー線の走査開始位置(x=0)から十分に距離が離れていて、走査開始位置(x=0)からの距離に応じ粉末材料の溶融状態が変化することのない領域であって、確実に第2領域A2を含む領域である。そして、設定した解析領域P2についての欠陥解析を実施する。
【0045】
図4は、第1のサンプル構造体S1の第2領域A2を含む領域におけるz方向の欠陥発生率の一例を示すグラフである。ここで、第1のサンプル構造体S1の下地構造は、
図1を参照し、粉末材料100中に複数本の支柱102を設けた構成であって、硬化層101と比較して蓄熱効果が高い。このため(1)で説明したように、下地構造から離れて硬化層101の積層が進むにつれて、下地構造からの熱拡散の影響が小さくなり、硬化層101からの放熱の影響が大きくなる。
【0046】
また
図4のグラフに示すように、エネルギー線Bの走査速度vが速く照射エネルギーが小さいほど、z座標が小さく下地構造(z=0)から近い位置において、下層の硬化層101からの放熱量の変化の影響を受け始め、粉末材料の溶融が不十分となって欠陥の発生率が増加し始める。そして、硬化層101がある程度の積層数を超えると、硬化層101から安定した放熱が行われるようになって欠陥発生率が安定化する。
【0047】
一方、エネルギー線Bの走査速度vがある程度以下に遅い場合(v
0〜v
-4)、エネルギー線Bの照射量が十分である。このため、下地構造から近い範囲であっても下層の硬化層101からの放熱量の変化に影響されることなく粉末材料が十分に溶融し、硬化層101に欠陥が発生することはない。
【0048】
このように
図4に示す高さ方向の欠陥発生率として導出された解析結果は、各第1のサンプル構造体S1の解析位置情報と共に、
図1に示した三次元構造体の製造装置1の入力部16aから入力される。
【0049】
[第2領域A2の補正値の算出]
次に、
図1に示した補正データ作成部16bにおいて、入力部16aから入力された高さ方向(z方向)にわたる解析領域P2の解析結果に基づいて、第2領域A2の硬化層101の形成におけるエネルギー線Bの走査速度vの補正値を得る。この場合、各第1のサンプル構造体S1を作製した際の各走査速度vを、
図4に示した欠陥発生率が増加し始めるz座標位置においての補正走査速度とする。例えば、高さ位置z
4における補正走査速度を、走査速度v
4とする。
【0050】
図5は、三次元構造体の第2領域A2の製造に際してのz座標とエネルギー線Bの補正走査速度との関係を示すグラフである。このグラフは、各第1のサンプル構造体S1を作製した際の各走査速度vを、補正走査速度として欠陥の発生率が増加し始めるz座標位置に関連付けしたグラフであり、補正データ作成部16bにおいて算出した補正値の一例である。
【0051】
また補正データ作成部16bにおいては、先の
図4に示した解析結果から、欠陥発生率の変動がない走査速度v(v
0〜v
-4)のうち、最も速い速度v
0を基準速度v
0と定義する。
【0052】
次に、入出力制御部16fは、以上のようにして補正データ作成部16bにおいて算出した第2領域A2の補正走査速度を、補正データ記憶部16cに記憶させる。この際、入出力制御部16fは、算出した補正走査速度を、硬化層の高さ位置(すなわちz座標)と、硬化層を形成する際のエネルギー線の走査方向位置(すなわちx座標)とに対して関連付けた補正データとして記憶させる。
【0053】
<第3領域A3における補正値>
次に、作製した複数の第1のサンプル構造体S1を用い、三次元構造体の第3領域A3を製造する場合の(2)走査方向(x方向)のばらつきを抑制するためのエネルギー線Bの補正値を求める手順を説明する。
【0054】
[第3領域A3を含むx方向の欠陥解析]
図6は、第1のサンプル構造体S1の第3領域A3を含む領域におけるエネルギー線Bの走査方向(x方向)の欠陥解析を説明する図である。先ず、作製した複数の第1のサンプル構造体S1の第3領域A3を含む領域について、走査方向(x方向)の欠陥解析を実施する。
【0055】
この際、第1のサンプル構造体S1において、下層からの熱的影響が安定する高さ領域に、走査方向(x方向)にわたる解析領域P3を設定する。この解析領域P3は、高さ方向(x方向)にわたる領域であって、第3領域A3から第4領域A4にわたっている。この高さ領域は、下地構造位置(z=0)から十分に距離が離れていて、下地構造位置(z=0)からの距離に応じて粉末材料の溶融状態が変化することのない高さ領域であって、確実に第3領域A3を含む領域である。そして、設定した解析領域P3についての欠陥解析を実施する。
【0056】
図7は、第1のサンプル構造体S1の第3領域A3を含む領域における走査方向(x方向)の欠陥発生率の一例を示すグラフである。このグラフに示すように、エネルギー線Bの走査速度vが遅く照射エネルギーが大きい程、x座標が小さく走査開始位置(x=0)により近い位置において、直前の走査位置からの熱拡散の影響を受け始め、粉末材料の溶融が十分となって欠陥発生率がゼロ近くの一定値(ここではゼロとする)に収束する。
【0057】
一方、エネルギー線Bの走査速度vがある程度を超えて速くなった場合(v>v
0)、走査が進んだ位置では、直前の走査位置からの熱拡散の影響を受けるものの、エネルギー線Bも照射エネルギーが不十分となる。このため、欠陥発生率がゼロに収束することはなく、収束する場合であってもゼロよりも高い値に収束する。
【0058】
このように
図7に示す走査方向の欠陥発生率として導出された解析結果は、第1のサンプル構造体S1の解析位置情報と共に、
図1に示した三次元構造体の製造装置1の入力部16aから入力される。
【0059】
[第3領域A3の補正値の算出]
次に、
図1に示した補正データ作成部16bにおいて、入力部16aから入力された走査方向(x方向)にわたる解析領域P3の解析結果に基づいて、第3領域A3の硬化層101の形成におけるエネルギー線Bの走査速度vの補正値を得る。この場合、各第1のサンプル構造体S1を作製した際の各走査速度vを、
図7に示した欠陥発生率がゼロに収束するx座標位置においての補正走査速度とする。例えば、走査方向位置x
4における補正走査速度を、走査速度v
−4とする。
【0060】
図8は、三次元構造体の第3領域A3の製造に際してのx座標とエネルギー線Bの補正走査速度との関係を示すグラフである。このグラフは、第1のサンプル構造体S1を作製した際の走査速度vを、補正走査速度として欠陥の発生率がゼロに収束するx座標位置に関連付けしたグラフであり、補正データ作成部16bにおいて算出した補正値の一例である。
【0061】
また補正データ作成部16bにおいては、先の
図7に示した解析結果から、欠陥発生率がゼロに収束する走査速度vのうち、最も速い速度v
0を基準速度v
0と定義する。この基準速度v
0は、第2領域A2を含む領域の欠陥解析で定義した基準速度v
0と同じ値となる。なお、第2領域A2を含む領域の欠陥解析で得た基準速度v
0と、第2領域A2を含む領域の欠陥解析で得た基準速度V
0とが一致しない場合には、解析領域P2,P3をずらし、再度の欠陥解析を実施することが好ましい。
【0062】
次に、入出力制御部16fは、以上のようにして補正データ作成部16bにおいて算出した第3領域A3の補正走査速度を、補正データ記憶部16cに記憶させる。この際、入出力制御部16fは、算出した補正走査速度を、硬化層の高さ位置(すなわちz座標)と、硬化層を形成する際のエネルギー線の走査方向位置(すなわちx座標)とに対して関連付けた補正データとして記憶させる。
【0063】
<領域の定義>
次に、補正データ作成部16bにおいては、第1領域A1の補正値を算出するために実施する欠陥解析の領域を確定するために、第1領域A1〜第4領域A4の範囲を定義する。ここでは、先の
図4に示した解析結果および
図7に示した第2領域A2および第3領域A3の補正値を算出するための解析結果に基づいて、第1領域A1〜第4領域A4の範囲を定義する。
【0064】
この際、先ず、
図5に示した第2領域A2の補正値の算出結果から、補正走査速度vが基準速度v
0となる最も小さいz座標位置までの領域(z≦z
0)を、第2領域A2を含む領域として定義する。つまり、ここで定義される第2領域A2を含む領域(z≦z
0)は、第2領域A2と共に第1領域A1も含んでいる。
【0065】
また、
図8に示した第3領域A3の補正値の算出結果から、補正走査速度vが基準速度v
0となる最も小さいx座標位置までの領域(x≦x
0)を、第3領域A3を含む領域として定義する。つまり、ここで定義される第3領域A3を含む領域(x≦x
0)は、第3領域A3と共に第1領域A1も含んでいる。
【0066】
以上の後、先に定義した第2領域A2を含む領域(z≦z
0)のうち、第3領域A3を含む領域(x≦x
0)を除いた領域(x>x
0、z≦z
0)を、第2領域A2と定義する。
【0067】
また先に定義した第3領域A3を含む領域領域(x≦x
0)のうち、第2領域A2を含む領域(z≦z
0)を除いた領域(x≦x
0、z>z
0)を、第3領域A3と定義する。
【0068】
さらに、先に定義した第2領域A2を含む領域(z≦z
0)と第3領域A3を含む領域領域(x≦x
0)とが重複する領域(x≦x
0、z≦z
0)を、第1領域A1と定義する。
【0069】
そして、それ以外の領域(x>x
0、z>z
0)を、第4領域A4と定義する。
【0070】
なお、以上で定義した第1領域A1は、この時点において第2領域A2との界面が明確ではない。しかしながら、ここで定義する第1領域A1は、次に実施する欠陥解析の領域を確定するために定義する領域であるため、第1領域A1を含んでいればよく、正確性が問われることはない。
【0071】
<第1領域A1における補正値>
次に、作製した複数の第1のサンプル構造体S1を用い、三次元構造体の第1領域A1を製造する場合の(1)高さ方向(z方向)および(2)走査方向(x方向)のばらつきを抑制するためのエネルギー線Bの補正値を導出する手順を説明する。
【0072】
図9は、三次元構造体の第2領域A2および第3領域A3の補正データを示すグラフである。このグラフは、
図5のグラフと
図8のグラフを合わせたグラフである。次に、以下のようにして、
図9に示す第1領域A1についての硬化層101の形成における、エネルギー線Bの走査方向(x方向)の走査速度vの補正値を求める。
【0073】
[第1領域A1を含むz方向の欠陥解析]
図10は、第1のサンプル構造体S1の第1領域A1を含む領域における高さ方向(z方向)の欠陥解析を説明する図である。この図に示すように、作製した複数の第1のサンプル構造体S1の第1領域A1のそれぞれにおいて、各x座標位置(x
1,x
2,x
3,x
4)の高さ方向(z方向)の欠陥解析を実施する。ここで選択するx座標位置(x
1,x
2,x
3,x
4)は、直前の走査位置からの熱拡散の影響が変化する領域であって、先に定義された第1領域A1(x≦x
0、z≦z
0)を含む領域であれば特に限定されることはないが、補正する走査速度vの変化が大きい複数の位置とすることが好ましい。
【0074】
この際、選択した各x座標位置(x
1,x
2,x
3,x
4)に、高さ方向(z方向)にわたる解析領域P1zをそれぞれ設定する。そして、各解析領域P1zについての欠陥解析を、先に説明した第2領域A2を含むz方向の欠陥解析と同様に実施する。
【0075】
そして、欠陥発生率として導出された解析結果は、各第1のサンプル構造体S1の解析位置情報と共に、
図1に示した三次元構造体の製造装置1の入力部16aから入力される。
【0076】
[第1領域A1の補正値の算出−1]
次に、
図1に示した三次元構造体の製造装置1の補正データ作成部16bにおいて、入力部16aから入力された高さ方向(z方向)にわたる解析領域P1zの解析結果に基づいて、第1領域A1の硬化層101の形成におけるエネルギー線Bの走査速度vの補正値を得る。この場合、先に説明した第2領域A2のエネルギー補正と同様に、各第1のサンプル構造体S1を作製した際の走査速度vを、欠陥発生率が増加し始めるz座標位置においての補正走査速度とする。
【0077】
図11は、三次元構造体の第1領域A1の製造に際しての、解析領域P1zが設定された各x座標位置(x
1,x
2,x
3,x
4)においてのz座標とエネルギー線の補正走査速度との関係を示すグラフである。このグラフは、各解析領域P1zに対応する各x座標位置(x
1,x
2,x
3,x
4)について、第1のサンプル構造体S1を作製した際の走査速度vを、欠陥発生率が増加し始めるz座標位置に関連付けしたグラフであり、補正データ作成部16bにおいて算出した補正値の一例である。
【0078】
図11に示すように、第1領域A1においては、高さ位置および走査方向位置に応じた補正走査速度が割り振られることになる。
【0079】
[第1領域A1を含むx方向の欠陥解析]
図12は、第1のサンプル構造体S1の第1領域A1を含む領域における走査方向(x方向)の欠陥解析を説明する図である。この図に示すように、作製した複数の第1のサンプル構造体S1の第1領域A1のそれぞれにおいて、各z座標位置(z
1,z
2,z
3,z
4)の走査方向(x方向)の欠陥解析を実施する。ここで選択するz座標位置(z
1,z
2,z
3,z
4)は、下層からの熱的影響が変化する高さ領域であって、先に定義された第1領域A1(x≦x
0、z≦z
0)を含む領域であれば特に限定されることはないが、補正する走査速度vの変化が大きい複数の位置とすることが好ましい。
【0080】
この際、選択した各z座標位置(z
1,z
2,z
3,z
4)に、走査方向(x方向)に延設する解析領域P1xをそれぞれ設定する。そして、各解析領域P1xについての欠陥解析を、先に説明した第3領域A3を含むx方向の欠陥解析と同様に実施する。
【0081】
そして、欠陥発生率として導出された解析結果は、各第1のサンプル構造体S1の解析位置情報と共に、
図1に示した三次元構造体の製造装置1の入力部16aから入力される。
【0082】
[第1領域A1の補正値の算出−2]
次に、
図1に示した三次元構造体の製造装置1の補正データ作成部16bにおいて、入力部16aから入力された走査方向(x方向)にわたる解析領域P1xの解析結果に基づいて、第1領域A1の硬化層101の形成におけるエネルギー線Bの走査速度vの補正値を得る。この場合、先に説明した第3領域A3のエネルギー補正と同様に、各第1のサンプル構造体S1を作製した際の走査速度vを、欠陥発生率がゼロ近くの一定値(ここではゼロとする)に収束するx座標位置においての補正走査速度とする。
【0083】
図13は、三次元構造体の第1領域A1の製造に際しての、解析領域P1xが設定された各z座標位置(z
1,z
2,z
3,z
4)においてのx座標とエネルギー線の補正走査速度との関係を示すグラフである。このグラフは、各解析領域P1xに対応する各z座標位置(z
1,z
2,z
3,z
4)について、第1のサンプル構造体S1を作製した際の走査速度vを、欠陥発生率がゼロに収束するx座標位置に関連付けしたグラフであり、補正データ作成部16bにおいて算出した補正値の一例である。
【0084】
図13に示すように、第1領域A1においては、高さ位置および走査方向位置に応じた補正走査速度が割り振られることになる。
【0085】
[第1領域A1の補正値の算出−3]
図14は、三次元構造体の製造に際してのz座標とx座標とエネルギー線の補正走査速度との関係を示すグラフであって、
図5、
図8、
図11、および
図13のグラフを合成したグラフである。補正データ作成部16bは、このグラフに示すように、第1領域A1を含むz方向の欠陥解析によって得た補正値(
図11)と、先に定義した第1領域A1を含むx方向の欠陥解析によって得た補正値(
図13)とを合成して第1領域A1の照射エネルギーの補正値を求めてもよい。なお、
図14においては、先に定義した第1領域A1における補正走査速度がカーブを描いている。しかしながら、先に定義した第1領域A1における第2領域A2との界面付近においては、補正走査速度が直線の領域も発生しうる。
【0086】
次に、入出力制御部16fは、以上の算出−1〜算出−3のように補正データ作成部16bにおいて算出した第1領域A1の補正走査速度を、補正データ記憶部16cに記憶させる。この際、入出力制御部16fは、算出した補正走査速度を、硬化層の高さ位置(すなわちz座標)と、硬化層を形成する際のエネルギー線の走査方向位置(すなわちx座標)とに対して関連付けた補正データとして記憶させる。
【0087】
<第2のサンプル構造体S2の作製>
次に、三次元構造体の製造装置1を用いて、第2のサンプル構造体S2を作製する。ここで作製する第2のサンプル構造体S2は、上述した(3)のばらつきを抑制するための、走査必要時間[t(L)]の算出に用いる。ここで走査必要時間[t(L)]とは、エネルギー線の走査が開始されてから、隣接する次の走査線に沿った前記エネルギー線の走査が開始されるまでに必要とする時間である。
【0088】
図15は、第2のサンプル構造体S2の作製と、第2のサンプル構造体S2のエネルギー線Bの走査方向(x方向)の欠陥解析を説明する図である。この図に示すように、第2のサンプル構造体S2の作製は、第1のサンプル構造体S1の作製と同様のラスター走査によって実施する。この際、エネルギー線Bの走査速度vは、先に求めた補正走査速度であることとする。
【0089】
またここでは、エネルギー線Bの走査方向(x方向)の長さ(Lx)を変化させた複数の第2のサンプル構造体S2を作製する。各第2のサンプル構造体S2の走査方向(x方向)の長さ(Lx=Lx1>Lx2>Lx3>,…)は、第3領域A3と第4領域A4との境界を挟んだ各長さであることとする。
【0090】
また各第2のサンプル構造体S2は、下地構造の影響が及ぶことのない程度に十分な高さ(Lz)を有する。このような第2のサンプル構造体S2は、立方体形状であってよい。
【0091】
以上のようにして作製された第2のサンプル構造体S2のそれぞれは、先に説明した(1)、(2)のような粉末材料の溶融状態の変化に起因し、先に説明した領域と同様の第1領域A1〜第4領域A4の4つの領域に分けられる。
【0092】
<エネルギー線の走査必要時間の算出>
次に、以上のようにして作製した複数の第2のサンプル構造体S2に基づいて、三次元構造体を製造する場合の、(3)走査線の隣接方向(y方向)のばらつきを抑制するための走査必要時間の算出を以下の手順で実施する。
【0093】
[x方向の欠陥解析]
先ず、作製した複数の第2のサンプル構造体S2の各z座標位置について、走査方向(x方向)の欠陥解析を実施する。この際、第2のサンプル構造体S2のそれぞれにおいて、下地構造位置(z=0)から近い第1領域A1および第2領域A2には、複数のz座標位置に、走査方向(x方向)にわたる解析領域P3を設定する。一方、下地構造位置(z=0)から十分に距離が離れていて、下層からの熱的影響が安定する高さ第3領域A3および第4領域A4には、少なくとも1つのz座標位置に、走査方向(x方向)にわたる解析領域P3を設定する。そして、設定した各解析領域P3についての欠陥解析を実施する。
【0094】
図16は、第2のサンプル構造体S2の各z座標位置に設定した解析領域P3のうちの1つにおける走査方向(x方向)の欠陥発生率の一例を示すグラフである。このグラフに示すように、走査方向(x方向)の長さ(Lx)が短い程、1本前の走査線からの熱拡散の影響を受け易いため、走査開始位置(x=0)からより近い位置において、粉末材料が十分に溶融して欠陥発生率がゼロ近くの一定値(ここではゼロとする)に収束する。
【0095】
また、エネルギー線Bの走査方向(x方向)の長さ(Lx)が有る程度長くなると(ここでは、Lx3〜Lxl)、1本前の走査線からの熱拡散の影響がなくなり、1本の走査線の直前の走査位置からの熱拡散の影響のみとなるため、欠陥発生率がゼロに収束するx座標位置が一定になる。
【0096】
このように
図16に示す走査方向(x方向)の欠陥発生率として導出された各z座標位置についての解析結果は、第2のサンプル構造体S2の解析位置情報と共に、
図1に示した三次元構造体の製造装置1の入力部16aから入力される。
【0097】
[走査必要時間の算出]
次に、
図1に示した三次元構造体の製造装置1の必要時間算出部16dにおいて、入力部16aから入力された第2のサンプル構造体S2の解析結果に基づいて、エネルギー線の走査必要時間の算出を行う。
【0098】
この場合、
図16に示す解析結果から、1本前の走査線からの熱拡散の影響を受けることのない長さ(Lx)の下限値の長さ(Lx3)を、z座標位置毎に抽出する。1本の走査線がこの下限値の長さ(Lx3)よりも長ければ、隣接する次の走査線に対するエネルギー線Bの走査において、1本前の走査線からの熱拡散の影響を排除することができる。
【0099】
そこで、抽出した下限値の長さ(Lx3)の走査線の走査に要する時間を、各z座標位置の走査必要時間[t
L(z)]として下記式(1)に基づいて算出する。
【0101】
次に、入出力制御部16fは、以上のようにして必要時間算出部16dにおいて算出した各z座標位置の走査必要時間[t
L(z)]を、必要時間記憶部16eに記憶させる。なお、この各z座標位置の走査必要時間[t
L(z)]は、z座標を横軸としたグラフにプロットし、フィッティングさせたz座標の関数として必要時間記憶部16eに記憶させることが好ましい。
【0102】
<硬化層の形成>
以上の後、入出力制御部16fは、補正データ記憶部16cに記憶された補正データと、必要時間記憶部16eに記憶された走査必要時間[t
L(z)]と、入力部16aから入力された三次元構造体の形状データとに基づいて、エネルギー線照射部15によるエネルギー線Bの照射を制御して硬化層の形成を行う。
【0103】
この際、入出力制御部16fは、エネルギー線Bの走査速度vを、硬化層を形成する高さ位置とエネルギー線Bの走査方向位置とに関連付けされた補正走査速度に補正しながら、エネルギー線照射部15からのエネルギー線Bの照射を実施する。
【0104】
また、入出力制御部16fは、作製する三次元構造体の走査方向(x方向)の長さ(Lx)を、走査必要時間[t
L(z)]の算出のために抽出した下限値の長さ(Lx3)と比較する。そして、その長さ(Lx)が下限値の長さ(Lx3)よりも短い場合には、その長さの差分[(Lx3)−(Lx)]に対応する走査時間を、待機時間[td]として算出する。そして長さ(Lx)の走査線の走査が終了した後に、隣接する次の走査線に対してエネルギー線Bの走査を開始するまでの間に、待機時間[td]を設けるように走査線の移動を補正する。
【0105】
以上の実施形態で説明した三次元構造体の製造装置1および製造方法によれば、第1のサンプル構造体S1の欠陥解析によって得た補正走査速度でエネルギー線を走査させながら粉末材料層100aにエネルギー線を照射することにより、上記(1)、(2)の溶融状態のばらつきを抑えた三次元構造体を得ることが可能である。また第2のサンプル構造体S2の欠陥解析によって得た走査必要時間を満たすように、エネルギー線を走査させながら粉末材料層100aにエネルギー線を照射することにより、上記(3)の溶融状態のばらつきを抑えた三次元構造体を得ることが可能である。