(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6888072
(24)【登録日】2021年5月21日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】ひしゃく
(51)【国際特許分類】
A01K 63/00 20170101AFI20210603BHJP
A01K 97/00 20060101ALI20210603BHJP
A01K 77/00 20060101ALI20210603BHJP
A47J 43/28 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
A01K63/00 B
A01K97/00 Z
A01K77/00 A
A47J43/28
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-218907(P2019-218907)
(22)【出願日】2019年12月3日
(65)【公開番号】特開2021-87381(P2021-87381A)
(43)【公開日】2021年6月10日
【審査請求日】2019年12月3日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】719007682
【氏名又は名称】高神 高則
(72)【発明者】
【氏名】高神 高則
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−98934(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3160253(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 − 63/10
A01K 77/00
A01K 97/00
A47J 43/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器部は、上部直径が下部直径より大きい上部開口型容器で、底面が光沢の
ある白色であり、容器縦半分が艶のない白色で残りの容器縦半分が透明であることを特徴とするひしゃく。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観賞魚を採取する際に用いられるひしゃくに関し、特に、2mm程度で半透明の仔魚を採取するのに適したひしゃくに関する。
【背景技術】
【0002】
観賞魚を採取する際には、魚のサイズに合わせたネット網やひしゃくがあり、その両方の利点を合わせ持つ底に防水布を使用した水ごとすくえるネット網がある(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
しかし、底に防水布を使用した水ごとすくえるネット網でも、SSサイズが最小の規格で、全長約10mmに育った魚を対象にしており、2mm程度の魚は対象としていない。2mm程度で半透明の仔魚10をネクスト水槽に移動させることは難しく、このような仔魚10をネクスト水槽に移動させる専用の採取用具は販売されていない。そのため、仔魚10の移動時に仔魚10の生存率が低くても、ネット網、ひしゃく、水ごとネット網を使用している。
【0004】
仔魚(しぎょ)10は、孵化(ふか)直後からすべてのひれが完成するまでの魚の幼生であり、孵化直後は体が透明で弱々しく、各ひれも薄い膜状物であり、卵黄だけで発育する。まもなく口や肛門(こうもん)が開き、消化器官が機能しだすとプランクトンを食べだす。(日本大百科全書 落合 明・尻岡邦夫 引用)
【0005】
この仔魚10の時期に、水流、水質が適切でない場合や親魚などに捕食される危険があるとき、早急に仔魚10を採取し、適切な環境に仔魚10を移動する必要がある。この時に仔魚10に適した採取道具がないため、仔魚10をネクスト水槽に移動させることでダメージを受け、死ぬ仔魚10が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公昭50−004637号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Hikari総合カタログ2019.03」,株式会社キョーリン,p.39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、熱帯魚や金魚をすくってネクスト水槽に移すことと、病変の鑑別、魚の選別を行うものであり、サイズの大きいたも網である。
【0009】
また、非特許文献1は、全長約10mmに育ったサイズの稚魚や親魚を対象としており、10mm以下の魚は対象としていない。
【0010】
よって、2mm程度の仔魚10にとっては、特許文献1、非特許文献1のネット網では、使用する水の容量が多い。そのため、特許文献1、特許文献2を使用した場合、仔魚10が多量の流れ込む水に巻かれ、回転してしまい、魚体を網にぶつけてしまう。
【0011】
また、特許文献1と非特許文献1はメッシュが使用されているので、メッシュやメッシュの縫い目に仔魚10が張り付いて取れなくなってしまう。
【0012】
かつ、仔魚10は半透明であるため、仔魚10より下の色と同化して仔魚10自体を見失ってしまう。特に、非特許文献1は光の吸収率の高い黒色で構成されているため、半透明な仔魚10が黒色と同化し、仔魚10を見失う。
【0013】
以上の理由から、仔魚10には、水量による打撲、メッシュによる体の張り付き、半透明でよく見えず行方不明になるなど、仔魚10は死亡するリスクが高い。仔魚10を生存させたまま、ネクスト水槽に移動するのは難しいという問題がある。
【0014】
本発明は、2mm程度で半透明な仔魚10の輪郭を浮き立たせ、確実に視認でき、仔魚10を安全にネクスト水槽に移動できるひしゃくを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
容器部は、上部直径2が下部直径3より大きい上部開口型容器1で、容器底面4が光沢のある白色であり、容器縦半分5が艶のない白色であり、残りの容器縦半分6が透明であることを特徴とする上部開口型容器1を形成する。そこに円状枠針金8と棒針金9で形成される金属ひしゃく柄7を前記容器部と連結する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、容器部は、上部直径2が下部直径3より大きい上部開口型容器1(以下、容器1)にしたことで、円柱よりも容器傾斜角度が緩やかになる。すると、仔魚10をすくう際に容器1への水の流入量が少なく、水の流入速度が遅くなる。よって仔魚10が多量の水に巻かれダメージを受けることがない。
【0017】
このようにネット網ではなく、容器1を使用することにより、今までネット網を使用することで起こっていた仔魚10の擦れ傷、打撲、行方不明になることがなくなり、安全に採取、ネクスト水槽への移動が可能である。
【0018】
容器底面4を光沢のある白色にしたことで、容器1に水が入ると底面からの光の反射が強くなり、光の全反射となった光が容器内を強く照らす。容器1内が強く照らし出されることで容器1内の仔魚10の輪郭ができるので、容器1内の仔魚10の位置が確認できる。
【0019】
容器縦半分5を艶のない白色にしたことで、他の色の影響、他の反射を受けず輪郭のできた仔魚10が視認しやすい。したがって容器1を横にして、仔魚10を採取したときには、輪郭のできた仔魚10が容器1内で確認でき、容器内の仔魚10を目で追いながら、ネクスト水槽に移すことができる。
【0020】
残りの容器縦半分6を透明にしたことで、縦横斜めの角度で仔魚10の動きが見て取れ、採取、ネクスト水槽への移動まで仔魚10の動きが確認できる。
【0021】
したがって、本発明は、上記特徴とする容器1を使用することにより、今までネット網を使用することで起っていた仔魚10の擦れ傷、打撲、行方不明になることがなくなる。容器底面4を光沢のある白色にすることで半透明の仔魚10を明るく照らし、仔魚10の輪郭を浮き立たせることができる。容器1を横にして、艶のない白色5を下側にして使用することで、他の色の影響、他の光の反射を防ぎ、見て取れるため、仔魚10のキャッチアンドリリース時の動きがはっきりと分かる。
【0022】
以上のようにすることで、この発明では、半透明で2mm程度の仔魚10に対し、上記の容器1を使用した場合、スペース、入水角度、水の深さ、濁り、暗さ、周辺の色などの影響は受け難く、さまざまな環境下で仔魚10をすくい、安全に
ネクスト水槽に移すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】本実施例の合と柄だけを示した平面図である。
【
図3】本実施例の
図2の合に取付ける容器部の側面図である
【
図7】本実施例の仔魚が水面にいるときの採取時説明図である。
【
図8】本実施例の仔魚が水の深いところにいるときの採取時説明図である。
【
図11】本実施例の容器部が凸レンズ状になっており、仔魚が大きく見えることを示す説明側面図である。
【
図12】本実施例の容器部を斜め下から見て仔魚が水面下での全反射によって見えやすいことを示す説明図である。
【
図13】本実施例の容器部が柄に対してスライド回転することを示す説明斜視図である。
【
図15】本実施例の容器縦半分透明部分が全反射で鏡状になり、仔魚が写し出されている(
図9)の写真である。
【
図16】本実施例の仔魚を水の深いところで採取したときの(
図8の)写真である(
図8の実施例とは柄の形状は異なる)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
容器部は、上部直径2が下部直径3より大きい上部開口型容器1である。円柱よりも容器傾斜角度が緩やかである。仔魚10採取時に、仔魚10が水面Sにいるときは、容器1を横にして、容器透明部分6は上、容器艶のない白色部分5は下で採取の動作を行う。仔魚10に対し、容器1を横にして容器開口部を近づけていき、容器1に水面の水を少しずつ入れながら、仔魚10を水と一緒に容器1に流し込む。すると、仔魚10が水と一緒にゆっくりと容器1に入り込むことができ、流水の回転を極力抑えることができる。
【0025】
また、容器1を円柱にしなかった理由としては、円柱にすると容器底面から、上面までの角度が90度のため、水が滝のように一気に容器に流れこむ。その際に仔魚10は水に巻かれ、ダメージを受ける。また円柱の容器にすると、仔魚10を採取する際に、手首を動かす角度が大きくなる。手首を動かす角度(範囲)が大きいほど、容器を動かすふり幅も大きくなり、手首の返し角度も大きくなるため、容器に水を緩やかに入れることができなくなる。
【0026】
また、容器側を三角や四角にしなかったのは、仮に三角や四角の容器側面である場合、流れ込む水と一緒に仔魚10が容器側面にあたり、仔魚10はダイレクトにダメージを受けるからである。側面が円である場合、仮に仔魚10が側面にぶつかることがあっても、衝撃は横に逃げていき、仔魚10へのダメージは少なくなる。
【0027】
容器底面4は白色である。容器底面が透明の場合、底面への光が透過して、透過した光が底面下の色や形を映し出してしまう。底面に映し出された色や形は仔魚10と同化し、仔魚10を見失ってしまう。そのため底面には透過を遮る色を
塗る。底面に使う色は、黒・茶・緑・赤(光の吸収が強い順)などは使用しない。黒・茶・緑・赤(光の吸収が強い順)を使用してしまうと光の吸収度合いが強くなり、半透明の仔魚10は底面に使用された色に同化して見えなくなってしまう。そのため、底面には光の吸収が少ない白色を使用する。
【0028】
また、容器底面4は白色に光沢を加えてある。それは、底面4の白色の光を反射させるためである。容器1底面4の光沢のある白色部分は、滑らかな表面で、ほとんどの光が反射する。底面の白色から反射された強い光は、容器1内側に全反射を起こし、光が逃げて行けなくなる光ケーブル状になる。そうなることで、光は容器1内から逃げて行けず、
図9のように透明部分6があっても容器1内側は白い鏡状になる。その結果、白い鏡状態となったところに仔魚10がいると光の反射で像(仔魚11)ができる。光の反射が容器1内にいる半透明の仔魚10の輪郭を出すため、容器1内の仔魚10は、容器1内のどこにいても確認できる。
【0029】
しかも、容器1水面S下側でも全反射が起きている。
図12のように容器1を斜め下から覗いた状態でも、水面S下側は、全反射の影響で白く見える。そのため、外の景色が映らず、仔魚10を視認しやすい。また、水面S下側は全反射の影響で白い鏡状になっているので、水面S付近に仔魚10がいると、水面S下側に光の反射で像(仔魚13)ができ、容器内の仔魚10が確認しやすい。
【0030】
容器縦半分5は艶のない白色である。艶のない白色は反射する光は少ないため、他の色の影響、他の反射を受けず、艶のない白色の上にあるものは視認しやすい。光の反射により輪郭のできた仔魚10は、容器5艶のない白色の上で見えやすい。したがって、仔魚10をすくう際には容器1を横にして容器5艶のない白色が下にくるようにして使用する。
【0031】
仔魚10をすくってから、ネクスト水槽に仔魚10を移す際、容器1内の水だけがネクスト水槽に移り、仔魚10が容器1に取り残されることがあるが、仔魚10は容器5艶のない白色の上にいるので、輪郭のできた仔魚10がスライドしている状態が良く見える。よって仔魚10を容器1内に取り残すことはなくなる。
【0032】
残りの容器縦半分6は透明である。縦横斜めの角度で仔魚10の動きが見て取れ、採取、ネクスト水槽への移動まで仔魚10の動きが確認できる。キャッチアンドリリースの視角野である。
【実施例】
【0033】
本実施例は、2mm程度の仔魚10の大きさに鑑みて、容器1の容量は約50
ml、上部直径2は約5cm、下部直径3は約3cm、容器下部直径3から容器上部直径4の傾斜は約100度、容器1の高さは約4cmとしている。
【0034】
なお、これらの寸法や材質は適宜設計し得るものである。
【0035】
また、ひしゃく柄の長さは、容器1に対してバランスの良い20cm程度が好ましい。
【0036】
また、
図11のように、容器縦半分6透明部分は円弧状のため、凸レンズの働きもしており、容器1を縦に置き、横から見ると、2mm程度の仔魚10が、仔魚12のように大きく見える効果もある。
【0037】
図13のように、ひしゃく柄7は、合8と柄9の接続部分に板状の先曲げフックAが取り付けられており、取り付けた容器1がこの柄9に対してスライド回転する。使用時の状況によって、容器縦半分5艶のない白部分5と残りの縦半分透明6部分の角度調整をして仔魚10を採取できる。
【0038】
ひしゃくの柄A部分は、図示していないが、下におろすかぎ爪状でも良く、容器をホールド出来ればよい。
【0039】
ひしゃくの柄9は針金で編み込んであっても良く、素材は限定しない。
【0040】
仔魚10の採取方法は、大きく分けて二つある。一つは、
図7の仔魚10が水面Sにいるとき、もう一つは仔魚10が、水の深いところFにいるときである。
【0041】
図7のように、仔魚10が水面Sにいるときは、容器1を水面Sに近づけ、仔魚10を水と一緒にゆっくりと容器1に流し込む。
【0042】
図8の仔魚10が、水の深いところFにいるときは、容器1を水に潜らせ、容
器1をゆっくりと進める。すると、艶のない白色5の上に仔魚10の陰影ができる。それを確認したら、容器1をゆっくりと動かし、仔魚10が容器1の中央、または、容器下部直径3付近に仔魚10が来たらゆっくりとすくいあげる。
【0043】
あとは、仔魚10の位置や動きを見て、上記、
図7、
図8の二つの採取方法を織り交ぜながら仔魚10をすくっていく。いずれの場合も、艶のない白色5の上に仔魚10をのせることで半透明な仔魚10の陰影を出し、目視しながらの採取ができる。
【0044】
他の用途として、アオ浮草の除去がある。アオ浮草を採取の際、メッシュ網を
使用するとアオ浮草がメッシュにこびりついて取れなくなるが、本実施例の容器1を使用することで、アオ浮草の付着がなく、簡単にアオ浮草を取ることができる。
【0045】
また、水面Sの油膜取りがある。水面の油膜は、水質が悪化するので取り除く必要がある。キッチンペーパーで油膜を吸着させる方法もあるが、容器1を使用することで、水面Sの油膜がゆっくりと容器1に入り、油膜の除去が簡単にできる。
【0046】
他、魚類薬剤のかくはん等に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1.上部開口型容器
2.上部直径
3.下部直径
4.底面(光沢のある白色)
5.容器縦半分(艶のない白色)
6.残りの容器縦半分(透明)