特許第6888613号(P6888613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6888613ポリアセタール樹脂組成物及びその成形体
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  • 特許6888613-ポリアセタール樹脂組成物及びその成形体 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6888613
(24)【登録日】2021年5月24日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20210603BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20210603BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20210603BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20210603BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20210603BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   C08L59/00
   C08L23/02
   C08L27/18
   C08L23/06
   C08K5/134
   C08K5/13
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-508046(P2018-508046)
(86)(22)【出願日】2017年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2017012577
(87)【国際公開番号】WO2017170508
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2020年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-67157(P2016-67157)
(32)【優先日】2016年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-212651(P2016-212651)
(32)【優先日】2016年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 柾人
(72)【発明者】
【氏名】須長 大輔
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−233131(JP,A)
【文献】 特開2012−233129(JP,A)
【文献】 特開2012−162589(JP,A)
【文献】 特開2005−187728(JP,A)
【文献】 特開2000−007884(JP,A)
【文献】 特開2008−019430(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0025507(US,A1)
【文献】 特開2014−148626(JP,A)
【文献】 特開2010−265438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/14
C08K 5/13
C08K 5/134
C08L 23/02
C08L 23/06
C08L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂(A)と離型剤(B)と酸化防止剤(C)とを含み、前記離型剤(B)がポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスであり、前記ポリアセタール樹脂組成物中の前記離型剤(B)の含有量が前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下であ前記酸化防止剤(C)が、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、及び3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−α,α’,α”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾールからなる群より選ばれる1種類以上であり、前記ポリアセタール樹脂組成物中の前記酸化防止剤(C)の含有量が、前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上3.0質量部以下である、ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記離型剤(B)が、ポリエチレン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスである、請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記離型剤(B)がポリエチレン系ワックスであって、該ポリエチレン系ワックスの粘度平均分子量が、500から15000である、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアセタール樹脂組成物中の前記離型剤(B)の含有量が、前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.04質量部以上0.15質量部以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアセタール樹脂組成物中の前記酸化防止剤(C)の含有量が、前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、0.03質量部以上0.15質量部以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物を成形して得られる、成形体。
【請求項7】
燃料と接触する部品に用いられる請求項1〜のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項8】
燃料と接触する部品である、請求項に記載の成形体。
【請求項9】
前記燃料が、ガソリン燃料、ガソホール燃料、ディーゼル燃料及びバイオ燃料からなる群より選ばれる1種類又は2種類以上である、請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂組成物は、機械的特性、熱的特性、電気的特性、摺動性、成形性などのバランスに優れ、構造材料や機構部品などとして電気機器、自動車部品、精密機械部品などに広く使用されている。例えば、自動車部品としては、燃料(燃料油)と直接接触する燃料ポンプモジュールなどに代表される燃料搬送ユニット等の大型部品に用いられている。燃料と直接接触する部品に使われるポリアセタール樹脂組成物においては、燃料と接触した際の樹脂組成物の成分の溶出が多いと、部品の機械強度低下の原因となる。
【0003】
このような観点から、燃料と接触する自動車用途関連部品に用いられるポリアセタール樹脂組成物は、いくつか開示されている。例えば、特許文献1は、特定のヒンダードフェノール系酸化防止剤と脂肪酸カルシウム塩を各々特定量含むポリアセタール樹脂組成物の成形体が、長期間、高温の燃料に浸漬してもほとんど劣化しないことを開示している。
【0004】
また、特許文献2は、特定のヒンダードフェノール系酸化防止剤と脂肪酸カルシウム塩を各々特定量含むポリアセタール樹脂組成物及び成形体が、非常に優れた耐熱性、耐溶剤性、耐酸性を有し、自動車用燃料、特にディーゼル燃料と接触する部品に適用できることを開示している。
【0005】
さらに、特許文献3は、酸化防止剤、脂肪酸金属塩、窒素含有化合物、核剤及びポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールを各々特定量含むポリアセタール樹脂組成物の成形品が、自動車用燃料と直接接触しても優れた耐久性を有することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−112728号公報
【特許文献2】特開2011−32379号公報
【特許文献3】特開2009−132768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料と直接接触する部品に使われるポリアセタール樹脂組成物においては、溶出した樹脂組成物の成分が部品の表面に析出すると、当該部品の外観不良や当該部品を使用した装置の動作不良を引き起こす原因となる。また、燃料と直接接触する部品に成形した際の金型からの離型性も重要視される。すなわち、燃料と直接接触する部品に使われるポリアセタール樹脂組成物としては、単に熱安定性だけではなく、燃料と接触した際の樹脂組成物の成分の溶出が少なく、かつ成形時における金型からの離型性が良好な、熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で優れたポリアセタール樹脂組成物が、市場から要求されている。
このような観点で、本発明者らが、上述した特許文献1〜3に開示されている脂肪酸カルシウム塩であるステアリン酸カルシウムや、一般に離型剤として使用される脂肪酸エステルであるペンタエリスリトールテトラステアレートを用いて、耐燃料油性と離型性について検討した結果、これらの化合物を用いたポリアセタール樹脂組成物は、熱安定性に乏しかったり、燃料と接触した際の成分の溶出が多く、燃料と直接接触する部品に使われるポリアセタール樹脂組成物としては、満足できるものではなかった。
【0008】
すなわち、本発明の課題は、熱安定性に優れ、燃料と接触した際の樹脂組成物の成分の溶出が少なく、かつ成形時における金型からの離型性が良い、熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で優れた、ポリアセタール樹脂組成物及びその成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリアセタール樹脂と、離型剤としてポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスとを含み、ポリアセタール樹脂に対して特定量の離型剤を用いたポリアセタール樹脂組成物が、熱安定性に優れ、燃料と接触した際の樹脂組成物成分の溶出が少なく、成形時における金型からの離型性が良好で、熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕ポリアセタール樹脂(A)と離型剤(B)とを含み、前記離型剤(B)がポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスであり、前記ポリアセタール樹脂組成物中の前記離型剤(B)の含有量が前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下である、ポリアセタール樹脂組成物。
〔2〕前記離型剤(B)が、ポリエチレン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスである、〔1〕に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔3〕前記離型剤(B)がポリエチレン系ワックスであって、該ポリエチレン系ワックスの粘度平均分子量が、500から15000である、〔1〕又は〔2〕に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔4〕前記ポリアセタール樹脂組成物中の前記離型剤(B)の含有量が、前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.04質量部以上0.15質量部以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔5〕さらに、酸化防止剤(C)を、前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上3.0質量部以下含む、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔6〕前記酸化防止剤(C)が、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、及び3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−α,α’,α”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾールからなる群より選ばれる1種類以上である、〔5〕に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔7〕前記ポリアセタール樹脂組成物中の前記酸化防止剤(C)の含有量が、前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、0.03質量部以上0.15質量部以下である、〔5〕又は〔6〕に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔8〕〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載のポリアセタール樹脂組成物を成形して得られる、成形体。
〔9〕燃料と接触する部品に用いられる〔1〕〜〔7〕に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔10〕燃料と接触する部品である、〔8〕に記載の成形体。
〔11〕前記燃料が、ガソリン燃料、ガソホール燃料、ディーゼル燃料及びバイオ燃料からなる群より選ばれる1種類又は2種類以上である、〔10〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱安定性に優れ、燃料と接触した際の樹脂組成物の成分の溶出が少なく、かつ成形時における金型からの離型性が良い、熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で優れたポリアセタール樹脂組成物及びその成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例及び比較例における耐燃料油性評価に使用した装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(A)と離型剤(B)とを含み、前記離型剤(B)がポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスであり、前記ポリアセタール樹脂組成物中の前記離型剤(B)の含有量がポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下である。このようなポリアセタール樹脂組成物は、熱安定性に優れ、燃料と接触した際の樹脂組成物の成分の溶出が少なく、かつ成形時における金型からの離型性が良く、熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で優れる特徴を有する。その理由は、特に限定されないが、ポリアセタール樹脂組成物が特定量のポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスを含むと、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性が優れ、また、ポリアセタール樹脂組成物の金型からの離型性が良好で、かつポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスは後述の燃料への溶解性や燃料との反応性が低いことに起因すると考えられる。
【0014】
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、燃料と接触する部品に好適に用いることができる。ここで、燃料とは、特に限定されるものではないが、例えば、ガソリン燃料、ガソホール燃料、ディーゼル燃料、バイオ燃料、ろうなどの固体燃料等、固体、液体、気体(蒸気)の状態の、ヘテロ原子を有していてもよい脂肪族及び/又は芳香族の炭化水素化合物を指す。
【0015】
以下、本発明のポリアセタール樹脂組成物を構成する成分について説明する。
<ポリアセタール樹脂(A)>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(A)を含む。ポリアセタール樹脂(A)は、アセタール結合:−O−CRH−(ここで、Rは、水素原子又は有機基を示す)を繰り返し単位に有する高分子であり、通常はRが水素原子であるオキシメチレン基(−OCH−)を主たる構成単位とするものである。本発明に用いるポリアセタール樹脂は、前記オキシメチレン基以外の繰り返し構成単位を1種以上含むコポリマー(ブロックコポリマー)やターポリマー等を含み、更には線状構造のみならず、グリシジルエーテル化合物、エポキシ化合物、アリルエーテル化合物などをコモノマー及び/又はターモノマーに用いることで生成する分岐、架橋構造を有していてもよい。前記オキシメチレン基以外の構成単位としては、例えば、オキシエチレン基(−OCHCH−又は−OCH(CH)−)、オキシプロピレン基(−OCHCHCH−、−OCH(CH)CH−又は−OCHCH(CH)−)、オキシブチレン基(−OCHCHCHCH−、−OCH(CH)CHCH−、−OCHCH(CH)CH−、−OCHCHCH(CH)−、−OCH(C)CH−又は−OCHCH(C)−)等の炭素数2以上10以下の、分岐していてもよいオキシアルキレン基が挙げられ、中でも炭素数2以上4以下の、分岐していてもよいオキシアルキレン基が好ましく、特にオキシエチレン基(−OCHCH−)が好ましい。また、ポリアセタール樹脂(A)中における、オキシメチレン基以外の構成単位(オキシアルキレン基)の含有量は、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上6.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
ポリアセタール樹脂(A)の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の任意の方法によって製造すればよい。例えば、オキシメチレン基と、炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を構成単位とするポリアセタール樹脂(A)の製造方法としては、ホルムアルデヒドの3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のオキシメチレン基の環状アセタールと、エチレンオキサイド、1,3−ジオキソラン、1,3,6−トリオキソカン、1,3−ジオキセパン等の炭素数2以上5以下のオキシアルキレン基を含む環状アセタールとを共重合することによって製造することができる。なかでも、本発明に用いることができるポリアセタール樹脂(A)としては、トリオキサンやテトラオキサン等の環状アセタールと、エチレンオキサイド又は1,3−ジオキソランとの共重合体であることが好ましく、トリオキサンと1,3−ジオキソランとの共重合体であることが特に好ましい。
【0017】
例えば、ポリアセタール樹脂(A)は、オキシメチレン基の環状アセタールと、コモノマーである炭素数2以上5以下のオキシアルキレン基を含む環状アセタールとを、重合触媒を用いて塊状重合させる方法で得ることができる。重合触媒及び重合成長末端の失活処理のために、必要に応じて反応停止剤を用いてもよい。また、ポリアセタール樹脂(A)の分子量調節のために、必要に応じて分子量調節剤を用いてもよい。本発明のポリアセタール樹脂(A)の製造に用いることができる重合触媒、反応停止剤、分子量調節剤の種類や量は、本発明の効果を阻害しない限りにおいては特に限定されるものではなく、従来公知の任意の重合触媒、反応停止剤、分子量調節剤を適宜使用することができる。
【0018】
重合触媒としては特に限定されるものではないが、例えば、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五塩化リン、五フッ化リン、五フッ化ヒ素、及び五フッ化アンチモンなどのルイス酸、並びにこれらルイス酸の錯化合物または塩化合物が挙げられる。また、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸などのプロトン酸;パークロル酸と低級脂肪族アルコールのエステルなどのプロトン酸のエステル;パークロル酸と低級脂肪族カルボン酸との混合無水物などのプロトン酸の無水物なども挙げられる。このほかに、トリエチルオキソニウムヘキサフルオロホスファート、トリフェニルメチルヘキサフルオロアルゼナート、アセチルヘキサフルオロボラート、ヘテロポリ酸またはその酸性塩、イソポリ酸またはその酸性塩、パーフルオロアルキルスルホン酸またはその酸性塩などが挙げられる。中でも、三フッ化ホウ素を含む化合物が好ましく、エ−テル類との配位錯体である三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラートが特に好ましい。
【0019】
重合触媒の使用量は特に限定されるものではないが、トリオキサンとコモノマーの合計の全モノマー1molに対して、通常1.0×10−8〜2.0×10−3molであり、好ましくは5.0×10−8〜8.0×10−4mol、特に好ましくは5.0×10−8〜1.0×10−4molの範囲である。
【0020】
反応停止剤としては特に限定されるものではないが、例えば、三価の有機リン化合物、アミン化合物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。これらの反応停止剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、三価の有機リン化合物、三級アミン、ヒンダードアミンが好ましい。
【0021】
反応停止剤の使用量は、重合触媒を失活させるのに十分な量であれば特に制限はないが、重合触媒に対するモル比として、通常1.0×10−1〜1.0×10の範囲である。
【0022】
分子量調節剤としては特に限定されるものではないが、例えば、メチラール、メトキシメチラール、ジメトキシメチラール、トリメトキシメチラール、オキシメチレンジ−n−ブチルエーテルなどが挙げられる。中でもメチラールが好ましい。これらの分子量調節剤の使用量は、目標とする分子量に応じて適宜決められる。通常、全モノマーに対して0〜0.1質量%の範囲で添加量が調整される。
【0023】
<離型剤(B)>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、離型剤(B)を含み、離型剤(B)として、ポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスを用いることが必須である。これは、ポリアセタール樹脂組成物が、離型剤(B)として、ポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスを含むことにより、燃料と接触した際の樹脂組成物の成分の溶出が少なく、かつ成形時における金型からの離型性が良く、耐燃料油性と離型性のバランスに優れるからである。また、ポリオレフィン系ワックス、ポリテトラフルオロエチレン系ワックスを添加したポリアセタール樹脂組成物は、一般に離型剤として使用される脂肪酸カルシウム塩(例えば、ステアリン酸カルシウム)や脂肪酸エステル(例えば、ペンタエリスリトールテトラステアレート)を添加した樹脂組成物よりも熱安定性にも優れる特徴がある。ポリオレフィン系ワックス、ポリテトラフルオロエチレン系ワックスは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。なかでも、離型剤(B)としては、後述する、ポリエチレン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスが好ましい。
【0024】
ポリオレフィン系ワックスは、オレフィン由来の骨格を有する化学合成された低分子量の重合体(合成ワックス)であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、エチレン−アクリル酸共重合体ワックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体ワックスなどが挙げられる。また、これらのワックスを酸化変性又は酸変性することによって、極性基を導入したものであってもよい。ポリオレフィン系ワックスは、1種類を単独で用いてもよく、種類や粘度の異なるものを2種類以上併用してもよい。
【0025】
ポリオレフィン系ワックスの分子量は特に限定されないが、粘度平均分子量で表して、500〜30000が好ましく、500〜15000がより好ましく、1000〜10000がさらに好ましく、2000〜8000が特に好ましい。ポリオレフィン系ワックスの粘度平均分子量が、500以上であれば、燃料と接触した際の離型剤の溶出を抑制できる傾向にある。一方、粘度平均分子量が30000以下であれば、少量の離型剤の添加で成形時の離型性が良好となる傾向にある。
【0026】
離型剤(B)としては、上述したポリオレフィン系ワックスのなかで、ポリエチレン系ワックス及び/又はポリプロピレン系ワックスであることが好ましく、ポリエチレン系ワックスであることが特に好ましい。
【0027】
ポリエチレン系ワックスは、エチレン由来の骨格を有する低分子量の重合体であれば、特に限定されず、例えば、低分子量ポリエチレン重合体(以下、単に、低分子量ポリエチレンともいう)又は低分子量ポリエチレン共重合体、及びこれらを酸化変性又は酸変性することによって極性基が導入された酸化変性ポリエチレンワックス又は酸変性ポリエチレンワックスが挙げられる。これら、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリエチレン共重合体、酸化変性ポリエチレンワックス、酸変性ポリエチレンワックスは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
低分子量ポリエチレンは、エチレンを重合して得られる低分子量の重合体であり、その構造は直鎖状(高密度ポリエチレン)であっても、分枝状(低密度ポリエチレン)であってもよい。
【0029】
低分子量ポリエチレン共重合体は、エチレンとα−オレフィンとを重合して得られる低分子量の共重合体であり、その構造は直鎖状(高密度ポリエチレン)であっても、分枝状(低密度ポリエチレン)であってもよい。低分子量ポリエチレン共重合体としては、α−オレフィンがプロピレンである低分子量ポリエチレン共重合体が好ましい。
【0030】
低分子量ポリエチレン共重合体における、エチレンとα−オレフィンの組成比は特に限定されるものではないが、低分子量ポリエチレン共重合体中のエチレンとα−オレフィンの合計モル量に対して、エチレン量が50モル%以上100モル%未満であり、α−オレフィン量が0モル%超50モル%以下であることが好ましい。α−オレフィンがプロピレンである場合は、低分子量ポリエチレン共重合体中のエチレンとプロピレンの合計モル量に対して、エチレン量が50モル%以上100モル%未満であり、プロピレン量が0モル%超50モル%以下であることが好ましい。
【0031】
低分子量ポリエチレンや低分子量ポリエチレン共重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、エチレン又はエチレンとα−オレフィンとをチーグラー触媒などで直接重合する方法、高分子量ポリエチレンあるいは共重合体製造時の副成物として得る方法、高分子量ポリエチレンあるいは共重合体を熱分解する方法等により製造することができる。
【0032】
酸化変性ポリエチレンワックスは、上述した低分子量ポリエチレン重合体又は低分子量ポリエチレン共重合体を、過酸化物や酸素などで処理してカルボキシル基や水酸基等の極性基を導入したものであれば、特に限定されない。
【0033】
酸変性ポリエチレンワックスは、必要であれば過酸化物や酸素の存在下、上述した低分子量ポリエチレン重合体又は低分子量ポリエチレン共重合体を、無機酸、有機酸あるいは不飽和カルボン酸等で処理することにより、カルボキシル基やスルホン酸基等の極性基を導入したものであれば、特に限定されない。
【0034】
ポリエチレン系ワックスの粘度平均分子量は、特に限定されないが、500〜15000が好ましく、1000〜10000がより好ましく、2000〜8000が特に好ましい。ポリエチレン系ワックスの粘度平均分子量が、500以上であれば、燃料と接触した際の離型剤の溶出を抑制できる傾向にある。一方、粘度平均分子量が15000以下であれば、少量の離型剤の添加で成形時の離型性が良好となる傾向にある。
【0035】
上述したポリエチレン系ワックスは、1種類を単独で用いてもよく、種類や粘度の異なるものを2種類以上併用してもよい。
【0036】
上述したポリエチレン系ワックスは、市販品を用いてよく、例えば、一般重合型高密度タイプポリエチレンワックス、一般重合型低密度タイプポリエチレンワックス、酸化タイプポリエチレンワックス(微酸価)、酸化タイプポリエチレンワックス(高酸価)、酸変性タイプポリエチレンワックス、特殊モノマー変性タイプポリエチレンワックス、あるいは低密度ポリエチレン一般タイプポリエチレンワックス等の名称で市販されているものを使用できる。例えば、酸化タイプのポリエチレンワックスとしては、三井化学株式会社製のハイワックス220MPを使用することができる。また、高密度タイプのポリエチレンワックスとしては、三井化学株式会社製のハイワックス800Pを使用することができる。
【0037】
ポリテトラフルオロエチレン系ワックスは、テトラフルオロエチレン骨格を有する重合体であれば、特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとその他のモノマーとの共重合体が挙げられる。なかでも、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、低分子量ポリテトラフルオロエチレンが特に好ましい。
【0038】
低分子量ポリテトラフルオロエチレンとしては、特に限定されないが、例えば、粉末状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE粉末)、繊維状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE繊維)、水性分散液状のポリテトラフルオロエチレン(PTFEディスパージョン)が挙げられ、分散性の点からPTFE粉末が特に好ましい。
【0039】
低分子量ポリテトラフルオロエチレンは市販品を用いてよく、例えば、PTFE粉末としては、ダイキン工業株式会社製のルブロンL5(登録商標)が挙げられる。
【0040】
本発明のポリアセタール樹脂組成物中の離型剤(B)の含有量は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下である。ポリアセタール樹脂組成物中の離型剤(B)の含有量が0.01質量部以上であれば、金型からの成形体の離型性が良好となる傾向にある。一方、含有量が1.0質量部以下であれば、熱安定性、耐燃料油性が優れる傾向にある。
【0041】
ポリアセタール樹脂組成物中の離型剤(B)の含有量は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、0.02質量部以上0.7質量部以下が好ましく、0.03質量部以上0.2質量部以下がより好ましく、0.04質量部以上0.15質量部以下がさらに好ましく、0.08質量部以上0.12質量部以下が特に好ましい。離型剤(B)の含有量が0.03質量部以上0.2質量部以下であると樹脂組成物及び成形体の熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で優れ、0.04質量部以上0.15質量部以下であると熱安定性、耐燃料油性、離型性の点でより優れ、0.08質量部以上0.12質量部以下であると熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で特に優れる。
【0042】
<酸化防止剤(C)>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、酸化防止剤(C)をさらに含むことが好ましい。ポリアセタール樹脂組成物が、酸化防止剤(C)を含有することにより樹脂組成物の耐熱性が向上するので、成形加工時の熱安定性が優れる傾向にあり、結果として機械強度、耐燃料油性が良好な成形体が得られる傾向にある。
【0043】
酸化防止剤(C)の種類は、特に限定されないが、例えば、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](例えば、BASF,IRGANOX(登録商標) 245)、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド](例えば、BASF,IRGANOX(登録商標) 1098)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](例えば、BASF,IRGANOX(登録商標) 1010)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、Rianlon,THANOX(登録商標) 330)、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−α,α’,α”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(例えば、BASF,IRGANOX(登録商標) 1330)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(例えば、BASF,IRGANOX(登録商標) 3114)が挙げられる。
【0044】
なかでも、酸化防止剤(C)が、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](例えば、BASF,IRGANOX(登録商標) 1010)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、Rianlon,THANOX(登録商標) 330)、及び3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−α,α’,α”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(例えば、BASF,IRGANOX(登録商標) 1330)からなる群より選ばれる1種類以上であることが、酸化防止剤(C)による樹脂組成物及び成形体の熱安定性を維持しつつ、樹脂組成物及び成形体からの酸化防止剤(C)の溶出が起こりにくく耐燃料油性に優れるのでより好ましい。さらに、酸化防止剤(C)が、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、Rianlon,THANOX(登録商標) 330)、及び/又は3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−α,α’,α”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(例えば、BASF,IRGANOX(登録商標) 1330)であることが、樹脂組成物及び成形体の熱安定性、耐燃料油性に特に優れるので、特に好ましい。
【0045】
ポリアセタール樹脂組成物中の酸化防止剤(C)の含有量は、特に限定されるものではないが、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上3.0質量部以下が好ましい。樹脂組成物中の酸化防止剤(C)の含有量が0.01質量部以上であれば、樹脂組成物及び成形体の耐熱性が向上する傾向にある。一方、含有量が3.0質量部以下であれば、樹脂組成物及び成形体からの酸化防止剤(C)の溶出が起こりにくく、耐燃料油性に優れ、離型性も優れる傾向にある。また、酸化防止剤(C)の含有量は、0.01質量部以上0.5質量部以下がより好ましく、0.02質量部以上0.2質量部以下がさらに好ましく、0.03質量部以上0.15質量部以下が特に好ましい。酸化防止剤(C)の含有量が0.02質量部以上0.2質量部以下であると樹脂組成物及び成形体の熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で優れ、0.03質量部以上0.15質量部以下であると熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で特に優れる。
【0046】
本発明の好ましい態様において、離型剤(B)としてのポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスと酸化防止剤(C)とを併用することにより、耐燃料油性が優れるとともに、離型性及び熱安定性も優れる。
【0047】
<その他の添加してもよい任意成分>
また、本発明を実施するとき、本発明の目的を損なわない範囲内で、前記酸化防止剤(C)以外の窒素含有化合物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、無機酸塩、及びアルコキシドからなる群で示される金属含有化合物を更に添加することができる。
【0048】
窒素含有化合物は、特に限定されないが、例えば、アミノ置換トリアジン化合物、ポリアミド樹脂、ヒンダードアミン化合物が挙げられる。
【0049】
窒素含有化合物の添加量は、特に限定されるものではないが、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01〜5.0質量部であり、より好ましくは0.01〜3.0質量部であり、特に好ましくは0.02〜2.0質量部である。窒素含有化合物の添加量が0.01質量部以上であれば、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性が改善され、添加量が5.0質量部以下であれば、引張伸びや耐衝撃性の著しい低下を伴わずにポリアセタール樹脂組成物の熱安定性を改善することができる。
【0050】
アミノ置換トリアジン化合物は、特に限定されないが、例えば、グアナミン、メラミン、N−ブチルメラミン、N−フェニルメラミン、N,N−ジフェニルメラミン、N,N−ジアリルメラミン、N,N’,N”−トリフェニルメラミン、N,N’,N”−トリメチロールメラミンなどのメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのアルキル化メラミン類、ベンゾグアナミン、2,4−ジアミノ−6−メチル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ブチル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ベンジルオキシ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ブトキシ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−シクロヘキシル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−クロロ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−sym−トリアジン、アメリン(N,N,N’,N’−テトラシアノエチルベンゾグアナミン)、水溶性のメラミン−ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。中でも、メラミン、メチロールメラミン、アルキル化メラミン、ベンゾグアナミン、及び水溶性のメラミン−ホルムアルデヒド樹脂が好ましい。上記したアミノ置換トリアジン化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらのアミノ置換トリアジン化合物は、耐熱安定剤として使用される。
【0051】
ポリアミド樹脂は、分子中に2個以上のアミド結合を有する樹脂であれば特に限定されないが、例えばナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、これらの3元共重合体、重合脂肪酸系ポリアミド樹脂及びポリアミドエラストマー等が挙げられる。これらの中では、重合脂肪酸系ポリアミド樹脂又はポリアミドエラストマーが特に好ましい。これらのポリアミド樹脂は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
ここで、重合脂肪酸系ポリアミド樹脂とは、重合脂肪酸とジアミンとの重縮合体で構成されるポリアミド樹脂を言う。
【0053】
重合脂肪酸とは、不飽和脂肪酸の重合体、又はこの重合体を水素添加して得られるものであり、重合脂肪酸としては、例えば10〜24の炭素数を有し、二重結合又は三重結合を1個以上有する一塩基性脂肪酸の二量体(ダイマー酸)又はその水素添加物が挙げられる。ダイマー酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸及びエルカ酸等の二量体が挙げられる。
【0054】
ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン及びメタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0055】
ポリアミドエラストマーとは、ハードセグメントとソフトセグメントとを有し、ハードセグメントがポリアミドで構成され、ソフトセグメントがポリアミド以外のポリマーで構成されるポリアミド樹脂を言う。ハードセグメントを構成するポリアミドとしては、例えばナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、これらの3元共重合体、重合脂肪酸系ポリアミド樹脂等が挙げられる。ポリアミド以外のポリマーとしては、例えば脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリエーテルが挙げられる。脂肪族ポリエステルとしては、例えばポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート及びポリブチレンサクシネート等が挙げられる。脂肪族ポリエーテルとしては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。
【0056】
ヒンダードアミン化合物としては特に限定されないが、例えば、N,N’,N”,N’ ’ ’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(BASF,Chimassorb(登録商標) 2020 FDL)、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル}イミノ)ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重縮合物(BASF,Tinuvin(登録商標) 622 SF)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、及び1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが挙げられる。その中でも、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びコハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノール(BASF,Tinuvin(登録商標) 622 SF)の重縮合物が好ましい。上記したヒンダードアミン化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらのヒンダードアミン化合物は、光安定剤、酸化防止剤として使用される。
【0057】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、無機酸塩、及びアルコキシドからなる群で示される金属含有化合物における無機酸塩としては、リン酸塩、ケイ酸塩、ほう酸塩などが挙げられ、アルコキシドとしてはメトキシド、エトキシドなどが挙げられる。これらの中で好ましいものは、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、無機酸塩、アルコキシドであり、より好ましいものは、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、または炭酸マグネシウムである。
【0058】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、無機酸塩、及びアルコキシドからなる群で示される金属含有化合物の少なくとも1種類の添加量は特に限定されるものではないが、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.001〜5.0質量部、特に好ましくは0.01〜3.0質量部である。
【0059】
また、本発明を実施するとき、本発明の目的を損なわない範囲内で、各種の光安定剤、紫外線吸収剤、前記離型剤(B)以外の滑剤、核剤、充填剤、顔料、界面活性剤、帯電防止剤などを更に添加してもよい。
【0060】
<ポリアセタール樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリアセタール樹脂組成物の製造方法は、上述したポリアセタール樹脂(A)と離型剤(B)としてのポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスとを混合して溶融混練する方法であれば、特に限定されるものではなく、従来公知のポリアセタール樹脂組成物の製造方法を使用できる。例えば、上述したポリアセタール樹脂(A)とポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスと、必要に応じて、酸化防止剤(C)及び上述したその他の添加してもよい任意成分を、任意の順序で混合、溶融混練することによって製造できる。
【0061】
溶融混練の温度、圧力の条件は、従来公知のポリアセタール樹脂組成物の製造方法にしたがって適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。例えば、溶融混練の温度は、ポリアセタール樹脂(A)の溶融温度以上、270℃以下が好ましく、190℃以上、250℃以下が特に好ましい。また、溶融混練時の圧力は、絶対圧で6.7kPa以上、66.7kPa以下が好ましく、13.3kPa以上、40.0kPa以下が特に好ましい。溶融混練を行う時間(溶融混練に用いられる装置内の滞留時間)は特に限定されるものではなく、好ましくは、1〜60分、特に好ましくは1〜40分である。
【0062】
溶融混練に用いられる装置も特に限定されるものではなく、従来からこの種の樹脂組成物の製造に用いられている一軸又は二軸押出し機などの溶融混練装置などを用いることができる。溶融混練の方法も特に限定されるものではなく、例えば、上述した一軸又は二軸押出し機を用いて、上述した温度、圧力下で脱揮しながら、連続的に押出し成形して、ポリアセタール樹脂組成物(ペレット)を得ることができる。
【0063】
具体的には、例えば、ポリアセタール樹脂(A)に対して、ポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスを添加し、所望により更に、酸化防止剤(C)や上述したその他の添加してもよい任意成分等を添加した後、タンブラー型ブレンダー等によって混合する。次いで得られた混合物を一軸又は二軸押出し機で溶融混練してストランド状に押出し、ペレット化することにより、所望の組成のポリアセタール樹脂組成物を得ることができる。
【0064】
また別法として、ポリアセタール樹脂(A)に対して、ポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスを添加、混合した後、溶融混練してペレット化する。これに所望により更に、酸化防止剤(C)や上述したその他の添加してもよい任意成分等を添加した後、再度混合、溶融混練してペレット化することにより、所望の組成のポリアセタール樹脂組成物を得ることもできる。また、ペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂組成物を直接、射出成形品、ブロー成形品、または押出成形品などにすることもできる。
【0065】
<ポリアセタール樹脂組成物の成形体及びその用途>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、公知のポリアセタール樹脂の成形加工法に従って、種々の形態に成形加工することができる。本発明のポリアセタール樹脂組成物からなる成形体としては、ペレット、丸棒、厚板、シート、チューブ、円筒状や方形状の容器といった形状が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0066】
本発明のポリアセタール樹脂組成物及びその成形体は、従来からポリアセタール樹脂組成物の用途として知られる、機械、電気、自動車、建材その他の各種部品として使用できるが、特に後述する燃料の、固体、液体、気体(特に蒸気)と直接接触する燃料タンクキャップ等の部品用途として、好適である。
【0067】
本発明における燃料は、上述したように、特に限定されるものではないが、固体、液体、気体(蒸気)の状態の、ヘテロ原子を有していてもよい脂肪族及び/又は芳香族の炭化水素化合物を含む燃料であり、例えば、ガソリン燃料、ガソホール燃料、ディーゼル燃料、バイオ燃料が挙げられる。これらの燃料は、1種類であってよく、2種類以上の混合物であってもよい。ガソリン燃料は、一般に自動車の燃料として使用される石油製品であれば、特に限定されるものではなく、特別な燃料を指すものではない。ガソホール燃料は、ガソリンとメタノールやエタノール等のアルコール類の混合物であれば、特に限定されるものではない。ディーゼル燃料は、ディーゼルエンジンの燃料として使用される石油製品であれば、特に限定されるものではなく、例えば軽油が挙げられる。バイオ燃料は、再生可能な生物由来の有機性資源(バイオマス)を原料として製造された燃料であれば、特に限定されない。
【実施例】
【0068】
以下、本発明について実施例、比較例を示して、その実施形態と効果について具体的に説明をするが、本発明はこれらの例によりなんら限定されるものではない。
【0069】
実施例及び比較例におけるポリアセタール樹脂組成物は、次のようにして作成した。
<ポリアセタール樹脂(A)の製造>
温度を65℃に設定したジャケットを有するセルフクリーニング型パドルを有する二軸の連続重合機に、トリオキサン100質量部と、1,3−ジオキソラン4質量部と、触媒として三フッ化ホウ素ジエチルエーテラートを全モノマー(トリオキサンおよび1,3−ジオキソラン)1molに対して0.05mmolとなる量をベンゼン溶液として、並びに分子量調節剤としてメチラールを全モノマーに対して500ppmとなる量をベンゼン溶液として、連続的に添加し、連続重合機内における原料及び重合反応生成物の滞在時間が20分となるようにして連続的に重合反応を行った。
【0070】
得られた重合反応生成物に対して、トリフェニルホスフィンを、使用した三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート1molに対して2molとなる量をベンゼン溶液として添加した。触媒を失活させた後、粉砕して、ポリアセタール樹脂(A)を得た。
【0071】
<ポリアセタール樹脂組成物の製造>
表1〜表3に記載した配合量(単位:質量部)で、ポリアセタール樹脂(A)、離型剤(B)、酸化防止剤(C)を混合し、口径30mmの二軸押出機で210〜230℃の温度範囲で加熱溶融しながら、21.3kPaの減圧下で脱揮して、実施例1〜16及び比較例1〜4のポリアセタール樹脂組成物のペレットを作成した。
【0072】
表1〜表3の実施例及び比較例で記載した記号の意味は下記に示す通りである。
<B:離型剤>
B−1:ポリエチレン系ワックス(ハイワックス220MP、三井化学株式会社製、分子量2000)
B−2:ポリエチレン系ワックス(ハイワックス800P、三井化学株式会社製、分子量8000)
B−3:ポリテトラフルオロエチレン系ワックス(ルブロン(登録商標) L5、ダイキン工業株式会社製)
B−4: ペンタエリスリトールテトラステアレート(WE−476、日油株式会社製)
B−5:ステアリン酸カルシウム(カルシウムステアレート、日油株式会社製)
<C:酸化防止剤>
C−1:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート(IRGANOX(登録商標) 245、BASF製)
C−2:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX(登録商標) 1010、BASF製)
C−3:1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(THANOX(登録商標) 330、Rianlon社製)
C−4:N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド](IRGANOX(登録商標) 1098、BASF製)
【0073】
実施例及び比較例におけるポリアセタール樹脂組成物の各物性は次のようにして測定した。実施例及び比較例のポリアセタール樹脂組成物の評価結果は、表1〜表3に記載した。
【0074】
<離型性評価>
離型性評価は、以下のようにして行った。中央にリブがある30×50×30mmの箱型に成形した容器(箱型成形容器)を、日精樹脂工業製の射出成型機PS40を用いて全自動で連続成形して、箱型成形容器が離型する際のエジェクターピンにかかる押し圧を、ピン型圧力センサーを用いて測定した。30ショット連続成形したうちの11ショット目から30ショット目までのエジェクターピンにかかる押し圧の平均値を、実施例及び比較例の各試料の離型抵抗値とした。
【0075】
<耐燃料油性評価>
耐燃料油性評価は、以下の手順で行った。耐燃料油性評価に使用した装置の概略図を図1に示した。まず、耐圧密閉容器に、耐燃料油性評価のための燃料として、トルエン/イソオクタン/メタノール=42.5/42.5/15.0vol%の混合溶液を300ml入れた。この燃料を入れた耐圧密閉容器に、ガラスウールを約10g入れ、上述の離型性評価に用いた箱型成形容器を、燃料と直接接触しないように、ガラスウール上に配置した。箱型成形容器には、同じ燃料を6ml入れ、耐圧密閉容器の蓋を閉めた。
箱型成形容器を入れた耐圧密閉容器を、60℃の湯浴中で300時間加熱し、箱型成形容器を燃料の蒸気に曝した。300時間経過後、耐圧密閉容器から箱型成形容器を取り出し、箱型成形容器に付着した燃料を風乾した後、箱型成形容器の内側底面を観察した。
【0076】
<滞留熱安定性評価>
240℃に加熱した東芝機械製IS75E−2Bのシリンダー中で、12分間隔で最大72分まで、実施例及び比較例のポリアセタール樹脂組成物を溶融保持した後、そのポリアセタール樹脂組成物を用いて厚さ3mmの薄板を成形し、成形した薄板(成形片)にシルバーストリークが観察される時間(分)を目視で評価した。シルバーストリークが観察される時間が48分以上であれば実用的であり、時間が長いものほど、熱安定性により優れることを意味する。
【0077】
<評価基準>
実施例及び比較例における、離型性評価、耐燃料油性評価、滞留熱安定性の評価基準は以下の通りである。
離型性評価:
エジェクターピンにかかる押し圧の平均値(離型抵抗値)が3.1MPa以下の場合◎(優良)、3.1MPa超4.1MPa以下の場合を○(良)、4.1MPa超の場合を×(不良)とした。
耐燃料油性評価:
溶出した成分が箱型成形容器の内側底面部を占める割合(溶出量)で評価し、以下の1〜5段階の数値で評価した。1が最もよく、5が最もよくない。
1:溶出がほぼ見られない。0%≦溶出量≦5%。
2:ごく僅かに溶出が見られる。5%<溶出量≦10%。
3:僅かに溶出が見られる。10%<溶出量≦25%。
4:溶出が見られる。25%<溶出量≦50%。
5:多量の溶出が見られる。50%<溶出量。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
実施例1〜16、比較例1〜4より、ポリアセタール樹脂(A)と離型剤(B)としてポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスを含み、ポリアセタール樹脂組成物中の離型剤(B)の含有量が、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下であるポリアセタール樹脂組成物が、離型性、耐燃料油性、熱安定性に優れることがわかる。比較例1は、離型剤(B)を添加しないポリアセタール樹脂組成物の例であり、耐燃料油性、熱安定性は良好であるが、離型剤(B)を添加していないため離型性がよくなかった。一方、脂肪酸エステルであるペンタエリスリトールテトラステアレートを離型剤として用いた比較例2と、脂肪酸金属塩であるステアリン酸カルシウムを離型剤として用いた比較例3のポリアセタール樹脂組成物は、離型性は良好であるが、耐燃料油性、熱安定性は良くないことがわかる。また、比較例4は、離型剤(B)を過剰量使用した例であり、離型性は優良だが、酸化防止剤(C)を併用しても耐燃料油性は良くないことがわかる。
【0082】
実施例9〜15は、酸化防止剤(C)としてペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]及び/又は1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンを使用した例であり、離型性、耐燃料油性、熱安定性により優れることがわかる。
【0083】
実施例12、13、15は、ポリアセタール樹脂組成物中の離型剤(B)の含有量が、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.08質量部以上0.12質量部以下で、前記酸化防止剤(C)の含有量が、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、0.03質量部以上0.15質量部以下の例であり、離型性、耐燃料油性、熱安定性が特に優れることがわかる。
【0084】
以上より、ポリアセタール樹脂(A)と離型剤(B)とを含み、前記離型剤(B)がポリオレフィン系ワックス及び/又はポリテトラフルオロエチレン系ワックスであり、前記ポリアセタール樹脂組成物中の前記離型剤(B)の含有量がポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下であるポリアセタール樹脂組成物は、熱安定性に優れ、燃料と接触した際の樹脂組成物の成分の溶出が少なく、かつ成形時における金型からの離型性が良く、熱安定性、耐燃料油性、離型性の点で優れることがわかる。
図1