(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  少なくとも1つの励起源(10)と、パッシブ型のフィルタ素子(30)と、シングルチャネル検出器(40)と、パッシブ型の少なくとも1つの追加フィルタ素子(32)と、少なくとも1つの追加シングルチャネル検出器(42)のうちの1つとを備えるラマン分光装置(100)であって、
    前記少なくとも1つの励起源(10)は、励起放射(12)を被験試料(20)へ照射し、且つ前記試料(20)に第1励起波長(λ1)を有する少なくとも1つの第1励起放射(R1)、及び第2励起波長(λ2)を有する少なくとも1つの第2励起放射(R2)を照射するように設計されており、少なくとも前記第1励起波長(λ1)は前記第2励起波長(λ2)とは異なり、
    前記パッシブ型のフィルタ素子(30)は、前記試料(20)に散乱された第1励起放射(R1')及び第2励起放射(R2')の波長選択フィルタリングを少なくとも行うように設計されており、前記パッシブ型のフィルタ素子(30)のフィルタ波長は、少なくとも前記第1励起波長(λ1)及び前記第2励起波長(λ2)とは異なり、
    前記シングルチャネル検出器(40)は、前記パッシブ型のフィルタ素子(30)に割り当てられ、且つ前記試料(20)に散乱されフィルタリングされた第1励起放射(R1'')の少なくとも1つの第1強度(I1)、及び前記試料(20)に散乱されフィルタリングされた第2励起放射(R2'')の第2強度(I2)を決定するように設計されており、少なくとも2つの決定強度(I1、I2)が記憶され、
    前記フィルタ素子(30)及び前記少なくとも1つの追加フィルタ素子(32)の各々を透過するフィルタ波長(λF、λF')は、相互に異なり、且つ各前記励起放射(R1、R2)の励起波長(λ1、λ2)の各々とも異なり、
    前記フィルタ素子(30)及び前記少なくとも1つの追加フィルタ素子(32)のうち少なくとも2つのフィルタ素子は、フィルタ波長(λF、λF')周辺の透過フィルタ領域が、少なくとも部分的に、スペクトル的に相互に重なるように構成され、
    前記少なくとも1つの追加シングルチャネル検出器(42)のうちの1つは、少なくとも1つの追加フィルタ波長(λF')に割り当てられ、少なくとも1つの第1強度(I1')及び少なくとも1つの第2強度(I2')を、前記試料(20)に散乱されフィルタリングされた励起放射(R1'''、R2''')からそれぞれ決定するように設計されており、前記少なくとも1つの追加フィルタ波長(λF')に対して、少なくとも2つの強度(I1'、I2')が記憶され、
    評価のための手段は、少なくとも2つのフィルタ波長(λF、λF')における少なくとも4つの決定強度(I1、I2、I1'、I2')から、前記試料(20)に関する結論を導き出すように設計されている、
ラマン分光装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
  従って、本発明の目的は、先行技術から既知の複雑な分光法の構成には基づくことなく、低コストの構成要素を用いて実現可能で、且つ特に小さく、小型、且つ安定した構成の構築に好適な、ラマンスペクトルを生成及び検出するための方法及び装置を提供することである。
 
【課題を解決するための手段】
【0006】
  これらの目的は、本発明の独立項により達成可能である。本発明の好ましい設計は、従属項に記載されている。
【0007】
  被験試料のラマン分光法のための本発明に係る方法は、以下の工程を備える。被験試料への励起放射の照射を行う工程であって、被験試料は、第1励起波長を有する第1励起放射、及び第2励起波長を有する第2励起放射を照射され、少なくとも第1励起波長は第2励起波長とは異なる、工程と、試料に散乱された第1励起放射の波長選択フィルタリングをパッシブ型のフィルタ素子により行う工程であって、フィルタ素子を透過するフィルタ波長(透過フィルタ波長)は、少なくとも第1励起波長及び第2励起波長とは異なり、試料に散乱されフィルタリングされた第1励起放射から、フィルタ波長に割り当てられたシングルチャネル検出器によって第1強度が決定される、工程と、試料に散乱された第2励起放射の波長選択フィルタリングをフィルタ素子により行う工程であって、試料に散乱されフィルタリングされた第2励起放射から、フィルタ波長に割り当てられたシングルチャネル検出器によって第2強度が決定される、工程。
【0008】
  従って、被験試料は、まず、励起波長の異なる少なくとも2つの励起放射を照射される。ここで、励起放射とは、具体的には、励起波長として特定の中心波長を有する、スペクトル幅の小さい単色放射と解釈される。そのような励起放射は、通常、ダイオードレーザ又はシングルモードで動作するダイオードレーザにより放出可能である。ここで、具体的には、1nm未満のスペクトル幅(半値全幅)を有する、およそ785nmの中心波長が特に好ましい。異なる励起放射の生成は、例えば、励起波長として異なる発光波長を有するいくつかのダイオードレーザを用いることにより達成可能である。さらに、異なる励起波長を有する少なくとも2つの励起放射は、発光波長を変更可能な単一のダイオードレーザ、又は対応してスペクトル調整可能なダイオードレーザにより生成することもできる。ここで、相互にある距離で(例えば1nm又は2nmの距離で)離れている各波長の段階的な設定に加え、特定の励起波長範囲にわたる(例えば、5nm、10nm、15nm又は20nmにわたる)連続的な調整を行ってもよい。前者の場合、対応する離散ラマンスペクトルを結果として生成することが可能で、後者の場合、各励起波長範囲に対応するスペクトル範囲にわたる連続ラマンスペクトルを生成することが可能である。ここで、中心波長が785nmの場合、10nmの励起波長範囲が対応する測定可能な波数範囲は約160cm
−1であり、この波数範囲における各測定ポイントの、対応する励起波長を有する各励起放射からのスペクトル距離は、フィルタ素子のフィルタ波長により決定される。異なるフィルタ範囲を対応して選択することにより、記録されるラマンスペクトルのスペクトル幅は、ほぼランダムに拡張可能である。
【0009】
  試料に散乱された励起放射に対して、特定の透過フィルタ波長を有するパッシブ型のフィルタ素子により波長選択フィルタリングが行われる。ここで、パッシブ型のフィルタ素子は、好ましくは、ダイクロイックフィルタ、ブラッグフィルタ、又はファブリーペローフィルタである。回折格子、エタロン、又はマッハツェンダ干渉計を使用することも可能である。ここで、波長選択フィルタリングとは、具体的には、フィルタ波長が最大強度でフィルタ素子を透過し、且つフィルタ波長に隣接するスペクトル範囲は抑制又は遮断されるフィルタリングと解釈される。ここで、フィルタ素子の通過帯域(これは、透過帯域又は通過帯域としても知られている)の中心波長は、フィルタ波長という用語で呼ばれている。対称な通過帯域の場合、中心波長は、通過帯域の中心のスペクトルの位置により決定する。フィルタ素子の中心波長の別の決定方法として、通過帯域における透過挙動から決定することもできる。この場合、中心波長は、スペクトル範囲の中心から好適に決定することができ、フィルタ素子は、通過帯域において最大透過に対して少なくとも0.9の相対透過率を有する。この規定は、非対称なフィルタ範囲の境界を有するフィルタ素子の中心波長を決定するうえで、特に好適である。フィルタ素子の通過帯域の幅は、透過挙動により規定することができる。ここで、フィルタ素子の通過帯域は、通過帯域における最大透過に対して相対透過率が、好ましくは、少なくとも0.95であるスペクトル範囲を連結させた範囲として規定することができる。さらに好ましくは、相対透過率が少なくとも0.7、少なくとも0.8、少なくとも0.9、又は少なくとも0.99であるスペクトル範囲を連結させた範囲である。フィルタ素子の遮断範囲も、この遮断範囲内におけるフィルタ素子の透過特性により、対応して規定することができる。ここで、ある波長において、フィルタ素子が、フィルタ波長の通過帯域におけるフィルタ素子の最大透過に対して、0.3未満、0.2未満、0.1未満、0.5未満、又は0.01未満の相対透過率を有する場合、フィルタ素子はその波長を遮断するとみなすことができる。
【0010】
  本発明によれば、フィルタ波長は、少なくとも1つの第1励起波長及び少なくとも1つの第2励起波長とは、異なっていなければならない。しかしながら、フィルタ素子は、阻止帯域(これは、遮断範囲としても知られている)により相互に分離されたいくつかの通過帯域も有してもよく、その場合、フィルタ波長のうちの少なくとも1つは、少なくとも第1励起波長及び第2励起波長とは異なっていなければならない。ここで、各通過帯域の中心波長は、試料に散乱された少なくとも1つの励起放射の各ラマン線に対応していることが特に好ましい。特定の励起波長の励起放射を照射した際に試料がいくつかの特徴的なラマン線を生成する場合、これらのラマン線の少なくともいくつかの波長が、いくつかの通過帯域を有するフィルタ素子の個々のフィルタ波長に対応することが特に望ましい。
【0011】
  フィルタ素子のフィルタ波長は、検出器に割り当てられており、検出器は、試料に散乱されフィルタ素子によりフィルタリングされた第1励起放射から第1強度を決定し、試料に散乱されフィルタ素子によりフィルタリングされた第2励起放射から第2強度を決定する。この決定は、具体的には、異なる励起放射を異なる時刻に照射し、その結果、対応する強度も異なる時刻に決定することで、行うことができる。しかしながら、いくつかの通過帯域を有するフィルタ素子を用いる場合に、異なる励起放射を局所的に位置をずらして試料に照射させることにより、異なるフィルタ波長それぞれに割り当てられた1つの検出器を用いて、いくつかの励起放射に対する強度決定を同時に行うことも可能である。その結果、本方法の精度、感度、及び特に速度を向上させることができる。いくつかの通過帯域を有するフィルタ素子として、例えば、各通過帯域がその表面の特定の位置に割り当てられたフィルタ素子を用いることができる。具体的には、各フィルタ領域が格子状に形成された構成がここでは好ましい。
【0012】
  本発明の思想は、ラマン分光法において通常必要となる、評価対象のラマン放射のスペクトル分離を、分光計の追加によってではなく、波長選択フィルタリングを組み合わせたスペクトル調整可能な励起により達成することである。連続的な蛍光と異なり、ラマン効果は、特に、そのプロセス中に発生するスペクトル中のシャープなラマン線を特徴とするため、離散スペクトル解析から試料の主要特性に関する結論を導き出すことが既に可能である。試料のラマンスペクトルは試料に特有であるため、特に未知の試料を用いた場合に、試料の種類に関する結論を導き出すことも、これにより可能である。さらに本方法は、試料を励起するために用いられる各励起波長に対して、試料の主要な波長が独立している点で有利である。従来の分光計を用いた場合、使用される分散素子の帯域に応じた、限定されたスペクトル範囲しか試験で利用することができない。一方、本発明に係る方法を用いた場合、例えば、励起源の調整又は交換によって、励起放射の励起波長を簡単に変更することで、異なるスペクトル範囲間での変更、例えば、可視光から近赤外又は遠赤外への変更を、低コスト且つ簡単に行うことができる。ラマン分光法を用いた場合、決定因子は、特定の波長範囲ではなく、基本的にスペクトル距離であるため、励起源又は励起放射を特に簡単に低コストで交換することで、分光ウィンドウを、各被験試料に対して特に有利な範囲に個別に動かすことができる。その結果、ラマンスペクトルの生成及び検出の際に妨げとなる物理効果、特に、一般的な蛍光の発生、原子及び分子共鳴、又は特定のスペクトルウィンドウなどを、考慮に入れることができる。
【0013】
  好ましくは、少なくとも2つの決定強度が記憶される。ここで、決定強度の数は、用いられる励起放射の数に依存する。例えば、第1励起波長を有する第1励起放射、第2励起波長を有する第2励起放射、及び第3励起波長を有する第3励起放射を試料に照射でき、3つの励起波長は全て相互に異なる。次いで、試料に散乱された励起放射を、特定の透過フィルタ波長を有するパッシブ型のフィルタ素子によりフィルタリングすることができ、このフィルタ波長は、3つの励起波長のうちの少なくとも2つとは異なってもよい。次いで、フィルタ波長に割り当てられた検出器により、第1強度、第2強度、及び第3強度を、試料に散乱された第1励起放射、第2励起放射、及び第3励起放射からそれぞれ決定することができる。この数に上限はなく、必要とされる任意の数の励起放射を、離散スペクトルとしても連続スペクトルとしても試料に照射することができ、従って、対応する数の強度を決定することができる。同様に、いくつかの離散スペクトル及び連続スペクトルを混合して用いることも可能であり、個々の要素はまた、少なくとも部分的にスペクトル的に重なってもよい。
【0014】
  好ましくは、試料に関する結論は、少なくとも2つの決定強度から導き出すことができる。これは、具体的には、パッシブ型のフィルタ素子により、固定のフィルタ波長を規定することにより達成され、本発明によれば、このフィルタ波長は、少なくとも第1励起波長及び第2励起波長とは異なる。少なくともこれら2つの励起波長が、フィルタ波長を有するフィルタ素子により規定されるフィルタ素子の透過範囲内に入らないことが、さらに好ましい。すなわち、少なくともこれら2つの励起波長は、フィルタ素子の阻止帯域内に入り、フィルタ素子を透過しない。従って、試料に散乱されフィルタリングされた励起放射は、規定されたフィルタ波長の範囲又はフィルタ素子の対応する通過帯域のスペクトル幅にスペクトル的に限定される。この点に関して、散乱及びフィルタリングされた励起放射は、各励起放射の励起波長に対して特定のスペクトル距離を有する放射である。このスペクトル距離は、ラマンスペクトルにおいて特定の波数(対応する波長の逆数)に対応し、従って、この第1波数に関連する離散ラマン信号を提供することができる。第1励起波長を有する第1励起放射とは異なる第2励起波長を有する第2励起放射がこの試料に照射された場合、第2励起波長とフィルタ波長とのスペクトル距離は、第1励起波長とフィルタ波長とのスペクトル距離とは異なる。従って、この距離はラマンスペクトルにおいて別の波数に対応し、この第2波数に関連する離散ラマン信号を決定することができる。従って、十分な数の、それぞれ相互に異なる励起波長を有する異なる励起放射を照射することにより、離散測定値からも、少なくとも部分的に連続的な測定範囲からも、完全なラマンスペクトルを生成することができる。具体的には、少なくとも2つの決定強度から試料に関する結論を導き出すことができる。
【0015】
  この目的のため、少なくとも1つの励起放射と、散乱されフィルタリングされた励起放射とのスペクトル距離が、試料に散乱された励起放射の1つのラマンシフトに正確に対応することが特に好ましい。具体的には、励起波長を有する励起放射のうちの1つについてのみ上記の条件が満たされる場合も、試料に関する結論を導き出すことができる。試料に散乱され、フィルタ波長を有するフィルタ素子によりフィルタリングされた励起放射を検出することで、この励起放射に対して決定された強度から、対応するラマン信号についての第1の示唆を得る。この場合、第2励起放射については、ラマンプロセスにおいて度量衡学的に有意な強度を決定することができないため、両方の強度の比較を行うことで、試料に関する結論を導き出すことも可能となる。異なる励起波長を有するたった2つの励起放射、すなわち、2つのスペクトル位置における離散ラマンスペクトルの生成及び検出による試料の簡易的な試験は、明確な試料決定を行ううえですでに十分であり、少なくとも、これにより、可能性のある試料の種類について結論を導き出すことができる。第1及び第2励起放射について、すなわち、両方の励起波長について上記の条件が正確に満たされる場合は、試料に関する結論を導き出す機会が高まる。この場合、調査対象の2つのラマン線は相互に独立しているため、ラマン信号が弱い場合でも試料に関する結論を導き出すことができる。しかしながら、誤った測定を排除するために、別の励起波長を有する追加励起放射も念の為調査するべきである。ここで、当該別の励起波長の散乱及びフィルタリングされた励起放射は、試料に散乱された励起放射のラマンシフトとは正確に対応しない。このように、試料の種類に関する結論を導き出すために、各励起放射の励起波長は、各励起放射と、散乱及びフィルタリングされた対応する励起放射とのスペクトル距離の群より、ラマンシフトの少なくとも1つの距離は、試料に散乱された励起放射に対応し、且つ少なくとも1つの距離は、試料に散乱された励起放射に正確に対応しないように、確実に選択されることが望ましい。
【0016】
  本発明に係る、被験媒体のラマンスペクトルを生成及び検出するための方法は、少なくとも1つのパッシブ型の追加フィルタ素子を用いて、試料に散乱された第1励起放射及び試料に散乱された第2励起放射の波長選択フィルタリングを少なくとも行う工程をさらに備える。フィルタ素子をそれぞれ透過するフィルタ波長は、相互に異なり、且つ各励起放射の励起波長ともそれぞれ異なる。試料に散乱されフィルタリングされた励起放射から、少なくとも1つの追加フィルタ波長に割り当てられた別の追加シングルチャネル検出器によって、少なくとも1つの第1強度及び少なくとも1つの第2強度がそれぞれ決定される。少なくとも1つの追加フィルタ波長に対して、少なくとも2つの決定強度が記憶され、少なくとも2つのフィルタ波長における少なくとも4つの決定強度から、試料に関する結論が導き出される。
【0017】
  当該方法に係る手順は、上述の手順にほぼ対応する。励起源、励起放射、励起波長、フィルタ素子、及びフィルタ波長の特性と、それらの機能的関係に関する各情報は、同様に適用される。しかしながら、この実施形態においては、少なくとも1つの追加フィルタ素子、及びこのフィルタ素子の特定のフィルタ波長にそれぞれ割り当てられた少なくとも1つの検出器からなる組み合わせがさらに用いられる。ここでもまた、励起とフィルタ波長との異なる組み合わせにより強度の決定が行われ、少なくとも2つのフィルタ波長による決定強度から、試料に関する結論が導き出される。この点において、本実施形態は、上述のフィルタ構成を用いた方法の代替にあたる実施形態であり、複数のフィルタ波長を有する個々のフィルタ素子が、少なくとも好ましくは、各フィルタ波長にそれぞれ割り当てられた、対応する数の検知器と共に用いられる。従って、同様に、個々のフィルタ素子が、当該方法に関連するフィルタ波長の1つへのみ正確にそれぞれ割り当てられるように、前記フィルタ構成に対して完全な、又は少なくとも部分的な変更を行う。しかしながら逆に、先の例示的実施形態と同様に、この例示的実施形態において、当該方法に関連する複数のフィルタ波長を、追加で導入された少なくとも1つの追加フィルタ素子にさらに割り当てることもできる。
【0018】
  本発明に係る方法によれば、好ましくは、各フィルタ素子の各フィルタ領域のうち少なくとも2つのフィルタ領域が、少なくとも部分的にスペクトル的に重なるように、相互に組み合わされている。複数の励起波長を有する、スペクトル調整された励起源の強度は、各フィルタ波長の各フィルタ領域にそれぞれ割り当てられた検出器により決定され、相互に関連している。これらの励起放射の少なくとも1つに関して、この励起放射と散乱された励起放射(散乱された励起放射は、前記少なくとも2つのフィルタ領域の重なる領域においてスペクトル的にフィルタリングされている)とのスペクトル距離は、試料に散乱された励起放射のラマンシフトと正確に対応する。これにより、ラマン信号から各測定のバックグラウンドを分離することが可能となり、信号雑音比が高まり、スペクトルの位置及び調査される各ラマン線の強度をより正確に決定することが可能となる。特に、この測定方法により、スペクトル的に理想的でない狭帯域(線又はデルタ形)のフィルタ素子及び/又は励起源を使用することも可能となる。好ましくは、単色励起源及び対応する狭帯域フィルタ素子が用いられる。
【0019】
  好ましくは、励起源は、広範囲において連続的にスペクトル調整可能で直接周波数変調された、狭帯域ダイオードレーザである。ここで、狭帯域とは、ダイオードレーザから放出された放射が非常に狭いスペクトル範囲に限定されていることを意味する。特に、シングルモードで動作するダイオードレーザがこれにあたる。通常、1nm未満のライン幅(半値全幅)が達成される。10nm未満、5nm未満、1nm未満、及び0.1nm未満のライン幅(半値全幅)が特に好ましい。これは、波長領域に応じて、低THz領域からMHz領域までの周波数幅に対応する。好ましくは、785nm周辺の領域の励起波長を有する励起放射が使用可能であり、さらに、近赤外スペクトル範囲、可視スペクトル範囲、紫外線スペクトル範囲、赤外線スペクトル範囲、及び遠赤外線スペクトル範囲全体からの励起波長が使用可能である。さらに、ダイオードレーザは広スペクトル範囲で調整可能であることが好ましい。このような構成は、励起源が広いスペクトルの励起波長を提供可能であるという利点を有する。具体的には、連続的に調整可能なダイオードレーザを用いると、本発明に係る方法により、連続的なラマンスペクトルを生成及び記録することができる。数ナノメートルにわたる連続的な調整が特に好ましい。異なるモードの励起が可能なダイオードレーザも好ましく、これにより、例えば、数10nmの距離で、より大きな、少なくとも離散的に達成可能な波長領域が達成できる。直接周波数変調されたダイオードレーザがより好ましく、これを用いて、波長変化を固有のダイオードパラメタにより(例えば、温度又は電流により)設定することができる。好ましくは、いわゆる二波長ダイオードレーザ、例えば、Y分岐二波長DBRダイオードレーザ(Maiwald  et  al.、「シフト励起ラマン差分光法のための785ナノメートルの二波長Y分岐分布ブラッグ反射器ダイオードレーザ」、Appl.  Spectrosc.  69、1144−1151(2015))を用いることができる。これにより、本明細書に示した本発明に係る方法を、特に小型且つ安定して実現することが可能となる。さらに、励起源は、広帯域にわたりスペクトル調整可能な、対応する狭帯域ダイオードレーザであることも好ましい。これは、ECDLシステム、又はスペクトル調整可能なダイオードポンプ固体レーザでもよい。さらに、例えば、対応して調整可能な色素レーザ又はファイバレーザ、又は光周波数コムの個々の歯が好適である。
【0020】
  好ましくは、パッシブ型のフィルタ素子は狭帯域のバンドパスフィルタであり、フィルタ波長はその通過帯域の中心波長により決定される。これは具体的には、ダイクロイックフィルタ、ブラッグフィルタ、又はファブリーペローフィルタでもよい。ここで、パッシブ型とは、ラマンスペクトルを記録するために、フィルタ素子のフィルタ特性に能動的な変化が起こらず、具体的には、フィルタ素子の各フィルタ波長は時間により不変であることを意味する。狭帯域とは、通過帯域のスペクトル幅が限られたスペクトル範囲に関連していることを意味する。ここで、特に好ましい通過帯域幅(半値全幅)は、10nm未満、5nm未満、1nm未満、及び0.1nm未満である。これは、波長領域に応じて、低THz領域からMHz領域までの周波数幅に対応する。上述のように、単一のフィルタ素子が、異なるフィルタ波長の複数の通過帯域を有してもよい。従って、狭帯域のバンドパスフィルタは、同一波長を有する入力放射に対しては基本的に高い透過率を有し、一方、各フィルタ波長に直接近接する領域の放射に対しては透過を抑制するフィルタ素子とみなされるべきである。ここで、「直接」とは、各通過帯域のフィルタ帯域幅により規定される。ここで、全ての阻止帯域全体(スペクトル的に連結された、フィルタ素子の遮断範囲)は、少なくとも、ラマン励起のスペクトル幅により(すなわち、本明細書に示した発明に係る方法に従って用いられる励起波長間の最大スペクトル距離により)定まる領域にわたって広がっていることが特に好ましい。
【0021】
  検出器は、シングルチャネル検出器である。これは、独立したシングルチャネル検出器としても、シングルチャネル検出器を用いて独立して読み取り可能なマルチチャネル検出器としても、設計可能である。この構成は、特に低コストで、小型で、且つ安定した検出器の装置を使用できるという点で有利である。高解像度、低ノイズ、且つ高感度のCCDカメラを使用する必要はない。マルチチャンネル検出器を、個々のチャネルを介してシングルチャネル検出器として操作する場合、いくつかのチャネルを組み合わせてシングルチャネル検出器を形成することもできる。シングルチャネル群は独立して読み取り可能であるべきである。
【0022】
  本発明にかかるラマン分光法は、低コストな構成要素を用いたラマンスペクトルの記録を可能とし、特に小さく、小型、且つ安定した分光法の構成として好適である。特に、対応する構成要素を選択することで、当該方法を様々な好ましい用途に適合させることが可能となる。具体的には、広スペクトル範囲にわたり連続的に広がる励起放射を用いる場合、対応するフィルタ素子を選択することで、試料の連続ラマンスペクトルを、対応する広スペクトル範囲にわたり記録することができ、このラマンスペクトルは、ラマン分光法のための従来の分光計によるものと比較可能である。このように、TERS(調整可能な励起によるラマン分光法)として知られるこの方法は、可能な限り安定且つ低コストなラマン分光システムを構築するうえで好適である。
【0023】
  他の適用例として、試料中のある対象物質の存在の調査、例えば、既知のラマンスペクトルを有するある有害物質の検出のための、低コスト且つ小型なシステムへの利用が挙げられる。ここで、広スペクトル範囲における完全なラマンスペクトルの記録は通常目的とされず、多くの場合、疑わしい試料中のある対象物質を識別するためには、単一ラマン線の調査で十分である。ここで、2つの異なる励起波長を有するたった2つの異なる励起放射を照射することにより、試料に関する結論を出すことができる。具体的には、第1励起放射と、散乱され、且つ対応するフィルタ素子によりフィルタリングされた励起放射とのスペクトル距離が、試料に散乱された励起放射の1つのラマンシフトに正確に対応する場合、対応する試料の存在を結論付けることができる。ここで、第2励起放射が、この試料の別のラマンシフトについてこの条件に同じく適合する励起波長を有する放射であることが好ましい。さらに、正確に対応しない場合、すなわち、第2励起波長が試料のラマンシフトに正確に対応しない場合も好ましい。DORAS(差分光学ラマン分光法)として知られるこの方法は、予想される試料を対象を絞って信頼性高く決定する方法として特に好適である。この方法は、異なる励起源又は1つ以上の励起源の励起波長を使用することによって、複数の異なるフィルタ素子、又は異なるフィルタ領域における異なるフィルタ波長を有する1つ以上のフィルタ素子を用いて、複数の物質を同時に調査できるよう拡張することもできる。ここで、特に、離散的且つ非連続的に調整可能な励起源を用いて、離散的な励起波長を有する励起放射を生成することができる。
【0024】
  本明細書に示した方法における検出の信頼性及び精度を向上するために、本発明に従って得られたラマンスペクトルを参照スペクトルとさらに比較することが考えられる。この参照スペクトルには、試料励起によらない、すなわち、励起放射の照射によらない一般的な測定バックグラウンド(バックグラウンドスペクトル)を含めることができる。試料の純粋な蛍光スペクトル、又は他の試料から得られた代替スペクトルとの比較も可能である。これにより、具体的には、測定バックグラウンド、又は測定に干渉する他の人為的な影響を分離することができる。前記参照スペクトルは、好ましくは、本発明に従った方法又は他の任意の方法により得られた、予想される試料のラマンスペクトルであってもよい。ここで、未知の試料を用いて本発明により決定されたラマンスペクトルと、既知の試料を用いて提供された参照スペクトルとの比較により、前記試料のラマンスペクトルの特定の特徴の相関を調査することができる。比較は、具体的には、少なくとも2つの決定強度から得られたラマンスペクトルを参照スペクトルと比較することで試料に関する結論を導き出すように設計された評価手段により、行うことができる。特に、そのような比較により、本発明に係る方法において、試料に関する結論を導き出すことができる。本発明にかかるラマン分光装置は、少なくとも1つの励起源と、パッシブ型のフィルタ素子と、シングルチャネル検出器と、評価のための手段とを有する。少なくとも1つの励起源は、励起放射を被験試料へ照射し、且つ試料に第1励起波長を有する少なくとも1つの第1励起放射、及び第2励起波長を有する少なくとも1つの第2励起放射を照射するように設計されており、少なくとも第1励起波長は第2励起波長とは異なる。パッシブ型のフィルタ素子は、試料に散乱された第1励起放射及び試料に散乱された第2励起放射の波長選択フィルタリングを少なくとも行うように設計されており、パッシブ型のフィルタ素子のフィルタ波長は、少なくとも第1励起波長及び第2励起波長とは異なる。シングルチャネル検出器は、パッシブ型のフィルタ素子に割り当てられ、試料に散乱されフィルタリングされた第1励起放射の少なくとも1つの第1強度、及び試料に散乱されフィルタリングされた第2励起放射の第2強度を決定するように設計されている。評価のための手段は、シングルチャネル検出器により決定された少なくとも2つの強度から、試料のラマンスペクトルに関する結論を導き出すように設計されている。
【0025】
  このように、本発明に係るラマン分光装置は、好ましくは、上述の方法の各工程を実現するために必要な全ての特徴を有する。具体的には、本発明にかかるラマン分光装置の各構成要素は、方法に関する上述の説明において必要又は好ましいものとして述べられた全ての特徴を有する。さらに、本発明に係る方法の各実施形態、又は各実施形態の特徴の組み合わせは、本発明に係る装置の対応する実施形態も導く。本発明に係る方法の各実施形態に関連する提供情報は、同様に適用される。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0027】
  図1は、本発明に係るラマン分光装置100の概略図を示している。第1結合手段50を用いて、励起源10から放出された励起放射12を被験試料20に結合する。励起源10は、好ましくは、広範囲において連続的にスペクトル調整可能で直接周波数変調された狭帯域ダイオードレーザである。具体的には、ダイオードレーザのレーザ放出の利用可能なスペクトル範囲において、異なる励起波長λ
nを有する複数の励起放射R
n(n→∞)とすることができる。スペクトルを消失することなく、スペクトル的に連続して調整可能なレーザ波長を有するダイオードレーザが特に好ましい。従って、レーザを調整している間、時間微分で増加する変化量で、異なる励起波長λ
nが次々に試料に結合される。試料20に非弾性的に散乱された励起放射R
n'は、照射される可能性のある励起波長λ
nとは異なるフィルタ波長を有するパッシブ型のフィルタ素子30によりスペクトル的にフィルタリングされ、次いで第2結合手段60により検出器40に結合される。第1結合手段50及び第2結合手段60は、好ましくは、独立したレンズ、レンズシステム、又は試料20への、且つ試料20からの放射の結合のために用いられるレンズなどの結像光学手段である。パッシブ型のフィルタ素子30は、具体的には、狭帯域バンドパスフィルタを用いることができ、フィルタ波長λ
Fは通過帯域の中心波長により決定される。検出器40は、具体的には、シングルチャネル検出器を用いることができる。試料20に散乱された励起放射R
n'は、フィルタ素子30により、そのフィルタ特性に従ってフィルタリングされる。それぞれの場合における強度Inは、フィルタ素子30を通過した後に、散乱及びフィルタリングされた励起放射R
n''から、検出器40により決定される。ここで説明した実施形態の場合、試料20の完全なラマンスペクトルは、各決定強度I
n、結合される励起波長λ
nの時間的経過、及びフィルタ素子30のフィルタ波長λ
Fの関係から得られ、特に、フィルタ素子30のフィルタ波長λ
Fと各励起波長λ
nとの各スペクトル距離に対して決定された決定強度I
nから得られる。
 
【0028】
  図2aから2dは、
図1に示した本発明に係るラマン分光装置100を用いたラマンスペクトルの記録の、時間的経過を示している。参照番号はここで準用されている。示したグラフにおいて、各波長と、フィルタ波長λ
Fに割り当てられた検出器40により決定された強度値I
nの時間的経過との関係が示されている。ここで、特定の参照波長λ
Bに対する相対波長(以下の説明において、相対波長は第1励起波長λ
1に等しいものとするが、これに限定されるものではない)が各グラフの各X軸上に示されている。
図2aの上部のグラフにおいて、相対波数がν
0cm
−1である、第1励起波長λ
1を有する第1励起放射R
1の典型的なスペクトルの経過を、一例として示す。励起放射R
1は試料20に結合され、且つ試料に非弾性的に散乱される。ラマン線(ここでは、ただ一例として想定されている)は、300cm
−1、600cm
−1、及び800cm
−1の相対波数を有し、つまり、励起波長λ
nから固定のスペクトル距離を有する。ここで、励起放射と比べ、各ラマンプロファイルは通常広がって観察される場合がある。用いられているフィルタ素子30の通過帯域も、一例として示されている。対応するフィルタ波長λ
Fを選択することにより、波数1000cm
−1である参照波長λ
Bに対して、すなわち、第1励起波長λ
1に対して、固定のスペクトル距離を有する。グラフ中に、狭帯域の通過帯域が一例として示されている。通過帯域は、相対波数1000cm
−1周辺で相対透過率が1.0であり、それ以外の帯域では、入射する散乱された励起放射R
1'に対して完全に不透明である。下部のグラフは、励起波長λ
nを有する励起放射R
nに対してフィルタ素子30によるスペクトルフィルタリングを行った後に、検出器40により決定した強度値I
nを示している。このグラフにおける表現は累積的なものであり、
図2aから2dの個々のグラフにおいて、時間的経過に伴い先の全励起放射R
nに対して決定された全強度値I
nが含まれている。これは基本的に、本発明における各強度値I
nの記憶に対応している。
 
【0029】
  図2aより、第1励起波長λ
1を有する第1励起放射R
1の結合中に生じる試料のラマン線はいずれも、フィルタ波長λ
Fを有するフィルタ素子30の通過帯域ウィンドウ内にスペクトル的に入らないことが分かる。それ故、試料20に散乱された第1励起放射R
1'は透過せず、従って、検出器40の測定により第1強度I
1はゼロとなる。それ故、下部のグラフにおいて変化は見られない。
 
【0030】
  一方、
図2bは、第2励起波長λ
2を有する第2励起放射R
2が照射された場合を示しており、第2励起波長λ
2は第1励起波長λ
1と異なるため、参照波長λ
Bとも異なる。ここで、第1励起波長λ
1と、第2励起波長λ
2とのスペクトル距離は、相対波数100cm
−1である。励起波長をこのようにシフトさせても、フィルタ素子30の通過帯域に関しては
図2aの条件からの変化はなく、
図2bの場合においても、検出器40の測定により第2強度I
2はゼロとなる。第1励起放射R
1から第2励起放射R
2への変化は、離散的に移行可能である。しかしながら、連続スペクトルを記録するために、励起放射R
nを第1励起波長λ
1から第2励起波長λ
2へ連続的に調整することもできる。そのような場合、第1励起波長λ
1と第2励起波長λ
2の間には、それぞれの励起波長λ
lを有する任意の数の励起放射R
lがさらに存在する。説明を単純にするために、各図中で特に符号が付与された励起放射R
nのみ考慮する。しかしながら、
図2bの下部に示したグラフにおいてが、異なる励起放射R
lに対する複数の強度値I
lが決定されていることが分かる。
 
【0031】
  図2cは、励起源10からの放出をスペクトル的にさらに調整することにより、第1励起波長λ
1に対するスペクトル距離、すなわち、参照波長λ
Bに対するスペクトル距離が200cm
−1である、第3励起波長λ
3を有する第3励起放射を照射した場合を示している。結果として生じる相対波数800cm
−1を有するラマン線は、フィルタ素子30の通過帯域に正確に入る。その結果、検出器40は、対応する第3強度I
3を、ラマン線の強度に応じて決定することができる。これは、先の全ての決定強度を含む保存済みの強度経過に追加することができる。その結果、下部のグラフから分かるように、励起放射12を連続的に調整することにより、試料の各ラマン線を、フィルタ素子30の通過帯域にわたりスペクトル的に連続的して移動させることができる。これにより、利用可能なスペクトル範囲において連続ラマンスペクトルを検出器40により記録することができる。
 
【0032】
  最後に、
図2dは、励起源10からの放出をスペクトル的にさらに調整することにより第1励起波長λ
1に対するスペクトル距離、すなわち、参照波長λ
Bに対するスペクトル距離が300cm
−1である、第4励起波長λ
4を有する第4励起放射を照射した場合を示している。相対波数800cm
−1を有するラマン線は、フィルタ素子30の通過帯域を完全に超えて変位しており、スペクトル的にフィルタ素子30の右側の遮断範囲に位置している。下部のグラフから、このラマン線の全経過をその正確なスペクトル位置と共に見ることができる。
 
【0033】
  図3は、フィルタ帯域幅の影響を示す概略図である。
図3に示したグラフは、
図2aから
図2dの状況に基本的に対応しており、ここでは、相対波数100cm
−1を有する単一のラマン線のみについて、広帯域フィルタ素子30の通過帯域とのスペクトルの関係が示されている。上部のグラフにおいて、試料20のラマン線は通過帯域の端にあり、下部のグラフにおいて、ラマン線は通過帯域のフィルタ波長λ
Fに正確に一致している。本発明によれば、異なる強度値の測定によって決定されたラマン線の形状及び幅は、フィルタ素子30の特定のフィルタ機能により各ラマンプロファイルを変換することにより数学的に得られる。さらに、使用される励起放射R
nの各スペクトルプロファイルも、決定されたラマン線の形状及び幅に寄与し得る。ここで示した場合において、フィルタ素子30の通過帯域のスペクトル帯域幅は、具体的には、示したラマン線の線幅とおおよそ同じサイズである。2つのグラフから分かるように、フィルタ素子30が高帯域幅であるため、各決定強度値において値の平均化が行われる。この平均化は、ラマンプロファイルの決定において実際測定されたライン幅に対応して影響を与える。それ故、本発明により決定された試料20のラマンプロファイルを可能な限り正確に測定するために、具体的には、異なる励起放射R
n対してシャープなラインプロファイルが好ましく、シャープな帯域エッジ(レーザ線通過帯域)を有する、可能な限り狭帯域のフィルタ素子が特に好ましい。
 
【0034】
  図4は、本発明に係る別のラマン分光装置100の概略図を示している。装置の基本構造は、
図1に示した実施形態に実質的に対応しているが、ここでは、フィルタ素子30及び追加フィルタ素子32が存在する。これら2つのフィルタ素子により、試料20に散乱された第1励起放射R
1'及び試料20に散乱された第2励起放射R
2'の波長選択フィルタリングを少なくとも行う。各フィルタ素子の透過フィルタ波長λ
F、λ
F'は、相互に異なり、且つ各励起放射R
1、R
2の各励起波長λ
1、λ
2ともそれぞれ異なる。追加フィルタ波長λ
F'に割り当てられた追加検出器42によって、試料20に散乱されフィルタリングされた励起放射R
1'''、R
2'''から、少なくとも1つの第1強度I
1'及び少なくとも1つの第2強度I
2'がそれぞれ決定される。第1結合手段50は、励起放射12を試料20に結合するための、
図1と同様の、対応する結像光学手段である。第2結合手段60は、試料20に散乱された励起放射R
1'、R
2'を2つの検出器40、42に結合するために分割する、無偏光ビームスプリッタ60'を備える。しかしながら、第2結合手段60は、試料20に散乱された励起放射R
1'、R
2'の分割、及び検出器40、42のそれぞれへの結合の両方のための結像光学手段をさらに備えてもよい。結合手段は、常に、試料20又は少なくとも1つの検出器40への結合という本発明の目的を満たすために存在する個々の構成要素全ての全体を指す。ここで、結合手段の個々の構成要素それぞれは、一貫した構成である必要はない。この例示的実施形態においては、このように、2つの検出器40、42への結合手段の各構成要素全てが備わっており、試料20と両検出器40、42との間に置かれている。各構成要素をそのように配置した場合、フィルタ素子30、32の位置には依存せず、ビームスプリッタにより反射されたビーム経路から分かるように、各構成要素を各結合手段60に内包することができる。ここで、
図4の描写は、本発明に係るラマン分光装置100の範囲を制限するものではない。追加のビームスプリッタ、フィルタ素子、及び検出器を導入するこにより、本明細書に示した装置を、その範囲内において必要に応じ拡張することができる。この例示的実施形態には、試料20に散乱された励起放射R
1'、R
2'の分割をビームスプリッタでは行わず、必要とされる任意の方法によって実現する構成も含まれる。例えば、試料20に散乱された励起放射R
1'、R
2'を、空間的に適切に拡張することも可能であり、ビームの各部分領域を、異なるフィルタ素子及び各検出機に供給することができる。ここで、いくつかの異なるフィルタ素子を、単一の構成要素内に、隣接して、又はマトリクス状に配置した構成も含まれる。これは各検出器にも同様に当てはまり、共通の構成要素内に、線上に、又はマトリクス状に配置することができる。さらに、対応するマルチチャネル単一検出器を用いて、そのような多色フィルタ素子を共通のユニットに強固に接続させることもできる。
 
【0035】
  図5は、本発明に係る別のラマン分光装置100の概略図を示している。装置の基本構造は、
図1に示した実施形態に実質的に対応しているが、ここでは、フィルタ素子30はフィルタ波長λ
F及び別の追加フィルタ波長λ
F'を有する。これは、互いに前後に配置された、フィルタ波長λ
Fを有するフィルタ素子30、及びフィルタ波長λ
F'を有する追加フィルタ素子32から成る構成と同等である。この構成を用いて、第1フィルタ素子30の少なくとも1つの通過帯域が追加フィルタ素子32の追加フィルタ波長λ
F'を含むように、両フィルタ素子による、検出器40への放射のフィルタリングが検出前に行われる。別の追加フィルタ波長を有する複数の追加フィルタ素子、又は複数の別の追加フィルタ波長を有する1つのフィルタ素子を追加する拡張も、可能である。本実施形態において、検出器40は、フィルタ波長λ
F及び追加フィルタ波長λ
F'の両方に同時に割り当てられている。ここで、個々の強度の各比率から試料に関する結論20を導くことができる。
 
【0036】
  図6は、本発明に係る別のラマン分光装置100の概略図を示している。第1結合手段50はここでは示しておらず、一体化は任意である。装置の基本構造は
図1に示した実施形態に実質的に対応しているが、ここでは、2つの励起源10が存在する。これら励起源10のそれぞれが励起放射12を放出するように設計可能である。具体的には、励起源10それぞれが、励起放射R
1又はR
2の単一の励起放射のみを生成及び放射可能とすることができ、又は少なくとも1つの励起源10が複数の励起波長を有する励起放射12を放出可能とすることができる。励起源10の数は、必要に応じて拡張可能である。これらは、上述の条件のもと相互に自由に組み合わせることができる。各励起放射の照射は異なるタイミングで行ってもよい。各励起放射を同時に放射すること、及びこれら2つの種類の放射を組み合わせることも可能である。ここで、各励起放射R
nは、試料の共通の励起箇所へ結合すること、又は全ての若しくは個々の励起放射R
nに対してそれぞれ個々の励起箇所を設けることが可能である。さらに、時間的局所的な照射方法に関して記載した情報は、適用可能である限り、言及された本発明の全ての実施形態に適用される。
 
【0037】
  図7aから7cは、本発明に係るラマン分光装置100を用いた、ラマン差分光法の一般的なスキームを示している。ここで、各図面に示したグラフは、
図2aから2dに示したグラフに概ね対応している。記載中の全ての情報は対応して適用される。
 
【0038】
  図2a及び
図2dと同様に、
図7aは、本発明に係る
図1に示したようなラマン分光装置100を用いたラマンスペクトルの記録の時間的経過を示している。具体的には、下部のグラフには、励起放射R
1から相対波数100cm
−1の距離を有する、試料の単一ラマン線のスペクトル強度曲線が示されている。励起放射は、このサイズのスペクトル範囲にわたって、スペクトルを記録するために連続的に調整されている。ここで、そのような測定の初期及び終了状態は、上部のグラフにおいて見ることができる。調査されたラマン線は、フィルタ素子30の通過帯域にわたってスペクトル的に移動する。参照波長λ
Bに対するフィルタ波長λ
Fの相対波数距離は、150cm
−1である。
 
【0039】
  図7bは、
図7aと同様の測定の結果を示しているが、用いたフィルタ素子30のフィルタ波長λ
F'は、参照波長λ
Bに対して波数160cm
−1の距離を有する。ここで、
図7aに示した状況と直接比較すると、各フィルタ素子のフィルタ波長λ
F、λ
F'周辺の透過フィルタ領域は、スペクトル的に部分的に重なり、2つのフィルタ素子30は、フィルタ波長λ
F、λ
F'を除いて同一の透過特性を有することが分かる。その結果、2つのフィルタのうちの1つによりそれぞれ記録されたラマンスペクトルは、参照波長λ
Bと各フィルタ波長λ
F、λ
F'とのスペクトル距離に関して、スペクトル位置が実質的に異なる。従って、
図7bにおけるスペクトル位置は、
図7aの対応する図面に対して、相対波数10cm
−1だけ移動している。さらに、2つのスペクトルの間の差は、各測定バックグラウンド及びその他の測定誤差にも起因し得る。
 
【0040】
  図7cは、
図7a及び7bで得られる2つのラマンスペクトルを、再度、直接比較して示している。さらに、これら2つのスペクトルの差に起因する差分スペクトルが下部に示されている。そのような差分スペクトルを決定することで、記録された各スペクトルを単に評価した場合と比較して、試料に関する結論をより正確に導くことが可能になる。具体的には、実際のラマン信号からバックグラウンドを分離することで、測定バックグラウンドの影響を効果的に除去することができる。この方法は、いわゆるSERD分光法を、本明細書に示した本発明に係る方法へ対応させて適応させることに基づいている(シフト励起ラマン差分分光法、DE  10  2009  029  648  B3)。しかしながら、本発明によれば、各ラマンスペクトルの決定は、分光計によってではなく、異なる励起波長を有する励起放射を試料に放射することにより行われるため、この方法は、差別化のためにTERD分光法(可変励起ラマン差分分光法)と呼ばれている。