(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る検査装置および検査方法の実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、互いに同一または類似の部分は共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る検査装置の全体構成を示す模式図である。
図2は
図1の移動体の模式的上面図である。
図3は
図1の制御操作部の機能構成を示すブロック図である。
図4は
図1の検査装置を回転電機の検査に適用する場合の移動体およびベースユニットの設置状況を示す模式図である。
図5は
図4のV−V線矢視上面図である。
図6は、
図5において、移動体がベースユニットと係合した状態を示す上面図である。
【0012】
この第1の実施形態に係る検査装置は、移動体10と、ベースユニット11と、制御操作部12と、移動体10とベースユニット11とを接続するケーブル35と、ベースユニット11と制御操作部12とを接続するケーブル36と、を有する。
図4ないし
図6に示すように、移動体10は、回転電機100の回転子101の回転子本体(第1の構造物)109と、第1の構造物である回転子本体109の外周に間隙103を介して対向して周方向に配置される固定子(第2の構造物)102との間の円環状の間隙103内で、回転子本体109の外周上を軸方向に移動可能に構成されている。ケーブル35とケーブル36は、ベースユニット11で中継してもよいし、連続のケーブルであってもよい。以下では主に第2の構造物である固定子102を検査対象物とする場合を例に説明するが、検査項目によっては第1の構造物である回転子本体109を検査対象物としても構わない。第1の構造物である回転子本体109のみを検査対象物としても、第2の構造物である固定子102のみを検査対象物としてもよく、また、第1の構造物である回転子本体109と第2の構造物である固定子102の両者を検査対象物としても構わない。
【0013】
なお、ここで「上面図」などの表現を用いているが、これは単に説明の便宜のためであって、実際の構成および動作は重力方向のいかんによらない。たとえば、
図1などでは移動体10に対して回転子本体109が下方にあり固定子102が上方にあるように示しているが、実際にはそのような上下関係にいつでもあるわけではない。
【0014】
回転電機100は、たとえば水素冷却式の発電機である。
図4に示すように、回転子101は、ロータシャフト104と、ロータシャフト104と同軸かつ一体的に構成され回転子コイルを配置した回転子本体109と、回転子本体109の軸方向両側をはさみ込むように配置された円環状のエンドリング105とを有する。ロータシャフト104は回転子101のうち回転子本体109の軸方向の両側の部分であり、回転子101全体を回転支持するための軸受106やタービンなどとのカップリングのためのフランジなどが設けられる。回転子本体109は、詳細の図示は省略するが、回転子本体109の外周に沿って軸方向に延びるように形成された複数のスロット内に配置された回転子コイルと、回転子コイルをスロット内に保持するための楔とを含んでいる。一般的に、回転子101のうち、回転子コイルや楔を除いた回転子本体109とロータシャフト104とは、鍛造などにより一体的に製造される。
【0015】
固定子102は、ほぼ円筒状であって、回転子本体109の径方向外側を、間隙103を介して取り囲むように配置されている。固定子102は、詳細の図示は省略するが、複数の電磁鋼板を軸方向に積層してなる固定子鉄心と、この固定子鉄心の内周に沿って軸方向に延びるように形成された複数のスロット内に配置された固定子コイルと、固定子コイルをスロット内に保持するための楔とを含んでいる。
【0016】
固定子102を支持して固定子102を覆うようにフレーム107が配置されている。軸受106はフレーム107によって支持されている。フレーム107内には密閉空間が形成され、冷却媒体としてたとえば水素で満たされている。フレーム107内で、ロータシャフト104にファン108が取り付けられていて、冷却媒体を強制的に流動させることができる。
【0017】
固定子102の内周に沿って、周方向に延びる円環状のバッフル111が配置されている。バッフル111は、間隙103内の冷媒の軸方向の流れを抑制して間隙103内を軸方向に複数の区画に区分するためのものであって、固定子102側から間隙103内で径方向内側に向かって突出している。ただし、バッフル111の内側先端は回転子本体109の外周面に接しておらず、バッフル111の先端(内周面、すなわち回転子101の軸に対する内周を構成する面)と回転子本体109の外周面との間隙を移動体10が軸方向に通過できる。
【0018】
ベースユニット11は、エンドリング105の外周面上に取り付けられている。ベースユニット11はエンドリング105の外周面上を周方向に移動(回転)できるように構成されている。移動体10は、軸方向に移動することにより、ベースユニット11を介してエンドリング105と係合したり、離脱したりできる。移動体10がベースユニット11を介してエンドリング105と係合した状態(
図6に示す状態)にあるときに、ベースユニット11が周方向に移動(回転)することにより、移動体10はエンドリング105に沿って周方向に回転させることができる。このようにして、移動体10をエンドリング105に沿って周方向に移動させることができる。
【0019】
図1および
図2に示すように、移動体10は、移動体本体30と、移動体本体30に搭載された搭載物25とを含み、一例としては車両として構成される。
【0020】
移動体10は、少なくとも回転電機100の軸方向に直線的に移動可能であって、移動体本体(車体)30にはクローラ31が取り付けられる。クローラ31は移動体10の移動手段であり、第1の構造物である回転子本体109の外周面に接し、回転子本体109の外周面に押し付けられている。クローラ31は、移動駆動部17によってその車輪が駆動され、移動体10の前進と後退と停止を行うことができる。また、クローラ31は、左右の車輪の回転数をそれぞれ調整することで移動駆動部17による前進と後退の方向(回転子本体の軸方向に対する角度)を調整することができるように構成される。移動手段としては、無限軌道であるクローラ31の他、車輪だけからなる構成としても構わない。
【0021】
搭載物25は移動体本体30に搭載されている。搭載物25には、第1のアーム14、第2のアーム15、第3のアーム16、移動駆動部17、アーム駆動部18、送受信部19、カメラ20、距離計測器21、移動距離計測部22および照明器23、検査器26が含まれる。
【0022】
第1、第2、第3のアーム14、15、16は、それぞれが、移動体本体30に対して回転可能な軸部14a、15a、16aを中心に回転できる可動アームである。アーム駆動部18は、第1、第2、第3のアーム14、15、16それぞれを駆動しこれらの可動アームの形状(例えば移動体本体に対する位置)を変化させる。第1、第2、第3のアーム14、15、16はそれぞれが、アーム駆動部18によって、移動体本体30から固定子102内周面に向かって突出して延びて固定子102内周面に押し付けられる押し付け状態と、移動体本体30側に折りたたまれて固定子102から離れた状態である離脱状態の二つの状態のアーム位置を取ることができる。
【0023】
アーム駆動部18は、第1、第2、第3のアーム14、15、16それぞれを押し付け状態または離脱状態に向けて付勢する第1のばね14b、第2のばね15b、第3のばね16bを含む。アーム駆動部18はさらに、第1、第2、第3のばね14b、15b、16bの付勢に抗して第1、第2、第3のアーム14、15、16それぞれを押し付け状態または離脱状態に向けて駆動するための電動機または空気圧駆動機構(図示せず)を備えている。これにより、アーム駆動部18は、第1、第2、第3のアーム14、15、16それぞれを押し付け状態または離脱状態に任意に駆動することができる。
【0024】
第1のばね14bと第3のばね16bは、それぞれ、第1のアーム14および第3のアーム16を押し付け状態に向けて付勢している。第2のばね15bは、第2のアーム15を離脱状態に向けて付勢している。したがって、たとえば、何らかの事故または故障により、電源喪失または空気圧喪失が発生した場合は、第1のアーム14および第3のアーム16は第1のばね14bと第3のばね16bによって押し付け状態となり、第2のアーム15は第2のばね15bによって離脱状態になる。
【0025】
第1、第2、第3のアーム14、15、16の先端には、それぞれ、第1、第2、第3のローラ14c、15c、16cが取り付けられている。第1、第2、第3のアーム14、15、16が押し付け状態で移動体10が移動(走行)する場合には、第1、第2、第3のローラ14c、15c、16cが固定子102内周面に押し付けられながら回転し、移動体10が円滑に移動(走行)できる。
【0026】
第1、第2、第3のアーム14、15、16は、回転子本体109の軸方向に対して互いに同じ向きに(
図1の例では左上に向かって)傾斜している。この傾斜の向きは、ケーブル35によって移動体本体30を軸方向に引っ張ったときにアームが変形しやすい向きである。これについては、
図9を参照して後述する。
【0027】
距離計測器21は固定子102との距離を計測するものである。移動距離計測部22は、たとえばクローラ31の動きを計測することにより、移動体10の移動距離を計測する。カメラ20は固定子102などの画像情報を取得する。照明器23は、カメラ20で取得する画像情報を鮮明なものとするために周囲を照明するものである。
【0028】
検査器26は、第1の構造物である回転子本体109および第2の構造物である固定子102の少なくともいずれかの検査を行うものであって、たとえば、超音波探傷装置やカメラなどが含まれる。
【0029】
回転子本体109の検査の場合、例えば、それぞれ回転子コイルが配置される複数のスロットの間のティース部(図示せず)や、各スロットの外周側に配置される楔(図示せず)に対する超音波探傷装置を用いた超音波探傷検査や、径方向の通風穴(図示せず)に対するカメラを用いた目視検査が含まれてもよい。
【0030】
固定子102の検査の場合、固定子コイルの外周側に配置される楔(図示せず)にハンマにより打撃を与えて発生する音響を加速度センサまたは音響検出器で検出する楔の緩み点検や、固定子鉄心に磁束を形成して、固定子鉄心に短絡部がある場合の故障電流を検出する固定子鉄心のEL−CID試験が含まれていてもよい。
【0031】
また、検査器26は、移動体本体30に直接取り付ける場合に限定されず、特に固定子102の検査の場合などは前述のアーム14、15、16に取り付けてもよい。また、移動体本体30にその他のアームを取り付け、このその他のアームに検査器26を取り付けて回転子本体109や固定子102の検査を行なうように構成してもよい。特に、固定子102の楔の緩み点検や、固定子鉄心のEL−CID試験など、固定子102の検査を行なうための検査器26については、アーム14,15または16などに取り付けることが好ましい。
【0032】
検査器26として、上述の回転子本体109のティース部や楔の超音波探傷検査装置、回転子本体109の径方向の通風穴の目視検査のためのカメラ、固定子102の楔の緩み点検のためのハンマや加速度センサまたは音響検出器、および固定子102の固定子鉄心のEL−CID試験の試験器のすべてを移動体本体30に搭載することもでき、これらの各検査や試験のための装置のいずれか2つ以上を適宜組み合わせて移動体本体30に搭載しても構わない。特にすべての検査や試験に関する装置を検査器26として搭載する場合、必要なすべての検査や試験を自動で行うことができるように構成することができる。
【0033】
移動駆動部17、アーム駆動部18、カメラ20、距離計測器21、移動距離計測部22および検査器26は、後述するように、制御操作部12によって制御・操作され、得られたデータは制御操作部12で処理される。これらの情報のやり取りはケーブル35、36を通じて行われる。また、全部または一部の情報を、送受信部19を通じて無線でやり取りしてもよい。また、制御操作部12の例えばアーム駆動制御部62など、少なくとも一部の構成を移動体本体30に搭載し、移動体10が自律的に制御・操作を行なうように構成しても構わない。制御操作部12全体を移動体本体30に搭載することもできる。
【0034】
図3に示すように、制御操作部12は、入力部40と、演算・制御部41と、記憶部42と、表示部43と、送受信部44とを有する。制御操作部12は、たとえばパーソナルコンピュータなどの汎用電子計算機によって実現できる。
【0035】
入力部40は、形状情報入力部50と、検査位置情報入力部51と、検査内容情報入力部52と、許容範囲情報入力部53と、検査開始指令入力部54とを含んでいる。
【0036】
形状情報入力部50は、検査対象物である固定子102の形状や、移動体10が支持されるべき第1の構造物である回転子本体109などの形状に係る形状情報を入力するものである。この形状情報は、たとえば、回転電機100の設計情報や実測情報などに基づく。実測によって形状情報を取得するには、たとえば、移動体10をマニュアルで移動させながらカメラ20や距離計測器21などを用いてデータを取得し、それによって得られたデータに基づいて形状情報を取得することもできる。
【0037】
検査位置情報入力部51は、検査を行うべき検査位置の情報を形状情報との関連において入力するものである。検査内容情報入力部52は、検査内容を検査位置情報との関連において入力するものである。検査内容情報に検査の対象となる検査対象範囲を含んでも構わない。許容範囲情報入力部53は、検査結果の合否を判定する基準となる許容範囲情報を入力するものである。
【0038】
検査開始指令入力部54は、検査開始指令を入力するものである。
【0039】
演算・制御部41は、移動制御部61と、アーム駆動制御部62と、検査制御部63と、移動体位置演算部64と、画像認識位置演算部65と、判定部66とを含んでいる。
【0040】
移動制御部61は、移動体本体30に搭載された移動駆動部17を制御して移動体10の移動(走行)を制御する。アーム駆動制御部62は、移動体本体30に搭載されたアーム駆動部18を制御してアーム14、15、16の動作を制御する。検査制御部63は、検査器26などを制御する。
【0041】
移動体位置演算部64は、移動体位置情報の履歴と、形状情報と、移動体10に搭載された移動距離計測部22で得られた移動距離などに基づいて、移動体10の現在位置を計算するものである。画像認識位置演算部65は、移動体位置情報の履歴と、形状情報と、移動体本体30に搭載されたカメラ20で得られた画像などに基づいて、移動体10の現在位置を計算するものである。移動体10の現在位置を計算するにあたっては、移動体位置演算部64による結果と画像認識位置演算部65による結果との両方の結果を加味して、より精度の高い結果を出すようにしてもよい。
【0042】
判定部66は、許容範囲情報入力部53で入力された許容範囲情報を基準として、検査結果の合否を判定する。
【0043】
記憶部42は、形状情報保存部71と、検査位置情報保存部72と、検査内容情報保存部73と、移動体位置情報保存部74と、検査結果情報保存部75と、画像情報保存部76と、許容範囲情報保存部77とを含んでいる。
【0044】
形状情報保存部71は、形状情報入力部50で入力された形状情報を保存する。検査位置情報保存部72は、検査位置情報入力部51で入力された検査位置情報を保存する。検査内容情報保存部73は、検査内容情報入力部51で入力された検査内容情報を保存する。移動体位置情報保存部74は、移動体位置演算部64で算出された移動体位置情報を保存する。検査結果情報保存部75は、検査器26などによる検査の結果を保存し、さらに、後述する判定部66による判定結果も保存する。画像情報保存部76は、カメラ20などによって得た画像を保存する。許容範囲情報保存部77は、許容範囲情報入力部53で入力された許容範囲情報を保存しておく。
【0045】
表示部43は、判定結果表示部80を含む。判定結果表示部80は、判定部66で判定した結果を表示するものである。表示部43は、判定結果表示部80のほかに、移動体位置演算部64で計算した移動体10の位置や、カメラ20で撮影された現在または過去の画像などを表示できるようにしてもよい。
【0046】
制御操作部12の送受信部44は、搭載物25に含まれる送受信部19との間で信号の送受信を行う。信号の送受信は、ケーブル35、36を介する有線によるものでも、また、無線によるものでもよい。
【0047】
図7は、本発明の第1の実施形態に係る検査装置による検査方法の手順を示すフロー図である。はじめに、形状情報入力部50、検査位置情報入力部51、検査内容情報入力部52、許容範囲情報入力部53により、形状情報、検査位置情報、検査内容情報、許容範囲情報を入力し、これらの情報を、形状情報保存部71、検査位置情報保存部72、検査内容情報保存部73に保存する(ステップS10)。つぎに、オペレータが検査開始指令入力部54により検査開始指令を入力する(ステップS11)。この後は、検査装置が自動的に検査作業を実行する。本実施形態では、検査の対象範囲(検査対象範囲)を固定子102の全周として指定する場合の例を示している。
【0048】
ステップS11において検査開始指令が入力されると、検査内容情報保存部73に保存された検査内容情報に基づき検査開始位置を自動的に設定し、この検査開始位置に対応するスロットの周方向位置(検査開始周方向位置)までベースユニット11が移動する(ステップS12)。なお、検査開始位置については自動的に設定するほか、検査内容情報入力部52から入力される検査内容情報に含めたり、もしくはステップS11の検査開始指令の入力の際に予め入力したりするように構成しても構わない。ベースユニット11が検査開始周方向位置まで周方向に移動すると、移動体10とベースユニット11は分離される(ステップS13)。これにより、ベースユニット11を介してエンドリング105と係合していた移動体10がエンドリング105から軸方向に離脱する。
【0049】
つぎに、移動制御部61およびアーム駆動制御部62の制御により、移動体10が検査位置まで軸方向に移動(走行)する(ステップS14)。移動体10が検査位置に到着した後に、検査制御部63の制御により、検査が実行される(ステップS15)。つぎに、検査結果に対して、判定部66が判定を行う(ステップS16)。この判定結果は、判定結果表示部80に表示され、検査結果情報保存部75に保存される(ステップS17)。
【0050】
つぎに、移動体10がベースユニット11に到達したか否かを判断し(ステップS18)到達していなければ、すなわちステップS18でNOであれば、上述のステップS14に戻る。移動体10がベースユニット11に到達していれば、すなわちステップS16でYESであれば、移動体10とベースユニット11とを結合する(ステップS19)。
【0051】
ステップS19のつぎに、ベースユニット11がすでにエンドリング105の外周上を一周(検査内容情報入力部52から入力される検査内容情報に検査対象範囲が含まれる場合、予め指定された検査対象範囲全ての検査が完了)したか否かを判断する(ステップS20)。ベースユニット11がすでに一周(検査内容情報入力部52から入力される検査内容情報に検査対象範囲が含まれる場合、予め指定された検査対象範囲全ての検査が完了)していれば、すなわちステップS20でYESであれば、動作を終了する。ベースユニット11がまだ一周(検査内容情報入力部52から入力される検査内容情報に検査対象範囲が含まれる場合、予め指定された検査対象範囲全ての検査が完了)していなければ、すなわちステップS20でNOであれば、移動体10とベースユニット11が結合した状態で、エンドリング105の外周上を周方向に所定の距離だけ移動する(ステップS21)。そして、上述のステップS13に戻り、移動体10がベースユニット11から分離され、周方向に所定の距離だけ移動した別の周方向位置において、上述のステップS14以降の検査をさらに実施する。
【0052】
このように、検査開始指令入力(ステップS11)の後の一連の作業を、検査装置が自動的に検査作業を実行する。
【0053】
上記の通り、
図7に示したフローにおいては、検査の対象範囲を固定子102の全周として予め指定した例や検査内容情報入力部52から入力される検査内容情報に検査対象範囲が含まれる例を示しているが、
図7のステップS11の検査開始指令の入力の際に予め検査対象範囲を指定するように構成し、ステップS20において、ステップS11で指定した検査対象範囲のすべての検査が完了したか否かの判定を行なうように構成しても構わない。
【0054】
なお、
図4に示すように回転子本体109の軸方向両端部にある2個のエンドリング105のうちの一方のみにベースユニット11が取り付けられている場合は、移動体10がベースユニット11から分離して軸方向に移動して、ベースユニット11と反対側のエンドリング105に到達した後は、移動体10が同じ軸方向経路を逆向きに進み、元のベースユニット11に戻る。他の例として、2個のエンドリング105の両方にベースユニット11を取り付ける場合(図示せず)は、移動体10が2個のベースユニット11と交互に結合することにより、移動体10は同じ軸方向経路を2回通ることなく、両方向に進みながら検査をすることができる。これにより、より効率的な検査を行うことができる。
【0055】
つぎに第1の実施形態に係る検査装置のアームの動作の詳細について説明する。
【0056】
図8は、
図1の移動体が回転子本体109の外周上を軸方向に移動する際のアームの動きを示す動作説明図である。
図8で、移動体10は、固定子(検査対象物)102内周面と回転子本体(第1の構造物)109外周面にはさまれた環状の間隙103内を、回転子本体109に沿って軸方向(
図8の左右方向)に移動する。ここでは、
図8の(a),(b),(c),(d),(e)の順に移動体10が左向き(矢印Aに示す向き)に移動する場合を説明する。固定子102内周面には、円環状のバッフル111が回転子本体109に向かって突出している。
【0057】
図8の(a)の状態では、第1、第2、第3のアーム14、15、16はいずれも押し付け状態にある。すなわち、第1、第2、第3のアーム14、15、16の各先端が固定子102内周面を押し、その反作用で固定子102内周面が第1、第2、第3のアーム14、15、16の各先端を押している。これにより、移動体10のクローラ31が回転子本体109外周面に押し付けられ、その反作用で回転子本体109外周面がクローラ31を押している。これにより、移動体10は、固定子102と回転子本体109とによって支持されている。
【0058】
図8の(b)の状態では、第2、第3のアーム15、16は押し付け状態にあり、第1のアーム14は離脱状態にある。これにより、第1のアーム14がバッフル111と干渉するのを避けることができる。
【0059】
図8の(c)の状態では、第1、第3のアーム14、16は押し付け状態にあり、第2のアーム15は離脱状態にある。これにより、第2のアーム15がバッフル111と干渉するのを避けることができる。
【0060】
図8の(d)の状態では、第1、第2、第3のアーム14、15、16はいずれも押し付け状態にある。
【0061】
図8の(e)の状態では、第1、第2のアーム14、15は押し付け状態にあり、第3のアーム16は離脱状態にある。これにより、第3のアーム16がバッフル111と干渉するのを避けることができる。
【0062】
このような一連の動作により、第1、第2、第3のアーム14、15、16がバッフル111と干渉するのを避けながら、移動体10がバッフル111の内側を通過することができる。しかも、3本のアーム14、15、16のうちの少なくとも2本のアームが常に押し付け状態にあるので、移動体10は、固定子102と回転子本体109とによって支持されている。
【0063】
つぎに、移動体10が回転子本体109上を軸方向に移動する途中で、何らかの事故または故障により、電源喪失または空気圧喪失が発生した場合について説明する。この場合は、前述のように、第1のアーム14および第3のアーム16は第1のばね14bと第3のばね16bによって押し付け状態となり、第2のアーム15は第2のばね15bによって離脱状態になる。この場合も、2本のアームが押し付け状態にあるので、移動体10は、固定子102と回転子本体109とによって支持されている。
【0064】
その場合において、移動体10の自力移動(自力走行)ができないとすると、ケーブル35をベースユニット11側に軸方向に引っ張ることにより、移動体10を間隙(環状空間)103から取り出すことができる。
【0065】
図9は、
図1の移動体10が回転子本体109の外周上を軸方向に移動する途中でアーム駆動用の電源または空気圧が消失した場合に、移動体を引き抜く際のアームの動きを示す動作説明図である。
図9の(a),(b),(c),(d)の順に移動体10が右向き(矢印Bに示す向き)に引っ張られて移動する場合を示している。
【0066】
図9の(b)は、第3のアーム16がバッフル111を通過するときの状態を示している。第3のアーム16は第3のばね16bによって押し付け状態となっているが、第3のアーム16の先端に取り付けられたローラ16cがバッフル111と接触することによって第3のアーム16は第3のばね16bの付勢力に抗して変形し、バッフル111を通過することができる。
【0067】
図9の(c)は、第3のアーム16がバッフル111を通過した直後の状態を示している。第3のアーム16がバッフル111を通過したことにより、第3のアーム16は第3のばね16bの付勢力によって元の形状に展開する。
【0068】
図9の(d)は、第1のアーム14がバッフル111を通過するときの状態を示している。第1のアーム14は第1のばね14bによって押し付け状態となっているが、第1のアーム14の先端に取り付けられたローラ14cがバッフル111と接触することによって第1のアーム14は第1のばね14bの付勢力に抗して変形し、バッフル111を通過することができる。
【0069】
以上説明したことからわかるように、この実施形態で、第1のアーム14と第3のアーム16の傾きの方向が同じであることが肝要であって、これにより、ケーブル35によって移動体本体30を所定の軸方向に引っ張って移動体10を移動させる場合に、第1のアーム14と第3のアーム16が変形して移動体10を移動させることができる。
【0070】
なお、上記説明では、ケーブル35を引っ張ることによって移動体10を移動させるものとしたが、ケーブル35とは別の牽引ロープや牽引ロッド(図示せず)を用意しておいてこれらによって移動体10を移動させるようにしてもよい。
【0071】
以上説明したように、この実施形態に係る検査装置によれば、形状情報入力部50、検査位置情報入力部51、検査内容情報入力部52、許容範囲情報入力部53を通じて必要な入力を行ったうえで、検査開始指令入力部54を通じて検査開始指令を入力することにより、移動体10が検査位置に自動で移動し、必要な検査を自動で行い、検査結果の合否判定も自動で行われる。これにより、検査に必要な手間を減らし、確実で迅速な検査を行うことができる。
【0072】
上記の例では、制御操作部12のアーム駆動制御部62が、3本のアームのうちの少なくとも2本のアームが押し付け状態となるように移動体本体30に搭載されているアーム駆動部18を制御するような構成とした。これにより、3本のアームのうちの少なくとも2本のアームが常に固定子102を押しているようにした。しかし、変形例として、アームの本数を2本とし、このうちの少なくとも1本のアームが常に固定子102を押しているようにしてもよい。この場合は、例えば上記の第1の実施形態の説明における第2のアーム15をなくした構成に相当する。
【0073】
このとき移動体本体30に搭載されているアーム駆動部18は、2本のアームのうちの少なくとも1本のアームが押し付け状態となるように制御操作部12のアーム駆動制御部62により制御される。これにより、移動体10は、押し付け状態にある少なくとも1本のアームが第2の構造物である固定子102を押す力の反力と、移動体10が第1の構造物である回転子本体109を押す力の反力とによって、回転子本体109と固定子102との間隙に支持される。
【0074】
[第2の実施形態]
図10は、本発明の第2の実施形態に係る検査装置の全体構成を示す模式図である。この第2の実施形態は第1の実施形態の変形であって、第2のアーム15の先端に、ローラに換えて検査器(第2の検査器)90が取り付けられている。この場合、第2のアーム15の先端に、固定子102を押し付けて移動体10を支持する機能を持たせない構成とすることもできるが、移動体10を支持する機能を持たせることもできる。第2アーム15の先端の先端に固定子102を押し付けて移動体10を支持する機能を持たせる場合、検査器90に加え、さらにローラを設ける構成とすることが好ましい。なお、
図10においては第2アーム15の回転子本体109の軸方向に対する傾きの方向は第1のアーム14と第3のアーム16の回転子本体109の軸方向に対する傾きの方向と同じ方向としているが、第2アーム15については、第1のアーム14と第3のアーム16の傾斜方向と逆方向に傾斜するように設けても構わない。
【0075】
検査器90は、固定子102の検査のためのものとするのが好適である。すなわち、検査器(第2の検査器)90として、固定子コイルの外周側に配置される楔(図示せず)にハンマにより打撃を与えて発生する音響を加速度センサまたは音響検出器によって検出す楔の緩み点検のための装置(ハンマ、および加速度センサまたは音響検出器)や、固定子鉄心のEL−CID試験装置(磁束形成コイル、および故障電流検出器)の少なくともいずれか、もしくは両者を第2アーム15の先端に設けることができる。
【0076】
また、第2の実施形態に係る検査装置の移動体10の移動体本体30、すなわち回転子本体109に沿って移動する部分、にも検査器(第1の検査器)26が第1の実施形態と同様に設けられている。この検査器(第1の検査器)26は、回転子本体109の検査のためのものとするのが好適である。すなわち、検査器26として、回転子本体109複数のスロットの間のティース部やスロットに設けられた楔に対する超音波探傷検査のための超音波探傷装置や、径方向の通風穴(図示せず)に対する目視検査のためのカメラの少なくともいずれか、もしくは両者を移動体本体30に設けることができる。
【0077】
本実施形態においても第1の実施形態と同様、第1のアーム14と第3のアーム16は、回転子本体109の軸方向に対する傾きの方向が同じ方向となるように取り付けられており、第1および第3のアーム14および16の先端には、それぞれ、第1および第3のローラ14cおよび16cが取り付けられている。第1のばね14bと第3のばね16bは、それぞれ、第1のアーム14および第3のアーム16を、固定子102内周面に押し付けられる押し付け状態に向けて付勢している。したがって、移動体10が第1および第3のアーム14および16が押し付け状態で移動(走行)する場合には、第1および第3のローラ14cおよび16cが固定子102内周面に押し付けられて回転しながら移動(走行)する。したがって、たとえば、何らかの事故または故障により、電源や空気圧の喪失が発生した場合は、第1のアーム14および第3のアーム16は第1のばね14bと第3のばね16bによって押し付け状態となり、移動体10の軸方向位置が固定されるように構成されている。特に、本実施形態において、電源や空気圧の喪失が発生した場合に固定子102の内周面への押し付け状態になるアームを移動体本体30に設けられる複数のアームのうち端部(両端部)に配置される第1のアーム14および第3のアーム16としたことにより、電源や空気圧の喪失時であっても移動体10の位置が安定して固定される。
【0078】
また、第2のばね15bは先端に検査器90が取り付けられている第2のアーム15を離脱状態に向けて付勢している。したがって、たとえば、何らかの事故または故障により、電源または空気圧が喪失した場合は、第2のアーム15は第2のばね15bによって固定子102の表面から離脱状態となり、第2のアーム15の先端に設けられた検査器(第2の検査器)90は移動体本体30内に格納される。
【0079】
本実施の形態においても、移動体10が回転子本体109の外周上を軸方向に移動する途中でアーム駆動用の電源または空気圧が消失した場合に、移動体を引き抜く際には、第1のアーム14および第3のアーム16は第1のばね14bと第3のばね16bによって押し付け状態となり、先端に検査器(第2の検査器)90が取り付けられた第2のアーム15は第2のばね15bによって離脱状態になる。第1の実施形態と同様、第1のアーム14と第3のアーム16の回転子本体109の軸方向に対する傾斜の方向が同じであるため、ケーブル35によって移動体本体30を所定の軸方向に引っ張って移動体10を移動させる場合に、第1のアーム14と第3のアーム16が変形して移動体10を移動させることができる。また、この際、第2のアーム15は第2のばね15bによって固定子102の表面から離脱して第2のアーム15の先端に設けられた検査器(第2の検査器)90は移動体本体30内に格納されるため、第2のアーム15が固定子102に衝突等して第2のアーム15の先端に設けられた検査器(第2の検査器)90に故障や不具合などが生じないように移動させることができる。
【0080】
[他の実施形態]
以上の説明では、検査対象物は第2の構造物である固定子102であり、移動体が第1の構造物たる回転子本体109の外周に沿って移動(走行)するものとしたが、逆に、検査対象物を第1の構造物である回転子本体109とし、移動体が第2の構造物たる固定子102の内周に沿って移動(走行)するものとしてもよい。さらに、この検査対象物は回転電機に限定されるものではない。
【0081】
また、上述の例の変形として、移動体本体30に搭載する搭載物25の一部として制御部(図示せず)を設け、この移動体本体30に搭載された制御部に、制御操作部12の機能の一部を含めることもできる。これにより、移動体10の重さや大きさが増すが、ケーブル35、36を介する通信量が減り、制御の迅速性向上が期待される。
【0082】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。