(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887935
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】データ処理装置及びデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2273 20180101AFI20210603BHJP
【FI】
G01N23/2273
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-216301(P2017-216301)
(22)【出願日】2017年11月9日
(65)【公開番号】特開2019-86455(P2019-86455A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】中川 靖英
(72)【発明者】
【氏名】島 政英
(72)【発明者】
【氏名】米井 和則
【審査官】
小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】
韓国登録特許第10−1440236(KR,B1)
【文献】
特開平11−316199(JP,A)
【文献】
特開平05−264484(JP,A)
【文献】
西澤 侑吾ほか,初期端点の自動調整機能を付加したactive Shirley法によるXPSバックグラウンドの自動推定,Journal of Surface Analysis,日本,一般社団法人表面分析研究会,2017年10月31日,Vol.24 No.1 (2017),p.36-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光分析装置で測定されたスペクトルを取得する取得部と、
前記スペクトルにおいてバックグラウンド除去の対象とするエネルギー範囲を設定し、設定した前記エネルギー範囲に基づいて前記スペクトルのバックグラウンドを除去するデータ処理部とを含み、
前記データ処理部は、
前記スペクトルの最大点に前記エネルギー範囲の一方の端点を仮設定し、前記スペクトルの最大エネルギー点又は最小エネルギー点に前記エネルギー範囲の他方の端点を仮設定し、前記一方の端点を前記他方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積を求め、当該ピーク面積が最大となる点を前記一方の端点として確定し、
前記スペクトルの最大点に前記他方の端点を仮設定し、前記他方の端点を前記一方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積を求め、当該ピーク面積が最大となる点を前記他方の端点として確定する、データ処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記データ処理部は、
前記一方の端点を前記他方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積とバックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積とを求め、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在する場合には、バックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積が最大となる点を前記一方の端点として確定し、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が1つのみ存在する場合には、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点を前記一方の端点として確定し、
前記他方の端点を前記一方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積とバックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積とを求め、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在する場合には、バックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積が最大となる点を前記他方の端点として確定し、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が1つのみ存在する場合には、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点を前記他方の端点として確定する、データ処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記データ処理部は、
前記スペクトルを平滑化する処理を行った後、前記エネルギー範囲を設定する、データ処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記データ処理部は、
前記スペクトルの最大エネルギー点及び最小エネルギー点を除く範囲において前記スペクトルの最大点を検出する、データ処理装置。
【請求項5】
分光分析装置で測定されたスペクトルを取得する取得ステップと、
前記スペクトルにおいてバックグラウンド除去の対象とするエネルギー範囲を設定し、設定した前記エネルギー範囲に基づいて前記スペクトルのバックグラウンドを除去するデータ処理ステップとを含み、
前記データ処理ステップでは、
前記スペクトルの最大点に前記エネルギー範囲の一方の端点を仮設定し、前記スペクト
ルの最大エネルギー点又は最小エネルギー点に前記エネルギー範囲の他方の端点を仮設定し、前記一方の端点を前記他方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積を求め、当該ピーク面積が最大となる点を前記一方の端点として確定し、
前記スペクトルの最大点に前記他方の端点を仮設定し、前記他方の端点を前記一方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積を求め、当該ピーク面積が最大となる点を前記他方の端点として確定する、データ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光分析装置で測定されたスペクトルのバックグラウンドを除去するデータ処理装置及びデータ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
XPS(X線光電子分光装置)で測定された光電子ピークのバックグラウンド除去方法として、Shirley法がよく使用される。Shirley法とは、電子が高エネルギーから低エネルギーへエネルギーを失う際の非弾性バックグラウンドを、失うエネルギーの大きさに依らず一定と仮定して、バックグラウンドの形状を決定する方法である。Shirley法では、あるエネルギーEでのバックグラウンドg(E)は、以下の式で表される。
【0003】
【数1】
ここで、J(E)はスペクトルであり、K(E)は非弾性散乱微分断面積であり、Q(E)はスペクトルの面積強度である。このように、バックグラウンドg(E)がスペクトルJ(E)の面積強度に比例した形で示すものである(
図8参照)。Shirley法では、理論的に運動エネルギー表示で、バックグラウンドの除去範囲(バックグラウンド除去を適用するエネルギー範囲)の境界の終了点での値は開始点での値よりも小さい値である必要がある。
【0004】
また、簡単なバックグラウンド除去方法として、線形法が知られている。線形法とは、バックグラウンド除去範囲の境界の開始点と終了点を定め、その間を線形で結び、それ以下をバックグラウンドとして除去する方法である(
図9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−110313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Shirley法や線形法の問題点は、バックグラウンドの除去範囲の境界を系統的に与えるものがなく、ユーザ(解析者)の判断で尤もらしい位置に境界を設定する必要があり、ユーザによって誤差が生じてしまうことである。例えば、
図10〜
図12に示す例では、全てShirley法によってバックグラウンドg(E)を求めているが、境界(開始点、終了点)を設定する位置によってバックグラウンドg(E)の形状に差が生じている。特に、
図11に示す例では、境界の開始点が適切な位置に設定されていないため、バックグラウンドg(E)がスペクトルJ(E)を上回る領域があり、この領域ではバックグラウンド除去後の値が負となり、理論的に存在し得ないスペクトルとなっている。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、バックグラウンド除去を適用するエネルギー範囲をユーザの判断に依らず自動で決定することが可能なデータ処理装置及びデータ処理方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るデータ処理装置は、分光分析装置で測定されたスペクトルを取得す
る取得部と、前記スペクトルにおいてバックグラウンド除去の対象とするエネルギー範囲を設定し、設定した前記エネルギー範囲に基づいて前記スペクトルのバックグラウンドを除去するデータ処理部とを含み、前記データ処理部は、前記スペクトルの最大点に前記エネルギー範囲の一方の端点を仮設定し、前記スペクトルの最大エネルギー点又は最小エネルギー点に前記エネルギー範囲の他方の端点を仮設定し、前記一方の端点を前記他方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積を求め、当該ピーク面積が最大となる点を前記一方の端点として確定し、前記スペクトルの最大点に前記他方の端点を仮設定し、前記他方の端点を前記一方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積を求め、当該ピーク面積が最大となる点を前記他方の端点として確定する。
【0009】
また、本発明に係るデータ処理方法は、分光分析装置で測定されたスペクトルを取得する取得ステップと、前記スペクトルにおいてバックグラウンド除去の対象とするエネルギー範囲を設定し、設定した前記エネルギー範囲に基づいて前記スペクトルのバックグラウンドを除去するデータ処理ステップとを含み、前記データ処理ステップでは、前記スペクトルの最大点に前記エネルギー範囲の一方の端点を仮設定し、前記スペクトルの最大エネルギー点又は最小エネルギー点に前記エネルギー範囲の他方の端点を仮設定し、前記一方の端点を前記他方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積を求め、当該ピーク面積が最大となる点を前記一方の端点として確定し、前記スペクトルの最大点に前記他方の端点を仮設定し、前記他方の端点を前記一方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積を求め、当該ピーク面積が最大となる点を前記他方の端点として確定する。
【0010】
本発明によれば、バックグラウンド除去後のピーク面積が最大となる点を、バックグラウンド除去を適用するエネルギー範囲の境界(端点)として設定することで、バックグラウンド除去を適用するエネルギー範囲をユーザの判断に依らず数学的に自動で決定することができる。
【0011】
(2)本発明に係るデータ処理装置及びデータ処理方法では、前記データ処理部は(前記データ処理ステップでは)、前記一方の端点を前記他方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積とバックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積とを求め、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在する場合には、バックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積が最大となる点を前記一方の端点として確定し、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が1つのみ存在する場合には、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点を前記一方の端点として確定し、前記他方の端点を前記一方の端点から遠ざかる方向に変化させながらバックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積とバックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積とを求め、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在する場合には、バックグラウンド除去後の前記エネルギー範囲のピーク面積が最大となる点を前記他方の端点として確定し、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が1つのみ存在する場合には、前記値が負となる領域のピーク面積が最大となる点を前記他方の端点として確定する。
【0012】
本発明によれば、バックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在する場合には、バックグラウンド除去後のピーク面積が最大となる点を、バックグラウンド除去を適用するエネルギー範囲の境界として設定し、バックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が1つのみ存在する場合には、当該値が負となる領域のピーク面積が最大となる点を、バックグラウンド除去を適用するエネルギー範囲の境界として設定することで、バックグラウンド除去を適用するエ
ネルギー範囲をより適切に決定することができる。
【0013】
(3)本発明に係るデータ処理装置及びデータ処理方法では、前記データ処理部は(前記データ処理ステップでは)、前記スペクトルを平滑化する処理を行った後、前記エネルギー範囲を設定してもよい。
【0014】
本発明によれば、スパイクノイズによる影響を排除して、バックグラウンド除去を適用するエネルギー範囲をより適切に決定することができる。
【0015】
(4)本発明に係るデータ処理装置及びデータ処理方法では、前記データ処理部は(前記データ処理ステップでは)、前記スペクトルの最大エネルギー点及び最小エネルギー点を除く範囲において前記スペクトルの最大点を検出してもよい。
【0016】
本発明によれば、スペクトルの両端での急激な立ち上がりによる影響を排除して、バックグラウンド除去を適用するエネルギー範囲をより適切に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係るデータ処理装置の機能ブロック図の一例を示す図。
【
図2】第1の手法の処理の流れを示すフローチャート。
【
図5】第2の手法の処理の流れを示すフローチャート。
【
図8】Shirley法について説明するための図。
【
図10】バックグラウンド除去範囲の境界の設定位置によるバックグラウンドの違いを示す図。
【
図11】バックグラウンド除去範囲の境界の設定位置によるバックグラウンドの違いを示す図。
【
図12】バックグラウンド除去範囲の境界の設定位置によるバックグラウンドの違いを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0019】
1.構成
図1に、本実施形態に係るデータ処理装置の機能ブロック図の一例を示す。なお本実施形態のデータ処理装置は
図1の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。
【0020】
データ処理装置10は、試料の分光分析を行う分光分析装置1で測定されたスペクトルのバックグラウンドを除去する装置である。本実施形態では、分光分析装置1がX線光電子分光装置(XPS、ESCA)である場合を例にとって説明するが、分光分析装置1は、オージェ電子分光装置(AES)や、エネルギー分散型X線分析装置(EDS、EDX)、核磁気共鳴装置(NMR)、電子スピン共鳴装置(ESR)、電子エネルギー損失分光分析装置(EELS)であってもよい。
【0021】
データ処理装置10は、処理部20と、操作部30と、表示部40と、記憶部50とを
含んでいる。
【0022】
操作部30は、ユーザが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部20に出力する。操作部30の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル、タッチパッドなどのハードウェアにより実現することができる。
【0023】
表示部40は、処理部20によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRT、操作部30としても機能するタッチパネルなどにより実現できる。
【0024】
記憶部50は、処理部20の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムや各種データを記憶するとともに、処理部20のワーク領域として機能し、その機能はハードディスク、RAMなどにより実現できる。
【0025】
処理部20(コンピュータ)は、スペクトルを取得してバックグラウンドを除去する処理、データ処理結果を表示部40に表示させる処理等を行う。処理部20の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部20は、取得部22、データ処理部24を含む。
【0026】
取得部22は、分光分析装置1で測定されたスペクトルを取得し、取得したスペクトルを記憶部50に記憶させる。
【0027】
データ処理部24は、前記スペクトルにおいてバックグラウンド除去の対象とするエネルギー範囲(バックグラウンド除去範囲)の境界を設定し、設定したバックグラウンド除去範囲に基づいて、前記スペクトルのバックグラウンドをShirley法又は線形法により除去する処理を行う。
【0028】
また、処理部20は、バックグラウンドが除去されたスペクトルに基づいて試料の分光分析(定性分析、定量分析等)を行い、分光分析結果を表示部40に表示させる処理を行ってもよい。
【0029】
2.本実施形態の手法
次に本実施形態の手法について図面を用いて説明する。ここでは、バックグラウンド除去後の値が極力負とならない位置にバックグラウンド除去範囲の境界を設定するための2つの方法について説明する。
【0030】
2−1.第1の手法
第1の手法では、バックグラウンド除去後のピーク面積が境界内で最大となる点を、バックグラウンド除去範囲の境界(開始点、終了点)として設定する。
【0031】
図2は、第1の手法の処理の流れを示すフローチャートである。まず、データ処理部24は、スペクトルを平滑化する処理を行う(ステップS10)。スペクトルの平滑化の手法としては、例えばSavitzky−Golay法を用いることができる。スペクトルの平滑化を行うことで、スパイクノイズによる影響を排除することができる。
【0032】
次に、データ処理部24は、スペクトルの最大点(最大値となるピーク位置)を検出する(ステップS11)。ここで、スペクトルの最大エネルギー点及び最小エネルギー点を除く範囲(例えば、スペクトル全長の20〜80%の範囲)内において最大点を検出することで、スペクトルの両端での急激な立ち上がりによる影響を排除することができる。
【0033】
次に、データ処理部24は、スペクトルの最大点にバックグラウンド除去範囲の開始点
(一方の端点)を仮設定し、スペクトルの最大エネルギー点にバックグラウンド除去範囲の終了点(他方の端点)を仮設定する(ステップS12)。次に、データ処理部24は、開始点を低エネルギー側(他方の端点から遠ざかる方向)に変化させながら、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点(ステップS12で仮設定した終了点)間のピーク面積を算出し(ステップS13)、算出したピーク面積が最大となる点を開始点として確定する(ステップS14)。バックグラウンド除去後の開始点‐終了点間のピーク面積とは、開始点‐終了点間のスペクトルから、開始点‐終了点間でShirley法又は線形法により決定したバックグラウンドを差し引いた面積である。
【0034】
図3には、スペクトルの最大点に仮設定された開始点を最小エネルギー点まで変化させたときの、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点間のピーク面積(開始点‐終了点間のスペクトルJ(E)から、開始点‐終了点間でShirley法により決定したバックグラウンドを差し引いた面積)の変化が示されている。また、当該ピーク面積が最大となる点が、開始点として確定されている。なお、
図3に示すバックグラウンドg(E)は、確定された開始点と仮設定された終了点間で決定したバックグラウンドを示している。
【0035】
次に、データ処理部24は、スペクトルの最大点に終了点を仮設定し(ステップS15)、終了点を高エネルギー側(一方の端点から遠ざかる方向)に変化させながら、バックグラウンド除去後の開始点(ステップS14で確定した開始点)‐終了点間のピーク面積を算出し(ステップS16)、算出したピーク面積が最大となる点を終了点として確定する(ステップS17)。
【0036】
図4には、スペクトルの最大点に仮設定された終了点を最大エネルギー点まで変化させたときの、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点間のピーク面積(開始点‐終了点間のスペクトルJ(E)から、開始点‐終了点間でShirley法により決定したバックグラウンドを差し引いた面積)の変化が示されている。また、当該ピーク面積が最大となる点が、終了点として確定されている。なお、
図4に示すバックグラウンドg(E)は、確定された開始点と確定された終了点間で決定したバックグラウンドを示している。
【0037】
なお、ステップS13で開始点を確定せずに、ステップS17で終了点を確定した後、再度、スペクトルの最大点に開始点を仮設定し、当該開始点を低エネルギー側に変化させながらバックグラウンド除去後の開始点‐終了点(ステップS17で確定した終了点)間のピーク面積を算出し、算出したピーク面積が最大となる点を開始点として確定してもよい。
【0038】
また、スペクトルの最大点にバックグラウンド除去範囲の一方の端点を仮設定し、スペクトルの最小エネルギー点に他方の端点を仮設定し、仮設定した一方の端点を高エネルギー側に変化させながらバックグラウンド除去後の両端点間のピーク面積を算出し、算出したピーク面積が最大となる点を一方の端点として確定した後、スペクトルの最大点に仮設定した他方の端点を低エネルギー側に変化させながらバックグラウンド除去後の両端点間のピーク面積を算出し、算出したピーク面積が最大となる点を他方の端点として確定するようにしてもよい。
【0039】
このように、本実施形態の第1の手法によれば、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点間(両端点間)のピーク面積が最大となる点を、バックグラウンド除去範囲の境界として確定することで、バックグラウンド除去範囲をユーザの判断に依らず数学的に自動で決定することができる。
【0040】
2−2.第2の手法
第2の手法では、バックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積が最大
(最も0に近い値)となる点を、バックグラウンド除去範囲の境界(開始点、終了点)として設定する。但し、値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在する場合には、第1の手法と同様に、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点間のピーク面積が最大となる点を、バックグラウンド除去範囲の境界として設定する。
【0041】
図5は、第2の手法の処理の流れを示すフローチャートである。なお、ステップS20〜S22は、第1の手法のステップS10〜S12と同様の処理であるから説明を省略する。
【0042】
データ処理部24は、スペクトルの最大点に仮設定した開始点を低エネルギー側に変化させながら、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点(ステップS22で仮設定した終了点)間のピーク面積と、バックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積とを算出する(ステップS23)。値が負となる領域のピーク面積とは、バックグラウンドがスペクトルを上回る領域のバックグラウンド除去後の面積の合計値であり、開始点‐終了点間でバックグラウンドがスペクトルを上回る領域が存在しない場合には0となる。次に、データ処理部24は、値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在するか否かを判断する(ステップS24)。当該値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が1つのみ存在する場合(ステップS24のN)には、値が負となる領域のピーク面積が最大となる点を開始点として確定し(ステップS25)、値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在する場合(ステップS24のY)には、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点間のピーク面積が最大となる点を開始点として確定する(ステップS26)。
【0043】
図6、
図7には、スペクトルの最大点に仮設定された開始点を最小エネルギー点まで変化させたときの、バックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積の変化が示されている。
図6に示す例では、値が負となる領域のピーク面積が最大(最も0に近い値)となる点が1つのみ存在するため、値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が開始点として確定されている。一方、
図7に示す例では、値が負となる領域のピーク面積が最大(ここでは、0)となる点が複数存在するため、第1の手法と同様に、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点間のピーク面積が最大となる点が開始点として確定される。なお、
図6、
図7に示すバックグラウンドg(E)は、確定された開始点と仮設定された終了点間で決定したバックグラウンドを示している。
【0044】
次に、データ処理部24は、スペクトルの最大点に終了点を仮設定し(ステップS27)、終了点を高エネルギー側に変化させながら、バックグラウンド除去後の開始点(ステップS25、S26で確定した開始点)‐終了点間のピーク面積と、バックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積とを算出する(ステップS28)。次に、データ処理部24は、値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在するか否かを判断する(ステップS29)。値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が1つのみ存在する場合(ステップS29のN)には、値が負となる領域のピーク面積が最大となる点を終了点として確定し(ステップS30)、当該値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在する場合(ステップS29のY)には、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点間のピーク面積が最大となる点を終了点として確定する(ステップS31)。
【0045】
このように、本実施形態の第2の手法によれば、バックグラウンド除去によって値が負となる領域のピーク面積が最大となる点を、バックグラウンド除去範囲の境界として確定し、値が負となる領域のピーク面積が最大となる点が複数存在する場合には、第1の手法と同様に、バックグラウンド除去後の開始点‐終了点間のピーク面積が最大となる点を、バックグラウンド除去範囲の境界として確定することで、バックグラウンド除去範囲をよ
り適切に自動で決定することができる。
【0046】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0047】
1…分光分析装置、10…データ処理装置、20…処理部、22…取得部、24…データ処理部、30…操作部、40…表示部、50…記憶部