(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、いずれの実施形態においても軸筒の先端には、筆記部を保護するためのキャップ(図示省略)が着脱可能に装着される。
【0013】
〔第1実施形態の化粧具〕
図1〜
図5は、本発明の第1実施形態に係る化粧具の説明図である。
【0014】
図1は、本発明の第1実施形態に係る化粧具の全体図である。
図1(c)に示すように、前記筆記具は、筆記具本体となる軸筒10内に筆記用インク吸蔵体12が収納され、その筆記用インク吸蔵体12に液体筆記用インクが吸蔵されるタイプのものである。軸筒10は後端の閉じた筒状を呈している。前記軸筒10の後部の内部には、前記筆記用インク吸蔵体12を支持するリブ10aが内向きに突出形成されている。
なお、
図1(b)の符号LDは軸筒10の長手方向(軸方向)を示している。
【0015】
該筆記具は、筆記部14の後端に筆記用インク吸蔵体12を接続して、筆記用インク吸蔵体12の液体筆記用インクを筆記部14に供給する構成となっている。
【0016】
図2(a)−(b)は、筆記具の先端の筆記部14周辺を拡大して示している。また、
図3(a)−(h)、
図4(a)−(d)は筆記用インク誘導部(「筆記体」に相当、「筆記芯」ともいう)16を示している。
図5(a)−(h)は筆記用インク誘導部16を装着する支持部材(「保持体」に相当)18の部品図である。
【0017】
第1実施形態の筆記部14は、
図2(a)−(b)に示すように、支持部材18の外周に筆記体である筆記用インク誘導部16を配設して当該支持部材18が筆記用インク誘導部16を保持する構造のものである。前記筆記用インク誘導部16を支持部材18で保持した状態の筆記部14は、軸筒10の先端部に筒状の先軸20によって装着されている。
【0018】
装着状態において、前記筆記部14は、当該先軸20の先端部から筆記用インク誘導部16及び支持部材18の半分程度を突出して露出させた状態に配設されている。前記先軸20は筒状であって内部に筆記用インク吸蔵体12の先部を内装して前記軸筒10に先端部に装着されている。なお、先軸20の先端開口と筆記部14との間は、支持部材18の後述するフランジ部18b(空気流通溝18h、18jが露出状態になる)によって塞がれ、本体部18aが先軸20先端開口に嵌合して筆記部14が抜け止めされている。支持部材18の本体部18aの周囲に筆記用インク誘導部16が設置された部分(可視部18c)が透明又は半透明になっており、筆記対象部が視認可能になっている。
【0019】
筆記用インク吸蔵体12は、水性筆記用インクなどの流動性筆記用インクを含浸したものであり、例えば、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組み合わせからなる繊維束、フェルト等の繊維束を加工したもの、また、スポンジ、樹脂粒子、焼結体等の多孔体を含むものである。この筆記用インク吸蔵体12は、軸筒10の本体部内に収容されている。なお、上記軸筒10の後端側は筆記用インク吸蔵体12からのインクの揮発防止のため、閉じているが、後端側が開口している場合は尾栓等により封止しても良い。
【0020】
また、筆記体である前記筆記用インク誘導部16は、
図1(c)、
図2(b)に示すように、概略矩形の支持部材18を取り囲むように、概略U字形状を呈している。
【0021】
また、第1実施形態では、
図3(a)に示すように、前記筆記用インク誘導部16は、断面略円形の帯状体を曲げた形状であり、筆記側頂部の表面には、平面部16bと角部16aと曲面部16cを有する。
【0022】
そして、前記筆記用インク誘導部16は、先端側が2箇所ほぼ90°曲がりの角部16a及び曲面部16cになっている。また、その角部16aには、切り落とされた平面部16bが4箇所形成されている。平面部16bの周辺と接合部はR0.2mm程度の面取りされている。また、前記筆記用インク誘導部16は、径方向に曲がった曲面部16cが形成されている。また、前記筆記用インク誘導部16の先端(角部16aから16cの間の領域)の横断面が異形であり、中央部から後部にかけて横断面が円形である。
【0023】
詳しくは、
図4(a)、
図4(c)に示すように、前記の筆記用インク誘導部16には、平面部16bが4面形成されている。4面の平面部16bが角部16aに集まっている構造のため、曲面部16cから平面部16bにかけて、
図4の(a)や(c)に示すように、筆記用インク誘導部16の元の太さで筆記又は描ける幅W1が太幅の箇所、2箇所の平面部16bで挟まれた幅W2の中幅の箇所、幅W3の細幅の箇所が形成されたものになる。幅W1は1〜3ミリメートル(mm)、幅W3は0.5〜1.5ミリメートル(mm)で幅W1:幅W3=2:1とすることが好適である。
【0024】
このように4面の平面部の形成により、前記筆記用インク誘導部16が平面部16bと角部16aと曲面部16cを有するので、前記筆記用インク誘導部16の太い部分から徐々に細くなるように角部16a近辺で、平面部16bの稜線(輪郭)に沿って段々にペン芯幅が細くなるように形成している。
【0025】
具体的な筆記用インク誘導部16は、太さが1.0〜3.0ミリメートル(mm)であるのが好適である。
【0026】
前記第1実施形態に係る支持部材18を
図5(a)−(h)の部品図を用いて詳細に説明する。
支持部材18は、
図1(b)に示すように、上記筆記用インク誘導部16を周囲に固定して、軸筒10の先軸20先端開口部に固着されるものである。
図5(a)〜(h)に示すように、支持部材18は、概略膨出状の本体部18aと、該本体部18aの先方側に、環状に拡径したフランジ部18bと、フランジ部18bから概略板状先方に延びる構造の、透明であって筆記方向を視認することができる可視部18cとを有する。また、前記支持部材18は、該本体部18aの後方側に、上記本体部18aに連設される保持片18dを有する後方保持部18eを備えたものである。また、これらの各部から構成される支持部材18の長手方向外周面全体には、上記コ字型状の筆記用インク誘導部16を嵌入保持する保持溝18fが形成されている。
【0027】
また、本体部18aの幅方向外周面には、先軸20の内周に嵌合するための凹状又は凸状の嵌合部18gが形成され、また、長手方向外周面には、フランジ部18bから保持片18dに渡った外周面に断面凹状の空気置換のための空気流通溝18h、18jが形成されている。空気流通溝18h、18jを介して軸筒10内の外気と空気流通を行う構造になっている。その構造によって、筆記部14の筆記使用時に筆記用インク吸蔵体12に貯留の筆記用インクの空気置換が出来るようになっている。
【0028】
実施形態に係る支持部材18は、筆記方向を視認できる透明な樹脂又はガラス等の部材、具体的には、平行光線透過率30%以上、好ましくは、平行光線透過率50%以上、更に好ましくは平行光線透過率70%以上の透明な樹脂又はガラス等の部材であり、前方に幅広の平滑面となる可視部18cと後方に本体部18aが形成されている。この平行光線透過率30%未満の樹脂又はガラス等の部材であると、筆記方向を鮮明に視認することができず、好ましくない。この物性を満足する樹脂等としては、例えば、スチレン−イソプレン樹脂、アイオノマー樹脂、SBR−PPのブレンド樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリメチルペンテン、PC(ポリカーボネート)、透明ABS樹脂などが挙げられる。
【0029】
また、筆記用インク誘導部16は、スポンジなどの高分子発泡体、浸透印等に用いられる多孔質のゴム体、不繊布、フェルト、繊維束を樹脂で固めたもの、又は、金属、セラミック、高分子の焼結体などの多孔質部材から構成されたものである。特に気孔率60%以上のナイロン樹脂で形成することで、紙面等に筆記した描線の乾きを向上させることができ、使い勝手をよくすることができる。これらの多孔質部材(以下のにおいても同様)は、嵌着、又は接着剤による接着、又は溶着などにより支持部材18の外周に被覆されている。なお、支持部材18の外周面に筆記用インク誘導部16の被覆を更に確実にするため嵌合溝等を施しても良いものである。
【0030】
また、筆記部14は、先部の筆記用インク誘導部16が同じ素材で一体に支持部材18の周辺に回り込んで上述の態様で先軸20によって被覆されており、後部が先軸20内で筆記用インク吸蔵体12の先端部内に潜り込ませてそこから筆記用インク誘導部16に筆記用インクを給液出来るようになっている。
【0031】
図1(b)に示すように、筆記部14の先端(筆記用インク誘導部16の先端)は、軸筒10(本体軸)の長軸方向LDに対して、40〜90°の角度で傾いていることが望ましく、本実施形態では、75°の傾きとなっている。これらの形状は、筆記等の使い勝手に合わせて適宜設定される。
【0032】
また、筆記部14は、描線幅が太いものであり、好ましくは、描線幅1mm以上、更に好ましくは、描線幅3mm以上の描線幅となる筆記部である。
【0033】
上記筆記用インク誘導部16は、上記支持部材18の先部が先軸20から露出するように形成されている。
【0034】
更に、支持部材18において、上記可視部18cを、レンズ効果を有するレンズ部材(以下のにおいても同様)により構成すれば、透視される視野を拡大して見ることが可能となる。
【0035】
この第1実施形態の筆記部14を有する筆記具において、筆記部14には細書き及び太書きタイプの筆記具の太字用の筆記部に好適に適用できることはいうまでもない。
【0036】
この第1実施形態の筆記部14を有する筆記具は、描線幅の太い筆記部14を有する筆記具について右手を用いて左から右に筆記する場合、支持部材18に透明な樹脂又はガラス等の部材からなる可視部18cを設けたので、筆記部14の軸筒10の長手方向LDの直上に位置する可視部18cにより筆記先の右側が見やすくなって対象部の位置が容易に特定可能となる。
【0037】
これにより、上記筆記具で対象面を塗りつぶす時や、比較的狭い場所での使用に際して顕著な使い勝手を向上することができるものとなる。
【0038】
〔第2実施形態の筆記具〕
次に、本発明の第2実施形態に係る筆記具を説明する。
【0039】
本発明の第2実施形態に係る筆記具は、
図6〜
図7に示す構造を有し、前記
図1〜
図3で示した第1実施形態の筆記具とは、筆記部14の筆記用インク誘導部(「筆記体」に相当、ペン芯とも称する)の形態が大きく異なるものである。その他は、第1実施形態に係る筆記具と同様であり、同様部分に同一の符号を付している。
【0040】
第2実施形態に係る筆記具は、筆記用インク誘導部16が第1実施形態などに比べて、曲面部16cの曲率がより大きくなっているものである。
図7に示す筆記用インク誘導部16は、
図3の曲面部16cに比較して大きな弧を描いている。また、前記筆記用インク誘導部16の先端(角部16aから16cの間の領域)の横断面が異形であり、中央部から後部にかけて横断面が円形である。
したがって、筆記に際して曲線部16cの筆記幅と角部16aの筆記幅との差が強調され、メリハリのある筆記が可能となる。その他の作用・効果は第1実施形態と同じである。
【0041】
前記実施形態においては、様々な筆記用インク誘導部16の形状構造を例示したがそれは一例であり、他の種々の形状や構造を取り得ることはもちろんである。第2実施形態では、横断面五角形の支持部材であったが、横断面6角以外の多角形横断面形状とすることができる。また、長さ方向において横断面形状の異なる支持部材の構造であってもよい。
また、前記第2実施形態の筆記具では、支持部材18に取り巻くように支持され筆記用インク誘導部16は線状でありその横断面がほぼ円形であるが、横断面をほぼ多角形状としてもよい。
【0042】
〔第3実施形態の筆記具〕
次に、本発明の第3実施形態に係る筆記具を説明する。
【0043】
図8の(a)−(c)は、第3実施形態に係る筆記具を示す図面であり、(a)は正面図、(b)が回転させた正面図、(c)が(a)のC−C線断面図である。
【0044】
本実施形態の筆記具は、ペンタイプのものであり、
図8(c)に示すように、筆記具本体となる軸筒10、筆記用インク吸蔵体12、中継多孔体30、筆記部14Aとを備えている。
【0045】
軸筒10は、例えば、合成樹脂、ゴム、エラストマーで形成されるものであり、筆記具用筆記用インクを含浸した筆記用インク吸蔵体12を収容し、先端部には筆記部14Aを固着する先軸20を設けている。軸筒10及び先軸20は、その他の構成が第1実施形態と同様である。
【0046】
筆記用インク吸蔵体12は、水性筆記用インクなどの流動性筆記用インクを含浸したものであり、第1実施形態の筆記用インク吸蔵体12と同様の材質のものを使用できる。この筆記用インク吸蔵体12は、軸筒10の本体部内に収容されている。なお、上記軸筒10の後端側は閉じているが、軸筒10と同一素材又は別の合成樹脂製素材等にて成形される尾栓により封止しても良い。
【0047】
中継多孔体30は、筆記用インク吸蔵体12の筆記用インクを後述する支持部材18A(「保持体」に相当)に設けた筆記用インク誘導部16Aに供給する中継芯となるものであり、筆記用インク吸蔵体12と同様に繊維束、フェルト等の繊維束を加工した繊維束芯、又は、硬質スポンジ、樹脂粒子焼結体等からなる樹脂粒子多孔体、スライバー芯等の連続気孔(流路)を有するものであり、筆記用インク吸蔵体12に含浸された筆記用インクを、中継多孔体30を介して支持部材18Aの筆記用インク誘導部16Aへ供給できるものであれば、特にその形状、構造等は限定されるものでない。この中継多孔体30の断面形状としては、例えば、円、楕円、正方形、長方形、台形、平行四辺形、ひし形、カマボコ形、半月形の形状が挙げられ、本実施形態では、断面形状が円形状となっている。なお、本実施形態の中継多孔体30は、
図8に示すように、先軸20内に嵌合される支持部材18Aに保持される構造となっている。
【0048】
筆記部14Aは、筆記体となる筆記多孔体22と、該筆記多孔体22を保持し、筆記部に筆記用インクを供給するための筆記用インク誘導部16Aを有する支持部材18Aとを備えている。
【0049】
本実施形態の筆記体となる筆記多孔体22は、支持部材18Aの先端部に固着されるものであり、例えば、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組み合わせからなる並行繊維束、フェルト等の繊維束を加工又はこれらの繊維束を樹脂加工した繊維芯、又は、各種のプラスチック粉末などを焼結したポーラス体(焼結芯)などからなるものである。特に気孔率60%以上のナイロン樹脂で形成することで、紙面等に筆記した描線の乾きを向上させることができ、使い勝手をよくすることができる。
【0050】
この筆記部となる筆記多孔体22の形状としては、例えば、外観形状がチゼル形状、砲弾形状、円柱、楕円柱、立方体、直方体などの形状が挙げられ、また、その断面形状が台形、平行四辺形、ひし形、カマボコ形、半月形等となる形状が挙げられ、本実施形態では、チゼル形状となっている。チゼル形状とは、先端がペン軸の中心線に対して傾斜面を形成しており、傾斜面が平坦である形状である。
【0051】
また、筆記体となる筆記多孔体22は、筆記しやすい傾きとなるように、好ましくは、軸筒10(本体軸)の長軸方向LD(
図8(b))に対して、40〜90°の角度で傾いていることが望ましく、本実施形態では、75°の傾きとなっている。
【0052】
これらの筆記体となる筆記多孔体22の形状、傾き等は、筆記等の使い勝手に合わせて適宜設定される。また、筆記体となる筆記多孔体22は、描線幅が太いものであり、好ましくは、描線幅2mm以上、更に好ましくは、描線幅3mm以上の描線幅となる筆記部である。
【0053】
本実施形態の支持部材18Aは、視認性を有する材料、例えば、PP、PE、PET、PEN、ナイロン(6ナイロン、12ナイロン等の一般的なナイロン以外に非晶質ナイロン等を含む)、アクリル、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ABS等の材料から構成されるものであり、可視光線透過率が50%以上となる材料から構成されることが好ましい。
【0054】
この可視光線透過率が50%未満の材料を使用した場合は、筆記方向にある対象部を有効に視認できないことがあり、好ましくない。更なる良好な視認機能を発揮できるようにするために、50%以上透過する材料が好ましく、この可視光線透過率が80%以上であれば、更に良好に視認できるものとなる。なお、可視光線透過率は、多光源測色計〔スガ試験機社製、多光源分光測色計(MSC−5N)〕を用いて反射率を測定することで求めることができる。
【0055】
この支持部材18Aは、上記各材料の一種類、又は、耐久性、視認性の更なる向上の点などから、2種類以上の材料を用いて構成することができ、2種類以上の材料で構成する場合は、少なくとも一つが可視光線透過率50%以上となる材料から構成されているものが好ましく、射出成形等の各種成形法により成形することができる。
【0056】
上記支持部材18A内部には、筆記部に筆記用インクを供給するための連通孔等の筆記用インク誘導部16Aを少なくとも1つ有するものであり、本実施形態では、視認部の面積比率を最大限に発揮せしめる点、筆記体となる筆記多孔体22に効率的に筆記用インクを供給する点から、
図8(c)に示すように、筆記部14Aの中央に長手方向LDに沿って筆記用インク誘導部16Aが貫通する形で1本設けられている。
【0057】
この筆記用インク誘導部16Aの形状、大きさ等は、筆記具本体に含まれる筆記用インク吸蔵体12に含浸された筆記用インクが上記中継多孔体30を介して直接筆記用インク誘導部へ供給できる構造等とるものであれば、その形状、構造、大きさ、本数などは適宜選択することができる。 好ましくは、本発明の効果を最大限に発揮せしめる点から、筆記用インク誘導部16Aの断面幅方向の長さW(
図8(c))は、筆記先の長軸長さX(
図8(c))の40%未満、更に好ましくは、1〜30%であることが望ましく、また、筆記用インク誘導部16Aの断面積は、筆記部14Aの保持体18Aの幅狭側の横断面積未満、又は、中継多孔体30の横断面積未満であることが望ましい。
【0058】
特に、保持体の視認性を損なわずに、十分な筆記流量を確保する点から、筆記用インク誘導部16Aの横断面の幅方向の長さWが3mm以下、好ましくは、0.1〜2.5mmであることが望ましく、また、直径0.1〜3.0mm、好ましくは、直径0.2〜2.5mm、更に好ましくは、直径0.2〜2.0mmの管状であることが望ましい。また、支持部材18A内部に筆記用インク誘導部16Aの断面積の合計が0.01〜7mm
2、好ましくは、0.03〜5mm
2で、更に好ましくは、0.03〜4mm
2であることが望ましい。
【0059】
更に、筆記用インク誘導部16Aは、筆記体の筆記多孔体22側に向かってテーパーが形成されていることが好ましく、また、軸筒10(本体軸)の長軸方向LDに対して0〜30°の向きで、2本以上の複数本でも良いが、1本のみ設けられていることが望ましい。また、筆記用インク誘導部16Aの形状は長軸方向LDに対して直線が望ましいが、V字形状、X字形状、Y字形状、螺旋形状、逆V字形状、逆Y字形状のようにして視認しやすい形状にすることもできる。
【0060】
上記構造となる筆記用インク誘導部16Aの形成方法としては、例えば、筆記用インク誘導部形成用の棒状体等を備えた金型に樹脂を流し込んで射出成形等の各種成形法で成形後、型抜きをして支持部材18Aに筆記用インク誘導部16Aを形成する方法、支持部材18A成形後に、ドリル、レーザー加工などにより筆記用インク誘導部16Aを形成する方法、支持部材18Aを二部材とし、それぞれに筆記用インク誘導部16A形成用の溝を形成した後、これらを接着、溶着などにより一体化して支持部材18Aに筆記用インク誘導部16Aを形成する方法などが挙げられ、先行技術文献に記載された同様の方法で形成することができる。
【0061】
好ましくは、上記支持部材18A内部に設けられた筆記用インク誘導部16Aは、後述する筆記用インクが入った状態で可視光線透過率が50%未満であり、視認部として機能せず、筆記方向を有効に視認できないものとすることが望ましい。場合によっては、筆記用インク誘導部16Aに筆記用インクが入った状態で視認できる状態であると、筆記用インクの着色成分等の使用が制限されることとなり、ニーズに対応した筆記用インク色が得られないこととなり、好ましくない。このような場合には、筆記用インク誘導部16Aに筆記具用筆記用インクと略同色で着色されたパイプを挿入して、筆記用インク色が容易に判別できるようにしても良い。また、筆記用インク誘導部16Aは前述のような部品では無く、支持部材18A内の空間部としてもよい。
【0062】
また、支持部材18Aの筆記用インク誘導部16A以外の部分が視認部を形成する面となるものであり、筆記方向を有効に視認するために、略平行面となっていることが望ましい。なお、視認部をレンズ面として拡大して視認することもできる。
【0063】
本発明において、上記筆記体となる筆記多孔体22と、筆記用インク誘導部16Aを有する支持部材18Aとの接着は、筆記多孔体22を、シール性能を付与した状態で、強固に固定せしめる点から、筆記多孔体22と支持部材18Aが接触している部分の筆記多孔体22の細孔の凹凸に、支持部材18Aから保持体を形成する樹脂が入り込み、保持体樹脂層を形成することで筆記多孔体22と支持部材18Aが固定されることが望ましい。
【0064】
上記筆記多孔体22と支持部材18Aを形成する材料が、溶剤への溶解性の異なる樹脂から選ばれることが好ましく、例えば、筆記多孔体22では、ポリエチレン製焼結芯、保持体では、アクリル製であれば、溶剤として、多孔体樹脂と保持体樹脂の溶解パラメーター(SP値)の差が0.5以上とすることができるため、アルコール、エステル(酢酸ブチル)、エーテル、ケトン(アセトン)、グリコールエーテル、脂環式炭化水素、脂肪族炭化水素、塩化脂肪族炭化水素(ジクロロメタン)、芳香族炭化水素、塩化芳香族炭化水素等の有機溶剤を用いることにより、上記筆記体となる筆記多孔体22と、筆記用インク誘導部16Aを有する支持部材18Aとを固定することができる。
【0065】
好ましくは、筆記用インク誘導部16Aの筆記多孔体22側の端面には、筆記多孔体22と支持部材18Aの境界面に、保持体樹脂層(「境界面の保持体樹脂層を接着面」とも表記)を形成し、該接着面が、当該端面の全方向に対して長さ0.5mm以上、更に好ましくは、0.8〜3mm形成されていることが望ましい。
【0066】
この接着面は、平面、曲面、屈曲部の何れかで形成することができ、筆記用インク誘導部16Aの筆記多孔体22側の端面には、接着面が当該端面全周に渡り0.5mm以上、更に好ましくは、0.8〜3mm形成されていることが望ましい。
【0067】
また、接着面上の保持体樹脂層が、筆記多孔体22内部に向かって1〜1000μm、更に好ましくは、10〜800μm形成されていることが望ましく、また、筆記多孔体22と接触する支持部材18Aの接触部分の局部山頂の表面はシボ加工等により梨地状態となっていることが望ましい。
【0068】
この筆記部14Aでは、筆記体となる筆記多孔体22と、筆記用インク誘導部16Aを有する支持部材18Aとを強固に固定せしめる点から、支持部材18Aの上部にリブ体18A1(
図8(a)参照)が、筆記多孔体22の側面の2つ以上に設けられるものであり、本実施形態では2つ設けられている。
【0069】
また、上記筆記多孔体22と、筆記用インク誘導部16Aを有する支持部材18Aとの接着面は、リブ体18A1の側面内側の二面と筆記用インク誘導部16Aの開口部を除く底面部が接着面となる平坦面となっている。更に、上記筆記多孔体22と接触する支持部材18Aの接触部分の局部山頂の表面はシボ加工等により梨地状態となっている。この筆記部14Aでは、二色成形などにより、筆記多孔体22と支持部材18Aとを固定することもできる。
【0070】
このように構成される本実施形態において、上記筆記部となる筆記多孔体22と、筆記用インク誘導部16Aを有する支持部材18Aとの接着を、筆記多孔体22と支持部材18Aが接触している部分の筆記多孔体22の細孔の凹凸に、支持部材18Aから保持体を形成する樹脂が入り込み、底面部に保持体樹脂層を形成することなどにより、筆記部となる筆記多孔体22と筆記用インク誘導部16Aを有する支持部材18Aとの固定が確実にでき、十分な筆記流量を終筆まで確保できる耐久性に優れた筆記具が得られるものとなる。
【0071】
また、本実施形態において、中継多孔体30と支持部材18Aとの接着を、上述と同様に、保持体樹脂層を形成することなどにより接着することができる。
【0072】
具体的には、中継多孔体30側接着面を、平面、曲面、屈曲部の何れかに形成し、筆記用インク誘導部16Aの中継多孔体30側端面には、この支持部材18A後部の中空開口間に挿入された中継多孔体30の境界面に保持体樹脂層(「中継多孔体側接着面」とも表記)を中継多孔体30全周に渡り厚み0.5mm以上形成し、中継多孔体30側接着面上の周状の保持体樹脂層が、多孔体内部に向かって1〜1000μm、並びに、中継多孔体30と接触する支持部材18A後部の接触部分の局部山頂の表面はシボ加工等により梨地状態とする。
【0073】
このように構成される本実施形態において、中継多孔体30と、筆記用インク誘導部16Aを有する支持部材18Aとの接着を、中継多孔体30と支持部材18Aが接触している部分の中継多孔体30の細孔の凹凸に、支持部材18Aから保持体を形成する樹脂が入り込み、保持体樹脂層を形成することなどにより、中継多孔体30と筆記用インク誘導部16Aを有する支持部材18Aとの固定が確実にでき、十分な流量を筆記用インク誘導部16Aに供給でき、耐久性に優れたものとなる。また、前記保持体樹脂層は、中継多孔体30が圧入されていて、支持部材18Aと中継多孔体30の接触している部分全体に形成しても良い。
【0074】
本実施形態の筆記具では、筆記部14Aは、上述の如く、筆記体となる筆記多孔体22と、該筆記多孔体22を保持し、筆記部14Aに筆記用インクを供給するための筆記用インク誘導部16Aを少なくとも1つ有する支持部材18Aを備えたものであり、筆記具の軸筒10に含まれる筆記用インクを、支持部材18Aに設けた筆記用インク誘導部16Aに供給するための中継多孔体30を有すると共に、上記支持部材18Aが、視認性を有する材料で構成されているので、当該支持部材18Aにおいて筆記用インク誘導部16A以外の全面(全体)が筆記方向を視認できる視認部となるものであり、この構造とすることにより、初めて、視認部の面積比率を、軸筒10の本体先端部より突出した筆記部14Aの40%以上とすることができ、好ましくは、筆記部14Aの支持部材18A側面の視認部も、40%以上とし、更に、筆記用インク誘導部16Aを支持部材18Aの長手方向中央部に形成し、筆記用インク誘導部16Aの幅方向の長さ、直径、断面積等を上述の好ましい範囲に好適に設定することにより、更に、視認部の面積比率を、50%以上にすることができ、塗り終わりまで使用可能な筆記具が提供される。特に、筆記用インク誘導部16Aを支持部材18Aの中央部に長手方向に沿って形成することにより、筆記部となる筆記多孔体22に、かたよりなく効率的に筆記用インクを供給できるので、更に、塗り終わりまで使用可能な筆記具が提供されるものとなる。
【0075】
また、筆記用インク誘導部16Aを支持部材18Aの中央部に長手方向に沿って形成することにより、筆記方向を定め易く、非常に筆記しやすい形状となるものである。
【0076】
更にまた、筆記用インク誘導部16Aには、直接液体が供給される機構とすることにより、筆記用インクを効率的に筆記部となる筆記多孔体22に供給することができるものとなる。なお、筆記用インク誘導部16Aとして多孔体を用いた場合には、好適な筆記用インク流量が得られないことがある。
【0077】
本発明の筆記具は、上記などに限定されることなく、本発明の要旨を変更しない範囲内で種々変更することができる。筆記用インク誘導部16Aの形状をV字形状、X字形状、Y字形状、螺旋形状、逆V字形状、逆X字形状等の文字状とすることもできる。
【0078】
〔筆記用インクの説明〕
次に,実施形態に係る筆記具に使用する筆記用インクを説明する。
本発明の筆記用インク組成物は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料とは比重の異なるマイクロカプセル粒子と、水と高分子凝集剤を含むビヒクルとからなり、前記マイクロカプセル粒子に内包される成分が可逆熱変色性マイクロカプセル顔料に内包される(ロ)電子受容性化合物及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体であり、表面張力が30〜40mN/mの範囲にあり、トリメチルグリシンと、ペンタエリスリトールとを含有することを特徴とする熱変色性インクである。
【0079】
熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、高温変色温度まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、低温復色温度まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。一般的には第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とする構成でもよい。従って、描線が筆記された紙面等に対して摩擦体である軸筒10又はキャップ(図示せず)によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化させる。なお、当然のことながら第2色は、無色以外の有色でもよい。高温変色温度を60〜80℃、且つ低温復色温度を−20〜0℃の範囲とし、高温変色温度と低温復色温度との差を60〜100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。また、軸筒10やキャップを粘弾性材料、例えばオレフィン系エラストマーで形成することで摩擦体として容易に機能させることができるため、使い勝手の良い筆記具を提供できる。
【0080】
前記(イ)、(ロ)、(ハ)の各成分について具体的に化合物を例示する。 本発明の(イ)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物としては、ジフェニルメタンフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類等を挙げることができ、以下にこれらの化合物を例示する。 3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−4−アザフタリド、3−〔2−エトキシ−4−(N−エチルアニリノ)フェニル〕−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、3,6−ジフェニルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、2−メチル−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、2−(3−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、2−(N−メチルアニリノ)−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−クロロ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、2−キシリジノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソブチルアミノ)フルオラン、1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソアミルアミノ)フルオラン、2−(3−メトキシ−4−ドデコキシスチリル)キノリン、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジエチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジ−n−ブチルアミノ)−4−メチル−、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(N−エチル−N−i−アミルアミノ)−4−メチル−、スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン,2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジ−n−ブチルアミノ)−4−フェニル、3−(2−メトキシ−4−ジメチルアミノフェニル)−3−(1−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−ペンチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド等を挙げることができる。 更には、蛍光性の黄色〜赤色の発色を発現させるのに有効な、ピリジン系、キナゾリン系、ビスキナゾリン系化合物等を挙げることができる。
【0081】
成分(ロ)の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群(酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群)、電子空孔を有する化合物群等がある。 活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール−アルデヒド縮合樹脂等を挙げることができる。又、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0082】
以下に具体例を挙げる。 フェノール、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナン等がある。 前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2〜5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1、2、3−トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物等であってもよい。
【0083】
前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体の(ハ)成分について説明する。前記(ハ)成分としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類を挙げることができる。 前記(ハ)成分として好ましくは、色濃度−温度曲線に関し、大きなヒステリシス特性(温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線が、温度を低温側から高温側へ変化させる場合と、高温側から低温側へ変化させる場合で異なる)を示して変色する、色彩記憶性を示す可逆熱変色性組成物を形成できる5℃以上50℃未満のΔT値(融点−曇点)を示すカルボン酸エステル化合物、例えば、分子中に置換芳香族環を含むカルボン酸エステル、無置換芳香族環を含むカルボン酸と炭素数10以上の脂肪族アルコールのエステル、分子中にシクロヘキシル基を含むカルボン酸エステル、炭素数6以上の脂肪酸と無置換芳香族アルコール又はフェノールのエステル、炭素数8以上の脂肪酸と分岐脂肪族アルコール又はエステル、ジカルボン酸と芳香族アルコール又は分岐脂肪族アルコールのエステル、ケイ皮酸ジベンジル、ステアリン酸ヘプチル、アジピン酸ジデシル、アジピン酸ジラウリル、アジピン酸ジミリスチル、アジピン酸ジセチル、アジピン酸ジステアリル、トリラウリン、トリミリスチン、トリステアリン、ジミリスチン、ジステアリン等が用いられる。
【0084】
また、炭素数9以上の奇数の脂肪族一価アルコールと炭素数が偶数の脂肪族カルボン酸から得られる脂肪酸エステル化合物、n−ペンチルアルコール又はn−ヘプチルアルコールと炭素数10乃至16の偶数の脂肪族カルボン酸より得られる総炭素数17乃至23の脂肪酸エステル化合物も有効である。 具体的には、酢酸n−ペンタデシル、酪酸n−トリデシル、酪酸n−ペンタデシル、カプロン酸n−ウンデシル、カプロン酸n−トリデシル、カプロン酸n−ペンタデシル、カプリル酸n−ノニル、カプリル酸n−ウンデシル、カプリル酸n−トリデシル、カプリル酸n−ペンタデシル、カプリン酸n−ヘプチル、カプリン酸n−ノニル、カプリン酸n−ウンデシル、カプリン酸n−トリデシル、カプリン酸n−ペンタデシル、ラウリン酸n−ペンチル、ラウリン酸n−ヘプチル、ラウリン酸n−ノニル、ラウリン酸n−ウンデシル、ラウリン酸n−トリデシル、ラウリン酸n−ペンタデシル、ミリスチン酸n−ペンチル、ミリスチン酸n−ヘプチル、ミリスチン酸n−ノニル、ミリスチン酸n−ウンデシル、ミリスチン酸n−トリデシル、ミリスチン酸n−ペンタデシル、パルミチン酸n−ペンチル、パルミチン酸n−ヘプチル、パルミチン酸n−ノニル、パルミチン酸n−ウンデシル、パルミチン酸n−トリデシル、パルミチン酸n−ペンタデシル、ステアリン酸n−ノニル、ステアリン酸n−ウンデシル、ステアリン酸n−トリデシル、ステアリン酸n−ペンタデシル、エイコサン酸n−ノニル、エイコサン酸n−ウンデシル、エイコサン酸n−トリデシル、エイコサン酸n−ペンタデシル、ベヘニン酸n−ノニル、ベヘニン酸n−ウンデシル、ベヘニン酸n−トリデシル、ベヘニン酸n−ペンタデシル等を挙げることができる。
【0085】
また、ケトン類としては、総炭素数が10以上の脂肪族ケトン類が有効であり、2−デカノン、3−デカノン、4−デカノン、2−ウンデカノン、3−ウンデカノン、4−ウンデカノン、5−ウンデカノン、2−ドデカノン、3−ドデカノン、4−ドデカノン、5−ドデカノン、2−トリデカノン、3−トリデカノン、2−テトラデカノン、2−ペンタデカノン、8−ペンタデカノン、2−ヘキサデカノン、3−ヘキサデカノン、9−ヘプタデカノン、2−ペンタデカノン、2−オクタデカノン、2−ノナデカノン、10−ノナダカノン、2−エイコサノン、11−エイコサノン、2−ヘンエイコサノン、2-ドコサノン、ラウロン、ステアロン等を挙げることができる。 また、総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類、例えば、n−オクタデカノフェノン、n−ヘプタデカノフェノン、n−ヘキサデカノフェノン、n−ペンタデカノフェノン、n−テトラデカノフェノン、4−n−ドデカアセトフェノン、n−トリデカノフェノン、4−n−ウンデカノアセトフェノン、n−ラウロフェノン、4−n−デカノアセトフェノン、n−ウンデカノフェノン、4−n−ノニルアセトフェノン、n−デカノフェノン、4−n−オクチルアセトフェノン、n−ノナノフェノン、4−n−ヘプチルアセトフェノン、n−オクタノフェノン、4−n−ヘキシルアセトフェノン、4−n−シクロヘキシルアセトフェノン、4−tert−ブチルプロピオフェノン、n−ヘプタフェノン、4−n−ペンチルアセトフェノン、シクロヘキシルフェニルケトン、ベンジル−n−ブチルケトン、4−n−ブチルアセトフェノン、n−ヘキサノフェノン、4−イソブチルアセトフェノン、1−アセトナフトン、2−アセトナフトン、シクロペンチルフェニルケトン等を挙げることができる。
【0086】
また、エーテル類としては、総炭素数10以上の脂肪族エーテル類が有効であり、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジデシルエーテル、ジウンデシルエーテル、ジドデシルエーテル、ジトリデシルエーテル、ジテトラデシルエーテル、ジペンタデシルエーテル、ジヘキサデシルエーテル、ジオクタデシルエーテル、デカンジオールジメチルエーテル、ウンデカン
ジオールジメチルエーテル、ドデカンジオールジメチルエーテル、トリデカンジオールジメチルエーテル、デカンジオールジエチルエーテル、ウンデカンジオールジエチルエーテル等を挙げることができる。 前記マイクロカプセル顔料(円形断面形状のものを含む)の最大外径の平均値が5.0μmを越えると毛細間隙からの流出性の低下を生じ易く、最大外径の平均値が0.5μm未満では高濃度の発色性を示し難くなる。可逆熱変色性組成物の壁膜に対する比率が前記範囲より大になると、壁膜の厚みが肉薄となり過ぎ、圧力や熱に対する耐性の低下を生じ易く、壁膜の可逆熱変色性組成物に対する比率が前記範囲より大になると発色時の色濃度及び鮮明性の低下を生じ易くなる。
なお、平均粒子径の測定は、粒子径測定器N4Plus(COULTER社製)を用いて測定した。測定時には試料がN4Plusの推奨濃度に到達するまで水で希釈して、25℃の温度条件で測定した。
【0087】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、インキ組成物全量に対し、5〜40質量%、好ましくは10〜40質量%、更に好ましくは10〜30質量%配合することができる。 5質量%未満では発色濃度が不十分であり、40質量%を越えるとインキ流出性が低下し、筆記性能が阻害される。
【0088】
前記インキに用いられる媒体としては、水と必要により水溶性有機溶剤が用いられる。 前記水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が用いられる。 なお、ヒステリシス幅の大きい可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料については比重が概ね1を越えるため、適用する水溶性有機溶剤は1.1を超えるものが好適である。
【0089】
前記インキ中に水溶性の高分子凝集剤を添加することによって、凝集剤がマイクロカプセル顔料粒子間のゆるい橋かけ作用を生じさせ、ゆるい凝集状態を示す。このようなゆるい凝集状態を示すインキはマイクロカプセル顔料の分離を抑制できる。 前記高分子凝集剤としては水溶性高分子が用いられ、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性多糖類等が挙げられる。 前記水溶性多糖類としてはトラガントガム、グアーガム、プルラン、サイクロデキストリン、水溶性セルロース誘導体等が挙げられ、水溶性セルロース誘導体の具体例としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。 本発明の可逆熱変色性水性インキ組成物においては、マイクロカプセル顔料粒子間のゆるい橋架け作用を示す水溶性高分子であればすべて適用することができるが、なかでも水溶性セルロース誘導体が有効に機能する。 なお、前記高分子凝集剤は二種以上を併用することもできる。
【0090】
前記インキ組成物は、表面張力を30〜40mN/mの範囲に調整してなる。 前記範囲に表面張力を調整することにより、筆記したときのカスレが生じ難く、インキが凍結する0℃未満の温度域で放置したり、高温域、例えば60℃の環境下で放置してもインキ流出性が損なわれることなく、保存環境や使用環境による筆跡濃度や筆記幅にバラツキを生じ難くなる。 表面張力が30mN/m未満では、インキの流出性が不安定になり易く、筆跡濃度が不均一になる。また、表面張力が40mN/mを超えると、線割れを生じ易く、しかも、前述した保存環境や使用環境によってインキ流出量が低下して筆跡濃度が低下したり、筆記幅にバラツキを生じ易くなる。 また、前記インキ組成物は、pHを2〜7、好ましくは3〜6に調整することが好ましく、インキ組成物を酸性域に調整することによって含有される可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の低温域での凝集、沈降を抑制できる。 pHが7を越えると、低温域、即ち、インキが凍結する温度域で放置した時のインキ流出性を損ない易く、また、pHが2未満では、カプセル中に内包した可逆熱変色性組成物の発色性が強くなり、消色時に色残りが発生する不具合を生じ易くなる。
【0091】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、水及び高分子凝集剤とから少なくともなるビヒクルとは比重差が存在し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重(発色時)がビヒクルの比重よりも大きいと、経時によりマイクロカプセル顔料が沈降し易くなり、沈降物がハードケーキ化して再分散性に乏しくなる。逆に、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重(発色時)がビヒクルの比重よりも小さいと、経時によりマイクロカプセル顔料が浮き上がり易くなり、浮遊物がハードケーキ化して再分散性に乏しくなる。 前記問題を解消するために可逆熱変色性マイクロカプセル顔料とは比重の異なるマイクロカプセル粒子を添加して、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重がビヒクルの比重よりも大きい場合は、前記ビヒクルよりも比重が小さいマイクロカプセル粒子を用いる。また、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重がビヒクルの比重よりも小さい場合は、前記ビヒクルよりも比重が大きいマイクロカプセル粒子を用いる。 言い換えれば、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の発色時の比重とマイクロカプセル粒子の比重の間にビヒクルの比重を存在させる。 このようなマイクロカプセル粒子を添加することによって、混合された凝集体(可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、マイクロカプセル粒子の凝集体)が、ビヒクルの比重近傍に調整されて比重差が減少し、その結果、インキ中で分離し難くなると共に、分離しても容易に再分散させることができる。
【0092】
前記マイクロカプセル粒子は、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と同様のカプセル形態であり、内包物の種類によって比重を変えることができる。 なお、前記マイクロカプセル粒子の内包物としては、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料に内包される(ロ)電子受容性化合物及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体を用いる。 前記マイクロカプセル粒子は、インキ組成物全量に対し、2〜20質量%、好ましくは5〜20質量%、更に好ましくは5〜15質量%配合することができる。 2質量%未満では比重の調整効果が不十分であり、20質量%を越えると比重のバランスを損なうことがある。
【0093】
また、インキの粘度は1.5〜20mPa・s(20℃)、好ましくは、1.5〜10mPa・sであり、20mPa・sを超えるとインキ流出性が低下して筆跡がかすれたり、途切れたりすることがある。
【0094】
さらに筆記用インクには、トリメチルグリシン〔別名:グリシンベタイン、(CH
3)
2N
+(CH
3)CH
2COO
−〕は、保湿剤等として作用せしめるために用いるものであり、筆記用インク組成中に配合してもインキ性能の低下等を招くことがなく、ペン先の耐乾燥性、描線の乾燥性、インクの低温安定性を発揮せしめるものである。
【0095】
このトリメチルグリシンの含有量は、インク組成物全量に対して、0.5〜50%、好ましくは、1〜15%、より好ましくは、2〜10%とすることが望ましい。
この含有量が0.5%未満であると、ペン先の乾燥抑制効果が充分でなく、一方、50%超過であると、効果はそれほど変わらず、むしろ粘度増加による筆記性能、保存安定性の低下をもたらすこととなる。
【0096】
さらに筆記用インクには、ペンタエリスリトール〔C(CH
2OH)
4〕は、保湿剤等として作用せしめるために用いるものであり、上記トリメチルグリシンとの併用により、各単独使用よりも、相乗的に作用して、ペン先の乾燥を抑えながらも、従来にない描線の乾燥性、インクの低温安定性に優れ、描線に滲みや裏抜けのない優れた性能を発揮せしめるものとなる。
【0097】
このペンタエリスリトールの含有量は、インク組成物全量に対して、0.5〜8%、好ましくは、2〜5%とすることが望ましい。
この含有量の含有量が0.5%未満であると、ペン先の乾燥抑制効果が充分でなく、また、トリメチルグリシンとの相乗作用を発揮することができず、一方、8%超過であると、トリメチルグリシンとの相乗作用の効果はそれほど変わらず、低温下における析出や、保存安定性の低下をもたらすこととなる。
【0098】
本発明の筆記用インクに用いられる筆記具の構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に直接充填又は軸筒内に収容した吸蔵体に上記組成の筆記用インクを吸蔵せしめた直液式又は中綿式のマーキングペンなどが挙げられる。
【0099】
この筆記用インクを製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、各成分などを所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよく、また、脱泡、加熱、冷却しながら作製してもよいものである。
【0100】
このように構成される本発明の筆記用インクが、何故、ペン先の乾燥を抑えながらも、描線の乾燥性、インクの低温安定性に優れ、描線に滲みや裏抜けのない機能を発現するのかは下記のように推測することができる。
すなわち、本発明の筆記用インクでは、共に、トリメチルグリシンと、ペンタエリスリトールとがペン先の耐乾燥性を抑える成分となるものであり、これらの各単独使用よりも、筆記用インク組成中で併用することにより、相乗的に作用していることは明らかである。その理由は必ずしも明らかではないが、相乗効果によりペン先の乾燥を抑えながらも、描線の乾燥性、インクの低温安定性に優れ、描線に滲みや裏抜けのない優れた性能を発揮せしめるものと推測される。
本発明の筆記用インクは、本発明の効果を発揮せしめる持続効果が極めて優れており、しかも、その効果の発現期間・持続時間も長く、更にトリメチルグリシンとペンタエリスリトールは水溶性であるために経時的な安定性にも優れたものとなる。