【0026】
<クロスフロー限外ろ過法>
限外ろ過(Ultra Filtration)は、溶液に圧力を加えて限外ろ過膜を透過させることによって、溶液中の成分を濃縮、又は、除去するための方法である。限外ろ過膜(「UF膜」ともいう)には、個別に排除限界分子量が設定されており、溶液中の成分中、膜の限界排除分子量よりも大きな分子は膜に阻止されることで、透過前液(以下、「濃縮液」)中に濃縮される。一方で、透過液からは、このような高分子成分が除去される。本発明は、限外ろ過において、異なる排除限界分子量の膜を組み合わせて採用することにより、その中間の分子量領域に属する成分を、効率的に精製することを特徴とする。
限外ろ過の方式には、主に、デッドエンド方式とクロスフロー(タンジェンシャルフロー)方式の2種類がある。デッドエンド方式は、液体に対する圧力、すなわち液流の方向と垂直に膜が設置されているため、初期のろ過効率は高いが、不純物が多い溶液を処理する場合は、膜に粒子が堆積し、目詰まりし易く、ろ過効率が低下してしまう。一方で、クロスフロー方式は、膜が液流の方向と平行に設置されているため、膜表面が液流で洗浄されることで膜への粒子の堆積による目詰まりを起こしにくい特徴がある。本発明においては、卵黄成分のような不純物を多く含む水溶液から糖ペプチドを効率的に精製するためクロスフロー方式の限外ろ過を採用する。
限外ろ過には、その材質、形状、排除限界分子量等により多様な種類が存在し、本発明においては、出発液の種類や状態、適用する限外ろ過装置の種類等に応じて、適宜適切なものを選択することができる。
本発明において、「1次膜」とは、SGPが透過可能な限外ろ過膜である。1次膜は、SGPよりも大きな不純物を透過液から排除する役割を有するため、SGPを透過する膜の中で、できるだけ低い排除限界分子量の膜を採用することが好ましい。
また、「2次膜」とは、SGPが透過不可能な限外ろ過膜である。2次膜は、SGPよりも小さい不純物を濃縮液から除去する役割を有するため、SGPが透過できない膜の中で、できるだけ高い排除限界分子量の膜を採用することが好ましい。
限外ろ過膜の形状には、平膜タイプ、中空糸タイプ等があり、とくに限定はされないが、好ましくは平膜タイプである。限外ろ過膜の材質には、再生セルロース系(RC)、ポリエーテルスルホン系(PES)、ポリスルホン系(PS)、ポリアクリロニトリル系(PAN)、酢酸セルロース系(CA)等がある。同じ限界排除分子量が設定された膜でも、材質によりSGPの分離挙動が異なる場合があるが、事前に複数の膜に対するSGPの標準品の挙動を確認することで、適切な膜を選定することができる。
限外ろ過膜の排除限界分子量は、標準物質を用いたろ過試験によって規定されるが、標準物質の種類や試験条件等はメーカーにより異なる。また、標準物質がSGPと性質が大きく異なる種類の物質である場合、SGPが標準物質とは異なる分離挙動を示すことがある。そのため、実際のSGPの試験結果が、設定された排除限界分子量とは異なる場合もある。また、このような分離挙動は、膜の材質にも影響を受ける。そのため、膜の排除限界分子量の値は目安として捉え、実際の精製操作の前に、使用を予定している膜に対するSGPの分離挙動を確認することによって、適切な膜を選択することができる。
本発明に用いる1次膜及び2次膜は、SGPの分離挙動に基づき、以下の方法により選択することができる。目的とするSGPの水溶液を、使用する限外ろ過装置に供し、各種の限外ろ過膜を透過させ、その濃縮液と透過液の、それぞれにおけるSGPの分布を確認することによって、当該膜に対するSGPの分離挙動を確認する。このとき、SGPが透過する膜(このような膜において、最低の排除限界分子量を有する膜が好ましい)を1次膜に選択し、SGPが透過できない膜(このような膜において、最高の排除限界分子量を有する膜が好ましい)を2次膜として選択することができる。本発明においては、1次膜と2次膜として、異なる材質やメーカーの膜を組み合わせて使用してもよい。
1次膜としてはSGPを透過する膜であり、好ましくはSGPが透過し、且つ、タンパク質等の高分子成分の透過が少ない膜であり、より好ましくは、10〜50kDaの排除限界分子量の膜を採用することができる。この場合、再生セルロース系膜であれば排除限界分子量が30〜50kDa、より好ましくは30kDaのものである。また、PES系膜であれば、10〜30kDaのものが好ましい。
また、2次膜としては、SGPが透過できない膜であり、好ましくはSGPが透過できず、且つ、アミノ酸等の低分子成分の多くが透過できる膜であり、より好ましくは10kDa以下の排除限界分子量の膜を採用することができる。この場合、再生セルロース系膜であれば排除限界分子量が10kDa以下、好ましくは10又は5kDaのものである。また、PES膜であれば、10kDa以下、好ましくは5kDaのものである。
クロスフロー方式を採用した限外ろ過には、ホースやパイプ等の流路部に、ポンプ、圧力計、限外ろ過膜等のデバイスを取り付けて構築したシステムを採用しても良く、一体型のクロスフロー限外ろ過装置を利用することもできる。
一体型のクロスフロー限外ろ過装置としては、例えばSARTOFLOW Slice200 Benchtop Crossflow System、SARTOFLOW Advanced、SartoJet System、SARTOFLOW Alpha plus、SARTOFLOW Beta plus(Sartorius AG社製)、AKTAcrossflow、AKTA flux s、AKTA flux 6、Midjet System、QuixStand System、UniFlux 10、UniFlux 30、UniFlux 120、UniFlux 400(GE Healthcare UK Ltd.社製)、Labscale TFF System、Cogent μScale TFF System、Cogent M1 TFF System(Merck KGaA社製)、ミニメイト TFF System、Minim III TFF System、セントラメイト 500S TFFSystem(PALL Co.社製)、KrosFlo Research IIi TFF System、KMPi TFF System、KrosFlo Pilot Plus TFF System(Spectrum Laboratories, Inc.社製)、PureTec TFF System(SciLog, Inc.社製)などを挙げることができる。
また、クロスフロー方式の限外ろ過システムを構築する場合、流路部のホースやパイプ、ポンプ、圧力計等は一般的に入手可能な材料や機器を採用することができる。限外ろ過膜は、専用ホルダと多様な膜が市販されており、適宜適切な膜をホルダにセットし、流路部に組み込むことができる。
限外ろ過膜、外装が一体となり、専用ホルダを必要とせず、簡便な接続方法で利用可能なカートリッジ型の多様な限外ろ過膜が市販されており、適宜選択することができる。このような、カートリッジ型限外ろ過膜としては、平膜タイプのものは、Vivaflowシリーズ(50Rシリーズ:再生セルロース系UF膜、50シリーズ:PES系UF膜)(Sartorius AG社製)、Pelliconシリーズ(Ultracel:再生セルロース系UF膜、Biomax:PES系UF膜)(Merck KGaA社製)、Kvick Startシリーズ(PES系UF膜、GE Healthcare UK Ltd.社製)、Minimateシリーズ(PES系UF膜、PALL Co.社製)等を挙げることができる。中空糸タイプのカートリッジ型限外ろ過膜としては、MidGreeシリーズ、Xamplerシリーズ(PS系UF膜)(GE Healthcare UK Ltd.社製)、microzaペンシル型モジュールシリーズ、microzaラボモジュールシリーズ(PAN系UF膜、PS系UF膜)(旭化成ケミカルズ(株)製)、モルセップシリーズ(PAN系UF膜、PES系UF膜、CA系UF膜)(ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製)、MicroKrosシリーズ、MidiKrosシリーズ、MiniKrosシリーズ、KrosFloシリーズ、CellFloシリーズ(PES系UF膜、PS系UF膜)(Spectrum Laboratories, Inc.社製)等を挙げることができる。専用ホルダを用いる限外ろ過膜としては、Sartocon Slice 200 カセット、Sartocon Slice カセット、Sartocon カセット、Sartocube(Hydrosart:再生セルロース系UF膜、PES系UF膜)(Sartorius AG社製)、Pellicon2 カセット、Pellicon3 カセット(Ultracel:再生セルロース系UF膜、Biomax:PES系UF膜)(Merck KGaA社製)、T−Series TFF カセット(Delta:再生セルロース系UF膜、Omega:PES系UF膜)(PALL Co.社製)、Kvick Lab Packet、Kvick Labカセット、Kvick Lab SCUカセット、Kvick Flow カセット(PES系UF膜)(GE Healthcare UK Ltd.社製)等を挙げることができる。
限外ろ過膜には、その材質、形状、排除限界分子量等により多様な種類が存在し、本発明においては、出発液の種類や状態、適用する限外ろ過装置の種類等に応じて、適宜適切なものを選択することができる。
<限外ろ過操作>
本発明の方法において、限外ろ過工程は、出発液を1次膜に透過させ、その透過液を2次膜に透過させ、その濃縮液を目的物であるSGP物質の濃縮精製液として回収することを特徴とする。実際の精製処理前に、目的とするSGP物質の溶液を用いて予備試験を行い、膜間差圧(TMP)、透過流束(Flux)などを求め、その相関から運転条件の最適化を行なうことができる。また、最適化を行なうことにより、膜面積を大きくすることでスケールアップを行なうことが可能である。SGP以外のSGP物質を目的物とする場合には、SGPの精製処理で用いた条件と同一の条件を採用できる場合もあり、必要に応じて微調整することで、目的物に最適な条件を適宜選択することができる。
限外ろ過処理時の操作圧力に特に制限は無いが、高い圧力で操作を行なった場合、膜の閉塞や、膜や周辺設備へのダメージが生じる場合がある。また、0.01MPaといった低い圧力で操作を行なった場合、ろ過速度の低下により、作業効率が低下する恐れがある。好ましくは0.01MPa〜0.5MPaの範囲の操作であり、より好ましくは0.05MPa〜0.3MPaの範囲である。
限外ろ過処理時の温度に特に制限は無いが、高い温度で操作を行った場合、液体の粘度が下がるため、ろ過速度の上昇させることができる。しかし、膜へのダメージが生じる場合がある。さらには、別途、加温装置等の設備投資が必要となる。また、低い温度で操作を行った場合、液体の粘度の上昇によるろ過速度の低下や、液体の凍結などが生じる場合がある。好ましくは4℃〜60℃であり、より好ましくは15℃〜40℃である。
ここで、1次膜の濃縮液と2次膜の透過液(併せて、「回収外液」)は、通常回収されないが、このような回収外液にもSGPが含まれる場合がある。このような回収外液を、次の限外濾過操作の出発液と合わせて用いることによって、回収外液中に含まれるSGPを回収することができ、必要に応じてこれを繰り返すこれにより、SGPの収率を向上させることが可能である。
<限外ろ過処理液からのSGP物質の精製>
上記の限外ろ過操作工程を経て得られた濃縮精製液から、様々なカラム充填剤を用いて、SGPをさらに精製することができる。このような精製に用いられるカラム充填剤としては、合成吸着樹脂、逆相樹脂、順相樹脂、イオン交換樹脂、ゲルろ過樹脂等を挙げることができる。逆相樹脂としては、ブチル基(C4)、オクチル基(C8),オクタデシル基(C18)、トリアコンチル基(C30)、フェニル基等の疎水性官能基を、シリカゲルの基材へ付加させた樹脂であり、特にオクタデシル基を付加したODS系逆相樹脂(Wakogel 100C18(和光純薬工業(株))を用いたSGPの精製については、特許文献1に記載されている。また、イオン交換樹脂であるToyopearl DEAE−650M(東ソー(株))、CM−Sephadex C−25(GE Healthcare UK Ltd.)、Dowex 50Wx2(The Dow Chemical Company)を用いたSGPの精製、ゲルろ過樹脂であるSephadex G−50(GE Healthcare UK Ltd.)、Sephadex G−25(GE Healthcare UK Ltd.)を用いたSGPの精製については、非特許文献1に、それぞれ記載されており、これらの文献に記載の条件を参考に、適宜精製することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。ここに示された実施例は、本発明の実施態様の一例に過ぎず、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1.限外ろ過膜を用いたSGPの精製−1>
[1次ろ過処理]
1次膜として、Hydrosart(登録商標)/Sartocon Slice Casset(排除限界分子量:30K、膜面積:0.1m
2、材質:再生セルロース膜、Sartorius AG社製)を膜ホルダー(Sartcon Slice Holder、Sartorius AG社製)に装着して用い、送液ポンプ(リキポート NE1.300、KNF社製)を用いて膜間差圧(TMP)約0.05MPaの条件下で、クロスフロー式ろ過法で行う処理を1次ろ過処理とする。
脱脂卵黄粉(キユーピー(株))4kgに水20Lを添加し、15分間よく撹拌した後、FILTER PAPER No.2(東洋濾紙(株))を用いたビフネルロート上で吸引ろ過を行なった。得られた水抽出液は、エバポール・ラボ(大川原製作所(株))を用いて、3.2Lになるまで濃縮を行なった。
得られた濃縮液は、よく攪拌しながら上記の1次ろ過処理をし、透過液2.6L、濃縮液650mLを得た(透過液1および濃縮液1)。
得られた濃縮液1に水1.5Lを添加し、よく攪拌しながら、再度上記の1次ろ過処理を行ない、透過液1.5L、濃縮液650mLを得た(透過液2および濃縮液2)。
得られた濃縮液2に水1.5Lを添加し、よく攪拌しながら、上記の1次ろ過処理し、透過液1.9Lを得た(透過液3)。
【0030】
[2次ろ過処理]
2次膜として、Hydrosart(登録商標)/Sartocon Slice Casset(排除限界分子量:10K、膜面積:0.1m
2、材質:再生セルロース膜、Sartorius AG社製)を膜ホルダー(Sartcon Slice Holder、Sartorius AG社製)に装着して用い、ポンプ(リキポート NE1.300、KNE社製)を用いて膜間差圧(TMP)約0.05MPaの条件下で、クロスフロー式ろ過法による処理を2次ろ過処理とする。
上記透過液1は、よく攪拌しながら2次ろ過処理を行い、透過液2.4L、濃縮液150mLを得た(濃縮液3)。
得られた濃縮液3に、透過液2を添加し、よく攪拌しながら、再度2次ろ過処理を行ない、透過液1.5L、濃縮液150mLを得た(濃縮液4)。
得られた濃縮液4に、透過液3を添加し、よく攪拌しながら、再度2次ろ過処理を行い、透過液2L、濃縮液50mLを得た(濃縮液5)。
得られた濃縮液5に、水1.5Lを添加し、よく攪拌しながら、再度2次ろ過処理を行なった。2次ろ過処理中の濃縮液側に、さらに水1.5Lを添加し、2次ろ過処理を継続することで、最終的に透過液3Lを得た。また、クロスフロー経路内を水洗浄した洗浄水を濃縮液に加え、720mLを得た(濃縮液6)。濃縮液6を凍結乾燥することで、12gの糖ペプチド画分を得た。
得られた糖ペプチド画分とSGPの標準品(東京化成工業(株)製SGP)について
1H−NMR測定、LC/MS測定及び以下の条件によるHPLC分析を行った。標準品のHPLC、LC/MS及び
1H−NMRによる測定結果を、それぞれ
図1、
図2及び
図3に示す。得られた糖ペプチド画分のHPLC、LC/MS及び
1H−NMRによる測定結果をそれぞれ
図4、
図5および
図6に示す。
得られた糖ペプチドは
1H−NMR測定及びLC/MS測定による標準品との比較により、標準品と同様のマススペクトル及び
1H−NMRスペクトルが得られたことから、上記式(I)及び式(II)で表されるSGPを含むことが確認された。また、HPLCの結果において、得られたSGPと標準品との、SGPに帰属するピークの相対面積値比により、得られたSGPの純度は47%であった。
[HPLC測定]
HPLC:1260 Infinity LC(Agilent Technologies,Inc.社製)
カラム:Poroshell 120 EC−C18 2.7μm φ3.0×50mm(Agilent Technologies,Inc.社製)、ガードカラム:Poroshell 120 EC−C18 2.7μm φ3.0×5mm(Agilent Technologies,Inc.社製)
カラム温度:40℃
移動相A:0.1%HCOOHを含むH
2O溶液(v/v)
移動相B:0.1%HCOOHを含むMeCN溶液(v/v)
グラジエント(移動相B%):0%(0分)、10%(5分)、30%(7分)、30%(8分)
流速:0.6ml/分
検出波長:210nm。
[LC/MS測定]
MS:6130 Quadrupole LC/MS(Agilent Technologies,Inc.社製)
イオン化:ESI
モード:Positive
HPLC:1260 Infinity LC(Agilent Technologies,Inc.社製)
カラム:Poroshell 120 EC−C18 2.7μm φ3.0×50mm(Agilent Technologies,Inc.社製)、ガードカラム:Poroshell 120 EC−C18 2.7μm φ3.0×5mm(Agilent Technologies,Inc.社製)
カラム温度:40℃
移動相A:0.1%HCOOHを含むH
2O溶液(v/v)
移動相B:0.1%HCOOHを含むMeCN溶液(v/v)
グラジエント(移動相B%):0%(0分)、10%(5分)、30%(7分)、30%(8分)
流速:0.6ml/分
検出波長:210nm。
[
1H−NMR測定]
NMR:AVANCE500(500MHz、ブルカー・バイオスピン(株)社製)
溶媒:DEUTERIUM OXIDE+0.1%TMSP(euriso−top社製)
また、上記と同様の操作により、脱脂卵黄粉1kgから、1.4gの糖ペプチド画分が得られ、同様の分析により当該糖ペプチド画分にSGPを含むことが確認された(SGP純度:45%)。
<実施例2.限外ろ過膜を用いたSGPの精製−2>
本実施例において、1次ろ過処理及び2次ろ過処理には、実施例1と同一の条件を採用した。
[1次ろ過処理]
脱脂卵黄粉(キユーピー(株))20kgに水100Lを添加し、15分間よく撹拌した後、ビフネルロート上で吸引ろ過を行なった。得られた水抽出液は、エバポール・ラボ(大川原製作所(株))を用いて、5.1Lになるまで濃縮を行なった。
得られた濃縮液は、よく攪拌しながら1次ろ過処理し、透過液3L、濃縮液2.1Lを得た(透過液1および濃縮液1)。得られた濃縮液1に水3Lを添加し、よく攪拌しながら、再度1次ろ過処理し、透過液3L、濃縮液2.1得た(透過液2および濃縮液2)。さらに、得られた濃縮液2に水3Lを添加し、よく攪拌しながら、再度1次ろ過処理し、透過液3L、濃縮液2.1Lを得た(透過液3および濃縮液3)。さらに、得られた濃縮液3に水3Lを添加し、よく攪拌しながら、再度1次ろ過処理し、透過液3L、濃縮液2.1Lを得た。(透過液4および濃縮液4)
得られた濃縮液4に水3Lを添加し、よく攪拌しながら、上記の1次膜を用いたクロスフロー式ろ過法でろ過処理し、透過液3Lを得た。(透過液5)
[2次ろ過処理]
上記透過液1および2をよく攪拌しながら、上記の2次ろ過処理を行ない、透過液5L、濃縮液1Lを得た。(濃縮液5)
得られた濃縮液5、透過液3および透過液4を添加し、よく攪拌しながら、再度2次ろ過処理を行ない、透過液4.2L、濃縮液2.8Lを得た。(濃縮液6)
得られた濃縮液6、透過液5を添加し、よく攪拌しながら、再度2次ろ過処理を行ない、透過液4L、濃縮液1.8Lを得た。(濃縮液7)
得られた濃縮液7に、水2Lを添加し、よく攪拌しながら、再度2次ろ過処理を行なった。2次ろ過処理中の濃縮液側に、さらに水2Lを添加し、2次ろ過処理を継続することで、最終的に透過液4Lを得た。また、クロスフロー経路内を水洗浄した洗浄水を濃縮液に加え、2.9Lを得た。(濃縮液8)
合成吸着樹脂としてSEPABEADS SP207SS(三菱化学(株))5.3L(200Φx169mm)をカラムに充填し、水で平衡化を行なった。該カラムに、上記で得られた濃縮液8を流速250mL/分で付した後、水50L流速1L/分で洗浄後、2%アセトン水溶液(v/v)流速1L/分で展開し、溶出画分1として5L、溶出画分2〜7として2.5L毎に分画した(溶出画分1乃至7)。
溶出画分4乃至6を合わせて、凍結乾燥することで、29.7gの糖ペプチドを得た。
【0031】
得られた糖ペプチドのHPLC、LC/MS及び
1H−NMRによる測定結果をそれぞれ
図7、
図8および
図9に示す。
得られた糖ペプチドは
1H−NMR測定及びLC/MS測定による標準品のデータ(
図1、
図2および
図3)との比較により、標準品と同様のマススペクトル及び
1H−NMRスペクトルが得られたことから、上記式(I)及び式(II)で表されるSGPであることが確認された。また、HPLCの結果において、得られたSGPと
標準品との、SGPに帰属するピークの相対面積値比により、得られたSGPの純度は100%であった。
また、上記と同様の操作により、20kg、15kg及び10kgの脱脂卵黄粉から、それぞれ25.3g(純度:103%)、18.4g(純度:106%)及び11.8g(純度:103%)のSGPを得た。なお、SGPの確認及び純度測定は、上記と同じ方法で行った。
<実施例3.多様な限外ろ過膜のSGP精製への適用検討>
次に、様々なUF膜の、クロスフロー方式によるSGP精製への適用可能性について検討した。本発明の精製方法においては、不純物、特に不要なタンパク質が除去され、且つ、SGPが残存していることが重要であるため、限外ろ過膜で処理した後の各溶液(濃縮液、透過液)中のタンパク質とアミノ酸含量及びSGP回収率を指標とした検討を行った。
(1)限外ろ過膜のタンパク質とアミノ酸除去性能及びSGP回収率の検証
本実施例のクロスフロー方式限外ろ過は、クロスフローシステムとして、AKTAcrossflow(GE Healthcare UK Ltd.社製)を使用して、以下に示す異なる材質の各種UF膜(再生セルロース系UF膜、及び、ポリエーテルスルホン(PES)系UF膜)について、脱脂卵黄粉中のタンパク質に対するタンパク質除去性能及びアミノ酸除去性能を評価し、また、脱脂卵黄粉中のSGPに対する回収率を評価した。
[限外ろ過膜]
再生セルロース系UF膜として、Vivaflow50Rシリーズは排除限界分子量5K、10K、30K、100K(Sartorius AG社製)、Pellicon XL 50(Ultracel)シリーズは5K、10K、30K(Merck KGaA社製)、を使用した。
PES系UF膜として、Vivaflow50シリーズは5K、10K、30K、50K、100K(Sartorius AG社製)、Pellicon XL 50(Biomax)シリーズは5K、10K、30K、50K(Merck KGaA社製)、Kvick Startシリーズは5K、10K、30K、50K(GE Healthcare UK Ltd.社製)、Minimateシリーズは5K、10K、30K、50K(PALL Co.社製)、を使用した。
【0032】
[方法]
脱脂卵黄粉(キユーピー(株))に対して10倍量の水を添加し(濃度100mg/mL)、15分間よく撹拌した後、FILTER PAPER No.2(東洋濾紙(株))を用いたビフネルロート上で吸引ろ過を行ない、ろ液を脱脂卵黄水溶液としてクロスフローシステムへ供した。
まず1段階目として、脱脂卵黄水溶液200mLを、膜間差圧(TMP)0.1MPaの条件下でろ過を行なった。Vivaflow50Rシリーズについては、流加速度200mL/min、Vivaflow50シリーズについては、流加速度50mL/min、その他の限外ろ過膜については流加速度40mL/minで運転し、透過液160mL、濃縮液40mLを得た(透過液および濃縮液)。
次に2段階目として、濃縮液に連続的に水200mLを加水しながら、膜間差圧(TMP)0.1MPaの条件下でダイアフィルトレーション(DF)を行った。Vivaflow50Rシリーズについては、流加速度200mL/min、Vivaflow50シリーズについては、流加速度50mL/min、その他の限外ろ過膜については流加速度40mL/minで運転し、透過液200mL、濃縮液40mLを得た(DF透過液およびDF濃縮液)。
得られた透過液、DF透過液、DF濃縮液を水で200mLにメスアップ後、以下の方法でタンパク質含有量の測定、アミノ酸含有量の測定及びSGP回収率の測定を行った。タンパク質含有量の測定結果及びSGP回収率の測定結果を
図10(再生セルロース系UF膜)、
図11および
図12(PES系UF膜)に示す。また、アミノ酸含有量の測定結果を
図13(再生セルロース系UF膜)、
図14および
図15(PES系UF膜)に示す。
【0033】
a)Bradford法[Bradford, M. M.,Anal.Biochem. 72:248-254 (1976)]によるタンパク質含量の測定
スタンダード(BSA(牛血清アルブミン、Thermo Fisher Scientific,Inc.))と各処理液の上澄み液をそれぞれ30μL分注し、発色液(Coomassie Protein Assay Reagent(Thermo Fisher Scientific,Inc.))1.5mLをそれぞれに添加して、攪拌後、室温で10分以上保持して、595nmの吸光度を測定した。結果は、脱脂卵黄水溶液のタンパク質濃度を100%としたときの相対タンパク質濃度(%)を図内に表示した。
b)HPLCによるアミノ酸含量の測定
実施例1のHPLC条件により分析を行い、各種アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)のピーク面積値を測定した。同様に、脱脂卵黄水溶液及び各処理液の上澄み液各5μLをHPLCへ注入し、実施例1のHPLC条件により分析を行い、各種アミノ酸のピーク面積値を測定した。各種アミノ酸の回収率は、脱脂卵黄水溶液の各種アミノ酸のピーク面積値を100%としたときの相対ピーク面積値(%)を図内に表示した。
c)HPLCによるSGP回収率の測定
実施例1のHPLC条件により分析を行い、SGPのピーク面積値を測定した。同様に、脱脂卵黄水溶液及び各処理液の上澄み液各5μLをHPLCへ注入し、実施例1のHPLC条件により分析を行い、SGPのピーク面積値を測定した。SGPの回収率は、脱脂卵黄水溶液のSGPのピーク面積値を100%としたときの相対ピーク面積値(%)を図内に表示した。
【0034】
[結果]
再生セルロース系UF膜の結果は
図10に示される。Vivaflow50Rシリーズの膜で処理した場合、処理溶液中のタンパク質濃度は、5K、10K及び30Kの膜においてはDF濃縮液(C)が高く、100Kの膜においては透過液(A)が高かった。Ultracelシリーズの膜で処理した場合、処理溶液中のタンパク質濃度は、5K、10K及び30Kの膜においてはDF濃縮液(C)が高かった。
【0035】
また、処理溶液中のSGP回収率は、Vivaflow50Rシリーズの膜で処理した場合、5K及び10Kの膜においてはDF濃縮液(C)が高く、30K及び100Kにおいては透過液(A)、DF透過液(B)が高かった。Ultracelシリーズの膜で処理した場合、処理溶液中のSGP回収率は、5Kの膜においてはDF濃縮液(C)が高く、10K及び30Kの膜においては透過液(A)、DF透過液(B)が高かった。
また、上記のUF膜による各処理液中のアミノ酸含有量を測定した結果を
図13(再生セルロース系UF膜)に示す。この結果から分かるように、何れの膜においても、DF濃縮液(C)にアミノ酸が検出されなかった。
これらの結果から、各メーカー間で膜の分離性能に若干の差が見られるものの、再生セルロース系UF膜を用いる場合、1次膜として30K付近の膜を選択することで、SGPとタンパク質などの不純物を分離することができると考えられ、2次膜として10K以下の膜を選択することで、SGPとアミノ酸などの低分子の不純物を分離することができると考えられる。
PES系UF膜の結果は
図11および
図12に示される。処理溶液中のタンパク質濃度は、Vivaflow50シリーズの膜で処理した場合、5K、10K及び30Kの膜においてはDF濃縮液(C)が高く、50K及び100Kの膜においては透過液(A)、DF透過液(B)で高かった。Pellicon XL 50(Biomax)シリーズの膜で処理した場合、処理溶液中のタンパク質濃度は、5K、10K、30K及び50Kの膜においてはDF濃縮液(C)が高かった。Kvick Startシリーズの膜で処理した場合、処理溶液中のタンパク質濃度は、5K、10K、30K及び50Kの膜においてDF濃縮液(C)が高かった。Minimateシリーズの膜で処理した場合、処理溶液中のタンパク質濃度は、5K及び10Kの膜においてはDF濃縮液(C)が高く、30K及び50Kの膜においてはDF濃縮液(C)、透過液(A)、DF透過液(B)のそれぞれに含まれていた。
【0036】
また、各処理液中のSGP回収率について、Vivaflow50シリーズの膜で処理した場合、5Kの膜においてはDF濃縮液(C)が高く、10K、30K、50K及び100Kの膜においては透過液(A)、DF透過液(B)で高かった。Pellicon XL 50(Biomax)シリーズの膜で処理した場合、処理溶液中のSGP回収率は、5Kの膜においては、DF濃縮液(C)、透過液(A)、DF透過液(B)のそれぞれに含まれ、10K、30K及び50Kの膜においては透過液(A)、DF透過液(B)で高かった。Kvick Startシリーズの膜で処理した場合、処理溶液中のSGP回収率は、5Kの膜においてはDF濃縮液(C)が高く、10K、30K及び50Kの膜においてはDF濃縮液(C)、透過液(A)及びDF透過液(B)のそれぞれに含まれていた。Minimateシリーズの膜で処理した場合、処理溶液中のSGP回収率は、5K及び10Kの膜においてはDF濃縮液(C)、透過液(A)及びDF透過液(B)のそれぞれに含まれ、30K及び50Kの膜においては透過液(A)及びDF透過液(B)で高かった。
また、上記のUF膜による各処理液中のアミノ酸含有量を測定した結果を
図14及び15(PES系UF膜)に示す。この結果から分かるように、何れの膜においても、DF濃縮液(C)にアミノ酸が検出されなかった。
これらの結果から、各メーカー間で膜の分離性能に若干の差が見られるものの、PES系UF膜を用いる場合、1次膜として10K〜30K付近の膜を選択することで、SGPとタンパク質などの不純物を分離することができると考えられ、また2次膜として5K以下の膜を選択することで、SGPとアミノ酸などの低分子の不純物を分離することができると考えられる。
【0037】
以上、本発明の方法に用いられる限外ろ過膜の重要な性質であるSGPとタンパク質などの不純物の分離、SGPとアミノ酸などの低分子の不純物の分離が得られることが示された。これらの限外ろ過膜を組み合わせることでSGPを選択的に精製することができると考えられる。