(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車ボデーの製造工程においては、製造ラインに沿って複数のロボットが配設されている。これら複数のロボットには、溶接などワークに対する何らかの加工を行うものや、組付けに係るワークの位置決めなど加工のための準備を行うものなど、種々の作業を行うロボットが存在する。このうち、特に、ワークの位置決めなどの加工準備を行うロボットについては、その位置精度がワークの仕上がり精度に大きな影響を及ぼすことから、当該ロボットの位置を定期的に校正することが重要となる。
【0003】
ここで、例えば特許文献1には、ロボットの校正装置(キャリブレーション装置)が提案されている。この校正装置は、6以上の自由度を有するアームを備え、アーム先端部の三次元位置及び姿勢を計測する三次元測定機と、三次元測定機の先端に手先が結合された多関節ロボットとを備えるもので、手先が結合された状態で三次元測定機により計測した値に基づき多関節ロボット先端部の位置及び姿勢を算出し、算出した位置及び姿勢に応じてキャリブレーション(校正)を実施可能としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、以前にも増して、ボデーの組立て精度を左右するロボットの校正をより高精度にかつ短時間で実施したいとの要求が高まっている。そこで、例えば特許文献1に記載の三次元測定機を自動車ボデーの製造ラインに適用すれば、車種ごとにティーチゲージを設置して当該ゲージとロボットとのずれを計測する手間を省いて、より汎用的で高精度な校正手段を構築できるようにも思われる。
【0006】
しかしながら、この種の製造ラインの側方には多数のロボットが配設されているのが一般的であり、他の付帯設備を含めた設置状態を考慮すると、上述した三次元測定機を新たに常設する余地(スペース)はないに等しい。そのため、たとえ当該三次元測定機の如く高精度に校正が可能なツールが調達できたとしても、実際に製造ラインに適用することは非常に難しい。また、ロボットが製造ラインの側方に多数配置される関係上、全てのロボットに対して所定の校正を行うには、相当数の三次元測定機が必要となる。よって、コスト面から見ても、三次元測定機を自動車ボデーの製造ラインに導入することは難しい。
【0007】
もちろん、以上の問題は何も自動車ボデーの製造ラインに限ったことではなく、周囲に多数のロボットが設置された製造ライン全般に対して上記ロボットの校正を行う場合に同様に起こり得る。
【0008】
以上の事情に鑑み、本明細書では、周囲にロボットが配設された製造ラインにおいて、ロボットの校正を高精度にかつ低コストに実施することを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題の解決は、本発明に係るロボットの校正システムによって達成される。すなわち、この校正システムは、ワークの搬送ラインと、搬送ライン上を搬送され、搬送ラインに沿って配設されるロボットの校正を行う移動式校正機とを備えたロボットの校正システムであって、移動式校正機は、三次元位置の測定を行う三次元位置測定機を有し、移動式校正機は、搬送ライン上の所定位置で、三次元位置測定機によりロボットの三次元位置を測定可能とする点をもって特徴付けられる。
【0010】
このように、本発明に係る校正システムでは、三次元位置測定機を有する移動式校正機を設け、この移動式校正機が搬送ライン上を搬送するようにした。これにより、搬送ラインの側方に設置スペースを設けることなく、三次元位置測定機が校正すべきロボットに容易にアクセスすることが可能となる。また、搬送ライン上を搬送させるだけで、ロボットの校正が可能な位置に三次元位置測定機をセットできるので、校正までに要する工数を極力少なくして短時間で校正を行うことが可能となる。また、搬送ライン上の所定位置は、各ロボットがアクセス可能な位置であるから、当該所定位置に設置した三次元位置測定機から周囲のロボットに容易にアクセスでき、最小限の三次元位置測定機で多数のロボットの校正を行うことができる。よって、設置コスト並びに作業コストを低く抑えつつ多数のロボットの校正を行うことができる。また、共通の三次元位置測定機で多数のロボットの位置を校正できるので、ロボット間の位置精度向上も期待できる。
【0011】
また、本発明に係るロボットの校正システムにおいて、移動式校正機は、搬送ライン上に載置され、三次元位置測定機を取付け可能なベースを有し、ベースには、三次元位置測定機の測定基準となる基準面が設けられ、搬送ライン上でワークの位置決めを行う位置決め治具により、ベースの位置決めが行われてもよい。
【0012】
このように、移動式校正機のベースに、三次元位置測定機の測定基準となる基準面を設けて、搬送ライン上でワークの位置決めを行う位置決め治具によりベースの位置決めを可能とすることで、ベースを搬送ラインから切り離して位置決めを行うことができる。これにより、搬送ラインの位置精度の影響を受けることなく基準面を精度よく位置決めできるので、基準面と被取付け部位(ベース)が共通である三次元位置測定機による校正の正確性を高めることができる。特に、搬送ライン上でワークの位置決めを行う位置決め治具を用いてベースの位置決めを可能とすることにより、基準面をワークと同等の精度で位置決めできる。従って、三次元位置測定による校正の正確性をさらに高めることができ、ひいては校正の信頼性をさらに高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、周囲にロボットが配設された製造ラインにおいて、ロボットの校正を高精度にかつ低コストに実施することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るロボットの校正システムの内容を図面に基づき説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係るロボットの校正システム10の平面図を示している。
図1に示すように、この校正システム10は、ワークの搬送ライン11と、搬送ライン11上を搬送される移動式校正機12とを主に備える。搬送ライン11の側方には、ワークに対して溶接等の組付け加工を施す複数の加工用ロボット(図示は省略)と、当該加工の準備、ここではワークの位置決めを行う複数の位置決め用ロボット13a〜13fが配設されている。
図1では、搬送ライン11の左右にそれぞれ三台の位置決め用ロボット13a〜13c,13d〜13fが配設されている。本実施形態では、ワークは自動車ボデー(ホワイトボデー)、搬送ライン11は、自動車ボデーの組付けラインである。
【0017】
移動式校正機12は、搬送ライン11の側方に配設される位置決め用ロボット13a〜13fの校正を行うもので、三次元位置の測定を行う三次元位置測定機14と、三次元位置測定機14が取り付けられるベース15と、ベース15に設けられ、三次元位置測定機14の測定基準となる基準面16とを有する。
【0018】
三次元位置測定機14は、
図2に示すように、多自由度のアーム部17と、アーム部17の先端に設けられたプローブ18とを有する。本実施形態では、プローブ18は接触式であり、測定対象となる位置決め用ロボット13a〜13fの所定部位(例えばアーム先端部)に接触させることで、位置決め用ロボット13a〜13の所定部位の三次元位置を測定可能としている。もちろん、プローブ18は接触式には限られない。測定精度の面あるいはコスト面で問題がなければ、非接触式のプローブ18を使用してもかまわない。
【0019】
搬送ライン11は、本実施形態では、一対のレール19,19と、レール19上を搬送される一対のパレット20,20とを有する。この場合、ベース15は、
図2に示すように、一対のパレット20,20に跨るようにして一対のパレット20,20上に載置され、一対のパレット20,20と共に搬送ライン11上を搬送可能とされている。この場合、パレット20の駆動は、例えば鉛直方向に伸びるパレット20,20の側壁部21に図示しない駆動ローラを当接させることにより行われる。
【0020】
また、パレット20の上面には、上方に突出する突出部22が設けられており(
図2を参照)、この突出部22にベース15の嵌合穴23が嵌まり合うことにより、ベース15がパレット20上で保持される。なお、突出部22と嵌合穴23との嵌合すき間24の大きさについては、後述する位置決め治具(位置決めピン26)によるベース15の位置決めの際、ベース15の取り得るスライド量を見越して設定されるのが好ましい。
【0021】
一方、搬送ライン11には、搬送ライン11上でワークの位置決めを行うための位置決め治具が設けられている。本実施形態では、位置決め治具として、
図3に示すように、床面25から出没可能とされた位置決めピン26が配設されており、この位置決めピン26が突出して、パレット20上のワークの所定部位と嵌まり合うことで、ワークの位置決めがなされるようになっている(図示は省略)。
【0022】
ベース15には、この位置決めピン26によりベース15の位置決めを行うための被位置決め部が設けられている。本実施形態では、被位置決め部としての複数の位置決め穴27が設けられており(
図1及び
図3を参照)、これら複数の位置決め穴27に、床面25から突出した位置決めピン26の先端部28が嵌まり合うことで、ベース15の位置決めがなされる。また、この際、先端部28よりも大径の大径部29(
図3を参照)の端面29aがベース15の下面15aと当接し、ベース15を押し上げることで、ベース15がパレット20から切り離された状態で位置決めされるようになっている(
図3中、二点鎖線で示す状態)。この際、三次元位置測定機14は、取付け部30を介してベース15に固定されているので、ベース15が位置決めピン26の精度に準じて位置決めされることで、三次元位置測定機14も位置決めピン26の精度に準じて位置決めされ得る。
【0023】
次に、上記構成の校正システム10を用いた位置決め用ロボット13a〜13fの校正態様の一例を説明する。
【0024】
まず、
図1に示すように、移動式校正機12を搬送ライン11上に載置し、一対のパレット20,20と共に搬送する。そして、搬送ライン11上の所定位置(例えば、
図1に示す位置)に到達したら、パレット20,20を停止し、パレット20,20上の移動式校正機12を停止させる。
【0025】
次に、この位置で、移動式校正機12の位置決めを行う。本実施形態では、搬送ライン11上でワークを位置決めするための位置決めピン26を用いて、移動式校正機12のベース15の位置決めを行う。具体的には、
図3に示すように、位置決めピン26を床面25下に埋没させた状態(同図中、実線で描く位置)から突出させて、上方に位置するベース15の位置決め穴27に位置決めピン26の先端部28を嵌め合わせる。これにより、ベース15が位置決めピン26の位置に応じて移動し、所定の位置に位置決めされる。また、この際、位置決めピン26の大径部29でベース15を押し上げることで(同図中、二点鎖線で描く状態)、ベース15をパレット20,20から切り離した状態で位置決めがなされる。これにより、位置決めピン26を基準としてベース15の三次元位置決めがなされるので、ベース15に固定された基準面16及び三次元位置測定機14の三次元位置決めが位置決めピン26を基準としてなされる。
【0026】
このようにして、三次元位置測定機14及び基準面16の位置決めを行った後、三次元位置測定機14の先端に設けたプローブ18を基準面16に当接させて、三次元位置測定機14の位置基準を設定する。これにより、三次元位置測定機14の座標系が設定された状態になるので、三次元位置測定機14のアーム部17を駆動し、その先端に設けたプローブ18を校正対象となる位置決め用ロボット13a〜13fの所定部位に順に接触させ、各接触部分(一又は複数箇所)の三次元位置を測定する。これにより、三次元位置測定機14による位置決め用ロボット13a〜13fの接触部分における三次元位置(第一の三次元位置)を取得する。本実施形態では、
図1に示すように、全ての位置決め用ロボット13a〜13fの作動範囲32が、三次元位置測定機14の作動範囲31と重複しているので、
図1に示す位置に配置した一台の三次元位置測定機14のみで、全ての位置決め用ロボット13a〜13fの第一の三次元位置を取得し得る。
【0027】
然る後、各位置決め用ロボット13a〜13fの図示しない制御部(検知部)により取得される各位置決め用ロボット13a〜13fの所定部位の三次元位置(第二の三次元位置)を、三次元位置測定機14により取得した第一の三次元位置と比較することにより、各位置決め用ロボット13a〜13fの三次元位置の校正を行う。これら一連の比較及び校正は、例えば図示しない三次元位置測定機14の制御部により行われる。もちろん、搬送ライン11と位置決め用ロボット13a〜13f、及び周辺設備の何れかに既設の演算機能を有する装置により、上記校正に至る一連の演算処理を行わせてもよい。
【0028】
このように、本発明に係るロボットの校正システム10では、三次元位置測定機14を有する移動式校正機12を設け、この移動式校正機が搬送ライン11上を搬送するようにした。これにより、搬送ライン11の側方に設置スペースを設けることなく、三次元位置測定機14が校正すべきロボット(ここでは位置決め用ロボット13a〜13f)に容易にアクセスすることが可能となる。また、搬送ライン11上を搬送させるだけで、位置決め用ロボット13a〜13fの校正が可能な位置に三次元位置測定機14を設置できるので、校正までに要する工数を極力少なくして短時間で校正を行うことが可能となる。また、搬送ライン11上の所定位置は、各位置決め用ロボット13a〜13fがアクセス可能な位置であるから(各位置決め用ロボット13a〜13fの作動範囲32に含まれるから)、当該所定位置に設置した三次元位置測定機14から周囲の位置決め用ロボット13a〜13fに容易にアクセスでき、最小限の三次元位置測定機14(本実施形態では一台)で多数のロボット(本実施形態では六台)の校正を行うことができる。よって、設置コスト並びに作業コストを低く抑えつつ多数の位置決め用ロボット13a〜13fの校正を行うことができる。また、共通の三次元位置測定機14で多数の位置決め用ロボット13a〜13fの位置を校正できるので、位置決め用ロボット13a〜13f間の位置精度向上も期待できる。
【0029】
また、本実施形態では、位置決めピン26の大径部29でベース15を押し上げた状態で、位置決めピン26の先端部28のベース15の位置決め穴27に嵌め合わせるようにしたので、ベース15を搬送ライン11、正確には搬送ライン11上を搬送されるパレット20,20から切り離して位置決めを行うことができる。これにより、搬送ライン11の位置精度の影響を受けることなく基準面16を精度よく位置決めできるので、基準面16と共にベース15に固定される三次元位置測定機14による校正の正確性を高めることができる。特に、本実施形態では、搬送ライン11上でワークの位置決めを行う位置決め治具としての位置決めピン26を用いて、ベース15の位置決めを行うようにした(位置決めピン26とベース15の位置決め穴27とが嵌まり合うようにした)。これにより、基準面16をワーク(ここでは自動車ボデーを構成する部品)と同等の精度で位置決めできる。従って、三次元位置測定による校正の正確性をさらに高めることができ、ひいては校正の信頼性をさらに高めることが可能となる。
【0030】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係るロボットの校正システムは、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0031】
例えば上記実施形態では、一個の三次元位置測定機14をベース15に取付けて、周囲の位置決め用ロボット13a〜13fの位置測定及び校正を行う場合を例示したが、例えば取付け部30をベース15の複数箇所に設けて、一個の三次元位置測定機14を付け替えることで、搬送ライン11の長手方向に沿って配設される多数のロボット(図示は省略)の位置測定及び校正を行うようにしてもよい。もちろん、二個以上の三次元位置測定機14が用意できるのであれば、二個以上の移動式校正機12をベース15に取付けて、上記多数のロボットの位置測定及び校正を行ってもかまわない。
【0032】
また、上記実施形態では、一対のパレット20,20に跨るようにベース15(移動式校正機12)を載置し、これら一対のパレット20,20と共に搬送ライン11上を搬送する形態を例示したが、もちろんこれには限定されない。図示は省略するが、一対のレール19,19に跨って支持される一個のパレット上に移動式校正機12を載置し、このパレットと共に移動式校正機12を搬送する形態をとることも可能である。あるいは、これも図示は省略するが、車輪を有する台車上に移動式校正機12を載置し、この台車が所定の経路上を移動するに伴い、台車と共に移動式校正機12が搬送ライン11上を搬送される形態をとることも可能である。要は、搬送ライン11上を搬送する形態は任意であり、搬送部上に移動式校正機12が載置され、あるいは搬送部を一部とする移動式校正機12が搬送ライン11上を移動する限りにおいて、任意の形態をとり得る。
【0033】
また、上記実施形態では、位置決め治具(位置決めピン26)によりベース15をパレット20,20から切り離した状態で位置決めするようにしたが、もちろんこれに限定する必要はない。例えばパレット(搬送部)と移動式校正機12とが位置決めを伴って固定されている場合には、位置決め治具によってパレット(搬送部)の位置決めを行ってもよい。もちろん、位置決め治具の形態は位置決めピン26には限られない。移動式校正機12、特に三次元位置測定機14と基準面16が正確に位置決めされ得る限りにおいて、位置決め治具の形態は任意である。もちろん、正確に位置決めされ得るのであれば、搬送ライン11上のワークの位置決めに用いられるか否かについても問われない(移動式校正機12専用の位置決め治具であってもよい)。
【0034】
また、上記実施形態では、位置決め用ロボット13a〜13fを校正の対象とした場合を例示したが、もちろん校正対象はこれには限られない。ワークに対する加工の準備を行うためのロボットなど、位置決め以外の加工準備作業を行うロボットについても本発明を適用し得る。さらにいえば、溶接などワークに対する何らかの加工を行うロボットについても本発明の適用対象となり得る。
【0035】
もちろん、ワークの搬送ライン11についても特に限定されることはない。上記ロボットが周囲に配設される限りにおいて、自動車ボデーの溶接組付けライン以外の製造ラインに、本発明を適用することも可能である。