特許第6889560号(P6889560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6889560活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物、及びそれを用いた印刷物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6889560
(24)【登録日】2021年5月25日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物、及びそれを用いた印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20210607BHJP
【FI】
   C09D11/101
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-4765(P2017-4765)
(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公開番号】特開2018-115223(P2018-115223A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 圭之郎
(72)【発明者】
【氏名】臣 直毅
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−015755(JP,A)
【文献】 特開2004−359767(JP,A)
【文献】 特表2008−516052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和結合を備えた化合物、及び光重合開始剤を含み、
さらに、少なくとも1つのエポキシ基を有する脂肪酸とアルコールとのエステルであるエポキシ化油脂を1質量%〜20質量%含むことを特徴とし、前記油脂がトリグリセリドであり、前記トリグリセリドが大豆油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、亜麻仁油、カノーラ油、菜種油、ベニバナ油、トール油、桐油、魚油、牛脂油又はヒマシ油である活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化油脂がエポキシ化大豆油である請求項記載の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物を用いて印刷を行うことを特徴とする印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物、及びそれを用いた印刷物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、油性であるオフセット印刷用インキ組成物(以下、「インキ組成物」又は「インキ」と適宜省略する。)が水に反発する性質を利用した印刷方式であり、凹凸を備えた印刷版を用いる凸版印刷方式とは異なり、親油性の画像部と親水性の非画像部とを備えた、凹凸のない印刷版を用いることを特徴とする。この印刷版を用いて印刷を行う場合、まず、湿し水を印刷版に接触させて非画像部の表面に水膜を形成させた後に、インキ組成物を印刷版に供給する。すると、供給されたインキ組成物は、水膜の形成された非画像部には反発して付着せず、親油性の画像部のみに付着する。こうして、印刷版の表面にインキ組成物による画像が形成され、次いでそれがブランケット及び紙に順次転移することにより印刷が行われる。
【0003】
また、上記のように湿し水を用いたオフセット印刷の他に、シリコーン樹脂により非画像部が形成された印刷版を用いた水無しオフセット印刷方式も実用化されている。この印刷方式では、湿し水がインキ組成物と反発して非画像部を形成するのではなく、シリコーン樹脂がインキ組成物と反発して非画像部となる。こうした点を除けば、水無しオフセット印刷もまた、湿し水を用いたオフセット印刷と共通の印刷方式である。そこで、本明細書では、湿し水を用いた印刷方式のみならず、水無し印刷方式をも含めた概念として「オフセット印刷」という用語を用いる。
【0004】
オフセット印刷により得られた印刷物は、その表面に付着しているインキ組成物が十分に乾燥した状態とならなければ、印刷物を重ねた際に裏移りを生じたり、指で印刷物に触れた際にインキが付着したりするので、後工程に回したり、商品として流通させたりすることができない。したがって、オフセット印刷を行った後に、印刷物の表面に付着したインキ組成物を乾燥させる工程が必要となる。こうした工程を短時間で行うために、近年では活性エネルギー線硬化型のインキ組成物を用いた印刷が盛んに行われるようになっている。このタイプのインキ組成物には、モノマーやオリゴマー等といった重合性化合物と、紫外線や電子線等の活性エネルギー線が照射された際に当該重合性化合物を重合させる重合開始剤と、が含まれる。そのため、このインキ組成物を用いて印刷された未乾燥状態の印刷物の表面に活性エネルギー線が照射されると、そこに含まれる重合性化合物が互いに重合して高分子量化する。その結果、印刷物の表面に存在するインキ組成物は瞬時にべとつきのない(すなわち乾燥した)皮膜に変化する。このような乾燥方式を採用するインキ組成物は、各種のものが提案されている(例えば、特許文献1、2等を参照)。なお、この工程で用いられる活性エネルギー線としては紫外線や電子線が挙げられるが、装置のコストや扱いやすさなどに鑑みて紫外線が選択されることが多い。
【0005】
ところで、最近、様々な業界や業種で環境負荷低減活動が展開されており、印刷業界においても各種の観点から環境負荷低減を促す活動が行われている。そのような背景から、上記のような活性エネルギー線硬化型のインキ組成物を用いた印刷のうち紫外線を用いたものにおいては、電力消費が大きく、短波長の紫外線によるオゾンの発生を招く従来型の紫外線ランプから、より省電力でオゾンの発生の少ない紫外線LEDランプや低出力紫外線ランプへの置き換えが進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−102217号公報
【特許文献2】特許第4649952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような紫外線ランプの置き換えが進むことは、同時に、印刷物に対する印刷時における紫外線照射量が少なくなることにもつながる。そのような状況においても印刷物の乾燥性を維持する、すなわちインキ組成物に含まれる重合性化合物を十分に高分子量化させるために、インキ組成物においては重合開始剤を増量させるといった処方面での対応が必要になる。しかしながら、このような対応はインキ組成物の原材料コストの増加につながるものであり、処方面におけるさらなる工夫が求められていた。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、紫外線照射量の少ない状況においても良好な乾燥性を維持することのできる、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、エチレン性不飽和結合を備えた化合物、及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物に対してさらにエポキシ化油脂を添加することにより、紫外線照射量の少ない状況であっても印刷物の良好な乾燥性を示すインキ組成物が得られるという意外な事実を知見した。本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、以下のようなものを提供する。
【0010】
本発明は、エチレン性不飽和結合を備えた化合物、及び光重合開始剤を含み、さらに、少なくとも1つのエポキシ基を有する脂肪酸とアルコールとのエステルであるエポキシ化油脂を1質量%〜20質量%含むことを特徴とし、上記油脂がトリグリセリドであり、上記トリグリセリドが大豆油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、亜麻仁油、カノーラ油、菜種油、ベニバナ油、トール油、桐油、魚油、牛脂油又はヒマシ油である活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物である。
【0012】
上記エポキシ化油脂は、エポキシ化大豆油であることが好ましい。
【0013】
また本発明は、上記の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物を用いて印刷を行うことを特徴とする印刷物の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、紫外線照射量の少ない状況においても良好な乾燥性を維持することのできる、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物の一実施形態、及び本発明の印刷物の製造方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態又は実施態様に限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
<活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物>
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物は、オフセット平版印刷に適用されるインキ組成物であり、紫外線や電子線等の活性エネルギー線の照射を受けて硬化する能力を備える。後述するように、本発明のインキ組成物は、エチレン性不飽和結合を備えた化合物(モノマーやオリゴマー等)と光重合開始剤とを含有し、活性エネルギー線の照射を受けた際に光重合開始剤から生じたラジカルがエチレン性不飽和結合を備えた化合物を高分子量化させることで硬化する。そのため、印刷直後に印刷物の表面でべたついているインキ組成物に活性エネルギー線が照射されると、瞬時にこのインキ組成物が硬化して皮膜となり、乾燥(タックフリー)状態となる。
【0017】
本発明のインキ組成物を硬化させるために用いる活性エネルギー線は、後述する光重合開始剤における化学結合を開裂させてラジカルを生じさせるものであればよい。このような活性エネルギー線としては、紫外線、電子線等が例示される。これらの中でも、装置のコストや扱いやすさという観点からは、活性エネルギー線として紫外線が好ましく例示される。活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、その波長としては、用いる光重合開始剤の吸収波長に合わせて適宜決定されればよいが、400nm以下を挙げることができる。このような紫外線を発生させる紫外線照射装置としては、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、希ガスを封入したエキシマランプ、紫外線発光ダイオード(LED)等を挙げることができる。
【0018】
本発明のインキ組成物は、エチレン性不飽和結合を備えた化合物、及び光重合開始剤を含み、さらに、エポキシ化植物油を含むことを特徴とする。また、本発明のインキ組成物は、着色成分(本発明において、インキ組成物に白色や金属色を付与する成分も着色成分に含めるものとする。)を含んでもよい。本発明のインキ組成物が着色成分を含む場合には、そのインキ組成物は例えば画像や文字等の印刷用途に用いることができるし、本発明のインキ組成物が着色成分を含まない場合には、そのインキ組成物は例えばコーティング等の用途に用いることができる。本発明のインキ組成物は、情報を伝達したり鑑賞の対象となったりすること等を目的とした通常の印刷物のみならず、パッケージ印刷等、オフセット印刷によりもたらされる各種の印刷用途に対応する。以下、各成分について説明する。
【0019】
[エチレン性不飽和結合を備えた化合物]
エチレン性不飽和結合を備えた化合物は、後述する光重合開始剤より生じたラジカルによって重合して高分子量化する成分であり、モノマーやオリゴマー等と呼ばれる成分である。また、オリゴマーよりもさらに高分子量であるポリマーについてもエチレン性不飽和結合を備えたものが各種市販されている。このようなポリマーも上記モノマーやオリゴマーによって、又は当該ポリマー同士によって架橋されて高分子量化することができる。そこで、こうしたポリマーを、上記モノマーやオリゴマーとともにエチレン性不飽和結合を備えた化合物として用いてもよい。
【0020】
モノマーは、エチレン性不飽和結合を有し、上記のように重合して高分子量化する成分であるが、重合する前の状態では比較的低分子量の液体成分であることが多く、樹脂成分を溶解させてワニスとする際の溶媒とされたり、インキ組成物の粘度を調節したりする目的にも用いられる。モノマーとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を1つ備える単官能モノマーや、分子内にエチレン性不飽和結合を2つ以上備える2官能以上のモノマーが挙げられる。2官能以上のモノマーは、インキ組成物が硬化するのに際して分子と分子とを架橋することができるので、硬化速度を速めたり、強固な皮膜を形成させたりするのに寄与する。単官能のモノマーは、上記のような架橋能力を持たない反面、架橋に伴う硬化収縮を低減させるのに寄与する。これらのモノマーは、必要に応じて各種のものを組み合わせて用いることができる。
【0021】
単官能モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等のアルキルアクリレート、(メタ)アクリル酸、エチレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンモノメチロール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、アクリオロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシプロピルフタレート、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等を挙げることができる。これらの単官能モノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を意味する。
【0022】
2官能以上のモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2,4−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオ−ルジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールオクタンジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2,4−ペンタンジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオ−ルジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールオクタンジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレートトリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールFテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノーAジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエチレンオキサイド付加体ジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFテトラエチレンオキサイド付加体ジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート等の2官能モノマー;グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリカプロラクトネートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールヘキサントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能モノマー;トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールブタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールオクタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールポリアルキレンオキサイドヘプタ(メタ)アクリレート等の4官能以上のモノマー;等を挙げることができる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA;3官能)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DITMPTA;4官能)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA;6官能)、グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA;3官能)、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA;2官能)等を好ましく挙げることができる。これらの2官能以上のモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
また、モノマーの一種として、エポキシ化植物油をアクリル変性することにより得られるエポキシ化植物油アクリレートがある。これは、不飽和植物油の二重結合に過酢酸、過安息香酸等の酸化剤でエポキシ化したエポキシ化植物油のエポキシ基に、(メタ)アクリル酸を開環付加重合させた化合物である。不飽和植物油とは、少なくとも1つの脂肪酸が炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するトリグリセライドのことであり、アサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、キリ油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、大風子油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油等が例示される。この種のモノマーは、植物油を由来とするものなので、インキ組成物におけるバイオマス成分量を増加させるのに役立つ。エポキシ化植物油アクリレートは、各種のものが市販されているのでそれを用いてもよい。
【0024】
オリゴマーは、上記のように重合して高分子量化する成分であるが、もともとが比較的高分子量の成分であるので、インキ組成物に適度な粘性や弾性を付与する目的にも用いられる。オリゴマーとしては、エポキシ樹脂等といったエポキシ化合物に含まれるエポキシ基を酸や塩基で開環させた後に生じる水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステルに例示されるエポキシ変性(メタ)アクリレート、ロジン変性エポキシアクリレート、二塩基酸とジオールとの縮重合物の末端水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステルに例示されるポリエステル変性(メタ)アクリレート、ポリエーテル化合物の末端水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステルに例示されるポリエーテル変性(メタ)アクリレート、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との縮合物における末端水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステルに例示されるウレタン変性(メタ)アクリレート等を挙げることができる。このようなオリゴマーは市販されており、例えば、ダイセル・サイテック株式会社製のエベクリルシリーズ、サートマー社製のCN、SRシリーズ、東亜合成株式会社製のアロニックスM−6000シリーズ、7000シリーズ、8000シリーズ、アロニックスM−1100、アロニックスM−1200、アロニックスM−1600、新中村化学工業株式会社製のNKオリゴ等の商品名で入手することができる。これらのオリゴマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
エチレン性不飽和結合を備えたポリマーは、上述のモノマーやオリゴマーとともに高分子量化する成分であり、活性エネルギー線が照射される前から大きな分子量を備えているので、インキ組成物の粘弾性の向上に役立つ成分である。このようなポリマーは、例えば、低粘度の液体であるモノマー中に溶解又は分散された状態で用いられる。エチレン性不飽和結合を備えたポリマーとしては、ポリジアリルフタレート、未反応の不飽和基を備えたアクリル樹脂、アクリル変性フェノール樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、ポリジアリルフタレートは、上記モノマーやオリゴマーとの相溶性が特に優れているので好ましく用いることができる。
【0026】
インキ組成物中における、エチレン性不飽和結合を備えた化合物の含有量は、30〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。エチレン性不飽和結合を備えた化合物の含有量が上記の範囲であることにより、良好な硬化性と良好な印刷適性とを両立できる。また、エチレン性不飽和結合を備えたポリマーの含有量としては、0〜50質量%が好ましく、0〜30質量%がより好ましく、0〜20質量%がさらに好ましい。ポリマーの含有量が上記の範囲であることにより、インキ組成物に適度な粘弾性を付与してミスチング等の発生を抑制できるとともに、インキ組成物の良好な硬化性を確保することができるので好ましい。
【0027】
[光重合開始剤]
光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射を受けてラジカルを発生させる成分であり、生じたラジカルが上記エチレン性不飽和結合を備えた化合物を重合させ、インキ組成物を硬化させる。光重合開始剤としては、活性エネルギー線が照射された際にラジカルを生じさせるものであれば特に限定されない。
【0028】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ジエチルチオキサントン、2−メチル−1−(4−メチルチオ)フェニル−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス−2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンジル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン等が挙げられる。このような光重合開始剤は市販されており、例えばBASF社からイルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア184、イルガキュア379、イルガキュア819、TPO等の商品名で、Lamberti社からDETX等の商品名で入手することができる。これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
インキ組成物中における光重合開始剤の含有量としては、1〜20質量%が好ましく挙げられ、2〜15質量%がより好ましく挙げられ、2〜13質量%がさらに好ましく挙げられる。インキ組成物中における光重合開始剤の含有量が上記の範囲であることにより、インキ組成物の十分な硬化性と、良好な内部硬化性やコストとを両立できるので好ましい。なお、本発明のインキ組成物は、後述のエポキシ化油脂を含むことにより紫外線照射時の硬化性が向上しているので、従来の製品よりも光重合開始剤の含有量を削減することが可能である。そのため、実際の印刷条件を考慮しながら、光重合開始剤の使用量を適宜削減することが好ましい。
【0030】
[エポキシ化油脂]
本発明のインキ組成物は、エポキシ化油脂を含む。既に述べたように、本発明者らは、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物を用いて印刷を行う場合に、当該組成物の成分としてエポキシ化油脂を添加することにより紫外線照射量の少ない状況であっても印刷物の良好な乾燥が得られることを知見した。一般に、エポキシ基を有する化合物がラジカル反応系では重合反応を生じないことに鑑みれば、このような知見は極めて意外なものである。本発明は、このような意外な知見に基づいてなされたものであり、そのインキ組成物はエポキシ化油脂を含むものである。
【0031】
エポキシ化油脂は、少なくとも1つのエポキシ基を有する脂肪酸とアルコールとのエステルである。一般に「油脂」とは、脂肪酸とグリセリンとのエステル、すなわちトリグリセリドを指すが、本発明では、広く、脂肪酸とアルコール(モノオール又はポリオールであることを問わない。)とのエステルを「油脂」と呼ぶ。このようなアルコールとしては、グリセリン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、2−エチルヘキサノール等の炭素数1〜14のアルコールが例示されるが特に限定されない。グリセリン等のような多価アルコールの場合、当該多価アルコールには、少なくとも1つのエポキシ基を有する脂肪酸が少なくとも1つ縮合(すなわちエステル結合を形成)していればよく、少なくとも1つのエポキシ基を有する脂肪酸が複数個縮合していてもよい。この場合、それぞれの脂肪酸は互いに独立に選択されてもよい。このような油脂としては、植物油、動物油といったトリグリセリドの他、植物油や動物油等を由来とする脂肪酸と一価又は二価アルコールとのエステル(すなわち脂肪酸エステル)を挙げることができる。
【0032】
エポキシ基は、酸素原子が、既に互いに結合している2個の炭素原子のそれぞれに結合している、3員環状エーテル(オキシラン又はアルキレンオキシドとも呼ばれる)である。エポキシ化油脂としては、エポキシ化大豆油(ESO)、エポキシ化トウモロコシ油、エポキシ化ヒマワリ油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化カノーラ油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ベニバナ油、エポキシ化トール油、エポキシ化桐油、エポキシ化魚油、エポキシ化牛脂油、エポキシ化ヒマシ油、エポキシ化ステアリン酸メチル、エポキシ化ステアリン酸ブチル、エポキシ化2−エチルヘキシルステアレート、エポキシ化ステアリン酸ステアリル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートエポキシ化大豆油、エポキシ化プロピレングリコールジオレエート、エポキシ化パーム油、エポキシ化脂肪酸メチルエステル等が例示される。これらの中でもエポキシ化植物油が好ましく例示され、エポキシ化大豆油がさらに好ましく例示される。
【0033】
エポキシ化油脂は、多様な方法で調製することができる。例えば、油脂がトリグリセリドである場合のエポキシ化油脂は、脂肪酸部分に不飽和結合を備えた植物油又は動物油を適切な酸化剤や過酸化物により酸化することで得られる。また、油脂がトリグリセリドでない場合のエポキシ化油脂は、不飽和結合を備えた脂肪酸をアルコール(モノオール又はポリオールであることを問わない。)と反応させてエステル化、エステル交換又はエステル置換反応をさせることにより脂肪酸エステルを得て、さらにこれらの脂肪酸エステルを適切な酸化剤や過酸化物により酸化することで得られる。なお、これらの調製方法は一例であり、その他の調製方法を採用することもできるし、市販のエポキシ化油脂を購入して用いてもよい。
【0034】
既に述べたように、エポキシ化油脂を用いることは、インキ組成物中におけるバイオマス成分量を増やすことができるとの観点からも好ましい。活性エネルギー線硬化型のインキ組成物における必須の構成成分である上述のエチレン性不飽和結合を有する化合物は、溶解性パラメータ(sp値)が高く、sp値の低い植物油等と混合させることができない。そのため、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物に植物油等のバイオマス成分を加えることは困難だったが、植物油等の油脂に含まれる不飽和結合をエポキシ化することによりそのsp値を増大させることができるので、それが可能になる。これも本発明による効果の一つということができる。なお、本発明に用いられるエポキシ化油脂のsp値としては、9.0〜10.0程度が好ましく挙げられる。
【0035】
インキ組成物中におけるエポキシ化油脂の含有量としては、1〜50質量%を好ましく挙げることができる。インキ組成物中におけるエポキシ化油脂の含有量がこの範囲であることにより、印刷物の良好な硬化性と光沢を得ることができる。インキ組成物中におけるエポキシ化油脂の含有量は、1〜30質量%であることがより好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
[着色成分]
本発明のインキ組成物には、必要に応じて着色成分を添加することができる。着色成分は、インキ組成物に着色力や隠蔽力等を付与するために添加される成分であり、着色顔料、白色顔料、金属パウダー等が挙げられる。このような着色成分としては、従来からインキ組成物に使用されている有機及び/又は無機顔料を特に制限無く挙げることができる。なお、本発明のインキ組成物が着色成分を含まない場合にはコーティング用途等に好ましく用いられる。
【0037】
着色成分としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー14、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、酸化チタン等の白色顔料、アルミニウムペースト、ブロンズパウダー等の金属パウダー等が例示される。
【0038】
着色成分の含有量としては、インキ組成物の全体に対して1〜30質量%程度が例示されるが、特に限定されない。なお、着色されたインキ組成物を調製する場合、補色として他の色の着色成分を併用したり、他の色のインキ組成物を添加したりすることも可能である。
【0039】
[その他の成分]
本発明のインキ組成物には、上記の各成分に加えて、必要に応じて他の成分を添加することができる。そのような成分としては、体質顔料、樹脂成分、重合禁止剤、分散剤、リン酸塩等の塩類、ポリエチレン系ワックス・オレフィン系ワックス・フィッシャートロプシュワックス等のワックス類、アルコール類等が挙げられる。
【0040】
体質顔料は、インキ組成物に適度な印刷適性や粘弾性等の特性を付与するための成分であり、インキ組成物の調製において通常用いられる各種のものを用いることができる。このような体質顔料としては、クレー、カオリナイト(カオリン)、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素(シリカ)、ベントナイト、タルク、マイカ、酸化チタン等が例示される。こうした体質顔料の添加量としては、インキ組成物全体に対して0〜33質量%程度が例示されるが、特に限定されない。
【0041】
樹脂成分は、インキ組成物に適度な印刷適性や粘弾性等の特性を付与するのに寄与する成分である。このような樹脂成分としては、従来から印刷用のインキ組成物用途に用いられてきた各種の樹脂を挙げることができるが、上記モノマーやオリゴマーとの相溶性を有するものであることが好ましく、スチレン−アクリル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性石油樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、植物油変性アルキド樹脂、石油樹脂等を挙げることができる。
【0042】
インキ組成物中に樹脂成分を添加する場合、インキ組成物中におけるその含有量は、1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、1〜10質量%がさらに好ましい。樹脂成分の含有量が上記の範囲であることにより、インキ組成物に適度な粘弾性を付与してミスチング等の発生を抑制できるとともに、インキ組成物の良好な硬化性を確保することができるので好ましい。
【0043】
重合禁止剤としては、ブチルヒドロキシトルエン等のフェノール化合物や、酢酸トコフェロール、ニトロソアミン、ベンゾトリアゾール、ヒンダードアミン等を好ましく例示することができ、中でもブチルヒドロキシトルエンをより好ましく例示することができる。インキ組成物にこのような重合禁止剤が添加されることにより、保存時に重合反応が進行してインキ組成物が増粘するのを抑制できる。インキ組成物中の重合禁止剤の含有量としては、0.01〜1質量%程度を例示することができる。
【0044】
分散剤は、インキ組成物中に含まれる着色成分や体質顔料を良好な状態に分散させるために用いられる。このような分散剤は、各種のものが市販されており、例えばビックケミー・ジャパン株式会社製のDISPERBYK(商品名)シリーズ等を挙げることができる。
【0045】
上記の各成分を用いて本発明のインキ組成物を製造するには、従来公知の方法を適用できる。このような方法としては、上記の各成分を混合した後にビーズミルや三本ロールミル等で練肉して顔料(すなわち着色成分及び体質顔料)を分散させた後、必要に応じて添加剤(重合禁止剤、アルコール類、ワックス類等)を加え、さらに上記モノマー成分や油成分の添加により粘度調整することが例示される。インキ組成物における粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が10〜70Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【0046】
<印刷物の製造方法>
上記本発明の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物を用いて印刷を行うことを特徴とする印刷物の製造方法も本発明の一つである。本発明の印刷物の製造方法は、本発明のインキ組成物を用いることを除いて、通常のオフセット平版印刷技術を用いて実施されるものである。このときに用いられるオフセット平版印刷は、湿し水を用いた水ありの印刷方式であってもよいし、専用の平版印刷版を用いることにより湿し水を用いずに印刷を行う水なしの印刷方式であってもよい。
【0047】
オフセット平版印刷により作製された未乾燥状態の印刷物に対して活性エネルギー線の照射を行うことにより、未乾燥状態の印刷物は瞬時に乾燥状態となる。これは、印刷用紙の表面に存在するインキ組成物が、活性エネルギー線の照射により硬化することで実現される。活性エネルギー線としては、電子線や紫外線等公知のものを採用することができるが、設置コストや運用の容易さ等の面からは紫外線が好ましく用いられる。なお、本発明のインキ組成物は、低出力の紫外線ランプを用いた場合でも良好な硬化性を示すので、低出力の紫外線ランプやLEDランプを用いた省エネルギー対応の印刷にも好ましく適用される。このようにして得られた印刷物が、情報を伝達したり鑑賞の対象となったりすること等のみならず、パッケージ等の用途に用いることができることは言うまでもない。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は質量部を意味する。
【0049】
[ワニスの調製]
ポリジアリルフタレート(株式会社大阪ソーダ製、A−DAP)20質量部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DI−TMPTA)79質量部、及びメチルヒドロキノン1質量%の混合物を100℃で60分間加熱することで溶解させ、ワニスを調製した。このワニスを以下に述べる各インキ組成物の調製に用いた。
【0050】
[インキ組成物の調製]
カーボンブラック(三菱化学株式会社製、MA−70)、上述のワニス、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DI−TMPTA)、エポキシ化大豆油(ADEKA株式会社製、O−130P、オキシラン酸素濃度6.9%)、イルガキュア907(商品名、BASF社製、光重合開始剤)、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン(EAB、光重合開始剤)、大豆油(表2のみ)、及び亜麻仁油(表2のみ)の各成分を表1及び2に記載した配合量で混合した後、三本ロールで混練することにより、実施例1〜7、比較例1〜6及び参考例1の各インキ組成物を調製した。なお、表1及び2に示した各配合量の数値は質量部である。調製された各インキ組成物の状態を調べ、相溶性が良好で析出物の存在しないものについては表1及び2の相溶性欄に○を記載し、相溶性が不良で析出物の存在するものについては表1及び2の相溶性欄に×を記載した。析出物を生じたインキ組成物については、もはや印刷への使用は不可能なので以下の評価を実施していない。
【0051】
[硬化性評価]
用紙にインキ組成物を展色し、その展色面に紫外線を照射すると、インキ組成物に含まれる重合性化合物(エチレン性不飽和結合を有する化合物)がラジカル重合することにより用紙表面に存在するインキ組成物が硬化し乾燥する。その際、硬化が不十分だと、時間の経過とともに用紙表面のインキ組成物が用紙の内部へ沈み込む。このことは、経時における紙面濃度の低下や、表面平滑性が失われることに伴う光沢の低下として観察される。そこで、各実施例、比較例及び参考例のインキ組成物のそれぞれについて、用紙にインキ組成物を展色後硬化させ、硬化直後及びそれから24時間経過後の紙面濃度の差、及び硬化から24時間経過後の光沢値を求めることにより硬化性を評価した。すなわち、硬化性が良好なインキ組成物は紙面濃度の差が小さくなる一方で、光沢値が大きくなり、硬化性が悪いインキ組成物であるほど紙面濃度の差が大きくなり、光沢値が小さくなる。評価手順は、次の通りである。
【0052】
まず、実施例、比較例及び参考例の各インキ組成物のそれぞれについて、インキ組成物0.1ccを、RI展色機(2分割ロール、株式会社明製作所製)を用いて塗工紙(日本製紙株式会社製、オーロラコート)に展色した後に、40mJ/cmの紫外線を照射して硬化させ、硬化直後の濃度をSpectroeye濃度計(Gretagmacbeth社製)により測定した後に、室内で24時間放置してから再度濃度を測定した。そして、硬化直後の濃度値から24時間経過後の濃度値を引いたものを表面濃度変化量とした。得られた結果を表1及び2の「表面濃度変化量(40mJ/cm)」欄に記載した。また、硬化後に室内で24時間放置したサンプルについて、村上式デジタル光沢計(村上色彩研究所製)を用いて60°反射光沢値を求めた。その結果を表1及び2の「光沢値(40mJ/cm)」欄に記載した。さらに、紫外線の照射量を24mJ/cmとして同様の評価を行い、その結果を表1及び2の「表面濃度変化量(24mJ/cm)」欄、及び「光沢値(24mJ/cm)」欄に記載した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1及び2に記載した実施例及び比較例について、組成物中における開始剤総量が同じもの同士を比較すると、エポキシ化大豆油を含む各実施例のほうが表面濃度変化量が小さくなり、明らかに硬化性が向上していると理解できる。また、実施例3と参考例1とを比較すると、組成物中にエポキシ化大豆油を10質量%含むことにより光重合開始剤の量を半分以下にまで削減できることがわかる。また、実施例1のインキ組成物では紫外線照射量が24mJ/cmであっても、参考例1における紫外線照射量が40mJ/cmである場合と同様の硬化性を示すことがわかる。このことは、エポキシ化大豆油を用いることにより、より少ない紫外線の照射量でインキ組成物を硬化できることを示している。