(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ロータと該ロータを囲うステータとの間に設けられ、前記ロータと前記ステータとの間の空間を前記ロータの中心軸方向において、高圧流体が流れる高圧側領域と低圧流体が流れる低圧側領域とに分けるとともに、可動シール部材を含む軸シール装置であって、
前記可動シール部材は、前記ステータの内周側に配置され、該ステータに固定されたハウジングと、
隙間を介在させた状態で、前記ハウジング内に一部が収容され、かつ隙間を介在させた状態で前記ロータの外周面と対向するシール部材本体と、
前記シール部材本体を前記ロータの径方向の外側に付勢する弾性部材と、
を備え、
前記可動シール部材は、前記シール部材本体のうち、前記ロータの周方向に配置された端部の端面側に形成され、かつ該ロータの周方向の内側に向かって窪んだキャビティと、
前記キャビティと前記低圧側領域とを連通させる連通部と、
を備え、
前記キャビティの周方向における深さは、前記ハウジングと前記シール部材本体との間に流れ込んだ前記高圧流体が前記シール部材本体に及ぼす背面圧力を相対的に大きくすることが可能な深さで、かつ10mm以下の範囲内にある軸シール装置。
前記シール部材本体は、前記隙間を介在させて前記ハウジング内に配置された受圧部と、前記ハウジングの外側に配置されたベース部と、前記受圧部と前記ベース部とを接続する接続部と、を含み、
前記ハウジングは、前記隙間に前記高圧流体が導入されて前記シール部材本体が前記ステータの中心軸方向に移動した際に、前記接続部の一部が当接される当接面を有する請求項1または2記載の軸シール装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記構成とされた軸シール装置では、回転機械の運転を開始時において、高圧側の作動流体がシール部材本体の背面に回り込んだ際、シール部材本体の背面に作用する背面圧力によってシール部材本体が径方向内側に迅速に変位することが好ましい。
つまり、回転機械の運転の開始時において、高圧側の作動流体がシール部材本体の背面に回り込んだ際、大きな背面圧力が印加されることが好ましい。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、可動シール部材の作動性を高めることの可能な軸シール装置、及び回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る軸シール装置は、ロータと該ロータを囲うステータとの間に設けられ、前記ロータと前記ステータとの間の空間を前記ロータの中心軸方向において、高圧流体が流れる高圧側領域と低圧流体が流れる低圧側領域とに分けるとともに、可動シール部材を含む軸シール装置であって、前記可動シール部材は、前記ステータの内周側に配置され、該ステータに固定されたハウジングと、隙間を介在させた状態で、前記ハウジング内に一部が収容され、かつ隙間を介在させた状態で前記ロータの外周面と対向するシール部材本体と、前記シール部材本体を前記ロータの径方向の外側に付勢する弾性部材と、を備え、前記可動シール部材は、前記シール部材本体のうち、前記ロータの周方向に配置された端部の端面側に形成され、かつ該ロータの周方向の内側に向かって窪んだキャビティと、前記キャビティと前記低圧側領域とを連通させる連通部と、を備え、前記キャビティの周方向における深さは、前記ハウジングと前記シール部
材本体との間に流れ込んだ前記高圧流体が前記シール部
材本体に及ぼす背面圧力を相対的に大きくすることが可能な深さで、かつ10mm以下の範囲内にある。
【0010】
本発明によれば、シール部材本体のうち、ロータの周方向に配置された端部の端面側に形成され、かつロータの周方向の内側に向かって窪んだキャビティと、キャビティと低圧側領域とを連通させる連通部と、を有することで、連通部を通じて、キャビティ内に低圧側領域を流れる低圧流体を導入させて、キャビティ内を低圧流体で満たすことが可能となる。
【0011】
これにより、回転機械の運転開始時において、キャビィティ内に高圧流体が流れ込んだ場合でもキャビティ内の圧力が低圧に保たれるため、シール部材本体の端面に加わる流体の力を小さくすることが可能となる。
【0012】
そして、シール部材本体が受ける背面圧力は、シール部材本体の端面が受ける流体の力の反対方向に働く力である。したがって、シール部材本体の端面が受ける流体の力を小さくすることで、相対的にシール部材本体が受ける背面圧力を大きくすることが可能となる。
このように、相対的にシール部材本体が受ける背面圧力を大きくすることで、可動シール部材の作動性(特に、回転機械の運転
の開始時における可動シール部材の作動性)を高めることができる。
【0013】
また、上記本発明の一態様に係る軸シール装置において、固定シール部材を含んでおり、前記キャビティの底面と該底面と対向する前記固定シール部材の端面との間に、前記可動シール部材の端面と前記固定シール部材の端面とを互いに離間させる方向に付勢する補助付勢部材を有してもよい。
【0014】
上記構成とされた補助付勢部材を有することで、シール部材本体の端面と固定シール部材の端面とが互いに対向した際に生じる圧力を、補助付勢部材による付勢力によって低減することが可能となるので、可動シール部材の姿勢を安定して維持させることができる。
【0015】
また、上記本発明の一態様に係る軸シール装置において、前記シール部材本体は、前記隙間を介在させて前記ハウジング内に配置された受圧部と、前記ハウジングの外側に配置されたベース部と、前記受圧部と前記ベース部とを接続する接続部と、を含み、前記ハウジングは、前記隙間に前記高圧流体が導入されて前記シール部材本体が前記ステータの中心軸方向に移動した際に、前記接続部の一部が当接される当接面を有してもよい。
【0016】
このように、ステータの中心軸方向に移動した際に、接続部の一部が当接される当接面をハウジングが備えることで、接続部の一部とステータの当接面との間に摩擦力が発生してしまう。
しかしながら、上述したように、シール部材本体が受ける背面圧力を大きくすることで、上記摩擦力の影響を小さくすることが可能となるので、可動シール部材の作動性(特に、回転機械の運転
の開始時における可動シール部材の作動性)を高めることができる。
【0017】
本発明の一態様に係る回転機械は、上記軸シール装置を含んでもよい。
【0018】
このように、上述した軸シール装置を含むことで、相対的にシール部材本体の背面圧力を大きくすることが可能となるので、可動シール部材の作動性(特に、回転機械の運転
の開始時における可動シール部材の作動性)を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、可動シール部材の作動性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の蒸気タービンの寸法関係とは異なる場合がある。
【0022】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る回転機械の主要部をロータの中心軸方向から見た図である。
図1では、ロータのみを断面で図示する。
図1において、Dcはロータ102の周方向(以下、「周方向Dc」という)、Psは可動シール部材20の周方向の端部の端面21sが受ける端面圧力Ps、Phは可動シール部材20に印加され、端面圧力Psとは反対側に働く背面圧力(以下、「背面圧力Ph」という)、Mはシール部材本体21の移動方向(以下、「M方向」という)、S1は低圧流体(低圧作動流体)が存在する領域(以下、「低圧側領域S1」という)、S2は低圧流体よりも圧力の高い高圧流体(高圧作動流体)が存在する領域(以下、「高圧側領域S2」という)をそれぞれ示している。
図1では、
図2に示す複数のシールフィン26の図示を省略する。
また、
図1では、軸シール装置1の一例として、軸シール装置1を2つの固定シール部材10及び2つの可動シール部材20で構成した場合を例に挙げて説明する。
【0023】
図2は、
図1に示す軸シール装置のX−X線方向の断面図である。
図2において、
図1に示す構造体と同一構成部分には同一符号を付す。
図3は、
図2に示す可動シール部材に背面圧力が印加された初期状態を模式的に示す断面図である。
図3において、Fは弾性部材30による弾性力(以下、「弾性力F」という)、fは、接続部24の第1の面24fが突出部108の当接面108aに当接されることで発生する摩擦力(以下、「摩擦力f」という)である。弾性力F及び摩擦力fは、ロータ102の半径方向Drに働く力である。
図3において、
図1及び
図2に示す構造体と同一構成部分には同一符号を付す。
【0024】
図4は、
図2に示すシール部材本体に背面圧力が印加され、シール部材本体がロータ側に変位し、かつシール部材本体がステータの当接面に当接された状態を模式的に示す断面図である。
図4において、
図1〜
図3に示す構造体と同一構成部分には同一符号を付す。
図5は、
図1に示す可動シールの端部の概略構成を示す斜視図である。
図5において、
図1〜
図4に示す構造体と同一構成部分には同一符号を付す。
図6は、可動シール部材の端面とロータとの関係を説明するための図である。
図6では、ロータを断面で図示する。また、
図6において、
図1〜
図5に示す構造体と同一構成部分には、同一符号を付す。
なお、第1の実施形態では、シール構造の一例として、アブレイダブルシール構造を例に挙げて説明する。
【0025】
図1〜
図5を参照して、第1の実施形態の回転機械100は、ロータ102と、ステータ103と、固定シール部材10及び可動シール部材20を含む軸シール装置1と、を有する。
【0026】
ロータ102は、所定の方向に延在している。ロータ102の形状は、例えば、円柱形状とすることが可能である。ロータ102は、外周面102aを有する。ロータの102の外周面102aのうち、可動シール部材20を構成するシール体25と対向する面には、複数のシールフィン26が設けられている。複数のシールフィン26は、ロータ102と一体に構成されている。
【0027】
また、ロータの102の外周面102aのうち、固定シール部材10を構成するシール体(図示せず)と対向する面には、複数のシールフィン(図示せず)が設けられている。これら複数のシールフィンは、ロータ102と一体に構成されている。
【0028】
ステータ103は、回転機械100の車室(図示せず)に取り付けられている。ステータ103は、ロータ102の外側に設けられている。ステータ103の内周面103aは、ロータ102から離間した状態で、ロータ102の外周面102aと対向している。ステータ103とロータ102との間には、環状空間が形成されている。
【0029】
軸シール装置1は、ロータ102とステータ103との間の環状空間に設けられている。軸シール装置1は、リング形状とされている。軸シール装置1は、ロータ102とステータ103との間に形成された環状空間を低圧側領域S1と高圧側領域S2とに分けている。
【0030】
低圧側領域S1及び高圧側領域S2は、ロータ102の中心軸方向Daに配置されている。低圧側領域S1は、軸シール装置1の一方の側に配置されている。高圧側領域S2は、軸シール装置1の他方の側に配置されている。
低圧側領域S1は、低圧流体(低圧の作動流体)が流れる領域である。高圧側領域S2は、低圧側領域S1を流れる低圧流体よりも圧力の高い高圧流体(高圧の作動流体)が流れる領域である。
【0031】
軸シール装置1は、2つの固定シール部材10と、2つの可動シール部材20(シール部材)と、を備える。2つの可動シール部材20及び2つの固定シール部材10は、円弧形状とされている。2つの可動シール部材20は、ロータ102を介して、対向配置されている。
【0032】
固定シール部材10は、2つの可動シール部材20の間に配置されている。一対の上側部材10A及び下側部材10Bがロータ2の左右両側にそれぞれ配置されている。対をなす上側部材10A及び下側部材10Bは、合せ面10bで合わさっている。
ロータ102の周方向における可動シール部材20の長さは、ロータ102の周方向Dcにおける固定シール部材10の長さよりも長くなるように構成されている。
固定シール部材10の両端とロータ102の中心軸とを結ぶ2本の直線が成す角度は、例えば、
60°とすることが可能である。この場合、可動シール部材20の両端とロータ102の中心軸とを結ぶ2本の直線が成す角度は、例えば、120°とすることが可能である。
【0033】
固定シール部材10は、ロータ102の外周面102aに設けられた複数のシールフィン(図示せず)と対向する複数の溝(図示せず)を有するシール体(図示せず)を有する。固定シール部材10は、複数の溝内にシールフィンが挿入されることで、ラビリンス効果を発現させる。回転機械100として蒸気タービンを用いる場合、固定シール部材10は、蒸気の漏れを抑制する。
【0034】
固定シール部材10は、背面から板ばね等で弾性的に支持されている。固定シール部材10は、ロータ102と接触したときにロータ102の径方向外側に変位可能ではあるが基本的には不動のシール部材であり、回転機械100の稼動状態に応じて移動するものではない。
【0035】
可動シール部材20は、ロータ102を挟んで上下方向において対向するように配置されている。可動シール部材20は、円弧形状とされた部材であり、2つの端部を有する。可動シール部材20は、ハウジング104と、シール部材本体21と、弾性部材30と、シール体25と、を有する。
【0036】
ハウジング104は、ステータ103の内周面103aに固定されている。ハウジング104の内周面104f側には、リング状の溝105が形成されている。リング状の溝105には、隙間106を介在させた状態で、シール部材本体21の一部が収容されている。
ハウジング104は、ハウジング104の内周面104f側に位置する溝105の端部の開口幅を狭くする一対の突出部108を有する。
【0037】
一対の突出部108は、ロータ102の中心軸方向Daにおいて対向配置されている。一対の突出部108は、シール部材本体21がハウジング104から抜け落ちることを防止するための突出部である。
突出部108は、ロータ102の中心軸方向Daに対して直交する当接面108aを有する。当接面108aは、シール部材本体21の接続部24が当接される面である。当接面108aに接続部24の一部が当接されると、摩擦力が発生する。
【0038】
シール部材本体21は、円弧形状とされた部材であり、受圧部22と、ベース部23と、接続部24と、を有する。
【0039】
受圧部22は、ハウジング104に形成された溝105に収容されている。ロータ102の中心軸方向Daにおける受圧部22の幅は、ロータ102の中心軸方向Daにおける溝105の幅よりも狭くなるように構成されている。また、ロータ102の径方向Drにおける受圧部22の厚さは、ロータ102の径方向Drにおける溝105の幅よりも小さくなるように構成されている。
【0040】
受圧部22は、接続部24が接続される側とは反対側に配置された受圧面22fを有する。受圧面22fは、流体による圧力が印加される面である。受圧面22fは、ロータ102の半径方向Drにおいて溝105の内面(ロータ102の半径方向Drに対して直交する面)と対向している。
上記構成とされた受圧部22は、溝105内においてロータ102の中心軸方向Da及び径方向Drに変位可能な構成とされている。
【0041】
ベース部23は、ハウジング104の内周面104fよりもロータ102側に配置されている。ロータ102の中心軸方向Daにおけるベース部23の幅は、一対の突出部108間の溝幅よりも大きくなるように構成されている。ベース部23は、複数のシールフィン26と対向する内周面23aを有する。
【0042】
接続部24は、受圧部22とベース部23との間に配置されている。接続部24は、受圧部22とベース部23とを接続している。接続部24は、ロータ102の中心軸方向Daに配置された第1及び第2の面24f,24gを有する。
【0043】
第1の面24fは、低圧側領域S1に配置された突出部108の当接面108aと対する面である。第2の面24gは、高圧側領域S2に配置された突出部108と対する面である。
ロータ102の中心軸方向Daにおける接続部24の幅は、一対の突出部108間の溝幅よりも狭くなるように構成されている。接続部24は、突出部108の当接面108aと対向している。
【0044】
回転機械100の起動時及び停止時において、シール部材本体21は、ロータ102の径方向外側に離間する。これにより、可動シール部材20とロータ102との間の隙間が大きくなる。
回転機械100の定格運転時において、シール部材本体21は、M方向に移動する。これにより、可動シール部材20とロータ102との間の隙間が狭くなる。
【0045】
シール体25は、ベース部23の内周面23aを覆うように設けられている。シール体25のうち、複数のシールフィン26と対向する部分には、シールフィン26が挿入可能な複数の溝が形成されている。
【0046】
弾性部材30は、溝105の内面と受圧部22の受圧面22fとを接続するように設けられている。弾性部材30は、可動シール部材20をロータ102の径方向Drの外側に付勢している。弾性部材30としては、例えば、皿バネを用いることが可能である。なお、皿バネに替えて、弾性部材30として、板バネや金属ベローズ等を用いてもよい。
【0047】
ここで、回転機械100の起動時、停止時、及び定格運転時における可動シール部材20の動作について説明する。
回転機械100の起動時及び停止時において、シール部材本体21は、弾性部材30による弾性力Fによってロータ102の径方向Drの外側に
引き込まれる。これにより、シール体25とロータ102との間に形成された隙間は、広がる。
【0048】
一方、回転機械100の定格運転時には、低圧側領域S1と高圧側領域S2との間で流体(作動流体)の圧力に差が生じる。シール部材本体21は、低圧側領域S1と高圧側領域S2との間の圧力差によって、高圧側領域S2から低圧側領域S1に向かうスラスト力F0を受ける。これにより、シール部材本体21は、低圧側領域S1側(
図4の場合、可動シール部材20の右側)に移動する。
【0049】
このように、シール部材本体21が低圧側領域S1側に移動することで、接続部24の第1の面24fは、突出部108の当接面108aに当接される。これにより、高圧側領域S2側に配置された突出部108と接続部24の第2の面24gとの間に形成される隙間106が広がる。
【0050】
そして、突出部108と接続部24の第2の面24gとの間に形成された隙間106を通じて、溝105と受圧部22との間に高圧側領域S2に存在する高圧流体が流入し、溝105内の圧力が上昇する。
これにより、受圧部22の受圧面22fは、ロータ102の径方向Drの内側に押圧される。すると、受圧部22の受圧面22fに、ロータ102の径方向Drの内側に向かう背面圧力Phが印加され、シール部材本体21がロータ102の径方向Drの内側に変位させられる。そして、シール体25の溝にシールフィン26が突き当たることで、可動シール部材20は、高圧側領域S2と低圧側領域S1とを仕切ってシール機能を発現する。
【0051】
ここで、ロータ102の周方向Dcに配置されたシール部材本体21の2つの端部20A(可動シール部材20の端部の構成要素)の構成について説明する。
シール部材本体21の端部20Aは、固定シール部材10に突き当たる端面21sと、キャビティ27と、連通部28と、を有する。
【0052】
キャビティ27は、シール部材本体21の2つの端部20Aの端面21s側にそれぞれ形成されている。キャビティ27は、端部20Aの端面21sの中央部に設けられている。キャビティ27は、ロータ102の周方向Dcの内側に向かって窪んでいる。キャビティ27は、連通部28を通じて、低圧側領域S1に存在する低圧流体を導入することで、キャビティ27内の圧力状態を低圧にするための凹部である。キャビティ27の底面27aは、平面とされている。
【0053】
端面21sを基準としたときのキャビティ27の深さd(端面21sから底面27aまでの深さ)は、例えば、背面圧力Phを相対的に大きくすることが可能な深さで、かつ10mm以下の範囲内にするとよい。通常、キャビティがない場合はこの端面
の圧力状態は高圧が支配的であるため、この圧力により背面圧力Phは相対的に小さくなる。
また、キャビティ27の深さdが浅すぎると、キャビティ27内に高圧流体が流れ込んだ際に、キャビティ27内の圧力状態を低圧に維持することが困難となる可能性がある。これにより、端面21sに印加される端面圧力Psはあまり減少せず、背面圧力Phが相対的に小さくなる恐れがある。
【0054】
一方、キャビティ27の深さdが10mmよりも深くなると、ロータ102の半径方向Drにおけるシール部材本体21の厚さを厚くする必要があるため、可動シール部材20のサイズが大型化してしまう恐れがあった。
したがって、キャビティ27の深さdを、背面圧力Phを相対的に大きくすることが可能な深さで、かつ10mm以下の範囲内にすることで、可動シール部材20のサイズの大型化を抑制した上で、背面圧力Phを相対的に大きくすることができる。
【0055】
連通部28は、端部20Aの端面21s側に設けられている。連通部28は、キャビティ27と低圧側領域S1とを連通可能な溝である。連通部28は、低圧側領域S1に存在する低圧流体をキャビティ27内に導くための経路である。
【0056】
回転機械100の定格運転時において、可動シール部材20には、高圧側領域S2から溝105内に流入した高圧流体による背面圧力Phが作用している。これに対し、可動シール部材20の2つの端部20Aには、連通部28を通して、キャビティ27内に低圧側領域S1に存在する低圧流体が導入される。
これにより、キャビティ27及び連通部28を有していない従来の可動シール部材20と比較して、2つの端部20Aの端面21sに加わる端面圧力Psは低下する。
【0057】
また、キャビティ27には、高圧側領域S2に存在する高圧流体が流入する場合もあるが、キャビティ27内全体に低圧流体が存在するため、キャビティ27内の圧力は、低圧流体の圧力に近づく。これによって、2つの端部20Aの端面21sに加わる圧力Psは、キャビティ27内の低圧流体によって支配的となる。
このようにして、端面21sに加わる圧力Psが小さくなることで、受圧部22の受圧面22fに作用する背面圧力Phは、相対的に大きくなる。
【0058】
このとき、可動シール部材20が径方向Drの内側に変位するためには、下記(1)式を満たす必要がある。
{(背面圧力Ph)×(受圧部22の受圧面積A)}>(弾性部材30の弾性力F+摩擦力f) ・・・(1)
ここでの摩擦力fは、接続部24の第1の面24fと溝105の突出部108の当接面108aとの摺動部分における摩擦係数μにスラスト力F0を乗じたものである。
【0059】
上記(1)式に示すように、キャビティ27を設けて背面圧力Phを高めることで、弾性部材30による径方向Dr外側への弾性力F、及び第1の面24fと突出部108の当接面108aとの間の摩擦力fに抗して、可動シール部材20が径方向Drの内側に変位しやすくなる。
【0060】
第1の実施形態の軸シール装置1によれば、シール部材本体21のうち、ロータ102の周方向Dcに配置された端部20Aの端面21s側に形成され、かつロータ102の周方向Dcの内側に向かって窪んだキャビティ27と、キャビティ27と低圧側領域S1とを連通させる連通部28と、を有することで、連通部28を通じて、キャビティ27内に低圧側領域S1を流れる低圧流体を導入させて、キャビティ27内を低圧流体で満たすことが可能となる。
【0061】
これにより、回転機械100の運転開始時において、溝105と受圧部22との間に形成された隙間106を通じてキャビティ27内に高圧流体が流れ込んだ場合でもキャビティ27内の圧力が低圧に保たれるため、シール部材本体21の端面21sに加わる流体の力を小さくすることが可能となる。
【0062】
そして、可動シール部材20に印加される背面圧力Phは、シール部材本体21の端面21sが受ける流体の力の反対方向に働く力である。したがって、可動シール部材20の端面21sが受ける流体の力を小さくすることで、シール部材本体21が受ける背面圧力Phを相対的に大きくすることが可能となる。
このように、シール部材本体21が受ける背面圧力Phを大きくすることで、可動シール部材20の作動性(特に、回転機械100の運転
の開始時における可動シール部材20の作動性)を高めることができる。
【0063】
また、高圧流体の導入によってシール部材本体21が中心軸方向Daに沿って移動し、接続部24の第1の面24fが突出部108の当接面108aに当接されると、第1の面24fと当接面108aとの間に摩擦力fが発生する。
これに対し、上述したように、キャビティ27内に低圧流体を導入して可動シール部材20の端部20Aが受ける背面圧力Psを低減して背面圧力Phを相対的に高めることで、第1の面24fと当接面108aとの間に生じる摩擦力fに抗して、可動シール部材20を効率良く変位させることができる。
【0064】
上述した構成とされた可動シール部材20を含む回転機械100は、シール部材本体21が受ける背面圧力Phを相対的に大きくすることが可能となるので、可動シール部材20の作動性(特に、回転機械100の運転
の開始時における可動シール部材20の作動性)を高めることができる。
【0065】
(第2の実施形態)
図7は、本発明の第2の実施形態に係る回転機械の主要部を模式的に示す図である。
図7では、
図1〜
図6に示す構造体と同一構成部分には、同一符号を付す。また、
図7では、可動シール部材のみを断面で図示する。
【0066】
ここで、
図7を参照して、第2の実施形態の回転機械について説明する。
可動シール部材20のキャビティ27の底面27aと、底面27aと対向する固定シール部材10の端面10aとの間に、底面27aと端面10aとを互いに離間する方向の付勢力を有した補助付勢部材50を設けてもよい。
補助付勢部材50としては、例えば、コイルスプリングを用いることが可能である。補助付勢部材50としては、例えば、補助付勢部材50の周囲に存在する流体力の値に対して、十分に小さいバネ力を有したものを用いるとよい。
【0067】
第2の実施形態の回転機械によれば、キャビティ27の底面27aと、底面27aと対向する固定シール部材10の端面10aとの間に、底面27a(或いは、端面21s)と端面10aとを互いに離間する方向の付勢力を有した補助付勢部材50を備えることで、可動シール部材20の端面21sと固定シール部材10の端面10aとが互いに対向した際に生じる圧力を、補助付勢部材50による付勢力によって低減することが可能となる。これにより、可動シール部材20の姿勢を安定して維持させることができる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0069】
第1及び第2の実施形態では、シール構造の一例として、アブレイダブルシール構造を例に挙げて説明したが、例えば、アブレイダブルシール構造以外のシール構造(例えば、ラビリンスシール構造)にも適用可能であり、第1及び第2の実施形態と同様な効果を得ることができる。