特許第6889569号(P6889569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社NBCメッシュテックの特許一覧

<>
  • 特許6889569-有機ガス低減装置 図000003
  • 特許6889569-有機ガス低減装置 図000004
  • 特許6889569-有機ガス低減装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6889569
(24)【登録日】2021年5月25日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】有機ガス低減装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/03 20060101AFI20210607BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20210607BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20210607BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20210607BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   B01J29/03 A
   B01D53/86 280
   B01J35/10 301F
   A61L9/00 C
   A61L9/01 B
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-32483(P2017-32483)
(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2018-134614(P2018-134614A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
(72)【発明者】
【氏名】直原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 真
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−160175(JP,A)
【文献】 特開2006−327854(JP,A)
【文献】 特開2011−121004(JP,A)
【文献】 特開2014−213271(JP,A)
【文献】 特開2006−288689(JP,A)
【文献】 特開2013−059760(JP,A)
【文献】 ゼオライト,一般社団法人日本ゼオライト学会,2015年,Vol.32, No.4,pp113-121,特に第113頁左欄第1行−第114頁左欄下から1行、第115頁右欄第1−9行の記載参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
A61L 9/00
A61L 9/01
B01D 53/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理気体中の有機ガスを低減する有機ガス低減装置であって、
面にメソ孔を有する膜状支持体と、前記メソ孔に担持される酸化触媒粒子とを有する酸化触媒部が配置される、通気性を有する部材と、
前記酸化触媒部を加熱する加熱部と、を備え
前記膜状支持体の膜厚が50nm以上1000nm以下であり、
前記酸化触媒粒子が、白金、パラジウムおよびこれらの酸化物からなる群から選択される1種または2種以上の物質を含む酸化触媒粒子であることを特徴とする有機ガス低減装置。
【請求項2】
前記加熱部が前記酸化触媒部を80℃以上に加熱することを特徴とする請求項1に記載の有機ガス低減装置。
【請求項3】
前記加熱部は、断続的に稼動することを特徴とする請求項1もしくは2に記載の有機ガス低減装置。
【請求項4】
前記有機ガスがエチレンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の有機ガス低減装置。
【請求項5】
前記膜状支持体がSiO2で形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の有機ガス低減装置。
【請求項6】
前記メソ孔のBET法で測定した平均孔径が2nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項からのいずれか一つに記載の有機ガス低減装置。
【請求項7】
前記酸化触媒粒子の平均粒径が1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項からのいずれか一つに記載の有機ガス低減装置。
【請求項8】
前記酸化触媒部に被処理気体を供給する気体供給部をさらに備えることを特徴とする請求項1からのいずれか一つに記載の有機ガス低減装置。
【請求項9】
前記気体供給部が処理気体を前記酸化触媒部に送風する送風機構を有しており、前記送風機構による送風の空間速度が10,000/h以上150,000/h以下であることを特徴とする請求項に記載の有機ガス低減装置。
【請求項10】
前記酸化触媒部を有する前記部材の空気流通方向上流側に抗菌性、防カビ性、抗ウイルス性のうち少なくとも一つを有する化合物を担持した部材をさらに有することを特徴とする請求項もしくはに記載の有機ガス低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理気体中のエチレンなどの有機ガス成分を酸化する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や工場などの内燃機関から発生する排気ガスには微量の一酸化炭素などの有害成分が含まれるため、除去手段を用いてこれらを除去してから大気中に放出されている。また、密閉した保管庫などでは微量の悪臭物質が産生されカビ臭が発生する場合があり、種々の除去手段が施されている。
また、農産物からは熟成作用を有するエチレンが放出され、自身の熟成を進行させている。そのため、温度、湿度を一定に保つとともにこのエチレンガス濃度を低減することが、鮮度を長期間保持するために有効であるとされている。
【0003】
大気中の有機微量成分を除去する方法は活性炭などの吸着剤への吸着、プラズマ発生装置によるラジカルや、オゾンなど活性種による分解除去方法などが用いられている。しかしながら、プラズマなど活性種を用いた処理方法は農作物の保管においては脱色等の見掛け上の変化が懸念されるため使用が難しく、対象用途に制限がある。吸着剤による吸着処理では吸着剤の有機ガス吸着量には上限があり、定期的な吸着剤の交換もしく再生が必要である。そのため加熱による性能回復処理を行い、繰り返し使用可能な脱臭フィルターが開示されている(特許文献1)。
【0004】
有機成分を分解除去する方法においては、上述のプラズマ法のように物理的に発生させた活性種を用いる方法以外に、触媒を用いて酸化除去する方法も広く用いられ、鮮度保持装置に応用されている(特許文献2)。酸化触媒は接触面積を広くするため、無機粒子である担体に活性物質(触媒粒子)を担持させた構造体が使用されている(特許文献2、3)。また、無機系多孔質担体に担持された酸化触媒(特許文献6)や、活性物質を多孔質化した膜で揮発性有機化合物を処理する方法が開示されている(特許文献7)。さらに、シリンダー状のメソ孔を有する無機メソポーラス担体の細孔内に触媒粒子を担持させる触媒体も開発されており、無機粒子の外表面に触媒粒子を担持させた触媒体や活性物質を多孔質化した膜と比較して、非常に広い比表面積を有し活性の高い触媒体が得られている(特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−023968号公報
【特許文献2】特開2016−090088号公報
【特許文献3】特開2003−080077号公報
【特許文献4】特開2004−283770号公報
【特許文献5】特開2007−326094号公報
【特許文献6】特開2011−206672号公報
【特許文献7】特開2006−326530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のシリンダー状のメソポーラス担体に酸化触媒粒子を担持させた触媒体は、当初の触媒活性は高いが使用とともに触媒活性が低下していくという問題点がある。その原因ははっきりとは分かっていないが、細孔中に大気中の水分や酸化反応で生じた水が吸着することにより、触媒粒子と被処理気体との接触が阻害されて有害成分の分解反応が進行しない、あるいは細孔が吸着水で封止されてしまい、被処理気体の細孔内への流通自体が阻害されてしまうことなどが考えられる。
本発明は、被処理気体中の有機ガスを酸化触媒によって酸化するにあたり、その触媒の活性をより持続できる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 被処理気体中の有機ガスを低減する有機ガス低減装置であって、
通気性を有し、その表面にメソ孔と当該メソ孔に担持される白金、パラジウムの単体およびこれらの酸化物からなる群から1種または2種以上選択される物質を含む酸化触媒粒子とを有する酸化触媒部が配置されている部材と、
前記酸化触媒部を加熱する加熱部と、を備えることを特徴とする有機ガス低減装置。
[2] 前記加熱部が前記酸化触媒部を80℃以上に加熱することを特徴とする[1]に記載の有機ガス低減装置。
[3] 前記加熱部は、断続的に稼動することを特徴とする[1]もしくは[2]に記載の有機ガス低減装置。
[4] 前記有機ガスがエチレンであることを特徴とする[1]から[3]のいずれか一つに記載の有機ガス低減装置。
[5] 前記酸化触媒部がメソ孔を有する膜状支持体を有し、当該膜状支持体のメソ孔において前記酸化触媒粒子が担持されていることを特徴とする[1]から[4]のいずれか1つに記載の有機ガス低減装置。
[6] 前記膜状支持体の膜厚が50nm以上1000nm以下であることを特徴とする[5]に記載の有機ガス低減装置。
[7] 前記膜状支持体がSiO2で形成されていることを特徴とする[5]もしくは[6]に記載の有機ガス低減装置。
[8] 前記メソ孔のBET法で測定した平均孔径が2nm以上10nm以下であることを特徴とする[5]から[7]のいずれか一つに記載の有機ガス低減装置。
[9] 前記酸化触媒粒子の平均粒径が1nm以上10nm以下であることを特徴とする[5]から[8]のいずれか一つに記載の有機ガス低減装置。
[10] 前記酸化触媒体に被処理気体を供給する気体供給部をさらに備える[1]から[9]のいずれか一つに記載の有機ガス低減装置。
[11] 前記気体供給部が非処理気体を前記酸化触媒部に送風する送風機構を有しており、前記送風機構による送風の空間速度が10,000/h以上150,000/h以下であることを特徴とする[10]に記載の有機ガス低減装置。
[12] 前記酸化触媒部を有する部材の空気流通方向上流側に抗菌性、防カビ性、抗ウイルス性のうち少なくとも一つを有する化合物を担持した部材をさらに有することを特徴とする[10]もしくは[11]に記載の有機ガス低減装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被処理気体中の有機ガスを酸化触媒によって酸化するにあたり、その触媒の活性をより持続できる新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の有機ガス低減装置の、1の態様の概要を示す図である。
図2】本発明の有機ガス低減装置が備える酸化触媒粒子が担持された膜状支持体を有する部材の、1の態様の概要を示す図である。
図3】本発明の有機ガス低減装置が備える酸化触媒粒子が担持された膜状支持体を有する部材の、他の態様の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一つについて詳述する。
図1は本実施形態の有機ガス低減装置の概要を示す図である。図2図3は本実施形態に係る白金、パラジウムの単体および酸化物からなる群から1種または2種以上選択される物質を含む酸化触媒粒子(以下、単に酸化触媒粒子という場合もある)が担持された膜状支持体を有する部材の概要を示す図である。なお、図面において、実線の矢印は空気の移動方向を表し、また、破線の矢印は空気の酸化触媒層33における拡散を表す。
本実施形態の有機ガス低減装置100は、大気などの被処理気体中の有機ガスを酸化して、例えば青果物や花卉の生育に良好な大気状態を提供するために使用できる装置である。本実施形態の有機ガス低減装置100は、通気性を有し、その表面にメソ孔と当該メソ孔に担持される酸化触媒粒子とを有する酸化触媒部33が配置されている部材30と、膜状支持体に被処理気体を供給する気体供給部10と、酸化触媒部を加熱する加熱部36と、を備える。加熱部36により酸化触媒部を加熱することで、水分の影響で酸化触媒部における有機ガスの酸化する機能が低下した場合にもその機能を再生することができる。その結果、触媒の活性の持続に寄与することができる。
【0011】
また、本実施形態において、酸化触媒部33は、気体が通気可能なメソ孔径の細孔(メソ孔)を有する多孔質である膜状支持体34を有しており、当該膜状支持体34のメソ孔内において酸化触媒粒子が担持されている(酸化触媒粒子が担持されている膜状支持体を以下、単に酸化触媒層ともいう)。気体供給部10から供給される被処理気体が当該酸化触媒層33に拡散浸透して、含有する有機ガス成分が酸化触媒層33中の酸化触媒粒子によって酸化除去される。
【0012】
まず、酸化触媒層33について説明する。
酸化触媒層33はその形状を保持するため、フィルター状やメッシュ状など通気可能な基材31の通気部分35表面に膜状に形成される。基材31は、気体が透過できる構造の部材ならば、板状、シート状あるいは多孔質なブロック体でも構わない。多孔質なブロック体として、ハニカム状の空隙を有する部材は表面積が広く通気性の良好な形態であり好ましい。
【0013】
本実施形態の酸化触媒層33は膜状であるため、粉体状のような凝集形態はとらないので、酸化触媒粒子が存在するメソ孔と被処理気体の気流までの距離は、粉体状など他の形状のメソポーラス触媒体と比較して短い。したがって、本実施形態の酸化触媒層33のメソ孔内に気体中の水分が吸着した場合、被処理気体気流への濃度勾配が発生し、気流への吸着水の再拡散が進行し、結果として吸着水が一定量に抑制される効果がある。一方従来の粉末状のメソポーラス触媒体は紛体内部のメソ孔から気流までの距離が相対的に長く、特に紛体内部に吸着した水分の脱離が起き難い状態になっているため、吸着水によるメソ孔内の酸化触媒の触媒活性の低下が引き起こされるものと推察される。さらに、本実施形態の酸化触媒層33は後述する加熱部38によって酸化触媒層33が加熱されることによりメソ孔内部まで伝わった熱によって吸着した水分を効率よく脱着することができ、好ましい。
【0014】
本実施形態の基材31上に形成される酸化触媒層33の膜厚は50nm以上1000nm以下であることが望ましい。50nm未満であると酸化触媒の絶対量が低減するので、範囲内にある場合と比較して被処理気体中の有機ガス成分を十分酸化処理するのが困難になる。1000nmより大きいと、被処理気体から離れた位置に存在するメソ孔に吸着した水分は再放出されにくくなり、細孔内に吸着する水分量が増加し、酸化触媒粒子の作用を阻害するため、範囲内にある場合と比較して酸化触媒層の触媒効率が低下する。なお、本実施形態の酸化触媒層33の膜厚は膜の断面をTEM観察し、断面画像のサイズを測ることにより測定することができる。
【0015】
本実施形態の酸化触媒層33は、被処理気体中の有機成分である有機ガスを酸化反応で二酸化炭素や水などに処理して大気中に排出できる。本実施形態の酸化触媒層33において処理可能な気体としては、特に限定されないが、農産物や花卉などの植物から発せられる化合物や、自動車の内装材、住宅の建材・内装材、家電の筐体・部材などの素材から揮発する物質、塗料、接着剤、洗浄剤などの有機溶剤から揮発する物質が挙げられる。具体的には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、イソプレン、ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン、α−ファルネセン、β−ファルネセンなどの炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパン−1−オール、ブタン−1−オール、ペンタン−1−オール、ヘキサン−1−オール、ヘプタン−1−オール、オクタン−1−オール、トランス−2−ヘキセノール、シス−2−ヘキセノール、トランス−3−ヘキセノール、シス−3−ヘキセノール、リナロール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ノナナール、ベンズアルデヒド、ヘキサナール、トランス−2−ヘキセナール、シス−2−ヘキサナール、トランス−2−オクテナール、トランス−2−ノネナール、シス−2−ノネナール、トランス,シス−2,6−ノナジエナール、トランス,シス−2,4−デカジエンナールなどのアルデヒド類、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどのケトン類、蟻酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸オクチル、酢酸ヘキシル、酢酸ベンジル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル、サリチル酸メチル、カプロン酸エチル 吉草酸ペンチル、エチル−2−メチルプロパネート、エチルブタノエート、メチル−2−メチルブタノネート、エチル−2−メチルブタノエート、エチル−3−メチルブタノエート、メチル−3−ヒドロキシブタノエート、メチルヘキサノエート、エチルヘキサノエート、ヘキシルヘキサノエート、メチル−3−ヒドロキシヘキサノエート、オクチルヘキサノエート、エチルオクタノエート、メチル−3−ヒドロキシオクタノエート、ニコチン酸エチル、γ−ヘキサラクトン、γ−オクタラクトン、δ−オクタラクトン、γ−デカラクトン、δ−デカラクトン、γ−ドデカラクトン、δ−ドデカラクトンなどのエステル類、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、2−メチルプロパン酸、2−メチルブタン酸などのカルボン酸類、トランス−ネロリドール、シス−ネロリドール、ファルネソールなどのテルペン類やオイゲノール、バニリンなどのフェノール類などが例示される。
【0016】
本実施形態の酸化触媒層33の構成要素である膜状支持体34は、メソ孔である細孔を有する。本明細書において、メソ孔とは1の表面における開口部が同一のまたは異なる表面における他の開口部と連通している、BET法で求めた直径が2nm以上50 nm 以下である細孔を指す。
メソ孔の形状やその開口部の位置関係などは特に限定されず、例えば膜状支持体34の上面と下面が直線状に連通したシリンダー形状でも、メソ孔が支持体内部で分岐して他の細孔とつながっているようないわゆる連通構造でもよい。連通構造はより多くの開口部がつながっているので、支持体内部に水分が付着しても通気性が損なわれにくいため、連通構造のほうがより好ましい。
【0017】
ここで、メソ孔のBET法による平均直径が2nm以上10nm以下であることが、担持される酸化触媒粒子の粒径も当該範囲内になり、より高活性の触媒体が得られるので好ましい。なお、本実施形態に係る支持体34が有する細孔の直径はBET法による自動比表面積/細孔分布測定装置を用いて算出した値である。
【0018】
本実施形態においては、膜状支持体34が有するメソ孔において酸化触媒粒子が担持される。酸化触媒粒子は、酸化分解反応を促進する触媒機能を有する白金もしくはパラジウムの粒子を単独もしくは併用して用いることができる。
【0019】
また、酸化触媒粒子の平均粒径が10nm以下(より好ましくは1nm以上10nm以下、さらにより好ましくは1nm以上6nm以下)であれば、酸化触媒粒子の比表面積が増大し触媒活性が飛躍的に向上して被処理気体中の有機ガスの酸化効率がさらに高まるので、好ましい。
なお、酸化触媒粒子の粒径は透過型電子顕微鏡(TEM)の画像写真での粒子サイズを算出し、その平均値として粒径を得ることができる。
【0020】
これらの酸化触媒粒子は酸化触媒層33に対して、0.1〜20質量%担持されることが好ましく、0.5〜10質量%とするのがより好ましい。20質量%より多く担持させると、酸化触媒粒子同士が凝集しやすくなり、範囲内にある場合と比較して触媒活性が減少し、0.1質量%未満では範囲内にある場合と比較して十分な触媒活性が得られないので好ましくない。
【0021】
なお、酸化触媒層においては、酸化触媒粒子に加えて、助触媒粒子や各種金属元素などを含んでいてもよく、特に限定されない。具体的には、助触媒と酸化触媒粒子を組み合わせた助触媒粒子と酸化触媒微粒子が混在するものや、各種金属元素を触媒粒子と複合化させた複合粒子からなる複合触媒であってもよい。酸化触媒粒子単独の場合や酸化触媒粒子に助触媒を混合させた場合には、酸化触媒粒子が上述の大きさの範囲内であればよい。助触媒または複合触媒において用いる触媒粒子以外の金属粒子(ナノ粒子)としては、卑金属およびそれらの酸化物などが挙げられる。これらの貴金属およびその酸化物、卑金属およびその酸化物の粒子は2種以上混合されて、膜状支持体34細孔内表面に担持されてもよい。
【0022】
本実施形態に係るメソ孔を有する膜状支持体34は、メソ孔を有し、そのメソ孔内に酸化触媒粒子を担持させることができればどのようなものでもよいが、鋳型となる化合物を用いてメソ孔を形成し、当該化合物を加熱除去する工程を含んで製造される場合があることも考慮すると、加熱温度以上で劣化を生じない材料であることが好ましい。
【0023】
膜状支持体34を構成する金属酸化物としては、例えば、γ-Al2O3、α-Al2O3、θ-Al2O3、η-Al2O3、アモルファスのAl2O3、TiO2、ZrO2、SnO2、SiO2、MgO、ZnO2、Bi2O3、In2O3、MnO2、Mn2O3、Nb2O5、FeO、Fe2O3、Fe3O4、Sb2O3、CuO、Cu2O、NiO、Ni3O4、Ni2O3、CoO、Co3O4、Co2O3、WO3、CeO2、Pr6O11、Y2O3、In2O3、PbO、ThO2などの単一の無機酸化物が挙げられる。また、例えば、SiO2−Al2O3、SiO2−B2O3、SiO2−P2O5、SiO2−TiO2、SiO2−ZrO2、Al2O3−TiO2、Al2O3−ZrO2、Al2O3−CaO、Al2O3−B2O3、Al2O3−P2O5、Al2O3−CeO2、Al2O3−Fe2O3、TiO2−CeO2、TiO2−ZrO2、TiO2−WO3、ZrO2−WO3、SnO2−WO3、CeO2−ZrO2、SiO2−TiO2−ZrO2、Al2O3−TiO2−ZrO2、SiO2−Al2O3−TiO2、SiO2−TiO2−CeO2、セリウム・ジルコニウム・ビスマス複合酸化物などの複合酸化物で膜状支持体34が構成されるようにしてもよい。尚、セリウム・ジルコニウム・ビスマス複合酸化物は一般式Ce1−X−YZrBi2−δで表わされる固溶体であり、X、Y、δの値がそれぞれ0.1≦X≦0.3、0.1≦Y≦0.3、0.05≦δ≦0.15の範囲である。
【0024】
膜状支持体34の材質は本実施形態の有機ガス低減装置100が使用される諸環境条件に応じて選択すればよい。SiO2は酸化触媒粒子をより強固に担持できるとともに基材とより強固に接着できるのでより望ましい。
【0025】
本実施形態の酸化触媒層33は上述のとおり基材31上に形成される。基材31上に本実施形態の酸化触媒層33を形成することで容易に本実施形態の酸化触媒層33の膜厚を薄く作製することができるため、好ましい。基材31は、通気性を有する限りその形状は特に限定されず、例えば、パンチング加工により多数の貫通孔が形成されているシート状のものや、繊維状、布状、メッシュ状で、織物、網物、不織布などから構成される繊維構造体(フィルター状)とすることができる。その他、使用目的に合った種々の形状及びサイズ等のものを適宜利用できる。
基材31を用いることで、容易に支持体の膜状の形状を維持することができる。
【0026】
基材31は酸化触媒層33の膜状支持体34を形成する際に加熱する場合があるため、当該加熱温度に耐える耐熱性を有する材料を用いることが望ましい。具体的には金属材料、セラミックス、ガラス、炭素繊維、炭化珪素繊維や耐熱性有機高分子材料などが好ましく、さらには金属、金属酸化物、ガラスがより好ましい。
【0027】
基材31に用いられる金属材料としては、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、TZM(Titanium Zirconium Molybdenum)、W−Re(tungsten-rhenium)などの高融点金属や、銀、ルテニウムなどの貴金属及びそれらの合金または酸化物、チタン、ニッケル、ジルコニウム、クロム、インコネル、ハステロイなどの特殊金属、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、亜鉛、マグネシウム、鉄などの汎用金属およびこれら汎用金属を含む合金またはこれら汎用金属の酸化物を用いることができる。また、各種めっき及び真空蒸着や、CVD法や、スパッタ法などにより、上述した金属、合金または酸化物の被膜を他の無機材料に形成して用いてもよい。
【0028】
なお、上述した金属表面及びその合金表面には、通常、自然酸化薄膜が形成されており、膜状支持体34をシラン化合物から形成する場合、この自然酸化薄膜を利用して基材31と膜状支持体34を強固に固定させることができる。この場合には、予め、酸化薄膜の表面に付着している油分や汚れを通常の公知の方法により除去することが、安定に、かつ、強固に固定するためには好ましい。また、自然酸化膜を利用する代わりに、金属表面又は合金表面に、公知の方法により化学的に酸化薄膜を形成したり、陽極酸化などの電気化学的な公知の方法により酸化薄膜を形成してもよい。
【0029】
さらに、基材31に用いられるセラミックスとしては、土器、陶器、せっ器、磁気などの陶磁器、ガラス、セメント、石膏、ほうろう及びファインセラミックスなどのセラミックスを挙げることができる。構成するセラミックスの組成は、元素系、酸化物系、水酸化物系、炭化物系、炭酸塩系、窒化物系、ハロゲン化物系、及びリン酸塩系などのセラミックスを挙げることができ、また、それらの複合物でもよい。
【0030】
また、基材31に用いられるセラミックスとしては、さらに、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ニューカーボン、ニューガラスなどや、高強度セラミックス、機能性セラミックス、超伝導セラミックス、非線形光学セラミックス、抗菌性セラミックス、生分解性セラミックス、及びバイオセラミックスなどのセラミックスを挙げることができる。
【0031】
また、基材31に用いられるガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、カルコゲンガラス、ウランガラス、水ガラス、偏光ガラス、強化ガラス、合わせガラス、耐熱ガラス・硼珪酸ガラス、防弾ガラス、ガラス繊維、ダイクロ、ゴールドストーン(茶金石・砂金石・紫金石)、ガラスセラミックス、低融点ガラス、金属ガラス、及びサフィレットなどのガラスを用いることが可能である。
【0032】
また、基材31にはその他に、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及びポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材を添加した混合セメントである高炉セメント、シリカセメント、及びフライアッシュセメントなどのセメントを使用することが可能である。
【0033】
また、基材31にはその他に、チタニア、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、ゼオライト、アパタイト、シリカ、活性炭、珪藻土などを使用することができる。さらに、基材31には、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、錫などからなる金属酸化物を用いることも可能である。
さらに、基材31には、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアラミド、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリキノリン、ポリキノキサリン、フッ素樹脂などや、フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などの当業者に公知な耐熱性有機高分子材料を用いることも可能である。
【0034】
次に、本実施形態の酸化触媒層33を得る方法の一例について説明する。酸化触媒層33は通気性を有する基材31上にメソ孔径の細孔を有する膜状支持体34を形成し、得られた膜状支持体34のメソ孔内に酸化触媒粒子を担持させることにより得ることができる。
【0035】
当該方法においては、まず、膜状支持体34を形成する。
メソ孔を有する膜状の支持体34は、例えば、支持体内部のメソ孔の鋳型として作用する物質が含有している状態で基材31上に膜状の前駆体を形成し、その後鋳型として作用する物質を分解除去することで得ることができる。
【0036】
当該方法の一例について説明する。まず、鋳型となる界面活性剤とアルコキシシランもしくは金属アルコキシドの加水分解物とを含む溶液(以下、前駆体溶液と称する)を調製する。具体的には、鋳型となる界面活性剤を溶解した溶液にアルコキシシランもしくは金属アルコキシドを加え、pH調整を行ってアルコキシシランもしくは金属アルコキシドを加水分解する。これによりシラノール基もしくは金属水酸化物を生成させる。界面活性剤は溶液中でミセルを形成しメソ孔の鋳型となる。この前駆体溶液を基材31に塗布し、加熱することで溶媒を揮散させるとともに、シラノール基もしくは金属水酸化物を縮合硬化させて、部材表面に膜状支持体34の前駆体を形成させる。その後、さらに300℃以上の高温に焼成することで、前駆体中の鋳型である界面活性剤を分解揮発させることにより除去し、メソ孔を有する膜状支持体34が得られる。
【0037】
前駆体溶液は、例えば、(1)アルコキシシランもしくは金属アルコキシド、(2)溶媒(溶剤)、(3)界面活性剤の3つの成分を含んで構成することができる。アルコキシシランもしくは金属アルコキシドについて溶液中で加水分解処理を行う場合には水が必要なので、溶媒には水や、水とメタノールやエタノールといったアルコール類などの水溶性有機溶媒との混合溶媒とすることが好ましい。また、アルコキシシランもしくは金属アルコキシドの加水分解処理のための触媒が溶液中にさらに含まれるようにしてもよく、当該触媒としては硝酸、塩酸等の酸を用いることが好ましい。
なお、界面活性剤やアルコキシシランもしくは金属アルコキシドの割合は特に限定されず、適宜設定できる。界面活性剤/アルコキシシランもしくは金属アルコキシドのモル比を変えることで、得られる膜状支持体の細孔体積率、多孔度を制御することができる。
【0038】
基材31への塗布の前に前駆体溶液中に沈殿物を生成させないことがより均一な膜厚の膜状支持体34を得るために好ましく、pHが酸性のアルコール溶液を用いることで前駆体の沈殿を回避できる。別法としては、水とアルコキシシランもしくは金属アルコキシドのモル比だけを調節するかpH調整と共にモル比を調節し、或いはアルコールを添加し、またはモル比調節とアルコール添加の両方を行うことで沈殿を回避することもできる。
【0039】
界面活性剤としてはポリオキシエチレンエーテルやポリアルキレンオキシドブロックコポリマーなどが使用できる。ポリオキシエチレンエーテルとしてはC12H25(CH2CH2O)10OH、C16H33(CH2CH2O)10OH、C18H37(CH2CH2O)10OH、C12H25(CH2CH2O)4OH、C16H33(CH2CH2O)2OHなどが挙げられる。ポリアルキレンオキシドブロックコポリマーとしてはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックコポリマーが挙げられる。
【0040】
界面活性剤の差長がメソ孔径に影響するので、目的のメソ孔の孔径に応じて界面活性剤を選択すればよい。またメシチレンなどの疎水性化合物を添加するようにしてもよく、当該疎水性化合物は前駆体溶液中のミセル径を増大させられるので、メソ孔径の調製に使用することができる。
【0041】
使用するアルコキシシランとしてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランなどを挙げることができる。 金属アルコキシドとしてはテトラプロポキシアルミニウム、テトラプロポキシすず、テトラプロポキシチタニウム、テトラプロポキシジルコニウムなどを使用することができる。
【0042】
基材31に前駆体溶液を塗布する方法は、基材31に前駆体溶液を均一に薄く塗布できれば方法は問わないが、スピンコート法や基材31を前駆体溶液に浸漬後に不要な溶液を吹き飛ばすDip&ブロー法などが適用でき、塗布する基材31の形状に合わせて選択すればよい。また、前駆体を形成した後に鋳型分子を除去するときの加熱条件も特に限定されず、例えば300〜600℃で前駆体を加熱すればよい。
【0043】
次に、酸化触媒粒子を膜状支持体34のメソ孔に担持させ、本実施形態の酸化触媒層33を得る。
まず、膜状支持体34と担持させる酸化触媒粒子に対応する白金化合物および/またはパラジウム化合物が溶解している溶液(以下、金属化合物溶液と称する)とを接触させて膜状支持体34のメソ孔に金属化合物溶液を導入する。その後、焼成および/または還元処理を行いメソ孔内に酸化触媒粒子を形成することにより、本実施形態の酸化触媒層33を得ることができる。
【0044】
具体的には、例えば、金属溶液に膜状支持体34を浸漬後、焼成および/または還元処理を行うようにすることができる。
より具体的には、金属化合物溶液を20〜90℃、好ましくは50〜70℃に加温、攪拌しながら、pH3〜10、好ましくはpH5〜8になるようにアルカリ溶液を用いて調整する。その後、その表面に膜状支持体34が形成されている基材31を金属化合物溶液に浸漬し、続いて、減圧脱気処理を行い細孔に金属化合物溶液を浸透させた後、200〜600℃で加熱焼成を行うことで細孔内に白金酸化物および/またはパラジウム酸化物を含む粒子を得ることができる。
【0045】
また、上述のように細孔に金属化合物溶液を浸透させた後に、200〜600℃焼成と100〜300℃の水素気流に晒す水素還元法、水素化ホウ素ナトリウム溶液に浸漬する液相還元法など公知の還元操作を実施することでも、細孔内に酸化触媒粒子を得ることができる。なお、用いる白金化合物および/またはパラジウム化合物の種類によっては、上述の公知な還元操作を実施することなく200〜600℃の加熱焼成処理のみで、金属粒子を細孔内に得ることもできる。また、白金酸化物および/またはパラジウム酸化物の還元が一部に留まり、メソ孔内の酸化触媒粒子に白金単体および/またはパラジウム単体と白金酸化物および/またはパラジウム酸化物が共存してもよい。
【0046】
白金化合物としては、例えば、塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金、ジクロロテトラアンミン白金などが、パラジウム化合物としては、例えばジニトロジアンミンパラジウム、塩化パラジウム酸アンモニウムなどが挙げられる。
金属化合物溶液における白金化合物および/またはパラジウム化合物の濃度は特に限定されないが、1×10−2〜1×10−5mol/Lとして溶液を調製するのが、生成した酸化触媒粒子が凝集しにくいので好ましい。
【0047】
次に本実施形態に係る酸化触媒層33に被処理気体を送風する機構について説明する。当該機構は本発明の気体供給部に対応しており、以下、送風機構10とも称す。
本実施形態に係る送風機構10は、被処理気体を酸化触媒層33に送風することで酸化触媒層33に被処理気体を強制的に接触させる。これにより、当該気体中に含まれる有機ガス濃度をより効率的に低減させることができる。よって送風機構10は酸化触媒層33中の触媒が酸化反応処理できる量の風量を送達できればよく、必要な風量は装置の能力設計に基づいて設計すればよいが、送風の空間速度が10,000/h以上150,000/h以下とするのが望ましい。
【0048】
送風の空間速度が10,000/h未満であると酸化触媒層33に送達される被処理気体量が少なく、有機ガスの酸化除去量も少なくなるため、範囲内にある場合と比較して当該装置100を設置した環境の有機ガス濃度の低減量が小さい。150,000/hより大きい空間速度であると触媒の酸化除去率が低下するので、被処理気体中の有機ガス濃度の低下が小さく、やはり、範囲内にある場合と比較して当該装置100を設置した環境の有機ガス濃度の低減量が小さくなる。
なお上述の空間速度とは、酸化触媒層33を通過した被処理気体の単位時間当たりの体積を当該触媒層33の体積で除したものと定義する。
【0049】
被処理気体は酸化触媒層33(膜状支持体34)の膜厚方向に対して直行する方向(図2におけるY軸方向)に流して、酸化触媒層33内へ被処理気体が拡散浸透して接触する形態が望ましい。図3に示すように被処理気体が酸化触媒層33の膜厚方向に対して平行に流通させようとすると、流通する被処理気体はすべて酸化触媒層のメソ孔を通過しなければならないので、上述の好適な空間速度を得るのが難しくなる。
【0050】
なお、酸化触媒層33をメッシュや不織布など繊維集合体の表面に形成した場合において繊維集合体の開口部を閉塞しない様態で酸化触媒層33を形成すれば、微視的には繊維集合体の個々の繊維表面に酸化触媒層33が形成されている。すなわち、図2の基材31が繊維集合体を形成する繊維のうちの1つに相当する。このとき、その1つ1つの繊維表面に沿って被処理気体が流れることが可能な状態である。従って、通常フィルターに気体を透過させるのと同じ方向、つまり当該繊維集合体平面に直交する方向に被処理気体を透過させても、上述の被処理気体が酸化触媒層33の膜厚方向に対して直交に流れる状態を満たし、好適な空間速度を得ることは可能である。
【0051】
送風機構としては例えば電動ファン11など公知な送風装置を用いればよく、特に限定されない。なお、気体供給部として送風装置等によって構成される送風機構を一例に挙げて説明したが、これに限定されず、装置において酸化触媒層33に被処理気体が供給されるように構成されていればよい。
また、送風機構10等によって生じた気流が酸化触媒層33を有する部材や後述の抗菌等剤を担持した部材以外の機能層を有する部材と接触するように送風機構を配置してもよい。例えば、機能層として、空気中の埃など浮遊物を除去する防塵フィルターが挙げられる。防塵フィルターを酸化触媒層33より上流側に設置することで、空気中の浮遊物が酸化触媒層33に付着して被処理気体と触媒の接触を阻害して有機ガスの分解が進まないことの防止に寄与することができる。
【0052】
電動ファン11等の送風機構10の電源は交流でも直流でも構わない。直流の場合は当該空気浄化装置内に一次もしくは二次電池を内臓もしくはACアダプターを介して電力を供給すればよく、電池を内臓する場合は、内部にコンセントを有さない保管庫内に容易に当該有機ガス低減装置100を設置できる。一方、交流電源もしくはACアダプター変換による直流電源の場合は、内臓電池電源の場合必要となる電池交換の手間が無く、連続稼動が容易に可能となる。電源の種類は当該装置の設置条件に合わせて適宜選択すればよい。
【0053】
本実施形態の装置100においては、抗菌性、防カビ性、抗ウイルス性のうち少なくとも一つを有する化合物(以下、単に抗菌等剤ともいう)を担持したフィルター等の部材50を被処理気体が透過するように、酸化触媒層33を有する部材30の前後の少なくとも一方に設置してもよい。被処理気体中、特に大気中に浮遊する細菌やカビ胞子やウイルスを死滅させることで、当該環境中に保管してある青果物など物品や建築内装の細菌やカビ類やウイルスによる劣化の抑止効果も付与することができる。
【0054】
抗菌等剤としては細菌類および/またはカビ類および/またはウイルスを死滅させることができる物質を意味する。防カビ性を有する化合物としては、銀、銅、亜鉛、すず、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、アルミニウム、マンガン、ニッケル、チタンなどの金属酸化物やリン酸塩、ハロゲン塩などの無機化合物、あるいはこれら金属をゼオライトなどに担持した無機化合物、あるいは有機化合物としては8−オキシキノリン銅、二酢酸ナトリウムなどの有機酸塩、トリクロサン、クロロヘキシジン、3−ヨード−2−プロピルブチルカーバメートなどのハロゲン化有機化合物、ブロノポール、クロロタロニル、メチルスルホニルテトラクロルピリジンなどのピリジン類、エニルコナゾールになどのイミダゾール類、N,N‘,N“−トリスヒドロキシエチルヘキサヒドロ−s−トリアンジンなどのトリアジン類、ビフェニルやオルトフェニルフェノールなどの芳香族化合物、ジンクピリチオン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジウム、アルキルトリメチルアンモニウム塩などの有機塩や有機錯体などや、キチン、キトサン、カテキン、ヒノキチオール、カラシ、ワサビ精油、ポリリジンなどの天然有機化合物など当業者に公知な化合物を使用することができる。
抗菌性および抗ウイルス性の少なくとも一つを有する化合物(以下、抗菌抗ウイルス剤と呼ぶ)は、例えば、ポリフェノール化合物、第4級アンモニウム塩、無機銅化合物、無機銀化合物、亜鉛、鉄などの原子を含む無機化合物、銅、銀、亜鉛、鉄などの原子を含む有機化合物、白金、ヨウ素化合物、ピリジン系化合物、エステル系化合物、スルファミド系化合物などがある。
これらの抗菌防カビ抗ウイルス剤は、2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0055】
抗菌等剤を担持した部材50に含まれる抗菌防ウイルス剤は、比較的安全性が高く、少量で高い殺菌および/または抗ウイルス性を示す物質であることが好ましい。具体的には、抗菌抗ウイルス剤は、ポリフェノール化合物、第4級アンモニウム塩、無機銅化合物及び無機銀化合物からなる群から1種または2種以上選択される化合物や、有機化合物と銅、銀、亜鉛又は鉄との塩を含有することが好ましい。ヨウ化銀(I)、ヨウ化銅(I)、およびチオシアン酸銅(I)からなる群から少なくとも1種選択される化合物であるとさらに殺菌性が高く、好ましい。
【0056】
抗菌等剤を担持した部材50中の抗菌等剤の形態は、被処理気体の通気性に支障が無ければ特に限定されないが、通気性に影響を与えにくい粒子状が好ましい。抗菌等剤粒子の大きさは特に限定されず当業者が適宜設定可能であるが、平均の粒子径が1nm以上、500nm未満の微粒子であるのが好ましい。1nm未満では物質的に不安定となるため、抗菌等剤粒子同士が凝集し、基材に形成させるのが困難となる。また、500nm以上である場合は、基材との密着性が範囲内にある場合よりも低下する。なお、本明細書において、抗菌等剤粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径(D50)であり、粒度分布計を用いて測定することができる。
【0057】
ポリフェノール化合物としては、カテキン、アントシアニン、フラボン、イソフラボン、フラバン、フラバノン、ルチン、テアフラビン、タンニン、クロロゲン酸、エラグ酸、没食子酸、没食子酸プロピル、リグナン類、クルクミン類、クマリン類などを挙げることができる。
【0058】
第4級アンモニウム塩としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化セトリモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、臭化ドミフェン、塩化オクチルデシルジメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルペンタエトキシアンモニウム、臭化アルキルイソキノリニウム、臭化ドミフェン、ジメチルイミノポリエチレンクロライド、ジメチルジメチルアンモニウムクロライド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2,3−エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化N-デシルーN-イソノニルジメチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、塩化ミリスチルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ラウリルピリジニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルメチルアンモニウム、塩化トリ(ポリオキシエチレン)オレイルメチルアンモニウム、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ジタロージメチルアンモニウムブロマイド、ジオレイルジメチルアンモニウムブロマイド、ステアロイルN,N−ジメチルエチレンジアミドジメチル硫酸4級化物、ジステアロイルジエチレントリアミンジメチル硫酸4級化物、ミリスチルジメチルエチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジセチルジメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ミリスチルジメチルジクロロベンジルアンモニウムクロライド、ココアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0059】
無機銅化合物は、一価の銅化合物であっても、二価の銅化合物であってもよい。無機銅化合物としては、酸化銅(I)、硫化銅(I)、ヨウ化銅(I)、塩化銅(I)、酢酸銅(I)、水酸化銅(I)、臭化銅(I)、過酸化銅(I)、チオシアン化銅(I)、水酸化銅(II)、酸化銅(II)、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、フッ化銅(II)、ヨウ化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ素酸銅、過塩素酸銅、シアン化銅、塩化アンモニウム銅、四ホウ酸銅、硫酸アンモニウム銅、アミド硫酸銅、塩化アンモニウム銅、ピロリン酸銅及び炭酸銅等が挙げられる。
【0060】
無機銀化合物としては、酸化銀(I)、硫化銀、ヨウ化銀、塩化銀、臭化銀、過酸化銅(I)、チオシアン酸銀、硫酸銀、フッ化銀、ヨウ素酸銀、過塩素酸銀、シアン化銀、テトラフルオロホウ酸銀、アミド硫酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀銅及び炭酸銀等が挙げられる。
【0061】
有機化合物と銅との塩としては、例えば、蟻酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、吉草酸銅、カプロン酸銅、エナント酸銅、カプリル酸銅、ペラルゴン酸銅、カプリン酸銅、ミスチン酸銅、パルミチン酸銅、マルガリン酸銅、ステアリン酸銅、オレイン酸銅、乳酸銅、リンゴ酸銅、クエン酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅、イソフタル酸銅、テレフタル酸銅、サリチル酸銅、メリト酸銅、シュウ酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、グルタル酸銅、アジピン酸銅、フマル酸銅、グリコール酸銅、グリセリン酸銅、グルコン酸銅、酒石酸銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、イソ吉草酸銅、β‐レゾルシル酸銅、ジアセト酢酸銅、ホルミルコハク酸銅、サリチルアミン酸銅、ビス(2-エチルヘキサン酸)銅、セバシン酸銅、ナフテン酸銅、オキシン銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、フタロシアニン銅、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、銅メトキシド、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ピリチオン銅が挙げられる。
【0062】
有機化合物と銀との塩としては、酢酸銀、プロピオン酸銀、酪酸銀、吉草酸銅、カプロン酸銀、カプリル酸銀、カプリン酸銀、ミリスチン酸銀、パルミチン酸銀、マルガリン酸銀、ステアリン酸銀、オレイン酸銀、ネオデカン酸銀、乳酸銀、リンゴ酸、クエン酸銀、フタル酸銀、イソフタル酸銀、テレフタル酸銀、サリチル酸銀、安息香酸銀、メリト酸銀、トルエンスルホン酸銀、シュウ酸銀、マロン酸銀、コハク酸銀、グルタル酸銀、アジピン酸銀、フマル酸銀、グリコール酸銀、グリセリン酸銀、グルコン酸銀、酒石酸銀、アセチルアセトン銀、エチルアセト酢酸銀、イソ吉草酸銀、β‐レゾルシル酸銀、ジアセト酢酸銀、ホルミルコハク酸銀、2-エチルヘキサン酸銀、セバシン酸銀、ナフテン酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、フタロシアニン銀、銀エトキシド、銀イソプロポキシド、銀メトキシド、ジエチルジチオカルバミン酸銀、銀ピリチオンなどが挙げられる。
【0063】
また、有機化合物と鉄との塩としては、クエン酸第二鉄・n水和物等、グルコン酸鉄、クエン酸鉄、フマル酸鉄、シュウ酸鉄、フタロシアニン鉄等が挙げられる。
【0064】
また、有機化合物と亜鉛との塩としては、クエン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、リンゴ酸亜鉛、蟻酸亜鉛、乳酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、ピリチオン亜鉛、ビス(ジメチルジチオカルバミン酸)亜鉛、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)亜鉛、酢酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酪酸亜鉛、グリセリン酸亜鉛、グリコール酸亜鉛、ピコリン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、酒石酸亜鉛、ウンデシレン酸亜鉛、マロン酸亜鉛、コハク酸亜鉛、フタロシアニン亜鉛、グルタル酸亜鉛、フェノールスルホン酸亜鉛、クレゾールスルホン酸亜鉛、トルエンスルホン酸亜鉛、ベンゼンスルホン酸亜鉛、メタンスルホン酸亜鉛、2−プロパノールスルホン酸亜鉛等が挙げられる。
【0065】
例えば、1つの態様として、上述の抗菌等剤を担持した部材50を、酸化触媒層33を有する部材30のさらに空気流通方向上流側に設置すればよい。担持の態様は特に限定されず当業者に公知な方法を用いればよい。例えば基材表面に粒子等である抗菌等剤が吸着もしくは接着しているなどすればよく、吸着もしくは接着は静電引力やファンデルワールス力などによる物理的相互作用による物理的接着でも、あるいは基材と抗菌剤粒子がシランモノマーのようなカップリング分子を介しての化学結合による化学的接着いずれでも構わないが、基材と抗菌等剤が強固に結合するので化学的接着が望ましい。
【0066】
物理的接着は抗菌等剤を分散させた溶媒に基材を浸漬してその後分散溶媒を揮発させればよい。抗菌等剤を分散させる溶媒としては水、メタノール、エタノール、MEK、アセトン、キシレン、トルエンなど汎用の溶媒が使用できる。
【0067】
より強固に接着させるために基材をあらかじめプラズマ処理などで表面を親水化したり、樹脂バインダーを添加してもよい。樹脂バインダーとしては公知のバインダーを用いることができる。具体例として、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、水溶性樹脂、ビニル系樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、繊維素系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、天然樹脂としては、ひまし油、亜麻仁油、桐油などの乾性油等が挙げられる。
【0068】
化学的接着はバインダーとの化学結合を介して、基材に固定することである。用いるバインダーとしては、特に限定されるものではないが、シランモノマーやその重合体であるオリゴマーは分子量が低く、その為、抗菌等剤粒子と菌との接触を阻害することが低くなり、効果的に殺菌できるため好適である。また、分子量が低いため基材との密着性が高く抗菌等剤粒子を安定に基材に担持することが可能となる。
【0069】
具体的なシランモノマーとしては、X−Si(OR)(nは1〜3の整数)の一般式で示されるシランモノマーが挙げられる。尚、Xは例えば有機物と反応する官能基でビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、ポリスルフィド基、アミノ基、メルカプト基、クロル基などである。また、ORは加水分解可能なメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基であり、シランモノマーに係る3つの当該官能基は同一でも異なっていてもよい。これらのメトキシ基やエトキシ基からなるアルコキシ基は加水分解してシラノール基を生ずる。このシラノール基やビニル基やエポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、また不飽和結合などを有する官能基は反応性が高いことが知られている。このような反応性に優れたシランモノマーを介して抗菌剤粒子を化学結合により基材表面に強固に保持せしめている。
【0070】
以上の一般式で表されるシランモノマーの一例としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、特殊アミノシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、フロロアルキル基含有オリゴマー、メチルハイドロジェンシロキサン、シリコーン第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0071】
また、シラン系オリゴマーとしては、市販されている信越化学工業株式会社製のKC−89S、KR−500、X−40−9225、KR−217、KR−9218、KR−213、KR−510などが挙げられ、これらのシラン系オリゴマーは単独、或いは2種類以上混合して用いられ、さらに、前述のシランモノマーの1種または2種以上と混合して用いてもよい。
【0072】
次に酸化触媒部33を加熱する加熱部38について説明する。
加熱部38による加熱により酸化触媒層33のメソ孔内に吸着している水分が加熱によって揮発除去される。加熱部38による加熱により水分が除去されることによって、酸化触媒粒子と被処理気体中の有機ガス成分との接触阻害が解消され、酸化触媒層33の触媒活性を回復させることができる。
【0073】
従って、酸化触媒層33のメソ孔内に水分が吸着して酸化触媒粒子の作用が阻害され、触媒体に活性が低下している状態において酸化触媒層33を加熱するように加熱部38が稼動すれば十分であり、水分か吸着していないか、微量で酸化反応に支障のない場合は被処理気体に余分な熱が伝わり気温が上昇しないよう、加熱部38が稼働しないようにしてもよい。
【0074】
酸化触媒層33を加熱する機構や方法は特に限定されない。例えば酸化触媒層33のメソ孔に吸着された水が揮発拡散できる温度以上に加熱できればよく、具体的には酸化触媒層33が80℃以上に加熱できればよい。さらに、酸化触媒層33に被処理気体を送風する空間速度にもよるが、加熱温度は200℃以下にするのが望ましい。200℃を超えると、加熱された酸化触媒層33を被処理気体が透過した後、その気体温度が大きく上昇し、例えば本実施形態の有機ガス低減装置を冷蔵庫などの低温環境下で使用する場合など、その使用環境の気温を上昇させるので好ましくない。活性回復に必要な加熱時間は、酸化触媒層33に吸着している水分量、酸化触媒層33の膜厚や通気性、加熱温度、空間速度などの要因によって影響されるが、上述の加熱温度範囲であれば1〜120分加熱すればよい。
【0075】
加熱部38は、例えば熱源によって構成することができる。熱源は特に限定されず当業者に公知な熱源が使用できるが、装置の構造が簡単になる電熱ヒーター36が望ましい。電熱ヒーター36などの熱源を上述の酸化触媒層を担持する基材41に内在させて、基材41を介して酸化触媒層33に伝熱すればよい。電熱ヒーター36は給電配線37を介して電源と繋がっている。また、電熱ヒーター36もしくは電熱ヒーターを内在した別の部材を、酸化触媒層33が担持された部材30に密着もしく近接して設置することで伝熱してもよい。
もしくは酸化触媒層33に対して赤外線やマイクロ波など外部から電磁波を照射することで加熱してもよい。マイクロ波は水分を直接発熱させることができる一方、膜状支持体34が無機材料で構成されている場合は発熱しにくく、被処理気体を余分に加熱しにくい熱源であるので好ましい。
【0076】
被処理気体の気体温度の上昇を抑制するため、上述の通り、酸化触媒層33の加熱は必要最小限に行うのが望ましい。そのため、本実施形態の加熱部38は断続的に稼動させる事がより好ましい。断続的に稼動させる方法は特に限定しないが、発熱ヒーターへの通電のON/OFFを手動で切り替える、タイマー機能を設置して稼動一定時間ごとに自動的に切り替える、酸化除去する有機ガスの濃度をモニターして規定値に達すると自動的に切り替えるなど、当業者に公知な方法に基づき加熱されるようにすればよい。
【0077】
一定間隔で断続稼動させる場合、その断続する間隔は、酸化触媒層33のメソ孔内に吸着する水分量にも因るが、稼動時間(A)と非稼働時間(B)が、その比のB/Aが23から335の間の数値を満たす時間が好ましい。B/Aの値が23より小さい場合は稼働時間の間隔が短く、23以上である場合と比較して被処理気体の気温が上昇しやすくなる。335より大きい場合は稼働時間の間隔が長くなり、335以下である場合と比較してメソポーラス触媒体の触媒活性が低下した状態が生じやすくなるため好ましくない。
【0078】
本実施形態の酸化触媒層33は膜状の形状であるので、粉体状など他の形状の触媒体と比較して、熱源から発した熱がメソ孔内の水分子に効率よく伝わる。そのため、メソ孔内の水分がメソ孔から速やかに揮発除去されるため、水分除去に必要な加熱量がより少なくなり、被処理気体の気温を上昇するのが抑制できるため、好ましい。
【0079】
本実施形態の有機ガス低減装置100を用いることによって、室温(23.4℃)より低く湿度も通常(相対湿度50%)より高い環境下において、気体中、特に大気中のエチレンガスなどの有機ガスを微量濃度(酸化触媒層の大きさや送風部の有無などにもよるが、0.5ppm程度)でも酸化除去でき、例えば青果物や花卉の保管に良好な低エチレンガス濃度状態など、有害有機ガス成分を低減した気体環境を提供することができる。
【0080】
以上、本実施形態の有機ガス低減装置について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の態様とすることもできる。
例えば、有機ガス低減装置について酸化触媒部を備える部材、送風部、および加熱部を備える構成を例示して説明したが、送風部を有さない構成としてもよい。
また、酸化触媒部が膜状支持体を有しており、膜状支持体のメソ孔において酸化触媒粒子が担持されている態様を挙げて説明したがこれに限定されず、他の態様であってもよい。例えば、酸化触媒部がメソ孔を有する粒子状支持体を有しており、当該粒子状支持体のメソ孔において酸化触媒粒子が担持される態様等であってもよい。
【実施例】
【0081】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施
例のみに限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
ビーカーにテトラエトキシシラン(TEOS)10.4gを入れ、さらにエタノール12.0gを加えた。ここに、さらに0.01M塩酸4.5gを加え、室温で20分攪拌した(A液)。別のビーカーに非イオン系界面活性剤(Brij56)3.3g及びエタノール8.0gを加え、室温で30分攪拌した(B液)。その後、A液にB液を加え、室温条件下で混合し、さらに3時間攪拌し、メソポーラスシリカの前駆体溶液を得た。メソポーラスシリカ前駆体溶液に、基材となるセラミックハニカム(岩谷産業社製)を浸漬させ、15分間減圧した。その後、セラミックハニカムを引上げ余剰分の溶液をエアブローで除去した後、1℃/分で昇温し、450℃で4時間焼成しメソポーラスシリカ膜を固定化したセラミックハニカム基材を得た。
その後、メソポーラスシリカ膜を固定化したセラミックハニカムにジアンミンジニトロ白金硝酸を含む溶液に浸漬させ、余剰分の溶液をエアブローで除去し、水素ガス10%、窒素ガス90%の還元処理ガス中で250℃、1時間焼成し、白金の酸化触媒層を有するハニカム基材を得た。
なおメソポーラスシリカ膜(Pt粒子を含む、以下同じ)に対するPtの担持量は1wt%であった。細孔径をBET法による測定を実施したところ、3.2nmであった。また、メソポーラスシリカ膜の膜厚は500nmであった。また、Ptの粒子サイズをTEMで観察したところ、3nmであった。
【0083】
電熱ヒーターを内臓した発熱体を上述の得られたハニカム基材の外周部に密着させて複数取り付けた。さらに表面温度計のセンサーをハニカム基材外周部に、上記発熱体と接触しないようにして取り付けた。また、酸化触媒層に被処理気体が透過するように送風機構(膜厚方向と直行する方向に被処理気体を送風)を取り付け、有機ガス低減装置を作製した。
【0084】
[試験例1]
容積120Lの密閉空間内を温度5℃、湿度90%およびエチレン濃度が0.5ppmになるように調整した。その後、密閉空間内に実施例1の有機ガス低減装置を設置し、酸化触媒層を有するハニカム基材に対し空間速度48,000/hで送風しながら、密閉空間内のエチレンの濃度変化を経時的に測定した。なお、空間速度は酸化触媒層の体積300cm(10cm×10cm×3cm)に対し、風量14.4m/hから算出した。
【0085】
[試験例2]
試験例1を実施後、温度5℃、湿度90%、エチレン濃度が0.5ppmの環境下で有機ガス低減装置を14日間連続運転した。14日後に試験例1と同様な方法で実施した。
【0086】
[試験例3]
試験例2を実施後、有機ガス低減装置の酸化触媒層を50℃で1時間加熱処理をした。その後、試験例1と同様な方法で実施した。
【0087】
[試験例4]
試験例2を実施後、有機ガス低減装置の酸化触媒層を80℃で1時間加熱処理をした。その後、試験例1と同様な方法で実施した。
【0088】
[試験例5]
試験例2を実施後、有機ガス低減装置の酸化触媒層を140℃で1時間加熱処理をした。その後、試験例1と同様な方法で実施した。
【0089】
[試験例6]
試験例2を実施後、有機ガス低減装置の酸化触媒層を200℃で1時間加熱処理をした。その後、試験例1と同様な方法で実施した。
【0090】
【表1】
【0091】
表1の結果から、試験例1では6時間後のボックス内のエチレン濃度は不検出となったが、試験例2では6時間後のエチレン濃度は0.35ppmと、エチレンが残存しており、装置を14日間連続稼動することで、装置のエチレン低減能力が低下したことが分かる。
【0092】
一方、酸化触媒層を加熱処理した試験例3では6時間後のボックス内のエチレン濃度は0.30ppmであり、エチレン低減能力が若干回復している事を示している。さらに、試験例4〜6は6時間後のボックス内のエチレン濃度が不検出であり、試験例1と同様の結果となり、エチレン低減能力が十分に回復していた。以上の結果より、本発明の有効性が示された。
【符号の説明】
【0093】
10 送風機構
11 電動ファン
30 酸化触媒層を有する部材
31 基材
33 酸化触媒層
34 膜状支持体
35 通気部分
36 電熱ヒーター
37 電熱ヒーターへの給電配線
38 加熱部
100 有機ガス低減装置
図1
図2
図3