特許第6888032号(P6888032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6888032二つのコニシティを有するピペッティングシステムのチップ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6888032
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】二つのコニシティを有するピペッティングシステムのチップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/10 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
   G01N35/10 G
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-565854(P2018-565854)
(86)(22)【出願日】2017年6月15日
(65)【公表番号】特表2019-518219(P2019-518219A)
(43)【公表日】2019年6月27日
(86)【国際出願番号】FR2017051552
(87)【国際公開番号】WO2017216489
(87)【国際公開日】20171221
【審査請求日】2020年5月18日
(31)【優先権主張番号】1655652
(32)【優先日】2016年6月17日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513310243
【氏名又は名称】ジルソン エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュデク ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】バルビウ ジョナタン
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−324509(JP,A)
【文献】 特開2011−245434(JP,A)
【文献】 特表2009−538725(JP,A)
【文献】 特表2004−529746(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0082078(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0034706(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0309144(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0273463(US,A1)
【文献】 米国特許第06550349(US,B1)
【文献】 仏国特許出願公開第03026658(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00,35/10,
B01L 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペッティングシステムの下部に設けられてサンプリングコーンを支持するチップ(6)であって、
第一仮想平面(P1)内に位置する長手軸(7)を有しており、
前記長手軸(7)に沿って下方から上方へ並んでおり、かつ前記チップの外面(20)から径方向外側へ突出している複数の第一サンプリングコーン保持エレメント(24−1a)を含む第一グループ、複数の第二サンプリングコーン保持エレメント(24−2a)を含む第二グループ、および複数の第三サンプリングコーン保持エレメント(24−3a)を含む第三グループを備えており、
前記複数の第一サンプリングコーン保持エレメント(24−1a)は、前記チップの第一環状領域(20−1)に沿って互いに離間しており、かつ前記第一仮想平面(P1)と直交する第二仮想平面(P2)内に位置して第一最大外径(Dmax1)を規定しており、
前記複数の第二サンプリングコーン保持エレメント(24−2a)は、前記チップの第二環状領域(20−2)に沿って互いに離間しており、かつ前記第二仮想平面(P2)内に位置して第二最大外径(Dmax2)を規定しており、
前記複数の第三サンプリングコーン保持エレメント(24−3a)は、前記チップの第三環状領域(20−3)に沿って互いに離間しており、かつ前記第二仮想平面(P2)内に位置して第三最大外径(Dmax3)を規定しており、
前記チップは、前記第一環状領域(20−1)と前記第三環状領域(20−3)の間にガスケット(26)を支持しており、
前記第一最大外径(Dmax1)と前記第二最大外径(Dmax2)が相違することによって、第一コニシティ(Con1)を有する第一チップ部(6a)が区画されており、 前記第二最大外径(Dmax2)と前記第三最大外径(Dmax3)が相違することによって、前記第一コニシティ(Con1)よりも小さい第二コニシティ(Con2)を有する第二チップ部(6b)が区画されており
前記第一コニシティ(Con1)は、前記第一仮想平面(P1)に沿う方向から見て前記長手軸(7)に対して同じ側に位置する前記複数の第一サンプリングコーン保持エレメント(24−1a)の一つと前記複数の第二サンプリングコーン保持エレメント(24−2a)の一つに接する直線と前記長手軸(7)とがなす角度として定義され、
前記第二コニシティ(Con2)は、前記第一仮想平面(P1)に沿う方向から見て前記長手軸(7)に対して同じ側に位置する前記複数の第二サンプリングコーン保持エレメント(24−2a)の一つと前記複数の第三サンプリングコーン保持エレメント(24−3a)の一つに接する直線と前記長手軸(7)とがなす角度として定義される、
チップ。
【請求項2】
ピペッティングシステムの下部(4)であって、
請求項1に記載のサンプリングコーンを支持するチップ(6)を、少なくとも一つ備えている、
ピペッティングシステムの下部。
【請求項3】
シングルチャネルピペッティングシステム用に構成されており、前記サンプリングコーンを支持するチップ(6)を一つ備えている、
請求項2に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項4】
マルチチャネルピペッティングシステム用に構成されており、前記第一仮想平面(P1)内に位置する長手軸(7)を有する前記サンプリングコーンを支持するチップ(6)を複数備えている、
請求項2に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項5】
前記第一グループは、前記第一最大外径(Dmax1)を規定している前記複数の第一サンプリングコーン保持エレメント(24−1a)に加えて、当該第一最大外径(Dmax1)により規定される第一仮想円(C1)よりも径方向内側に位置する複数の第一サンプリングコーン保持エレメント(24−1b)を含んでいる、
請求項2に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項6】
前記第一グループは、前記第一最大外径(Dmax1)を規定している前記複数の第一サンプリングコーン保持エレメント(24−1a)に加えて、少なくとも一対の第一保持エレメント(24−1b)を含んでおり、
前記少なくとも一対の第一保持エレメント(24−1b)は、前記第一最大外径(Dmax1)よりも小さい少なくとも一つの第一直径(Dinf1)を規定しており、
前記少なくとも一つの第一直径(Dinf1)は、前記第一仮想平面(P1)内に位置している、
請求項5に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項7】
前記第三グループは、前記第三最大外径(Dmax3)を規定している前記複数の第三サンプリングコーン保持エレメント(24−3a)に加えて、当該第三最大外径(Dmax3)により規定される第三仮想円(C3)よりも径方向内側に位置する複数の第三サンプリングコーン保持エレメント(24−3b)を含んでいる、
請求項2に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項8】
前記第三グループは、前記第三最大外径(Dmax3)を規定している前記複数の第三サンプリングコーン保持エレメント(24−3a)に加えて、少なくとも一対の第三保持エレメント(24−3b)を含んでおり、
前記少なくとも一対の第三保持エレメント(24−3b)は、前記第一最大外径(Dmax3)よりも小さい少なくとも一つの第三直径(Dinf3)を規定しており、
前記少なくとも一つの第三直径(Dinf3)は、前記第一仮想平面(P1)内に位置している、
請求項7に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項9】
前記第二グループに含まれる前記第二サンプリングコーン保持エレメント(24−2a)は、前記第二最大外径(Dmax2)により規定される第二仮想円(C2)上に位置している、
請求項2に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項10】
前記第二グループは、前記第二最大外径(Dmax2)を規定している前記複数の第二サンプリングコーン保持エレメント(24−2a)に加えて、少なくとも一対の第二保持エレメント(24−2b)を含んでおり、
前記少なくとも一対の第二保持エレメント(24−2b)は、前記第一仮想平面(P1)内に位置している前記第二最大外径(Dmax2)を規定している、
請求項9に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項11】
前記第一コニシティ(Con1)は、3°から4.5°であり、
前記第二コニシティ(Con2)は、2°から3.4°である、
請求項2に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項12】
前記チップ(6)の数は、2から16である、
請求項2に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項13】
前記ガスケット(26)は、リップシールである、
請求項2に記載のピペッティングシステムの下部。
【請求項14】
請求項2に記載のピペッティングシステムの下部を備えており、サンプリングピペットまたは自動化されたピペッティングシステムである、
ピペッティングシステム(1)。
【請求項15】
請求項14に記載のピペッティングシステム(1)と、
前記チップ(6)に取り付けられるとともに、前記複数の第一サンプリングコーン保持エレメントおよび前記複数の第二サンプリングコーン保持エレメントとの摩擦、または前記複数の第二サンプリングコーン保持エレメントおよび前記複数の第三サンプリングコーン保持エレメントとの摩擦により保持された少なくとも一つのサンプリングコーン(8)と、
を備えている、
アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットと称される自動化されたピペッティングシステムのようなマルチチャネルピペッティングシステムの分野、ラボラトリピペットと称されるシングルチャネルまたはマルチチャネルピペッティングシステムの分野、あるいは検量サンプリングと容器への液体の導入に用いられるエアーディスプレイスメント式液体トランスファーピペットの分野に関連している。手動式、モータ駆動式、あるいはハイブリッド式であるかに依らず、上記のようなピペットは、液体のサンプリングおよびディスペンシング作業中に作業者の手で保持されるように構成されている。
【0002】
より具体的には、本発明は、上記のようなピペッティングシステムのチップの構成に関連している。当該チップは、消耗品であるサンプリングコーンを支持するように構成されている。
【背景技術】
【0003】
ハンドルを形成する本体と複数のコーン支持チップを有する下部が一体化された構成を有するマルチチャネルサンプリングピペットが、従来から知られている。コーン支持チップは、当該下部の端部において消耗品とも称されるサンプリングコーンを支持するように構成されている。
【0004】
従来のピペットにおいて、各チップは、コーンを保持するための二つの環状部を備えている。各環状部は、チップの外面に沿う凸部を形成している。両環状部は、チップの軸方向に沿って離間している。凸形状の上側保持部は、摩擦によりコーンを保持するとともにコーンへの進入を制限する機能を主に担う。下側保持部もまたコーンの保持に寄与するものの、コーンとチップ間を封止する機能を担う。また、両保持部は、チップとコーンのセンタリングを確保する。
【0005】
上記の構成は、数十年にわたってピペットに採用されているものである。
【0006】
近年、コーンを押し嵌める作業のエルゴノミクス性を強化するための新たな構成が提案されている。当該構成は、特許文献1に開示されている。当該構成においては、サンプリングコーンとの封止を確実にするためのリップシールがチップに設けられており、コーンの保持部が当該シールの両側部に設けられている。これにより、二つの保持部におけるコーンとチップ間の接触力が弱められうる。当該部分は封止の確保に使用されないからである。リップシールは弾性を備えているので、コーンとリップシールの協働による影響を僅かに受けて、コーンを押し嵌める力が低減される。参考までに、当該構成においては、約5Nの押し嵌め力がチップの軸方向に作用すれば、封止と各マルチチャネルピペットコーンを正確な保持を行なうのに十分であることがわかっている。例えば、8個のチップを有するマルチチャネルピペットの場合、約40Nの軸方向押し嵌め力で十分な結果が得られる。
【0007】
コーンを押し嵌める作業のエルゴノミクス性が向上することにより、作業者の筋骨格障害(MSD)のリスクが抑制される。
【0008】
すなわち、チップから離間する部材が、摩擦によるコーンの機械的保持に寄与するとともに、リップの曲げ力が従来のOリングによる押圧力よりもかなり小さいリップシールを形成することにより封止の確保に寄与する。
【0009】
加えて、二つの保持部が軸方向にオフセットしていることにより、サンプリングコーンの完全な側方保持を確実にするセンタリング長を長くでき、ピペッティング時におけるピペットの取扱い中に生じがちな径方向の応力に耐えることができる。さらに、突出する二つの保持部の間にシールを介挿させることにより、換言するとチップの外面に凸部を形成することにより、チップの軸長を最適化できる。
【0010】
上記に鑑みると、特許文献1に記載された解決手段は、押し嵌め力あるいは取り外し力を低減しつつ、コーンが応力を受けた場合においても当該コーンの封止と機械的強度の維持を保証したいという要求に応えるものであると言える。例えば作業者によりなされる「リッキング」動作(コーンの端に毛細管力で保持されている液体の最終滴を移動させるためにコーンの端をシャフトの内面にこすり付ける動作)中に、上記のような機械的応力が生じる。この状況においては、特に複数のコーンを複数のシャフトにこすり付ける作業中にコーン同士の平行性を維持するために、各コーンの機械的強度を維持することが重要である。
【0011】
さらに、押し嵌め力を増すことなくサンプリングコーンのカラーの径方向への変形を促すために、環状の保持部は、特定のエレメントを用いて離間されている。この点についても特許文献1に説明されている。したがって、押し嵌め力を増すことなくコーンの機械的強度を増すことを可能にする技術が関連する。
【0012】
一般に、特許文献1に記載された解決手段は、サンプリングコーンを機械的に保持するための二つの領域の間に配置されたシールの存在に基づいている。当該構成は、マルチチャネルピペットが意識されていたとしても、シングルチャネルピペットに適用可能なものである。
【0013】
いずれにしろ、上述した利点を享受するためにピペットのチップを最適化する一方で、種別の異なる消耗品(市販のサンプリングコーンにおいて見られるカラーコニシティが異なる場合)への互換性を拡張したいというニーズが存在する。また、このニーズは、形状が異なる消耗品を用いて動作するように構成されたロボットについても同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】仏国特許第3026658号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記したニーズの少なくとも一部に応えるために、本発明は、ピペッティングシステムの下部におけるサンプリングコーンを支持するチップを対象とする。当該チップは、第一仮想平面上に位置する長手軸を有している。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的を達成するための本発明の対象は、ピペッティングシステムの下部に設けられてサンプリングコーンを支持するチップであって、第一仮想平面内に位置する長手軸を有するものである。
【0017】
本発明によれば、前記チップは、前記長手軸に沿って下方から上方へ並んでおり、かつ前記チップの外面から径方向外側へ突出している複数の第一サンプリングコーン保持エレメントを含む第一グループ、複数の第二サンプリングコーン保持エレメントを含む第二グループ、および複数の第三サンプリングコーン保持エレメントを含む第三グループを備えている。
前記複数の第一サンプリングコーン保持エレメントは、前記チップの第一環状領域に沿って互いに離間しており、そのうち二つは、前記第一仮想平面と直交する第二仮想平面内に位置しているとともに、相対的に大きな直径である第一最大外径を規定している。
前記複数の第二サンプリングコーン保持エレメントは、前記チップの第二環状領域に沿って互いに離間しており、そのうち二つは、前記第二仮想平面内に位置しているとともに、相対的に大きな直径である第二最大外径を規定している。
前記複数の第三サンプリングコーン保持エレメントは、前記チップの第三環状領域に沿って互いに離間しており、そのうち二つは、前記第二仮想平面内に位置しているとともに、相対的に大きな直径である第三最大外径を規定している。
【0018】
さらに、前記チップは、前記第一環状領域と前記第三環状領域の間にガスケットを支持している。
【0019】
他方、前記第一最大外径と前記第二最大外径が相違することによって、第一コニシティを有する第一チップ部が区画されており、前記第二最大外径と前記第三最大外径が相違することによって、前記第一コニシティよりも小さい第二コニシティを有する第二チップ部が区画されている。
【0020】
本発明は、多様なサンプリングコーンに適合しうる異なるコニシティを有するように軸方向に連続する二つのチップ部の区画を可能にしているという点において注目に値する。このような構成により、コーンは、第一および第二グループの保持エレメントまたは第二および第三グループの保持エレメントとの摩擦によって保持される一方、封止を可能にするシールと協働する。いずれの場合でも、摩擦を用いる二つの機械的保持により、特に作業者による「リッキング」動作中におけるコーンの良好な保持が可能とされる。
【0021】
本発明によれば、サンプリングコーンの保持、アライメント、および封止や、チップとコーンの結合中に発生する押し嵌め力の強さについて何ら妥協することなく、チップの使用範囲が大きく広がる。
【0022】
本発明は、前記サンプリングコーンを支持するチップを少なくとも一つ備えたピペッティングシステムの下部も対象とする。
【0023】
前記下部は、シングルチャネルピペッティングシステム用に構成されうる。この場合、当該下部は、前記サンプリングコーンを支持するチップを一つ備える。
【0024】
あるいは、前記下部は、マルチチャネルピペッティングシステム用に構成されることが好ましい。この場合、当該下部は、前記第一仮想平面内に位置する長手軸を有する前記サンプリングコーンを支持するチップを複数備える。
【0025】
本発明は、以下に列挙される特徴の少なくとも一つを、単独あるいは組み合わせて備えうる。
【0026】
前記第一最大外径を規定している前記二つの第一サンプリングコーン保持エレメントを除く前記第一グループに含まれる複数の第一サンプリングコーン保持エレメントは、当該第一最大外径により規定される第一仮想円よりも径方向内側に位置している。この非軸対称な構成により、上記第一最大外径を規定している二つの第一保持エレメントを用いて非円形コーンのカラーを変形できる。よって、チップの使用範囲がさらに広がって有利である。
【0027】
この場合、例えば、前記第一グループは、前記第一最大外径を規定している前記二つの第一サンプリングコーン保持エレメントに加えて、少なくとも一対の第一保持エレメントを含む。当該少なくとも一対の第一保持エレメントは、前記第一最大外径よりも小さい少なくとも一つの第一直径を規定し、当該少なくとも一つの第一直径は、前記第一仮想平面内に位置する。これにより、コーンのカラーをほぼ楕円形状に変形でき、コニシティが異なるカラーへの適応が可能となり、チップの使用範囲が広がる。
【0028】
同様に、前記第三最大外径を規定している前記二つの第三サンプリングコーン保持エレメントを除く前記第三グループに含まれる複数の第三サンプリングコーン保持エレメントは、当該第三最大外径により規定される第三仮想円よりも径方向内側に位置している。この場合においても、前記第三グループは、前記第三最大外径を規定している前記二つの第三サンプリングコーン保持エレメントに加えて、少なくとも一対の第三保持エレメントを含むことが好ましい。当該少なくとも一対の第三保持エレメントは、前記第一最大外径よりも小さい少なくとも一つの第三直径を規定し、当該少なくとも一つの第三直径は、前記第一仮想平面内に位置する。
【0029】
好ましくは、前記第二グループに含まれる前記第二サンプリングコーン保持エレメントは、前記第二最大外径により規定される第二仮想円上に位置している。しかしながら、第一グループと第三グループについて上記した非軸対称構成は、本発明の趣旨から逸脱しなければ、第二グループにも適用可能である。
【0030】
他方、上記の軸対称構成においては、前記第二グループは、前記第二最大外径を規定している前記二つの第二サンプリングコーン保持エレメントに加えて、少なくとも一対の第二保持エレメントを含むことが好ましい。当該少なくとも一対の第二保持エレメントは、前記第一仮想平面内に位置している前記第二最大外径を規定する。
【0031】
好ましくは、前記第一コニシティは、3°から4.5°であり、前記第二コニシティは、2°から3.4°である。
【0032】
好ましくは、前記チップの数は、2から16であり、より好ましくは、8から12である。
【0033】
押し嵌め力を制限するために、前記ガスケットは、リップシールであることが好ましい。しかしながら、本発明の趣旨から逸脱しなければ、前記ガスケットは、Oリングでもよい。
【0034】
本発明は、上記のピペッティングシステムの下部を備えたピペッティングシステムも対象とする。当該ピペッティングシステムは、手動式、モータ駆動式、あるいはハイブリッド式のサンプリングピペットであってもよいし、ロボットと称される自動化されたピペッティングシステムであってもよい。
【0035】
本発明は、アセンブリであって、
上記のピペッティングシステムと、
前記チップに取り付けられるとともに、前記複数の第一サンプリングコーン保持エレメントおよび前記複数の第二サンプリングコーン保持エレメントとの摩擦、または前記複数の第二サンプリングコーン保持エレメントおよび前記複数の第三サンプリングコーン保持エレメントとの摩擦により保持された少なくとも一つのサンプリングコーンと、
を備えているものも対象とする。
【0036】
本発明に係る更なる利点や特徴は、以降の非限定的な説明において詳細に説明される。
【0037】
その説明は、以下に列挙される添付の図面に基づいてなされる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明に係るエアーディスプレイスメント式マルチチャネルサンプリングピペットの正面図である。
図2】サンプリングコーンが押し嵌められる前の、図1に示されるピペットが備える複数のチップの一つの一部を拡大して示す縦断面図である。
図3a図2における線IIIa−IIIaに沿う横断面を示している。
図3b図2における線IIIb−IIIbに沿う横断面を示している。
図3c図2における線IIIc−IIIcに沿う横断面を示している。
図4】第一コニシティを有するコーンに対して機能しているコーンとチップのアセンブリを示す図2と同様の図である。
図5a図4における線Va−Vaに沿う横断面を示している。
図5b図4における線Vb−Vbに沿う横断面を示している。
図6】第二コニシティを有するコーンに対して機能しているコーンとチップのアセンブリを示す図2と同様の図である。
図7b図6における線VIIb−VIIbに沿う横断面を示している。
図7c図6における線VIIc−VIIcに沿う横断面を示している。
図8】本発明に係るシングルチャネルサンプリングピペットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1には、本発明の好適な実施形態に係るマルチチャネルサンプリングピペット1が示されている。しかしながら、本発明は、マルチチャネルピペットへの適用に限定されるものではなく、図8に示されるような「シングルチャネル」方式と称されるピペットにも同様に適用可能である。
【0040】
エアディスプレイスメントピペット1は、手動式であるかモータ駆動式であるかを問わず、上部にハンドルを形成する本体2と、本発明の対象である下部4を備えている。下部4の下端は、複数のサンプリングコーン支持チップ6と一体とされている。サンプリングコーン支持チップ6は、消耗品であるコーン8が押し嵌められるように構成されている。各コーン8と対応するチップは、本発明に特有のアセンブリを形成する。
【0041】
複数のサンプリングコーン支持チップ6は、矢印10で示されるピペッティングシステムの横方向(あるいはピペット横方向)に沿って相互に離間している。各チップ6は、中央軸とも称される長手軸7を有している。長手軸7は、方向10と直交している。全ての長手軸7は、互いに平行であり、方向10と平行な第一仮想平面P1内に位置している。さらに、第二仮想平面P2が図1に示されている。第二仮想平面P2は、第一仮想平面P1に直交しているとともに、ピペットの長手中央軸14と平行である。
【0042】
各チップ6において、第一仮想平面P1と第二仮想平面P2は、当該チップの長手軸7の位置で交差するものとして関連付けられる。第二仮想平面P2においては、「リッキング」と称される動作中に作業者によってピペットが動かされる方向15も関連する。「リッキング」動作中においては、プレートに配列された複数のシャフトの上方をピペットが徐々に動かされることにより、先にピペットに採取された液体を排出する。この点に関し、チップ6の数が8と12の間であること、使用されるプレートが同数のシャフト列を有すること、シャフトが384本となるようにラインの数が定められることが好ましい。
【0043】
各チップ6は、貫通孔12を有している。その上端は吸引室(図1には示せていない)と連通しており、下端はサンプリングコーン8と連通している。貫通孔12は、対応するチップ6の中心に位置している。すなわち、貫通孔12の中心は、押し嵌められたコーン8の中心とともにチップの長手軸7と一致している。
【0044】
当業者には周知の通り、下部4は、ハンドルを形成している本体2にネジ止めされることが好ましい。下部4は、不動体16を備えている。不動体16は、取り外し可能な外側キャップ17で覆われている。下部4は、その下端に複数のチップ6を備えている。この下部4における内部可動部品は周知であるので、更なる説明は行なわない。当該部品は、軸14と平行に延びる複数のピストンに関連している。各ピストンは、一つのチップ6と対応付けられている。
【0045】
本発明に係る特徴の一つは、下部4(具体的には複数のチップ6)の構成にある。好ましい実施形態に係る複数のチップ6の一つは、図2から図3cに示されている。ピペットにおける他のチップ6は、同一または同様の構成を有している。全てのチップは、平行に延びているとともに、第一仮想平面P1内に位置している。
【0046】
チップ6は、その下端に外面20を有している。外面20は、全体として円柱あるいは円錐台形状を有しており、底部へ向かって幅が狭められている。
【0047】
一般に、チップは、コーンと協働する四つの領域を備えている。これらの領域は、長手軸に沿って互いに離間している。
【0048】
サンプリングコーンを摩擦により保持する三つのエレメントグループが存在する。最も下方に位置する第一グループは、複数の第一保持エレメントを備えている。複数の第一保持エレメントは、外面20の第一領域20−1から径方向外方へ突出するように、かつ周方向に沿って相互に離間するように配置されている。ここでは、四つの第一保持エレメントが存在し、うち二つの第一保持エレメント24−1aは、第二仮想平面P2内に位置しており、第一最大外径Dmax1と称される大外径を規定している。この径Dmax1は、第一仮想円C1を規定している。第一仮想円C1の中心は、長手軸7と一致している。第一仮想円C1の内側には、残る二つの第一保持エレメント24−1bが含まれており、当該円より径方向に離間している。二つのエレメント24−1bは、径Dmax1よりも小さい第一小外径Dinf1を規定している。この径Dinf1は、径Dmax1と直交しており、第一仮想平面P1内に位置している。
【0049】
図面においては、明瞭性の理由から保持エレメントを自発的に拡大して示している。実際には、約0.2〜0.7mmの低い高さhを有する凸部があるに過ぎない。高さhは、外面20からの突出距離に対応している。
【0050】
第二グループは、複数の第二保持エレメントを備えている。複数の第二保持エレメントは、外面20の第二領域20−2から径方向外側へ突出するように、かつ周方向に沿って相互に離間するように配置されている。ここでは、四つの第二保持エレメントが存在し、うち二つの第二保持エレメント24−2aは、第二仮想平面P2内に位置しており、第二最大外径Dmax2と称される大外径を規定している。この径Dmax2は、第二仮想円C2を規定している。第二仮想円C2の中心は、長手軸7と一致している。残る二つの第二保持エレメント24−2aもまた、第二仮想円C2上に位置している。当該残る二つのエレメント24−2aは、別の第二最大外径Dmax2を規定しつつ、第一仮想平面P1内に位置している。よって、二つの第二最大外径Dmax2は同じ大きさである。すなわち、全ての第二保持エレメント24−2aは、同じ第二仮想円C2上に位置している。
【0051】
最も上方に位置する第三グループは、複数の第三保持エレメントを備えている。複数の第三保持エレメントは、外面20の第三領域20−3から径方向外方へ突出するように、かつ周方向に沿って相互に離間するように配置されている。ここでは、四つの第三保持エレメントが存在し、うち二つの第三保持エレメント24−3aは、第二仮想平面P2内に位置しており、第三最大外径Dmax3と称される大外径を規定している。この径Dmax3は、第三仮想円C3を規定している。第三仮想円C3の中心は、長手軸7と一致している。第三仮想円C3の内側には、残る二つの第三保持エレメント24−3bが含まれており、当該円より径方向に離間している。二つのエレメント24−3bは、径Dmax3よりも小さい第三小外径Dinf3を規定している。この径Dinf3は、径Dmax3と直交しており、第一仮想平面P1内に位置している。
【0052】
さらに、コーンと協働する第四の領域が、環状のガスケット26により構成されている。ガスケット26は、チップの外面20の凹部28内に収容されている。ガスケット26は、押し嵌め力を低減するためにリップシールを構成することが好ましい。ガスケット26は、上記の第一グループと第二グループの間に配置されている。本発明の趣旨から逸脱しなければ、ガスケット26は、上記の第二グループと第三グループの間に配置されてもよい。
【0053】
リップシール26は、少なくとも一つのリップを有しうるが、単一のリップを有することが好ましい。リップは、錐台形状であり、環状の基部から上端に向かってフレア状に拡開している。環状の基部とリップは、EPDM型エラストマ材料によりショアA硬度40〜100を有する一体部品を形成していることが好ましい。
【0054】
無負荷状態において、リップシール26は、例えば約4mmの外径を有している。
【0055】
第一最大外径Dmax1は、第二最大外径Dmax2よりも小さい。両者の寸法差により、チップの第一長手部分6aが区画される。第一長手部分6aは、その中心が軸7と一致しているとともに、図2において線Con1により模式的に表される第一コニシティを有している。同様に、第二最大外径Dmax2は、第三最大外径Dmax3よりも小さい。両者の寸法差により、チップの第二長手部分6bが区画される。第二長手部分6bは、第一長手部分6aに隣接しているとともに、その中心が軸7と一致している。第二長手部分6bは、図2において線Con2により模式的に表される第二コニシティを有している。第二コニシティは、第一コニシティよりも小さい。
【0056】
例えば、第一コニシティCon1は、3°から4.5°の間であり、第二コニシティCon2は、2°から3.4°の間である。
【0057】
よって、押し嵌められるコーンのカラー8aもコニシティを有するので、コーンは、第一および第二グループに係る複数の保持エレメントまたは第二および第三グループに係る複数の保持エレメントとの摩擦により保持される内面を有する。いずれの場合においても、軸方向に離間した二つのグループを用いて保持のための摩擦が得られる。この摩擦により、十分な機械的保持が得られるとともに、センタリング状態およびマルチチャネルピペットの異なるチップ上に位置するコーン同士の間の平行性が維持される。
【0058】
封止機能自体は、専用のシール26によって得られる。
【0059】
図4から図5a’は、チップ6とコーン8の間の協働例を示している。本例におけるコーン8は、第一および第二保持エレメントにより定まる第一コニシティCon1に対応するコニシティを有している。図4において、コーン上に示される矢印は、コーンの先端をプレート40のシャフト42にこすり付けるリッキング動作(符号15)中に作用する力を表している。
【0060】
すなわち、図4は、第一エレメント24−1aとコーンのカラーにおける内錐面の間の接触を示している一方、第二エレメント24−2aと同面の間の接触も示している。この第一の例において、コーンは、その保持が二つの第一保持エレメント24−1aのみによって第一グループの高さでなされるような大きさである。すなわち、他の二つの第一保持エレメント24−1bとの接触はない。本例は、図4図5aに示されている。また、その非対称的な特性により、図5bに示されるように、第二グループの各保持エレメント24−2aがカラーの内面と接触する。
【0061】
図5a’に示される別例においては、第一エレメント24−1aの当接を通じてチップ6がより深くコーンに食い込むことによって、より大きなコーン8が変形されている。この変形は、実質的に楕円的な特性を有することにより、別のエレメント24−1bがコーンの内面に接触する。
【0062】
図6から図7cは、チップ6とコーン8の協働の別例を示している。本例におけるコーン8は、第二および第三保持エレメントにより定まる第二コニシティCon2に対応するコニシティを有している。
【0063】
図6は、第二エレメント24−2aとコーンのカラーにおける内錐面の間の接触を示している一方、第三エレメント24−3aと同面の間の接触も示している。本例において、コーンは、その保持が二つの第三保持エレメント24−3aのみによって第三グループの高さでなされるような大きさである。すなわち、他の二つの第三保持エレメント24−3bとの接触はない。本例は、図6図7cに示されている。また、その非対称的な特性により、図7bに示されるように、第二グループの各保持エレメント24−2aがカラーの内面と接触する。
【0064】
図7c’に示される別例においては、第三エレメント24−3aの当接を通じてチップ6がより深くコーンに食い込むことによって、より大きなコーン8が変形されている。この変形は、実質的に楕円的な特性を有することにより、別のエレメント24−3bがコーンの内面に接触する。
【0065】
非限定的な例を示したに過ぎない上述の発明に対し、当業者によって様々な改変がなされうることは勿論である。特に、本発明は、ロボットとも称される自動化されたピペッティングシステムのチップに対して同様に適用可能である。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5a
図5a-1】
図5b
図6
図7b
図7c-1】
図7c-2】
図8