特許第6888904号(P6888904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6888904
(24)【登録日】2021年5月24日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】冷凍サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20210607BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20210607BHJP
   F25B 39/02 20060101ALI20210607BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   F25B1/00 361Z
   F25B1/00 371F
   B60H1/32 613C
   B60H1/32 623E
   F25B39/02 C
   F28D20/02 D
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-229125(P2015-229125)
(22)【出願日】2015年11月24日
(65)【公開番号】特開2017-96553(P2017-96553A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年5月22日
【審判番号】不服2020-3699(P2020-3699/J1)
【審判請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大國谷 宏
【合議体】
【審判長】 林 茂樹
【審判官】 後藤 健志
【審判官】 槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−30377(JP,A)
【文献】 特開2002−154319(JP,A)
【文献】 特開2000−205777(JP,A)
【文献】 特開2013−256262(JP,A)
【文献】 特開2014−20758(JP,A)
【文献】 特開2010−234836(JP,A)
【文献】 特開2003−285634(JP,A)
【文献】 特開2013−237387(JP,A)
【文献】 特開2015−33994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 39/02
F25B 1/00
B60H 1/00- 1/34
F28D 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、
前記凝縮器で凝縮された冷媒を減圧する膨張弁と、
蓄冷材、空気通路、及び前記膨張弁で減圧された冷媒が通過する冷媒通路を有し、前記空気通路を通過する空気、前記冷媒通路を通過する前記冷媒、及び前記蓄冷材間で熱交換を行う熱交換器であって、前記冷媒により前記蓄冷材に蓄冷する蓄冷熱伝導率と、前記蓄冷材が前記冷媒を介して前記空気通路を通過する空気に放冷する放冷熱伝導率と、が異なる熱交換器と、
クラッチの接断状態を切り替えることにより前記圧縮機に伝達される駆動力を可変に調整する駆動力伝達手段と、
前記駆動力伝達手段を制御することにより、前記熱交換器の前記空気通路を通過する空気が周期的な温度変化をするように前記空気の温度を制御する熱交換器温度制御手段と、
を備え、
前記熱交換器温度制御手段は、前記クラッチの切替に伴う前記空気通路を通過する空気の周期的な前記温度変化の変化域が前記蓄冷材の融点を含むように、前記駆動力伝達手段を制御し、
前記冷媒により前記蓄冷材に蓄冷する蓄冷熱伝導率は、前記蓄冷材が前記冷媒を介して前記空気通路を通過する空気に放冷する放冷熱伝導率より高いことを特徴とする冷凍サイクルシステム。
【請求項2】
通常モードと、前記通常モードに比べて消費エネルギを抑制可能なエコモードとを選択的に設定可能なモード設定手段を更に備え、
前記熱交換器温度制御手段は、前記モード設定手段で前記エコモードが選択された場合に、前記クラッチの切替に伴う前記空気通路を通過する空気の周期的な前記温度変化の変化域が前記蓄冷材の融点を含むように、前記駆動力伝達手段を制御することを特徴とする請求項に記載の冷凍サイクルシステム。
【請求項3】
前記駆動力は、車両に搭載された走行用動力源の出力であることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、外部から伝達される動力を用いて駆動される圧縮機を有する冷凍サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクルの用途の一つとして、車両用空調が知られている。冷凍サイクルはエネルギ消費が比較的大きく、車両の燃費性能に影響することから、エネルギ効率の向上が求められている。
【0003】
冷凍サイクルのエネルギ効率を向上するために、冷凍サイクルを構成する熱交換器(エバポレータ)に蓄冷剤を内蔵した蓄冷熱交換器が知られている。例えば特許文献1には、蓄冷材の両側に冷媒管を配置することにより、熱交換を行う空気の空気通路と蓄冷材との間に冷媒管が介在した構造を有する蓄冷熱交換器が提案されている。この文献では、蓄冷時には、両側に配置された冷媒管によって蓄冷剤が効率的に冷却され、また、放熱時には、蓄冷材と空気通路との間に介在する冷媒管によって、蓄冷材から空気通路への放熱が安定的に行われることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−91250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような冷凍サイクル装置では、冷凍サイクルを構成する圧縮機の駆動を、外部から伝達される動力を利用して行われることがある。特に、この種の冷凍サイクル装置を車両に搭載する場合、車両の走行用動力源であるエンジン等の出力の一部によって、圧縮機が駆動されることがある。そのため、圧縮機におけるエネルギ消費の増大は車両の燃費効率悪化の要因となってしまう。また、圧縮機の駆動が車載されたバッテリや発電機などの電気エネルギにより行われる場合には、車両のエネルギ効率悪化の要因となってしまう。
【0006】
本発明の少なくとも1の実施形態は上述の問題点に鑑みなされたものであり、良好なエネルギ効率を有する冷凍サイクルシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも1の実施形態に係る冷凍サイクルシステムは上記課題を解決するために、冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器で凝縮された冷媒を減圧する膨張弁と、蓄冷材、空気通路、及び前記膨張弁で減圧された冷媒が通過する冷媒通路を有し、前記空気通路を通過する空気、前記冷媒通路を通過する前記冷媒、及び前記蓄冷材間で熱交換を行う熱交換器であって、前記冷媒により前記蓄冷材に蓄冷する蓄冷熱伝導率と、前記蓄冷材が前記冷媒を介して前記空気通路を通過する空気に放冷する放冷熱伝導率と、が異なる熱交換器と、前記圧縮機に駆動力を伝達する駆動力伝達手段と、前記駆動力伝達手段を制御することにより、前記熱交換器の前記空気通路を通過する空気の温度を制御する熱交換器温度制御手段と、を備え、前記熱交換器温度制御手段は、前記空気流路を通過する空気の温度変化に含まれる最高温度が前記蓄冷材の潜熱温度領域の下限温度より高く、かつ、前記潜熱温度領域の上限温度以下となるように、又は、温度変化に含まれる最低温度が前記蓄冷材の潜熱温度領域の上限温度より低く、かつ、前記潜熱温度領域の下限温度以上となるように、前記駆動力伝達手段を制御する。
【0008】
上記(1)の構成によれば、蓄冷剤を有する熱交換器における蓄冷熱伝導率と放冷熱伝導率とが異なり、かつ、熱交換器温度制御手段によって熱交換器の空気通路を通過する空気の温度変化に含まれる最高温度が蓄冷材の潜熱温度領域の下限温度より高く、かつ、前記潜熱温度領域の上限温度以下となるように、又は、温度変化に含まれる最低温度が前記蓄冷材の潜熱温度領域の上限温度より低く、かつ、前記潜熱温度領域の下限温度以上となるように駆動力伝達手段が制御されることにより、当該温度変化に潜熱温度領域が少なからず含まれることとなる。これにより、熱交換器で行われる熱交換に蓄冷剤の潜熱を利用することが可能となり、所定期間に占める圧縮機の稼働期間が短縮され、省エネルギ化を図ることができる。特に、圧縮機に伝達される駆動力を切替制御(ON/OFF)することにより制御する場合には、当該切替回数を減少させることができる。圧縮機では起動時(すなわち、圧縮機に伝達される駆動力をONする際)に大きな動力が必要とされるため、このように圧縮機の起動回数を減少させることにより、効果的に消費エネルギを抑制できる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記冷媒により前記蓄冷材に蓄冷する蓄冷熱伝導率は、前記蓄冷材が前記冷媒を介して前記空気通路を通過する空気に放冷する放冷熱伝導率より高い。
【0010】
上記(2)の構成によれば、蓄冷剤を有する熱交換器における蓄冷熱伝導率を放冷熱伝導率より高いことにより、蓄冷剤を有さない場合に比べて、所定期間に占める圧縮機の稼働期間を効果的に短縮できる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記熱交換器温度制御手段は、前記温度変化に含まれる最高温度及び最低温度が前記潜熱温度領域の上限温度及び下限温度間にそれぞれ一致するように制御する。
【0012】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記熱交換器温度制御手段は、前記温度変化に含まれる最高温度及び最低温度が前記潜熱温度領域の上限温度及び下限温度間に含まれるように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクルシステム。
【0013】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記熱交換器温度制御手段は、前記温度変化に含まれる最高温度が前記潜熱温度領域の上限温度より高く、且つ、前記温度変化に含まれる最低温度が前記潜熱温度領域の下限温度より低くなるように制御する。
【0014】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記熱交換器温度制御手段は、前記温度変化に含まれる最高温度が前記潜熱温度領域の上限温度より高く、且つ、前記温度変化に含まれる最低温度が前記潜熱温度領域の上限温度及び下限温度間になるように制御する。
【0015】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記熱交換器温度制御手段は、前記温度変化に含まれる最高温度が前記潜熱温度領域の上限温度及び下限温度間であり、且つ、前記温度変化に含まれる最低温度が前記潜熱温度領域の下限温度より低くなるように制御する。
【0016】
上記(3)乃至(7)の構成によれば、熱交換器の空気通路を通過した空気の温度変化が潜熱温度領域を少なからず含むため、上述の消費エネルギの抑制効果が得られる。特に、(3)及び(4)の構成では、温度変化全体が潜熱温度領域内で行われるため、当該効果をより効果的に教授できる。一方(5)乃至(7)の構成では、温度変化の一部が潜熱温度領域外で行われるが、少なからず潜熱温度領域内で温度変化が行われるため、上記効果を享受できる。
【0017】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)から(7)のいずれか1構成において、通常モードと、前記通常モードに比べて消費エネルギを抑制可能なエコモードとを選択的に設定可能なモード設定手段を更に備え、前記熱交換器温度制御手段は、前記モード設定手段で前記エコモードが選択された場合に、前記空気流路を通過する空気の温度変化の少なくとも一部が、前記蓄冷材の潜熱温度領域の上限温度及び下限温度間に含まれるように、前記駆動力伝達手段を制御する。
【0018】
上記(8)の構成によれば、モード設定手段によってエコモードが選択された場合に、空気通路を通過した空気の温度変化が上記領域になるように制御することで、エコモードにおけるエネルギ消費を効果的に軽減できる。
【0019】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)から(8)のいずれか1構成において、前記駆動力は、車両に搭載された走行用動力源の出力である。
【0020】
上記(9)の構成によれば、車両に搭載された走行用動力源を用いて本システムを駆動する場合には、上述した消費エネルギの削減効果によってシステム駆動に用いられる走行用動力源から伝達される動力を減らすことができるので、良好な燃費性能を達成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の少なくとも1実施形態によれば、良好なエネルギ効率を有する冷凍サイクルシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の少なくとも1実施形態に係る冷凍サイクルシステムの概略構成を示す模式図である。
図2図1のエバポレータの外観斜視図である。
図3図2のA−A断面図を示す。
図4図1の制御装置の内部構成を機能的に示すブロック図である。
図5】エバポレータにおいて空気通路を通過した空気の温度変化をクラッチの切替状態とともに示すタイムチャートである。
図6】熱交換器温度制御手段による温度変化領域の制御パターン毎に潜熱温度領域との関係を示すグラフである。
図7】冷凍サイクルシステムに要求される冷凍負荷の大きさとエバポレータの温度変化領域都の関係を、クラッチの接続状態とともに示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
また例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0024】
まず図1乃至図3を参照しながら、本実施形態に係る冷凍サイクルシステム100の構成について説明する。図1は本発明の少なくとも1実施形態に係る冷凍サイクルシステム100の概略構成を示す模式図であり、図2図1のエバポレータ6の外観斜視図であり、図3図2のA−A断面図である。
【0025】
冷凍サイクルシステム100は車両用空調制御装置であり、図1に示されるように、冷凍サイクル装置2と、空調ケース3と、制御装置5と、を備えて構成されている。
冷凍サイクル装置2は、冷媒を吸入、圧縮、吐出する定容量型の圧縮機21と、圧縮機21から吐出された高温、高圧のガス冷媒を冷却して、凝縮させて液冷媒にするコンデンサ23と、コンデンサ23を通過した冷媒に含まれる気体成分と液体成分とを分離する気液分離器24と、気液分離器24にて分離された液体冷媒を微小なノズル孔からエバポレータ6内に噴射する膨張弁25と、膨張弁25から噴霧された液体冷媒が気化されることで冷熱を発生させるエバポレータ(熱交換器)6と、を有する。
【0026】
冷凍サイクル装置2のうち圧縮機21は、車両の走行用動力源であるエンジン1から出力される動力の一部が所定の動力伝達機構を介して供給されることで駆動される。本実施形態では、圧縮機21側に駆動力を接断するためのクラッチ(C/L)22が設けられており、該クラッチ22の入力軸及びエンジン1の出力軸にそれぞれ設けられたプーリ間をベルト接続されることで、動力伝達機構が構成されている。このような動力伝達機構では、後述するようにクラッチ22の接続状態を切り替えることによって、圧縮機21に伝達される駆動力が調整可能になっている。
【0027】
またコンデンサ23には空冷用の冷却ファン23aが設けられており、冷却ファン23aの駆動量を制御することによりコンデンサ23における冷却性能が調整可能になっている。
【0028】
冷凍サイクル装置2のうち冷熱源となるエバポレータ6は、空調ケース3内に配置されている。空調ケース3では、内部を空調された空気が流れ、例えば、乗員の足元、フロントガラス(DEF)及び、顔近辺に向かって流出するように構成されている。
空調ケース3は、上流側に車室内の空気を取入れる内気循環口31aと、外気を導入する外気導入口31bと、内気循環口31a及び外気導入口31bを交互に閉塞する内外気切換扉35eと、内外気切換扉35eを駆動する内外気切換モータ34と、内気又は外気を空調ケース3内に吸込むと共に下流側に配置されたエバポレータ6に空気を圧送するブロワ37と、エバポレータ6の下流側に配置され、エンジン1の冷却水の熱で、エバポレータ6を通過した冷気を加温するヒータ36と、ヒータ36及びエバポレータ6の間に配置され、エバポレータ6を通過した冷気をヒータ36側に流す量を調整する温度調節扉35aと、温度調節扉35aを駆動する温度調節モータ32と、温度調節扉35aの開度を検知して温度調節モータ32の回転量を調整するためのポテンションメータ38と、空調ケース3の下流端部に設けられ、空調された空気をフロントガラス(不図示)に吹き付け曇りを防止するデフロスト噴出口(DEF)31c、デフロスト噴出口31cを開閉するデフロスト扉35dと、乗員の顔付近に空気を吹き出すフェイス噴出口31dと、フェイス噴出口31dを開閉するフェイス吹き出し扉35cと、乗員の足元に空気を吹き出す足元噴出口31eと、足元噴出口31eを開閉する足元噴出扉35bと、デフロスト扉35dとフェイス吹き出し扉35c及び足元噴出扉35bとを駆動する室内吹き出し切換モータ33と、を備える。
【0029】
制御装置5は冷凍サイクルシステム100の電子コントロールユニット(ECU)であり、情報入力側として、室温センサ54からの室温と、外気温センサ55からの外気温度と、日射センサ56からの日射量と、温度センサであるエバポレータ温度センサ51からのエバポレータ6の温度と、ポテンションメータ38からの温度調節扉35aの開き量と、乗員による室内温度を設定する温度設定スイッチ58からの設定指示信号(希望温度)と、季節が初夏又は晩夏において、車室内の冷房設定温度を盛夏の常用使用温度に対して高く設定して、圧縮機の駆動頻度を減少させる省燃費運転を行うエコモードスイッチ59からのエコモード設定指示信号と、が入力される。
一方、制御装置5の出力側としては、上述の情報入力に基づいて、クラッチ22の接続又は遮断、ブロワ37、内外気切換モータ34、温度調節モータ32及び室内吹き出し切換モータ33に対して制御信号を出力し、各種駆動制御が実施される。
【0030】
エバポレータ6は、図2に示されるように、上下方向に間隔をおいて幅方向Yに延在する上側の第1ヘッダタンク61と、下側の第2ヘッダタンク62と、両ヘッダタンク間に設けられた熱交換コア部60とを備える。第1ヘッダタンク61は、通風方向Xの下流側に位置する冷媒入口66を有する冷媒入口ヘッダ部(不図示)と、通風方向Xの上流側に位置する冷媒出口67を有した冷媒出口ヘッダ部(不図示)と、を有する。第2ヘッダタンク62は、通風方向Xの下流側に位置する下流側中間ヘッダ部(不図示)と、通風方向Xの上流側に位置する上流側中間ヘッダ部(不図示)と、を有する。この第2ヘッダタンク62の下流側中間ヘッダ部と上流側中間ヘッダ部には、冷媒が通過する手段が設けられている。
【0031】
熱交換コア部60は、図3に示すように、通風方向Xに間隔Zをおいて配置された一対の扁平状冷媒通路64(64a、64b)が、更に幅方向Yに間隔D(空気通路D)を有して配列された構成を有している。下流側の冷媒通路64aの上端部は、第1ヘッダタンク61の冷媒入口ヘッダ部に接続(冷媒連通)され、下端部は第2ヘッダタンク62の下流側中間ヘッダ部に接続されている。また、上流側の冷媒通路64bの上端部は、第1ヘッダタンク61の冷媒出口ヘッダ部に接続され、下端部は第2ヘッダタンク62の上流側中間ヘッダ部に接続されている。
【0032】
このような構成を有する熱交換コア部60において、一部の空気通路Dには、蓄冷剤が封入された蓄冷剤収容容器63が上下流冷媒通路64a、64bを跨るように配置されている。蓄冷剤収容容器63内は、全体が一つの蓄冷剤収容空間となっており、蓄冷剤として例えばパラフィンが用いられている。一方、残りの空気通路Dには、熱交換用フィン65が上下流冷媒通路64a、64bを跨るように配置されて空気通路Dを形成している。熱交換用フィン65は、空気通路Dを形成する幅方向Y両側の冷媒通路64にろう付けされている。また、幅方向両側の冷媒通路64の外側にも空気通路Dが形成され、該空気通路Dには熱交換用フィン65が冷媒通路64にろう付けされている。
【0033】
エバポレータ6は、蓄冷剤収容容器63に封入された蓄冷材、空気通路Dを流れる空気、及び冷媒通路64を流れる冷媒との間で熱交換が行われることで、熱交換器として機能する。ここで、エバポレータ6の上記構造は、冷媒により蓄冷材に蓄冷する蓄冷熱伝導率κ1と、蓄冷材が冷媒を介して空気通路を通過する空気に放冷する放冷熱伝導率κ2と、が異なるように設計されている。このような蓄冷熱伝導率κ1及び放冷熱伝導率κ2の大小関係は、例えばエバポレータ6における冷媒通路64、空気通路D及び蓄冷剤収容容器63の3者間の接触面積の割合を調整することにより設定することができる。
尚、本実施形態では後述するように、エバポレータ6は蓄冷熱伝導率κ1が放冷熱伝導率κ2より高くなるように構成されている(言い換えると、エバポレータ6における空気の冷却速度が迅速になる一方で、放熱速度が緩やかになるような設計構造が採用されている)。尚、本実施形態に係るエバポレータ6は、蓄冷材を有し、かつ、蓄冷熱伝導率κ1が放冷熱伝導率κ2より高くなるように構成されていればよく、上述した構造に限定されるものではない。
【0034】
続いて制御装置5によるエバポレータ6の温度制御について説明する。図4図1の制御装置5の内部構成を機能的に示すブロック図であり、図5はエバポレータ6において空気通路Dを通過した空気の温度変化をクラッチ22の切替状態とともに示すタイムチャートである。
尚、図5では、(a)本実施形態に係るエバポレータ6におけるタイムチャートとともに、比較例として、(b)蓄冷剤収容容器63を有さない同等構成を有するエバポレータにおけるタイムチャートが示されている。図5の斜線部が、エバポレータ6に収容される蓄冷剤の潜熱温度領域を示し、矩形波形がクラッチ22のON/OFF状態を示す。
【0035】
図4に示されるように、制御装置5は、圧縮機21に駆動力を伝達する駆動力伝達手段70と、駆動力伝達手段70を制御することにより、エバポレータ6の空気通路Dを通過した空気の温度を制御する熱交換器温度制御手段72と、エコモードスイッチ59の操作状態に応じてモード設定を行うモード設定手段74と、を備える。また、モード設定手段74は、モード設定をエコモードスイッチ59の操作によらず、室内設定温度、外気温、室温、日射量などから推測される冷房に対する負荷に応じてモード設定を行ってもよい。
【0036】
駆動力伝達手段70は、クラッチ22の接断状態(ON/OFF)を切り替えることにより、動力源であるエンジン1から圧縮機21に伝達される駆動力を可変に調整する。図5には、クラッチ22の所定期間にわたってクラッチ22が切替制御されている様子が示されており、クラッチ22が接続状態となってエンジン1から動力が伝達される期間TONと、クラッチ22が接断状態となってエンジン1からの動力が遮断される期間TOFFとが、交互(周期的)に繰り返されている(尚、図5(b)では本実施形態と区別するために、それぞれ期間TON’、期間TOFF’で示している)。駆動力伝達手段70は、このような期間TON、TOFFの比率を制御することにより、所定期間において圧縮機21に伝達される駆動力を調整する。
【0037】
熱交換器温度制御手段72は、上述のような駆動力伝達手段70の制御を利用して、エバポレータ6の空気通路Dを通過した空気の温度を制御する。すなわち、エバポレータ6の空気通路Dを通過する空気の温度を、ユーザによって設定された所定の目標温度まで冷却するために必要な駆動力が圧縮機21に伝達されるように、駆動力伝達手段70を制御する。その結果、空気通路Dを通過した空気の温度は、クラッチ22の切換に応ずるように、所定の温度変化領域Trangeの範囲で上昇・下降するように振る舞う。
ここで、図5に示すように、蓄冷剤の潜熱温度領域の上限温度をTupper_limitとし、下限温度をTlower_limitとすると、本実施形態に係る熱交換器温度制御手段72は、空気通路Dを通過する空気の温度変化の少なくとも一部が、蓄冷材の潜熱温度領域の上限温度Tupper_limit及び下限温度Tlower_limit間に含まれるように、前記駆動力伝達手段を制御する。より具体的には、空気通路Dを通過した空気の温度変化領域Trangeに含まれる最大温度をTmax、最低温度をTminとすると、本実施形態に係る熱交換器温度制御手段72は、最高温度Tmaxが蓄冷材の潜熱温度領域の下限温度Tlower_limitより高く、かつ、潜熱温度領域の上限温度Tupper_limit以下となるように、又は、温度変化に含まれる最低温度Tminが蓄冷材の潜熱温度領域の上限温度Tupper_limitより低く、かつ、潜熱温度領域の下限温度Tlower_limit以上となるように、駆動力伝達手段70を制御する。なお、潜熱温度領域は蓄冷剤の仕様に基づいて適宜決定されるパラメータである。
【0038】
図5(a)では、蓄冷材を有し、かつ、蓄冷熱伝導率κ1が放冷熱伝導率κ2より高くなるように構成されるエバポレータ6を用いて、空気通路Dを通過する空気の温度変化の少なくとも一部が、蓄冷材の潜熱温度領域の上限温度Tupper_limit及び下限温度Tlower_limit間に含まれるように上述したクラッチ22の切替による駆動力の伝達が行われた結果、図5(b)に比べて温度変化の周期が長くなっている。具体的には、図5(a)及び図5(b)においてクラッチ22のON期間(TON)及びOFF期間(TOFF)の変化量をそれぞれ比較すると、ON期間(TON)の増加割合に比べて、OFF期間(TOFF)の増加割合が大きくなっている。つまり、次式
(TON−TON’)<(TOFF−TOFF’)
これは、蓄冷熱伝導率κ1が放冷熱伝導率κ2より高いエバポレータ6を用いた熱交換が、潜熱温度領域で行われることにより、エバポレータ6の吸収熱容量が増加したことに起因する。
【0039】
上述の通り、ある長さの所定期間で比較した場合、図5(a)は図5(b)に比べてクラッチ22のOFF期間(TOFF)が占める期間が長くなり、逆にクラッチ22のON期間(TON)が占める期間が短くなっている。これは、所定期間における圧縮機21の稼働時間が短縮化され、省エネルギ化が図られていることを意味する。これとともに、圧縮機21の起動回数(すなわち、クラッチ22のON/OFFの切替回数)もまた減少している。圧縮機21では起動時(すなわち、クラッチ22がOFF状態からON状態に切り換えられる際)に大きな動力を必要とするため、このように圧縮機21の起動回数が減ることによって、圧縮機21におけるエネルギ消費を効果的に削減でき、顕熱のみを利用する場合に比べて良好なエネルギ効率が得られる。
【0040】
このような熱交換器温度制御手段72による温度変化の具体的な制御例について、図6を参照して説明する。図6は、熱交換器温度制御手段72による温度変化領域の制御パターン毎に潜熱温度領域との関係を示すグラフである。ここでは、図6に列挙されている5つのパターンを、左側から順に制御パターン1,2,・・・5と称して説明する。
【0041】
制御パターン1では、温度変化の最高温度Tmaxは、潜熱温度領域の上限温度Tupper_limitと等しく、下限温度Tlower_limitより高くなっている(Tlower_limit<Tmax=Tupper_limit)。一方、温度変化の最低温度Tminは、下限温度Tlower_limitに等しく、潜熱温度領域の上限温度Tupper_limitより低くなっている(Tmin=Tlower_limit<Tupper_limit)。言い換えると、エバポレータ6の温度変化の最高温度Tmax及び最低温度Tminが潜熱温度領域の上限温度Tupper_limit及び下限温度Tlower_limitにそれぞれ一致するように温度制御がなされている。
【0042】
制御パターン2では、温度変化の最高温度Tmaxは、潜熱温度領域の下限温度Tlower_limitより高いものの上限温度Tupper_limitより低くなっている(Tlower_limit<Tmax<Tupper_limit)一方、温度変化の最低温度Tminは、潜熱温度領域の上限温度Tupper_limitより低いものの下限温度Tlower_limitより高くなっている(Tlower_limit<Tmin<Tupper_limit)。言い換えると、エバポレータ6の温度変化に含まれる最高温度Tmax及び最低温度Tminが潜熱温度領域の上限温度Tupper_limit及び下限温度Tlower_limit間に含まれるように温度制御がなされている。
【0043】
制御パターン3では、温度変化の最高温度Tmaxは、潜熱温度領域の下限温度Tlower_limitより高くなっており、更に上限温度Tupper_limitよりも高くなっている(Tlower_limit<Tupper_limit<Tmax)。一方、温度変化の最低温度Tminは、潜熱温度領域の上限温度Tupper_limitより低くなっており、更に下限温度Tlower_limitよりも低くなっている(Tmin<Tlower_limit<Tupper_limit)。
【0044】
制御パターン4では、温度変化の最高温度Tmaxは、潜熱温度領域の下限温度Tlower_limitより高くなっており、更に上限温度Tupper_limitより高くなっている(Tlower_limit<Tupper_limit<Tmax)。一方、温度変化の最低温度Tminは、潜熱温度領域の上限温度Tupper_limit及び下限温度Tlower_limit間になっている(Tlower_limit<Tmin<Tupper_limit)。
【0045】
制御パターン5では、温度変化の最高温度Tmaxは、潜熱温度領域の下限温度Tlower_limit及び上限温度Tupper_limit間になっている(Tlower_limit<Tmax<Tupper_limit)。一方、温度変化の最低温度Tminは、潜熱温度領域の上限温度Tupper_limitより低い下限温度Tlower_limitより更に低くなるようになっている(Tmin<Tlower_limit<Tupper_limit)。
【0046】
上記5つの制御パターンを比較すると、制御パターン1及び2では温度変化が潜熱温度領域内に含まれることから、蓄冷剤の潜熱を十分に有効活用することができる。一方、制御パターン3乃至5では、温度変化の一部が潜熱温度領域外にあるため、制御パターン1及び2に比べて潜熱の活用度が少ないものの、その他の領域において潜熱の活用がなされているため少なからず上記効果を享受することができる。
【0047】
このような熱交換器温度制御手段72による温度変化領域に関する制御は、図7に示されるように、冷凍サイクルシステム100に要求される冷凍負荷の大きさに応じて実施されてもよい。図7は冷凍サイクルシステム100に要求される冷凍負荷の大きさとエバポレータ6の温度変化領域都の関係を、クラッチの接続状態とともに示すタイムチャートである。
【0048】
図7に示されるように、冷凍負荷が小さい場合の空気通路Dを通過した空気の温度変化領域Trange1は、冷凍負荷が大きい場合の温度変化領域Trange2に比べて高温側に設定されている。ここで、熱交換器温度制御手段72は、冷凍負荷が小さい場合に高温側にシフトする温度変化領域Trange1が潜熱温度領域に対応するように制御してもよい。これにより、冷凍負荷が小さい場合に蓄冷剤の潜熱を有効活用することで圧縮機21におけるエネルギ消費をより効果的に抑制することができる。
【0049】
また熱交換器温度制御手段72は、冷凍負荷が大きい場合に低温側にシフトする温度変化領域Trange2が潜熱温度領域に対応するように制御してもよい。この場合は、逆に、冷凍負荷が大きい場合に蓄冷剤の潜熱を有効活用することで圧縮機21におけるエネルギ消費をより効果的に抑制することができる。
【0050】
尚、冷凍サイクルシステム100に要求される冷凍負荷の大きさは、制御装置5への入力情報(例えば、室温センサ54からの室温、外気温センサ55からの外気温度、日射センサ56からの日射量、温度センサであるエバポレータ温度センサ51からのエバポレータ6の温度、ポテンションメータ38からの温度調節扉35aの開き量、乗員による室内温度を設定する温度設定スイッチ58からの設定指示信号(希望温度)、エコモードスイッチ59の操作状態など)に基づいて評価するとよい。
【0051】
図4に戻って、モード設定手段74は、上記構成を有する冷凍サイクルシステムに対して予め用意された複数のモードを選択的に設定する。本実施形態では、モードとして通常モードとエコモードの2種類が用意されている。通常モードは冷却負荷が比較的大きい場合に選択される一方で、エコモードは冷却負荷が比較的少ない場合に選択され、通常モードに比べて消費エネルギが抑制可能な仕様となっている。
【0052】
熱交換器温度制御手段72は、モード設定手段74がエコモードスイッチ59の操作状態に応じてエコモードを選択している場合に、上述のようにエバポレータ6の温度変化が潜熱温度領域に対応するように制御してもよい。この場合、エコモードにおけるエネルギ消費をより効果的に抑制できるので、エコモードの燃費性能を向上できる。
【0053】
尚、本実施形態ではエコモードの選択は、エコモードスイッチ59の操作状態に応じて行われるとしているが、車両の走行状態や外気温に応じて自動的にモード選択が行われるように構成されていてもよい。
【0054】
以上説明したように、本発明の少なくとも1実施形態によれば、蓄冷剤を有するエバポレータ6における蓄冷熱伝導率κ1と放冷熱伝導率κ2とが異なり、かつ、空気流路Dを通過する空気の温度変化に含まれる最高温度が当該蓄冷材の潜熱温度領域の下限温度より高く、かつ、潜熱温度領域の上限温度以下となるように、又は、温度変化に含まれる最低温度が蓄冷材の潜熱温度領域の上限温度より低く、かつ、潜熱温度領域の下限温度以上となるように、駆動力伝達手段70が制御される。これによれば、エバポレータ6で行われる熱交換に蓄冷剤の潜熱を利用することが可能となり、所定期間に占める圧縮機21の稼働期間TONが短縮され、省エネルギ化を図ることができる。特に、圧縮機21に伝達される駆動力を切替制御(ON/OFF)することにより制御する場合には、切替回数もまた減少させることができるため、効果的に消費エネルギを抑制できる。その結果、良好なエネルギ効率を有する冷凍サイクルシステム100を提供することができる。
尚、本実施形態に係る冷凍サイクルシステム100においては、その一例として、エバポレータ6を通過する空気の温度変化に基づく制御を実施しているが、当該温度変化は、エバポレータ6の本体温度変化やエバポレータ6に導入される冷媒温度変化と実質的に同等であることから、これらの温度変化が蓄冷材の潜熱温度領域の上限温度及び下限温度間に含まれるように、駆動力伝達手段70を制御してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の少なくとも1実施形態は、外部から伝達される動力を用いて駆動される圧縮機を有する冷凍サイクルシステムに利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 エンジン(内燃機関)
2 冷凍サイクル装置
3 空調ケース
5 制御装置
6 エバポレータ(蓄冷剤付エバポレータ)
21 圧縮機
22 クラッチ
23 コンデンサ
36 ヒータ(暖房用ヒータ)
51 エバポレータ温度センサ(温度センサ)
54 室温センサ
55 外気温センサ
56 日射センサ
58 温度設定スイッチ
59 エコモードスイッチ
63 蓄冷剤容器
64 冷媒流通管
65 熱交換用フィン
70 駆動力伝達手段
70 熱交換器温度制御手段
74 モード設定手段
100 冷凍サイクルシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7