特許第6887958号(P6887958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6887958経皮カテーテル、経皮カテーテルの使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887958
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】経皮カテーテル、経皮カテーテルの使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20210603BHJP
   A61M 25/01 20060101ALI20210603BHJP
   A61M 60/00 20210101ALI20210603BHJP
   A61M 25/14 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   A61M25/00 630
   A61M25/00 600
   A61M25/00 622
   A61M25/00 530
   A61M25/01 510
   A61M1/10 100
   A61M25/14 514
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-561506(P2017-561506)
(86)(22)【出願日】2016年7月26日
(86)【国際出願番号】JP2016071856
(87)【国際公開番号】WO2017122377
(87)【国際公開日】20170720
【審査請求日】2019年5月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-6173(P2016-6173)
(32)【優先日】2016年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】横山 研司
【審査官】 小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−023318(JP,A)
【文献】 特開2012−075547(JP,A)
【文献】 米国特許第05466222(US,A)
【文献】 米国特許第06929663(US,B2)
【文献】 特開2007−236666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/01
A61M 25/14
A61M 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を通すための経皮カテーテルであって、
第1チューブと、この第1チューブに連通した第2チューブとを含むカテーテルチューブを備え、
前記第1チューブが、前記第2チューブよりも太い内径を備え、かつ前記第2チューブより伸縮性が高い構造とされ、
前記第1チューブの先端には、先端側に向かって徐々に縮径された先端チップが固定されており、前記第1チューブの後端と前記第2チューブとは側孔を有するコネクターにより接続されていて、前記先端チップは脱血孔を備えるとともに、内側には挿入時に使用されるダイレーターの先端部を面状に受けるようにした平坦な突当て部を有している
ことを特徴とする経皮カテーテル。
【請求項2】
前記第1チューブはワイヤーにより補強されていることにより、前記第1チューブにかかる陰圧の作用で閉塞されない構造とするとともに、前記第1チューブが伸縮しても、前記ワイヤーが前記伸縮に追従し得る構成としたことを特徴とする請求項1に記載の経皮カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を送る経皮カテーテルの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば患者の心臓が弱っているときに、心機能が回復するまでの間、一時的に心臓と肺の機能を補助・代行する装置として、体外循環装置が使用される。この体外循環装置では、心臓のポンプ機能を補助するために、患者の静脈(大静脈)よりカテーテル(チューブ)を介して、脱血し、人工肺により血液中のガス交換を行った後に、この血液を再び患者の動脈(大動脈)にカテーテル(チューブ)を介して戻す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開番号WO2007/123156 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、体外循環装置の循環回路が記載されている。
この循環回路で血液循環を行う場合には、モータとモータにより駆動されるポンプの力で血液を循環させている。
したがって、循環回路を構成するチューブにおける圧損の低減が求められる。
【0005】
ここで、チューブの内径が細いと圧損は高くなり、循環回路を流れる水流量は減少する。このため、チューブの内径を十分な大きさとしないと、必要とされる血液の循環量は得られない。
【0006】
しかし、チューブ内径を大きくするとチューブが太くなる。患者の体内に挿入される脱血カテーテル(チューブ)や送血カテーテル(チューブ)の内径を大きくすると、患者の身体に対する侵襲の程度が大きくなり、患者の身体に対する負担が大きくなってしまう。
ここで、圧力損失は、チューブの通路断面積×チューブ長さによって決まる。
したがって、チューブの肉厚を減少させることにより、圧力損失を低減することが可能である。
【0007】
ところが、現状において、体外循環装置に用いるチューブの肉厚は、ほぼ限界まで減少されている。これ以上肉厚を減少させると、使用中に破断する等危険が増大するので、チューブの肉厚を現在より減少させることは難しい。
そこで、本発明は、回路を循環中の液体の圧力損失を低減し、患者の身体に対する侵襲や負担を大きくすること無く、必要とする液体の流量を確保することができる経皮カテーテル、経皮カテーテルの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、血液を通すための経皮カテーテルであって、第1チューブと、この第1チューブに連通した第2チューブとを含むカテーテルチューブを備え、前記第1チューブが、前記第2チューブよりも太い内径を備え、かつ前記第2チューブより伸縮性が高い構造とされ、前記第1チューブの先端には、先端側に向かって徐々に縮径された先端チップが固定されており、前記第1チューブの後端と前記第2チューブとは側孔を有するコネクターにより接続されていて、前記先端チップは脱血孔を備えるとともに、内側には挿入時に使用されるダイレーターの先端部を面状に受けるようにした平坦な突当て部を有していることを特徴とする。
上記構成によれば、第1チューブの内径が太い分、通路断面積が広くなるので、圧損が低くなるから送液量が高くなる。この場合、第1チューブは伸縮性が高いので、患者の血管に挿入される際に、ダイレーターを挿通されて、長さ方向に伸長される。この状態では、第1チューブは長さ方向に伸長された分、チューブ外径は細くなる。このため、挿入時
に患者の血管に対して与える負担が小さく、低侵襲である。挿入後、ダイレーターを抜去すると、第1チューブは伸長状態から元に戻り、広い断面積となって上記したように圧損が低減される。
また、上記構成によれば、カテーテルを患者の血管に挿入する際には、上記したようにダイレーターを用いて長さ方向に長くすると外径が細くなる。第1チューブの外径が細い場合、侵入の際、細い血管部分から挿入しても低侵襲にて挿入できる。挿入後は、第1チューブは体内深く侵入することになる。例えば、脱血用カテーテルであれば、第1チューブが患者の腹部付近から奥に配置される。このため、患者の身体の比較的太い血管内に配置されるから、第1チューブが送液時に太くても、患者の身体に対して負担が有害なほど増大しない。さらに、第1チューブが体内に配置される付近では、チューブのキンクの恐れも低いから、柔軟な材料で形成されていても不都合が無い。
さらに、先端チップは、カテーテルの挿入時に前記ダイレーターが使用される際には、平坦なダイレーター先端が、先端チップの平坦な突当て部を面で押すようになっている。これにより、挿入後に、このダイレーターを引き抜く際に、柔軟な第1チューブの内側に引っ掛けることが有効に防止され、第1チューブが歪んで配置されることが無い。
【0010】
好ましくは、前記第1チューブはワイヤーにより補強されていることにより、前記第1チューブにかかる陰圧の作用で閉塞されない構造とするとともに、前記第1チューブが伸縮しても、前記ワイヤーが前記伸縮に追従し得る構成としたことを特徴とする。
上記構成によれば、第1チューブの肉厚を薄くしても、前記ワイヤーにより補強されていれば破損しにくい。この場合、ワイヤーは、メッシュ状やコイル状のものが使用される。
【0012】
好ましくは、前記第1チューブの先端には、先細形状の硬質材料で形成された先端チップが固定されており、かつ、前記先端チップの内側には、カテーテルの挿入に先立って使用されるダイレーターの先端平面と当接される平坦な受け面が形成されていることを特徴とする。
上記構成によれば、比較的柔らかい第1チューブの先端に硬質の先端チップを固定することで、カテーテル挿入時に第1チューブが折れ曲がる等の不都合を防止できる。しかもこの挿入時にダイレーターが先端チップを傾斜なく適切に押すことができる。ダイレーターを引き抜く際には、ダイレーター先端が平坦であると、柔らかい第1チューブに内面に引っ掛かり皺が生じることが無い。
【0013】
本発明は、血液を通すための経皮カテーテルであり、第1チューブと、この第1チューブに連通した第2チューブとを含むカテーテルチューブを備え、前記第1チューブが、前記第2チューブよりも太い内径を備え、かつ前記第2チューブより伸縮性が高い構造とされ、前記第1チューブの先端には、先端側に向かって徐々に縮径された先端チップが固定されており、前記第1チューブの後端と前記第2チューブとは側孔を有するコネクターにより接続されていて、前記先端チップは脱血孔を備えるとともに、内側には挿入時に使用されるダイレーターの先端部を面状に受けるようにした平坦な突当て部を有した前記経皮カテーテルの使用方法であって、前記経皮カテーテルに対してダイレーターを挿入して、前記第1チューブを伸長するとともに、該第1チューブの外径を細くした状態とし、次いで、患者のカテーテル挿入部位に対して予め挿入されているガイドワイヤーに沿って前記経皮カテーテルを挿入することを特徴とする。
上記構成によれば、本発明のカテーテルは、第1チューブの内径が太い分、通路断面積が広くなるので、圧損が低くなるから送液量が高くなる。この場合、第1チューブは伸縮性が高いので、患者の血管に挿入される際に、ダイレーターを挿通されて、長さ方向に伸長される。このため、患者の身体に対して低侵襲で挿入できる。
【0014】
好ましくは、送血用と脱血用の前記各経皮カテーテルを挿入した後で前記各経皮カテーテルについて前記ダイレーターと前記ガイドワイヤーとを前記経皮カテーテルのクランプ用チューブの箇所まで抜いてクランプし、体外循環装置の循環回路を前記各経皮カテーテルの各コネクターと接続することを特徴とする。
上記構成によれば、前記ダイレーターと前記ガイドワイヤーとを完全に抜去する前にクランプするから、体外循環装置への接続に際して血液が外部に漏れることが無い。
【0015】
好ましくは、前記接続後に、前記循環回路側からシリンジによって前記各カテーテルの前記各コネクター内に残存する気泡を除去することを特徴とする。
上記構成によれば、循環回路を通じて気泡が患者の血管中に入り込むことを有効に防止できる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明によれば、本発明は、回路を循環中の液体の圧力損失を低減し、患者の身体に対する侵襲や負担を大きくすること無く、必要とする液体の流量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の経皮カテーテルの実施形態が適用されている体外循環装置の一例を示す系統図。
図2】本発明の経皮カテーテルの第1実施形態に係る側面図。
図3図2の概略断面図。
図4】先端チップの一例を示す正面図と各部の切断端面図。
図5図4の先端チップにダイレーターを挿入した様子を示す概略拡大断面図。
図6】側孔付コネクターの一例を示す正面図。
図7図6のE−E切断端面図。
図8図6のF−F切断端面図
図9】本発明の経皮カテーテルの第2実施形態に係る平面図。
図10図9の経皮カテーテルの側面から見た概略断面図。
図11図10の経皮カテーテルにダイレーターを挿入した状態を示す概略断面図。
図12】液体通路を形成するチューブの内径に対応した圧力損失(縦軸)と水流量(横軸)の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0019】
図1は、本発明の経皮カテーテルの実施形態が適用され、患者の心臓が弱っている時に、心機能が回復するまでの間、一時的に心臓と肺の機能を補助・代行する装置(PCPS)(percutaneous cardiopulmonary support)として使用される体外循環装置の一例を示す系統図である。
【0020】
図1においては、体外循環装置1のポンプを作動して患者の静脈(大静脈)から脱血して、人工肺により血液中のガス交換を行って血液の酸素化を行った後に、この血液を再び患者の動脈(大動脈)に戻す人工肺体外血液循環を行うことができる。この体外循環装置1は、心臓と肺の補助を行う装置である。
図1に示すように、体外循環装置1は、血液を循環させる循環回路1Rを有している。循環回路1Rは、人工肺2と、遠心ポンプ3と、遠心ポンプ3を駆動するための駆動手段であるドライブモータ4と、静脈側カテーテル(脱血用の経皮カテーテル)5と、動脈側カテーテル(送血用カテーテル)6と、制御部としてのコントローラ10を有している。
【0021】
図1に示すように、静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)5は、大腿静脈より挿入され、静脈側カテーテル5の先端が右心房に留置される。動脈側カテーテル(送血用カテーテル)6は、大腿動脈より挿入される。静脈側カテーテル5は、脱血チューブ(脱血ラインともいう)11を用いて遠心ポンプ3に接続されている。脱血チューブ11は、血液を送る管路である。
ドライブモータ4がコントローラ10の指令SGにより遠心ポンプ3を動作すると、遠心ポンプ3は、脱血チューブ11から脱血して血液を人工肺2に通した後に、送血チューブ12(送血ラインともいう)を介して患者Pに血液を戻すことができる。
【0022】
人工肺2は、遠心ポンプ3と送血チューブ12の間に配置されている。人工肺2は、この血液に対するガス交換動作(酸素付加および/または二酸化炭素除去)を行う。人工肺2は、例えば膜型人工肺であるが、特に好ましくは中空糸膜型人工肺を用いる。この人工肺2には、酸素ガス供給部13から酸素ガスがチューブ14を通じて供給される。送血チューブ12は、人工肺2と動脈側カテーテル6を接続している管路である。
これらの脱血チューブ11と送血チューブ12としては、例えば、後で詳しく説明する塩化ビニル樹脂やシリコーンゴム等の透明性の高い、弾性変形可能な可撓性を有する合成樹脂製の管路が使用できる。脱血チューブ11内では、液体である血液はV方向に流れ、送血チューブ12内では、血液はW方向に流れる。
【0023】
図1に示す循環回路1Rの例では、超音波気泡検出センサ20が、脱血チューブ11の途中において脱血チューブ11の外側に配置されている。ファストクランプ17は、送血チューブ12の途中位置において送血チューブ12の外側に配置されている。
超音波気泡検出センサ20が、脱血チューブ11内に送られている血液中に気泡があるのを検出した場合には、超音波気泡検出センサ20は、コントローラ10に気泡を検出した検出信号を送る。これにより、ファストクランプ17は、コントローラ10の指令により、血液が患者P側に送られるのを阻止するために、送血チューブ12を緊急に閉塞する。
【0024】
超音波気泡検出センサ20では、血液循環動作中に三方活栓18の誤操作やチューブの破損等により回路内に気泡が混入された場合に、この混入された気泡を検出することができる。もし気泡が検出されると、図1のコントローラ10は、アラームによる警報を報知する。これにより、遠心ポンプ3の回転数を低くする。あるいは遠心ポンプ3を停止する。さらに、ファストクランプ17に指令して、ファストクランプ17により送血チューブ12を直ちに閉塞する。つまり、気泡が患者Pの体内に送られるのを阻止する。以上の全ての制御もしくは一部の動作を行うことで、体外循環装置1の循環回路1Rにおける血液の循環動作の抑制もしくは一時停止を行って、気泡が患者Pの人体に混入するのを防止する。
【0025】
図1に示す体外循環装置1の循環回路1Rのチューブの任意の箇所に圧力センサが設けられる。圧力センサは、好ましくはチューブ11(12,19)に装着することができる。これにより、体外循環装置1が患者Pに対して体外循環動作の際に、圧力センサ(図示せず)は、チューブ11(12,19)内を通る血液循環中の回路内圧を測定することができる。圧力センサは、循環回路1Rの脱血チューブ11の途中における装着位置W1、循環回路1Rの送血チューブ12の途中における装着位置W2、あるいは遠心ポンプ3と人工肺2との間を接続する接続チューブ19の途中における装着位置W3のいずれか1つあるいは全部に装着することができる。
【0026】
(第1実施形態)
図2図3を参照して本発明の経皮カテーテル(以下、「カテーテル」という。)の第1実施形態を説明する。図2は第1実施形態のカテーテルの正面図、図3はその概略断面図であり、図3には、カテーテルを挿入する際に使用するダイレーターがセットされている。このカテーテルは脱血用であり、図1の静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)5として使用されるものである。
【0027】
図2図3において、カテーテル30は、カテーテルチューブ31を有している。カテーテルチューブ31は、第1チューブ32と、この第1チューブに連通した第2チューブ33とを含む。
第1チューブ32は、第2チューブ33よりも太い内径を備える。しかも、第1チューブ32は、第1チューブ33より伸縮性が高い構造とされている。
【0028】
第1チューブ32の先端には、図示するように先端チップ41が先端コネクター42を介して固定されている。先端チップ41は先端側に向かって徐々に縮径された先が細い形状とされている。
第1チューブ32の後端と第2チューブ33の先端とは側孔を有するコネクター45により接続されている。コネクター45と先端チップ41の構造は後で詳しく説明する。
【0029】
図2図3において、カテーテル30の基端側は、カテーテルコネクター35を介して柔軟な材料で形成されたクランプ用チューブ34が接続されている、クランプ用チューブ34には、図3に示すように、中空のダイレーターチューブ51を内蔵したロックコネクター36が取り付けられている。ロックコネクター36の基端側に設けた雄ネジを利用して、ハブ53がネジリング54とともにロックコネクター36に対して、取り付けられている。
ハブ53は、後述するようにカテーテル30の挿入に利用されるダイレーター50を有している。ダイレーター50は、きわめて細い線材である。ダイレーター50はカテーテル30の中心部の全長にわたってダイレーターチューブ51内に内蔵されている。ダイレーター50はカテーテル30の挿入に際して、ガイドワイヤー(図示せず)に導かれて、狭い血管を拡張する役割を果たす。ダイレーター50は、後述するように、カテーテル挿入後に、ハブ53を引き抜くことで抜去される。
【0030】
カテーテル30は内部が液体の通路として中空(ルーメン)とされている。図2図3において、カテーテル30のカテーテルコネクター35より先端側(図において左側)は液体通路を設けたカテーテルチューブ31である。本実施形態では、カテーテルチューブ31は、側孔付コネクター45の部分で第1チューブ32と第2チューブ33とで異なる構造とされている。しかし、第1チューブ32と第2チューブ33とは液体通路としては単一のルーメンを形成している。
すなわち、第1チューブ32は、第2チューブ33より太い。これは第1チューブ32の長さ分だけでも、部分的にでも液体通路を太くすることで圧損を低減するためである。第1チューブ32は、第2チューブ33が配置される位置よりも深く患者の血管内に挿入されるから可能となる。第1チューブ32は右心血、第2チューブ33は、下大静脈から静脈血を引くことができるように、各長さが設定されている。
【0031】
そして、第1チューブ32は下大静脈に位置し、第2チューブ33は大腿静脈に位置することで第1チューブ32は部分的にでも液体通路を太くすることができ、圧損が低減される。第2チューブ33は、大腿静脈の長さが設定されている。実際の長さとしては、例えば、第1チューブ22は、20〜40cm程度であり、第2チューブ33の長さは20〜30cm程度とすることができる。
すなわち、第1チューブ32は、第2チューブ33より太いので、第1チューブの長さに対応した経路は圧損が低くなる。
すなわち、カテーテル30の圧損は、図2図3に示されているカテーテル30の全長×(平均)通路断面積となる。
ここで、図12はチューブの内径に対応した圧力損失(縦軸)と水流量(横軸)の一例を示すグラフである。
図示されているように、チューブの内径が細いと圧損は高くなり、循環回路を流れる水流量は減少する。このため、チューブの内径を十分な大きさとしないと、必要とされる血液の循環量は得られない。また、第1チューブの径は第2チューブの径によって異なるものである。
図12は、以下の条件の場合の圧損を示している。
(6mm)とは、第1チューブ32が内径Φ6mmで長さ20cmの場合、第2チューブ33が内径Φ6mmで長さ30cmの場合の圧損を示している。
また(8mm)とは、第1チューブ32が、内径Φ8mmで長さ20cmであり、第2チューブ33が、内径Φ6mmで長さ30cmの圧損を示している。
また、(10mm)とは、第1チューブ32が内径Φ10mmで長さ20cmであり、第2チューブ33が、内径Φ6mmで長さ30cmの圧損を示している。
また、(12mm)とは、第1チューブ32が、内径Φ12mmで長さ20cmであり、第2チュー33が、内径Φ6mmで長さ30cmの圧損を示している。
具体的には、使用カテーテルについて、例えば、Fr(外径)を21Fr(外径×内径Φ7mm×Φ6mm)の脱血カテーテルとした場合に、図12に示すように、第1チューブの内径はΦ8mm以上で十分圧損を低減して、必要な流量を得ることができた。
【0032】
カテーテルチューブ31は、従来使用されているシリコン・ポリエチレン・ナイロン・ウレタン・ポリウレタン・フッ素樹脂・熱可塑性エラストマー樹脂等を使用して、もしくはこれらの複合材料を用いて形成できる。カテーテルチューブ31は、これらの材料により、例えば押出し成形などにより形成することができる。
第1チューブ32と第2チューブ33とは別体であるから、別々の材料で、あるいは別々の成形法で形成することができる。
シリコン素材は、生体適合性が高く、素材自体も柔らかいため、血管を傷つけにくい特長がある。ポリエチレン素材は、柔らかく、且つ、圧力に耐える堅さを有している。しかもポリエチレン素材は、シリコン素材に匹敵する生体適合性を持つ。ポリエチレン素材は、シリコンよりも堅く、細い血管には挿入し易い特長がある。また、ポリウレタン素材は、挿入後には柔らかくなる特長がある。
チューブ材料としては、これらの素材の特長を生かして適用可能な材料を使用する。
また、ポリウレタン素材に親水性のコーティングを施しても良い。この場合チューブ表面が滑らかで、血管挿入が行い易く、血管壁を傷つけにくい。血液やタンパク質が付着しにくく、血栓の形成を防ぐことが期待できる。
以上の観点から、本実施形態では、第1チューブ32は、伸縮性に優れたものが好ましく、例えば、シリコンにより形成することができる。
また、第1チューブ32が柔軟な材料で構成されているので、先端部に硬い先端チップ41を固定することで、脱血時に第1チューブ32が潰れることを有効に回避できる。
【0033】
第2チューブ33は、患者の下大静脈に配置されるため、内径も従来と同じで、硬度も従来と同じもので良い。このため、第2チューブ33は、従来の材料、製法で形成できる。
第1チューブ32は、第2チューブ33よりも伸縮性のある比較的柔らかい材料を上記各材料などから適宜選択できる。第1チューブ32は、カテーテル挿入後、比較的深い位置(右心血)にあり、その位置では血管が太いので、キンクのおそれがほとんどない。このため、第1チューブ32の内径は、従来の脱血カテールより太くする。この場合、第1チューブ32の内径は、図12のグラフに基づいて、決めることができる。例えば、第1チューブ32の内径について、カテーテル30の全長の液体通路の平均内径が8mm以上になるように設定する。これにより、必要とされる送液量は得られる。また、第1チューブ32の内径の上限値は患者の身体の侵襲度を考慮して限界の大きさを決めればよい。本実施形態では、第1チューブ32の内径は例えば9mmとした。
図2から理解されるように、第1チューブ32の先端部と後端部はそれぞれ徐々に細くなる細径部とされており、第2チューブ33の内径6mmと連続するようになっている。
【0034】
次に、カテーテルチューブ31の補強構造について説明する。
特に第1チューブ32、好ましくは、第1チューブ32と第2チューブ33の双方は、ワイヤー材料で補強されている。
この場合、ワイヤーはメッシュ状もしくはコイル状として、金属ワイヤーや樹脂製のワイヤーを使用することができる。
この実施形態では、例えば、ステンレス製の細線で形成したワイヤーメッシュ37,38が使用されている。しかもワイヤーメッシュ37,38は、上述したチューブ材料の表面にメッシュを配置して、樹脂コートすることにより固定性と追従性を高めている。
この実施形態では、図1で示されているように、伸縮性の高い第1チューブ32の表面に、ワイヤーメッシュ37が配置され、さらにその上から、ウレタンコートを行っている。これにより、ワイヤーメッシュ37は、第1チューブ32の表面に強靭に固定される。このため、第1チューブ32が伸長されたときに、ワイヤーメッシュの網の目が第1チューブ32の表面に追従して開く。これにより、チューブの破損等を有効に防止できる。
【0035】
図4は、先端チップの一例を示す正面図と各部の切断端面図であり、図5は、図4の先端チップにダイレーターを挿入した様子を示す概略拡大断面図である。
これらの図において、先端チップ41は、第1チューブ32の先端に固定されるものである。先端チップ41は、図4に示すように左方に向かって徐々に縮径する先細形状であり、ほぼ円錐形である。先端チップ41は、例えば、硬質プラスチックによる成形品である。
【0036】
図4に示すように、細長い円錐形をした先端チップ42の基部49は、図1の第1チューブ32先端に挿入固定されるようになっている。先端チップ41の内部は第1チューブ32の液体通路と連通されている。先端チップ42の側面には貫通した複数の側面孔46,46,46,46が形成されている。先端チップ42の先端部にも貫通孔47が設けられており、これらの貫通孔は脱血孔として機能する。
図5に示されているように、先端チップ41の内側には、カテーテルの挿入に先立って使用されるダイレーター50の先端平面50aと当接される平坦な受け面48が形成されている。
【0037】
かくして、第1チューブ32の外径が細い場合、侵入の際、細い血管部分から挿入しても低侵襲にて挿入できる。挿入後は、第1チューブ32は体内深く侵入することになる。カテーテル30は、脱血用カテーテルであるから、第1チューブ32が患者の腹部付近から奥に配置される。このため、患者の身体の比較的太い血管内に配置されることになる。したがって、患者の身体に対して負担が軽い。さらに、第1チューブ32が体内に配置される付近では、チューブのキンクの恐れも低いから、柔軟な材料で形成されていても不都合が無い。
さらに、先端チップ41は、カテーテル30の挿入時にダイレーター50が使用される。この場合、ダイレーター50の先端は、平坦面50aとなっている。これにより、カテーテル30の挿入後に、このダイレーター50を引き抜く際に、柔軟な第1チューブ32の内側に引っ掛けることが有効に防止され、第1チューブ32が歪んで配置されることが無い。
【0038】
図6は側孔コネクター45を示しており、側孔コネクター45は第1チューブ32と第2チュブーブ33とを繋ぐ継手部材である。側孔コネクター45は、全体が筒体であり、例えば硬質プラスチック等による成形品である。
側孔コネクター45は筒体の両端部に縮径部である接続部61,62を有している。側孔コネクター45は、接続部を相手チューブに差し込むことで、図7の液体通路64がこれらチューブと連通する。側孔コネクター45は図8に示すように、側面に開口した複数の貫通孔63,63,63,63を有している。これらの側孔である貫通孔63,63,63,63は脱血孔として機能する。
また、図2に示すように、第1チューブ32と第2チューブ33とは硬い側孔コネクター45で接続され、しかも第1チューブ32は先端に硬い先端チップ41が固定されている。これにより、柔軟な第1チューブ32は、図1の体外循環装置において、陰圧が機能した際に、チューブが潰れて閉塞することが有効に防止されている。
【0039】
(カテーテルの使用方法) 図2は既に説明したようにカテーテル30の挿入前の準備段階を示している。
具体的には、先ず、カテーテル30に対してダイレーター50を挿入する。ダイレーター50はダイレーターチューブ51を通り、第2のチューブ33、第1のチューブ32と順に先端チップ41まで入り込む。ダイレーター50は、図5に示すように先端チップ42の平坦な受け面48に当接する。
これにより、ダイレーター50の挿入が、柔軟な第1チューブ32を伸長する。同時に、図3に表れているように、第1チューブ32の外径を細くした状態とする。
【0040】
続いて、患者のカテーテル挿入部位に対して予め挿入されているガイドワイヤー(図示せず)に沿ってカテーテル30を挿入する。
カテーテル30を挿入した後でカテーテル30についてダイレーター50とガイドワイヤーとをカテーテル30のクランプ用チューブ34の箇所まで抜いて鉗子(図示せず)によりクランプし、図1の体外循環装置の循環回路をカテーテルコネクター35と接続する。
接続後に、循環回路側からシリンジ(図示せず)によってカテーテル30のコネクター内に残存する気泡を除去する。
【0041】
かくして、第1チューブ32の内径が太い分、通路断面積が広くなるので、圧損が低くなるから送液量が高くなる。この場合、第1チューブ32は伸縮性が高いので、患者の血管に挿入される際に、ダイレーター50を挿通されて、長さ方向に伸長される。このため、カテーテル30を患者の身体に対して低侵襲で挿入できる。
また、ダイレーター50とガイドワイヤーとを完全に抜去する前にクランプ用チューブ34をクランプするから、体外循環装置への接続に際して血液が外部に漏れることが無い。このため、循環回路を通じて気泡が患者の血管中に入り込むことを有効に防止できる。
【0042】
(第2実施形態)
図9ないし図11を参照して本発明の経皮カテーテル(以下、「カテーテル」という。)の第2実施形態を説明する。図9は第2実施形態のカテーテルの概略平面図、図10はその概略正面図、図11はその概略断面図であり、図11には、カテーテルを挿入する際に使用するダイレーターがセットされている。
このカテーテル60はいわゆるダブルルーメンカテーテルであって、同時に送血と脱血の双方を行うことができるものである。したがって、本実施形態では、図1の対外循環装置においては、静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)5と、動脈側カテーテル(送血用カテーテル)6を用いることは無く、患者Pの首の頸動脈Nからカテーテル60だけを挿入する。
カテーテル60の挿入後においては、カテーテル60の先端は下大静脈に達し、送血口(側孔付コネクタ45−1)は右心房の三尖弁に向いている。
【0043】
図9ないし図11のカテーテル60の説明においては、第1実施形態のカテーテル30と共通する構成には同一の符号を付して重複する説明を援用し、以下、相違点を中心に説明する。
第1実施形態と同様に、第1チューブ32はその内径を大きくしているから、第2チューブ33よりも太い。
カテーテル60の第1チューブ32と第2チューブ33は、側孔コネクター45−1により接続されている。
【0044】
図11に示すように、このカテーテル60では、第1ロックコネクター36−1と、第2ロックコネクター36−2が並列的に設けられている。第1ロックコネクター36−1は脱血用であり、第2ロックコネクター36−2は送血用である。二つのロックコネクター36−1,36−2はひとつのカテーテルチューブ31に接続されている。
カテーテルチューブ31の第2チューブ33内には、互いに区分された中空の液体通過用の通路であるルーメン61,62がそれぞれ形成されている。両方の液体通路(ルーメン61,62)は液密的に区分されてともに第2チューブ33内を並列に延びている。
第1ロックコネクター36−1が第1ルーメン61に接続されている。第2ロックコネクター36−2は第2ルーメン62に接続されている。
【0045】
ここで、1つの液体通過用の通路である第1ルーメン61が脱血路として第2チューブ33内を通り、側孔コネクター45−1の側孔63−1に接続されている。
他の液体通路である第2ルーメン62は、送血路として、第1チューブ32内を通り、先端チップ41に接続している。
なお、側孔コネクター45−1は第1実施形態と異なる構成で第1ルーメン61に接続されている。側孔コネクター45−1のひとつの貫通孔63−1は一つの脱血孔である。
先端チップ41は、送血用に開口している点を除き、その構造は第1実施形態のものと
同じである。
【0046】
本実施形態は以上のように構成されており、特徴ある第1チューブ32は、第1実施形態と同じ機能を発揮し、作用効果も共通している。
しかも、ダイレーター50、ガイドワイヤー(図示せず)を使用して患者に対して第1実施形態のカテーテルと同じように挿入することができる。
しかしながら、第2実施形態によれば、ひとつのカテーテルで脱血と送液の両方の機能を果たすことができる。
【0047】
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上述した本発明の各実施形態は、任意組み合わせることができる。上記実施形態の各構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0048】
1・・・体外循環装置、1R・・・循環回路、2・・・人工肺、3・・・遠心ポンプ、4・・・ドライブモータ、5・・・静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)、6・・・動脈側カテーテル(送血用カテーテル)、10・・・コントローラ、11・・・脱血チューブ、12・・・送血チューブ、19・・・接続チューブ、30・・・カテーテル、31・・・カテーテルチューブ、32・・・第1チューブ、33・・・第2チューブ、34・・・クランプ用チューブ、41・・・先端チップ、45・・・側孔コネクター、51・・・ダイレーターチューブ、50・・・ダイレーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12