特許第6887977号(P6887977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6887977-一次線走査装置および信号処理方法 図000002
  • 特許6887977-一次線走査装置および信号処理方法 図000003
  • 特許6887977-一次線走査装置および信号処理方法 図000004
  • 特許6887977-一次線走査装置および信号処理方法 図000005
  • 特許6887977-一次線走査装置および信号処理方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6887977
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】一次線走査装置および信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20210603BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20210603BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   H01J37/22 502H
   G01N23/2251
   H01J37/28 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-174946(P2018-174946)
(22)【出願日】2018年9月19日
(65)【公開番号】特開2020-47469(P2020-47469A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2020年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】松原 孝則
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−032445(JP,A)
【文献】 特開2010−165697(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0169901(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0286782(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/28
H01J 37/147
G01N 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を走査するための一次線の走査速度を制御可能な一次線走査装置であって、
前記一次線を前記試料に照射することで得られた信号を検出して、アナログ信号を出力する検出器と、
前記アナログ信号をサンプリングして、デジタル信号に変換するA/D変換器と、
前記デジタル信号を平均化する演算部と、
を含み、
前記演算部は、前記デジタル信号を平均化して、前記デジタル信号のビット深度を大きくし、
前記デジタル信号の平均化は、1画素に相当する領域で得られた前記アナログ信号をn回サンプリングして得られたn個の前記デジタル信号を加算し、加算した結果をサンプリング回数nで割ることによって行われる、一次線走査装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記演算部で生成されたデータのビット深度を制限して出力するビット深度制限部を含み、
前記データは、前記演算部で平均化された前記デジタル信号である、一次線走査装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記ビット深度制限部は、前記走査速度に応じて、前記データのビット深度を制限する、一次線走査装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記データのビット深度の制限値の入力を受け付ける入力部を含み、
前記ビット深度制限部は、前記データのビット深度を、前記制限値に制限する、一次線走査装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記A/D変換器は、前記アナログ信号を、所定のサンプリングレートでサンプリング
する、一次線走査装置。
【請求項6】
試料を走査するための一次線の走査速度を制御可能な一次線走査装置のおける信号処理方法であって、
前記一次線を前記試料に照射することで得られた信号を検出器で検出する工程と、
A/D変換器で前記検出器から出力されたアナログ信号をサンプリングして、デジタル信号に変換する工程と、
前記デジタル信号を平均化する工程と、
を含み、
前記デジタル信号を平均化する工程では、前記デジタル信号を平均化して、前記デジタル信号のビット深度を大きくし、
前記デジタル信号の平均化は、1画素に相当する領域で得られた前記アナログ信号をn回サンプリングして得られたn個の前記デジタル信号を加算し、加算した結果をサンプリング回数nで割ることによって行われる、信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次線走査装置および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームや、イオンビーム、X線などの一次線を試料上で走査して得られた二次的信号(電子、特性X線等)を検出して分析や観察を行う一次線走査装置が知られている。このような一次線走査装置としては、例えば、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope、STEM)、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer、EPMA)、オージェマイクロプローブ(Auger Microprobe)、X線光電子分光装置(X-ray Photoelectron Spectrometer、XPS)などが挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
例えば、走査電子顕微鏡では、電子ビームを試料に照射することで試料から放出された二次電子は、二次電子検出器で検出されて電気信号に変換される。走査電子顕微鏡では、この電気信号をA/D変換した後、画像処理を行って二次電子像(SEM像)を生成する。試料上の各分析点で得られた電気信号は、画像処理により、SEM像の1画素分の画像データに変換される。画像データのビット深度は、A/D変換器の分解能を最大とし、その後の処理によっては減少する。
【0004】
つまり、A/D変換器の性能が、最終的なSEM像の1画素あたりのビット深度に直接的に影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−164442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような一次線走査装置において観察や分析を行う場合、観察や分析の目的に応じて、要求されるデータ量が変わってくる。しかしながら、データのビット深度は、A/D変換器の性能に依存し固定である。そのため、よりビット深度の大きいデータを得るためには、より高分解能なA/D変換器が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一次線走査装置の一態様は、
試料を走査するための一次線の走査速度を制御可能な一次線走査装置であって、
前記一次線を前記試料に照射することで得られた信号を検出して、アナログ信号を出力する検出器と、
前記アナログ信号をサンプリングして、デジタル信号に変換するA/D変換器と、
前記デジタル信号を平均化する演算部と、
を含み、
前記演算部は、前記デジタル信号を平均化して、前記デジタル信号のビット深度を大きくし、
前記デジタル信号の平均化は、1画素に相当する領域で得られた前記アナログ信号をn回サンプリングして得られたn個の前記デジタル信号を加算し、加算した結果をサンプリング回数nで割ることによって行われる
【0008】
このような一次線走査装置では、A/D変換器でアナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換し、得られたデジタル信号を平均化するため、一次線の走査速度に応じて、デジタル信号のビット深度を変更できる。したがって、このような一次線走査装置では、A/D変換器の分解能以上のビット深度のデータを得ることができる。
【0009】
本発明に係る信号処理方法の一態様は、
試料を走査するための一次線の走査速度を制御可能な一次線走査装置のおける信号処理方法であって、
前記一次線を前記試料に照射することで得られた信号を検出器で検出する工程と、
A/D変換器で前記検出器から出力されたアナログ信号をサンプリングして、デジタル信号に変換する工程と、
前記デジタル信号を平均化する工程と、
を含み、
前記デジタル信号を平均化する工程では、前記デジタル信号を平均化して、前記デジタル信号のビット深度を大きくし、
前記デジタル信号の平均化は、1画素に相当する領域で得られた前記アナログ信号をn回サンプリングして得られたn個の前記デジタル信号を加算し、加算した結果をサンプリ
ング回数nで割ることによって行われる
【0010】
このような信号処理方法では、A/D変換器でアナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換し、得られたデジタル信号を平均化するため、一次線の走査速度に応じて、デジタル信号のビット深度を変更できる。したがって、このような信号処理方法では、A/D変換器の分解能以上のビット深度のデータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】第1実施形態に係る電子顕微鏡の信号処理部の構成を示す図。
図3】第2実施形態に係る電子顕微鏡の信号処理部の構成を示す図。
図4】走査速度情報出力部の構成の一例を示す図。
図5】第3実施形態に係る電子顕微鏡の信号処理部の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
また、以下に説明する実施形態では、本発明に係る一次線走査装置として、電子ビームで試料を走査する電子顕微鏡を例に挙げて説明する。
【0014】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。電子顕微鏡100は、走査電子顕微鏡(SEM)である。
【0015】
電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子源10と、光学系20と、試料ステージ30と、検出器40と、制御部50と、走査信号生成装置52と、信号処理部60と、画像処理部70と、表示部80と、を含む。
【0016】
電子源10は、電子を発生させる。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子ビームを放出する電子銃である。
【0017】
光学系20は、電子源10から放出された電子ビームを試料Sに照射する。光学系20は、コンデンサーレンズ22と、対物レンズ24と、偏向器26と、を含む。
【0018】
コンデンサーレンズ22は、電子源10から放出された電子ビームを集束させる。コンデンサーレンズ22によって、電子ビームの径および電子ビームの電流量を制御することができる。
【0019】
対物レンズ24は、試料Sの直前に配置されている。対物レンズ24は、電子ビームを
集束させて、電子プローブを形成する。対物レンズ24は、例えば、コイルと、ヨークと、を含んで構成されている。対物レンズ24では、コイルで作られた磁力線を、鉄などの透磁率の高い材料で作られたヨークに閉じ込め、ヨークの一部に切欠き(レンズギャップ)を作ることで、高密度に分布した磁力線を光軸OA上に漏洩させる。
【0020】
偏向器26は、電子ビームを二次元的に偏向させる。偏向器26に走査信号が供給されることによって、電子ビームで試料S上を走査することができる。走査信号は、走査信号生成装置52で生成される。
【0021】
試料ステージ30には、試料Sが載置される。試料ステージ30は、試料Sを支持することができる。試料ステージ30は、試料Sを移動させるための移動機構を含んで構成されている。試料ステージ30で試料Sを移動させることにより、試料S上での電子ビームが照射される位置を変更できる。
【0022】
検出器40は、例えば、試料Sから放出された二次電子を検出する二次電子検出器である。検出器40は、例えば、検出した二次電子の量に応じた信号を出力する。なお、検出器40は、試料Sから放出された反射電子を検出する反射電子検出器であってもよい。
【0023】
電子顕微鏡100は、さらに、試料Sから放出された特性X線を検出するエネルギー分散型X線検出器、特性X線を分光素子で分光して検出する波長分散型X線分光器などの検出器を備えていてもよい。
【0024】
制御部50は、電子顕微鏡100を構成する各部を制御する。制御部50は、例えば、走査信号生成装置52を介して、電子ビームで走査する領域の大きさ(すなわちSEM像の倍率)や、電子ビームの走査速度を制御する。電子顕微鏡100では、電子ビームの走査速度が可変である。
【0025】
制御部50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などの記憶装置と、を含む。記憶装置には、各種制御を行うためのプログラムおよびデータが記憶されている。制御部50の機能は、プロセッサでプログラムを実行することにより実現できる。
【0026】
走査信号生成装置52は、制御部50からの制御信号に基づいて走査信号を生成する。走査信号は、偏向器26に送られる。
【0027】
信号処理部60は、検出器40の出力信号に基づいて、画像データを生成する処理を行う。
【0028】
画像処理部70は、画像データに基づいてSEM像を生成し、表示部80にSEM像を表示させる処理を行う。画像処理部70は、例えば、CPUなどのプロセッサと、RAMおよびROMなどの記憶装置と、を含む。記憶装置には、各種画像処理を行うためのプログラムおよびデータが記憶されている。画像処理部70の機能は、プロセッサでプログラムを実行することにより実現できる。
【0029】
表示部80は、画像処理部70で生成された画像を出力する。表示部80は、例えば、LCD(liquid crystal display)などのディスプレイである。
【0030】
図2は、信号処理部60の構成を示す図である。
【0031】
信号処理部60は、図2に示すように、増幅器61と、帯域制限フィルタ62と、A/
D変換器63と、デジタルフィルタ64(演算部の一例)と、メモリ65と、ビット深度制限部66と、を含む。
【0032】
増幅器61は、検出器40から出力されたアナログ信号を増幅する。増幅器61で増幅されたアナログ信号は、帯域制限フィルタ62に送られる。
【0033】
帯域制限フィルタ62は、増幅されたアナログ信号の帯域を所定の帯域以下に制限する。帯域制限フィルタ62で帯域が制限されたアナログ信号は、A/D変換器63に送られる。
【0034】
A/D変換器63は、アナログ信号を所定のサンプリングレートでサンプリングして、デジタル信号に変換する。A/D変換器63で得られたデジタル信号は、デジタルフィルタ64に送られる。
【0035】
デジタルフィルタ64は、デジタル信号を平均化して、画像データを生成する。平均化は、時系列のデジタル信号において、一定の区間ごとの平均値を、区間をずらしながら求めることで行われる。すなわち、平均化は、移動平均により行われる。デジタルフィルタ64で生成された画像データは、メモリ65に送られる。
【0036】
メモリ65は、画像データを記憶する。メモリ65には、画像データが蓄積される。
【0037】
ビット深度制限部66は、画像データのビット深度を制限して、画像処理部70に転送する処理を行う。ビット深度制限部66は、例えば、画像データのビット深度をあらかじめ設定された制限値に制限して、画像処理部70に転送する。
【0038】
1.2. 動作
次に、電子顕微鏡100の動作について説明する。
【0039】
電子顕微鏡100では、電子源10から放出された電子ビームを、コンデンサーレンズ22および対物レンズ24で集束し、電子ビームを偏向器26で二次元的に偏向させることで、電子ビームで試料S上を走査する。試料S上の各分析点(電子ビームの照射位置)から放出された二次電子は、検出器40で検出される。
【0040】
検出器40から出力される電気信号(アナログ信号)は、信号処理部60で画像データに変換される。信号処理部60では、試料S上の各分析点の電気信号が、SEM像の1画素分の画像データに変換される。画像処理部70では、画像データに基づいてSEM像が生成され、表示部80にSEM像が表示される。
【0041】
信号処理部60では、電子ビームの走査速度に応じて、画像データのビット深度を変更することができる。
【0042】
例えば、電子顕微鏡100において、電子ビームを最も速い走査速度で走査した場合、SEM像の1画素に相当する領域に電子ビームが滞在して得られる電気信号(すなわち、検出器40の出力信号)に対し、A/D変換器63がサンプリングする回数を1回とする。すなわち、電子ビームを最も速い走査速度で走査した場合、A/D変換器63は、1画素に相当する領域に電子ビームが滞在して得られる電気信号に対して、1回のサンプリングを行う。
【0043】
また、A/D変換器63は、一定のサンプリングレートで電気信号をサンプリングする。すなわち、A/D変換器63における電気信号のサンプリングレートは、走査速度によ
らず、常に、一定である。
【0044】
電子ビームの走査速度を、最も速い走査速度の1/2に減速した場合、1画素に相当する領域に電子ビームが滞在する時間は、2倍になる。そのため、A/D変換器63では、1画素に相当する領域に電子ビームが滞在して得られる電気信号に対して、2回のサンプリングが可能である。
【0045】
同様に、電子ビームの走査速度を、最も速い走査速度の1/4に減速した場合、1画素に相当する領域に電子ビームが滞在する時間は、4倍になる。そのため、A/D変換器63では、1画素に相当する領域に電子ビームが滞在して得られる電気信号に対して、4回のサンプリングが可能である。
【0046】
すなわち、電子ビームの走査速度を、最も速い走査速度の2−N倍に減速した場合、1画素に相当する領域に電子ビームが滞在する時間は、2倍になる。そのため、A/D変換器63では、1画素に相当する領域に電子ビームが滞在して得られる電気信号に対して、2回のサンプリングが可能である。
【0047】
A/D変換器63でサンプリングされたデータ(デジタル信号)は、後段のデジタルフィルタ64にて平均化処理されることで、平滑化される。また、このような平均化処理を行うことによって、データが平滑化されるだけでなく、データの分解能が向上する(オーバーサンプリング)。例えば、平均化するサンプル数が2つであれば分解能は1/2ビット向上し、平均化するサンプル数が4つであれば分解能は1ビット向上する。すなわち、平均化するサンプル数が2倍になると、分解能が1/2ビットずつ向上する。
【0048】
したがって、信号処理部60では、電子ビームの走査速度に応じて、画像データのビット深度を変更することができる。そのため、例えば、電子ビームの走査速度を遅くすればするほど、画像データのビット深度を大きくできる。これにより、信号処理部60では、A/D変換器63の分解能以上のビット深度の画像データを得ることができる。
【0049】
次に、ビット深度制限部66について説明する。ビット深度制限部66では、デジタルフィルタ64で得られた画像データのビット深度を制限して出力する。
【0050】
ここで、例えば、試料SのSEM像を表示部80に表示させて観察を行うことが目的であるとする。表示部80が1画素あたり8ビットまでの画像を表示可能であるとすると、画像データのビット深度を8ビットよりも大きくしても無駄である。また、画像データのビット深度が大きくなると、画像データのデータ量が膨大になり、広帯域のインターフェースが必要となる。また、画像処理部70において、トラフィックが増大し、スループットが悪化してしまうおそれがある。
【0051】
したがって、ビット深度制限部66は、デジタルフィルタ64で得られた画像データのビット深度が8ビットよりも大きい場合には、画像データのビット深度を8ビットに変更して画像処理部70に転送する。また、ビット深度制限部66は、デジタルフィルタ64で得られた画像データのビット深度が8ビット以下の場合には、ビット深度を変えずに画像データを画像処理部70に転送する。このように、ビット深度制限部66は、画像データのビット深度を8ビットに制限する。
【0052】
ここでは、ビット深度制限部66が、画像データのビット深度を8ビットに制限する場合について説明したが、ビット深度制限部66は、画像データを、あらかじめ設定された任意の制限値に制限することができる。
【0053】
1.3. 特徴
電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0054】
電子顕微鏡100は、試料Sを走査するための電子ビームの走査速度を制御可能な電子顕微鏡であって、電子ビームを照射することで得られた試料Sからの二次電子(信号)を検出してアナログ信号を出力する検出器40と、アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するA/D変換器63と、デジタル信号を平均化して画像データを生成するデジタルフィルタ64と、を含む。
【0055】
そのため、電子顕微鏡100では、電子ビームの走査速度に応じて、画像データのビット深度を変更できる。したがって、電子顕微鏡100では、A/D変換器63の分解能以上のビット深度の画像データを得ることができる。よって、電子顕微鏡100では、例えば、高分解能のA/D変換器を実装しなくても、容易に画像データのビット深度を大きくすることができる。
【0056】
電子顕微鏡100では、デジタルフィルタ64で生成された画像データのビット深度を制限するビット深度制限部66を含む。そのため、電子顕微鏡100では、画像処理部70に、必要以上のデータが転送されて、トラフィックが増大することを防止することができる。
【0057】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。図3は、第2実施形態に係る電子顕微鏡200の信号処理部60の構成を示す図である。なお、電子顕微鏡200の信号処理部60以外の構成は、図1に示す電子顕微鏡100の構成を同じであるため、図示および説明を省略する。
【0058】
以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡200において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0059】
上述した電子顕微鏡100では、ビット深度制限部66は、画像データのビット深度を、あらかじめ設定された制限値に制限していた。
【0060】
これに対して、電子顕微鏡200では、ビット深度制限部66は、電子ビームの走査速度に応じて、画像データのビット深度を制限する。
【0061】
電子顕微鏡200では、電子ビームの走査速度は、クイックスキャンQS1、クイックスキャンQS2、スロースキャンSS1、スロースキャンSS2の4段階から選択可能である。電子顕微鏡200では、例えば、GUI(Graphical User Interface)による操作を行うことで、4段階(QS1、QS2、SS1、SS2)の走査速度から、所望の走査速度を選択することができる。走査速度は、クイックスキャンQS1が最も速く、2番目にクイックスキャンQS2が速く、3番目にスロースキャンSS1が速く、スロースキャンSS2が最も遅い。
【0062】
例えば、ユーザーがクイックスキャンQS1を選択する指示を行った場合、制御部50は、電子ビームがクイックスキャンQS1に相当する走査速度で走査されるように制御信号を生成する。走査信号生成装置52は、この制御信号に基づいて走査信号を生成し、偏向器26に走査信号を供給する。この結果、電子ビームがクイックスキャンQS1に相当する走査速度で走査される。
【0063】
電子顕微鏡200では、信号処理部60は、電子ビームの走査速度の情報を出力する走査速度情報出力部68を含む。走査速度情報出力部68は、例えば、制御部50から現在の走査速度情報を取得して、現在の走査速度情報を出力する。走査速度情報は、リミッター66aに送られる。
【0064】
図4は、走査速度情報出力部68の構成の一例を示す図である。走査速度情報出力部68は、例えば、図4に示すように、制御部50からの制御信号Aに従い、4段階(QS1、QS2、SS1、SS2)の走査速度から、1つ選択して出力するセレクタ(マルチプレクサ)680を含んで構成されている。
【0065】
ビット深度制限部66は、図3に示すように、リミッター66aと、データ出力部66bと、を含む。
【0066】
リミッター66aは、走査速度に応じて、画像データのビット深度を制限する。リミッター66aは、例えば、走査速度情報出力部68からの走査速度情報を受け付けて、走査速度に応じた制限値を設定し、画像データのビット深度を設定された制限値に制限する。
【0067】
リミッター66aは、デジタルフィルタ64で得られた画像データのビット深度が制限値よりも大きい場合には、画像データのビット深度を制限値に変更する。また、リミッター66aは、デジタルフィルタ64で得られた画像データのビット深度が制限値以下の場合には、ビット深度を変えずに通過させる。
【0068】
データ出力部66bは、リミッター66aからの画像データを受け付けて、画像処理部70に転送する処理を行う。
【0069】
2.2. 動作
次に、電子顕微鏡200の動作について説明する。以下では、上述した電子顕微鏡100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0070】
例えば、電子ビームの走査速度をクイックスキャンQS1とした場合、リミッター66aでは、制限値LQS1が設定されて、画像データのビット深度が制限値LQS1に制限される。ビット深度が制限された画像データは、データ出力部66bから出力される。
【0071】
なお、制限値LQS1は、走査速度がクイックスキャンQS2の場合の制限値LQS2よりも小さい(LQS1<LQS2)。そのため、画像データのビット深度を制限値LQS1に制限することで、画像処理部70への転送負荷を低減できる。
【0072】
電子ビームの走査速度をクイックスキャンQS2とした場合も同様に、リミッター66aでは、制限値LQS2が設定されて、画像データのビット深度が制限値LQS2に制限される。
【0073】
また、例えば、電子ビームの走査速度をスロースキャンSS2とした場合、デジタルフィルタ64では、画像データのビット深度がA/D変換器63の分解能以上に大きくなる。ここで、走査速度をスロースキャンSS2とした場合、リミッター66aでは制限値が設定されずに、画像データを通過させる。すなわち、画像データは、デジタルフィルタ64で得られたビット深度を維持したまま、データ出力部66bから出力される。この結果、画像処理部70には、A/D変換器63の分解能以上のビット深度の画像データが転送される。
【0074】
電子ビームの走査速度をスロースキャンSS1とした場合、スロースキャンSS2とした場合と同様にリミッター66aにおいてビット深度を制限せずに画像データを通過させてもよい。また、電子ビームの走査速度をスロースキャンSS1とした場合に、クイックスキャンQS1とした場合と同様に、リミッター66aで画像データのビット深度を制限値LSS1に(LQS2<LSS1)制限してもよい。
【0075】
このように、電子顕微鏡200では、電子ビームの走査速度に応じて、画像データのビット深度を制限できる。したがって、電子顕微鏡200では、目的に応じて、最適な画像データを容易に取得することができる。
【0076】
例えば、電子顕微鏡200では、光学系20の調整や、視野探し、分析位置を探す場合などには、走査速度として、クイックスキャンQS1を用いることができる。走査速度がクイックスキャンQS1の場合、リミッター66aでは、画像データのビット深度の制限値が小さく設定されるため、画像処理部70への転送負荷を低減できる。したがって、表示部80には、SEM像をリアルタイムに表示させることができ、ユーザーは、光学系20の調整や、視野探しをストレスなく行うことができる。
【0077】
また、例えば、電子顕微鏡200において、試料Sの撮影や、分析を行う場合などには、走査速度として、スロースキャンSS2を用いることができる。走査速度がスロースキャンSS2の場合、リミッター66aでは、画像データのビット深度が制限されないため、画像処理部70には、A/D変換器63の分解能以上のビット深度の画像データが転送される。したがって、精度の高い画像データを得ることができる。
【0078】
電子顕微鏡200では、上記のように走査速度に応じてビット深度の制限値を自動で変更するモードと、電子顕微鏡100の例のようにビット深度をあらかじめ設定された制限値に制限するモードと、を備えていてもよい。電子顕微鏡200では、この2つのモードをユーザーが任意に切り替えることができてもよい。
【0079】
2.3. 変形例
例えば、上記では、電子ビームの走査速度に応じて、画像データのビット深度を制限していたが、リミッター66aで画像データのビット深度を制限しなくてもよい。すなわち、リミッター66aでは、常に、画像データのビット深度を制限せずに、デジタルフィルタ64で得られたビット深度を維持したまま、画像処理部70に転送してもよい。例えば、観察中にリアルタイムに分析を行う場合には、リミッター66aでビット深度を制限せずに、そのときの走査速度で得られた最大のビット深度の画像データを転送することが好ましい。
【0080】
3. 第3実施形態
次に、第3実施形態に係る電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。図5は、第3実施形態に係る電子顕微鏡300の信号処理部60の構成を示す図である。なお、電子顕微鏡300の信号処理部60以外の構成は、図1に示す電子顕微鏡100の構成を同じであるため、図示および説明を省略する。
【0081】
以下、第3実施形態に係る電子顕微鏡300において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100および第2実施形態に係る電子顕微鏡200の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0082】
電子顕微鏡300は、図5に示すように、画像データのビット深度の制限値の入力を受け付ける入力部90を含む。また、信号処理部60は、画像データのビット深度の制限値を設定する制限値設定部69を含む。
【0083】
入力部90は、ユーザーによって入力された制限値の情報を信号に変換して、制限値設定部69に送る処理を行う。入力部90は、例えば、ボタン、キー、マイク、タッチパネルなどの入力機器により実現できる。ユーザーは、入力部90を用いて、制限値を指定することができる。
【0084】
制限値設定部69は、入力部90からの信号に基づいて、画像データのビット深度の制限値を設定する。これにより、リミッター66aでは、画像データのビット深度が、ユーザーによって指定された制限値に制限される。
【0085】
電子顕微鏡300では、ビット深度制限部66は、画像データのビット深度を、ユーザーによって入力された制限値に制限するため、ユーザーは所望のビット深度の画像データを得ることができる。例えば、試料Sの観察や視野探しを行う場合には、ユーザーは制限値として小さな値を指定して、ストレスなく観察や視野探しを行うことができる。また、例えば、試料Sの撮影や分析を行う場合には、ユーザーは制限値として大きな値を指定して、または制限値を設定しないことで、精度の高いデータを得ることができる。
【0086】
4. その他
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0087】
上述した第1実施形態では、図1に示すように、検出器40が、試料Sから放出された二次電子(または反射電子)を検出する電子検出器である場合について説明したが、検出器40は、試料Sから放出された特性X線を検出するX線検出器であってもよい。このようなX線検出器としては、エネルギー分散型X線検出器、波長分散型X線検出器が挙げられる。検出器40がX線を検出する検出器である場合も、同様に、X線データのビット深度を走査速度に応じて変更できる。第2実施形態に係る電子顕微鏡200および第3実施形態に係る電子顕微鏡300についても同様である。
【0088】
また、上述した第1実施形態では、本発明に係る一次線走査装置として、図1に示すように、走査電子顕微鏡を例に挙げて説明したが、本発明に係る一次線走査装置は、試料を走査するための一次線の走査速度を制御可能な装置であれば特に限定されない。ここで、一次線としては、電子ビームの他に、イオンビーム、X線、レーザー光線などが挙げられる。本発明に係る一次線走査装置としては、走査透過電子顕微鏡(STEM)、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、オージェマイクロプローブ、X線光電子分光装置(XPS)などが挙げられる。第2実施形態に係る電子顕微鏡200および第3実施形態に係る電子顕微鏡300についても同様である。
【0089】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0090】
10…電子源、20…光学系、22…コンデンサーレンズ、24…対物レンズ、26…偏向器、30…試料ステージ、40…検出器、50…制御部、52…走査信号生成装置、60…信号処理部、61…増幅器、62…帯域制限フィルタ、63…A/D変換器、64…デジタルフィルタ、65…メモリ、66…ビット深度制限部、66a…リミッター、66
b…データ出力部、68…走査速度情報出力部、69…制限値設定部、70…画像処理部、80…表示部、90…入力部、100…電子顕微鏡、200…電子顕微鏡、300…電子顕微鏡
図1
図2
図3
図4
図5